[chapter:プロローグ]
2023年8月のある日、ケモノ界のさいたま市大上区にて。
「それじゃ、行ってくるわね。」
「2時間ぐらいで戻るからな。」
「行ってらっしゃい!」
両親が車で買い物に出たため、太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は留守番だ。
しばらくすると、インターフォンが鳴った。
(お届け物かな?)
モニターで玄関前を確認した彼は、驚きと喜びの混ざった表情を浮かべた。
「あっ、君は!」
そこには彼を3歳ほど成長させたような少年が立っていた。銀色の全身タイツを着ている。
栗田くんは早速ドアを開け、挨拶をした。
「長尾 繰太くんじゃないか!久しぶりだね!」
長尾 繰太くん…彼は異世界の住民。SF作品に登場する未来都市のような町に住んでいる。
栗田くんとよく似ているが、彼と異なり歳を取る。ケモノ界では2017年以降、全住民の成長が止まっている。
彼との対面は、これが3回目。
「何の用でここへ来たの?」
「栗田くんを過去の世界に連れて行くためさ。君がそこに行く事は、正しい歴史なんだ。」
「よくわからないけど、何かすごそうだね。」
[newpage]
[chapter:旅の始まり]
靴を履いて外へ出ると、家の前に白い球体のような乗り物が止まっていた。長尾くんの乗ってきた異世界タイムマシンだ。
これを使えば、あらゆる世界や時代に最大1分で行ける。
定員は5名だが、今日は2名だけで乗る。これは栗田くんにとって初だ。
「さあ、乗り込んで!」
その時、栗田くんは思いついた。
「ねえ、目的地の前に3ヶ所寄って欲しい場所があるんだけど、いいかな?」
「いいけど、それはどこ?」
「おねしょ島、スカンキー王国、ファンタスティカ王国さ。あの戦いで一緒だったみんなと、久々に会っておきたいんだ。」
「わかった。それじゃおねしょ島へ出発だ!」
長尾くんが場所を設定すると、異世界タイムマシンは宙に浮かんで灰色の霧に包まれた。この乗り物で時間や世界を移動する際は、霧の中を進む。
「イタ助くん、今頃どうしてるかな?」
[newpage]
[chapter:かつて戦った仲間たち]
1分後に霧が晴れると、マシンはおねしょ島の野原に到着していた。
この島では子供のおねしょが良い事とされ、排泄行為やおならについても寛容だ。
「ぼくはここでマシンを守ってるよ。できるだけ早く帰ってきてね。」
「了解!行ってきまーす!」
栗田くんがその場を離れると、長尾くんはステルスモードを起動した。これで周囲からは見えなくなるため、マシンがあると気づかれる心配はない。
野原を通り過ぎ、森に入ると子供たちの声が聞こえてきた。
「なあ、今日は何する?」
「追いかけっこがいい!」
「それは昨日もしたから、木登りにしない?」
木の陰から覗くと、ふんどしを締めたイタチ──イタ助を先頭に、イタチ科及び近縁種の子供たち計7匹と黒猫1匹が歩いてきた。
全員が下着姿だが、これがこの島における子供の服だ。
(間違いなくイタ助くんだ。あれが彼の友達か…)
栗田くんは木の陰から飛び出した。
「やあイタ助くん、久しぶり!」
「うわっ、何だ…って栗田くん!こちらこそ久しぶりだね!」
2匹は握手を交わした。
「栗田くん、あの戦いが終わってからはどう?」
「今まで通りの平和な暮らしが戻ってきたよ。」
「ぼくも同じだよ。毎日みんなで楽しく遊んでる。」
イタ助以外の子供たちは、あっけに取られていた。
「あの子、誰?」
「服を着てるから、島の外から来たみたいね。」
「ぼくたちは知らないのに、イタ助くんは知ってるんだな…」
栗田くんもその視線に気がついた。
「あ、みんなはじめまして!ぼくは栗田 永雄。イタ助くんの知り合いだよ。」
「あんな知り合いがいたのか!イタ助とはどこで出会ったんだ?」
「あ、うーん…君たちの知らない所でかな。
そうだ、君の友達を改めて紹介してくれない?君たちの活躍は前に聞いたけど、イタ助くん以外と直接会うのは初めてだから。」
「わかった、紹介しよう。
コツメカワウソの川太郎、フェレットのフェレ吉、スカンクのカンク、オコジョのこじょ子、ラッコのラコの海、オオカワウソのオー太。これにぼくを加えた7匹が下着イタチさ。」
「ああ、君が川太郎くんか!おねしょのコンテストに出てた子だね。
ぼくはあの会場にいたんだ。君の提案、素敵だったよ!」
「えっ、栗田くんはあそこにいたの!? びっくりだ!」
驚く川太郎。イタ助が仲間の紹介を続ける。
「で、この猫はねこ次郎。1年ぐらい前だったかな…突然島にやって来たんだ。」
「へえ、どこから?」
ねこ次郎が口を開いた。
「それがわからないんだ。ここに来る前の記憶がないんだよ。
気がついたらぼくはこじょ子ちゃんちの庭に倒れていて、そのまま家族に迎え入れられた。あの家は島で一番広いから、ぼくの住む部屋も確保できたんだ。」
「そうよ。私のおじいちゃんは島長だから、家もとても大きいの。
それにねこ次郎くんは働き者だから、毎日助かってるわ!」
(不思議だ。ぼくの世界でも似たような事があったぞ。
牛の雪見 健吾くん…雪見家に突然現れ、養子になった働き者…)
栗田くんは首を傾げた。
「みんな元気で良かったよ。それじゃ、またね!」
「うん、元気でね!」
栗田くんはマシンに戻り、次の世界に向かった。
[newpage]
20秒後、スカンキー王国の森に到着。おねしょ島と同じ世界にある、スカンクだけが住む王国だ。
森の中を歩いていると、小屋が見えてきた。
(多分…いや、絶対ここにいる!)
