バーナビーは空を見上げた。
済んだ冬の空にオリオン座が輝いていた。
上を見上げてみるオリオン座に、ある店の天井に映っていたオリオン座を思い出し、もうあの天井を見上げることはないのだと少しセンチメンタルな気分になる。
「バニーちゃん、いつまでも寒いお外にいると風邪ひいちゃうぞ」
店から出てきた虎徹が、バーナビーを揶揄った。
「そんな軟じゃありませんよ」
苦笑しつつ、名残惜しくもオリオン座から目を離して虎徹を見やれば、虎徹が空を見上げていた。
「キレーだなぁ。やっぱ田舎の空は違うわ」
空を愛おしげに見上げる虎徹につられ、バーナビーも再び空を見上げた。
シュテルンビルトでは写真の中でしかお目にかかれないような星空に、心が持って行かれそうになる。
「こんな星空、シュテルンビルトでは見られませんね」
シュテルンビルトでは常にゴールドステージが眩しく輝いているため、数キロ離れたぐらいでは星空は綺麗に見えない。
「そうだな。そんで、あの街でもこんな綺麗に見えるとこって滅多にないよな?」
あの街ーーそれは、先日HeroTVが手を引いた街。正確にはHeroTVが収益を見込んで出張カフェ&バーを展開した街だった。
「そうですね。あの街もゴールドステージに負けず劣らず常夜灯が街を照らしていましたから、郊外に行かない限り、人工的に見ることしかできないでしょうね」
あの街の、あの店の天井には常にオリオン座が輝いていたことを思い出し、もう見れないことを改めて実感してしまう。
虎徹とバーナビーにとってはヒーローズバーよりもなじみ深くはないが、それでも何回か訪れたことがあり、異国の地にありながら、シュテルンビルトのヒーローたちのために集い笑いあっていた。中には一人で訪れたものもいたらしく、初対面の者たちもいたらしいとは後から聞いた話だ。だが、とても見ず知らずの者たちがするような会話ではなく、常に和気あいあいとしていた。
「なぁ、バニーちゃん」
「なんですか、虎徹さん」
虎徹がオリオン座に手を伸ばす。
「いつか、また……」
「違いますよ、虎徹さん。いつかではなく、今ですよ」
バーナビーが飽きれるように虎徹に告げる。
「OBCやアポロンメディアは現状動けないから、僕たちはオリエンタルタウンまで来たんですよね?」
確認してくるバーナビーを見て、虎徹は驚いたものの、次の瞬間にはバーナビーに笑いかけていた。
「なんだ、ばれてたのかよ」
「えぇ。あなたの考えることなんてお見通しですよ。それで村正さんはなんて?」
オリエンタルタウンに来て、実家による前に虎徹が寄ったのは、鏑木酒店。
実家の方ではなく、店の方に先に寄った理由をバーナビーは察し、だからこそ、外に出ていた。
虎徹は肩を竦めて、苦笑する。
「あんま良くねぇよ。前例が前例だからさ、シュテルンビルトの七大企業様が撤退したのに、オリエンタルタウンの一個人店が出張るのは間違っているだろう、だとよ」
虎徹の兄・村正の言葉は正論だ。
七大企業の一つであるアポロンメディアが撤退した事業に、オリエンタルの弱小個人店が参戦するのは間違っている。経営にそれほど詳しくないバーナビーもわかる理論に、長年経営にも携わっている個人店の経営者が分からないわけがない。
「虎て……」
「けどさ……」
バーナビーの呼びかけが虎徹の耳に届く前に、虎徹は再びオリオン座に手をかざした。
「それでも諦めたくねぇんだよ。俺のわがままだってわかってるけどな」
どんなにのばしても手が届かない星。伸ばし続ければ、いつかは届くと信じるのは純粋な子どもくらいだろう。
それでも……
バーナビーは虎徹の伸ばした手に、己の手を重ねた。
「僕がいますよ、虎徹さん。一人ではなくて二人です」
バーナビーが、先ほどの村正と虎徹の話し合いに参加しなかったのは、一応は鏑木酒店――つまり家族の問題だからバーナビーのいる前では言い合えないこともあるだろうと遠慮した。だが、バーナビーとて、可能ならば叶えたい。
「僕も、またあの街に行きたいので」
観光でもない、単なる誘致でもない。あの空間だからこそ、あんな空間があるからこそ――。