番外編「栗田くんの夢世界巡り」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界、さいたま市の大上区。時は2023年10月16日、月曜日。

  「ただいまー!」

  シマリスの栗田 永雄くん(小学4年生、太っている)が、ケモノ小学校埼玉校から帰ってきた。

  「お帰り。後でおやつを用意するから、宿題して待っててね。」

  手洗いやうがいを済ませてから、母親の幸江が言った通りに宿題を始めようと自室へ。

  すると、机の上には小さな包みが置かれていた。「栗田 永雄くんへ」と書かれている。

  (ぼく、通販なんて使ってないけどな…誰が送ってきたんだろう?

  でも、ぼく宛てなら開けてもいいよね。)

  中には金色の鍵が入っていた。長さは20cmほどで、上には3個の丸で構成された飾りが付いている。

  さらに調べると、手紙も入っていた。栗田くんは早速読んだ。

  栗田くんへ

  魔法の鍵で冒険を楽しんでね!

  下に書いてある魔法の言葉を口にしながら、鍵を振ってごらん。近くのドアが入り口になるよ。

  それから後も、光る扉を見つけたらその鍵で開けてね。

  ぼくが誰かって?20番目の世界で会えるよ。

  M.Mより

  (M.Mって誰だろう?本当にこの鍵で冒険できるのかな?

  まあ、試しにやってみよう。)

  栗田くんは魔法の言葉を読み上げながら、鍵を振った。

  「ビビディ・バビディ・ジパディ・ドゥダディ・ヒギタス・フィギタス・ミースカ・ムースカ・トレコラム・セイシャス・エクスピアリドーシャス!」

  [newpage]

  [chapter:冒険の始まり]

  すると、部屋が突然真っ暗になった。カーテンを閉めたわけでもない。

  (うわっ!どうなってるんだ…)

  突然の出来事に震えていると、部屋のドアが金色に光り始めた。同時に魔法がかかるような音楽が流れ出す。

  (どこから音楽が…あっ!)

  ドアの中央に、大きめの鍵穴が現れた。あの鍵がちょうど入るサイズだ。

  恐る恐る鍵を差し込むと、ドアがゆっくりと開いた。その先も暗闇だ。

  (何が待っているんだろう…)

  栗田くんは、ドアの奥に足を踏み入れた。

  その瞬間、周囲で小さな光がまたたき始めた。その数が次第に増え、体を包み込んだ。

  (うわっ、まぶしい!)

  栗田くんは思わず目を閉じた。しばらくするうち、光が消えたようだ。

  (もう開けてもいいかな…)

  目を開けた瞬間、彼はまた驚いた。

  (えっ、ここはどこだ!?)

  [newpage]

  [chapter:魔法の城の晩餐会]

  そこは大きな城の玄関ホールだった。照明はごくわずかなろうそくの火のみ。

  前には大階段が見え、各所に怪物の像が立っている。

  (不気味なお城だ…お化けでも出そうな雰囲気だよ…)

  恐る恐る歩いていると、あるドアから明かりが漏れていた。

  (誰かいるみたいだ。それにおいしそうな匂いもするぞ!

  ここが何か聞いてみよう。それに何か食べられるかもしれない!)

  食いしん坊の栗田くんは恐怖を一瞬で忘れ、ドアを勢いよく開けた。

  「すみません、ここはどこか教えてください!」

  その部屋は食堂のようで、大きなテーブルが用意されている。しかし椅子は1つしか見えない。

  「誰かしら?」

  「ん?何だ?」

  テーブル側の2名が振り向いた。

  「えーと、君たちはニンゲンと…ろうそく!?」

  椅子には人間の女性が座っていた。栗田くんはかつて異世界から迷い込んだ人間と出会っているため、それについての知識はある。

  しかしテーブルには、動いてしゃべるろうそくが乗っていた。そのような物を見た事は一度もない。

  栗田くんは驚いたが、女性の方はさらに驚いた。

  「ねえルミエール、あの野獣って子持ちだったの!?」

  「いえ、ご主人様は独身です。先程の口ぶりからすると、あの子はどこかから迷い込んだようですね。」

  ろうそくは丁寧に頭を下げ、栗田くんに語り掛けた。

  「ようこそいらっしゃいました。私はルミエール。この城の給仕長です。

  ほら、ベル様も自己紹介を。」

  「私はベル。この城を治める野獣に囚われてしまったの。」

  「大変だね…ぼくはシマリスの栗田 永雄。君たちとは別の世界から来たんだ。

  そうだ、ベルさんはこれから食事をするの?」

  「ええ、そうよ。」

  「栗田くんも一緒にどうですか?料理をたくさん用意したため、バランス良くなったかもしれませんね。」

  「ありがとう!ぼくはいつもたくさん食べるんだ。」

  隣の部屋から椅子が現れ、テーブルの横まで歩いてきた。

  「わあ、まるで生きてるみたい!」

  「このお城では、いろんな物が生きてるのよ。時計とかティーポットとか。」

  「へえ、楽しいお城だね。」

  栗田くんがベルの隣に座ると、ルミエールが語り始めた。

  「ようこそ、お客様方。あなた方をお迎えできる事は最高の誇り、最大の喜びです。

  さあ、お城のキッチンが腕によりをかけたディナーをお楽しみください!」

  キッチンから大量の料理を乗せたワゴンが現れ、皿が自動でテーブルに並べられた。

  オードブルに始まり、スープ、ムニエル…豪華な料理が次々と現れる。

  ベルは落ち着いて食べている。栗田くんは目を輝かせ、片っ端から頬張っている。両者の食べ方は対照的だ。

  しばらくすると、テーブルの反対側に食器が並び始めた。

  「さあ、ここらで息抜きとしましょう。ご覧ください!」

  ルミエールの合図で、食器たちのショーが始まった。フォークやナイフのラインダンス、転がる皿、大鍋の中で泳ぐスプーン…

  栗田くんとベルは、釘付けになった。

  ルミエールはオレンジで玉乗りをしながら、胡椒の瓶でジャグリングを披露。最後は食器たちが作ったタワーに飛び乗った。

  「すごいすごい!上手だね!」

  「とっても楽しかったわ!」

  「ありがとうございます。楽しんでいただけたようで光栄です。

  それでは、お食事の続きをお楽しみください。」

  続きの料理が現れた。シチューに揚げ物、デザートの盛り合わせ。

  ショーより前の料理は2名とも同量だったが、ここで出た料理にはかなり差がある。ベルの分は少なく、栗田くんの分はかなりの大盛りだ。

  それでもベルはゆっくり食べ、栗田くんは夢中で食べたため、バランスは取れていた。

  デザートを食べ終わると、ポット夫人(ティーポットのメイド長)とチップ(息子のカップ)が跳ねてきた。こちらにも顔がついている。

  「栗田くん、ようこそいらっしゃいました。ルミエールから話を聞きましたよ。

  さあ、食後の紅茶はいかがですか?」

  「お願いします!砂糖も入れてね。」

  ポット夫人がチップに紅茶を注ぎ、シュガーポットが砂糖を入れた。こちらに手は生えているが、顔はない。

  「ベルさんの分は?」

  「私はさっき飲んだから、大丈夫よ。」

  「そう、ありがとう。」

  栗田くんはチップを手に取り、紅茶を飲んだ。

  「フフッ、毛皮がくすぐったい!」

  「ああ、ごめんね…でもぼくリスだから。」

  そこへコグスワース(置時計の執事)が入ってきた。

  「えー、お食事を楽しんだようですね。私とルミエールでこの城を案内しましょう。」

  「まあ、案内してくれるの?ありがとう。栗田くんはどうする?」

  「お城の中を見るのも楽しそうだけど、もうちょっと食べたいかな…」

  ルミエールが得意げに言う。

  「それでしたら、残った料理を処理してもらいましょう。

  この晩餐会にはご主人様も参加する予定でした。しかしベル様が食事に出たがらないとわかると、彼は気分を害し、部屋に閉じこもってしまったのです。

  ご主人様は体が大きいためたくさん食べます。だから料理を多めに作ったのですが、それらが無駄になる所でした。

  栗田くんは満足するまで、それらを自由に食べてください。私たちはベル様と行きます。」

  「ありがとう!それじゃ行ってらっしゃい。」

  ベルたちが食堂を出ると同時に、大量の料理が運ばれてきた。

  分厚いステーキ、七面鳥の丸焼き、大鍋に入ったスープ…10品目ほどある。

  「よし、もう一度いただきます!」

  栗田くんは再び食べ始めた。スープを飲み、七面鳥にかぶりつく。

  しかし先程の食事で結構な量を食べたため、次第にペースが遅くなり、半分も食べないうちに手が止まった。

  「ウプッ…もう入らないよ…」

  彼の胃は限界を迎えていた。大きく膨らんだお腹では、動く事も億劫だ。

  (とても全部は食べられない…あの野獣はどれほど大きい体をしてるんだろう?

  恐ろしい相手かもしれないけど、ケモノ同士で仲良くなれるかもしれないな。行ってみよう。)

  お腹に苦労しながら立ち上がり、廊下へ出る。その時、怒鳴り声が遠くで聞こえた。

  「出ていけ!さあ!」

  「うわっ!?」

  栗田くんは怯え、座り込んだ。

  (あれはきっと野獣の声だ…やっぱり怖いなあ…お城の第一印象は間違ってなかったね。)

  その時、廊下の奥でドアが光り始めた。

  (次の世界への入り口だ!すぐ行こう!)

  近づくと、ドアの中央に大きな鍵穴が現れた。

  早速鍵を開け、ドアの向こうへ。その瞬間、また光に包まれた。

  [newpage]

  [chapter:不思議の国のお茶会]

  次の世界に着いた。

  (あっ、お腹が元に戻ってるし苦しくもない!

  世界を移動するたびにリセットされるのかな。それならこの世界でもまたたくさん食べられるぞ!)

  喜びかけたものの、そこは奇妙な場所だった。暗い森の中を伸びる道で、すぐ前は分かれ道になっている。

  木には標識が付いているが、数が多すぎる上に指示や向きもバラバラで、意味を成していない。

  栗田くんは道端に座り、考えこんだ。

  (ここに道を教えてくれる誰かがいれば…)

  その時、すぐ隣で声が聞こえた。

  「何を探してるのかニャー?」

  「わっ!君は誰だ?」

  それは栗田くんよりも小さく、ピンクと紫の縞模様で彩られた猫だった。口は横に大きく、ニヤリと笑っているようだ。

  「逆に聞くけど、誰だと思う?」

  「えーと、猫?」

  「お見事お見事、大正解だニャー。俺はチェシャ猫。君もここで迷子になったのかニャ?」

  「うん。来たばっかりだから、どこに行けばいいかわからないんだ。だから道を教えてくれない?」

  「さっきここへ来た女の子も同じ事を言ってたニャ。今日はやけに迷子が多いニャ。

  俺から言える事は1つ。どこへ行くかわからないなら、自分の好きな方へ進めばいいニャー。」

  「それもそうだね。ありがとう。」

  「それじゃ、俺はこれで失礼するニャ。」

  チェシャ猫はしっぽの先から消え始め、最後には口だけが残った。その口も間もなく消えた。

  (変わった見た目の猫だったな。あんな風に消えていくなんて見た事もないよ。)

  栗田くんは左の道へ。しばらく歩いていると、楽しげな音楽が聞こえてきた。

  (何かパーティーでもやってるのかな?)

  その先には小さな家が建ち、庭ではお茶会が開かれていた。帽子をかぶった人間の男と茶色のうさぎが歌っている。

  (ここはニンゲンとケモノが共存してるんだ!空いてる席もたくさんあるから、ぼくが入ってもいいよね。)

  テーブルに近づいていくと、2名は栗田くんを凝視。それから慌てて走ってきた。

  「おいおい、ここは満員だぞ!」

  「君の席はない!このセリフ、今日は2回目だぞ!」

  「え、こんなに空いてるじゃない!」

  「だが、お前も招待はしていないぞ。まったく…」

  うさぎは栗田くんの顔を近くで見た途端、態度を変えた。

  「おや、茶色の毛皮に出っ歯だぞ!たぶん俺の仲間だ!

  いや、俺たちの仲間だな。俺たちはみんな出っ歯だから。」

  「そうか、それなら君の席を用意しよう。あそこの椅子に座ってくれ。」

  栗田くんは一番大きな椅子に案内された。帽子の男が挨拶をする。

  「私はマッドハッター。3月うさぎ、ドーマウスと共に、ほぼ毎日お茶会を開いているんだ。」

  「へえ、何のお茶会?」

  「何でもない日のパーティーさ。誕生日以外の364日。」

  「じゃあ後の1日は何をしてるの?」

  「君、その話はなしだ。今はお茶会の最中だからな。

  君の分を用意するから、それまでドーマウスと話していなさい。」

  3月うさぎがティーポットを持ってきた。その蓋が開き、小さなネズミが現れた。

  「ああ、君がドーマウスだね。こんにちは。」

  「キラキラ光るコウモリさん…」

  栗田くんが話しかけても、ドーマウスは眠そうな目で謎の詩を口ずさむばかり。

  「マッドハッターさん、この子これしか言わないけど…」

  「ああ、そいつはそうなんだ。他の事なんか滅多に話さない。

  ちょうど君の分が用意できた所だ。さあ、お茶をどうぞ。」

  用意された紅茶を飲もうとした時、突然3月うさぎが手を取った。

  「さあ、カップと席を交換だ!こちらへどうぞ!」

  「ちょっと、まだ飲んでないよ!」

  その声は無視され、栗田くんは強制的に別の席へ。椅子は先程よりも小さく、テーブルには奇妙な物体が置かれていた。

  (これは…壊れた時計?ハンマーか何かで勢いよく潰されたみたいだ。

  おまけにバターやジャムが塗られている…何があったんだ?)

