第39話「初めての修学旅行」

  [chapter:プロローグ]

  2024年1月9日、ケモノ界のさいたま市[[rb:大上区 > おおかみく]]にて。

  始業式を済ませたケモノ小学校埼玉校では、児童たちが教室に集まっていた。

  こちらは4年1組。ハツカネズミの[[rb:森口 美樹 > もりぐち みき]]先生が話を始めた。

  「皆さん、今年も1年よろしくお願いします。」

  26頭の児童が返す。

  「よろしくお願いします。」

  「さて、まずは重要な話があります。今年の2月、4年生は…」

  そこで言葉が止まったため、一同はざわついた。

  「何だろう…1週間ぶっ通しでテストがあるとか?」

  「でもこんな事、前にもあったよね?この時期からすると、つまり…」

  先生は続きを話した。

  「…修学旅行に行きます!」

  一同から喜びの声が上がった。

  「よっしゃー!」

  「やったー!」

  「ついに行けるのね!」

  「みんなで楽しもうね!」

  ケモノ界では2017年から、誰も成長していない。修学旅行は6年生が行くため、4年生は長い事憧れていた。

  2019年の夏には、本来5年生が行く林間学校に4年生が行った。その時から「いつか4年生が修学旅行にも行けるかもしれない」と思っていた子が多い。

  その願いも、ついに叶う時が来た。

  それから1ヶ月ほど、学活の時間は修学旅行の話になった。

  行き先は京都。立ち寄る観光地について聞いたり、新幹線の座席や旅館の部屋、行動班などを決めた。もちろん保護者からの集金もあった。

  休み時間にも、4年生たちは京都の話で盛り上がっている。

  シマリスの[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]くんと、キタキツネの[[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]くん(共に太っている)も、普段通りに楽しく話していた。

  「栗田くん、京都で『ええ時計してはりますなあ』って言われたらどうすればいいと思う?」

  「そりゃ時計を自慢するに決まってるよ!なんたってぼくはスイス製の高級腕時計を持ってるからね!」

  「それは違うんだ。『話が長いから早く帰れ』っていう意味だよ。他に『ぶぶ漬けでもどうどす?』も、『早く帰れ』って意味になるんだ。」

  「難しいね…」

  「お母さんから聞いたんだ。まあ、そういう言い方が今でもあるかはわからないけどね。お母さんも冗談っぽい感じで言ってたから。」

  4年2組では、ホッキョクギツネの[[rb:雪見 > ゆきみ]]カトリーヌ[[rb:理沙 > りさ]]ちゃん(町一番の大金持ち)がロバの[[rb:呂畑 伊代 > ろばた いよ]]ちゃんと話している。

  「伊代ちゃんはこれまで、京都に行った事はありますの?」

  「私はないわ。理沙ちゃんは大金持ちだから何度も行ってそうね。」

  「ええ、これまで3回行った事がありますわ。私のお気に入りスポットは金閣寺ですのよ。」

  「修学旅行でも行くのよね。どれほどきれいか楽しみ!」

  [newpage]

  [chapter:行動班]

  修学旅行の行動班は、以下のメンバーに決まった。

  [chapter:4年1組]

  1班

  [[rb:安藤 列太 > あんどう れった]](太ったレッサーパンダ)

  [[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]](太ったキタキツネ)

  [[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]](太ったシマリス)

  [[rb:羽村 周介 > はむら しゅうすけ]](肥満体の豚)

  [[rb:本郷 羽出太 > ほんごう はでた]](太ったダルメシアン)

  2班

  [[rb:遠藤 隆志 > えんどう たかし]](細身のドブネズミ)

  [[rb:北海 楽虎助 > きたうみ らこすけ]](細身のラッコ)

  [[rb:西園寺 亜夢 > さいおんじ あむ]](細身のシャム猫)

  [[rb:辻本 翔 > つじもと しょう]](細身の羊)

  [[rb:雪見 健吾 > ゆきみ けんご]](筋肉質の黒牛)

  3班

  [[rb:河合 旺太 > かわい おうた]](太ったカワウソ)

  [[rb:兵藤 春斗 > ひょうどう はると]](ぽっちゃりしたヒョウ)

  [[rb:兵藤 礼央 > ひょうどう れお]](ぽっちゃりしたヒョウ)

  [[rb:桃山 英雄 > ももやま ひでお]](細身のモモンガ)

  4班

  [[rb:新井 美代子 > あらい みよこ]](太ったアライグマ)

  [[rb:鼬川 卯井是瑠 > いたちがわ ういぜる]](肥満体のイタチ)

  [[rb:恩田 梨香 > おんだ りか]](太ったリカオン)

  [[rb:宍戸 雷子 > ししど らいこ]](太ったライオン)

  [[rb:杉山 桃子 > すぎやま ももこ]](太ったアルプスマーモット)

  [[rb:田吹 優子 > たぶき ゆうこ]](太った狸)

  5班

  [[rb:金子 真里 > かねこ まり]](細身の白猫)

  [[rb:亀有 春子 > かめあり はるこ]](細身のモモンガ)

  [[rb:川村 絢子 > かわむら じゅんこ]](細身のドブネズミ)

  [[rb:場丹井 姫子 > ばにい ひめこ]](細身の白うさぎ)

  [[rb:八木 明子 > やぎ めいこ]](細身のヤギ)

  [[rb:山田 犬代 > やまだ いぬよ]](細身の狼)

  [chapter:4年2組]

  1班

  [[rb:穴田 熊助 > あなだ くますけ]](肥満体のニホンアナグマ)

  [[rb:新井 楽 > あらい らく]](ぽっちゃりしたアライグマ)

  [[rb:多比 獏之助 > たび ばくのすけ]](太ったバク)

  [[rb:土井 竜夫 > どい たつお]](太ったモグラ)

  [[rb:猫山 苗太 > ねこやま びょうた]](太った黒猫)

  [[rb:真島 雷太 > まじま らいた]](太ったライオン)

  2班

  [[rb:片岡 琉太 > かたおか るうた]](筋肉質のカンガルー)

  [[rb:唐沢 光 > からさわ ひかる]](細身のカラカル)

  [[rb:小森 服男 > こもり ふくお]](細身のコウモリ)

