二つのNEXTを持つ虎徹さんの心が折れる日常生活

  鏑木・T・虎徹は五年前に妻を亡くしている。

  鏑木・T・虎徹はつい先日、ニューフェイスのバーナビー・ブルックスJr.とコンビを組んだ。

  そして、その日から鏑木・T・虎徹にはもう一つの能力に目覚めた……目覚めてしまった。

  その能力を理解した瞬間、虎徹はすっごく後悔した。

  五年前は欲しくて仕方がなかったのに……理解した瞬間、ほぼ強制的に発動されるその能力を持ってしまったことに泣けた。

  鏑木・T・虎徹、37歳、シングルファーザーになって五年。今でも妻を愛してる。

  シュテルンビルト、アポロンメディアの花形部署ヒーロー事業部。

  そこに所属している社員――一ヒーローの虎徹は、パソコンの中にある書類の山を片付けながら、欠伸をかみしめた。

  昨日自分の家で度の強い焼酎をちびちびと一人愚痴りながら飲んでいたせいで、非常に眠い。頭痛もするが、二日酔いの気持ち悪さよりは眠気が勝っている。ひつ下がりの午後ということもあり、今は兎に角眠い。おっきな窓から差し込む日差しに吊られて、このままコテッと船を漕いでしまいそうになるが、相棒が怖いから眠ることはできない。

  こういう時は、自販機でコーヒーを買うより効果がある光景を見るに限る。

  普段は視線を逸らしていても、その光景が眼の端に過る度に、自分の心は折れそうになる。

  いっせの、で勢いを付けて隣を見ようとすれば、その前に声が聞こえてくる。

  「夜中の三時まで焼酎を飲んでれば、二日酔いにもなるわよね」

  相棒の声とは違う。目の前で監視をするかのように鋭い視線を投げかけてくる経理のおばさんの声でもない。

  二十代前半の女性の声……正確には二十代前半にしか見えない妻の声だった。

  「なんで……あっ」

  なんで知ってるのかと叫びそうになって、相棒と経理のおばさんの冷たい視線に我に返った。

  「何を突然、大きな声を出しているんですか? まさか貴方、寝ていたんですか?」

  相棒の冷たい声と視線にタジタジとなりながらも「眠かったけど寝てねェよ」と相棒とは反対の方向を見ながら言い訳のように、ごにょごにょと口の中で反論する。

  相棒が「寝不足なんですか?」と険しい表情で睨みつけてくるのを視線を泳がしてやり過ごそうとすれば、また妻の声……。

  「ほんと困った人ね。ヒーローならちゃんとに体調管理しないと、出動の時大変なことになるわよ」

  呆れたような妻の声。

  「仕方がない人ですね……ちゃんとに体調管理はしてください、おじさん」という相棒の声の後に続いた相棒がパソコンのキーボードをたたく音に、虎徹は恐る恐る相棒を――隣を盗み見る。

  果たして、そこには……バーナビーに熱い視線を送る妻と、それには気が付かない相棒の姿があった。

  「ほんと、バーナビーってかっこいいわよね」

  そういって、バニーの頭の毛先をツンツンと突く妻。

  「私も後十歳若かったらアタックしちゃうのに。え? 一回りも違えばおばさんじゃないかって? もうっ! 別ってるわよ。けど夢見させてくれたっていいじゃないの。死人に夢なしって言うでしょ?」

  「夢って……それって口だろ? それに使い方違ってねぇ?」

  友恵の言葉を小さな小さな声で反論した瞬間、相棒に睨まれた。

  「何を言ってるんですか、おじさん? 独り言を言っている暇があるんでしたら、口より手を動かしてください。夢を見ている暇なんてありませんからね」

  小さな小さな声だったはずなのに、相棒にはしっかり聞こえたらしい。

  「言っておくけど、小さいと思ってるの虎徹くんだけよ」

  妻に訂正され、思わずアヒル口になる。

  文句を言いたくても、文句を言った瞬間、相棒に睨まれる。

  なんせ、妻の姿は虎徹以外に見えていないのだから、盛大な独り言……下手をすれば病院送りだ。それはヒーローとして……人間として避けたい。ちょっと亡き妻の姿を見、亡き妻の声が聞こえるくらいなのだから。

  初めて、その能力が発動された時、正直、全てを投げ出したくなった。

  アポロンメディアに天職を果たして数日……コンビが売りのはずなのに、連携はうまくいかない。価値観の違いは世代の違いもあり仕方がないのだろうが、会話が全くない。あるのは、スケジュール確認くらいで「おはよう」と「御先に失礼します」くらいしか言葉を交わさない日すらある。コンビなのに……。