  「マッドハッターさん、これって何?」

  「さっきここへ来た白うさぎにあげた、何でもない日のプレゼントさ。彼が持っていた物を改造して作ったんだ。」

  「でもやたらと動き回るから俺がハンマーで潰した。これで持ち運びやすくなると思ったが、彼は悲しそうにしていて…

  ま、その話は置いといて、お茶でもどうだい?」

  「…うん、お願い。」

  また紅茶を注いでもらったが、カップを取った瞬間にマッドハッターが手を取った。

  「きれいなカップが欲しい!カップと席を変えよう!」

  「だからまだ飲んでないのに!」

  栗田くんはまた別の席へ。マッドハッターが紅茶を注ぎながら言う。

  「君、ここまで勧められても飲まないなんてお茶は嫌いなのかい?」

  「とんでもない、好きだよ。砂糖多めのが。」

  「そうか、それじゃ大サービスだ!」

  3月うさぎは砂糖の入れ物をひっくり返し、中身をすべてカップへ。カップは砂糖の山と化した。

  「あれ、砂糖が切れた。君のせいだぞ!新しい砂糖を用意してくれないか?」

  栗田くんは恐怖を感じた。

  (ここはただのお茶会じゃないみたいだ。言葉は通じるのに話が通じないよ!

  何をされるかわからないし、お茶は1杯も飲めない。逃げた方がいい気がする!)

  「ごめん、用があるからもう帰るね!」

  急いで席を立ち、慌てて森へ。

  「おい、お茶会でお茶を飲まずに帰るんじゃない!」

  「1杯ぐらい付き合ってくれ!」

  背後で呼び止める声が聞こえたが、無視して逃げた。

  (ここまで逃げれば大丈夫だよね…)

  暗い森の奥で、息を弾ませる栗田くん。お茶会からは逃げ切ったが、またしても道がわからなくなった。

  (そろそろ次の扉が出てきてもいいはず…)

  すると、木の上にチェシャ猫が現れた。

  「今度は何をお探しかニャー?」

  「光る扉を探してるんだけど、こんな森の中にはないよね…」

  「それなら、これはどうかニャー?」

  チェシャ猫が横の枝を倒すと、木の幹が開いて光る扉が現れた。

  「ここにあったんだ!ありがとう!」

  鍵を回すと、また光に包まれた。

  [newpage]

  [chapter:魔法のランプ]

  次に着いた場所は、薄暗い洞窟の中。

  かなり広大で、広い湖がある。その奥には岩山が見え、上に光が差している。

  (あそこに何があるのかな?)

  湖には飛び石、岩山には階段が作られていたため、楽に登れた。まるで誰かがここへ来る事を前提に作られているようだ。

  上まで登った栗田くんは、思わず声を上げた。

  「あっ、魔法のランプ!」

  そこにはアラビア風のランプが置かれている。早速手に取り、湖の岸に戻ってからこすった。

  するとランプが勢いよく震えて煙が噴き出し、青い体の大きな魔人が現れた。

  「ウオ~ッ!久々の外だぜ!やっぱり外は最高だ~!

  おや、今度のご主人様は太ったリスくんか。私はジーニー、あなたの願いを3つだけ叶えます!」

  「やった!本物だぞ!

  それじゃ最初の願いだ。願いを叶えられる回数を無限大に増やして!」

  「おっと、残念ながらそれはだめだ。私でもできない事がある。

  殺害、死者蘇生、恋愛感情の操作、そして願いを増やす事。その4つ以外なら何でもOKさ。」

  「なんだ、やっぱりそういう願いは反則なのか…

  仕切り直そう。最初の願いは…すごく豪華なデザートビュッフェが食べたい!」

  「OK、了解だ!さあ見てろよ!」

  ジーニーが指を振ると、広大な洞窟がデザートビュッフェに変わった。ケーキやプリン、チョコレートファウンテンなどの定番から、ゴマ団子やターキッシュデライトなどマイナーなお菓子まで幅広く揃っている。

  「さあご主人様…そうだ、まだ名前を聞いていなかった。君は?」

  「ぼくは栗田 永雄。」

  「ワ~オ、栗田 永雄!いい響きの名前だ!

  では栗田様、ゆっくりお楽しみください。制限時間はないため、満足するまでどうぞ。」

  「ジーニーも一緒に食べようよ。ランプの中って狭いでしょ?」

  「いえ、あの中は大豪邸!この洞窟よりも広い部屋がたくさんありま~す!

  でも話し相手はいないから、一緒に食べてもいいかもな。」

  栗田くんとジーニーは、スイーツを食べながら語り合った。

  「久々の外って言ってたけど、前にランプから出たのはいつ?」

  「さあな、いつかは覚えていないぐらい前だ。そいつがどんな願い事をしたかも覚えてない。

  ランプの魔人は、誰かに呼び出されないとランプから出られないんだ。『ジーニーを自由にしてくれ』と願ってくれれば解放されるけど、そんな願いをする奴はいないだろうな。

  願いを何でも叶えられるとなると、大体の奴は自分の事にしか使わないんだ。」

  「そうか、それは大変だね…もしできたら、ぼくが3つ目の願いで自由にしてあげるよ!」

  「本当か!?」

  「…まあ、時と場合によるね。だからあくまでも『もしも』だよ。」

  約1時間後。

  「あー、もうお腹いっぱい!」

  「ジーニーはまだまだ食べられま~す!だって君の何倍も大きいんだからね~!」

  ジーニーは残ったスイーツを一気に平らげ、同時にビュッフェも消えて辺りは洞窟に戻った。

  「さあ、次の願いはどうする?」

  「後で決めるよ。」

  「それでは、ランプに戻ります。」

  栗田くんはランプをポケットに入れ、道を探した。湖と反対側に通路が見える。

  そこを通ると、宝の部屋が現れた。部屋の全面が金張りで、金貨や宝石の山がいくつもできている。

  (すごいな…あの宝石持って帰ろうかな…

  いや、そろそろ光る扉が出てくるはずだ。まずはそれを探さないと。)

  程なくして見つかった。金張りの部屋で、一際まぶしく光っている。

  目を狭めながら鍵を回すと、また光に包まれた。

  [newpage]

  [chapter:空を飛ぶ少年]

  (今度はどこだろう?)

  目を開けた瞬間、驚いた。はるか下に夜の町が見える。

  もちろん周囲に足場はない。栗田くんは空高くから勢いよく落ち始めた。

  「助けてー!」

  町がぐんぐんと迫ってくる。彼は死を覚悟した。

  その時、声が聞こえた。

  「おーっと、危ないぞ!」

  栗田くんの周りを光る粉が覆うと同時に、落下が止まった。彼は宙に浮かんでいる。

  「助かった…でもどうして?」

  そこへ緑の服を着た少年と妖精の少女が現れた。どちらも宙に浮かんでいる。

  「ティンカー・ベルの粉をかけたのさ。いきなり君が落ちてきたからね。

  僕はピーター・パン。よろしく!」

  「よろしく。助けてくれてありがとう。」

  「さあ、あっちで僕の仲間が待ってるよ!」

  ピーター・パンとティンカー・ベルは勢いよく上昇した。栗田くんも慌てて後を追う。

  時計台まで飛んでいくと、針の上に3人の子供が立っていた。

  「みんな、大丈夫だ。さっき落ちてきた子も助けられたよ。動物の着ぐるみを着てるなんて、僕の子分にそっくりだ。

  さあ、僕の仲間に自己紹介を。」

  「ぼくは栗田 永雄。シマリスだよ。よろしく!」

  3人も名前を言った。

  「私はウェンディよ。」

  「僕はジョンだ。」

  「ぼくはマイケル!」

  マイケルは栗田くんに抱きついた。

  「わあ、柔らかくて暖かい!ナナみたい!」

  「ナナって誰?」

  ウェンディが解説する。

  「私たちの子守をしている犬よ。」

  「へえ、この世界もニンゲンとケモノが共存してるんだね。」

  「ケモノって何?」

  「ぼくみたいに高度な知能を持っていて、二足歩行をする哺乳類だよ。」

  ピーター・パンたちは驚いた。

  「なんだって!? 着ぐるみじゃなくてそういう生き物だったのか!ネバーランドでも見た事ないぞ!」

  「私も驚いたわ。ロンドンの空に知らない生き物がいるなんて…」

  「僕だって初めて見たよ。世の中の事はすべて知ってると思ってたけど…」

  「でも可愛いね!よろしく!」

  マイケルだけが驚かず、受け入れている。栗田くんの方も衝撃を受けていた。

  (ケモノを知らないとなると、ナナは進化していない犬か…そんな事ができるなんて思わなかったよ…)

  「さあ、仕切り直しだ。みんな、右から二番目の星に向かって飛ぼう!」

  「右から二番目って、どこを基準にするの?」

  「あそこによく光る星が2つ見えるだろ?その左側がそれさ。

  さあ、行くぞ!」

  一同はピーター・パンを先頭に飛び立ち、ロンドンの夜空を飛んでいった。タワーブリッジをくぐり、眼下に広がるテムズ川を眺めながら飛ぶ。

  (空を飛んでる…本当に飛んでいるんだ!夢じゃない!)

  栗田くんは感動が止まらなかった。

  やがて町を抜け、海の上へ。

  「そうだ、まだ聞いていなかった。目的地は?」

  「ネバーランド。僕とティンクの住む島さ。他にも仲間が大勢いる。

  そこにいれば、ずっと子供のままでいられる。いつまでも楽しく暮らせるよ!」

  「あ、それなら行かなくていいかな…ぼくもずっと子供のままだから。

  ぼくは君たちと別の世界から来た。そこでも誰も歳を取らないんだ。

  まあ、そのネバーランドにゲームセンターやカラオケなんかがあれば行くけどね。」

  「ゲームセンターにカラオケ…僕は知らない言葉だな。」

  「そうか…じゃあ君たちで楽しんできていいよ。ぼくは町の方で飛んでるから。」

  「じゃあここでお別れだね。」

  「うん。楽しんできてね!」

  ピーター・パンたちと別れ、ロンドン上空へ戻った。

  (太ったぼくでも飛べるなんて、ティンカー・ベルの粉はすごいな!)

  町の上を飛び回っているうち、次第に高度が下がってきた。粉の効果がなくなってきたようだ。

  (まずい、そろそろ光る扉を見つけないと…)

  急いで周囲を見回していると、低いビルの屋上に光る扉を見つけた。

  すぐ屋上に降り立って鍵を回すと、また光に包まれた。

  [newpage]

  [chapter:楽しい遊園地と思ったら…]

  「わあ、楽しそう!」

  次の世界に着いた栗田くんは、歓声を上げた。

  そこは夜の遊園地。きらびやかな電飾が輝く中、大勢の子供がはしゃいでいる。

  見とれていると、声をかけられた。

  「すげえな、生きてる人形の他に生きてるぬいぐるみもいるのか!」

  振り向くと、生意気そうな少年が立っていた。横には操り人形のような少年がいる。

  「ぼくはぬいぐるみじゃなくてシマリスだよ。名前は栗田 永雄。」

  「変わった名前だな。俺はランプウィック。で、こいつが…」

  「ピノキオさ。生きてる操り人形だよ。

  ここにはランプウィックが誘ってくれたんだ。すっごく楽しい所だって!」

  「そう、プレジャー・アイランドさ。いるのは子供だけで、学校もないからいつまでも遊び放題!何をやっても叱られないし、おまけに何でもタダと言うんだからびっくりだよな!

  そこにボートがあるから、みんなで乗ろうぜ!」

  「面白そうだね!早速行こう!」

  栗田くん、ピノキオ、ランプウィックは並んでボートに乗り込んだ。これで園内を1周できるようだ。

  辺りには賑やかな音楽が流れ、川の両側には様々なアトラクションや建物が並んでいる。周囲の子供たちも、皆が楽しそうだ。

  「さあさあ、ルートビアはいかがかな?」

  横の通路が開き、店員が顔を出した。ルートビアのジョッキを手際よく取り出し、3名に2つずつ手渡す。

  栗田くんは早速飲んだ。

  「んー、変わった味…でも癖になりそう!」

  ランプウィックも1杯飲み干し、楽しそうに言う。

  「気をつけろよ!」

  その先は小さめの滝になっていた。

  「イヤッホー!」

  手を上げて歓声を上げる3名。誰もジョッキは落とさなかった。

  ボートは大きな観覧車に向かって進み、ゴンドラ代わりに持ち上げられていく。

  「うわー、こんなアトラクション初めて!」

  上の方まで来た時、観覧車に子供たちが登ってきた。

  「おい、ルートビアよこせ!」

  栗田くんとピノキオからジョッキを奪い取り、走り去っていく。

  「あ、ちょっと!そっちはまだ飲んでないのに!それにピノキオはまだ一口も飲んでない…」

  「気にすんなよ。ちょっとふざけてるだけだ。」

  ランプウィックは笑い、飲み終わったジョッキを下に放り投げる。栗田くんとピノキオは、嫌そうな表情で顔を見合わせた。

  しかしここから見る景色は最高だ。空には花火が打ち上がり、ジェットコースターや普通の観覧車など数多くの乗り物や建物が輝いている。

  それを見れば、自然と笑顔になっていた。

  「さあ、また落ちるぞ!」

  ボートは坂を下り、アトラクション「シュガー・マウンテン」に入った。

  名前の通り、大量のキャンディでできた山だ。ボートはその斜面を滑っていく。

  周りでは大勢の子供がキャンディを食べ、中には滑りながら頬張っている子もいる。

  「すごいすごい!ぼくも食べたい!」

  栗田くんはすぐにでも降りたかったが、ボートが高速で動いているため降りられなかった。

  斜面を降りると、また緩やかな流れへ。次に見えてきたアトラクションは「無限ビュッフェ」だ。

  次々と走ってくるおもちゃの電車に、大量の食べ物が積まれている。

  客の子供たちは、それを意地汚くむさぼっている。マナーなどまるでない。

  ピノキオは嫌そうな顔をしたが、栗田くんの表情は対照的だ。

  「じゃあぼくはここにいるね!また後で!」

  ボートから降り、ビュッフェの客に加わった。

  ハンバーガーにポテト、フライドチキン、ケーキ、パフェ、アイスクリーム…子供の喜びそうな物ばかり流れてくる。

  「いただきまーす!」

  周囲の子と同様に食べ物を両手でつかみ、ガツガツと頬張る。普通のレストランなら怒られるだろうが、ここではその心配もない。

  (ああ、どれもおいしい!もうずっとここで暮らそう!)