ドアをノックすると、スカンクの中年女性が出てきた。年齢の割に小柄で、身長は栗田くん程度だ。
彼女の名はヴェルトン。有能な魔法使いだ。
「あら、栗田くん!お久しぶりね。」
「こんにちは、ヴェルトンさん。近況報告に来ました。」
「別の世界からよく来たわね。ひょっとしてあの乗り物で?」
「はい、そうです。」
「ちょうどスイートポテトを作ってた所だったの。良かったら少し食べる?」
「ありがとうございます!よろしくお願いします。」
栗田くんとヴェルトンは、スイートポテトを食べながら語り合った。
「あの後、おねしょ島は竜巻で破壊されたなんて…ヴェルトンさんがいなければ大変でしたね。」
「ええ、あの時来て良かったわ。すぐに何もかも元通りにできたもの。」
20分ほど会話を続けてから、マシンに戻った。
[newpage]
次の世界はファンタスティカ王国。また別の世界にある、おとぎ話のような王国だ。
この国は人間が暮らしている。城の中庭に着いた栗田くんは、ティータイムを楽しんでいる2人に手を振った。
「エイミー姫!ジェームズ王子!遊びに来たよ!」
「あら、栗田くん!」
「よく来たね。君のお茶も用意させるよ。」
横に立っていた金髪の少年が、城の中へ走っていった。
「今の子は誰?ロバートかと思ったけど、彼より大きいから違うよね?」
ロバートとは2人の息子。現在は4歳だ。
「彼はケヴィンだよ。1年ぐらい前、この中庭に倒れていたんだ。
彼は過去の記憶を失っていて、家族も見つからない。」
「だから私たちの養子にしたわ。名前は私が付けたの。
とっても働き者だから、城のみんなも助かってるわ!」
栗田くんは驚いた。
「ここにもそんな子が来てたの?ぼくの所も、イタ助くんの所も同じなんだ。
1年ぐらい前、お金持ちの家に突然男の子がやって来て、そこの養子になっている。おまけにとっても働き者なんだ。」
「それは驚きだな。きっと何か関係があるのかもしれない。」
「世界には不思議な事がまだまだあるのね…」
そこへケヴィンが戻ってきた。
「お客様、お茶です。」
「ありがとう。」
その後から4歳のロバートも現れた。
「やあロバート!大きくなったね!」
「ああ、時々パパやママが話してる大きなリスさんだね。はじめまして。
初めて会うのに、ぼくの事を知ってるんだね。」
栗田くんは驚いた。2年前にもこの世界を訪れ、1歳末のロバートと出会っているからだ。
「えっ、ぼくだよ!栗田 永雄!2年ぐらい前に会ってるよ!」
「そうよ、会ってるわよ!」
「ロバート、忘れたのか?みんなであの場にいたじゃないか!」
それでもロバートは思い出さない。
「ぼくは初めて会ったよ。前に会った覚えはないなあ。」
「何があったんだろう…小さい頃に1回会っただけだから、忘れてるのかな?」
「そうかもしれないわね。まだ子供だから。」
「僕も同じだ。幼い頃の事などあまり覚えていない。記憶というのはそういう物だろう。
さっきは悪かった。まだ1歳なら仕方ないな。」
「あ、ジェフ!みんな!」
ロバートが指さした方向を見ると、中庭に4匹のシマリスが現れた。栗田くんと異なり、野生だ。
ジェフはエイミー姫の親友。妻と2匹の子供も一緒だ。
「おお栗田、久々じゃないか!あの時から全然変わってないな。」
2年前に会った時は青年だったが、現在は中年の声だ。子供たちも思春期のように見える。
「ジェフ、フローラ、ティモシー、ジュリー!2年ぶりだね!」
すると、4匹は不思議な顔をした。
「2年?俺が会うのは5年ぶりだぞ。」
「初めて会うのに、どうして私や子供たちの名前を知ってるの?」
「これがあの大きなリス?はじめまして。」
「別の世界にはこんなリスがいるのね。」
まるで初対面のような反応だ。2年前に若者だったジェフやフローラ、物心のついた子供だったティモシーとジュリーが忘れているとは考えにくい。
「みんなどうしちゃったのかな…」
「私は2年前に出会った事を覚えているわ。ジェームズも同じよね?」
「ああ、僕も覚えている。なぜ栗田くんと僕たち以外は忘れたんだろう…」
疑問は残ったが、一同はティータイムを楽しんだ。
「楽しかったよ。それじゃ、またいつか!」
栗田くんはエイミー姫たちと別れ、マシンに戻った。
「お待たせ、長尾くん。これでぼくの用は済んだよ。」
「それじゃ、本題に入ろう。改めて出発だ!」
「目的地はいつの時代?」
「着いたら教えるよ。」
[newpage]
[chapter:昭和の町へ]
霧が晴れると、そこは住宅街だった。どこか懐かしい雰囲気だ。
「長尾くん、ここはどこ?」
「昭和30年…1955年の川獺市だよ。」
「つまり70年近く前の、隣の市か。なぜここに?」
「その辺を歩いていればわかるよ。とにかく、君がこの時代に来る事は正しい歴史だ。
そうだ、通信機を渡しておこう。もしぼくに用事があれば、ボタンを押してね!」
「ありがとう。ちゃんと使うよ。」
「うん。それじゃまたね!」
通信機をポケットに入れた栗田くんは、マシンを降りて通りを歩き始めた。
平屋建ての家が多く、道路は舗装されていない。生活音がかすかに聞こえ、オート三輪が通り過ぎていった。
(社会の教科書で見たような景色だ…古い物ばかりなのに、新しい世界を見ている気分だよ!)
