第33話「わんぱく小僧・イン・大上区」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界。今回は6月初頭の富山県土井中村から始まる。

  土井中村は豊かな自然に囲まれた場所。その一角に、山で隔たれた複数の集落が存在する。

  ある集落に建つ、広い和風家屋。そこにはアナグマの穴戸一家が住んでいる。

  金曜日の夜。両親と息子の風太(小学4年生)はちゃぶ台を囲み、夕食を摂っていた。全員が太っている一家にふさわしく、食事の量が非常に多い。

  なお風太は「穴太郎」のあだ名で呼ばれているため、ここからはそう表記する。

  夕食が終わりに近づいた頃、父親が尋ねた。

  「今年の夏休みには何がしたいんだ?」

  「そうだな、久々に旅行がしたいぜ!」

  「どこがいい?」

  「さいたま市大上区!」

  「ああ、クリクリが住んでる所か。」

  「そう!あいつにまた会いたいからな。それに大都会へ行きたいんだ!」

  「じゃあ大上区に決定だな!時間ができたらホテルを探しておこう。」

  [newpage]

  翌日、穴太郎は森へ出かけた。タンクトップに短パン、裸足のスタイルだ。

  森の奥に流れる小川のほとりは、暑い日でも涼しい。

  足を水につけながらくつろいでいると、3匹の友達が来た。こちらも全員裸足だ。

  ぽっちゃり体型のカワウソ、川助(4年生)。格好は半袖シャツに短パン。

  肥満体の豚、トントン(2年生)。ふんどし1枚。

  丸々とした野うさぎ、ぴょん太(5歳)。腹掛け1枚。

  彼らは穴太郎と同じ集落に住む子供たちで、毎日自然の中で遊び回っている。夏の間はここがたまり場だ。

  非常に仲が良く、全員あだ名で呼び合うほど。上記の名前もあだ名だ。

  「やあ、穴太郎!」

  「今日も元気に遊ぼうぜ!」

  「ねえねえ、何する?」

  穴太郎は得意げに口を開いた。

  「今日はみんなに話があるんだ。俺は今年の夏、さいたま市の大上区へ旅行に行くぞ!」

  「クリクリのいる所だね。」

  「そう、彼に会ってこようと思うんだ。それにここじゃ見られない物をいっぱい見てくるぞ!