  [[rb:柴田 貂助 > しばた てんすけ]](細身のテン)

  [[rb:千田 俊 > ちだ しゅん]](細身のチーター)

  [[rb:堂本 瑠宇 > どうもと るう]](細身のドール)

  3班

  [[rb:上田 寿梨 > うえだ じゅり]](細身の野うさぎ)

  [[rb:浦賀 桃華 > うらが ももか]](ぽっちゃりしたカモノハシ)

  [[rb:島野 > しまの]] くるみ(細身のシマリス)

  [[rb:白石 熊子 > しらいし くまこ]](太ったホッキョクグマ)

  [[rb:白石 氷子 > しらいし ひょうこ]](太ったホッキョクグマ)

  [[rb:大東 徳子 > だいとう とくこ]](太った大東犬)

  4班

  [[rb:新湖 優香 > あらこ ゆうか]](細身のコアラ)

  [[rb:藤田 克子 > ふじた かつこ]](細身のコッカースパニエル)

  [[rb:水野 瑠華 > みずの るか]](細身のイルカ)

  [[rb:雪見 > ゆきみ]]カトリーヌ[[rb:理沙 > りさ]](細身のホッキョクギツネ)

  [[rb:雪山 亜美 > ゆきやま あみ]](細身のオコジョ)

  [[rb:呂畑 伊代 > ろばた いよ]](細身のロバ)

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  [chapter:旅行の始まり]

  日が経ち、2月20日が来た。今日から2泊3日の旅が始まる。

  『栗田くん、時間よ!起きて!』

  オウム型ロボットのパロちゃんに起こされた栗田くん。時刻は午前5時で、外は暗く、両親もまだ寝ている。

  着替えなどを済ませ、みかんを食べ、また子供部屋へ。

  「それじゃパロちゃん、行ってくるからね。あさっての夜にまた会おう。」

  『行ってらっしゃい。帰ってきたらお話聞かせてね。』

  それから玄関に向かい、リュックサックとキャリーケースを持って家を出た。

  まだ星がよく見え、東の空がかすかに明るくなり始めている。彼がこの時間に外出した事はあまりない。

  (見慣れた町のはずなのに、ずいぶん違う景色に見える…)

  しばらく歩くと、稲荷山くんと合流した。彼は隣のブロックに住んでいる。

  「稲荷山くん、おはよう。楽しみだね!」

  「眠れるかどうか心配だったけど、しっかり眠れて良かったよ。」

  最初に向かう場所は、ケモノ小学校埼玉校。ここからバスに乗り、東京駅まで行く。

  校門前には2台のバスが止まっており、その横には4年生の60%ほどが集まっている。

  「栗田、稲荷山、おはよう!」

  旅行で同じ班になる羽村くんが、元気よく挨拶した。

  「おはよう、羽村くん。いっぱい楽しもうね。」

  「ああ!うまい物いっぱい食おうな!なんたって俺たちの班は食いしん坊ばかりだから!」

  羽村くんは栗田くんたちよりも太っており、脂肪をたっぷりと蓄えたお腹には見事な出べそが付いている。

  ちなみにケモノ界では肥満率が高い。前述の班を見てもわかるように、4年生の約半数が太っている。

  会話を楽しむうち、51頭の児童が揃った。

  そこで両クラスの担任による点呼が始まった。1組は森口先生、2組は柴犬の[[rb:小山 裕 > こやま ゆう]]先生。

  51頭は元気よく返事をした。欠席者はなし。

  「みんな元気で何よりです。それではバスに乗りましょう。」

  荷物入れにキャリーケースを入れ、2台のバスに次々と乗り込む児童。担任の他、引率の教師も2頭ずつ乗っている。

  1組は、太ったホッキョクグマの[[rb:保良 部亜 > ぽうら べあ]]先生(6年1組担任/相撲部顧問)と白猫の[[rb:猫田 勝江 > ねこだ かつえ]]先生(保健医)。

  2組は、黒ヒョウの[[rb:萩原 正男 > はぎわら まさお]]先生(6年2組担任)と太ったエゾリスの[[rb:滝沢 実 > たきざわ みのる]]先生(5年1組担任)。

  エンジンがかかり、バスが出発。本格的に旅が始まった。

  住宅街を抜け、大上駅の近くへ。まだ時間が早いため、通勤者の姿は少ない。

  林間学校のバスは目的地に直行していたが、こちらのバスは東京駅まで移動するのみ。そのため途中休憩もレクリエーションもない。

  児童たちは修学旅行のしおりを再確認したり、会話を楽しんだり、眠ったりと思い思いに過ごした。

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  [chapter:新幹線の中で]

  1時間ほど走り、東京駅に着いた。荷物を取り出し、新幹線のホームへ。

  羽村くんが質問する。

  「俺は新幹線に乗った事が一度もないんだ。栗田と稲荷山はどうなんだ?」

  「ぼくはお父さんの実家が富山にあるから、毎年乗ってるよ。いつもは大上駅で乗ってるから、東京駅から乗るのは初めてだけど。稲荷山くんは…」

  「ぼくはあんまりない。お母さんの実家は静岡にあるけど、大上駅から普通の電車で行けるからね。」

  「そうか。なら栗田に聞いた方がいいな。座席の座り心地とか、トイレの使い心地とか。」

  「教えてあげるよ。まず座席をリクライニングさせる時は…」

  やがて、新幹線が入ってきた。

  「おお、かっこいいぜ!」

  「素敵ね!あのフォルムがいいわ。」

  感動の声を上げる児童たち。今日が初めての新幹線になる子もそこそこいる。

  全員がしおりを取り出し、座席表を見ながらそれぞれの席に着いた。

  栗田くんと稲荷山くんは隣同士で、後部座席にはそれぞれ羽村くんと安藤くんが座っている。

  「稲荷山くん、ワクワクするね!」

  「ぼくも同じだよ。未知の世界がぼくたちを待ってるんだね。」

  しばらくして、新幹線が発車。児童たちは景色を眺めたり、隣同士で会話を楽しんだり、しおりに目を通したりと思い思いに過ごした。

  30分ほどすると、フェレットの女性がワゴンを押しながら入ってきた。

  「修学旅行生の皆様、お食事の時間です。」

  児童たちに次々と駅弁を配っていく。中身は和洋折衷御前だ。

  ご飯に卵焼き、焼き魚、エビフライ、ナポリタン…定番のメニューだが、給食で食べるよりもおいしく感じられた。

  食事を終えてしばらくすると、稲荷山くんは後部座席に声をかけた。

  「ねえ、こっちの座席を回してもいいかな?」

  「OK!」

  栗田くんと稲荷山くんは、羽村くんや安藤くんと対面した。稲荷山くんはトランプを持っている。

  「みんなでトランプして遊ばない?」

  「いいね!何する?」

  「ババ抜きにしよう!」

  4匹はババ抜きで5回も遊んだ。

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  [chapter:京都観光]