  ロイズさんにも先輩として後輩を始動しろと言われたが(え? そんなこと言ってない? いいのっ! 俺はそう思ってるんだからっ!)取りつく島がない。一言声を掛ければ「そんなことばかり考えているから作業が遅れるんです」と冷たく言われ、その後無視された。され続けた。

  だから、視線を合わせない様にしていたのだが、その声が聞こえた瞬間、虎徹は相棒を凝視した。

  穴が開くほど見つめ、バーナビーに「うっとうしいです」と怒られた。

  だが、文句を言われても、虎徹は視線を逸らすことが出来なかった。

  何故なら……

  「バーナビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

  「可愛いっ! 可愛いわっ! ホント、強がってますって顔に書いてあるから母性本能くすぐられるわっ!」

  「もうっ! パソコンに向かっているだけなのに、かっこいいわっ! 流石ヒーローっ! やっぱ、ヒーローは強く賢くよっ!」

  興奮して黄色い声を上げて、バーナビーをハグをして、額にキスして、髪の毛をワシャワシャして……ファンの女の子でもそこまでやらないだろうという行動をやりたい放題している妻の姿がそこにあった。

  だがバーナビーは気が付いてない。

  虎徹も呆然と見つめるしかない。

  だが、妻がうっとりとした眼で、バーナビーの顎を掴み、覗き込んで、そしてマウストゥマウス……しそうになった瞬間、虎徹は叫んでいた。

  「友恵っ!」

  その瞬間、妻――友恵は顔をあげて、虎徹を見た……と思った瞬間、妻の姿は搔き消えた。

  「何、急に叫んでいるんだっ! 僕の作業の邪魔をしないでください、おじさんっ!」

  一瞬、敬語がエスケープしたバーナビーの怒声を左から右に流しながら呆然と事態を把握しようとした虎徹だったが、数分で諦めた。

  その日は白昼夢と結論付けたが、翌日もその翌日も同じことが起き、どういうことか理解力が伴わないまま、部屋で一人酒を煽ってぐちぐちぐちぐち愚痴れば、翌日妻に指摘される。熱い視線をバーナビーに向けたままで……。

  そんな状態が数日続いた末に出した結論は……友恵がバーナビーに萌えている間だけ、虎徹に姿が見え、声も聞こえる――というものだった。

  それが友恵の出した答え……やはり熱い視線をバーナビーに送りながら、毛先をくるくる回す指で弄ぶ仕草をしながら(実際にはバーナビーの髪は揺れてもいない)断言した。

  つまり虎徹は妻と見つめあうことすらできない。だから、今では相棒に熱い視線を送る妻を見つめ、相棒にちょっかいを掛ける妻を見て、心の中で泣いて、夜中にひとり寝酒を煽りながら愚痴り、翌日妻に注意される。相棒を見つめたままの状態で……。

  鏑木・T・虎徹、37歳、亡き妻を愛し続けて五年。今、ちょっと……かなり心が折れかけてる。

  後日、書類作成に悩んでいる相棒に、妻の言葉をそのまま伝えたら、目を瞠られたのは別の話である。

  虎徹とバーナビーが揃っているときに少し離れたところから、(バーナビーと)虎徹のを見つめてもらえば見つめあえる。そのことに夫婦二人気が付かなかったのは迂闊以外の何物でもない。お似合いの似たもの夫婦である。

  END.

  要らない元のコンセプト(次のページ)

  [newpage]

  タイバニでホラーな話を書いてる方がいて、タイバニでホラー=友恵さんが化けて出る。

  けどマジ話だと、友恵さんがバニーに憑りついて、バニーを肩こり持ち&頭痛持ちにしてしまい、不機嫌なバーナビーが虎徹さんに八つ当たりして、連携は出来なくなり悪循環……となるので、暗くないホラーを……そうだ! 友恵さんの楓ちゃん化(死んで見えないのでどこまでも際限なくやっちゃう)してもらおうっ!!

  だったんです。

  ついでに、それを見つめる虎徹さんが旦那を全く見ない妻&妻に憑りつかれて明らかに体調を崩す相棒を見て「だれか友恵を成仏させてくれ」と心の中で泣いている話を書きたかっただけ……なんですけどね(汗)

  ナンデコーナッタンデショ?