歩くだけで心が躍る。
角を曲がると、向かい側から2頭の男の子が歩いてきた。
1頭は大柄で固太りのヒグマ。タンクトップとジャージのズボン、草履を身に着けている。タンクトップからは見事な太鼓腹と出べそが覗いている。
もう1頭は小柄なヒョウ。シャツにズボン、靴を身に着けている。太っているが、栗田くんと比べれば若干細い。
彼らは栗田くんを見た途端、急に近寄ってきた。
「よう、田宮!今日も遊ぼうぜ!」
「いつもの空き地に集合ね!」
「え、ちょっと、ぼくは田宮じゃなくて…」
「何言ってんだよ。どう見ても田宮だぞ。」
「君を迎えに行く所だったけど、手間が省けて良かったよ!さあ、おいで!」
[newpage]
[chapter:空き地に集合]
反論もできないまま、空き地に案内された栗田くん。土管や木箱の積まれた一角に、3頭の子供が集まっていた。
「おう、来たか田宮!」
筋肉質な馬の男の子が、ややぞんざいに話しかけた。
「さあ、今日も楽しく遊びましょうねー!」
細身なホンドギツネの女の子が、元気よく声をかける。
「やっぱり、田宮がいないと物足りないのよね。」
細身なオコジョの女の子は、控えめに言った。
(どうやらこの子たちには「田宮」という友達がいて、その子はぼくにそっくりらしい。)
栗田くんは事情を察し始めた。
(でも「田宮」って聞いた事のある苗字だな。どこで聞いたっけ…)
その時、空き地にまた2匹入ってきた。
「ごめんごめん、遅くなって…えっ!? ぼくがもう1匹いる…」
「田宮の兄ちゃん、あれきっとお化けよ!」
1匹目は栗田くんによく似たシマリスの男の子。違いは出べそな点とタンクトップを着ている点ぐらいだ。どうやら彼が田宮くんらしい。
2匹目は茶色い猫の女の子。他の子に比べてかなり幼く、細身で吊りスカートを履いている。
ヒグマなど5頭も、田宮くんを目にして騒然となった。
「え、あっちが田宮なのか?じゃあこいつは誰なんだ!?」
「太ったシマリスなんて、この辺に住んでたっけ?」
「まさか田宮家の隠し子じゃないわよね?」
栗田くんはとっさに言った。
「待って!話を聞いて!ぼくは…あの…この近くに住んでる親戚の所に遊びに来たんだ!」
「ああ、そうだったのか。間違えて悪かった。」
「あまりに田宮くんそっくりだったからね。」
「本当にぼくみたいだ…」
「よく似た子もいるものね…」
「良かったら、俺たちの仲間にならないか?」
「もちろん!」
こうして、栗田くんは合計7頭の子供たちに加わった。
[newpage]
[chapter:個性豊かな仲間たち]
「まずはみんなの事を教えてくれない?」
栗田くんの言葉に、ヒグマが答える。
「わかった。今から舞台を用意する。この上に立って自己紹介をするんだ。」
彼は木箱の1つを運び、舞台の代わりにした。
「まずは俺が…いや、田宮から始めてもらおう。あいつは田宮の事が気になってると思うからな。」
「それもそうだね。ありがとう。」
田宮くんは木箱に乗り、自己紹介を始めた。
「ぼくは田宮 利助。川獺小学校に通う4年生だよ。」
フルネームを聞いた瞬間、栗田くんは思わず口に出していた。
「おじいちゃん!?」
その名前は、母方の祖父と同じだった。
(そうだ、おじいちゃんは川獺市育ちだった!それに1946年生まれだから、この時代では9歳でぼくと同い年。
つまり、ぼくは子供時代のおじいちゃんと出会っているんだ!)
感動と興奮が隠せず、震えている栗田くん。田宮くんは怪訝な顔で彼を見た。
「い、いきなりどうしたの?」
「あ、いや、ぼくのおじいちゃんと名前がそっくりだったからつい…」
「なんだ、そうだったのか。やっぱりぼくと栗田くんは似ているね。
ぼくはのんびり屋で食いしん坊なんだ。君はどう?」
「同じだよ。」
「やった!気が合うね!」
次はヒグマ。
「俺は5年生の瀬戸 勝也。気は優しく力持ちだ。だからみんなに慕われてるぜ。」
解説役となった田宮くんが、横で栗田くんに説明する。
「彼はこの辺のガキ大将なんだ。でもいじめは大嫌い。だから学校のみんな、特に男の子から好かれている。」
「そうなんだ。ぼくの学校にそういう子はいないから、ちょっとうらやましいな…」
次はヒョウ。
「ぼくは石倉 豹太。田宮くんの親友さ。
とにかく遊ぶ事が大好き!よろしくね。」
「石倉くんとは幼稚園時代から仲良し。ぼくとは固い絆で結ばれてるんだ。
まあ、彼には少しおっちょこちょいな面もあるけど…でもそこも含めて好きだよ。」
「ぼくにもそんな親友がいるんだ。そこも似ているね。」
次は馬。
「俺は馬原 裕次。運動と工作が得意だ。短い間だとは思うが、よろしくな。」
「馬原くんは強いんだよ。足はかなり速いし、力だって強い。
工作の腕もいい。チャンバラ用の刀や水鉄砲も作れるんだ。」
「すごい友達だね!」
次はオコジョ。
「私は菅野 花子。よろしく。」
「花子ちゃんは優しくて、面倒見が良いんだ。だからみんなに好かれてる。」
栗田くんは話を聞きながらも、別の事を考えていた。
(今は夏だから、花子ちゃんも夏毛。でもおねしょ島で会ったこじょ子ちゃんは真っ白な冬毛だった。あの島も割と暖かい方だけど、なんでだろう?
まああの世界には魔法使いもいるから、おとぎ話のような物かな。それならぼくの世界とルールが違っても不思議じゃないかも。)
次はホンドギツネ。
「私は稲田 夢子。楽しみましょうね!」
「夢子ちゃんはいつでも元気いっぱい。男の子に負けないぐらいだよ。」
「ホッピング持ってるね。いつも遊んでるの?」
「ええ。すごく上手よ。」
最後は猫。
「鈴ちゃんよ。よろしく。」
「本名は金本 鈴子。みんなからああ呼ばれているんだ。
幼稚園児だけど、この辺の小学生たちに可愛がられてる。特にぼくや瀬戸くんを慕ってるんだ。」
「確かに可愛い子だね。まるで田宮くんの妹みたい!」
7頭の自己紹介が終わったため、栗田くんも舞台に立った。
「ぼくは栗田 永雄。さいたま市の大上区から来たんだ!」
その瞬間、一同がざわついた。
「え、何?どこから来たって?」
「それを言うなら埼玉県の大上市だろ?」
「もしかして言い間違えた?」
栗田くんは気がついた。
(そうだ、この時代はさいたま市ができる前だ!まずい事言っちゃった…)
「そ、そう、言い間違えた!大上市から来たんだよ。川獺市の隣さ。」
[newpage]
[chapter:相撲で勝負]
「さあ、自己紹介も終わった事だし、遊びを始めようぜ!」
「うん。それで何をするの?」
「いつも俺たちがこの空き地でやってる事だな。例えば夢子のホッピングとか。ほら見ろよ、もう始めてるぜ。」
夢子ちゃんはホッピングで空き地を跳ね回っていた。
「最近売り出されたばかりなのに、もうあんなに上達してるんだぜ!すごいよな!」
「うん、すごいよ!細身の特権だね!」
「そうだな。俺やお前、田宮みたいなデブには無理だ。デブにはやっぱり相撲だな。」
「ぼくは相撲部所属だよ。瀬戸くんは?」
「俺も相撲部だ。田宮と石倉も同じだぜ。この空き地でもよく相撲を取る。」
「じゃあ早速やろうよ!」
「だな!新たな相手と戦えるぜ!」
太った4匹は空き地の中央に集まり、相撲を始めた。馬原くんは行司を務め、女の子たちは土管に座って見物している。
当然だがまわし姿ではなく、普段着のまま。地面が芝生のため、土俵もない簡易的な相撲だ。
まずは栗田くんと瀬戸くんの対決。
「腕が鳴るぜ!」
「勝てるかな…でも頑張るぞ!」
「はっけよーい…のこった!」
両者は組み合ったが、瀬戸くんはすぐに栗田くんを投げ飛ばした。
「よし、俺の勝ちだ!」
「当たり前だよね。体格差大きいから。」
次は田宮くんと対決。まるで双子のようだ。
「自分とそっくりな相手と戦うなんて、こんな体験初めてだよ。栗田くんもそうだよね?」
「ぼくは2回目かな。でも久々だ!」
「はっけよーい…のこった!」
2匹のシマリスは組み合った。今度は互角の勝負だ。
「どっちがどっちかわからないわ…」
「まるで鏡があるみたい!」
女の子たちも興味津々で見ている。最終的に栗田くんが勝った。
「君、強いんだね…」
「ありがとう。ぼくは相撲のために生きてると言っても過言じゃないよ。」
その後、石倉くんにも勝った。
[newpage]
[chapter:駄菓子屋で買い物]
「さあ、次は駄菓子屋に行こうぜ!」
瀬戸くんの一声で、一同は空き地を出た。
(この時代は今よりも駄菓子屋が多かったんだよね。どんな物が売ってるかな?)
