第38話「栗田くんとサンタクロース」

  [chapter:プロローグ]

  「おはよう。」

  『おはよう!』

  この可愛いオウム、実はロボットだ!

  「何かお話して!」

  『昔々、ある所に…』

  高性能なAIを搭載。いろいろな事を知っている上に、こちらから教えた事も次々覚える!

  話し相手、タイマー、目覚まし…様々な形で日常を彩る優れものだ!

  「おやすみ。」

  『おやすみなさい、いい夢を。』

  さあ、君もパロボットと一緒に楽しい日々を送ろう!

  おしゃべりパロボット 12月発売!

  ケモノ界で2023年11月半ばから流れ始めたそのCMは、瞬く間に話題となっていった。

  [newpage]

  [chapter:話題のおもちゃ]

  ここはさいたま市[[rb:大上区 > おおかみく]]。そこに住む太ったシマリスの[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]くん(小学4年生)も、そのCMに魅せられた1匹だった。

  (このおもちゃ、すごい!うちにはペットがいないから欲しいな…)

  12月9日土曜日、栗田くんは両親(父親の[[rb:純一 > じゅんいち]]、母親の[[rb:幸江 > ゆきえ]])とデパートを訪れた。両親の買い物が終わった後、彼のリクエストでおもちゃ売り場へ。

  そこにはおしゃべりパロボットの特設コーナーが作られ、大勢の客が集まっていた。子供はもちろん、中高生や成獣も多い。

  このおもちゃは今、日本中で話題になっている。多くの情報番組でも取り上げられ、インターネット上にも「パロボットにあの曲を歌わせてみた」「パロボット同士で漫才」など様々な動画が投稿されている。

  国内メーカーの商品だが、海外でも発売が決定したほどだ。

  サイズは実物のオウムと同じ。見た目もリアルだが、目は可愛らしいデザインになっている。

  カラーリングは10種類だが、性能はどれも同じ。性別は本体内部のレバーを動かす事によって、雄、雌、中性の3種類から選べる。

  見本として、5台ほど箱から出した状態で展示されていた。栗田くんも早速話しかけた。

  「こんにちは。元気?」

  『こんにちは。ぼくは元気だよ。』

  「君の名前は?」

  『ウルフだよ。よろしく。』

  デパート側が仕込んだ物のため、この名前が付けられている。

  「かっこいい名前だね。ぼくは栗田 永雄だよ。」

  『栗田 永雄…君の方だってかっこいいね。』

  会話は非常に精度が高く、時々頭や目、羽を軽く動かす。

  (すごい…本物に生きてるみたいだ!技術の進歩ってすごい!よし、早速買ってもらおう!)

  しかし、値札を見ると表情を曇らせた。

  (さ、3万円もするの!? さすがにこんな高い物は買ってもらえないだろうし、ぼくのお小遣いでも無理だ…

  お小遣いは月に2000円だから、15ヶ月で買えるようになる。その頃にはフリマアプリで定価より安く出品されてるかな。

  でもぼくは今すぐに欲しい。いったいどうすれば…)

  悩んでいるうち、思いついた。

  (そうだ、もうすぐクリスマスじゃないか!サンタさんに頼めばいいんだ!)

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  [chapter:ケモノ界のサンタクロース]

  ここで、ケモノ界におけるサンタクロースを紹介しよう。

  ケモノ界では一般的に「サンタクロースは大勢いる」と認識されている。世界各地のクリスマスカードや絵本には、様々な種族のサンタクロースが描かれている。

  どの種族でも太った体と白い髭、赤と白を基調にした服が特徴だ。

  また、サンタクロースは世界各地に支部を持っていて、本部はフィンランドにある。

  クリスマスイブの夜には、トナカイの顔がデザインされた空飛ぶオープンカーで家々を回り、子供たちにプレゼントを配る。自動車が開発される前は、サンタクロース自身が空を飛んでいた。

  トナカイがデザインされている理由は、オープンカーに切り替えたサンタクロースの種族がトナカイだったから。

  これが通説だが、その姿は誰も見た事がない。SNSが普及した現在でも「本物のサンタクロース」の写真はどこにも出回っていない。

  そのため、ある程度大きくなるとサンタクロースを信じなくなるケモノが大多数だ。この点は人間界と変わらない。

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  [chapter:今年のプレゼントは?]

