第4話「雪見家にお泊まり」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界のさいたま市[[rb:大上区 > おおかみく]]。時は7月後半。

  ケモノ小学校埼玉校は1学期の最終日。体育館では終業式の最中だ。

  児童たちによる校歌の合唱が聞こえてくる。

  我らケモノの子供たち

  鋭い感覚研ぎ澄まし

  関東平野を見渡して

  未来に夢をつなげよう

  おお 我らの集う ケモノ小学校埼玉校

  我らケモノの子供たち

  食物連鎖は過去の事

  種族の壁を乗り越えて

  みんなで仲良く助け合う

  おお 我らの学ぶ ケモノ小学校埼玉校

  式は1時間ほど続き、[[rb:大神 誠司 > おおがみ せいじ]]校長(太った高齢の狼)による挨拶で締められた。

  「以上で終業式を終わります。皆さん、楽しい夏休みをお過ごしください。」

  「はーい!」

  児童たちは元気に返し、教室に戻った。

  4年1組の教室では、児童たちが通知表を見ている。

  「あーあ、帰ったら怒られるわ…」

  イタチの[[rb:鼬川 卯井是瑠 > いたちがわ ういぜる]]ちゃん(かなりの肥満体)は落ち込んだ。彼女の通知表には1と2が並んでいる。

  もっとも、勉強を真面目にしなかったため当然の結果だ。

  シマリスの[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]くんと、キタキツネの[[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]くん(共に太っている)は安堵して息をついた。2匹の通知表には3と4が並んでいる。

  「夏休みもいっぱい遊ぼうね!」

  「もちろん!」

  今日は昼頃で完全下校となる。栗田くんが稲荷山くんに話しかけた。

  「今日も一緒に帰ろうよ!」

  しかし、彼は誘いを断った。

  「ごめん、悪いけどぼくは用事があるんだ。」

  「そうなんだ。邪魔しちゃ悪いね。」

  栗田くんはドブネズミの[[rb:遠藤 隆志 > えんどう たかし]]くんと帰った。

  栗田くんが廊下から見えなくなると、稲荷山くんは4年2組を覗いた。

  (よし、まだいるな。)

  視線の先には、ホッキョクギツネの[[rb:雪見 > ゆきみ]]カトリーヌ[[rb:理沙 > りさ]]ちゃんが座っている。日本とフランスのハーフで、大富豪の娘だ。

  ホッキョクギツネは真っ白な毛皮のイメージが強いが、今の時期は灰色の夏毛だ。

  理沙ちゃんが教室から出ると、稲荷山くんは話しかけた。

  「あの、理沙ちゃん…」

  「稲荷山くん、どうしました?」

  「あのね、お泊まりの事覚えてるかな?」

  「もちろんですわよ。」

  「ありがとう!楽しみだ!」

  稲荷山くんは喜んで下校した。

  5月のある日、彼は「7月中に妹の[[rb:万梨阿 > まりあ]]ちゃんを連れて、理沙ちゃんの家に泊まりたい」と頼んでいる。理沙ちゃんはそれに快諾してくれた。

  家に帰ると、万梨阿ちゃん(3年生)が既に帰っていた。

  「お帰り!お泊まり楽しみだね!」

  「ぼくも楽しみだよ。一度セレブの生活を体験してみたかったんだ。

  さあ万梨阿、宿題しよう。」

  「うん!」

  母親は子供たちを眺め、微笑んでいる。

  (良かったわね。そういえば私も子供の頃、お泊まりした事があったわ…)

  [newpage]

  [chapter:いざ、雪見家へ!]

  3日後の午前中、稲荷山兄妹は必要な物をリュックサックに詰めていた。

  2日分の着替え、パジャマ、歯ブラシ…

  「向こうで宿題もやってきたら?」

  母親に言われて、宿題も入れた。

  準備ができると、玄関にリュックサックを置いた。

  「万梨阿は何が楽しみだ?」

  「やっぱり食べ物!去年クリスマスパーティーで食べた料理はおいしかったからね!」

  「ぼくもそれが楽しみだよ。それに家の中ももっと見られるね。」

  昼食からしばらく経つと、2匹は玄関に行った。時刻は13時45分。

  「お母さん、行ってきます!」

  「行ってきまーす!」

  「行ってらっしゃい。3日間楽しんできてね!」

  2匹は楽しげに住宅街を歩いていた。

  自然と足取りが弾み、稲荷山くんの太鼓腹はリズミカルに揺れている。

  「さあ、着いたらまずは何をしようか?」

  「家の中を見て回りたい!」

  「きっと理沙ちゃんが案内してくれるよ。」

  2匹は歩き続けた。

  「さあ、この角を曲がれば…ここだ!」

  そこには3階建ての大豪邸が建っていた。稲荷山くんがインターフォンを押す。

  「稲荷山 紺助と稲荷山 万梨阿です。お泊まりに来ました!」

  要件を告げると、門が自動で開いた。2匹は庭へ足を踏み入れる。

  「本当に広い庭だよね、お兄ちゃん!」

  「ああ。この辺りでは一番かもね。」

  庭を横切りドアの前まで来ると、鍵が開いた。

  [newpage]