栗田くんは胸を躍らせながら、一同について行った。
「着いたぞ、栗田。ここも俺たちのたまり場さ。」
そこは「白兎堂」という店だった。典型的な駄菓子屋らしい店構えだ。
「おばさん、こんにちはー!」
「今日もよろしく!」
店主はぽっちゃりした白うさぎの中年女性。一同に愛想よく挨拶をした。
「おや、今日も仲良しさんたちがやって来たね。いらっしゃい…
あ、あら?田宮くんが2匹!?」
「ううん、隣の市から来た子だよ。ぼくたちと友達になったんだ。」
「驚かせてすみません、ぼくは栗田 永雄です。」
「そうだったのかい。目がおかしくなったのかと思ったよ。」
栗田くんは陳列棚を見た。
ドロップの缶、キャラメル、せんべい、カルメ焼き、きなこ棒…彼から見ればレトロな駄菓子だが、この時代では当たり前の物だ。
ベーゴマやメンコ、万華鏡などのおもちゃも並んでいる。見た事のない物もあった。
「ねえ田宮くん、これは何?」
「折り畳みナイフだよ。」
「ありがとう…えっ、ナイフ!? そんな物売ってるの!?」
驚く栗田くん。それを聞いて馬原くんも言った。
「こっちも驚いたぞ。お前はナイフ持った事ないのか!?」
「そんな危ない物、持ってるわけないよ!」
「じゃあどうやって鉛筆を削ってるんだ?」
栗田くんは察し、一瞬で考えを巡らせた。
(そうか、この時代だと鉛筆はナイフで削ってるのか!どう言えば…)
「え、えーと…お父さんが外国で買ってきた鉛筆削りを使ってるよ。
ナイフは持ってない。お母さんに『危ないから持っちゃいけません』って言われたんだ。」
「わかった、ありがとう。お前、よほど親に愛されてるんだな…」
かごを手に取り、駄菓子を選び始めた一同。栗田くんは気がついた。
「どうしよう、お金持ってない…」
「いいわ、私が出してあげる。」
花子ちゃんから500円をもらったため、栗田くんも買い物ができる事になった。
「ありがとう、花子ちゃん!」
栗田くんはドロップ、キャラメル、カルメ焼きをかごに入れた。
(おっ、たくさん入ってる!これも買おう。)
合計4品を買い、店を出た。
空き地に戻り、買った物を見せ合う一同。栗田くんの番になった。
「ぼくはドロップ、キャラメル、カルメ焼き、そして…」
彼が取りだした物は、カラフルな玉が20個ほど入った袋。
「クラッカーの詰め合わせ!ボール型のクラッカーなんて初めて見たよ。さあ、みんなで食べよう!」
彼以外は笑った。
「栗田くん、それ食べ物じゃないわよ!」
「かんしゃく玉を知らないのか?」
「え、何それ?クラッカーボールって書いてあるからクラッカーだと思ったんだけど…カラフルな紙に包まれた…」
「それは食べ物じゃない。こうやって遊ぶんだ。」
石倉くんは袋を開け、ボールを1つ取り出した。
「危ないからちょっと離れて。さあ、行くよ!」
それを地面に叩きつけると、爆発音と共に破裂した。
「うわっ!驚いた…」
「クラッカーボールは日本語で言えばかんしゃく玉。花火の一種さ。いたずらにもぴったり!」
「なんだ、そうだったのか…まあいいや。みんなで遊ぼう!」
それから、一同は買った物で楽しんだ。
駄菓子を分け合って食べたり、万華鏡を覗いたり、クラッカーボールを爆発させたり、メンコで対決したり…
「田宮くん、メンコが強いんだね!」
「君とは場数が違うのさ。
あ、見てよ。鈴ちゃんったらまた…」
見ると、鈴子ちゃんは瀬戸くんの出べそをいじっていた。
「だからやめろって…俺の出べそはおもちゃじゃないからな!」
「鈴ちゃんにとってはおもちゃだもん!」
「もう、しょうがないな!」
そう言いながらも楽しそうな瀬戸くん。栗田くんも思わず笑った。
「アハハ、可愛いね!田宮くんの出べそは触られないの?」
「ぼくはあんまり触られないよ。瀬戸くんほど大きくないからかな。」
[newpage]
[chapter:紙芝居見物]
空き地を出てしばらく歩くと、拍子木の音が聞こえてきた。
「何だろう、火の用心かな?」
「違うわ、紙芝居よ!」
「へえ、紙芝居!幼稚園の時以来だよ。」
「栗田の所って、あんまり紙芝居来ないんだな。」
「う、うん…」
テレビがそれほど普及していなかったこの時代、紙芝居は子供たちにおける娯楽の1つだった。
キリンの中年男性が拍子木を鳴らし、子供たちを集めている。横に止めた自転車の荷台には紙芝居の台がセットされている。
「わあ、なんか面白そう!」
瀬戸くんが合図した。
「さあみんな、10円の用意だ!」
「え、見るのにお金がいるの?」
「紙芝居の下の台に、駄菓子が入ってる。それを買わないと見せてくれないんだぜ。いわば紙芝居がおまけで見られる移動式の駄菓子屋だな。
しかしそれを知らないとなると、幼稚園の時は親がお金を払ってたっぽいな。」
「あ、ああ、そうだよ…」
全員で飴玉を1個ずつ買った。
「お買い上げありがとう!さあ、紙芝居の始まりだ。
今日の主役は、侍の[[rb:鯖猫丸 > さばねこまる]]。鯖猫丸は…」
猫の侍を主役にした時代劇が始まった。キリンの語りは臨場感たっぷりだ。
8匹は物語に自然と引き込まれていた。
「ついに最後の敵だ。両者同時に刀を振り下ろす!