  月曜日の休み時間、栗田くんは親友の[[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]くん(彼と同じぐらい太ったキタキツネ)と話していた。

  「ねえ、今年のクリスマスはサンタさんから何をもらう?」

  「んー…『スーパーライノブラザーズ・ワンダフル』かな。まだ持ってないから。」

  「ぼくはおしゃべりパロボット!いつもゲームや漫画をもらってるから、たまには違うジャンルの物が欲しいと思ってね。」

  「ああ、今大流行のあれか。小学生にはちょっと厳しい値段だよね。」

  そこへ、同じ班の[[rb:金子 真里 > かねこ まり]]ちゃん(細身の白猫)と[[rb:雪見 健吾 > ゆきみ けんご]]くん(筋肉質な黒牛)が話しかけてきた。

  「プレゼントの話?私はCDが欲しいわ!」

  「ぼくは雑巾50枚!」

  稲荷山くんはすかさず突っ込んだ。

  「いや、雑巾って…もっといい物頼んだ方がいいよ!」

  「雑巾がそれだけあれば、毎日雑巾がけができてみんな喜ぶ。ぼくはそれでいいんだ。

  去年のクリスマスには新しいはたきをもらって、それで毎日掃除をした。みんな喜んでくれて、ぼくも嬉しかったよ。」

  「…健吾くんが満足なら、それでいいか。」

  そこへ[[rb:鼬川 卯井是瑠 > いたちがわ ういぜる]]ちゃん(かなり太ったイタチの女の子)が通りかかった。

  「ずいぶん楽しそうね。何の話をしてるのかしら?」

  「クリスマスプレゼントに何が欲しいかだよ。」

  雪見くんが言うと、卯井是瑠ちゃんは吐き捨てるように言った。

  「へえ、サンタからの?あんなのに頼んでも無駄の極みよ!あたいも毎年欲しい物を手紙に書いてるけど、ちっとももらえないんだから!

  だからサンタなんて本当はいないのよ。あんなのはおとぎ話に決まってるわ!」

  それから、強い足音を立てながら立ち去った。

  「まったく、卯井是瑠ちゃんは困った奴だよ…」

  「そうだよ。わがままで欲張りで不潔で、おまけに行儀も悪い!」

  「あんな子だからもらえないのね。」

  「でも、そう言われてみると信じられない話だよね。あんなにたくさんおもちゃが買えるとか。」

  「空飛ぶオープンカーなんて、そんな技術があればもっといろいろ使われてるはずよね…」

  「今時の家なんてまず煙突はないのに、どうやって家に入るんだろう?そもそもあんな太ってたら煙突通れないよね?」

  友達がサンタクロースについて疑い始めたため、栗田くんは静かに言った。

  「そんな事はない。サンタさんは本当にいるんだよ。みんな毎年…雪見くんは去年が初か。とにかくプレゼントをもらってるよね?

  ぼくだって毎年もらってる。手紙と一緒に用意してるお菓子だって毎年なくなってる。だからぼくは信じるよ。

  みんなも信じていなければ、プレゼントをもらえなくなるかもしれない。雪見くんなんて一生で1回しかもらえなかったら悲しいだろ?」

  「…そうだね。ぼくも信じるよ。」

  「確かに不思議な話だけど、世の中にはそういう事が少しくらいあった方が素敵よね。

  卯井是瑠ちゃんも手紙を置いてるんだから、少しは信じてるかもしれないわ。」

  「さあ、雑巾もらって年末の大掃除に役立てるぞ!」

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  [chapter:イブ当日]

  日が経ち、冬休みがスタート。

  12月24日の昼過ぎ、栗田一家はクリスマスディナーを準備するためスーパーマーケットに出かけた。

  「今年もたくさん買おうね!」

  「ええ、奮発しちゃうわよ!」

  「いっぱい食べて、楽しい思い出作ろうな!」

  総菜や肉、パン、デザート、ドリンクのコーナーを巡り、カートがいっぱいになるまで買った。予約していたホールケーキも受け取った。

  大量の食材を乗せて走る車の中は、楽しく温かい会話に溢れていた。

  家に着いて買った物を運び込む一家。その時、栗田くんは向かいの家が目に留まった。

  そこには、太った老モグラの[[rb:堀越 竜助 > ほりこし りゅうすけ]]が住んでいる。その彼が玄関先で何かを探し回っているようだ。

  「ごめん、堀越さんが困ってるみたいだからちょっと行ってくる!」

  彼は玄関先に駆けつけ、尋ねた。

  「堀越さん、何かお困りですか?」

  「ああ、その声は栗田くんじゃな。眼鏡が見つからなくて、探し回ってる所じゃ。」

  「ぼくも一緒に探します!」

  「助かるのう。」

  栗田くんはすぐに相手の顔を見たが、頭の上には乗っていない。

  (そこにないとなると、見つかるまでに時間がかかりそうだな…)

