目隠し鬼(注意・暗いです)

  暗い……。

  どこまでも暗い。

  光の射さない闇の中、僕は虎徹さんの声だけを聴いていた。

  「バニー……ごめんな」

  眼を保護するように巻かれた包帯の感触の上から、何かがそっと触れる。

  壊れ物を触るかのようにオドオドと、現実を受け入れるかのようにゆっくりと、包帯の上から、器用にも僕の眼がある部分を……目があった部分を避けるように、指は眼の輪郭をなぞる。

  「虎徹さんのせいじゃありませんよ」

  虎徹さんにはそういいながらも、実際には虎徹のせいだとバーナビーとて知っていた。

  もしも、あの時、バーナビーの言うとおりに虎徹が引いていれば、バーナビーの眼は失われることはなかった。

  「虎徹さんが無茶をする人だと知っていました。それに……もしもあそこで――要救助者が手の届く位置にいる状況で自分だけ安全な場所に逃げる人を僕は相棒に持った覚えはありませんから」

  優しい言葉などいくらでもかけられる。

  真実を交えた嘘はばれにくいことを知っている。

  だから、虎徹の性格を考慮しつつ、全てを許す振りをして、その心を捕まえる。

  「バニー……けど、お前の眼は……」

  落ちてくる瓦礫の破片から虎徹と要救助者の少女を庇った際、バーナビーは眼に致命傷を受けた。

  ヒーロースーツを着ていれば避けれた怪我も、休暇中の散策中の街中で、それも目の前で起きた惨事の前では着用する暇もない。

  トランスポーターが駆け付けたのは、バーナビーが眼に怪我を負った直後だった。

  「残念です。これでもうヒーローは続けられませんね」

  ――貴方の隣にいることも貴方のバディでいることもできなくなってしまった。けれど……

  「誰も、ヒーローじゃなくなった僕なんて見てくれませんね……」

  ――けれど、優しい貴方はきっと僕を見捨てない。

  「そんなことねぇよ!」

  ――ほら。これで貴方は僕だけを……

  「それに……お前の眼は治るから」

  「え……?」

  そんなはずはない。

  両目とも全摘出されている。

  残り数秒で虎徹さんと要救助者の少女の上に降り注ぐ瓦礫を粉々に粉砕した結果、能力が切れた瞬間、マシンガンのような威力で粉砕され粉々になった破片はバーナビーの顔めがけて襲いかかってきた。

  攻撃する際、真っ直ぐに標的を見ているのだから、当然の結果だった。

  バーナビーを襲った破片は当然、既に能力の切れていた虎徹にも襲いかかったが、幸いなことに虎徹自身には体中に軽い裂傷を走らせただけだった。虎徹が守っていた少女には怪我ひとつなかった。