  [chapter:これがセレブの家]

  玄関には理沙ちゃんが立っていた。

  両側には若いスカンクの執事、白猫やアライグマ、レッサーパンダなどのメイドが5匹、太ったアライグマのシェフも並んでいる。ドアは白うさぎのメイドが開けていた。

  理沙ちゃんが礼儀正しく挨拶をする。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、ようこそいらっしゃいました。」

  2匹も挨拶を返した。

  「皆さん、3日間よろしくお願いします。」

  「私もよろしくお願いします。」

  「そういえば理沙ちゃん、お父さんとお母さんは?」

  「2匹とも仕事に行っていますの。夕方には帰りますわ。」

  「そうなんだ。ありがとう。灰色の理沙ちゃんもおしゃれだね。」

  「ええ、ありがとう。夏毛は涼しくて快適なの。」

  「ぼくたちキタキツネも夏毛になったけど、色は変わらないんだよね。」

  会話が一段落した所で、スカンクの執事が挨拶した。

  「ようこそいらっしゃいました。私は執事のグリムズ・スカンダーです。」

  「理沙ちゃん、ここには執事もいたんだね!でもクリスマスパーティーの時にはいなかったよね?」

  「ああ、あの時は一時帰国してたんですよ。実家からパーティーに誘われたので、1週間ほどロンドンに滞在していました。」

  「えっ、ロンドン?つまりイギリス出身か!日本語が上手ですね。」

  「ええ。フランス語も話せますよ。ブルフォード大学で勉強したんです。」

  「あの名門大学!? すごいですね!」

  次はアライグマのシェフ。

  「私はラトン・ラブーシュ。ここの専属シェフでフランス出身です。」

  「インターナショナルだね!」

  「どんな料理でも作れるんですか?」

  「レシピさえ知っていれば作れますよ。私はパリの名門料理学校を卒業したのですから。

  それから理沙様のお父様の元で働き、お父様が日本に引っ越された時に私も一緒に行きました。」

  「うわあ、すごいですね!」

  その後はメイドたちの挨拶が続いた。

  それが終わると、理沙ちゃんが言った。

  「では、私とスカンダーでこの家を案内します。」

  「ぜひお願いします。」

  稲荷山兄妹はスリッパに履き替え、玄関に上がった。

  (すごいな。お城みたいだ…)

  理沙ちゃんとスカンダーは階段を上がり、2匹を3階の客室に案内した。

  「こちらがお客様の部屋です。まずは荷物を置いてください。」

  「わあ、豪華!」

  そこは一流ホテルのスイートルームに匹敵するほどの部屋だった。大きなソファー、テーブル、大型テレビ、2台のベッドなどかなりの家具が揃っている。

  2匹は部屋に入り、リュックサックを隅に置いてから室内を見て回った。

  「すごい!このベッドふかふかだ!」

  「ソファーもふっかふか!クッションなんてお兄ちゃんのお腹みたい!」

  「さあ、他の部屋も案内しますわ。」

  それから、様々な部屋を見て回った。

  理沙ちゃんの部屋、書斎、リビング、大広間…どの部屋も豪華な造りで、高級な家具が並んでいる。

  一通り見て回ると、理沙ちゃんは尋ねた。

  「私の家はどうですか?」

  「高級ホテルみたいですごいね!気に入ったよ!」

  「お城みたいですごく良かった!」

  「ありがとうございます。」

  [newpage]

  [chapter:優雅なお茶の時間]

  そこへ白猫のメイドが現れた。

  「お茶の用意ができました。今日はアフタヌーン・ティーです。」

  「理沙ちゃん、アフタヌーン・ティーって何?」

  「イギリス風のお茶の時間よ。紅茶と一緒にサンドイッチやケーキを食べるのですわ。」

  「わあ、素敵だね!」

  「さあ、こちらですわ。」

  2匹は広いバルコニーに案内された。テーブルと椅子が用意されている。

  「さあ、おかけになって。もうしばらくお待ちください。」

  数分後、2匹のメイドがワゴンを押しながら現れた。スカンダーも後に続く。

  「お茶とケーキをお持ちしました。」

  テーブルにはサンドイッチやケーキを乗せた台とティーセットが並べられた。スカンダーが紅茶を注ぐ。

  「おいしそうだね!」

  「ほんと!」

  「喜んでくれて光栄ですわ。さあ、お茶にしましょう!」

  「いただきます。」

  3匹はサンドイッチやケーキを手に取った。

  「このケーキ、とっても甘いね!」

  「理沙ちゃん、サンドイッチもいいね!」

  「稲荷山くん、私も紅茶を入れましょうか?」

  「ありがとう、理沙ちゃん。」

  「お砂糖は入れますか?」

  「5さじぐらい頼むよ。甘い方がいいからね。」

  3匹はティータイムを楽しんだ。

  [newpage]

  [chapter:初めての空の散歩]