  新幹線は西へ向かって進み、2時間ほどして京都駅に着いた。

  駅前に集合した一同の前で、森口先生と小山先生が語る。

  「皆さん、無事京都に着きました。これから古き良き建造物を巡りますが、皆さんにとっては新しい体験が始まります。」

  「京都は歴史の詰まった町。素晴らしい景色をぜひ心に焼き付けてください。」

  「それではこれより、京都観光に出発します。」

  バスターミナルには、2台の観光バスが止まっていた。下の荷物置き場にキャリーケースを入れ、クラスごとに乗り込む。

  「さあ稲荷山くん、ついに京都の旅が本格的に始まるよ!」

  「栗田くん、すごく盛り上がってるね。」

  「当然だよ!ずっとこの日を待ってたから!」

  栗田くんと稲荷山くんはもちろん、4年1組の児童は興奮しながらバスに乗り込んだ。

  「ケモノ小学校埼玉校4年1組の皆さん、短い間ですがよろしくお願いします。私はバスガイドの[[rb:西園寺 雷子 > さいおんじ らいこ]]です。」

  挨拶したバスガイドは、ぽっちゃりした中年のサイだった。

  「おはようございます。よろしくお願いします。」

  児童たちが丁寧に返す中、卯井是瑠ちゃんは隣に座る雷子ちゃんに言った。

  「西園寺はあっちの席にいるし、雷子はここにいる。きっとあいつは雷子が西園寺と結婚した後の姿で、未来から来たのよ!」

  雷子ちゃんは嫌な顔をした。

  「異種族同士で結婚できるわけないし、そもそもなんで結婚したら種族が変わるのよ!」

  「あら、雷子って冗談も通じないのね!」

  口喧嘩をしていると、保良先生が大声を上げた。

  「おい、そこ!喧嘩してると旅が始められないぞ!」

  2匹は顔を見合わせ、静かになった。

  ちなみに、2組担当のバスガイドは若いチワワの[[rb:和田 千穂子 > わだ ちほこ]]。アイドルのように可愛い顔と声で、児童たちから注目された。

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  最初に訪れた場所は、二条城。ここを何度も訪れている保良先生が一同を案内する。