  そびえ立つ高層ビル、家が並ぶ住宅街、車でにぎわう道路…もちろんお前らにもお土産買ってくるからな。」

  「楽しんできてね。それにしても穴太郎が都会に行くなんて初めてじゃない?」

  「初ではないけど、かなり久々だ。ずっと昔、家族で富山駅の近くに行ったのが最初で最後だぜ。」

  この4匹は、都会に行った事がほとんどない。それどころか村を出る事すら少ない。

  川助は5歳の時、家族旅行で東京を訪れている。オープンから間もない東京ジラフタワーがメインだ。

  展望台から眺めた夜景を、彼は今でも覚えている。彼にとっては異世界に来た気分だった。

  また、彼の親戚は県内のそこそこ大きな町に住んでいる。そのため、盆と正月には必ず村を出る。

  一方、トントンとぴょん太は村から出た事がほとんどない。集落から出る事は通学を除くと、週に一度の買い物だけだ。

  買い物の場所は大型スーパーマーケット。車で10分ほど走った場所に建っている。ホームセンターと大型電気店も併設されているため、土井中村の住民に重宝されている。

  トントンは幼い頃、家族で一度海に行った。しかしぴょん太は旅行の経験がない。

  また、2匹の親戚はすべて村内に住んでいる。そのため、村の外は未知の世界だ。

  「いいなあ、穴太郎…」

  「おいらたちも連れてってくれないか?」

  「え?いや、確かにお前らも一緒の方が楽しそうだけど、父ちゃんや母ちゃんが許してくれるかどうか…」

  「そんな事言わずに頼むよ!友達だろ?」

  「外の世界を見てみたいんだ!なんとか頼んでみてよ!お願い!」

  トントンとぴょん太は目を輝かせ、穴太郎に詰め寄った。

  「…そんな顔で頼まれると断れないな。父ちゃんと母ちゃんに話そう。みんなも一緒に来てくれ。」

  川助が慌てて補足する。

  「じゃあぼくも行こう。君たちがはしゃぎすぎて迷惑を起こすといけないから、見張り役としてね。」

  その後、穴戸家の居間にて…

  「…というわけなんだ。川助やトントンやぴょん太も一緒に連れてけないかな?」

  「うーん…気持ちはわかるが、その分旅費が余計にかかってしまうな。」

  「あんたたちの家族が出してくれればいいけどね…」

  複雑な表情を浮かべる両親。

  「ともかく、まだホテルの予約をしていない時に話してくれて良かった。成獣2名と子供4名が泊まれる部屋だと高くなるだろうな…」

  「まあ、今日の所はこれで。家に帰ったら、お父さんやお母さんに何があったか話して、お金が出せるか聞きな。」

  [newpage]

  [chapter:交渉]

  翌日、小川のほとりにて…

  「お前ら、どうだった?」

  「ぼくはOKをもらえたよ。旅費も宿泊費も、決まったら教えてって。」

  「おいらはだめだった。『誰かの旅行について行くなんてずうずうしい』って母ちゃんに言われたんだ。

  まあ、それでもしつこく食い下がったら、交通費は出してくれる事になったけどさ。」

  「ぼくもだめだったよ。うちにはお金があんまりないから交通費しか払えないってさ…」

  全員大上区までは行けるが、トントンとぴょん太は宿泊ができない事になる。

  「困ったな。道端で寝かせるわけにはいかないし、どうしよう…」

  「おいらにいい考えがあるぜ。スーツケースに隠れてホテルに入るんだ!」

  「いや、トントンは太りすぎてるからスーツケースに入ったら蓋が閉まらないよ!ぼくは小さいから入れそうだけどね。」

  「ぴょん太だって太ってるじゃないか!」

  「ぼくは動けるデブだもん。」

  「それとスーツケースは関係ない!」

  2匹がけんかを始めそうになった所で、穴太郎が言った。

  「待て、もっといい考えが俺にあるぞ。

  大上区にはクリクリが住んでいる。彼は俺たちと仲がいい。だから、俺たちがクリクリの家に泊まればいいんだ!

  父ちゃんと母ちゃんだけホテルに泊まれば、宿泊費は2匹分で済む。どうだ、このアイデアは!」

  「あっ、そうか!それは思いつかなかったぞ!」

  「去年とちょうど反対だね!」

  「まあ、クリクリの家族が許してくれればだけどな。」

  それから昨日と同様、穴太郎の両親にこのアイデアを話した。

  「そうか…それならまあいいだろう。家族旅行ではなくなってしまうが、穴太郎たちが楽しければそれでいい。」

  「それに私たちはじっくり都会を楽しめるね。ねえあなた?

  昼はいろんな店を周って、レストランで食事して、夜はホテルのベッドで…」

  「おい、子供の前だぞ!その先はやめろ!

  …今度クリクリのじいちゃんが野菜を売りに来たら、穴太郎の話を伝えておく。結果が来たらまた教えるぜ。」

  この集落には、シマリスの栗田夫妻も住んでいる。農業を営む老夫婦で、育った野菜を売りに時々集落を周る。

  次の土曜日、栗田夫妻が穴戸家を訪れた。応対した父親は穴太郎のアイデアを伝えた。

  「わかった、息子に連絡しよう。」

  販売を終えて家に帰った夫妻。夫はスマートフォンを取り出し、息子にメッセージを送った。

  /////////////////////

  こちらは埼玉県さいたま市大上区の住宅街。シマリスの栗田一家が夕食を始めた所だ。

  「そう言えば、今日はお父さん…永雄にとってはおじいちゃんから連絡があったぞ。」

  「おじいちゃんから?何だろう。」

  父親の言葉に、太った息子の栗田 永雄くん(小学4年生)が尋ねる。

  「おじいちゃんの知り合いに、アナグマの穴戸さんがいる。彼の息子が友達を3匹連れて、夏休みにこの家へ泊まりに行きたいそうだ。」

  「アナグマ…友達…もしかして穴太郎の事?」

  「そうだな。」

  「やったー!穴太郎たちがうちに来るなんて思ってもみなかったよ!」

  喜ぶ栗田くん。

  「あの子たちは悪い子じゃないと思うけど、わんぱくしすぎたりしないかしら?