  しばらくして堀越がかがんだ時、栗田くんは気がついた。

  「あっ!ズボンのポケットにありますよ!」

  「どれ…本当じゃ!ありがとう、おかげで助かったよ。」

  堀越は喜び、頭を下げた。

  自宅に戻ると、両親は食材を冷蔵庫に入れている所だった。

  「永雄、お帰り。何をしてたんだ?」

  「堀越さんの眼鏡を探してあげたんだ。無事に見つかったよ!」

  「それはいい事したな。もしかしたら永雄にもいい事が起きるかもな。」

  「それってどんな事?」

  「さあ…永雄にとっては今日の夕食かしら?」

  「いいね、今から楽しみだよ!」

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  時間が流れ、夕食が始まった。テーブルにはクリスマスのごちそうが並んでいる。

  ローストチキン、オードブルの盛り合わせ、サンドイッチ、グラタン…

  「今年もおいしそうだね!」

  「永雄の好物ばかりだからな。」

  「さあ、早速食べましょう!それでは…」

  「いただきます!」

  一家はクリスマスディナーを堪能した。会話を楽しみながら、料理を次々と口へ運ぶ。

  「ねえ、お父さんやお母さんは子供の頃、サンタさんから何をもらったの?」

  「初めのうちはおもちゃとかお菓子だった。小1の時にファリコン(ファーリーコンピュータ)をもらった時はすごく嬉しかったよ。

  その2年後には、発売されて間もないスーパーファリコンをもらった。ファリコンの時は本体だけだったけど、こっちはソフトも2本同時にもらったよ。」

  「お母さんは可愛い服やドールハウスをもらってたわ。毎年お菓子入りブーツもセットだったの。

  あの頃の私は今の永雄みたいに食いしん坊だったから、ブーツは1日で空にしてたわ。」

  料理がなくなるとデザートタイム。ホールケーキを切り分け、カステラとプリン、ドリンクも用意した。

  両親はワイン、栗田くんはグレープジュースで乾杯。

  部屋の隅ではクリスマスツリーの電飾が光っている。ディナーの時間は楽しく過ぎていった。

  今夜はどこの家でもクリスマスディナーを楽しんでいた。

  稲荷山くんは母親の[[rb:常子 > つねこ]]、妹の[[rb:万梨阿 > まりあ]]ちゃん(3年生、細身)と、各種惣菜を食べている。母親はスーパーマーケットの総菜コーナーで働いているため、毎日売れ残った惣菜を持ち帰ってくる。

  テーブルに置かれたタブレットには、父親の[[rb:敏昭 > としあき]]が映っている。彼は単身赴任中のため、リモート参加だ。

  真里ちゃんは父親の[[rb:尚樹 > なおき]]、母親の[[rb:秋子 > あきこ]]、弟の[[rb:雄二 > ゆうじ]]くん(1年生、太っている)とディナー。メニューは母親手作りのシチューと魚のフライで、食後には手作りケーキも待っている。

  雪見家は町一番の金持ち。ディナーは非常に豪華だ。

  健吾くんは父親のフィリップ・ルナール、母親の雪見 すみれ、[[rb:雪見 > ゆきみ]]カトリーヌ[[rb:理沙 > りさ]]ちゃん(4年生、細身)と料理を楽しんでいる。七面鳥の丸焼きやブイヤベース、パスタ、ルーテフィスク(タラを使ったノルウェーの料理)など世界各地の料理が勢揃いだ。

  ちなみに彼以外はホッキョクギツネ。彼には身寄りがなく、過去の記憶も失っている。そのため、去年の夏にここの養子となった。

  彼は遊びよりも家事が好きで、毎日のようにメイドたちを手伝っている。去年のクリスマスに雑巾をもらったのもそのためだ。

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  「あー、食べた食べた!」

  ディナーで満腹になった栗田くんは、ソファーに寝転んだ。

  残りの楽しみは、明日の朝に届くであろうプレゼントだ。サンタクロースへの手紙は既に書いている。

  (お腹が落ち着いたら手紙とお菓子をセットしておこう。今は食休みだ。)

  約2時間後。寝る前の栗田くんは、数日前に書いておいた手紙を机の上にセットした。

  「サンタさんへ

  ぼくは今年も良い子でした。勉強も手伝いもしっかりとして、友達も大切にしました。

  今年はおしゃべりパロボットが欲しいです。色は赤でお願いします。

  栗田 永雄」

  その横には、クッキーも3枚置いた。これがサンタクロースへのプレゼントだ。

  (早く寝ないとサンタさんが来ない。明日の朝が楽しみだ…)

  期待を胸にベッドへ入り、5分もしないうちに眠りへ落ちた。

  今はどこの家でも、子供たちが眠りについている。イブの夜は静かに更けていった。

  [newpage]

  [chapter:サンタクロースが来た!]