  何かに取りつかれたように食べ続ける栗田くん。彼の目には料理しか入らず、周囲も見えなくなっていた。

  「あー、お腹いっぱい!」

  満足するまで食べた時、ある事に気がついた。あれだけ大勢いた子供たちの姿が見えない。

  (他のアトラクションに行ったのかな?でも本当にどこを見てもいないぞ…)

  不思議に思っていると、服を着たコオロギが走ってきた。

  「ピノキオ!どこだ!ピノキオ!

  うわっ!また犠牲者が…って、君はロバじゃなくてリスになってしまったのか?」

  「え、何の話?ぼくは元々リスだよ。」

  「驚いたな。そんなに大きなリスは今まで見た事がない。」

  「ぼくだってしゃべるコオロギに会ったのは初めてだよ。」

  「そう、私はジミニー・クリケットだ。

  ともかくここにいると、ロバになってしまうんだ!早く脱出した方がいい!」

  「えっ、別の種族になっちゃうの?まあロバになればしっぽの手入れが楽になるだろうし、それでもいいかな。」

  「何のんきな事を…ロバになったら鉱山やサーカスで強制労働させられるんだぞ!それも死ぬまでだ!」

  「な、なんて事だ!出口を教えてよ!」

  「ピノキオを連れ戻してからだ。事情を話すから、君も一緒に来てくれ!」

  ジミニーは大急ぎで跳ね始めた。栗田くんも太った体と膨らんだお腹を揺さぶりながら後を追う。

  「ハア、ハア…ねえジミニーさん、さっきまでここにいた子供たちはみんなロバになっちゃったの?」

  「そう、この目で見たんだよ。ここには大勢の悪ガキが誘われてきた。

  しかしそれは罠だった。2時間ほど遊んでいると、悪ガキどもは次第にロバへと変化て売られていった。

  ピノキオや君も、そろそろロバになってしまうかもしれないぞ!」

  「ピノキオはランプウィックと一緒に、あっちへ行ったよ!」

  「ありがとう。早くしないとどうなるか…」

  無限ビュッフェより奥に進むと、恐ろしいアトラクションが並んでいた。

  万引きし放題ショップ、悪口言い放題コーナー、壊してもいい学校、火遊びコーナー…

  「ピノキオ、どこだ!」

  「ピノキオー!」

  探し回るが、ピノキオどころか動く物すら見えない。

  さらに奥へ進むと、ビリヤードのボールを模した建物から野生のロバが飛び出してきた。狂ったように鳴き声を上げ、暴れている。

  程なくして、物陰から現れた煙のような怪物に捕獲された。

  「ピノキオはさっきまであそこにいたぞ!まさか、まさか…」

  栗田くんも不安を覚えつつ、建物に入った。

  そこにはビリヤード台が並び、床にはルートビアのジョッキが転がっている。床の上ではピノキオが震えていた。

  「良かった、ピノキオは無事…じゃない!」

  よく見ると、ロバの耳としっぽが生えている。どうやらピノキオもロバになりかけているようだ。

  「じゃあさっきのロバはランプウィックか…」

  栗田くんは恐怖で震えた。短時間とはいえ一緒にボートを楽しんだ仲間が、ただのロバに変貌している。

  「ジミニー、栗田くん!来てくれたんだね!良かった!」

  「今助けに来たぞ!出口はあっちだ!」

  ジミニーは出口に向かって走り出した。栗田くんとピノキオも後を追う。

  しかし園内はかなり道が入り組んでおり、なおかつ栗田くんは太っているためあまり速く走れないため、両者からは引き離されていく。

  「ちょっと!置いていかないで!」

  必死で叫んだが、ピノキオとジミニーは行ってしまった。

  (置いていかれちゃった…早く扉を見つけないと!)

  必死で周囲を見渡すと、かなり離れた所で扉が光っていた。

  (あそこだ!)

  急いで扉へ向かう。半分ほど進んだ時、頭に違和感を覚えた。

  恐る恐る触ってみると、耳がロバの物に変わっている。

  「ギャーッ!ぼくもロバになっちゃうー!」

  太った体を揺すりながら、扉へ向かう。さらに進むと、しっぽもロバの物に変わった。

  (お願いだ、持ちこたえてくれ!)

  急いでポケットから鍵を出し、扉を開けた。

  [newpage]

  [chapter:ジャズの流れるレストラン]

  次の世界に着いた栗田くんは、周囲の景色より先に耳としっぽを確認した。シマリスのそれに戻っている。

  (ああ、良かった…)

  彼は胸を撫で下ろした。

  (恐ろしい世界だったな。まさかぼくまでロバになりかけるなんて…

  ピノキオは助かったっぽいけど、他の子供たちはどうなったんだろう。もしあの時間に戻れたら、子供たちをあそこから脱出させたいな…)

  改めて、周囲を見渡す。そこは大勢の人間で賑わう夜の町だ。

  (さっきと似た雰囲気だ。大丈夫かな…)

  よく見ると、今度は大人の姿も多く見える。いたって普通の町だ。

  周囲を見ていると、大きな建物が目に入った。「Tiana's Palace」と看板が出ている。

  (ここはレストランかな?今度はどんな食べ物が待っているんだろう。

  お金を持ってないけど、魔法のランプはまだある。支払いの時になったらジーニーを呼んで『全部タダにして』って言えばいいよね。)

  栗田くんは列に並んだ。

  店内に入った瞬間、入り口付近のスタッフが叫んだ。

  「おめでとうございます!あなたは当店1万人目のお客様です!」

  「えっ、ぼくが!?」

  「そうですよ。そこであなたにプレゼント。今日は何を食べてもタダにします!好きな物を思いっきり食べてください!」

  「やったー!ありがとう!」

  座席に案内されると、店の奥から若い男女が現れた。どちらも黄緑の服を着ている。

  「1万人目のお客様はリスの着ぐるみを着ているのね。私はティアナよ。」

  「僕はナヴィーン。ティアナと2人でレストランを経営しているんだ。」

  「ぼくは栗田 永雄。よろしく!」

  「栗田くん、ニューオリンズに来るのは初めてかしら?」

  「そうだよ。この店では何がおすすめなの?」

  「ガンボスープよ。それからデザートのベニエも。」

  「じゃあそれを頼むよ!どんな料理か楽しみだ!」

  しばらくすると、ウェイターがそれらを運んできた。

  「よーし、いただきまーす!」

  ガンボスープは辛みとうまみが溶け合い、ベニエもよく揚がっている。初めての料理だが、彼はどちらも気に入った。

  「うん、すごくおいしい!」

  「ありがとう。レシピは私が書いたのよ。

  私は昔から料理が得意で、自分でレストランを開く事が夢だった。それをこうして実現させたのよ。

  今ではニューオリンズで大人気の店。遠くから食べに来るお客さんも多いわ。」

  「それにこの店は、料理だけじゃないんだ。演奏だって楽しめるぞ!」

  店の奥にステージが見える。幕が上がり、ジャズの演奏が始まった。

  よく見ると、人間たちに混ざって肥満体のワニがトランペットを吹いている。

  「ねえ、あのワニは本物?」

  「ええ。彼はルイス。この店専属のミュージシャンよ。過去にいろいろあって、私たちと知り合ったの。」

  「食材にされなくて良かったね。」

  「あら、栗田くんはワニをよく食べるのかしら?」

  「そうだよ。あとカエルもね。」

  「カエルも…ナヴィーン、あの時に出会わなくて良かったわね。」

  「あの時って?」

  「ああ、こちらの話。もう過ぎた事だから気にしないで。

  さっきの話に戻るわ。ルイスはジャズバンドに入る事が夢だったから、彼も夢を叶えたのよ。」

  「みんなこの店で夢を叶えたんだね。」

  「そうよ。栗田くんにも何か夢がある?」

  「ぼくの夢は、強い力士になる事。だからここではたくさん食べるぞ!」

  「そうか。リキシが何かは知らないけど、100万人目になれてラッキーだな!

  それじゃ、僕たちは仕事があるからこれで。栗田くんは料理を好きなだけ楽しんでくれ。」

  ティアナとナヴィーンは立ち去り、栗田くんはジャズを聴きながら次々と料理を頼んだ。

  1時間後、栗田くんはすべての料理を食べ終わった。

  (またお腹いっぱいになっちゃった。そろそろ次の扉が出てくるかな?)

  店を出て周囲を見回すと、路地裏で扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:雪山を行く]

  次の世界は昼だった。冒険が始まってから初だ。

  場所は雪山。栗田くんには毛皮があるため、雪の中でお腹を出していても平気でいられる。

  とはいえ雪山向きの格好ではないため、歩行は大変だった。

  (誰かいないかな…あっ、いた!)

  遠くを集団が歩いている。彼はそちらへ向かった。

  それは人間の若い男女、野生のトナカイ、雪だるまの4名だった。

  「ねえみんな、どこへ行くの?」

  栗田くんが話しかけると、人間たちは驚いた。

  「な、何よこの大きなリス!」

  「しかもかなり太ってるぞ!こんな生き物、見た事ない!」

  雪だるまは驚かず、親し気に話しかけてくる。

  「わー、君柔らかそうで可愛いねー。しかもぼくと同じ出っ歯だよ!」

  トナカイも心を開いたようで、彼の顔をなめてきた。

  「すっかり懐いてるな。」

  「よく見れば結構可愛いし、この子も仲間に加えましょう。

  ねえ、あなたは何ていう名前?」

  「ぼくは栗田 永雄。お姉さんは?」

  「私はアナよ。この雪だるまは…」

  「ぼくはオラフ。ぎゅーって抱きしめて!」

  栗田くんは言われるままにオラフを抱きしめた。

  「うわっ、予想はしてたけど冷たい…」

  「次は俺の番だな。俺はクリストフ。で、このトナカイは…」

  『スヴェンさ。なあクリストフ、なんで俺の紹介が最後なんだよ~?』

  「えっ、野生のトナカイもしゃべるの!?」

  栗田くんが驚きの声を上げると、アナが補足した。

  「あの声、クリストフが当ててるのよ。」

  栗田くんはアナたちに加わり、雪山を登っていった。

  「こっちはクリストフ!あっちは栗田くん!なんか似てて面白いねー!」

  はしゃぐオラフを横目で見つつ、アナに尋ねた。

  「そうだ、まだ聞いていなかった。アナたちはどこへ行くの?」

  「姉さんのエルサを説得しに行くのよ。彼女はこのアレンデール王国の女王なの。

  ふとした事で大喧嘩になって、その結果姉さんは王国を冬に変えてしまった。今は夏なのに。」

  「どうしてそれぐらいで冬に変わるの?」

  「姉さんは、雪や氷を作り出す魔法が使えるのよ。それが暴走してしまったの。

  だからそれがショックで、雪山の方に逃げていった。きっとこの先にいるはずよ。」

  「コントロールできればうまく使えそうだね。」

  「そうなのよ。まあ私は魔法についてなぜかずっと忘れてたけど…」

  事情がそこそこわかったため、次はスヴェンに近寄った。

  「へえ、これが野生のトナカイか…」

  「そんなに珍しいのか?」

  「初めて見るからね。野生だと手足が蹄だから、このままだと物が持てないね。」

  「じゃあ俺も、君の体をよく見ていいよな?

  君はリスだけど、サイズは人間並みで、手も5本指。それにかなり太っていて、言葉を話せる…すごいな。

  森暮らしの長い俺にも、まだ知らない事があったんだな。」

  オラフが騒ぎ始めた。

  「ねえ、ぼくはぼくは?栗田くん、ぼくの事は見なくていいの?」

  「そうだったね。トナカイより生きてる雪の方がすごいよ。」

  クリストフも解説する。

  「栗田くん、オラフの腕は木の枝っぽく見えるけど、曲げても絶対折れないんだぞ。」

  「そうなんだ!試させて!」

  「やめてー!ぼくの腕を勝手に触らないでよー!」

  その後も会話を弾ませながら山道を登るうち、高い岩壁が現れた。

  「ここを登れば着きそうね。」

  アナは岩壁を登ろうとしたが、うまく行かない。栗田くんも真似するが、お腹が突き出ているためまったく登れない。

  クリストフがあきれながら見ていると、しばらく別行動をしていたオラフが戻ってきた。

  「ねえ見てごらん!あっちに階段があるよ!」

  「えっ、こんな山の中に?」

  「誰が作ったのかしら。」

  「とにかく行ってみよう!」

  オラフの案内で着いた所には、氷の階段ができていた。立派な手すりが付いているため、橋のようにも見える。

  「すごい…誰が作ったんだろう?」

  「とてもよくできてるな。」

  「姉さんは絶対この近くにいるわ。」

  足を滑らせないように気をつけながら登ると、その先には荘厳な氷の城が建っていた。栗田くんは圧倒されて言葉も出ない。

  「ちょっと行ってくるわね。姉さんと話をつけてくる。」

  「ぼくはもうちょっとスヴェンを観察してるね。」

  アナは氷の城へ入り、それ以外は外で待機した。

  「エルサ、お願い!アレンデールに戻ってよ!」

  「いいえ、そういうわけにはいかないわ。」

  アナとエルサが話している間、栗田くんはスヴェンの体をじっくりと観察していた。その間にオラフとクリストフも城へ入っていた。

  (へえ、ここはこうなってるのか…)

  すると、城の扉が勢いよく開いた。

  「な、何するのよ!助けて!」

  「おい、今すぐ放せ!」

  そこには巨大な雪の怪物…マシュマロウが立っていた。アナたちはその手に捕まっている。

  「わー、大きい!」

  相変わらずオラフだけが楽しそうだ。

  マシュマロウはアナたちを放り投げ、城から追い出そうとする。

  「人の事投げるなんて許せない!」

  雪玉で反撃するアナ。栗田くんは慌てて逃げた。

  (外にいたら危ない!どこかに隠れないと…)

  周囲を見回すと、洞窟が見えた。その奥へ入ると、扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:森の棒投げ大会]

  次の世界も昼だった。

  (ここはのどかでいいね!ピクニックができそうだ。)

  そこは森に囲まれた野原で、小川が流れている。太陽に照らされて輝く川はとてもきれいだ。

  遠くからは大勢のはしゃぐ声が聞こえてくる。栗田くんは過去を思い出した。

  (前にもこんな事があったっけ。あの先にいる誰かと友達になれるかな?)