  「虎徹さん?」

  「実はさ……俺、魔法が使えるんだ」

  戸惑うバーナビーの耳に虎徹の低い声が聞こえてくる。

  いつも通りに軽い感じを出そうとした口調だったが、普段聞くことのない虎徹の低い声が事の重要性を伝える。

  「魔法?」

  「そ。だから大丈夫だ。お前の眼は元通りになるよ」

  虎徹がポンポンとバーナビーの頭を叩く。

  我が子のように、愛しいものに対するように……優しくバーナビーを包み込む。

  「だから……お前はヒーローを続けてくれよ」

  「虎徹さんっ!」

  虎徹の身体がバーナビーから離れる瞬間、内緒話のように耳打ちされた願望。

  バーナビーが虎徹を引き留めようと伸ばした手は、どこにも触れることなく宙を彷徨った。

  「虎徹さんっ! 虎徹さんっ! 虎徹さんっ!」

  どこにいるかもわからない相手を求め、手をむやみやたらに動かす。

  呼びかけに答える声もないため、目の前に相手がいるかもわからない。

  半狂乱になりかけながら、ベッドから転がる様に下り、手を彷徨わす。

  扉が開いた音がしなかったから、この部屋にいることを信じて……。

  真っ直ぐに歩いたつもりが、机にぶつかり、何かが堕ちる音がした。

  ベッドがあるはずだと回避したはずが、ベッドの上にダイブした。

  扉が開く音に反応して音がした方向――後ろを振り返れば……

  「バ、バーナビーさんッ!」

  知らない女性の悲鳴と共に、身体を抑え込まれた。

  「は、早まったらだめです!」

  「放してくださいっ!」

  「だ、だめです! 眼が見えなくなっても立派に生きている方は大勢います!」

  的はずれな説得だと脱力したところをベッドに引き戻された。

  後で聞いたところ、窓から落ちる寸前だったようで、自殺だと思って慌てたらしい。

  五体不満足になり、人生に悲観して自ら命を絶つ者がいることを考えれば当然の反応だった。

  「こ……タイガーさんは、まだこの部屋にいますか?」

  僕の問いかけに、興奮状態が収まった――恐らく様子を見に来た看護師が「この部屋にはあなた以外誰もいませんでした」と半ば予想した答えを返してくれた。

  思えば、虎徹さんがいてくれれば看護師とてここまで我武者羅に慌てることはなかっただろう。

  数時間後、眼の様子を確認する為に包帯を取った医師が「奇跡だ」と呟いた。

  本来なら二度とみることのなかった世界が白い包帯の陰から視界に飛び込んできた。

  その奇跡の代償は、精密検査のため数日浮き足立つ病院に足止めを食らったこと。

  そして……鏑木・T・虎徹の消失だった。

  バーナビーに追い詰められた犯人が路地裏に逃げる。

  「タイガーさんっ!」

  だが、その先にはバーナビーの相棒のワイルドタイガーが待ち受けていた。

  「なっ! ワイルドタイガーっ!」

  犯人が慌てふためき、踵を返そうとしたところでバーナビーが行く手を塞ぐ。

  バーナビーとワイルドタイガーが同時に地面を蹴り、グッドラックモードが炸裂する。

  「タイガー&バーナビーぃぃぃ、今日もコンビで犯人確保ぉぉぉぉ!」

  マリオの絶叫が番組を盛り上げる。

  二部から一部に上がったバーナビーは、今日もワイルドタイガーと共にバディヒーローを続けていた。

  だが、その中身は鏑木・T・虎徹ではない。

  鏑木・T・虎徹はマーベリック事件の後引退してからヒーローに復帰していない――少なくとも人々の記憶はそう書き換えられていた。

  そして、オリエンタルタウンにも虎徹はいない。

  一度、連絡が付かないことに焦れて、オリエンタルタウンにまで出向いたが、手段を選ばず住所を入手した虎徹の実家を訪ねたところ、そこは更地になっていた。

  虎徹の兄がしていたという鏑木酒店の合ったはずの場所には、コンビニエンスストアが立っていた。

  「バーナビーさん。今日も絶好調で、今シーズンのKOHも間違いないと噂されていますが、やはり狙っていますか?」

  「そうですね……KOHよりも欲しいものがあるので何とも言えませんね」

  虎徹さん……。

  「そ、そうなんですか?」

  「はい。KOHになったら手に入れられるものでしたらよかったんですけど……見つからないんです。まるで目隠し鬼をしている気分ですよ」

  「そ、そうですか……頑張って捕まえてください」

  「はい」

  見えないあなたを捕まえるにはどうすればいいですか?

  END.

  [newpage]

  どうでもいい蛇足

  こっそりツイッターで呟いたら、気を利かせてくれた(?)フォロワーさんがRTしてくださいました。

  もっと、さくっと明るく爽やかな話のつもりだったんですけど

  魔法の国のプリンスの虎徹が、魔法を使ってバニーの眼を直したせいで魔法の国に帰らなくてはならなくなった、みたいな数十年前の魔法少女ものみたいな?

  で、これが虎徹さんが白モード。

  虎徹さんが黒モードのN番煎じものも浮かんだんですけど……もういいや~、みたいな?

  お付き合いありがとうございました。したっ!

  以上、昨日ザライブのBRを見て懐かしくなった管理人からでした。

  因みにRTしてくれた友人には見せないつもり。UPしたことくらい教えといたほうがいいかな(笑