  「ごちそうさま!理沙ちゃん、次は何する?」

  「ヘリコプターに乗りましょう。」

  「え、ヘリコプターもあるの?」

  「ありますわよ。こちらへどうぞ。」

  家の裏には大きなガレージが建っていた。中には外車が3台、バイクとヘリコプターが1台ずつ格納されており、スカンダーが待機している。

  「ヘアーラビットソンのバイクだ!かっこいい…」

  稲荷山くんはバイクに見とれ、万梨阿ちゃんはスカンダーに質問した。

  「ヘリコプターを操縦できるんですか?」

  「ええ。免許を持っているんですよ。」

  「スカンダーさんはすごいですね!うちにもいたらいいな…」

  スカンダーはヘリコプターをガレージから出し、ドアを開けた。

  「さあ、お乗りください。」

  稲荷山兄妹は後部座席に乗り込み、シートベルトを締めた。

  「楽しみだな…」

  「どこまで行くんだろうね?」

  前の座席に理沙ちゃん、操縦席にスカンダーが座る。

  「それでは、離陸します。」

  エンジン音が響き、プロペラが回り始めた。

  「待ってました!」

  ヘリコプターは空中に浮かんだ。

  「すごいすごい!飛んでるよ!それでどこに行くんですか?」

  「今日はどこにも行きません。この家の敷地だけです。」

  「そうですか。わかりました。」

  スカンダーは屋根の高さまで上昇させ、そこで一旦停止させた。

  「さあ、しばらくここからの景色をお楽しみください。」

  兄妹は周囲を眺めた。

  「お兄ちゃん、見て!あそこに学校が見えるよ!」

  「ぼくたちの家はあの辺だね。」

  「ほら、駅も見えるよ!」

  「本当だ!新幹線が入ってきたね。」

  「あの塔はフード・キャッスルだね。」

  「そしてあっちが大上スピードシティ!ここからでもよく見えるね!」

  この位置から眺める景色は、学校からよりも圧倒的に遠くまで見える。

  5分後、ヘリコプターはゆっくりと着陸した。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、どうでした?」

  「すごかった!ヘリコプターに乗れるなんて思ってもみなかったよ!」

  「最高の眺めだった…あんな景色、初めてだよ!」

  「ありがとうございます。それではしばらく部屋でおくつろぎください。」

  2匹は冷房の効いた客室に戻り、ソファーに座った。

  「アフタヌーン・ティーにヘリコプター…万梨阿はどっちが良かった?」

  「ヘリコプターかな。生まれて初めて乗ったもん!」

  「ぼくもヘリコプターだよ。でもアフタヌーン・ティーも良かったよね。」

  「だね!なんか疲れたね…」

  「昼寝しようか?」

  「うん。」

  稲荷山くんがソファーに寝転がると、万梨阿ちゃんが太鼓腹に頭を乗せてきた。

  「い、いきなり何?」

  「だってお兄ちゃんのお腹、気持ちいいもん!毛の生えたお餅みたいで最高!」

  「その『毛の生えたお餅』って言い方、気持ち悪いからやめてよ…」

  「いいじゃん!だってそんな感じなんだもん!」

  「それにお腹が重いし暑い…」

  「冷房効いてるし、いつも丸出しなんだからいいじゃん!」

  「まあ、それもそうか…」

  そのうち、2匹は眠りに落ちた。

  [newpage]

  [chapter:ディナータイムはごちそうだらけ]

  数時間後、室内のスピーカーからスカンダーの声が流れた。

  「夕食の用意ができました。1階の大広間へどうぞ。」

  稲荷山兄妹は、その声で目覚めた。

  「わーい、待ってました!夕食だー!」

  「何が出るんだろうね?」

  「きっと豪華な食事だよ!」

  勇んで階段を降り、1階の大広間へ。2匹が寝ている間に理沙ちゃんの両親(父のフィリップ・ルナール、母の雪見 すみれ)も帰ってきた。

  「ようこそ、紺助くんに万梨阿ちゃん。」

  「お久しぶりです。」

  テーブルにはワニ肉のステーキ、ピザ、ブイヤベース、天ぷら、稲荷寿司など豪華な料理が並んでいた。クリスマスパーティーの時よりは少ないが、それでも十分な量だ。

  「おいしそう!」

  「まるでパーティーだね!」

  「これはすべてラブーシュが作ったんですわ。」

  「へえ、これ全部1匹で?」

  「そうですわ。彼は料理が趣味ですの。今日はかなり気合を入れて作っていましたわ。」

  「そうなんだね。どれもこれもおいしそう…もう我慢できないよ!」

  「見てるだけでお腹が空くね!」

  「皆さん、席にどうぞ。」

  稲荷山兄妹、理沙ちゃんと両親は席に着いた。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、たくさん食べてくださいね。」