  川に沿って歩くうちに、声の主たちが見えてきた。

  それらは動物の姿だったが、それを見た栗田くんは驚きのあまり奇妙な声を上げた。

  「うぎょ!?」

  慌てて茂みに隠れ、震え出す。

  (あの黄色い熊、シャツは着てるのに下半身丸出しだよ!

  それに他の虎やロバや豚やうさぎは全裸だった…前に出会ったわんぱく小僧たちでも下半身は隠してたのに!

  きっとここはヌーディストの集まる場所だ!ぼくはここに来てはいけない!早く扉を見つけないと…)

  そこへ足音が近づいてきた。

  「ねえ、君は誰なの?この森じゃ見ない顔だね。」

  恐る恐る目を開けると、先程の黄色い熊が立っていた。栗田くんよりもかなり小さい。

  (この熊、声がおじさんじゃないか!つまり露出魔!?)

  栗田くんは頭が動転し、声は上ずり、言葉もなかなか出ない。

  「ぼ、ぼ、ぼくは、栗、栗、栗…」

  「クリストファー・ロビンを探しに来たの?今は学校に行ってるよ。」

  「い、いや、そうじゃなくて…それよりズボン履いてくれない?じゃないと落ち着いて話せないよ…」

  「それはどうして?ぼくはいつもこの格好だよ。」

  栗田くんは考えを巡らせた。

  (きっとこの世界ではこれが普通なんだ。だからぼくも落ち着こう。)

  なんとか平静を取り戻し、改めて話しかける。

  「ぼくは栗田 永雄。君は誰?」

  「ぼくはプーだよ。友達にも紹介したいから、一緒においで。」

  栗田くんとプーは、川沿いまで戻った。

  「プー、茂みの中の怪物は見つかったのか?」

  「ああティガー、見つけたよ。でも怪物じゃなくて新しい友達だったんだ。」

  「きっとそれは仮の姿ですよ。もうすぐ正体を現すはずです。」

  「どどど、どうしよう…ぼくたちを食べないよね…」

  「そんな心配はいらないよ。さあ、自己紹介して。」

  「ぼくは栗田 永雄。のんびり屋で食いしん坊のシマリスさ。」

  「へえ、何だかプーそっくりだぜ。

  俺様はティガーだ!よろしくな!ウフフフフゥ~!」

  「ぼくはイーヨーです。」

  「ぼくはピグレット。」

  「わしはラビットだ。」

  「みんなよろしく!それで、今は何をしてるの?」

  「棒投げ大会を始める所なんだ。」

  「へえ、どんな遊び?」

  「木の枝を川に投げて、一番遠くまで飛ばせたら勝ち。クリストファー・ロビンから教えてもらった遊びさ。」

  「そのクリストファー・ロビンって…トナカイ連れてる?」

  「彼はぼくの親友さ。トナカイは連れてないよ。サンタさんじゃないからね。」

  (そうか、ここはあの雪の世界とは別だったね。)

  一同は木の枝を集めて、橋に並んだ。ラビットが得意げに言う。

  「さあ、優勝者にはハチミツをプレゼントするぞ!みんな頑張れ!」

  それから、順番に枝を投げた。栗田くんは最後だ。

  「そーれ!」

  全力で投げると、一番遠くまで枝が飛んだ。

  「優勝は栗田くん!」

  プーたちも拍手を送った。

  「俺様より上がいるなんて!悔しいけどすごいな…」

  栗田くんが投げるまで勝っていたティガーも、悔しがりながら褒めた。

  (プーたちとぼくには身長差があるから、ぼくが勝てたのも当たり前だよね。)

  彼は内心で思ったが、あえて口には出さなかった。

  「さあ、プレゼントのハチミツだ。思う存分食べてくれ。」

  ラビットが壺を運んできた。中には大量のハチミツが詰まっている。

  (これ全部…ぼくにはちょっと多すぎるかな…)

  「ありがとう!でもせっかくだから、みんなで分けようよ。」

  「えっ、いいの?」

  「うん。それにこれだけだとつまらないから、パンとか欲しいな。」

  「ちょうどわしの家にある。早速用意しよう。」

  それから、全員でハチミツを塗ったパンを食べた。

  「やっぱりハチミツはこうでなくちゃね。」

  「へえ、栗田くんはそうやって食べるんだね。ぼくは壺から直接なめる方が好きだな。」

  「じゃあ残りは全部プーにあげるよ。」

  「やった、ありがとう。君は本当にいい友達だよ。クリストファー・ロビンと同じぐらいね。」

  「楽しかったよ。それじゃあね!」

  プーたちと別れ、川沿いを歩いていると、近くの木に光る扉が付いていた。

  [newpage]

  [chapter:ランタンに願いを込めて]

  次の世界はヨーロッパ調の町。夜空の下、通りに大勢の人が集まっていた。

  よく見ると全員、大きな円筒や四角柱の物体を持っている。栗田くんは近くの女性に話しかけた。

  「すみません、何が始まるんですか?」

  「あらあなた、リスの着ぐるみを着ているのね。仮装パーティーに行く所?」

  「え…はい、そうです。」

  「今から国民全員でこのランタンを飛ばすのよ。ずっと前、行方不明になったプリンセスのためにね。

  もうすぐお城のバルコニーから王様と女王様がランタンを飛ばす。それを合図に、お城近くの人から順に飛ばしていくのよ。

  あなたも私と一緒にやってみる?」

  「ありがとうございます、もちろんです!」

  しばらくして、城からランタンが飛び上がった。それを合図に、人々の持っているランタンが次々と灯っていく。

  栗田くんの周辺も、灯りで満たされた。

  「さあ、こっちを持って。」

  女性がランタンに点火し、両端を栗田くんと持つ。それから周囲の人に合わせ、一緒に飛ばした。

  「わあ、きれい!」

  数多くのランタンが空に舞い上がっていく。まるで星が増えたようだ。

  「ね、きれいでしょ?あっちの海側だともっとよく見えるわよ。」

  「ありがとうございます、早速行きます!」

  栗田くんは海へ向かった。

  この王国は島に作られ、陸地とは橋でつながっている。

  王国の通りはもちろん、何隻も浮かんだ船からも舞い上がるランタン。それらが空を埋め尽くし、海にも反射して写っている。

  (まるで夢を見ているみたい…)

  見とれていると、海の上に小さなボートが浮かんでいた。カップルが乗っている。

  (きっとデートしてるんだ。ぼくもくるみちゃんと見たかったな…)

  ガールフレンドの事を考えながら遠目に見ていると、女性が男性にバッグのような物を手渡している。

  (プレゼントかな?それならぼくからも!)

  栗田くんは飛んできたランタンの1つを手に取り、ボートに向かってスライドさせた。

  それは風に乗り、ボートへ飛んでいく。女性は身を乗り出し、そのランタンを手に取って上へ飛ばす。

  (届いて良かった!いい思い出になるといいな…

  それにしても、行方不明のプリンセスは今どこにいるんだろう。この景色を遠くから見ているといいけど…)

  栗田くんは知る由もない。その女性が当のプリンセス…ラプンツェルで、同乗している男性が指名手配中の泥棒…フリン・ライダーとは。

  しばらく景色に見とれていると、陸地側の森で何かが光っている。

  近寄ってみると、木の幹に扉が付いていた。

  [newpage]

  [chapter:魔法だらけの家族]

  次の世界は山に囲まれた小さな町。青空の下にカラフルな家が並び、多くの人間が思い思いに過ごしている。

  栗田くんが通りを歩いていると、驚きの光景を見た。体格のいい女性が、何個もの岩を肩に担ぎながら歩いている。

  (すごい力持ちだ…)

  驚きと感心の混ざった表情で見ていると、眼鏡をかけた女性が話しかけてきた。

  「あら、あなたはリス?ずいぶん大きいわね。」

  「ぼくは栗田 永雄。お姉さんは?」

  「私はミラベル。この地エンカントで暮らしているのよ。

  私の家族はみんな魔法が使える。その力がみんなを支えているのよ。」

  「へえ。どんな魔法?」

  「教えてあげるから、私の家に来て。」

  栗田くんとミラベルは、カラフルな家の前に出た。来客を歓迎するように、床のタイルや屋根瓦が動いている。

  「ここが私たちマドリガル家の住むカシータ。この家も魔法の力を持っているわ。」

  「マドリガル…つまりお姉さんのフルネームはミラベル・マドリガルだね。」

  「ええ、そうよ。」

  「つまりM.M…ぼくに手紙をくれたのはミラベル?」

  「え、私は手紙なんて送ってないわよ?栗田くんとは今初めて会ったばかりだもの。」

  「そう言えばそうだ。じゃあ別のM.Mがいるのか…」

  家の中庭には、マドリガル一家が集まっていた。

  「私たち、これからパーティーをするの。良かったら栗田くんも参加する?」

  「もちろん!パーティー大好きだよ!それで何のためのパーティー?」

  「さあ、特にないわ。強いて言えば楽しい気分になりたいから?」

  床板が家具を動かし、茶道具やお菓子を机に並べる。その周りで一家がいろいろな準備をしている。

  ミラベルは栗田くんに家族を紹介して周った。

  「まずアルマおばあちゃん。私たち家族を支えているわ。

  それからママのフリエッタ。ママが作った料理を食べると、どんなケガや病気も一発で治るのよ。

  パパのアグスティンはよく顔を蜂に刺されるから、その度にママの手作りお菓子を食べているわ。

  私は3姉妹の末っ子。長女のイサベラは花を自由に咲かせられる。次女のルイーサはとても力持ち…今は仕事中だけど、そろそろ帰ってくるはずよ。」

  「ああ、さっき岩を担いでいたお姉さんだね。」

  「そうよ。それから未来を予知するおじのブルーノに、周りの天気を変えるおばのペパ。

  いとこは3人。耳がとてもいいドロレス、知っている相手に変身できるカミロ、生き物と話せるアントニオ。」

  「みんなすごいね!あのおじさんはどんな魔法を使うの?」

  「ペパの夫、フェリックスよ。この家で生まれたわけじゃないから、魔法は使えない。パパも同じよ。

  でも魔法が使えなくても、私たちは絆で結ばれている。だからみんな幸せよ。」

  ルイーサも仕事から帰り、パーティーが始まった。もちろん栗田くんの席も用意されている。

  マドリガル一家は見た目通り陽気な家族だった。陰気に見えるブルーノも、意外と明るい人だった。

  カミロは栗田くんに変身して皆を笑わせ、ルイーサは栗田くんを軽々と持ち上げる。アントニオは自分以外とも話せる動物がいる事に驚いていた。

  フリエッタの手作りお菓子も最高の味。食べると気分が良くなったように感じられた。

  誰もが栗田くんに優しかったため、彼もマドリガル家の一員となったように感じられた。

  やがてパーティーが終わった。

  「あー、楽しかったしおいしかった!」

  栗田くんは少し膨らんだお腹をなで、席を立った。

  「栗田くんってよく食べるのね。」

  「まあ見た目からしてそんな気はしてたよ。食べる前からお腹がパンパンで弾けそうだと思ってたから。」

  「このお腹、手触りが最高ね!」

  イサベラ、ルイーサ、ミラベルは彼の姿が可愛く感じたらしく、特に注目している。

  「そう、ぼくは食いしん坊さ。それじゃ、みんなありがとう。」

  その時、ブルーノが席を立った。

  「栗田くん、せっかくだから君の未来を見ようじゃないか。」

  ブルーノは砂や塩などを用意して、未来予知を始めた。力を込めると彼の目が緑色に光り、砂が舞い上がる。

  やがてその砂にぼんやりとした映像が流れ始めた。栗田くんの姿だ。

  「これは…ぼくがビルの間を飛んでる?あ、今度は特急に乗ってる…えっ、今度は縛られて何かを投げつけられてる!? 車を運転してる!?」

  次々と映像が移り変わり、最終的に緑色のパネルが完成。そこには細い棒を持って笑顔を浮かべる栗田くんが映っていた。

  「何の棒かな?まあぼくは笑顔だから、きっといい物だよね。」

  マドリガル一家と別れ、エンカントを歩いていると、路地裏で扉が光っていた。

  栗田くんの旅は、ここでちょうど半分だ。

  [newpage]

  [chapter:絵の中で遊ぼう]

  次の世界ものどかな場所だった。青空の下に芝生や花畑が広がり、その中心に道が伸びている。

  (プーたちの世界に戻ったのかな?)