  まあ、永雄が友達になった相手だから否定するのもかわいそうね。優しく迎え入れましょう。」

  母親は心配そうだったが、すぐに考えを変えた。

  2021年の夏、栗田くんは父親の実家に3日間預けられた。その時に穴太郎たちと出会っている。

  穴太郎によって「クリクリ」とあだ名をつけられ、3日間楽しく過ごした。

  祖父が写真を送ってくれたため、両親も穴太郎たちの姿を知っている。

  今年の誕生日にも、穴太郎たちはビデオレターを送ってくれた。パーティー会場には栗田くんの友達も集まっていたため、友達も彼らを知っている。

  別れの時、トントンは栗田くんに言った。

  「おいらたちもいつか、クリクリの住む大上区に行ってみたいな。話に聞いたゲームセンターとかカラオケとかやってみたいぜ!」

  その言葉が、1年も経たないうちに実現する事となった。

  [newpage]

  [chapter:未知の世界]

  翌日の日曜日、穴太郎は父親から結果を聞いた。

  「泊まりに行っていいそうだ。」

  「よっしゃ!早速みんなに報告だ!行ってくるぜ!」

  喜び勇んで玄関を出る穴太郎。父親はスマートフォンを取り出し、大上区のホテルを調べ始めた。

  穴太郎から話を聞いた残りの3匹は、予想通り喜びの声を上げた。

  「クリクリの家に泊まれるんだね!」

  「よーし、やったぞ!おいら夏休みが待ちきれないぜ!」

  「やっと村の外に行けるんだ!」

  「日程が決まったらまた教えるから、今日はこの楽しい気分でいつもより元気に遊ぶぜ!」

  4匹は小川に入り、水遊びを始めた。彼らにとっては夏の風物詩だ。

  日々が流れ、夏休みが始まった。旅行の日程は、8月6日~8日だ。

  8月に入ると、4匹は大上区の話で持ち切りになった。

  「もうすぐ大上区に行けるんだよね!きっとすごい場所なんだろうな…」

  「ああ、俺たちには想像もつかない世界が広がってるだろう。」

  「なあなあ!ゲームしないか?大上区にありそうな物を順番に言うんだ。」

  「へえ、面白そうだね!じゃあトントン、ぴょん太、ぼく、穴太郎の順で言おう。

  それじゃトントンからどうぞ!」

  「自動車!」

  「新幹線!」

  「コンビニ!」

  「高層ビル!」

  「ものすごく大きいホームセンター!」

  「自動で走る車!」

  「…ゲームセンター。」

  「タイムマシン!」

  「転送装置!」

  「巨大ロボット!」

  「…カラオケ。」

  「宇宙エレベーター!」

  「宇宙ステーション!」

  「銀河系1周ロケット!」

  「…もう大上区にある物じゃなくなってるよ。」

  苦笑いする川助。

  「だっておいらたち、行った事がないもん。」

  「すごい物があるんだろうなって想像してたら、それがどんどん膨らんでったんだ。」

  「まあ、向こうが俺たちの想像もつかない物で溢れてるのは間違いないな。」

  [newpage]

  [chapter:出発前夜]