  「もちろんです!」

  「それでは、いただきます!」

  夕食が始まった。兄妹は夢中で食べている。

  「この稲荷寿司、おいしいです!油揚げと醤油の絶妙なハーモニー…」

  「感想ありがとうございます。」

  「こっちのピザももっちりしてて最高ですね!」

  「ありがとうございます。これは自信作ですよ。」

  ラブーシュが開いた皿の回収に来ると、2匹は感想を述べた。理沙ちゃんの両親は、それを見て嬉しそうに言う。

  「感謝しながら食べるなんて感心だね。」

  「いやあ、それほどでもありませんよ…」

  その後も会話を楽しみながら食べた。お互いの家族や生活、楽しかった思い出…話の種は尽きない。

  「理沙ちゃん、これまで行った中で一番良かった国は?」

  「やっぱりフランスですわ。私のお父様やラブーシュの出身地ですから愛着がありますの。

  その次はイタリアね。本場のオペラを聞いたり、パスタを食べたりして素敵な思い出になりましたわ。」

  「いいなー、ぼくもそのうち行きたいな…」

  約1時間後、すべての皿が空になった。料理の大部分は、稲荷山兄妹が食べた。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、どうでした?」

  「うーん、どの料理も本当においしかったよ!もう満腹!」

  「おいしすぎて最高だった!ついつい食べ過ぎちゃったかも…」

  2匹ともお腹がボールのように丸くなっている。

  「皆様、次はデザートを用意します。」

  「やったー、待ってました!」

  「稲荷山くん、つい先程は満腹って言ってましたけど…」

  「大丈夫!デザートは別腹だからまだまだ入るよ!」

  「本当によく食べますわね。」

  「大きくなるためさ!」

  数分後、デザートが運ばれてきた。

  品目はフルーツの盛り合わせ、ケーキ、アイスクリーム、ゼリー、水饅頭。飲み物はオレンジ、マンゴー、パイナップルなど10種類のフルーツジュースだ。

  「それでは改めて、いただきます!」

  稲荷山兄妹は、高級なデザートを堪能した。

  「お兄ちゃん、水饅頭おいしいね!」

  「日本の夏って感じだよね。フルーツもみずみずしいな!」

  「ほんとだね![[rb:新湖 優香 > あらこ ゆうか]]ちゃんのフルーツパーラーみたい!」

  新湖 優香ちゃんは、4年2組にいるコアラの女の子。自宅は駅の近くでフルーツパーラーを経営している。

  「よく食べてくれて嬉しいよ。良い子たちだ!」

  ラブーシュは微笑ましそうに2匹を見ている。

  約40分後、デザートもすべて片付いた。

  「ご、ごちそうさま…こんなに食べたのは初めてかも…」

  稲荷山くんのお腹は風船のように膨らんでいた。シャツはほとんど意味をなしていない。

  「あー、食べたー…お腹が狸みたい…」

  「万梨阿、ずいぶん丸くなったな。動けるか?」

  「なんとかね。でもお腹が重い…お兄ちゃんはよくこれで動けるね。」

  重くなったお腹に苦労しながら客室に戻り、ソファーに寝転がる2匹。

  「ゲエエエエ~ップ!ああ、食べた食べた…」

  特大のげっぷを出す稲荷山くん。今まで我慢していた分を一気に解き放ったため、かなりの大きさと長さだ。

  「クリスマスパーティーの時以上に食べた気がするよ…」

  食べ過ぎた2匹は、食休みを取った。

  「お腹…苦しい…」

  「パンクしそう…」

  「しばらく何もいらないよ…」

  「服が…きつい…」

  話し合ううちに眠気が押し寄せ、2匹は眠りについた。

  [newpage]

  [chapter:優雅なお風呂の時間]

  数十分後、室内のスピーカーから声が流れた。

  「お風呂の準備ができました。」

  それで目覚めた稲荷山くんは、万梨阿ちゃんを起こした。消化が進んだため、お腹は元に戻っている。

  「万梨阿、お風呂だ!」

  「どんな感じなんだろうね?さっき見なかったから気になる!」

  「さあ、着替えの用意だ。」

  2匹はリュックサックからパジャマや下着を取り出し、メイドに案内されて風呂に向かった。

  「こちらです。」

  そこはかなり広い脱衣所だった。服を脱いでタオルを持ち、浴室へ。

  「これがお風呂だって!?」

  「外国みたい!」

  浴室も一般的な家庭とかなり異なっていた。浴槽のサイズは通常の3倍で、レンガ模様のタイルが貼られている。床も同じタイルだ。

  天井には星空と惑星、壁にはベニスの風景が描かれている。シャワーは2つ用意されている。

  2匹は体を洗い、浴槽に入った。

  「なんだかお姫様になったみたい…」

  「じゃあぼくは王子様?」

  「お兄ちゃんは…召使い!後で背中洗ってね!」

  「えー?まあいいか。」

  浴槽から上がると、稲荷山くんは万梨阿ちゃんの背中を洗った。

  「お兄ちゃん、しっかりやってね!」

  「わかった。でも後でぼくの背中も洗ってよ!」

  「もちろん!お兄ちゃんのためならなんでもするよ!」

  その通り、彼女は兄の背中を洗った。

  「やっぱりお兄ちゃんの背中は大きいね。」

  「相撲部所属だからな。」

  背中以外はすべて自分で洗い、シャワーで泡を流すとまた浴槽に入った。

  「お兄ちゃん、ずっと入っていたいね…」

  「そろそろ上がるよ。」

  「私はもうちょっと入りたいな。お姫様気分を味わいたいの!」

  「万梨阿、明日も入れるよ。」

  「まあ、そうだね。それじゃ上がろう!」

  タオルである程度体を拭いてから外に出ると、バスタオルが2枚用意されていた。

  「ふっかふかのバスタオルだな…」

  「お兄ちゃんのお腹とどっちが気持ちいいかな?」

  「さ、さあ…」

  [newpage]