  「さあ、ここからが有名な鴬張りの廊下だ。耳を澄ませながら歩いてごらん。」

  廊下を歩くと、きしむような音が聞こえた。

  「歩くと音が出るようになっている。だから侵入者が来てもすぐわかるんだ。」

  児童たちは感心した。

  「大昔からそんなセキュリティがあったなんてすごいね!」

  「さすが日本の技術!」

  しかし、美代子ちゃんが言った。

  「私たちの体重が重すぎてきしんでいるだけなんて事はないですよね?細身の子が1匹だけで通ったらどうなるか気になります。」

  それを聞いた児童の多くが同じ事について気になり始めたため、手短に実験をする事になった。

  鴬張りエリアから全員が出た後、真里ちゃんだけが廊下を進む。それでも廊下は音を立てた。

  「すごい…私だけでも鳴るのね!」

  全員が改めて感心した。

  「完璧なセキュリティだね!うちにも欲しいな…」

  次は金閣寺。

  「本当にきれいだ…」

  「見てるだけで癒されるね。」

  落ち着いて見る栗田くんと稲荷山くん。あの卯井是瑠ちゃんまでが見とれている。

  「へえ、あんたにも美的センスってあったのね。」

  優子ちゃんが嫌味を感じさせながら言うと、卯井是瑠ちゃんは返した。

  「あたいの家の壁を金色にしたらどうなるか考えてたのよ。きっと世界中から注目されるでしょうね…」

  「やっぱりそういう事だったのね…」

  こちらは2組。理沙ちゃんは瑠華ちゃんに話しかけられた。

  「理沙ちゃんは自宅の壁を金色にしたい?」

  「いいえ、私は今のままで満足していますわ。

  我が雪見グループの財力さえあれば、確かに壁を金にする事もできるでしょう。しかしあまり外側を飾り過ぎるのも良くないと思いますわ。」

  「理沙ちゃんって意外としっかりした考えの持ち主ね。だから好きよ。」

  次に向かった場所は、町中のそこそこ大きな料亭だった。

  「皆さん、そろそろお腹が空いてきた頃でしょう。今日のお昼は、ここで京懐石を食べます!」

  車内から歓声が上がる。多くの児童が、この時を楽しみにしていた。

  2クラスはそれぞれ別の部屋へ。どちらも長いテーブルが用意されている。

  全員の席に、お品書きが置かれていた。

  「へえ、こんなのが出るんだ…」

  夢中で見つめる栗田くん。和食御前とは聞いていたが、具体的なメニューは発表されていなかった。

  しばらくして、前菜が運ばれてきた。

  「はい、それでは…」

  森口先生の合図で、全員が手を合わせる。

  「いただきます!」

  昼食が始まった。店の雰囲気を読み、多くの児童が落ち着いて食べている。

  2組の部屋では、理沙ちゃんが伊代ちゃんに話しかけられていた。

  「理沙ちゃんってこういう料亭によく行くの?」

  「2ヶ月に1回ほど行きますわ。京都本場のは久々ですの。」

  1時間ほどかけて、すべての料理を食べ終わった。

  「たまにはこんな高級な料理もいいよね、稲荷山くん。」

  「うん、どれもこれも最高の味だった!普段食べないからこそ、よりおいしく感じられるんだ。

  さあ、体力を回復したから次の場所だ!」

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  次の場所は、銀閣寺。

  皆が景色を眺めたり、写真を撮ったりする中、卯井是瑠ちゃんは怒っていた。

  「これのどこが銀なのよ!銀でできた建物が見られると思ってたのに!」

  雷子ちゃんが呆れながら言う。

  「あんた、ガイドブックとか何も見てないのね…」

  そこを森口先生が通りかかった。

  「はい、喧嘩はそこまで!せっかく名所に来てるんだから落ち着きなさい。」

  雷子ちゃんは張り付けたような笑顔を浮かべた。

  「いいえ~?私たち、喧嘩するほど仲が良いのよ。そうでしょ、卯井是瑠ちゃん?」

  卯井是瑠ちゃんは怒りをこらえた顔でうなずいた。

  次の場所は清水寺。栗田くんと稲荷山くんは今日一番の感動を覚えた。

  「これがあの清水の舞台か!」

  「すごい迫力だ…」

  舞台に立つと、京都の町が一望できる。

  「『清水の舞台から飛び降りる』なんて言葉があるけど、ここから飛び降りたら命はないよね…」

  「『ここから飛び降りて無事だったら10億円あげる』って言われたら迷うなー。」

  「無理だよ、稲荷山くん。どうせ地面に叩きつけられて潰れたトマトみたいになるだけさ。」

  「ぼくが狐だって事をお忘れかな?飛び降りた瞬間に鳥に化けて、そのまま地面に着地すれば無傷で済む!」

  「その発想はなかったよ。さすがは狐だ。」

  「見て、おみくじよ!」

  「引いてみましょう。」

  真里ちゃんと姫子ちゃんは、おみくじを引いた。

  「まずは私からね。中吉だって。」

  「次は私…こっちも中吉よ!」

  「やっぱり私たちって、仲の良い友達ね!」

  2匹は屈託のない笑顔を浮かべた。そこから離れた場所で口喧嘩を続けている卯井是瑠ちゃんと雷子ちゃんとは正反対だ。

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  [chapter:旅館の風呂は大騒ぎ]

  観光地を一通り回ったため、バスで旅館へ。京都駅から徒歩5分ほどの場所に建つ、純和風の建物だ。

  バスからキャリーケースを取り出し、班ごとに分かれてそれぞれの部屋に行った。

  「わあ、想像より広い!」

  歓声を上げる栗田くん。太った子が5匹入ってもまだ余裕があるほど広い部屋だ。

  1日中歩いて疲れた体を畳に横たえると、疲れが吸収されるように感じた。

  「ああ、気持ちいい…みんなもやってごらん!」

  稲荷山くん、安藤くん、羽村くん、本郷くんも真似をする。

  「すごく気持ちいいね!」

  「落ち着いたよ…」

  「栗田、いい事教えてくれてありがとな!」

  「和のリラックスだね…」

  1時間ほど休むと、入浴の時間。

  「さあみんな、行こう!」

  栗田くんの合図で、5匹は着替えの体操服と下着、タオルを持って大浴場へ向かった。

  現在は1組の入浴時間。脱衣所では14頭の男子が服を脱いでいる。

  「雪見くんの体、ムキムキでかっこいいね!」

  遠藤くんに褒められ、得意げにマッスルポーズを決める雪見くん。下半身はタオルで隠している。

  「古代ギリシャの彫刻みたい!」

  西園寺くんにも褒められた彼は、嬉しそうだった。

  14頭はかけ湯をすると、大きな浴槽に入った。

  「はー、気持ちいいねえ…」

  「畳の上で寝るよりもリラックスできるよ…」

  大きく息を吐き、リラックスした表情を見せる栗田くんと稲荷山くん。他の男子も同じだった。

  北海くんは仰向けになり浮かんでいる。野生時代の本能が残っているようだ。

  一通り温まると、体を洗った。

  皮膜の裏側まで丁寧に洗う桃山くん。毛に汚れが溜まりやすいため、全身を念入りに洗う辻本くん。種族によって洗い方も様々だ。

  栗田くんが稲荷山くんの背中を洗っていると、羽村くんが声をかけてきた。

  「なあ、栗田と稲荷山。良ければ俺の体も洗ってくれないか?