その結果は…次回をお楽しみに!」
「あー、ここで終わりか…いつもこうなんだよな。
でも今日も楽しかったぜ!ありがとな!」
気づけば空は夕暮れに染まっていた。
「そろそろ家に帰らなくちゃな。」
「みんな、さよなら。」
「また明日も遊びましょうね!」
全員が別れの挨拶を交わし、解散した。
田宮くんが話しかけてきた。
「栗田くん、一緒に帰る?」
「うん。」
夕暮れの中を歩く2匹のシマリス。栗田くんは不思議な気分に浸っていた。
(田宮くんとは知り合ってまだ数時間のはず。それなのに、ずっと前から友達だったような気がする。
この子は将来、ぼくのおじいちゃんになる。だからそう思うのも当然かもしれない。
でも、子供時代の姿は写真でしか見ていない。その姿と会っているなんて、なんだかとっても不思議!)
5分ほど歩いて、田宮家に着いた。平屋建ての木造家屋だ。
「今日は楽しかったよ!ありがとう、栗田くん。」
「ぼくも同じ気分だよ、田宮くん。ちなみにこの後は何をするの?」
「銭湯に行くんだ。」
「銭湯?楽しそう!ぼくも一緒に行くよ!」
「わかった、30分後またここに来てね!」
田宮くんが家に入ると、栗田くんは通信機を出してボタンを押した。すぐに異世界タイムマシンが登場。
「栗田くん、用事は何?」
「今から28分後のここに送って!」
「了解!」
その時間に彼を送り届けると、マシンはすぐに消えた。
[newpage]
[chapter:みんなで銭湯へ]
2分後、田宮くんが家から登場。洗面器とタオルを持っている。
「栗田くん、待った?」
「いや、全然。ついさっき来た所だよ。」
「それじゃ、銭湯へ出発だ!」
「あれ、お父さんとお母さんは行かないの?」
「いつもぼくとは別の時間に行くんだ。
あれ、君は洗面器もタオルも持ってないんだね。いいの?」
「あ…え…いいよ。向こうにドライヤーあるから。」
しばらく道を歩き、銭湯「狸の湯」に到着。
(あ、ここは4年ぐらい前におじいちゃんと行った所だ!こんな昔からあったんだ。
おじいちゃんはあの時「孫と行くのは初めて」って言ってたけど、まさか2回目だったなんて思わないよね。)
ロビーは大勢の客でにぎわっている。この時代は家風呂がそこまで普及していなかったため、銭湯の利用者はかなり多かった。
栗田くんと田宮くんはお金を払い、裸になって男湯に入った。
漂う湯気、壁に描かれた富士山、ケモノでにぎわう浴槽や洗い場…活気のある場所だ。
2匹はかけ湯をして、一番大きな浴槽へ。
「おう、田宮!今日は栗田も一緒か!」
見ると、瀬戸くんと馬原くんがいる。
「うん。せっかくだからぼくも来たんだ。君たちもよく来るの?」
「ああ、俺たちも家風呂がないから毎日通ってるぜ。」
「今の時期、俺は毎日汗だくになるから、風呂に入らないと困るぜ。汗かかない種族がうらやましいよ…」
馬は全身に汗をかく種族。ケモノ界では少数派だ。
4頭は浴槽の中で語り合った。
「やっぱ銭湯は気持ちいいよな…」
「落ち着くよね…そう言えば石倉くんは?」
「あいつには家風呂があるんだ。」
「女の子たちはどうしてるんだろう?」
「鈴ちゃんと花子ちゃんには家風呂がある。夢子ちゃんはここに通ってるぞ。」
その後も話に花を咲かせ、疲れた体をリラックスさせた。
「さあ、体を洗おうぜ!」
一同は洗い場に行き、シャンプーで体を洗った。
ほとんどのケモノは全身に毛が生えているため、頭以外もシャンプーで洗う。石鹸はシャチや象など毛の少ない種族向けに用意されている。
「田宮、今日も頼むぜ!」
田宮くんは瀬戸くんの背中を洗い始めた。
「あー、そこそこ!気持ちいいぜ…」
栗田くんは馬原くんに尋ねた。
「田宮くんはいつもああなの?」
「そうだ。瀬戸はデブだから自分で背中が洗えないんだぜ。だからいつも手伝ってもらってるんだ。
で、背中が終わると…ほら始まった。」
今度は瀬戸くんの出べそを洗っていた。
「あいつの出べそは大きいから、汚れが溜まりやすい。でも自分じゃ見えないから、洗うのを手伝ってもらうんだ。
田宮も出べそだけど、瀬戸ほどじゃないから自分で洗ってるな。」
「そうなんだ。解説ありがとう。」
[newpage]
そこへ中年のカバが現れた。瀬戸くん以上に太っている。
「おう、田宮!今日も元気そうだな。洗ってやるぞ!」
「え、ちょっと、田宮くんはあっち…」
カバはシャンプーを泡立て、栗田くんの背中を力強く洗い始めた。
「うっ、ちょっと、力が強すぎる!」
「それぐらい我慢しろ!いつもの事じゃないか!」
一通り洗うとお湯で流し、自分が隣の洗い場に座った。
「じゃ、次は俺の背中を洗ってくれ!」
「えー?なんでぼくが…」
文句を言いながらも、栗田くんはカバの大きな背中を石鹸で洗った。
「なんか前と手つき変わったな。そうだ、もう少し下を重点的に洗ってくれ!」
背中が終わると、カバは前を向いた。
「次は腹を洗ってくれ!出べそも頼むぞ!」
その出べそは菓子パンほどの大きさで、隙間には汚れがかなり溜まっている。
栗田くんは顔をしかめつつ石鹸を泡立て、出べその隙間までしっかりと洗った。気持ちいいほどに汚れが落ちた。
「これでいいかな…」
「よく見えないけど汚れが落ちた気分だぜ!ありがとな!じゃあ次はどこを洗ってもらおうか…」
「すみません、もうここまでにします!」
慌てて浴槽に駆け戻る栗田くん。カバはつまらなそうな顔をして、男湯を出た。
体を洗い終えた田宮くんたちも、浴槽に入った。
「あのカバは何だったの?ずっとぼくを田宮くんと間違えてたようだけど…」
「あいつもここの常連客。悪者じゃないけどちょっと困った奴でね、太り過ぎで体が洗えないから子供に洗わせるんだ。
ぼくもよく洗う羽目になってる。あの強引さはあんまり好きじゃないな…」
瀬戸くんも答えた。
「俺は銭湯に子供が少ない時間帯だと、カバが来ないうちに体を洗ってる。あいつ、浴槽に入ってる子には声かけないからな。」