  [chapter:もうすぐ寝る時間]

  全身ドライヤーで毛皮を乾かし、パジャマに着替えて廊下へ。そこでは理沙ちゃんが待っていた。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、お風呂はいかがでしたか?」

  「お城みたいで最高だったよ!壁や天井に絵が描いてあるなんて思わなかった!」

  「お姫様の気分になれて嬉しいな!」

  「ありがとうございます。あの絵はイタリアの芸術家に描いてもらいましたの。」

  「理沙ちゃんの家族はやっぱりすごいね!」

  「さあ、冷蔵庫から出し立てのココナッツミルクを用意しましたわ。」

  「ありがとう。気が利くね。」

  2匹はココナッツミルクを一気飲みした。

  「あー、おいしかった…」

  「喜んでくれてありがとうございます。そろそろ寝る時間ですわね。」

  時計は21時を指していた。

  「ねえ、理沙ちゃんはまだ寝ないの?」

  「食器の後片付けやお風呂があるから、まだ起きていますわ。」

  「メイドさんがやってくれるんじゃないの!?」

  「私は普段から家の手伝いをしていますの。自分でできる事は手伝っていますわ。」

  「理沙ちゃんは偉いね!」

  「明日はもっと楽しいことが待っていますわよ。それではおやすみなさい。」

  「おやすみ。」

  稲荷山兄妹は歯磨きとトイレを済ませると、柔らかなベッドに寝転んだ。

  「お兄ちゃん、楽しい1日だったね。」

  「そうだな。あのお風呂なら毎日入りたいよ。」

  「明日は何があるんだろうね?」

  「さあ…ラブーシュさんがフランス料理のフルコースをごちそうしてくれるとか?」

  「だといいね。お兄ちゃん、おやすみ。」

  「万梨阿、おやすみ。」

  [newpage]

  [chapter:すがすがしい朝]

  2匹は翌朝7時に目覚めた。カーテンを開けると、抜けるような青空が広がっていた。

  「お兄ちゃん、今日は何があるんだろうね?」

  「それよりまずは朝ごはん!もうお腹ペコペコだよ!」

  「昨日あんなに食べたのが嘘みたいだね。」

  2匹は朝の支度を済ませ、1階に降りた。

  大広間には雪見一家が揃っていた。

  「おはようございます。朝食をどうぞ。」

  テーブルには豪華な朝食が用意されている。サラダにスープ、スクランブルエッグ、フレンチトースト、スタンドに入ったゆで卵、鶏肉製のハムやソーセージ、グレープゼリー。飲み物は豆乳とオレンジジュースだ。

  「わあ、豪華!」

  「おいしそう!」

  稲荷山家の朝食は和食がメイン。このような朝食は久々だ。

  「いただきまーす!」

  「音楽をお願いしますわ。」

  理沙ちゃんはアライグマのメイドに指示を出し、席に着いた。メイドはバイオリンで優雅なクラシック音楽を演奏する。

  「この雰囲気、どうでしょうか?」

  「最高だよ!」

  「お城かホテルにいるみたい!」

  大広間の窓からは朝日が差し込み、室内には美しい音楽が流れ、高級な食器で食事をする…庶民はまず体験しないことだ。

  「理沙ちゃん、いつもこんなに豪華なのを食べてるの?」

  「もちろんですわ。和食の日もありますわよ。」

  「へえ、いいなあ…」

  [newpage]

  [chapter:お出かけの日]