  ベッドの中で眠る栗田くん。その耳にかすかな声が聞こえた。

  「栗田くん、聞こえるかね?栗田くん…」

  (ん…誰かぼくを呼んでる?おじいさんみたいな声だ…)

  眠い目をこすりながら起きると、そこには大柄なシルエットが見えた。

  (えっ!? これってまさか…)

  照明をつけた彼は、驚きの声を上げた。

  「す、すごい…本物だ!」

  そこに立っていた姿は、間違いなくサンタクロースだった。

  しかし、よく見ると見覚えがある顔だ。その種族はモグラで、眼鏡をかけている。

  「…って、あれ?堀越さん!?」

  「よくわかったのう。君の向かいに住んでいる堀越じゃ。

  君は今日わしの眼鏡探しを手伝ってくれた。そこでわしからお礼をせねばと思ってな。」

  「お礼って…プレゼントですか?」

  「いや、それよりもっと特別な事じゃよ。ほれ!」

  堀越サンタが手をかざすと、光り輝くワープ空間が出現。

  「さあ、このブーツを履いたらこっちへおいで。クリスマスの魔法を見せてあげよう!」

  堀越サンタとブーツを履いた栗田くんは、ワープ空間をくぐった。

  [newpage]

  [chapter:仕事の始まり]

  その先は見た事もない部屋だった。全体的に赤、白、緑が多く使われている。

  大きなクリスマスツリー、壁一面に施されたクリスマスのデコレーション、暖炉…クリスマスムード満点の部屋だ。大きな額にはホッキョクグマのサンタクロースが写った写真が入っている。

  中央には大きな円卓があり、7名のサンタクロースが席についている。種族はそれぞれサイ、カワウソ、ブルドッグ、羊、カモシカ、ツキノワグマ、猪だ。

  もちろん全員が太っており、白い髭を生やしている。

  「みんなお待たせ。栗田くんを連れてきたぞ。」

  栗田くんは尋ねた。

  「あの、ここはどこですか?」

  「ここは大上区のサンタクロースが集まる支部。間もなく年に一度の仕事が始まる所じゃ。

  普通、この場所に子供を呼ぶ事はない。しかし君は毎年いい子にしている上、秘密をしっかりと守れる。だから特別に呼んだのじゃ。

  さあ、君の椅子も用意してある。遠慮なく座ってくれ。」

  栗田くんと堀越サンタが椅子にかけて間もなく、暖炉の上から大型モニターが現れた。

  かなり太ったホッキョクグマのサンタクロースが映っている。額の写真と同じ顔だ。

  「あのホッキョクグマは誰ですか?」

  「サンタクロースの代表で、フィンランドに住んでいる。毎年の仕事は、彼のスピーチから始まるのじゃ。」

  スピーチが始まった。音声はフィンランド語で、日本語字幕のテロップが表示されている。

  「[[rb:Hyvää joulua kaikille joulupukille ympäri maailmaa! > 全世界のサンタクロースの諸君、メリー・クリスマス!]]

  [[rb:Kerran vuodessa tehtävä iso työ on saapunut jälleen tänä vuonna. Tehtävänä on jakaa joululahjoja kunkin alueen lapsille. > 今年も年に一度の大仕事がやって来た。それぞれの担当地域の子供たちに、クリスマスプレゼントを配る事じゃ。]]

  [[rb:Me vaalimme lasten unelmia. Suojellaan tätä kuten olemme aina tehneet ja teemme jatkossakin! >我々が大切にしている物は子供の夢。それをこれまで通り、そしてこれからも守っていこう! ]]

  [[rb:Joten kaikki, ottakaa haaste vastaan ​​koko sydämestänne. Liity siis joukkoomme... > さあ諸君、心して挑め!それではご一緒に…]]」

  8頭のサンタクロースは立ち上がり、声を合わせて言った。

  「ホー・ホー・ホー!」

  それが終わると、モニターは引っ込んだ。

  「へえ、サンタさんの仕事ってこんな風に始まるんですね!」

  「そう。あのスピーチは毎年同じ内容じゃが、あれを聞くと意欲が湧いてくるのじゃ。

  ちなみにあれは録画で、各支部に自動配信される。フィンランドと日本では時差があるからな。

  さあ、オープンカーで出発じゃ!」

  サンタクロースたちは廊下を抜け、ガレージへ。

  そこにはトナカイ型オープンカーが8台並んでいた。プレゼントの入った袋も既に積み込まれている。

  「このオープンカーにはそれぞれ名前が付いている。ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドンダー、ブリッツェン。わしらが乗るのはコメット号じゃ。

  空飛ぶオープンカーを開発したサンタクロースには、子や孫が合わせて8頭いた。その名前を付けているんじゃ。

  ほら、あの肖像画を見てくれ。あれが開発者じゃよ。」

  ガレージには、トナカイのサンタクロースを描いた肖像画が飾られていた。一般的なトナカイと異なり、鼻が赤い。

  「彼はルドルフ・コーラット。生まれつき鼻が赤かったため、その特徴をデザインに取り入れたんじゃ。

  だからこのオープンカーは、ヘッドライト以外にも赤いライトが付いている。これで夜道をより照らせるように…そんな思いが込められているんじゃよ。」

  [newpage]

  [chapter:プレゼント配達に出発!]