  考えていると、後ろから声が聞こえてきた。

  「ねえ、太ったリスがいるよ!」

  「本当ね。あんなの見た事ないわ!」

  「おかしいな。あんなリスを描いたつもりはないんだけど…」

  「私たちみたいに、どこかから入ってきたのかしら?」

  振り向くと4人の人間が立っていた。白い服を着て日傘を持った女性、派手なストライプのジャケットに白いズボンの男性、着飾った男の子と女の子。全員が栗田くんに興味津々だ。

  「あなたは誰?名前を教えて。」

  「ぼくは栗田 永雄。」

  「ありがとう。私はメリー・ポピンズよ。」

  「僕はバート。」

  「私、ジェーンよ。」

  「ぼくはマイケル。」

  「みんなありがとう。家族で散歩してるんだね。」

  「そう見えるかもしれないけど、家族じゃないわ。私はバンクス家の子守で、ジェーンとマイケルはそこの子供たち。

  バートは私の親友で、いろいろな仕事をしているのよ。」

  「今日は地面に絵を描いていた。そこにメリーたちが来たんだ。

  彼女の魔法を使って、みんなで絵の世界に入った。そしたら君に会ったんだ。」

  「そうだったんだ。邪魔しちゃったかな…」

  「そんな事ないさ。仲間の多い方が楽しいからな。

  さあ、栗田くんも一緒に行こう。この先には楽しい事が待っているぞ。」

  道を歩く5名の前に、何かが見えてきた。

  「うわっ、野生の馬に棒が刺さってる!残酷だな…」

  「栗田くん、あれはメリーゴーラウンドよ。怖くないわ。」

  「へえ、ニンゲンの世界では馬が回ってるんだ!ぼくの世界だと自転車やバイクが回ってるんだよ。」

  「そうなのか。かっこいいデザインだな。

  でも馬も楽しいぞ。さあ、みんなで乗ろうじゃないか!」

  バートの合図で、一同はメリーゴーラウンドに乗った。

  とはいえ栗田くんがいる事は想定外だったため、木馬は4台のみ。そこで彼はメリー・ポピンズと同乗した。

  軽快な音楽と共に回るメリーゴーラウンド。何周かした所で、メリー・ポピンズが言った。

  「さあ、ここから自由になりましょう!おじさん、お願い!」

  「はいよ!」

  メリーゴーラウンドの中央が開き、操作係の男が登場。彼がレバーを引くと、木馬は台から離れて道を進んでいった。

  「すごいね!まるで魔法だ!」

  喜ぶ栗田くん。後ろではジェーンやマイケルも喜んでいる。

  4台の木馬が走っていると、突然道の外からラッパの音が響いた。

  「狐狩りの時間だぞー!」

  その声を合図に、大勢の貴族が馬に乗って登場。木馬たちと一緒に走り始めた。

  それと並んで、何匹もの猟犬も走っている。栗田くんはメリー・ポピンズに尋ねた。

  「ねえ、何が始まるの?」

  「みんなで狐を捕まえるのよ。」

  「…捕まえてどうするの?」

  「それだけ。終わったら逃がすのよ。追いかけっこみたいな物ね。」

  「それなら安心だ!」

  猟犬が辺りを嗅ぎまわり、狐を見つけた。必死で逃げる狐を馬たちで追い回す。

  「行くわよ、栗田くん!」

  メリー・ポピンズは本気を出して木馬を走らせ、栗田くんはそこから飛び降りて狐を捕獲した。

  「あーあ、捕まっちゃった…」

  残念そうに言う狐。

  「へえ、野生の狐はこんな感じか…」

  「そんなに俺が珍しいのか?」

  「うん。ぼくの友達にも狐がいるけど、君よりずっと太ってる。」

  「そんな狐、見た事ないな。俺にとってはそいつも珍しい存在なんだろうな…」

  「さあ、休憩しましょう。」

  一同はベンチで休憩。バートが全員分のりんご飴を持ってきた。

  「おいしいね、これ!」

  「ああ、うまいな!」

  栗田くんは狐と並んで、りんご飴をなめた。

  「やっぱり、みんなで食べると楽しいね!」

  食べ終わってしばらくすると、雨が降ってきた。

  「大変だ!みんな集まれ!」

  「離れちゃだめよ。」

  栗田くん、ジェーン、マイケルはメリー・ポピンズとバートの周りに集まった。狐や貴族たちは遠くへ逃げ、周りの景色がにじんでいく。

  気がつくと辺りは公園近くの通りに変わっていた。地面には雨でにじんだ絵が見える。

  「せっかく描いたのに、消えちゃったね…」

  「チョークアートってのはそういう物だよ、マイケル。むしろこうやって消えるから、また後で新しい絵が描けるんじゃないか。

  メリー、今日は楽しかったな。飛び入り参加があるとは僕も思わなかったから、いいサプライズだったよ。」

  「そうね、バート。楽しい休日が過ごせたわ。

  栗田くんはこの後、どこへ行くの?」

  「さあ、好きなように行くよ。

  ぼくも楽しかったよ。またね!」

  「さようなら。」

  メリー・ポピンズたちと別れて公園を歩いていると、木の幹で扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:大都会を飛ぶ]

  次に出た場所は、大きな橋の上。

  (わあ、きれいな眺め…)

  目の前には夕暮れの海が広がり、少し離れた所には大都会が見える。冒険が始まってから巡った世界では、一番高い文明だ。

  (でも、ここからどうすれば?)

  栗田くんの立っている場所は「橋の上」というより「橋の最上部」だった。足場はそこそこ広いが、下に降りる階段やはしごは見当たらない。

  (まさか、ここで旅は終わり?そんなはずはない…)

  そこへ、大きなロボットに乗った少年が飛んできた。

  「あれ、君はここで何をしているの?」

  「ここから降りられなくて困ってるんだ。なぜここに登ったかは話すと長くなるから言わないけど…」

  「それじゃ、僕が助けてあげるよ!

  僕はヒロ・ハマダ。そしてこっちのロボットは…」

  「こんにちは、私はベイマックス。あなたの体と健康を守ります。」

  「ずいぶん可愛いロボットだね。」

  「誰もが抱き着きたくなるデザインなんだ。今はアーマーを着てるけどね。

  さあ、ベイマックスの手につかまって。」

  栗田くんは大きな手で体を固定された。ヒロは背中に乗っているが、彼のアーマーとベイマックスの背中には磁石が付いているため、落ちる心配はない。

  「準備ができたみたいだね。さあ、出発だ!」

  「え、出発って…下ろしてくれるだけでいいんだよ?」

  「せっかくここまで来たんだから、僕の住む街を見せてあげるよ!」

  ベイマックスは橋から飛び降り、両足についているロケットブースターで飛び始めた。

  海面すれすれを飛び、大都会へ。

  「ここはサンフランソウキョウ。様々な文化が入り混じる街さ。」

  ビルの谷間をくぐり、ジェットコースターのように空中で一回転。線路の上を飛んでトンネルを抜け、サンフラン奏京銀行のビルを一周しながら上へ。

  栗田くんはスリルを楽しみつつ、周囲の景色にも目を配った。

  高層ビルには様々な看板が付いている。この世界の文字は日本語が使われており、彼でもすぐに読めた。

  ドレッセルズ、ニューランド、ドットウェブ:シーズン3…

  (日本みたいだけど、ちょっと違う世界だね。)

  ビルよりも高く登るベイマックス。空には鯉のぼりのような発電機が大量に浮かんでいる。

  「さあ、ぶつからないように行くぞ!」

  ベイマックスは左右に大きく揺れ、発電機をよけながら飛ぶ。栗田くんはテンションが上がっていた。

  最後に夕焼け空を眺めつつ街の上空を一周して、歩道に降り立った。

  「地面に着いたよ。これでもう大丈夫だよね。」

  「ありがとう、ヒロとベイマックス!楽しかったよ!」

  すると、ベイマックスが握り拳を差し出した。

  「え、何?」

  「グータッチです。ヒロが教えてくれました。さあ、栗田くんも。」

  「こうかな?」

  栗田くんも握り拳を作り、ベイマックスのそれと合わせた。

  「バララララララ。」

  ベイマックスはそう言いながら、指を波打たせて腕を上げた。

  「…バララララララ。」

  栗田くんも真似をした。

  「それじゃ、僕は用事があるからこれで。また会えるといいね!」

  「スキャンした所、栗田くんは楽しい気分になったとわかりました。これからも楽しい事を見つけてくださいね。」

  ヒロとベイマックスは、夕焼けの空を飛んでいった。

  栗田くんが周囲を見ていると、路地裏で扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:別のケモノ界]

  次に着いた場所は、特急列車の中だった。たった今動き出したばかりのようだ。

  周囲を見ると、乗客はすべてケモノだった。

  (ぼくの世界に戻ってきたのかな?でも何か違うぞ。)

  栗田くんの世界では種族ごとの身長差が少ないが、こちらの乗客は種族によってサイズがかなり異なる。また、靴を履いていない。

  (へえ、ケモノの世界でもいろいろ違いがあるのか…どこを走ってるんだろう?)

  窓の外を見ると、田園地帯を走っていた。遠くにはサンフランソウキョウよりも大きなビルの群れが見える。

  (今度はどんな街かな?)

  その時、声をかけられた。

  「まあ、ずいぶんと大きなリスさんね。見た事ないわ。」

  声の主は若いうさぎの女性だった。毛皮は灰色で、成獣のようだが栗田くんよりも小さい。

  「…遠くから来たんだ。お姉さんは誰?」

  「私はジュディ・ホップス。これからズートピアへ引っ越すのよ。」

  線路沿いには「ズートピアへようこそ!」と書かれた看板が立っていた。これが町の名前だ。

  「ぼくは栗田 永雄。短い間になるけどよろしく!」

  「聞いた事のない響きの名前ね。私が知らないぐらい遠くから来たようね。」

  列車は砂漠の中に入った。ヤシの木を模した大きなビルが建ち、大勢のラクダが砂煙を上げながら走っている。

  トンネルをくぐると、今度は雪と氷の世界が広がっていた。寒色系のビルが並び、水路に浮かんだ氷が動く歩道の代わりになっている。

  山間を抜けると、今度は熱帯雨林のような場所を通った。多くの木が家になっており、枝に取り付けられたスプリンクラーが水を発射する事で降雨を再現している。

  しばらく進むごとに、全く異なる町が現れる。まるで世界各地を巡っているようだ。

  「もしかして、いろいろな種族が野生時代に住んでいた環境を再現しているのかな?」

  「そうよ。様々な種族が住みやすいようにしているの。」

  「へえ、考えられてるね!」

  栗田くんは感心した。

  (ここでは野生時代の文化が色濃く残ってるみたいだ。世界が変われば文化は全く別物なんだね。)

  山の景色を眺めながら、栗田くんは尋ねた。

  「ジュディさんはズートピアで何をするの?」

  「私は子供の頃からの夢だった警察官になるのよ。ズートピアは『誰でも何にでもなれる場所』なの。

  でも、その夢をパパとママに話した時は反対された。『うさぎの警察官などいない。だからうさぎは警察官になれない』ってね。

  だから私は一生懸命勉強して、警察学校を卒業した。立派な警察官になって、この世界をもっと良くするの!」

  「そうか、ジュディさんも夢に向かって生きてきたんだね。」

  列車は高層ビルの間を抜け、大きな駅に着いた。

  「ズートピア・セントラルステーションに到着しました。」

  種族ごとの身長に合わせて作られたドアが開き、乗客たちが次々と降りていく。栗田くんは中型種族、ジュディは小型種族のドアから降りた。

  駅構内は様々な種族で賑わっている。時計を見ると通勤ラッシュの時間帯で、通勤者とみられるケモノが多い。

  カバは水中を泳ぎながら現れ、ネズミは小さなチューブの中を通っている。ジューススタンドには、背の高いキリン用にジュースをエアシューターで送り出す機能が付いている。

  「本当にいろいろな工夫があるのね。私の故郷バニーバロウにはうさぎばかり住んでたから、こんな物は見られなかったわ。」

  「やっぱり田舎から都会に出ると、いろいろ新しい物が見られるよね。」

  「栗田くんはどんな所に住んでるの?」

  「都会かな。ここよりは小さいけど。」

  「へえ、私の知らないぐらい遠くには、こんな大きいリスの住む土地があるのね…

  楽しかったわ。ありがとう!」

  「ジュディさん、警察のお仕事頑張ってね!」

  ジュディは改札へ向かっていった。栗田くんは切符を持っていないため、駅から出られない。

  (すると、次の扉は駅のどこかにあるはずだ!)

  構内を歩いていると、奥まった通路で扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:死者たちの音楽]

  次に出た場所は、路地裏だった。

  路地から外を見てみると、そこは夜の町。カラフルな建物が並び、賑やかな声や音楽が聞こえる。

  通りを歩いている者は、人間やケモノではなく骸骨。ここは死者の国だ。

  (驚いたな、今度は骸骨の世界か!形からするとニンゲンみたいだ。

  ぼくがここを歩いていたら目立って仕方なさそうだ。ボディペイントしても、この体じゃ骸骨には見えないだろうね…

  でもここにいたら、次には進めない!)

  思い切って路地を飛び出した直後、大量のペンキ缶を運んでいた骸骨とぶつかった。

  轟音と共に缶が崩れ落ち、栗田くんはペンキまみれになってしまった。骸骨もバラバラになったが、自力で骨を合体させて復活した。

  「君、大丈夫か?」

  「はい、なんとか大丈夫です…ごめんなさい…」

  「いや、俺も悪かった。前がよく見えないのに狭い道を歩いてたからな。

  ところで、君はずいぶんと大きなアレブリヘだね。」

  「アレブリヘ…はい、そうです!」

  栗田くんはなんとかごまかして、その場を離れた。

  近くの窓に顔を写してみると、彼の全身は大量のペンキで七色に染まっていた。

  (これがアレブリヘに見えるのか。でもアレブリヘって?)