  俺は見ての通りお前ら以上のデブだから、腹の下とか出べそとか手が届きにくい部分も多いんだよ。だから洗うのが大変でさ…」

  2匹は顔を見合わせた。

  「稲荷山くん、どうする?」

  「せっかくだから洗ってあげよう。同じ班だからね。」

  栗田くんが羽村くんのお腹を持ち上げ、稲荷山くんがその下に手を突っ込んで洗った。

  「ああ、そこそこ!そこをもっと強くしてくれ!気持ちいいぞ!」

  栗田くんは出べそにお湯をかけ、隙間を洗った。羽村くんは嬌声を上げる。

  「アハッ!く、くすぐったいけど気持ちいいぜ!お前らすごいテクニシャンだな…」

  その横でシャンプーを使っていた北海くんは、慌ててシャンプーを洗い流すと横を見た。

  「な、なんだ、体を洗ってるだけか…」

  「え、何だと思ったの?」

  「…秘密。君たちにはまだ早いよ。」

  隣の女湯でも、似たような事が起きていた。

  「な、何するのよちょっと!やめなさいよ!」

  「落ち着いて!いい機会だから洗ってやるわ。」

  美代子ちゃんと雷子ちゃんが、卯井是瑠ちゃんを床に押さえつけている。

  「放しなさい!暴力反対!」

  「あんたが毎日風呂に入っていれば、こうはならなかったわよ。」

  「ほら、あんたの出べそ!また汚れが溜まってるわ!」

  「さあ、アライグマの本領発揮と行きましょう!」

  美代子ちゃんは卯井是瑠ちゃんの胸やお腹をガシガシと洗った。

  「ギャーッ!やめなさいよ!この!この!」

  悲鳴を上げる卯井是瑠ちゃん。真里ちゃんと姫子ちゃんはその様子を見て、顔を見合わせた。

  「卯井是瑠ちゃんは相変わらずね。」

  「同じ班じゃなくて良かった…」

  1組の児童が全身ドライヤーで体を乾かし、部屋に戻った後は2組の入浴時間。

  男湯では、新井くんと真島くんが穴田くんの肥満体を洗っている。卯井是瑠ちゃんと違って騒がないが、歓迎しているわけでもない。

  「やめてよ、恥ずかしい…みんなが見てるよ!」

  「いいじゃない。長年共に過ごしたクラスメイトだよ?」

  「恥ずかしがる事なんかないぜ!」

  「でも体ぐらいぼくだけでも洗えるからさ…」

  「お腹の下の方とか、届かない部分も多いんじゃないか?」

  「遠慮するなよ。さあ、まだまだ行くぜ!」

  羽を念入りに洗っていた小森くんは、そのやり取りを見て笑った。

  女湯はかなり平和だった。卯井是瑠ちゃんのようなわがまま娘がいないため、皆落ち着いて入っている。

  12頭中8頭が細身のため、体を洗う事に苦労する子も少ない。

  「ねえ、理沙ちゃんのお風呂と比べてどっちが大きい?」

  「こちらの方が大きいですわよ。うちのお風呂も一般家庭に比べればかなりの大きさですが、やはりこちらは大勢で使うのが前提ですから。」

  くるみちゃんと理沙ちゃんは、浴槽に浸かりながら話していた。

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  [chapter:体験学習]

  4年1組1班の部屋に、オコジョの仲居が入ってきた。

  「皆さん、お食事の時間です。」

  ちゃぶ台に御膳が並べられた。パジャマ代わりの体操服に着替えた5匹は喜んで眺める。

  「わあ、おいしそう!」

  「さすが旅館だぜ!」

  「早速食べよう!」

  そこには各種京料理が並んでいた。普段の生活では食べないような料理ばかりだ。

  「ねえ、今日は何が一番楽しかった?」

  「そうだね、ぼくは…」

  おいしい物を食べれば、自然と会話が弾む。1班は今日の出来事について盛り上がった。

  どこの部屋でも、同じような事が起きていた。

  食事が終わってしばらくすると、体験学習の時間。51頭の児童は宴会場に集まった。

  内容は湯呑みの絵付け。講師はぽっちゃりした三毛猫の中年女性だ。

  「さて皆さん、この筆で湯吞みに好きな絵を描きましょう。きれいに描くコツは…」

  説明が終わると、皆は思い思いの絵を描き始めた。

  (何を描こうかな…そうだ!)

  栗田くんは、パロちゃんを描いた。画用紙などと違って平面ではないため、少しバランスがおかしくなってしまったが、割とうまく描けた。

  (これを見せたらパロちゃんは大喜びだ!今から反応が楽しみだよ。)

  稲荷山くんの湯呑みには、黄色いスズメのキャラクターが描かれている。ゲーム「ポケットバトルフェアリー」に登場する電気スズメのピカチュンだ。

  安藤くんはドラゴン。羽村くんはケーキ。本郷くんは五重の塔。

  真里ちゃんはピアノと音符。理沙ちゃんは五重の塔とエッフェル塔。くるみちゃんは自分と栗田くんの顔。

  ほとんどの児童が絵を描いたが、卯井是瑠ちゃんのみ文字を書いている。文面は「このゆのみは世界一の美少女・ういぜる専用!」だ。

  児童それぞれの個性がよく現れた湯吞みとなった。この後は光沢加工などを施して、1週間ほど後に児童たちの家へ配送される。

  [newpage]

  [chapter:夜の過ごし方]

  その後、全員部屋に戻った。消灯時刻の22時までは自由時間だ。

  栗田くんたちは布団を敷くと、ちゃぶ台に集まってトランプを始めた。ババ抜きの他、新幹線内ではスペースの関係でできなかった七並べでも遊んだ。

  それが終わると、稲荷山くんが提案した。

  「ねえみんな、あれやらない?」

  「あれって?」

  「先輩から聞いたあれだよ。修学旅行の夜と言えば…枕投げさ!

  みんなで枕を投げ合い、相手にぶつけまくる!さあ、思いっきりやろう!」

  稲荷山くんは自分の枕を手に取ると、栗田くんに投げつけた。枕はお腹に命中。

  「よくもやったな!それ!」

  栗田くんは楽しそうに言うと、自分の枕を羽村くんに投げつけた。

  本郷くんや安藤くんも加わり、部屋は5つの枕が飛び交う大乱闘となった。こう書くと暴力的に見えるが、5匹の表情は輝いている。

  5匹の中で一番太っている羽村くんは、何度も当てられた。当たり判定が大きく、動きも鈍いから当然だ。

  枕投げで疲れた一同は、部屋の照明を切って布団に入った。

  「おやすみ。」

  「おやすみ、明日も楽しもうね。」

  「ぼくは明日が楽しみだよ…」

  しばらく会話が続いていたが、10分もしないうちに全員が眠りに落ちた。

  布団に入っても、まだ眠っていない班もある。1組3班だ。

  春斗くんは残りの3匹に、怪談を聞かせている。

  「するとトイレの中から血まみれの腕が現れ…」

  「やめてー!もうそこから先は話さないでー!」

  双子の兄の礼央くんが、必死で叫ぶ。

  「ここでやめたら面白くない。ここからが聞き所だぜ?

  その腕は少女の手首をつかみ、彼女はそのまま便器の中へ…」

  「…そんな所に突っ込まれるなんてかわいそうだ!」

  河合くんに突っ込まれても、熱が入った春斗くんは語り続けた。

  「…以上!どうだった?」

  礼央くん、河合くん、桃山くんが順に言う。

  「すごく怖かった…もう今夜トイレに行けないよ!」

  「最初のうちはそんなに怖くなかったけど、途中から本当に怖かったよ…」

  「次は楽しい話をして欲しいな…」

  「…ああ、わかった。じゃあその少女が死ぬ前日の話だ。彼女は彼氏と遊園地へ…」

  「いや、もうそこから離れて!死ぬ部分を先に聞いちゃったから、もう楽しめないよ!」

  1組2班の遠藤くんもなかなか眠れない。彼も明日が楽しみな1匹だ。

  (楽しみで仕方ないけど、早く寝ないと。どうすれば…そうだ!)