「そんな客がいるのに、嫌じゃないんだね。」
「ま、銭湯は楽しい場所だ。あのカバは一種のスリル要因だな。」
男湯を出て、栗田くん以外はタオルで体を拭き、全身ドライヤーの部屋で体を乾かした。
「あー、さっぱりしたぜ!」
「楽しかったね!」
服を着てロビーに戻り、隅の売店へ。豆乳やココナッツミルクなど、各種飲み物の瓶が並んでいる。
「それじゃ、今日も好きな物を1本ずつ買おう!」
田宮くんの提案で、全員が飲み物を買った。栗田くんと田宮くんはココナッツミルク、瀬戸くんと馬原くんは豆乳。
「乾杯!」
4頭で瓶を重ね、一気飲みする。
「体の中までさっぱりだぜ!」
「やっぱり風呂上がりには豆乳だな!」
「ぼくはココナッツミルク派かな。田宮くんも同じだね。」
「甘くておいしいから好きさ!」
栗田くんは思い出した。
(そうだ。あの時おじいちゃんは「風呂上がりにはココナッツミルクが一番」って言ってたっけ。三つ子の魂百までとは本当だね。)
銭湯を出ると、空は暗くなりかけていた。
「これで今日もお別れだな。」
「また明日、いっぱい遊ぼうぜ!」
「もちろん!栗田くんは明日も来てくれるよね?」
「うん!それじゃまた会おうね!」
4頭は解散した。
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[chapter:一瞬の睡眠]
栗田くんは誰もいない路地裏に行くと、通信機で長尾くんを呼んだ。
「今度は何の用?」
「今日は一日中遊んだから、そろそろ眠りたい。どこか寝るのにいい場所を教えてくれないかな?」
「それより、栗田くんは明日もこの世界で遊ぶの?」
「うん。もう約束してるから。」
「それならいい物がある。ちょっと待ってて!」
マシンはすぐに消え、5秒後に戻ってきた。
「はい、これ。睡眠時間短縮キャンディーだよ。
これをなめてから眠ると、10分で10時間分の睡眠が取れるんだ!お父さんがよく研究の時に使ってるよ。」
「ありがとう!それじゃ早速…」
「待って、まだ口に入れないで!
今から明日の朝に行く。そしてどこか適当な場所でそれをなめてから眠るんだ。」
マシンで翌日の朝8時半に向かい、長尾くんと別れてから空き地へ。まだ誰も来ていない。
栗田くんはキャンディーをなめると、並んだ木箱をベッド代わりにして眠った。
10分後、目が覚めた。まるで一晩寝たかのようにすっきりしている。
(すごい効き目だ!さて、田宮くんの家に行ってみよう。)
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[chapter:瀬戸くんの秘密]
田宮家の前でしばらく待っていると、田宮くんがドアから登場。
「それじゃ、行ってきまーす!あ、栗田くんおはよう!」
「おはよう、田宮くん。今日は何をするの?」
「午前中は空き地に行くんだ。特に予定のない時はそうしてる。」
「ぼくも行っていいかな?」
「もちろん!友達も誘って行こう!」
田宮くんの案内で、瀬戸家へ。2匹のシマリスは早速庭に入っていった。
「瀬戸くん、おはよう!」
元気よく庭に顔を出すと、そこに立っていた瀬戸くんは慌て始めた。
「おいおいおいおい、お前ら入ってくるな!」
物干し竿に干された布団を、大きな体で必死に隠している。田宮くんはいたずらっ子のような顔で聞いた。
「ねえ、何隠してるの?」
「いや、これは、その…とにかくすぐに出てってくれ!察しろ!」
「ああ、そういう事か。瀬戸くんもまだまだ子供だねー。」
「うるさい!とにかく他のみんなには黙っててくれ!」
2匹が庭から出ると、瀬戸くんは頭を抱えて座り込んだ。
(なんてこった、ばれちまったぜ…こんな朝からいきなり庭に入ってくるなんて…)
干されている布団には、水溜まりが広がっている。その横には濡れたパジャマやふんどしも干されている。
彼は週に4回ほどおねしょをしてしまう。かなり気にしているが、治る気配はない。
(頼むから誰にも言わないでくれよな…ガキ大将がおねしょしてるなんて知られたら、俺の威信に関わるぞ…)
楽し気に話す田宮くん。
「今見た事をみんなに話したら、きっと大笑いだね!」
栗田くんはそれを諫めた。
「それはひどいよ。瀬戸くんの言う通り、黙っていてあげよう。それが友達として一番だと思う。」
「んー…それもそうだね。ぼくだけが知ってる秘密にするよ。」
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[chapter:未来を描いた本]
その後、昨日と同じメンバーを集めて空き地へ。今日は馬原くんが本を持ってきた。
「俺、面白い本を買ったんだ。見ろよ!」
表紙には「これが未来の世界だ!」と書かれている。
「これは、今から50年後の暮らしがどうなっているかを予想した本だ。とにかくすごいぞ!」
一同は盛り上がった。
「すごそう!見せて見せて!」
「50年後って、どのくらい後かしら?」
「2005年だから、もう21世紀に入ってるぜ。俺たちはみんな中年になってる。」
「その頃には、今のぼくたちからすれば想像もつかない世界になってるだろうね!」
栗田くんは心の中でほくそ笑んだ。
(誰も気づいてないよね、ぼくはその本に描かれた時代の18年後から来てるって。未来を知ってるぼくから見れば、きっと違和感バリバリな内容だろうな…)
馬原くんはページを開いた。栗田くんから見ればレトロなタッチで、様々な場面が描かれている。
「わあ、すごい!」
「本物を見てみたいわね…」
「俺、絶対この時代まで生きてみせるぜ!」
「これが実現したら、きっと便利になるよ!」
田宮くんを初めとする子供たちは、興奮しながらページをめくっている。栗田くんは脳内で突っ込みを入れていた。
「夏休みはこれで銀河系一周旅行!原子力ロケット」
(そんなロケットも、宇宙旅行も、70年近く経っても夢のまた夢さ!そもそも原子力で動くって、大丈夫なの?)