  周囲を見ていると、カラフルな動物を連れている骸骨が数名見える。アレブリヘとは、死者の魂を導く生き物だ。

  アレブリヘと間違えられた栗田くんは、堂々と通りを歩いていった。

  先に進むと広場があり、中央に舞台が作られている。先程の音楽はここから聞こえていた。

  どうやら音楽コンテストが開かれているようだ。キーボードのソロやヘビーメタル、犬たちの合唱など、様々な演奏が披露されている。

  「さあ、続いてはロス・チャチャラコスの皆さんです!どうぞ!」

  吹奏楽団が登場した。トランペットやサクソフォンなどで軽快な音楽を奏で、会場を熱狂させる。

  栗田くんも楽しい気分になり、体を揺らして踊った。

  「いよいよ最後の挑戦者です。ミニ・デラクルス!」

  パーカーを来た少年──ミニ・デラクルス。本名はミゲル──が、ギターを持って登場。

  彼はしばらく黙っていたが、マイクに向かって叫んだ。

  「ハァァーイ、ヤァァーイ、ヤァァー!」

  それからギターをかき鳴らし、「ウン・ポコ・ロコ」という曲を歌い始めた。栗田くんは初めて聞くが、観客の多くは知っているようで盛り上がっている。

  歌が半分ほど進むと、舞台袖から犬のダンテに連れられて骸骨のヘクターが登場。ミゲルの横でダンスを始めた。

  骸骨のため、体のパーツをバラバラに組み替えて踊る。会場はますます盛り上がり、曲が終わると拍手や歓声、帽子投げで両者を讃えた。

  「すごいぞ、ミニ・デラクルス!」

  栗田くんも周囲に負けず、声を張り上げた。

  その時、舞台に司会者が現れた。

  「コンテストの途中ですがお知らせです。この中に生きている少年が迷い込んでいます。もし見つけた場合は…」

  (まずい、ぼくの事だ!ぼくがアレブリヘじゃないってばれたんだ!)

  栗田くんは慌てて路地裏へ逃げた。

  もっとも、司会者が指していた「生きている少年」はミゲルの事だ。彼はフェイスペイントで骸骨に変装した人間だった。

  路地裏を抜けてしばらく進むと、扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:道化の王様]

  次の世界は、中世のパリ。

  空は晴れているが、通りには誰も歩いていない。しかし遠くに見えるノートルダム大聖堂の辺りからにぎやかな声や音楽が聞こえる。

  大聖堂の前に行くと先程のコンテスト会場よりも大きな広場があり、大勢の人々が騒いでいる。町の人々はここに集まっていた。

  ここでは祭りが開かれているようだ。カラフルな旗やテントが並び、仮装をした人も多い。

  (さっきよりも楽しそう!)

  栗田くんが会場に足を踏み入れると、ピエロのような男が現れた。

  「おや、新しい参加者が来たぞ!ようこそ、トプシー・ターヴィーへ!」

  「トプシー・ターヴィー?」

  「年に一度の道化の祭りだ。この日は何でも逆さまになる。雑草は花束、鉄は金、君の体はスマートって事だ!

  私はクロパン。君は誰かな?」

  「栗田 永雄。」

  「栗田くんか。君もこの祭りを存分に楽しんでくれ!」

  ステージで楽器の演奏が披露されたり、広場で踊ったりとどこも賑わっている。

  仮装も様々。コックが入った鍋を押すロブスター、人を散歩させる犬など「何でも逆さま」を体現した仮装もある。

  動物の仮装をした人も多いため、周囲の人々は栗田くんの事も着ぐるみと思っているようだ。

  夢中で周囲を眺めていると、クロパンがステージに立っている。

  「さあ皆さん、ご覧あれ!これから登場するのは、パリ一番の踊り子だ!

  さあ、エスメラルダの登場だ!」

  ステージに煙が上がり、それが一瞬で晴れるとクロパンの代わりにエスメラルダが立っていた。

  周囲の男性たちが夢中になるほど美しくセクシーな踊り子だ。妖艶な笑みを見せながら優雅に踊り、近くに立っていた兵士の槍を使ってポールダンスを披露する。

  客たちは喜んでコインを投げ、声援を送った。栗田くんはコインを持っていないため、声援のみ。

  「さて、次はメインイベント!道化の王様コンテストだ!

  この中から一番醜い顔の男を選ぶ。顔に自信のある人は舞台へどうぞ!」

  次々と参加者が舞台に上がってきた。顔が見えないようにするため、全員が被り物を着けている。

  (わあ、あの被り物なんてよくできてるな…)

  エスメラルダに手を引かれて、怪物のような男──カジモドが舞台に上がった。その身長は栗田くんと同じぐらいで、背骨は大きく曲がっており、顔も歪んでいる。

  見ていると、エスメラルダが栗田くんに手を差し出した。

  「あなたの被り物もよくできてるわね。それにずいぶんと大きなお腹。きっとあなたも優勝できるわよ!」

  (これ、被り物じゃないんだけどな…まあいいか!)

  「さあ、顔を見てみよう!」

  合図を聞いたエスメラルダが端から順に被り物を外していく。ラスト2名はカジモドと栗田くんだ。

  被り物が外された男たちは次々と変顔をして醜い顔を演出するが、舞台からは叩き落とされていく。

  カジモドの番が来た瞬間、エスメラルダは息を吞んだ。

  「あっ、被り物じゃない!」

  なんと、彼の顔は生身だった。客たちは騒然となり、栗田くんも驚いた。

  (あんな顔のニンゲンもいるんだ…)

  そう思っていると、栗田くんの顔もエスメラルダに引っ張られた。

  「痛いっ!」

  「えっ、これも本物だったの!? こんな大きいリスがいるの!?」

  より騒然となる客たち。栗田くんとカジモドが困っていると、クロパンが来た。

  「皆さん、落ち着いてください。今年の道化の王様は2名です!

  ノートルダム大聖堂で鐘を突いているカジモドと、飛び入り参加の栗田くん!」

  会場は拍手と歓声に包まれた。

  「王様、万歳!」

  「王様が2人もいるなんて初めてだ!」

  「カジモド、栗田くん、ばんざい!」

  両者は人々の手で担ぎ上げられ、神輿のような椅子に乗せられた。カジモドは紙製の王冠をかぶり、栗田くんには王杖が渡された。

  会場を練り歩き、中央の台まで運ばれると、カジモドにはガウンが着せられた。観客は紙吹雪や花を撒き、声援を送る。

  「カジモド!カジモド!」

  「栗田くん!栗田くん!」

  両者は喜びつつ、顔を見合わせて笑った。

  「ぼくが醜いって言われるのはちょっと微妙だけど、何でも逆さまなら美しいって事だよね。」

  「そういう事になるね、栗田くん。

  実は僕、今日初めて大聖堂を出たんだ。ご主人様は『外の世界は暗く冷たい』なんて言うけど、まるっきり反対じゃないか!」

  「えっ、初めて出たの?」

  「そう。ずっと上から眺めるだけだったから、参加できて良かったよ。」

  その時、1人の兵士がニヤリと笑った。

  「よーし、もっと盛り上げてやろうぜ!」

  その直後、カジモドに向かって突然卵を投げつけた。

  「うっ!」

  「何をするんだ!」

  栗田くんが怒りの声を上げると、周囲の観客たちも果物やゴミ、石などを投げつけ始める。

  「道化の王様、ばんざーい!」

  「それ、もっと道化にふさわしい見た目にしてやる!」

  祭りの会場は、先程までの明るい雰囲気とは正反対の場所になっていた。

  「やめて!お願い!」

  「こんな仕打ちはひどすぎる!」

  いくら声を上げようが、誰の耳にも入らない。栗田くんとカジモドの体は果物やゴミで汚されていった。

  客たちの悪ふざけ…いや、ここまで来ると集団リンチだろう。それはさらにエスカレートし、両者をロープで縛り始めた。

  必死に抵抗するが、次第にロープが増え、身動きが取れなくなっていく。

  「ハッハッハ、実に無様だ!さあ、次は何をしよう…」

  その瞬間、女性の声が響いた。

  「今すぐやめなさい!」

  声の主はエスメラルダ。素早く台に登り、栗田くんとカジモドを助け出した。

  両者を小脇に抱えると、そのまま人垣をかき分けて走り、煙幕を張って大聖堂まで逃げた。

  「ああ、助かった…」

  「あ、ありがとうございます…」

  「いいのよ。道化の王様があんな事をされるなんて知らなかった。実は私も今年が初参加なのよ。

  とりあえずここにいればもう大丈夫よ。だって聖域だから。」

  栗田くんはエスメラルダに尋ねた。

  「体重差のあるぼくたちを両脇に抱えたまま走るなんて、すごいですね!おまけに煙幕も使うなんて、エスメラルダさんは忍者ですか?」

  「私はジプシーよ。ニンジャが何かは知らないわ。

  ここにいれば捕まらないけど、壁の中では耐えられない。ジプシーは自由を愛する人々だから。」

  カジモドはそれを聞いて、提案した。

  「見つからないように逃がしてあげるよ。君は僕たちを助けてくれたから、今度は僕が助ける番だ。

  栗田くんは逃げなくて大丈夫?」

  「うん。健闘を祈るよ。」

  カジモドとエスメラルダがその場を離れた後で周囲を見渡していると、通路の奥で扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:感情を持つロボット]

  次の世界は、今まで訪れた中で一番文明が発達しているようだった。

  そこは未来的な建物の中。壁や床は銀色で、広い通路の上を宙に浮かぶ椅子──ホバーチェアが次々に通り抜けていく。

  どのホバーチェアにも人間たちが座っているが、全員が極度の肥満体だ。目の前に浮かぶ画面から目を離さず、時々横に置かれたドリンクを飲んでいる。

  そのため、誰も周りの景色を見ていない。隣にいる相手ともモニター越しの会話だ。

  (ここはどんな世界だろう?みんながぼく以上に太ってるなんて、よっぽどあの機械に頼りきりみたいだね。

  それは置いといて、探索ついでに次の扉を見つけておかないと。でも広い場所だから、すぐに見つかるかな…)

  ホバーチェアにぶつからないよう歩いていくと、やがて広場に出た。天井には青空が表示され、左右にはいくつかのフロアも見えるが、相変わらずどこもホバーチェアで埋まっている。

  (あんなにきれいな青空なのに、誰も見てないね…あっ!)

  2フロア上の通路に、光る扉が見えた。

  その直後、突然ズボンが何かに引っ張られた。視線を落とすと、小さなロボットが引っ張っている。

  四角い黄色の体に短い腕、双眼鏡のような目、クローラーの足。よく見ると体に文字が書かれている。

  「WALL.E…君はウォーリーっていうの?」

  ロボットはうなずき、手を叩いた。どうやら正解らしい。

  「もしかして、話し相手が欲しかったの?」

  またうなずいた。

  「そうか、みんなモニターしか見てないからね。ぼくにはホバーチェアがないから、君の顔をよく見られるよ。

  それでお願いがあるんだ。あそこの光る扉まで案内してくれない?」

  ウォーリーは困ったように首を振った。どうやら道をよく知らないらしい。

  「そうか…ずいぶんと道が入り組んでいそうだから、行き先を聞きたかったんだけどな…」

  その時、ウォーリーが声を出した。

  「イヴ…イヴ!」

  2フロア上を見ると、ホバーチェアに混ざって卵のようなロボットが飛んでいる。どうやらあれがイヴらしい。

  「ウォーリーはイヴに会いたいの?」

  ウォーリーはうなずいた。

  「それじゃ、イヴと光る扉を両方見つけに行こう!」

  ホバーチェアに当たらないよう、通路の端を歩きながらスロープを登り、上のフロアへ。

  通路の端には屋台があり、ロボットが接客をしている。ホバーチェアに乗った人々は画面から目を離さず、手を伸ばしてドリンクを受け取っている。

  どうやら全員、ここに屋台があると覚えているようだ。

  「ぼくも飲みたいな…」

  「イヴ!」

  ウォーリーにズボンを引っ張られ、仕方なく先へ進んだ。

  さらに上のフロアに行くと、大きな窓があった。そこからは宇宙空間が見えている。

  「ここは宇宙船の中だったのか!」

  栗田くんは知らないが、ここはアクシオムという超大型の宇宙船。何百年も宇宙の旅を続けている。

  「こんなきれいな景色なのに、見ているのはぼくとウォーリーだけ。なんだかもったいないね…」

  景色に見とれていると、ウォーリーが叫んだ。

  「イヴ!」

  イヴが窓のそばに浮かび、景色を眺めている。ウォーリーはそこへ向かった。

  「イヴ…」

  「ウォーリー!」

  イヴは腕を広げ、ウォーリーにハグをした。青い光で表示された目も笑っている。

  それから、両者は寄り添って宇宙空間を眺めた。

  (ウォーリーもイヴもロボットだけど、感情豊かに感じられた。ニンゲンたちは機械任せで、感情なんて感じられない。ちょっと不思議な世界だったな。

  さて、再会できたからぼくもそろそろ次の世界に行こうっと。)

  光る扉は、そこからさほど離れていない場所にあった。

  [newpage]

  [chapter:お菓子の国のサーキット]

  次の世界に来た栗田くんは、喜びの声を上げた。

  「すごい!お菓子の国だ!」

  そこはお菓子でできた世界だった。空には綿菓子の雲が浮かび、キャンディの木が生えている。遠くにはコーラ瓶の火山やチョコレートの岩山、砂糖菓子の城などが見える。

  キャンディの枝を1本折ってなめながら歩いていくと、子供たちが集まっていた。全員2頭身で、お菓子をイメージした服や帽子などを着けている。

  横にはお菓子で作られたレーシングカーが並んでいる。周囲の景色を見ると、ここはサーキットのようだ。

  (あの子たちはレーサーかな?見物しよう!)

  駆け寄っていくと、レーサーたちは栗田くんをにらんだ。

  「あんた誰?他のゲームから来たの?」

  「見覚えない顔ね。」

  丸顔の王と緑のキャンディ──キャンディ大王と側近のサワー・ビルも現れた。

  「お前はいったい何だね。動物型クッキーか?」

  「失礼な!ぼくはシマリスの栗田 永雄…」

  「ほう、動物か!雑菌だらけの動物がここにいたら、お菓子が食べられなくなってしまうだろう!

  おや、何か異臭がするぞ!あっ、お前の通った後のお菓子にカビが生えてる!」

  「えっ、それは大変だ…ってカビなんか生えてないじゃないか!」

  「ハッハー、愚かなリス野郎!コロリと騙されたな!