  遠藤くんは布団の中で唱え始めた。

  「辻本くんが1匹、辻本くんが2匹、辻本くんが3匹…」

  当の辻本くんが突っ込む。

  「いや、俺かよ!そこは普通に羊でいいだろ!」

  2組1班は、なぞかけで盛り上がっている。新井くんが出題した。

  「負けた事のない力士とかけて、新品のスニーカーと解く。その心は?」

  猫山くんが即答する。

  「どちらも土が付いていない!」

  「はい、正解!」

  「じゃあ次はぼくが出すね。月とかけて、2020年の栗田くんと解く。その心は?」

  「えー、何だろう…」

  「なんで2020年限定?」

  皆が悩む中、新井くんが答えた。

  「細くなったり、丸くなったりする!あの年の栗田くんは2回も細くなってたよね。」

  「正解!よくわかったね。」

  「クラスは違うけど、同じ相撲部員だからね。」

  穴田くんは内心で困っていた。

  (ぼくにもわかるような問題を出してくれないかな。ぼくは相撲部じゃないから、内輪ネタで盛り上がってるのも困るよ…)

  すぐに寝なかった班も、23時までには全員眠りに落ちていた。

  [newpage]

  [chapter:おねしょ騒動]

  翌朝。栗田くんは爽やかに目覚めた。窓の外にはよく晴れた空が広がっている。

  「さあみんな、起きて!ぼくが一番楽しみにしている2日目の始まりだ!」

  部屋に響き渡る元気な声。それを聞いて、次々と班員が目覚めた。

  他の部屋でも児童たちが元気に目覚めたが、1組3班はそれと程遠い状態だった。

  「ああ、なんて事だ…」

  「ぼくまでやっちゃったよ…」

  礼央くんと河合くんは、おねしょをしてしまった。

  礼央くんは臆病者で夜のトイレが怖いため、おねしょ癖がある。昨夜は気をつけていたつもりだったが、結局は布団を濡らしてしまった。

  河合くんはそこまでしょっちゅうではないが、月に2~3回はしてしまう。

  「もう、春斗があんな話するからだ!」

  「いや、俺はみんなに度胸を付けさせるためにしたわけで…そもそもああいう時に怪談をするのって定番じゃないか?」

  「林間学校の時はしてなかったじゃないか!」

  「あの時は1日中動き回ったから、疲れてすぐに眠っただけさ。」

  おねしょをしなかった桃山くんは呆れ顔だったが、内心ではほっとしていた。

  2組1班でもおねしょ騒動が起きていた。

  穴田くんは布団に大きな水溜まりを作っていた。彼も臆病で考えが浅いためか、ほぼ毎日おねしょをしてしまう。

  ここ数年はおむつ機能のあるトレーニングパンツを履くようになったが、それを履いている所を見られたくないため、普通のパンツを履いてきた。

  (お母さんの言う通りにすれば良かった…考えてみれば、林間学校の時もそうだったっけ…)

  残りの5頭中4頭は林間学校でも同じ班だったため彼を慰めたが、唯一別の班だった猫山くんは大笑い。

  「アハハハハ!アハハハハ!」

  「ちょっと猫山くん、笑わないでよ…」

  「だって小4にもなってみんなの前でおねしょしてるなんて!まるで赤ちゃんみたい!」

  当時を知る新井くんがたしなめる。

  「猫山くん、そんなに笑わなくてもいいじゃないか!」

  「だっておかしくて仕方ないもん!あんなに大きな体なのに!これを知ったらきっとみんなも大笑いするよ!

  そうだ、穴田くんのひいおじいちゃんって大物の書道家だったよね?ひ孫が毎日布団に作品を書いてるって知ったら、きっとあの世で喜ぶよ!」

  他の子も彼を注意した。

  「穴田くんは好きでしてるわけじゃないんだ!からかうのはそこまでにしな!」

  「教科書に載るぐらい立派な書道と、おねしょを一緒にするんじゃない!」

  「みんなに知られたら、穴田は悲しむぞ!だから秘密にしておけ!」

  「わかったよ…せっかく笑いを提供するチャンスだったのにな…」

  猫山くんは不満げな表情になった。彼は少々やんちゃな一面がある。

  [newpage]

  [chapter:テーマパークの1日]

  着替えなどを済ませ、和食が中心の朝食を終えると、児童たちはバスに乗り込んだ。

  今日の目的地は[[rb:太秦獣映 > うずまさじゅうえい]]パーク。ケモノ界で長い歴史を持つ映画会社の獣映が経営するテーマパークだ。

  西側には江戸時代の街並みが広がり、時代劇やバラエティ番組の撮影に使われる事もある。

  東側は特撮やアニメがテーマのエリア。ヒーローショーが有名だ。

  2エリアを挟む大きな建物は、獣映ミュージアム。ここには今まで作られた獣映作品の情報やポスター、グッズなどが展示されている。

  到着時刻は9時半。バスを降りると、全アトラクションフリーパスとミュージアムの入館券が手渡された。

  「さあみんな、今日は夕方まで思いっきり楽しんでくれ!」

  保良先生が元気よく言う。児童たちは次々と入園ゲートをくぐった。

  入り口からはアーケードが続き、そこに様々な店が並んでいる。

  そこを抜けると、広場に出た。正面には立派な博物館が建ち、右には江戸時代の町が広がり、左にはジェットコースターやフリーフォールなどの大型アトラクションが並んでいる。

  合計51頭は、それぞれの行きたい方向へ進んでいった。

  パークの各所で、児童たちが楽しんでいる。

  レンタルした和服を着て江戸時代エリアを歩く真里ちゃん。忍者のショーを楽しむ唐沢くんと堂本くん。茶店で饅頭を食べる美代子ちゃんと雷子ちゃん。

  柴田くんと猫山くんによって、嫌がりながらジェットコースターに連れて行かれる穴田くん。魔法少女の衣装を来て写真を撮る姫子ちゃん。フリーフォールを絶叫しながらも楽しんでいる北海くん。