  8月5日の夕方、穴戸家のインターフォンが鳴った。

  「おう、みんな来たか!」

  川助、トントン、ぴょん太が荷物をまとめて立っている。出発前夜の今日は穴戸家に泊まる事となっていた。

  普段は裸足の彼らだが、今日は靴を履いている。遠出の際には靴が必須だ。

  「いよいよ明日だね。」

  「穴太郎、今夜から楽しもうな!」

  「楽しい事いっぱいしようね!」

  3匹は家に上がり、穴太郎の両親とも挨拶を交わしてから居間へ。

  隅に荷物を置き、しばらく話していると、一度台所に戻った母親が来た。

  「みんな、スイカを切ったよ。今日も暑いからね。」

  「ありがとうございます!」

  4匹は縁側に座り、夕日の差し込む中でスイカを食べた。

  思い切ってかぶりついたり、口から種を飛ばしたり…おやつの時間も遊びのようだ。

  半分ほど食べると、会話の続きを始めた。

  「なあ、ぴょん太は大上区に行ったら、特に何がしたいんだ?」

  「いろいろあって迷ってるけど、1つ言うなら『外の世界を知る』事かな。

  ぼくは11年もこの村で暮らしてる。毎日同じ景色しか見ていない。だから外の世界に出てみたいんだ。」

  「そうか。俺たちだって同じさ。この辺じゃ電車やバスにも気軽に乗れないから、外の世界に出るなんて冒険のような物だな。」

  夕食と風呂を済ませ、就寝時間が来た。枕元には目覚まし時計がセットされている。

  部屋の電気が消された後も、布団の中で話が続いている。

  「もうドキドキして眠れそうにないよ!」

  「明日の今頃は、見た事もない場所にいるんだな…」

  「ちょっと不安になる日もあったけど、今はとても楽しみだ。いろんな物を見たり食べたりして、必ずここに帰ろうぜ。」

  「でも穴太郎は変わらないで欲しいな。」

  「どういう意味だ、川助?」

  「都会に感化されて、穴太郎が都会的な子になったら今までのように遊べなくなるんじゃないかと思って…」

  「安心しろ。俺は田舎育ちだから、そう簡単に考えは変わらないさ。

  さて、明日の朝は早い。そろそろ会話は終わりにして寝ないとな。」

  それから数分経つと、室内には4匹の寝息が響いていた。「眠れそうにない」と言っていたぴょん太もぐっすり眠っている。

  集落を照らす物は、わずかな街灯のみ。夜は静かに更けていった。

  [newpage]

  [chapter:当日の朝]

  翌朝6時、目覚まし時計が鳴った。一番に目覚めた子は穴太郎だ。

  「起きろ!もうすぐ旅の始まりだぞ!」

  寝起きとは思えないほど元気な声で、残りの3匹を起こす。

  「おはよう。早く最終準備をしないとね。」

  「もう胸がドキドキしてるぜ!」

  「外の世界がもうすぐ見られるんだね!」

  「やっぱりみんなそうか。俺だってすごく胸が高鳴ってるぜ。

  まあ、まずは布団を干さないと。今日もやっちゃったからな…」

  川助以外の布団には、大きな水溜まりが広がっている。

  この4匹にはおねしょの癖があり、毎朝のように布団を濡らしてしまう。川助は就寝時におむつを履くため、布団は濡らさない。

  トントンとぴょん太は穴戸家に泊まる際、自宅から布団を持っていく。

  一同は濡れた布団を干した。

  「よーし、ぼくのが一番でっかいぞ!」

  ぴょん太は得意げ。彼には羞恥心がほとんどないため、おねしょも恥ずかしい事とは認識していない。

  残り3匹は恥ずかしいと認識しているが、生活の一部と化しているため慣れている。

  風呂で下半身や下着を洗いながら、話し合う4匹。

  「そう言えば、クリクリの家族は俺たちのおねしょを知ってるのかな?」

  「クリクリは恥ずかしい事だとわかってるから、言ってないと思うよ。」

  「それならいいな。しかし向こうで2回寝る事になるから、絶対ばれちゃうな…」

  「よその家で世話になるんだから、粗相はできないよ。ぼくのおむつをあげようか?」

  「それは嫌だ!赤ちゃんみたいで恥ずかしいぜ!」

  「おいらだって同じさ!」

  「ぼくも!」

  「それなら、自力で直すしかないね。」

  「やはりそれしかないか…すぐにはできそうにないから、おむつを持っていこう。」

  それから、服に着替えた。集落では下着1枚のトントンとぴょん太も、今回は服を準備している。

  トントンは半袖シャツと短パンだが、ぴょん太は和服だ。

  彼は腹掛けを着けているため、洋服よりもこちらのスタイルが動きやすい。

  [newpage]