  とにかくここはお前のいる場所じゃない!さっさと自分のゲームに戻れ!」

  キャンディ大王は一見するとひょうきん者のような見た目だが、栗田くんに向けて平気で毒舌を吐いている。

  「さあ、早く出てってください。これ以上大王様を怒らせるとまずいですから。」

  サワー・ビルにも追い出され、栗田くんはその場を後にした。

  (楽しそうな世界なのに、みんなひどい奴だ…)

  悲しい表情を浮かべる栗田くん。物陰から一同の会話を聞いていると、彼の心を動かす情報が飛び込んできた。

  「まさか変なリスが乱入してくるとは思わなかった。やっとレースが始められる。

  皆の者、優勝賞品のシュークリーム20個を目指して頑張れよ!まあ高確率でわしの物になるだろうけどな!」

  (シュークリーム20個だって!? なんとしてでも参加しないと!でもどうすれば…)

  その時、ポケットに入れていた物を思い出した。

  (そうだ、ぼくは魔法のランプを持ってる!今こそそれを使う時だ!)

  取り出したランプをこすり、ジーニーを呼び出した。

  「はいご主人様、ご用は何でしょう?」

  「2つ目の願いだ。今からあそこで始まるレースにぼくが出られるようにして、なおかつ優勝できるようにして!」

  「了解了解!」

  ジーニーは手を2回叩いた。

  「さあ、これでレースに出られるぞ!楽しんできてくださ~い!」

  恐る恐るサーキットに向かうと、キャンディ大王が明るく出迎えてくれた。先程とは人が変わったようだ。

  「栗田くん、君を待ってたぞ!君のカートも用意してある!」

  彼の名前にふさわしく、モンブランやマロングラッセが飾られ、様々な色のクリームが塗られたカートだ。

  「すごい!かっこいいしおいしそうだ!」

  「食べたらだめだぞ。レースができなくなるからな!ハハハ!

  さあ、もうすぐレースが始まる。皆の者、位置に着け!」

  十数台のカートがスタートラインに並んだ。栗田くん、キャンディ大王、その他レーサーたち。

  コース横の客席は大勢のキャンディやクッキーで埋まり、歓声が響いている。レーサーたちも気合十分だ。

  栗田くんはハンドルを握りながら、考えていた。

  (この世界は子供でもレースができるんだ。みんな免許を持ってるのかな?

  いや、キャンディ大王が「自分のゲームに戻れ」とか言ってたぞ。つまりここはゲームの中かな?)

  彼の考えは正しかった。ここは「シュガー・ラッシュ」というアーケードゲームの世界だ。

  シグナルが鳴り、レースが始まった。カートが一斉に発車する。

  栗田くんに運転経験はないが、まるで前からレーサーだったかのように運転できる。ジーニーのおかげだ。

  他のカートを次々に抜き、あっという間に3位。走っていると、前にアイテムボックスが現れた。

  それを取ると、カートの後ろに巨大なアイスクリームが現れた。

  「アイテムゲット!アイスクリームボムだ!」

  どこからか聞こえるアナウンス。それを聞いた瞬間、使い方を直感で理解した。

  「それ、喰らえ!」

  レバーを引くと、コーンからアイスクリームが飛び出して後続車をコースアウトさせた。

  様々なコースを駆け抜ける栗田くん。アイスクリームの山間をくぐり、ケーキの外周を走り、転がってくるガムボールをよけながら谷を越えた。

  洞窟を抜け、最後の直線コースに入る頃には1位になっていた。振り向いても他のレーサーは来ない。

  「よし、ぼくの勝ちだな!」

  その時、キャンディ大王が追い上げてきた。

  「まだ決まったわけじゃないぞ!わしはレースの天才だからな!」

  栗田くんは慌ててアクセルを踏み込んだが、大王も負けてはいない。すぐに栗田くんは追い抜かれた。

  「これでわしの勝ちだ!」

  次の瞬間、大王のカートがエンストした。

  「あっ、そんな!」

  その隙に栗田くんは追い抜き、見事に1位でゴール。観客たちの歓声に迎えられた。

  全レーサーがゴールすると、表彰式が始まった。

  「まさかあんなアクシデントが起きるとはな…まあレースとは結果が最後までわからないから面白い物だ。

  さあ栗田くん、賞品のシュークリーム20個だ。」

  「ありがとう!嬉しいよ!」

  キャンディ大王から賞品を受け取った栗田くんは、満面の笑みを浮かべながらサーキットを後にした。

  チョコレートの岩陰まで行くと、夢中でシュークリームを頬張った。カスタードクリームがたっぷり詰まっており、非常に甘い。

  (そうだ、せっかくだから…)

  栗田くんはランプをこすり、ジーニーを呼び出した。

  「おや、3つ目の願いが決まったのかな?」

  「違うよ。ジーニーのおかげでレースに勝てたから、賞品のシュークリームを半分あげようと思ってね。」

  「ワ~オ、それは嬉しいねえ!君に感謝するよ!」

  シュークリームを食べ終わると、ジーニーはランプに戻っていった。栗田くんも扉探しを再開。

  キャンディーでできた木の幹に、光る扉が付いていた。

  [newpage]

  [chapter:夕日とアイス]

  次の世界は、夕暮れの町だった。

  レンガ造りの建物が並び、路面電車が走っている。どことなくレトロな雰囲気の場所だ。

  (なんだか心が落ち着くな。激しいレースの後だから、よりそう感じるよ。)

  安らいでいると、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。

  振り向くと、栗田くんよりも年上の少年少女が3人走ってきた。筋肉質な少年、太めの少年、細身の少女だ。

  「よっしゃ、今日も俺が一番だぜ!」

  「ハア、ハア…もう、ハイネは足が速すぎるよ!」

  「お前が遅いんだぞ、ピンツ。さあ、今日もお前のおごりな!」

  「待って、今日は私が払うわ!ピンツのお金がなくなると困るから。」

  「ありがとう、オレット!」

  どうやら、何かを買う所のようだ。栗田くんは思わず声をかけた。

  「ねえ、みんな何を買いに行くの?」

  「ん?なんだ君は。リスか?」

  「この町じゃ見ない顔だね。初めて来たのかな?」

  「リスくん、あなたのお名前は何?」

  「ぼくは栗田 永雄。君たちはハイネ、ピンツ、オレットだよね。」

  「俺たちの名前を知ってるとは驚いたな。」

  「さっきの会話で、みんなの名前が出てきたからね。それで何を買いに行く所?」

  「私たちはおやつを買いに行く所よ。この町の名物をね。」

  「おやつだって?ぼくも食べたいな!」

  「それじゃ、店に行きましょう。」

  目的地はすぐそばに建っている駄菓子屋。オレットが店頭に顔を出した。

  「おばさん、シーソルトアイス4本ください!」

  しばらくして、全員分のアイスが手渡された。水色の棒アイスだ。

  「ソーダの味かな?」

  「食べてみればわかるさ。」

  栗田くんがかじろうとすると、ピンツが止めた。

  「待って、僕たちのとっておきの場所へ案内するよ!そこで食べるアイスは最高なんだ。

  さあ急いで!アイスが溶けないうちにね!」

  ピンツの合図で、3人は広場からつながっている坂を上っていった。栗田くんも後を追う。

  坂の上には、大きな駅が建っていた。その建物には時計台が付いている。

  「ここはセントラルステーション。さあ、こっちへ。」

  構内に入り、長い階段を上っていく。やがて明るい場所に出た。

  「わあ、きれい!」

  思わず声を上げる栗田くん。階段の先は時計台の上だった。

  夕日が正面に見え、町全体も見渡せる。町の周囲は野原で、所々に小さな家が並んでいる。

  「素敵な景色だね…えっ!?」

  ハイネたちは屋上の端に腰かけた。そこには柵もないため、足は空中に出ている。

  もしこの状態で背中を叩かれたりしたら、間違いなく地面へ落下するだろう。

  「そんな所に座ったら危ないよ!」

  「気をつければ大丈夫だ。栗田、お前も来な。」

  「でもぼくってお腹大きいから、重心が前にかかって落ちそう…」

  「いや、ピンツを見ろよ。座れてるだろ。」

  「んー、あの子はぼくほど太ってないから、ちょっと違う気がする…」

  「ほら、早く決めないとアイスが溶けるぞ。」

  アイスが食べたい栗田くんは覚悟を決め、屋上の端へ向かった。お腹で見えない足元に気をつけながら歩き、恐る恐る腰かけ、できるだけ重心を後ろにかける。

  「よくここまで来たな。さあ、みんなでアイスを食べよう!」

  4名はアイスをかじった。

  「甘くてしょっぱい…だからシーソルトアイスって言うんだね。」

  「この町の子供はみんな好きなんだ。栗田くんも気に入ったかな?」

  「うん、とっても!」

  味の良いアイスに、最高の眺め。栗田くんの心から恐怖感は消えていた。

  「そう言えば、この町の名前は?」

  「ここはトワイライトタウン。見ての通り夕日がきれいな町さ。」

  「トワイライトタウンには楽しい物がいっぱいある。広場沿いに建つレストラン、時々開かれる映画会、年に一度のストラグルバトル大会!」

  「七不思議も伝わっているのよ。幽霊列車、もう1人の自分、町外れの森にある幽霊屋敷…」

  「この駅からは電車でいろいろな場所に行けるんだ。海にもつながっているんだよ。

  いつかみんなで食べた焼きそば、おいしかったな…」

  「楽しそうな場所だね。ぼくの町には七不思議のようなミステリーはないから、ちょっとうらやましいな…

  それで、そのレストランでは何がおすすめ?」

  「ブイヤベースとか、タルトゥ・オ・フリュイとかかな。」

  その後も様々な事を話しているうちに、アイスを食べ終わった。

  「あれ、これは…やった!」

  栗田くんの棒には「あたり」と書かれていた。ブルーノの予言した未来は、これで全部出揃った。

  「そのリアクション、もしかして当たりが出たの?」

  「そうだよ。」

  「すごいじゃないか!お前ラッキーだな!」

  「それを店に持っていくと、もう1本もらえるのよ!」

  「ありがとう。後で行ってみるよ!」

  時計台から下りて、ハイネたちと別れた。

  「栗田、また会おうな!」

  「一緒にいられて楽しかったよ。」

  「さてと、私たちは宿題やらなくちゃね。」

  「みんな、バイバイ!」

  栗田くんは当たり棒でアイスを交換すると、なめながら町を歩いた。

  (しかしこの世界にも焼きそばがあるんだ。洋風の町なのに意外だな。

  さて、次の扉は…ここかな?)

  ある建物の横から、地下通路に入れた。その奥で扉が光っていた。

  [newpage]

  [chapter:プリンセスの目覚め]

  次の世界は、明るい森の中。

  歩いていくと小屋があり、その前で7人の老人が何かを囲んでいる。全員が悲しげな表情だ。

  見た目は人間だが、身長は栗田くんよりも低い。彼らはこの森に住む7人のこびとだ。

  「何をしているのですか?」

  眼鏡をかけたこびと──ドックが振り向いた。

  「わしらは…ってお前はリスかね?この森にこんな大きいリスがいるなんて知らなかったよ。

  とにかくこれを見てくれ。」

  一同が囲んでいる物は、ガラス製の棺だった。中では女性が眠っている。

  「し…死んでる!?」

  「彼女は白雪姫。女王によって殺されそうになり、ここへ逃げてきて、わしらと一緒に生活を始めた。

  しかし、その生活は1日も続かなかった。わしらが出かけている間に女王が老婆に変身して現れ、彼女に毒リンゴを食べさせた。

  その老婆は自滅したものの、白雪姫はあれから半年以上目覚めない。だからわしらはこうして守っているのだよ…」

  「それは気の毒に…なんとかできないかな?」

  そこへ足音が聞こえてきた。

  「おお、噂は本当だったか。」

  栗田くんは尋ねた。

  「あなたは誰ですか?」

  「僕は隣国の王子。ガラスの棺に眠る乙女の噂を聞いて、探しに来た所だ。

  しかしここまで大きく太ったリスがいる事も驚きだな。まあまずは乙女の方を…」

  棺を覗き込んだ王子は、驚きの声を上げた。

  「こ、これは…ああ、なんて事だ…」

  ドックが尋ねる。

  「知ってるのか?」

  「そうだ。あれは半年以上前…森を散歩していた僕は、美しい歌声に惹かれて進んでいった。

  その先には城があり、そこで歌っていた美女と出会った。短い間だったが、彼女の顔や声ははっきりと覚えている。

  その彼女が、まさかこんな事になっているとは…せめて最後にキスを…」

  「いいの!? 死体ですよ!」

  「確かにそうだ、リスくん。しかしこれが最後の顔合わせになるのだから…

  …待てよ。噂を聞いたのは結構前だから、その時から姿が変わっていない事になる。つまり、彼女はまだ生きているかもしれない。」

  王子は棺を開け、白雪姫にキスをした。

  その瞬間、白雪姫の目が開いた。眠りから覚めたように体を起き上がらせる。

  「あら、私は今まで…あなたは!」

  「良かった、生きてるぞ!」

  「王子様…私を目覚めさせてくださったのね。嬉しいわ!」

  「ああ、僕も嬉しいよ!」

  王子は白雪姫をお姫様抱っこして、喜び合った。こびとたちも飛び上がったり、転げまわったりして喜んでいる。

  「こびとさんたちも変わらなくて良かったわ…あら、知らない顔がいるわね。あなたは?」

  「ぼくは栗田 永雄です。ただの通りすがりで、皆さんとは初対面です。

  ですが、こうして感動的な場面に立ち会えました。白雪姫さん、目覚めて良かったですね。」

  「ええ、本当に!これからは王子様と一緒にいられるのね!」

  白雪姫はこびとたちにキスをして、王子と白馬に乗り、去っていった。

  「さようならー!」

  「長いようで短い間だった。楽しかったよ!」

  「良かったらまた来てくれ!わしらはいつでも待ってるからな!」

  こびとたちは、白馬が見えなくなるまで叫び続けた。

  「さて、わしらは仕事に戻るとするか…」

  その時、太ったこびと──ハッピーが叫んだ。

  「ちょっと待て!わしだけキスをしてもらってないぞ!おーい、待ってくれー!」

  ハッピーは慌てて走っていった。

  「ああ、仕事が始められない…」

  少し落ち込むドック。栗田くんはそれを微笑ましく見守りながら立ち去った。

  しばらく歩くと、木の幹に光る扉が付いていた。いよいよこの先が20番目の世界だ。

  [newpage]

  [chapter:手紙の送り主]

  扉の先は、夕暮れの町だった。

  (あれ、またトワイライトタウン?いや、違うぞ。)

  今度はカートゥーンのような雰囲気だ。建物は所々が丸みを帯びていたり、微妙に歪んだりしている。

  目の前には見た事のない生き物が立っていた。身長は栗田くんより少し低く、大きな丸い耳が目立つ。魔法の鍵上部の飾りは、彼の顔と同じ形だった。

  その生き物は、裏返った声で話しかけてきた。

  「ハハッ!やあ栗田くん、冒険は楽しかったかな?」

  「うん、楽しかったよ。それで君は何?ネズミみたいだけどぼくの知ってるネズミとは全然違う…」

  「ぼくはミッキーマウス。ネズミで合ってるよ。

  この町はトゥーンタウン。君をここへ招待した理由は、今日がぼくたちにとって記念すべき日だからだ。

  ぼくの生みの親はウォルト・ディズニー。彼はウォルト・ディズニー・カンパニーを立ち上げ、世界中で愛される作品をたくさん作った。長い歴史の中で、他の映画会社や放送局を買収したり、テーマパークやゲームも作った。

  君が今まで冒険したのは、すべてディズニーの世界だったんだ。

  2023年10月16日…つまり今日、ウォルト・ディズニー・カンパニーは100周年を迎えた。この素晴らしい日を別の世界にも知ってもらおうと思って、君の元に魔法の鍵を送ったんだ。」

  「そうだったんだ…『M.M』はミッキーマウスだったんだね。」

  「もう一度聞こう。冒険の旅はどうだった?」

  「いろんな仲間と出会って、いっぱい遊んで、いっぱい食べて、スリルもあったけど最高の体験だった。今までで最高の日だよ!