  いよいよ出発の時間だ。

  「それでは仕事を始めよう!ホー・ホー・ホー!」

  大上区支部の代表であるサイの合図で、オープンカーの前にあるゲートが開いた。外には雪山が広がっている。

  「大上区で雪は降ってないのに…ここはどこですか?」

  「サンタクロース支部のある異世界じゃ。こういう支部が市区町村分、すべてあるんじゃよ。」

  「異世界ですか…まあそうでもしないと隠せないですよね。」

  8台は同時に出発し、しばらく雪の中を飛ぶと別の空間に入った。まるで妖精たちが飛んでいるように線を描いている小さな光以外には何も見えない。

  「ここはワープ空間。こうやって担当地域に向かうのじゃ!」

  「きれいですね!なんだかすごくワクワクします!」

  ワープ空間を抜けると、そこは大上区の上空。栗田くんにとって見慣れた光景だ。

  「さて、まずはどの家じゃったかな…」

  堀越サンタはコメット号を空中停止させるとスマートフォンを取り出し、周る家々のリストを調べた。

  「今のサンタさんはスマホ持ってるんだ。ちょっと意外…」

  「サンタクロースも文明に合わせて進化していく物じゃよ。」

  栗田くんがリストを見ると、クラスメイトの名前が多く出ている。栗田家は一番最後だった。

  コメット号は住宅街の方へ向かった。残りの7台もそれぞれの担当地域へ飛んでいく。

  「初めはこの[[rb:兎崎 > とざき]]家じゃ。ここには幼い男の子が1匹いる。

  プレゼントを置きに行くが、栗田くんも一緒に来るかね?」

  「はい、もちろんです!サンタさんはどうやって家に入るか、それをついに体験できるんですね!」

  「そうじゃ。この砂糖菓子を食べてくれ。」

  渡された星形の砂糖菓子を食べると、堀越サンタは袋を背負い、空中停止させたコメット号からベランダに降り立ち、シャッターの下りた窓へ向かって進んだ。

  次の瞬間、その体は窓を貫通して室内へ。栗田くんも同じようにすると、室内に入れた。

  「すごい…どうなってるんだ…」

  堀越サンタが声を落として話しかける。

  「それは後で説明する。今はプレゼントの用意じゃ。

  それに、あまり長々とここで話すわけにはいかない。子供が寝てるからな。」

  ベッドでは、1歳になる白うさぎの男の子が寝ていた。名前は兎崎 [[rb:正志 > まさし]]。

  その横には、[[rb:拙 > つたな]]い字で書かれた手紙が置かれている。

  「ちんたちんえ

  じゃむぱんぼういのめいぐるみおくだちい

  とぢき まちしより」

  「この子は毎年ジャムパンボーイのグッズを頼んでいるんじゃ。」

  「ジャムパンボーイか。ぼくも好きだったな…」

  「それいけ!ジャムパンボーイ」はジャムパンボーイとバクテリア大魔王の戦いを描いたアニメ。

  「乳幼児なら誰もが通る道」と呼ばれるほど、幼い子供たちに好かれている作品だ。栗田くんも幼少期によく見ていた。

  堀越サンタは袋から包みを取り出し、ベッドに置いた。

  「中身はジャムパンボーイのぬいぐるみじゃ。明日の朝、喜ぶ顔が目に浮かぶのう…」

  コメット号に戻ると、栗田くんは尋ねた。

  「さっきの砂糖菓子について、詳しく教えてください!」

  「あれを食べると、8時間だけ壁を通り抜けられるようになるのじゃ。」

  「ありがとうございます。煙突が廃れてから開発されたんですね。」

  「いや、サンタクロースは昔からこの砂糖菓子を使っている。煙突から入ってくるというのは、それを知らない者が作った話じゃ。

  ドアや窓を封鎖していれば、中に入れる道は煙突しかない。だからそう考えたのじゃな。」

  「そうだったんですか!?」

  「当たり前じゃ。こんな太った体と大きな袋で煙突は通れるわけないし、そもそもそんな場所を通ったら煤だらけになってしまうじゃろう。」

  「昔からの疑問が1つ解決して良かったです。しかしもう1つ疑問が出ました。

  そんな能力の砂糖菓子があれば、悪用して泥棒に使ってしまうサンタクロースもいるのではないですか?」

  「その心配は無用じゃ。もしその力を悪用すれば、サンタクロースの資格を剥奪されるからな。

  さあ、次の家に行くぞ。」

  [newpage]