  [chapter:大上区への旅]

  軽い朝食(バナナと豆乳)を済ませると、荷物をまとめて車に乗り込んだ。

  運転席に穴太郎の父親、助手席に母親。4匹の子供は2列の後部座席に乗り込んだ。もちろん、トントンとぴょん太のチャイルドシートは前日に持ち込んでいる。

  「さあ、旅の始まりだ!」

  穴太郎の合図で、父親は車を走らせた。

  自然豊かな村を進む車内には、4匹の元気な声が響いていた。

  20分ほど走り、土井中駅に到着。切符を買いホームへ。

  「へえ、これが電車か!思ったより大きいね!」

  電車を初めて見たぴょん太は大興奮して跳ね回っている。それほど大きくないいわゆるローカル線だが、10年以上も本などでしか見た事のない物が目の前にある事に変わりはない。

  「すごい喜びようだな…」

  「ま、おいらも電車に乗るのは久々だから胸が躍ってるぜ。」

  「あのローカル線でこれほど喜ぶんだったら、この後で乗る新幹線を見たら気絶しそうだね…」

  自然の中を出発したローカル線。進むにつれ、周囲に建物が増えてきた。

  「わー、すごいすごい!あれが高層ビルだね!」

  「そうだよ。でももうちょっと静かにしてね。」

  「ぼくはもう興奮が抑えられないんだよ!」

  川助は騒ぐぴょん太を鎮めようとしたが、あまり効果は出なかった。

  「さあ、新幹線の乗り場はこっちだぞ。」

  構内を進む6匹。穴太郎やトントンは周囲を物珍しそうに眺めている。

  「俺が行った時もこんな感じだったぜ。でもちょっと店が増えてるかな。」

  「すげえ…富山駅ってこんなに広いのか…ちょっとした町だな、こりゃ!」

  川助はぴょん太の手をしっかりと握り、彼が走り回らないように確保していた。

  「見た事もないケモノでいっぱいだね!」

  「そう、ケモノにはいろんな種族があるんだ。大きな町に行くとたくさんの種族が見られるんだよ。」

  「あれはサメだね!サメにも足があるんだ。」

  「違うよ、あれはイルカ。サメは魚だからケモノじゃないよ。」

  駅構内をじっくり見る時間はそれほどない。売店で駅弁を買い、すぐに新幹線のホームへ。

  「これが新幹線か!すげえな!」

  「かっこいい!ロケットみたいだね!」

  「スピードもものすごく速いんだってな。きっと超音速だぞ!」

  「…いや穴太郎、そんなに速くないよ。だから景色をしっかり楽しめる。」

  新幹線が出発。一同は思い思いの駅弁を食べながら、景色と会話を楽しんだ。

  「クリクリは今頃、何してるかな?」

  「きっと家族で家の掃除をしてるよ。ぼくたちが3日間泊まるんだからね。」

  /////////////////////

  川助の予想通り、栗田一家は家の掃除に励んでいた。

  母親はリビングの窓を拭き、父親は掃除機をかけている。

  「よし、これで窓はピカピカね。

  あらあなた、隅の方に抜け毛が落ちてるわよ。」

  「ああ、すまない。掃除機をかけたと思っていたが、見落としていたようだ。」

  栗田くんは部屋の整理。

  (穴太郎たちもこの部屋に入るだろうから、きれいにしなくちゃね。まあ元からきれいな方だけど…)

  [newpage]

  [chapter:ついに到着!]