  朝食後。

  「ねえ、今日は何をするの?」

  「ここに行きますわ。このために予約しましたのよ。」

  理沙ちゃんは小さな紙を出した。

  「なんだろう?」

  よく見ると、それはミュージカル「ライオン・エンペラー」のチケットだった。

  「わあ、やった!」

  「ミュージカルも初めてなの!楽しみ!」

  「開演は午後の1時ですから、10時半に家を出ますわ。それまで庭で遊びません?」

  「うん、もちろん!」

  稲荷山兄妹は歯磨きを済ませると、庭に出た。理沙ちゃんも後に続く。

  それから2時間ほど、3匹は庭で追いかけっこやかくれんぼを楽しんだ。

  稲荷山くんは太っているため、追いかけっこでは不利になる。それでも楽しい時を過ごした。

  「理沙ちゃんは意外と活発なんだね!」

  「こんなに遊んだのは久しぶりですの。昔は両親やスカンダーとよく遊びましたが、最近はめっきり…」

  「そうなんだ。遊べて良かったね!ぼくもこんなに広い庭で遊んだのは初めてだよ。」

  「お兄ちゃん、楽しかったね!」

  その時、理沙ちゃんの両親が呼びに来た。

  「そろそろ出かける時間よ。」

  「はーい、わかりました!何匹で出かけますか?」

  「子供3匹と私たちだから、合計5匹だ。」

  「スカンダーさんとかは行かないんですか?」

  「みんな仕事があるからね。」

  一行はスカンダーの運転する車で大上駅へ。そこから電車に乗り、1時間ほどして東京都のとある駅に到着した。

  「あと1時間で開演だから、それまで食事ね。」

  「お母様、どこでですの?」

  「そこまで時間がないから、パンにしましょう。」

  一行は駅ビル内のパン屋へ。稲荷山兄妹は値札を見て驚いた。

  「このパン、1個で450円もするんだ!」

  「普通のパン4個分の値段だね…」

  「気にしないで好きなパンを1個ずつ選んでいいですわよ。」

  「わかった。どれにしよう…」

  会計を終えると、イートインスペースでパンを食べた。稲荷山くんはチーズカンパーニュ、万梨阿ちゃんはブリオッシュ、理沙ちゃんはベーコンエピ、フィリップはサンドイッチのセット、すみれはバゲットサンド。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、おいしいですか?」

  「うん。初めて食べるパンだからね。」

  「ブリオッシュって最高!」

  食べ終わった一行は10分ほどモノレールに乗り、目的の駅に到着。そこから劇場に向かって歩き出した。

  「さあ、こちらですわよ。」

  「わあ、すごい!」

  「大きな劇場だね!」

  劇場の壁には「ライオン・エンペラー」の大型ポスターが貼られている。

  中に入り、予約席へ。時刻は12時半だ。

  「ここに連れてきてくださってありがとうございます。」

  「稲荷山くんはしっかりお礼が言えて、偉いですわね。」

  「いやあ、それほどでも…」

  「稲荷山くん、可愛いですわ!」

  理沙ちゃんは彼のお腹をつついた。

  [newpage]

  [chapter:初めてのミュージカル鑑賞]

  その時、聞き慣れた声が聞こえた。

  「あれ、稲荷山くんたちだ!」

  振り向くと、後列に栗田くんと両親(父の[[rb:純一 > じゅんいち]]と母の[[rb:幸江 > ゆきえ]])が座っている。

  「わっ、栗田くんも来てる!」

  「夏休みだから、お父さんが連れてってくれたんだ。ここで会うなんて偶然だね!」

  「ぼくは昨日から理沙ちゃんの家にお泊りしてるんだ。」

  「理沙ちゃんの家?うらやましい!ぼくも泊まりたかったな…」

  話に花を咲かせているとブザーが鳴り、劇場内が暗くなった。

  「見て、始まるよ!」

  舞台に注目する稲荷山くんたち。幕が上がり、物語が始まった。

  「ライオン・エンペラー」はアフリカのライオン帝国を舞台にしたミュージカル。同名のアメリカ製アニメ映画が原作だ。

  観客たちは、目の前に広がる物語に魅了された。

  約3時間後、ミュージカルが終わった。

  「栗田くん、楽しかったね!」

  「まさか稲荷山くんに会えるなんて思ってもみなかったよ!」

  「お兄ちゃん、どのシーンもすごかったね!」

  「ああ。オープニングとかバトルのシーンとか感動したよ!」

  「私はこれまで、何作ものミュージカルを鑑賞しましたわ。『DOGS』『コアラズ・ライン』『美女と竜』…

  でもやっぱり、これが一番好きですの。」

  2組の家族は同じモノレールに乗り、それから電車に乗り換えた。

  「あー、疲れた…」

  稲荷山くんは、車内で眠りに落ちた。

  「着きましたわよ。」

  目を覚ますと、大上駅に着いていた。

  電車を降り、駅の西口へ。空は夕焼けに近づいている。

  「さあ、これから夕食ですわよ。」

  「どこに行く?フード・キャッスル?」

  「いいえ、大上グランドホテルの中華レストランに行きますのよ。」

  「それじゃここでお別れだね。稲荷山くん、またね!」

  「栗田くん、また会おうね!」

  栗田一家はウルフデパートに向かった。行き先はレストラン街だろう。

  「さあ、私たちはグランドホテルへ!」

  [newpage]

  [chapter:夜も楽しみがいっぱい!]