「外国の友達に手紙を一瞬で送れる!国際郵便専用ロケット」
(この時代じゃ誰も想像できないよね、メッセージが紙でなくなり、ロケットよりも早く届くようになるなんて。)
「これさえあれば渋滞の心配なし!空飛ぶ車」
(楽しそうだけど、空の上でガス欠になったらどうするんだろう?それが心配だから、約70年後でも車は地上を走ってるのかな。
空飛ぶ車の研究も始まってるけど、ここまでコンパクトにはいかないよね。)
「これが未来の通勤電車だ!通勤モノレール」
(テレワークなんて誰も思いつかないよね。)
「ぼくらも猿とお友達!猿語翻訳機」
(これは近いのが出てたっけ。でも所詮おもちゃみたいな物だし、そもそも猿が日常にいる事自体ほとんどないよ。)
20分ほどして、本が閉じられた。
「面白かっただろ?」
「うん、とっても!未来はきっと素晴らしい時代になってるね!」
「私がおばあちゃんになる頃には、3世代で宇宙旅行ができるのね…」
「絶対この時代まで生きてみせるわ!」
「未来はロマンに溢れてるな!栗田はどう思うんだ?」
「えー、ぼくは…ぼくは…未来の世界はこうならないと思う。」
「何だって!? それじゃ栗田はどんな未来を想像したんだ!?」
「ぼくの考える未来の世界は、空飛ぶ車も宇宙旅行もない。その代わり通信技術がものすごく発達しているんだ。
誰でも小さな電話を持っていて、それを使えば一瞬で世界中とつながる。さらにそれは時計にも、電卓にも、テレビにも、音楽プレイヤーにも、財布にもなって…」
「お前の想像力すごいな!そんなの考えた事もないぞ!」
「栗田くん、将来は空想科学小説家になれるんじゃないかしら?」
一同が賞賛する声を聞いて、栗田くんはひそかに笑った。
(まさかこれが本当に訪れる未来だなんて、誰も思わないよね。でも「本当に起きる」とは言ってないからセーフだよね。)
「じゃ、一旦これで解散しよう。夏休みの宿題もあるからね。」
田宮くんの言葉で、一同は解散した。栗田くんが尋ねる。
「ねえ、田宮くんはこの後何をするの?」
「宿題をして、昼になったら家族でしろくま百貨店に行くんだ。」
「偶然だね!ぼくもそこに行くんだよ!」
「そうなんだ!じゃ、また後でね!」
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[chapter:しろくま百貨店]
田宮くんと別れた栗田くんは、通信機で長尾くんを呼び、12時過ぎのしろくま百貨店へ移動した。
この時代としては大きなデパートだが、現代の大上区に建つウルフデパートと比べればはるかに小さい。
2023年現在も残っているため、栗田くんも何度か母方の祖父母と訪れている。そのため馴染みのある場所だった。
(さて、田宮くんはどこにいるのかな…)
入り口を通り、案内図を見る。
(ぼくと好みが似ているし、今は昼。するとあそこかな?)
エレベーターでレストラン街に行くと、大食堂の前に田宮くんが両親と並んでいた。
両親も息子同様に太っている。田宮家は代々太りやすいようだ。
「田宮くん、来たよ!」
「あ、栗田くん!
お父さん、お母さん、彼が昨日話したぼくの新しい友達だよ!」
「この子が田宮くんか。本当に利助そっくりだな。」
「まるで鏡を見ているみたいね!」
「それで栗田くんの親戚はどこにいるの?」
「え、えーと…下の階。買い物をしている間、ぼくはここの下見に来たんだ。
買い物が終わったら合流して、ここで食事するんだよ。」
「そうなんだ。この店はおすすめだよ!普段家では食べられない物ばかり置いてあるからね!」
栗田くんはレストラン入り口の食品サンプルを見た。
(オムライス、ハンバーグ、カレー、お子様ランチ…ぼくの時代とそんなに変わらないね。
そう言えば、田宮くんは「普段食べられない物ばかり」って言ってたな。すると普段の食事は和食か。)
一通り見てから、屋上へ。この時代のデパートは、屋上に遊園地があった。
このしろくま百貨店も例外ではない。観覧車、飛行塔、モノレールが動き、大勢の家族連れでにぎわっている。
この遊園地は2019年まで残っていたため、栗田くんも何度か行っている。1955年から変わらない光景だった。
花子ちゃんからもらったお金は、乗り物に1回乗れる額が残っていた。
(どれにしよう…)
迷った末、飛行塔に乗った。回る飛行機からは、川獺市が一望できる。
高層ビルは少なく、駅もかなり小さく、瓦屋根の民家が並んでいる。現代とはかなり異なる景色だった。
(ああ、昭和の町ってやっぱりいいな…何もかもこぢんまりしてて、都会暮らしのぼくからすれば新しい空間だった。
でも手持ちのお金がなくなったから、もうすぐ元の時代に帰らなくちゃ。もうこの時代に来る事はないだろうから、別れの挨拶はどうしよう?)