  [chapter:友達へのプレゼント]

  コメット号は家々を回り、子供たちの手紙に書かれたプレゼントを届けていく。

  ドールハウス、ミニカー、ボードゲーム、変身ベルト…どれも包みに入っているため栗田くんには中身が見えないが、堀越サンタは中身を理解しているようだ。

  「次は金子家じゃ。」

  そこの子供部屋にはベッドが2つ。それぞれ真里ちゃんと雄二くんが寝ている。

  手紙にはこう書かれていた。

  「サンタさんへ

  WOLF WITH A MISSIONのCDを2枚ください。どのCDでもOKです。

  金子 真里」

  「サンタさんへ

  スーパーライノRPGをください!

  ゆうじ

  ついしん:これもたべてね!」

  雄二くんの手紙には、キャンディが1つ付いていた。

  「雄二くんは毎年わしにもプレゼントをくれる1匹じゃ。栗田くんと同じようにな。」

  コメット号に戻ると、栗田くんは質問した。

  「前から気になっていた事をまた聞かせてください。サンタさんはどうやっていい子と悪い子を見分けているんですか?

  ぼくの予想では、超小型のカメラ付きドローンを子供たちの家に飛ばしていると思います。」

  「惜しいな。ドローンは正解だがカメラは付いていない。録音装置のみじゃ。

  しかし高性能AIが付いており、子供の行動で気になる点を自動で分析し、文章化してわしらの元にメールで送っているのじゃ。だから24時間監視する必要はない。」

  「へえ、なんだかスパイみたいですね。」

  「じゃろ?それである程度は子供たちの様子を知る事ができる。欲しいプレゼントの話題も大体の子が話しているから、それで特定できるんじゃ。

  この技術ができたのは割と最近。それまでは妖精たちを派遣させていたのじゃ。」

  「えっ、妖精も本当にいるんですか!?」

  「もちろんじゃよ。普通のケモノには隠れて暮らしてるがな。」

  「ありがとうございます。もう1つ知りたい事があります。あんな大量のプレゼントはどうやって買っているんですか?」

  「サンタクロース専用の通販サイトがあるのじゃ。子供たちの情報を書き込むと『良い子ポイント』が溜まり、それで買い物ができる。」

  「サンタクロースもいろいろと発展しているのですね。インターネットが普及する前はどうしていたんですか?」

  「カタログを使っていた。その前は…何じゃったかな。」

  [newpage]

  次は雪見家。広い庭を持つ3階建ての大豪邸だ。

  理沙ちゃんと健吾くんは、それぞれ別の部屋で眠っている。手紙にはそれぞれこう書かれていた。

  「サンタクロース様へ

  フランスの古典文学「カンガルーチュアとパンダグリュエル」をお願いします。

  雪見カトリーヌ理沙」

  「サンタクロース様へ

  雑巾を50枚お願いします。これで毎日掃除をします。

  雪見 健吾より」

  どちらの手紙も、横にケーキが置かれている。栗田くんと堀越サンタで1切れずつ食べた。

  「理沙ちゃんは3年ぶりに小説を頼んでおったな。去年とおととしは好みが変わったのか、珍しく漫画を頼んでたのじゃ。」

  「それは多分ぼくの影響です。2年前の秋に理沙ちゃんとぼくで1日だけ家を交換した事があり、その時にぼくの部屋に置かれた漫画を見てから漫画も読むようになったようです。

  今では女子たちと漫画の話で盛り上がっている事も多いですよ。」

  「なるほど、そうじゃったのか。栗田くんのおかげで新しい世界を知ったのじゃな。」

  「次の家はここじゃ。」

  そこを見た栗田くんは、心が躍った。

  「あっ、ここは!」

  そこは[[rb:島野 > しまの]]家。栗田くんのガールフレンドが住んでいる。

  「ぼくがプレゼントを置いてもいいですか?」

  「いいけど、わしも付き添うからな。」

  部屋に入ると、シマリスの島野 くるみちゃんが眠っていた。クラスは隣だが、栗田くんとは両想いだ。

  手紙を見て、ますます心が躍った。

  「サンタさんへ

  おしゃべりパロボットをください。水色のをお願いします。

  私の手作りクッキーも食べてください。

  島野 くるみ」

  (ぼくと同じ物を頼んでる…くるみちゃんの欲しいプレゼントは聞かなかったから驚きだよ。ぼくとここまで気が合うなんて!)