  稲荷山くんたちはウルフデパートの横を通り、大上グランドホテルへ。

  「ここですわよ。フルコースを予約しておりますの。」

  「理沙ちゃん、ありがとう!楽しみだな…」

  中に入って席に着くと、エビやキノコなどを使った前菜が運ばれてきた。

  「それでは、いただきます。」

  普段は元気な稲荷山くんも、控えめに挨拶をした。

  フルコースのため、次々と料理が運ばれてくる。北京ダック、点心、チャーハン…

  最後のマンゴープリンを食べ終わると、稲荷山くんはお腹をなでた。

  「あー、おいしかった!理沙ちゃん、こんなおいしい中華料理を食べたのは初めてだよ!」

  「マンゴープリンおいしかった!」

  「ありがとうございます。それではそろそろ帰りましょう。」

  フィリップが会計を済ませると、5匹はホテルを出た。

  時刻は19時。空は暗くなり、ビルの窓やネオンが輝いていた。

  (昨日は食べ過ぎて苦しかったけど、今日は程よい満腹感だ。幸せだなあ…)

  ホテルの前にはスカンダーの車が止まっていた。フィリップが連絡をしたようだ。

  家に戻ると、スカンダーが言った。

  「皆様が出掛けている間に、花火を買っておきました。」

  「わあ、花火!楽しみだな…」

  「さあ、庭へどうぞ。準備ができていますよ。」

  庭に行くと、水入りのバケツ数個と火のついたろうそく、打ち上げ花火を立てる台が用意されていた。

  「さあ、まずは線香花火から!」

  理沙ちゃんは線香花火に火をつけた。パチパチと火花が飛び散る。

  「稲荷山くんと万梨阿ちゃんもどうぞ。」

  2匹も続いた。

  「お兄ちゃん、きれいだね…」

  「どっちが長く燃えるかな?」

  その次はスパークラー花火に入った。稲荷山くんは両手に1本ずつ持ち、円を描くように振り回す。

  「理沙ちゃん、きれいでしょ?」

  「ええ、そうね。」

  それから、打ち上げ花火が始まった。フィリップが筒を台に立て、導火線に点火する。

  「皆さん、離れてください。」

  10秒ほどして花火が噴き出した。まるで暗闇に花が咲いたようだ。

  「すごいな、こんなの初めてだよ…」

  稲荷山家では打ち上げ花火を買った事がなかったため、2匹は興奮を覚えながら見た。

  その後もロケット花火やヘビ花火を楽しみ、最後は残っていた線香花火を使い切った。

  「万梨阿、楽しかったな。」

  「あんなにたくさんの花火をしたのは初めてだね!」

  その時、家の中からメイドが現れた。

  「お風呂の準備ができました。」

  「わーい!お姫様タイムだー!」

  万梨阿ちゃんは喜んで家に入った。

  「よし、ぼくも行こう!」

  稲荷山くんも後を追う。

  昨日と同じように風呂を楽しみ、パジャマに着替えて上がると、理沙ちゃんがよく冷えたコーヒー豆乳を持って現れた。

  「今日もありがとう!」

  2匹は一気飲みした。

  「ほんとにサービス満点だね。理沙ちゃんがいろいろしてくれて嬉しいよ!」

  「感謝してくださってありがとうございます。それではおやすみなさい。」

  「おやすみ、理沙ちゃん。」

  歯磨きとトイレを済ませ、ベッドへ。

  「明日はもう帰るのか…」

  「大きなお風呂も、ふかふかのベッドも、当分は体験できないね…」

  「明日の午前中は、何をしようか?」

  「それは明日になったら考えよう。」

  2匹は眠りについた。

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  [chapter:みんなで化け比べ]

  翌朝。朝食からしばらく経つと、理沙ちゃんが提案した。

  「ねえ、みんなで化け比べしない?」

  「化け比べ?いいよ!ぼくはあんまり得意じゃないけど…」

  化け比べとは、狐や狸、カワウソなどがする遊びだ。これらの種族は、全身の細胞や着ている物を自由に変質できる能力を持っている。

  「ねえ、まずは何に化けようか?」

  「そうね…ティーポットに化けましょう。」

  3匹は精神を集中させ、姿をティーポットに変えた。

  稲荷山くんは取っ手の部分がしっぽのまま。万梨阿ちゃんは耳が生えたまま。

  一方、理沙ちゃんは豪華な装飾が施されたティーポットに化けた。耳やしっぽは生えていない。

  「理沙ちゃんのティーポット、素敵な模様ね!」

  「稲荷山くんのしっぽがあるティーポットも可愛いですわよ。」

  「ありがとう。ぼくも上手に化けたいな…」

  「さあ、今度は楽器に化けてみましょう。」

  思い思いの楽器を想像して、また化ける。

  稲荷山くんはしっぽの生えたリコーダー、万梨阿ちゃんは耳が生えたバイオリン、理沙ちゃんは耳もしっぽもないパイプオルガンになった。

  「理沙ちゃん、上手だね!どう見ても本物だよ!」

  その後も1時間ほど化け比べが続き、3匹とも様々な物に化けた。

  特に理沙ちゃんは上手だった。クラシックカー、ダイヤの指輪、ガラスの彫刻…どれも高級感のある物だ。

  「やっぱり高級品を見慣れているとそうなるんだ!ぼくもセレブに生まれたかったな…」

  「私は時々、庶民の生活を体験したくなりますの。お父様もお母様も豪邸暮らしですから…」

  「そうか。じゃあそのうちぼくの家においでよ。」

  「時間がありましたらね。」

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  [chapter:2匹だけのひととき]