  それで、この世界では何が待ってるの?」

  「ぼくと友達で、100周年のお祝いパーティーを開くんだ。さあ、こっちへ!」

  ミッキーに案内された場所は、彼の庭だった。ガーランドや風船、リボンが飾られ、テーブルには何種類もの料理が並び、仲間も集まっている。

  「みんな、お待たせ!栗田くんが来たよ!」

  「はじめまして。ぼくは栗田 永雄だよ。」

  ミッキーの仲間が、次々と声をかける。

  「栗田くん、ようこそ。私はミニーマウスよ。」

  「ぼくはドナルドダック!」

  「デイジーダックよ。みんなで楽しみましょうね。」

  「アッヒョ、ぼくはグーフィー!」

  「チップだよ!リス同士楽しもうね!」

  「ぼくはデール!ぼくの事もよろしく!」

  「はじめまして、ホーレス・ホースカラーだよ。」

  「私はクララベル・カウよー!」

  「ワンワン!」

  「こっちはぼくの飼い犬、プルートだよ。

  みんな揃ったからパーティーの始まりだ!栗田くんはこっちの椅子に…あれ、どうしたの?」

  栗田くんは傍目にもわかるほど混乱していた。

  「えーと、この世界のケモノはぼくの世界と見た目が大きく違っていて、鳥も文明を持っていて、野生の犬と進化した犬が共存していて、シマリスは野生時代のサイズなのに進化していて、でも服は着ていない…頭がこんがらがりそうだよ…」

  「世界が違えば、文化や生き物も違うんだよ。君はこれまでいろんな世界を巡ってきたけど、どの世界もいろいろ違ったよね?

  ぼくたちの見た目も君の常識とは違っているだろうけど、心は同じさ。このパーティーできっと君も楽しい気分になれる。」

  「そうだね。それじゃ、パーティーを始めよう!」

  栗田くんは椅子に座った。

  「さあ、ディズニー100周年をみんなで祝おう!」

  ミッキーの合図で、本格的にパーティーが始まった。テーブルに並ぶ数多くの料理に、皆が次々と手を伸ばす。

  スイカにかぶりつくグーフィー。ドングリをかじるチップとデール。骨をかじるプルート。

  ミッキーとドナルドはタイプライターのような音を立てながら、トウモロコシの粒を1段ずつかじっている。

  栗田くんはコーンブレッドやマフィンを頬張った。どれも期待通り、最高の味だった。

  料理がなくなると、ミニーが大きなケーキを運んできた。ピンク色で上にはベリーが並び、「Disney100」と書かれている。

  「みんなで分けましょう!」

  ミニーとデイジーがケーキを全員に取り分けた。食べてみると、中にはフルーツが詰まっている。

  「こんなおいしいケーキ、初めてだ!」

  栗田くんは喜んだ。

  ケーキを食べ終わると、次はゲームの時間。

  「さあ、プルートにしっぽを付けよう!」

  塀にはしっぽのないプルートの絵が貼られている。目隠しをしてしっぽ型の紙を持ち、絵の正しい場所に付けるゲームだ。

  なかなか塀にたどり着かず、イライラしているドナルド。見当違いな場所に貼りつけてしまうグーフィー。大体合っているが少しずれた位置に付けたデイジーやホーレス。結果にそれぞれの個性が出ている。

  栗田くんはプルートの頭部分に付けてしまった。成功者はミニーとプルートのみ。

  「次はダンスの時間だよ!好きなように踊ろう!」

  ミッキーがプレイヤーのスイッチを入れ、音楽が始まった。

  「ミッキーマウス・マーチ」「ジャンボリミッキー!」「マウスケダンス」「ディスコ・ミッキーマウス」…様々な曲に合わせて、全員で踊った。

  振りつけのある曲もあれば、好きなように踊った曲もある。全員の気分はさらに上がった。

  ダンスが終わる頃、空はすっかり暗くなっていた。

  「もうすぐ始まるよ!」

  「何が?」

  「空を見て。あれが100年分の夢さ!」

  シュルシュルシュル…ドーン!

  トゥーンタウンの空に花火が打ち上がった。

  「うわあ、きれい!」

  感動の声を上げる栗田くん。チップとデールは彼の両肩から眺めている。

  ミッキーとミニー、ドナルドとデイジー、ホーレスとクララベルは寄り添いながら眺めていた。

  (ホーレスとクララベルは馬と牛なのにカップルなんだ。ぼくの世界じゃ異種族間の恋愛なんてまずないのに…

  まあ、口には出さないでおこう。この世界ではそれも普通なのかもしれないからね。)

  20分に渡り、様々な花火が上がった。

  花のように広がる物、小さな火花があちこちへ飛ぶ物、滝のように流れ落ちる物、星やハート、ミッキーを模した物…

  バックでは美しい音楽が流れる。栗田くんは知らないが、ディズニー作品で使用された数多くの名曲だ。

  最後には夜空を埋め尽くすほどの量が打ち上がり、花火は終わった。

  「ミッキー、きれいだったわね…」

  「本当に夢のような時間だったよ。大好きなミニーや友達と一緒に見られたからね。

  栗田くんももちろん楽しめたよね?」

  「もちろん!最高だったよ!冒険の終わりにふさわしい物が見られたからね。」

  花火の煙も消えた空には、星が輝いていた。

  その時、夜空を一筋の光が横切った。

  「あっ、流れ星…」

  「嬉しいサプライズだね、ハハッ!栗田くんは何を願った?」

  「一瞬だったから考えなかったな。でもこの冒険で楽しい事をいっぱいしたから、これ以上願うのはちょっと欲張りかな。」

  そこで栗田くんは思い出した。

  「願い…そうだ、まだ1つ残ってた!」

  [newpage]

  [chapter:最後の願い]

  ポケットから魔法のランプを取り出し、ジーニーを呼び出した。

  「おっ、最後の願いが決まったのかな~?」

  「これから考えるよ。最後の願いは…どうしよう…

  そうだ、あれがいい!」

  「決まったみたいだね。それでは栗田くん、お願いしま~す!」

  「ぼくの最後の願い。それは…

  プレジャー・アイランドでロバにされた子供たちを全員元のニンゲンに戻して、みんなの家に帰してあげて!」

  「本当にそれでいいの?ジーニーを自由にするってのは?」

  「ごめん、ジーニー。でもぼくは考えたんだ。

  ジーニーは自由になりたいかもしれないけど、君が自由になったらもうそれ以上誰かの願いは叶えられなくなる。

  それに君だけが自由になるより、あの子たちを自由にした方がいい事だと思ったんだ。」

  「ああ、栗田くん…君は実に素晴らしい心掛けの持ち主だ!最後の願いを自分以外の事に使うなんて!ジーニー感動しちゃった…

  それでは、みんなを助けに行ってきま~す!バイバ~イ!」

  ジーニーはランプを持つと、光に包まれて消えていった。

  一部始終を見ていたミッキーたちも、拍手を送った。

  「栗田くんって本当に素晴らしいのね!」

  「アッヒョ、ぼくだったら3つの願いを全部食べ物に使っちゃうかもね。」

  「やっぱり君に魔法の鍵を送って正解だったよ。

  さあ、これで君とはお別れだ。最後にみんなで握手をしよう。

  あ、その前に魔法の鍵をちょうだい。」

  全員と握手をすると、ミッキーは鍵を自宅のドアに当てた。ドアが金色に輝き、中央に鍵穴が浮かぶ。

  「このドアを通れば帰れるよ。それじゃ、バイバイ!」

  「さようならー!みんな楽しかったよ!いろいろありがとう!」

  栗田くんはミッキーたちに手を振り、ドアを開けると光に包まれた。

  光が消えると、そこは自分の部屋だった。時計を見ると、冒険に出てから1分しか経っていない。

  ミッキーからの手紙は、机の上に置かれたままだ。

  (夢だったのかな…いや、間違いなく現実だった。だって手紙があるんだから。

  最高の思い出が作れて良かったよ。ミッキー、ありがとう…)

  栗田くんは宿題を始めた。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  「ランプウィック!今までどこに行ってたのよ!」

  「母ちゃん…ごめんよー!もうどこへも行かないから!ちゃんと学校に通うから!」

  「学校さぼって遊んでたんだね!このバカ息子!」

  母親に怒られながらも、ランプウィックは幸せだった。突然現れたジーニーによって、元の姿に戻してもらったためだ。

  ジーニーの能力と栗田くんの優しい心により、町の悪い子たちは改心していった。

  プレジャー・アイランドを訪れていた子の全員が悪い子だったわけではない。誘いを断り切れずに来てしまった良い子も多くいた。その子たちもやり直せるチャンスを手に入れた。

  ////////////////////////////////

  「やっと終わった。久々の大仕事だったな…」

  ジーニーは元の洞窟に戻ると、ランプを元の位置に置いて中に入った。

  「やっぱり我が家はいいな~。次に出られるのはいつだろう?

  その時はどんな事を言おうかな?大げさに言って相手をびっくりさせるのもいいな。『1万年間じ~っとしてたから首がガッチガチだわさ~!』なんて言ってみようかな?」

  彼は思索にふけっていた。

  その頃、洞窟の入り口に青年と猿…アラジンとアブーがたどり着いていた。

  ジーニーはまだ知らない。新たな物語がすぐに始まる事を…

  [chapter:THE END]

  [newpage]

  [chapter:CAST]

  [chapter:「ケモノ小学校埼玉校」より]

  栗田 永雄

  栗田 幸江

  [chapter:「ミッキー&フレンズ」より]

  ミッキーマウス

  ミニーマウス

  ドナルドダック

  デイジーダック

  グーフィー

  プルート

  チップとデール

  ホーレス・ホースカラー

  クララベル・カウ

  [chapter:「白雪姫」より]

  白雪姫

  王子

  七人のこびと

  [chapter:「ピノキオ」より]

  ピノキオ

  ジミニー・クリケット

  ランプウィック

  [chapter:「ふしぎの国のアリス」より]

  チェシャ猫

  マッドハッター

  3月うさぎ

  ドーマウス

  [chapter:「ピーター・パン」より]

  ピーター・パン

  ティンカー・ベル

  ウェンディ

  ジョン

  マイケル

  [chapter:「メリー・ポピンズ」より]

  メリー・ポピンズ

  バート

  ジェーン

  マイケル

  狐

  [chapter:「くまのプーさん」より]

  プー

  イーヨー

  ラビット

  ピグレット

  ティガー

  [chapter:「美女と野獣」より]

  ベル

  野獣(声のみ)

  コグスワース

  ルミエール

  ポット夫人

  チップ

  [chapter:「アラジン」より]

  アラジン

  アブー

  ジーニー

  [chapter:「ノートルダムの鐘」より]

  カジモド

  エスメラルダ

  クロパン

  [chapter:「キングダム ハーツ」より]

  ハイネ

  ピンツ

  オレット

  [chapter:「ウォーリー」より]

  ウォーリー

  イヴ

  [chapter:「プリンセスと魔法のキス」より]

  ティアナ

  ナヴィーン

  ルイス

  [chapter:「塔の上のラプンツェル」より]

  ラプンツェル

  フリン・ライダー

  [chapter:「シュガー・ラッシュ」より]

  キャンディ大王

  サワー・ビル

  レーサーたち

  [chapter:「アナと雪の女王」より]

  アナ

  エルサ

  オラフ

  クリストフ

  スヴェン

  マシュマロウ

  [chapter:「ベイマックス」より]

  ヒロ

  ベイマックス

  [chapter:「ズートピア」より]

  ジュディ

  [chapter:「リメンバー・ミー」より]

  ミゲル

  ヘクター

  ダンテ

  [chapter:「ミラベルと魔法だらけの家」より]

  ミラベル

  ルイーサ

  イサベラ

  アルマ

  アグスティン

  フリエッタ

  ペパ

  フェリックス

  ブルーノ

  ドロレス

  カミロ

  アントニオ

  [chapter:執筆者]

  ねおじむ

  [chapter:執筆期間]

  2022年9月某日~2023年10月15日

  [uploadedimage:16622201]