  堀越サンタから渡された箱を置き、クッキーを回収してコメット号に戻った。

  「くるみちゃんの手作りクッキーはいつもながらうまいのう!」

  「嬉しいサプライズでしたよ。毎年クッキーを作ってるんですね。」

  「そう、くるみちゃんは思いやりのある子じゃからな。栗田くんともお似合いじゃ。」

  コメット号は何軒もの家を巡り、プレゼントを届けた。

  ぽっちゃりしたホッキョクグマの[[rb:保良 阿蓮 > ぽうら あれん]]くん(3年生)は、スーパーライノRPG。

  太った虎の[[rb:島田 大河 > しまだ たいが]]くん(6年生、相撲部の部長)は、「熊猫戦士パンダム 金星の魔女」のプラモデル。

  ぽっちゃりしたアライグマの[[rb:新井 楽 > あらい らく]]くん(4年生)は、オフロードカーのラジコン。

  スマートな白うさぎの[[rb:場丹井 姫子> ばにい ひめこ]]ちゃん(4年生)は、大きなヒヨコのぬいぐるみ。

  太った黒猫の[[rb:猫山 > ねこやま]]兄弟(4年生の兄:[[rb:苗太 > びょうた]]、1年生の弟:[[rb:折葉 > おりば]])は、共に漫画「TUPAIxFAMILY」を頼んでいた。兄は1~6巻、弟は7~12巻。

  「兄弟で協力して揃えるなんて、新しい方法ですね!」

  「わしも初めて見たわい。」

  [newpage]

  [chapter:仕事の終わり]

  あれだけ大きかった袋も、次第に中身が減っていった。

  「もうすぐ仕事も終わりじゃな。残りの家は3軒じゃ。

  次の家は…あの問題児じゃ。」

  「それって誰ですか?」

  「行けばわかる。」

  その家は、鼬川家だった。卯井是瑠ちゃんは布団をはだけさせ、いびきをかきながら眠っている。

  枕元に置かれている物は、手紙というより脅迫状だ。

  「サンタへ

  この手紙を見たら、背負っている袋をここに置いてすぐに立ち去ること!

  あたいはここ数年プレゼントをもらってないから、その分を全部ちょうだい!

  いたち川 ういぜる」

  堀越サンタは小さな包みを1つ置き、コメット号に戻った。

  「あの包みは何ですか?」

  「石鹸じゃよ。卯井是瑠ちゃんは風呂にもろくに入らないからな。このまま何も贈らないのもあれじゃから、今年は石鹸を贈る事にした。

  彼女は良い子ポイントなどほとんど溜まってない。溜まってるのはへそのゴマばかりじゃ!」

  次は稲荷山家。稲荷山くんと万梨阿ちゃんは、同じ部屋で眠っていた。

  「サンタさんへ

  スーパーライノブラザーズ・ワンダフルをください。

  稲荷山 紺助」

  「サンタさんへ

  スーパーライノRPGをください。

  万梨阿」

  栗田くんと堀越サンタは、それぞれベッドサイドにプレゼントを置いた。

  「稲荷山くん、楽しく遊んでね。」

  その後、コメット号にて。

  「今年はこのゲームを頼む子がかなり多かったな。両方合わせて40本じゃ!」

  「やっぱり有名なシリーズの新作ですからね。ぼくはとっくに買ってます。」

  そこで栗田くんはあくびをした。

  「あ~あ…ものすごく眠くなってきた…」

  「考えてみれば、昼に仮眠してきたわしと違って栗田くんは昼も起きていたからな。

  ちょうど君の家で最後だから、送り届けよう。」

  「はい、お願いします…」

  そこで栗田くんは眠りに落ちた。

  [newpage]

  [chapter:栗田くんへのプレゼント]

  差し込む日光で、栗田くんは目覚めた。

  (ここはコメット号…いや、ぼくの部屋だ。あれは夢だったのかな…

  そうだ、眠りについてからしばらくしてサンタさんの声で目覚め、うちに着く前に眠って、気づくとベッドの中だ。じゃああれはみんな夢だったんだ…

  でも、プレゼントは来てるはずだ!)

  机を見ると、そこにはラッピングされた箱が置かれていた。彼は喜んで包みを開けた。

  「やった!おしゃべりパロボットだ!」

  希望通りのプレゼントを手に入れた彼は、洗顔などを済ませて1階へ。

  「サンタさん来てくれたよ!おしゃべりパロボットをくれたんだ!」

  「良かったな、永雄!」

  「いい友達になれるといいわね。」

  朝食が済むと、早速おしゃべりパロボットの設定をした。本体内部のレバーを「雌」に合わせ、電池を入れると目が開いた。

  『はじめまして、私はおしゃべりパロボットよ。名前をつけてくれない?』

  「名前は決めてある。君はパロちゃんだ!」

  『ありがとう。改めてご挨拶。パロちゃんよ。よろしく!』

  「こちらこそよろしく!ちなみにぼくは栗田 永雄だよ。」

  『栗田 永雄ね。どう呼んで欲しい?』

  「栗田くんって呼んでね。」

  『わかったわ。栗田くん、これから毎日よろしく!』

  栗田くんはパロちゃんを連れて、家を出た。今日は公園に皆で集まり、プレゼントを見せ合う。

  (くるみちゃんもおしゃべりパロボットをもらったから、ぼくのと恋に落ちるかな?