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[chapter:友情の証]
屋上遊園地の片隅で別れの挨拶について考えると、デパートを出てケモノが少ない道を探し、長尾くんを呼んで2時間後の空き地近くまで送ってもらった。
空き地に行くと、田宮くんたち7頭が遊んでいた。早速顔を出す栗田くん。
「あ、栗田くん!戻ってきたんだね。」
「なあ、次は何して遊ぶ?」
栗田くんは真剣な表情を浮かべ、切り出した。
「みんな、突然で悪いけど、ぼくがみんなに会えるのはこれが最後になるんだ。」
「えっ、最後!? それどういう事?」
「この近くに住んでいるぼくの親戚は、もうすぐ引っ越してしまう。だからだよ。
せっかく知り合ったばかりで悪いけど、もうすぐお別れなんだ。言い出せなくてごめんね…」
「そうだったんだ。出会って間もないのに寂しくなるよ…」
「一緒に遊べて楽しかったわ。」
瀬戸くんは提案した。
「なあ、俺たちと友達になった証として、栗田に何かプレゼントしないか?」
「それいいかも!」
「私たちで駄菓子屋さんに行きましょう!栗田くん、何か欲しい物ある?」
「じゃあ、キャラメル1箱お願い。」
「わかったわ。他にもいろいろ買うから、そこで待っててね。」
田宮くんと花子ちゃんも賛同して、3頭は空き地を離れた。
約15分後。
「みんな、ただいま!」
「あ、お帰り!キャラメルの他には何買ってきたの?」
「今から渡すぜ。まずは俺からだ。」
瀬戸くんは大きめの箱を取り出した。
「昆虫採集セットだ。良かったら使ってくれ!」
続いて花子ちゃん。
「クラッカーボールよ。栗田くん、結構楽しんで遊んでたから。」
最後は田宮くん。
「はい、折り畳みナイフだよ。君は鉛筆削りを使ってると言ってたけど、やっぱり持っておいた方がいいんじゃないかと思ってね。
ナイフにはいろいろ使い道がある。そのうち何かに役立つと思うから、大切に持っていた方がいいよ。」
栗田くんはそれらを喜んで受け取った。
「みんな、ありがとう。大切にするよ。」
田宮くんが声をかけてきた。
「ねえ、最後に聞きたい事があるんだ。栗田くんの下の名前って…」
「永雄だよ。」
「そう。その『ながお』ってどんな字を書くの?」
「永遠の永に、雄だよ。」
「ありがとう。すごくかっこいいね。」
「でしょ?お父さんが名付けてくれたんだ。」
「ぼくも将来お父さんになったら、子供に永雄って名付けようかな…」
田宮くんは将来に思いを馳せた。
「さて、もうそろそろ帰らないと。
みんな、この2日間いろいろありがとう。ぼくはいつまでもみんなを忘れないよ!」
栗田くんは全員と握手やハグを交わして、空き地を出た。
「栗田くん、また会おうね!」
「楽しかったわ!」
「最高の思い出になったぜ!」
手を振って彼を送り出す一同。田宮くんは特に大きく手を振った。
「同じシマリスとして楽しかったよ!君とまたどこかで会えるといいな!」
(次に会えるのは52年後さ。君の孫としてね…)
[newpage]
[chapter:旅の終わり]
誰もいない場所を探して長尾くんを呼び、異世界タイムマシンで出発した5分後の大上区に戻った。
1955年では約2日間を過ごしたが、現代では5分しか出かけなかった事になる。
「過去の世界、どうだった?」
「何もかもが新鮮だったよ!友達もたくさんできたし、プレゼントまでもらっちゃった!
ひと夏の冒険をした気分だよ。ありがとう、長尾くん!
そうだ、このタイムスリップが正しい歴史になるってどういう事?」
「んー…今は秘密だよ。そのうちわかるからね。
それじゃ、またどこかで会おう!バイバイ!」
異世界タイムマシンは、青空に消えていった。
栗田くんは自室でプレゼントを開けた。
(昆虫採集セットの中身は注射器にメス、謎の液体…解剖セットって名付けた方がいいよね。
こんな物が駄菓子屋で売ってるなんて、今じゃ考えられないよ…危ない物だけど、せっかくもらったんだから大切にしなくちゃ。)
キャラメル以外を宝箱に入れ、漫画を読みながらキャラメルを食べ始めた。
(食べ終わったら箱を保存しておこう。きっと今じゃ高く売れるぞ!)
2時間ほどして、家の前に車が止まった。両親の帰宅だ。
「永雄、ただいま!」
「お帰り!」
栗田くんは両親を元気に出迎えた。
[newpage]
[chapter:エピローグ]
何日か経って、お盆の時期が来た。栗田一家は母親の実家へ。
食事を楽しみながら語らっていると、祖父が口を開いた。
「この時期になると、遠い昔に2日だけ遊んだ永雄の事を思い出すな…」
父親が尋ねる。
「え、永雄って…ああ、前にも話していましたね。うちの息子の名前の由来になった…」
「そう。あの子は今どうしているのかのう…」
(ここにいるんだよ。永雄はこのぼくさ!)
栗田くんはひそかに笑っていたが、突然気がついた。
「ちょ、ちょっと待って!ぼくの名付け親はお父さんだよね!?」
「いや、おじいちゃんだ。おじいちゃんが子供の頃、2日間だけ一緒に遊んだシマリスの子がいて、その子の名前をそのまま使ったんだよ。」
「そうじゃ。永雄という名前がとても格好良く感じてな、わしが父親になったら子供には永雄と名付けようとその時から決めていた。
しかしわしらが授かったのは女の子だったため、その名前は孫の代まで持ち越しとなった。」
「そんなはずはない!ぼくの名前はお父さんが付けたんだ!『長生きするように』と思いを込めて…」
「違うぞ、永雄。お母さんと考えてもいい名前が思いつかなかった時に、おじいちゃんが『永雄なんてどうじゃ?』と提案してくれたんだよ。」
「そ、そう言えばそうだったかな…何かと間違えたみたい、アハハ…」
表面上は笑って取り繕ったが、内心ではかなり焦っていた。
(どうしよう、どうしよう…過去のおじいちゃんと接触したから、歴史が変わっちゃったんだ!
いや、でも長尾くんは言っていた。ぼくが過去に行く事は正しい歴史だと。だから元々こうだったんだ。
でもぼくの記憶には、お父さんが名付け親だと確かに残っている。その記憶はなぜ変わってないのか…)
帰宅すると、栗田くんは自室のクローゼットで探し物を始めた。
(確かここに…あったぞ!)
それは、彼が学校の課題で作った新聞やプリントをまとめたファイル。そこから「栗田永雄新聞」を取り出した。
これは2年生の終わり頃に、生活科の授業で作った物。自分が生まれてから今までの出来事が、写真や絵、文章でまとめられている。
(ぼくの名前の由来も、間違いなくここに書かれている。それを見れば…)
そこに目を通した栗田くんは、凍りついた。
(こ、こ、こんなはずは…!こんな文章を書いた覚えはない!)
そこにはこう書かれていた。
「ぼくの名づけ親は母方のおじいちゃんです。
おじいちゃんは子どものころ、自分とそっくりなシマリスと2日だけあそんだそうです。その子の名前は永雄でした。
おじいちゃんはその名前が気に入り、しょうらい男の子が生まれたら『永雄』と名づけようときめました。
しかし生まれたのは女の子だったため、まごのぼくが永雄になりました。」
栗田くんの知っている過去は変わってしまったが、彼の頭には確かに記憶が残っている。
果たしてなぜだろう?その理由を語る事はまだできない…
[chapter:おしまい]