  教師たちも交代で遊びに行った。保良先生がミュージアムでアニメの年表を見ていると、森口先生が隣に来た。

  「懐かしい作品ばかりで、子供の頃が思い出されますよ。

  森口先生はこの辺のアニメに覚えありませんか?『タイガーレスラー』とか、『キューティーバニー』とか…」

  「えーと、私はどちらも見ていませんね。保良先生とは10歳近く離れてますから…」

  「そうですか。まあ私が見ていたのも再放送ですけどね。森口先生はどの作品を見ていましたか?」

  「『シロップ村物語』です。幼稚園の頃、大好きだったんですよ。おもちゃもたくさん買ってもらいました。」

  栗田くんと稲荷山くんは、時代劇よりも特撮が好き。「飲料戦隊ドリンクレンジャー」のショーを夢中で見ていた。

  「渇きをもたらす者どもは…」

  「この俺たちが許さない!」

  「飲料戦隊!」

  「ドリンクレンジャー!」

  「ここに参上!」

  「さあ、派手に戦うぜ!」

  悪の戦闘員を相手にコーラレッド(ヒョウ)、ソーダブルー(象)、ジュースイエロー(猫/紅一点)、マッチャグリーン(狸)、コーヒーブラック(ヒグマ)、アールグレー(狐)の6頭が名乗り口上を決める。

  「すごい!テレビのまんまだよ!」

  「あの世界が目の前に広がってる…」

  その後も様々なアトラクションを楽しんだ。

  海賊漫画「TWO PIECE」のボートライド。

  ファンタジーアニメ「ドラゴンアドベンチャー サイの大冒険」のシューティングライド。

  魔法少女たちがデザインされたコーヒーカップ。

  バトルアニメ「ライオンボール」の3Dシアター。

  特撮のバイクやメカが回るメリーゴーラウンド。

  一通り乗ったため、チュロスを食べながらベンチで休憩した。

  「どれもこれも楽しかったね!」

  「ほんと、アニメの中に入ったみたいで最高だったよ!

  でもアニメのアトラクションは今でも放送されている作品も結構あるのに、特撮のアトラクションは古い作品しかないよね。」

  「特撮は1年交代だから、大型アトラクションは作りづらいよ。だから原点として古い作品しか出していないんだと思う。

  アニメのアトラクションだって、長寿作品かよほど有名な作品ぐらいだね。」

  昼食のハンバーガーを食べた後は、獣映ミュージアムへ。2匹が夢中で見た場所は、アニメと特撮のコーナーだ。

  戦隊ヒーローのコーナーでは、レッドのスーツが全作品分並んでいる。圧巻の光景だ。

  「稲荷山くんはどこから見てた?」

  「ここからかな。」

  「ぼくもそれだよ!まあ同い年だからね。」

  2匹は過去の思い出話に花を咲かせた。

  その後は江戸時代エリアで過ごし、退園時刻(16時)の30分前からはお土産を買った。

  「あー、楽しい1日だった!」

  「まだ終わりじゃないよ。次は緊張の…」

  「そうだった!大丈夫かな…」

  [newpage]

  [chapter:緊張の座禅体験]

  2台のバスは旅館近くの寺へ。中に入ると、太った狸の住職が顔を出した。

  「4年生の皆さん、こんばんは。これから皆さんには座禅体験をしてもらいます。緊張と静寂の中で自分を見つめ直しましょう。」

  児童と教師たちは、本堂に集まった。全員が座布団に座ると、住職が解説をする。

  「皆さんには、座禅を組む事でリラックスしてもらいます。さあ、お手本をどうぞ。」

  寺で働く鯖猫の男性(細身)が現れ、座禅を組んだ。

  「私の真似をして、座ってください。お腹が出ていて組みにくい子は、もう少し楽な姿勢でも大丈夫ですよ。」

  栗田くんや稲荷山くんを初めとする太った子は、軽く足を組んだ。

  「さあ、それでは座禅の始まりです。」

  部屋の照明が落とされ、静寂が訪れた。警策を持った住職が、児童や教師の間を歩き回る。

  (お腹空いてきた…楽な姿勢でも結構大変だな…)

  栗田くんは考えたが、大きく動いたら叩かれる。そのため、じっとこらえた。

  ピシッ!

  「うっ!」

  (今の声は卯井是瑠ちゃんだ。やっぱり真っ先に叩かれたよ。ぼくは我慢しなきゃ…)

  20分後、座禅が終わり部屋が明るくなった。

  「あー、疲れた…」

  「ちょっと足が痛い…」

  「あんまりリラックスできなかった…」

  「あんなに叩かれるなんて…」

  誰もが疲れた様子だ。ちなみに卯井是瑠ちゃんは5回、羽村くんと穴田くんは3回、礼央くんと徳子ちゃんは1回叩かれ、残りは0回だった。

  「皆さん、お疲れ様です。きっと雑念が消え、穏やかな気分になった事でしょう。

  座禅という行為は…」

  それから20分ほど、住職の話が続いた。

  [newpage]

  [chapter:2日目の夜]

  旅館に戻ると風呂に入り、それから夕食の時間。今日のメニューはすき焼きだ。

  全員分の小さな鍋に決まった量が入れられているため、具材の取り合いになる事はない。

  夜の時間も、昨日と同様に過ぎて行った。栗田くんたちは今夜も枕投げを楽しんだ。

  1組4班では、女子たちがババ抜きで遊んでいる。

  (よし、ジョーカーを引かれるわ!)

  卯井是瑠ちゃんがニヤリと笑うと、美代子ちゃんは隣のカードに指を移した。

  その他の女子も卯井是瑠ちゃんの表情からジョーカーを判断したため、彼女は5連敗した。

  「どういう事なのよ!面白くないわね!」

  「あんた、心の中が顔に出てるわよ。だから簡単に勝てて良かったわ。

  ほら、ジョーカー!」

  卯井是瑠ちゃんの顔が思わずニヤリとした。

  「あー、面白い!ジョーカー!」

  「ちょっと、あたいの顔で遊ばないでよ!」

  寝息が響く2組1班の部屋では、穴田くんだけが起きていた。

  (今夜だけでもおねしょをしないように、やれるだけやってみたけど大丈夫かな…)

  今日の夕食時は水分を控え、部屋が明るいうちにトイレへ行き、おしっこは出せるだけ出し切った。

  布団に入ったが、心配でなかなか眠れない。

  (毎日するわけでもないってみんなにわからせたいけど、ぼくがおねしょをしなかった最後の日はいつだったかな…

  ああ、やっぱり不安だ。眠れない…)

  それでも30分後には眠りに落ちていた。

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  [chapter:おねしょ騒動第2弾]

  翌朝。早くも最終日が来た。

  穴田くんは布団の中で、普段と違った感覚を覚えた。

  (やった、今日はおねしょしてないぞ!)