  いや、待てよ!くるみちゃんが何をもらったかなんて聞いてないぞ!あれは夢だから、もしかしたら違う物をもらってるかもしれない…)

  少し不安を覚えたが、約束をしているため、そのまま足を進めた。

  [newpage]

  [chapter:みんな何をもらった?]

  公園には稲荷山兄妹、金子姉弟、理沙ちゃんと健吾くんが揃っていた。皆プレゼントを持っている。

  「みんなおはよう!くるみちゃんは?」

  「そろそろ来ると思うよ…あ、来た!」

  「みんなお待たせ!」

  走ってきたくるみちゃんを見て、栗田くんは驚いた。

  「あっ、それは!」

  彼女は青いおしゃべりパロボットを連れていた。

  「おはよう!栗田くんもおしゃべりパロボットもらったのね!」

  「うん。同じ物を欲しがっていたなんて、ぼくたち気が合うね!

  それで、パロボットの性別は?」

  「この子は雄よ。名前はロットくん。」

  「ぼくは雌のパロちゃん。2羽合わせてパロット、つまりオウムだね!」

  それを聞いて、万梨阿ちゃんが楽しそうに言った。

  「名前の付け方までそっくりなんて、やっぱりお似合いのカップルだね!」

  それから皆でプレゼントを見せ合った。どのプレゼントも、栗田くんが夢で見た物と同じだった。

  (あれは夢じゃなくて現実だったのかな…考えてもわからないや。

  まあ、夢でも現実でも、ぼくが見た物は内緒にしておこう。だってぼくは秘密を守れる子だから!)

  この場に来ていない子供たちも、クリスマスプレゼントを楽しんでいた。

  スーパーライノRPGを楽しむ阿蓮くん。プラモデルを組み立てる島田くん。ラジコンを走らせる荒井くん。ぬいぐるみを抱きしめる姫子ちゃん。TUPAIxFAMILYを読む猫山兄弟。

  しかし卯井是瑠ちゃんは相変わらず不満げだった。プレゼントが久々に来たのはいいが、中身はただの石鹸だったからだ。

  「なんで石鹸なのよ!ダイヤモンドとか金塊にしなさいよ!

  きっとみんなはいい物をもらって喜んでるのね。なんであたいはこんな物を!」

  気分転換のため外へ出たが、それでも怒りが収まらない。

  「もうサンタなんて知らない!クリスマスも知らない!クリスマスなどなくなっちゃえばいいのよ!」

  憎まれ口を叩きながら歩いていると、突然頭に何かがぶつかった。

  「痛っ!何よこれ!」

  それはジャムパンボーイのぬいぐるみだった。近くに建つ兎崎家の窓が開いているため、そこから投げられたようだ。

  続いて、窓の中から会話が聞こえた。

  「ちょっと、窓から投げちゃだめでしょ!」

  「ウギャーッ!飛ばないー!」

  「それはぬいぐるみだから飛ばないのよ!」

  それを聞いて、卯井是瑠ちゃんはニヤリと笑った。

  「なんだ、喜ばない子はあたいだけじゃなかったのね!良かった!」

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  「じゃ、今日はこの辺で。みんな、また会おうね!」

  子供たちは解散して、それぞれの家に向かった。栗田くんの抱えているパロちゃんが言う。

  『あたし、またロットくんに会いたいな…栗田くん、次はいつ会えるの?』

  「さあ、わからないよ。でも近くに住んでるから、いつでも会えるよ。

  もうすぐ年末年始が来るから、その前に1回会っておこうね。ロットくんも会いたがってると思うから。」

  『わかったわ。家に帰ったら何する?』

  「そうだな、パロちゃんに歌を教えよう。ぼくの好きなアニメソングさ。」

  会話を楽しみながら家に着いた栗田くんとパロちゃん。その様子を、向かいの家から堀越が微笑ましく見つめていた。

  果たして、彼は本当にサンタクロースだったのか?それはここでは書かない。

  断言できるのは、今年のクリスマスも無事に終わった事だ。

  [chapter:おしまい]

  執筆期間 2023.10.18~12.16