  「あー、疲れた…」

  化けると体力を使うため、万梨阿ちゃんは眠ってしまった。そのため、稲荷山くんは理沙ちゃんと落ち着いて話せた。

  「ねえ、8月には何をするの?」

  「毎年8月はヨーロッパ旅行に行きますわ。いろいろな国を巡りますけど、パリとロンドンには必ず立ち寄りますの。」

  「いいなあ。その2ヶ所に行く理由は?」

  「パリには私のお父様とラブーシュの実家、ロンドンにはスカンダーの実家がありますのよ。」

  「そうなんだ。お父さんの実家はどんな所?」

  「ここよりも大きいお城のような家ですの。ヘリコプターの他に潜水艦も持っていますわ。」

  「すごいな…おじいちゃんとおばあちゃんは優しい?」

  「ええ、おじい様は私を可愛がってくれますのよ。

  おばあ様は私が小さいときに亡くなりましたわ。でも毛皮提供書にサインをしていたから、その後毛皮がコートに加工されて売られて行きましたの。」

  「そうなんだ。今はどんなケモノが着ているんだろうね?」

  「きっと象やサイなど、毛皮のない種族でしょうね。毛皮のある種族にコートは必要ありませんから。」

  その時、スカンダーが呼びにきた。

  「昼食の準備ができました。庭へどうぞ。」

  「万梨阿、起きろ!お昼ご飯だ!庭で食べるみたいだ。」

  「庭で?」

  「きっとあれですわよ。」

  「何だろう?とにかく行ってみよう!」

  3匹は庭へ出た。

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  [chapter:楽しいランチタイム]

  庭にはテーブルと椅子が並び、大型のバーベキューコンロも用意されていた。雪見夫妻、スカンダー、ラブーシュ、メイドたちが最終準備をしている。

  「やった!バーベキューだ!」

  用意を終わらせたラブーシュが言った。

  「材料はたくさん用意してあります。鶏肉、ワニ肉、カエル肉、ロブスター、アワビやサザエもありますよ。稲荷寿司や餃子も作りました。」

  「わーい!たくさん食べるぞ!」

  「ロブスターにアワビ!すごいね!」

  稲荷山兄妹は喜んでテーブルに走った。

  「頑張って用意した甲斐があったよ…」

  雪見夫妻は微笑みを浮かべた。

  「それでは、いただきまーす!」

  一同は高級食材のバーベキューを楽しんだ。

  「ワニの足、おいしいね!」

  「万梨阿、ロブスターもうまいぞ!」

  「稲荷山くん、アワビもどうぞ。肉厚ですわよ。」

  「理沙ちゃん、ありがとう。アワビなんて初めてだよ!

  ああ、こんな生活がずっと続けばいいのにな…」

  「でもあと1時間ぐらいで帰る時間ですわよ。」

  「そうか…残り少ない時間を楽しもう。」

  「そうだね、お兄ちゃん!」

  デザートは特盛マンゴーかき氷と10種類のフルーツジュース。

  残さず食べた稲荷山くんは、お腹を軽く叩いた。

  「あー、満腹だ!今日もお腹いっぱい食べちゃった!」

  万梨阿ちゃんも膨れたお腹をなでた。

  「私、ちょっと太ったかも?理沙ちゃんはよく太らないね。」

  「そこまで食べませんし、しっかりと運動してますからね。」

  「ぼくも相撲部で鍛えてるから、ただ太ってるだけじゃなくて、ちゃんと筋肉もついてるんだ。目立たないかもしれないけど…」

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  [chapter:お家に帰ろう]

  2匹が部屋に戻ると、ベッドの上にこの2日間で着た服が置かれていた。メイドが洗濯した物だ。

  それをリュックサックにしまい、玄関へ向かう。

  「万梨阿、楽しかったな。」

  「あと1週間はいたかったな。できれば夏休み中ずっとここに…」

  「いや、そんなに滞在したらさすがに迷惑だよ!」

  「それもそうだね。」

  「帰ったらお母さんに話をしようね。」

  「だね!」

  2匹は玄関で靴を履き、お礼を言った。

  「皆さん、どうもありがとうございました。食事もサービスも最高でした。」

  「おかげさまで楽しいお泊まりができました。」

  理沙ちゃんたちもお礼を返す。

  「喜んでくださって嬉しいですわ。また来てくださるのをお待ちしております。」

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、ありがとうございました!」

  雪見家の住民に見送られ、家を出る2匹。

  「お兄ちゃん、楽しい3日間だったね!」

  「思い出がいっぱい作れたな、万梨阿。」

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  [chapter:エピローグ]

  会話を楽しむうち、家に着いた。

  「お母さん、ただいま!」

  「お帰りなさい。楽しかった?」

  「とっても楽しかったよ!」

  「理沙ちゃんと一緒なら、宿題はかどったでしょ?」

  「宿題…しまった、すっかり忘れてた!」

  「私も全然やってない!」

  「あらまあ、仕方ないわね…」

  「じゃあ今からやるか。お母さん、何があったかは夕食の時に話すね!」

  稲荷山兄妹は宿題に取り掛かった。

  [chapter:おしまい]