  喜びと嬉しさを感じながら体を起こした時、横から悲痛な声が聞こえた。

  「ああ、どうしよう…」

  見ると、猫山くんの布団に水溜まりが広がっていた。穴田くんは昨日の事を思い出し、わざと笑い声を上げた。

  「アハハハハ!アハハハハ!猫山くんったら赤ちゃんみたい!」

  その声で残りの班員も目覚めた。

  「何、今日は猫山がおねしょ?」

  「どれ、見せてくれ!」

  猫山くんは布団にうずくまる。

  「見ないでよ!お願いだから誰にも言わないで!」

  「お前、昨日穴田がおねしょした時にどんな事言ってたか覚えてるか?」

  「それは…あ…ごめんなさい!」

  猫山くんは謝った。

  「ぼくは君の気持ちも考えず、ひどい事を言ってしまった。だからこうして罰を受けたのかもしれない。

  昨日は笑いすぎた!どうかぼくを許して!そしてこの事は誰にも言わないで!」

  穴田くんが優しく返す。

  「わかった、言わないよ。自分が悪かったと認めたし、君だって言わずにいてくれたからね。

  しかし猫山くんもおねしょ癖があったとは意外だよ。」

  「うん。今まで黙ってたけど、週に1~2回ぐらいしちゃうんだ。林間学校ではしなかったから安心しきってたんだけど…

  こんな事が知られたら、絶対周りから軽蔑される。真里ちゃんにだって嫌われるかも…」

  「安心して。さっきも言ったけどみんなには黙ってるから。」

  「あんなひどい事を言ったのに、許してくれてありがとう…」

  穴田くんの巨体に抱かれる猫山くんは、涙を浮かべていた。

  [newpage]

  [chapter:商店街で楽しもう]

  洋食がメインの朝食を終えて部屋を片付け、9時までには荷物をまとめてバスに乗り込んだ。

  向かった先は新京極商店街。ここで2時間の自由行動だ。

  「皆さんはここでお土産を買ったり店を巡ったり、好きなように過ごしてください。

  ただし商店街からは出ないこと。また、必ず班行動すること。ゲームセンターやカラオケ、映画館には入らないこと。この3つは守ってください。

  それでは…自由行動、スタート!」

  51頭は次々と商店街に入った。出入り口では教師たちが見張っている。

  「いろんな店があるね。」

  「どこに入ろうかな?」

  栗田くんたちは周囲を見回している。

  「まずあそこに行こうよ!あの鯛焼き屋さん!」

  羽村くんの一声で、そこに向かった。

  猫山くんと真里ちゃんは、喫茶店で抹茶パフェを食べさせ合っている。クラスも班も別だが、たまたま同じ喫茶店を同時に訪れていた。

  「はい、あーん!」

  (ああ、真里ちゃんと一緒に食べられるなんて、ぼくはなんて幸せなんだ…)

  今朝泣いた事はもう忘れたようだ。

  商店街の各所で、児童たちが楽しんでいる。教師たちも交代で楽しんだ。

  お土産を買ったり、店を覗いたり。中には古本屋で漫画を立ち読みする子もいた。

  雷子ちゃんはパフェの早食いに挑戦。成功すれば1万円がもらえるが、失敗すれば3万円を払わなければならない。

  栗田くんもお土産を買い込んでいる。自分用に抹茶風味のチョコレート、自宅用に生八つ橋、親戚用にクッキー。

  (まだお金が残ってる。何を買おうか…そうだ!)

  彼は木刀を買った。実際に使う機会は少ないが、なぜか修学旅行の土産として定番の商品だ。

  (お父さんも修学旅行で買ったと言ってたっけ。見た目は格好いいし、役に立たないって事もないよね。)

  2時間後、全員が商店街の前に集合。

  「はい皆さん、いいお土産は買えましたか?」

  「はーい!」

  「いい物が見つかったようで良かったです。

  さて、修学旅行も終わりに近づきました。後は新幹線で帰るだけです。」

  「最後まで気を抜かないでくださいね。家に帰るまでが修学旅行ですから。」

  それから、バスで京都駅に移動した。新幹線の発車時刻は12時だ。

  新幹線の車内では、行きと同じような光景が見られた。昼食として配られた駅弁(中華御膳)を食べたり、トランプをしたり、中には寝ている子もいる。

  ただ1つ違うのは、修学旅行の思い出話に花を咲かせる児童がいた事だ。

  また、パフェの早食いをクリアした雷子ちゃんは満腹で弁当が食べられず、卯井是瑠ちゃんに食べてもらった。

  「あんたからはもらいたくなかったわ…ま、せっかくだから食べるけどね。」

  口ではそう言いながら、2つも弁当が食べられた彼女は嬉しそうだった。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  東京駅に着くとまたバスに乗り、ケモノ小学校埼玉校まで帰った。時刻は16時頃。

  「皆さん、楽しかった修学旅行もこれで終わりです。」

  「古き良き京都の町で過ごした思い出が、いつまでも皆さんの心に残る事を願っています。

  家に帰った後は、旅行の思い出をぜひ家族の皆さんに聞かせてくださいね。」

  「明日からは3連休です。しっかり休んで、静養してください。

  それでは皆さん、解散!」

  教師たちの話が終わると、児童たちはそれぞれの家に帰った。

  (いろいろあって、本当に楽しい3日間だったな…

  お父さんやお母さん、パロちゃんに思い出をいっぱい話そう!きっとみんな楽しんで聞いてくれるぞ!)

  栗田くんは笑顔で家へ向かった。

  キャリーケースにはお土産、彼の記憶には思い出が詰まっていた。

  [chapter:おしまい]

  執筆期間 2024.1.4~2.29