  新幹線は2時間ほど走り、大上駅に到着。

  「うわー、やっぱりこっちも広いな!」

  「ケモノも多いし、店も多い。さすが都会だね!」

  「おい見ろよ、シュークリーム売ってるぞ!タルトの店もある!」

  「こっちが出口だね!さあ行くぞー!」

  ぴょん太は西口に向けて走った。

  「おい、クリクリの家は反対だぞ!」

  父親が慌てて呼びかけるが、彼は聞かずに走っていく。穴太郎たち3匹も後に続いた。

  「まったく、元気すぎるぜ…」

  「まあいいじゃないの。それが子供って物よ。」

  西口には高層ビルや大型商業施設が並んでいる。4匹は感動の声を上げた。

  「わあ、すげえ…」

  「高層ビルの群れだね。」

  「まるで未来都市だな!さすがにロボットはいないけど。」

  「すごいすごい!あのビルから下を見てみたいな!」

  両親が太った体を揺すりつつ、後を追ってきた。

  「クリクリを待たせると悪いから、早く行くぞ。」

  「俺たちにもうちょっとこの景色を見せてくれよ!こんな大都会、滅多に見られないから!」

  「早く行った方がいいけど、その前に見ておきたいんだ。」

  「おいら、胸がドキドキしてたまんねえぜ!」

  「ビルがいっぱいで、もうなんて言うか…とにかくすごすぎる世界だ!」

  「じゃ、みんなの興奮を写真に撮ろう。そこに並んで。」

  父親はスマートフォンを取り出し、ビル街をバックに4匹の写真を撮った。

  「うん、いい笑顔だ!さあ、今度こそ行くぞ。」

  駅構内を進み、東口に向かって歩く。

  「すげえ、こっちではケーキにアップルパイにワッフルも売ってるぞ!いい香りだ…」

  食いしん坊のトントンは、食べ物が気になるらしい。鼻を動かして香りを楽しんでいる。

  「ねえ、あれは何の広告?」

  「服屋さんだよ。太った体に合う服専門だって。」

  ぴょん太は壁を埋め尽くす広告に興味津々。川助に次々と意味を聞いている。

  「父ちゃんと母ちゃんは、俺たちと別れたら何をするつもりだ?」

  「買い物だな。ここでしか買えない物をいろいろ買うぞ。」

  「私は新しい服が欲しいね。」

  しばらく両親と会えなくなるため、会話を楽しんでいる穴太郎。父親は地図アプリで栗田家までの道をたどっている。

  階段を降り、東口に出た。こちらは商業施設や娯楽施設が並んでいる。

  「いろんな店がいっぱいだ!ゆっくり見て回りたいけど、急がなきゃな…」

  「後でクリクリに案内してもらおうよ。彼ならこの辺りをよく知ってるだろうからね。」

  「おっ、見ろよ!お城があるぜ!どんな王様が住んでるのかな?」

  「行ってみたいよね!ね、みんな?」

  城型レストラン「フード・キャッスル」にも興味を示しつつ、町を抜けて住宅街へ。栗田家までもう少しだ。

  [newpage]

  [chapter:栗田くんと対面]

  「さあ、ここだぞ。」

  「いいね?お行儀よくするんだよ。」

  「はーい、もちろんでーす!

  よし、1年ぶりにクリクリとご対面だ!」

  ピンポーン!

  「あっ、来たよ!」

  栗田くんが先頭に立ち、ドアを開けて笑顔で出迎えた。

  「こんにちはー!みんな、久しぶりだね!」

  4匹は玄関に入った。

  「お邪魔しまーす!」

  「しばらくお世話になります。」

  「おお、きれいな家だ!」

  「ぼくの家より広いよ!」

  急いで靴を脱ぎ、室内に殺到する。川助は慌てて靴を揃え、呼びかけた。

  「みんな、まずは手洗いとうがいだよ!」

  「そうだな。クリクリ、洗面所まで案内してくれ!」

  「わかった、穴太郎。こっちさ。」

  4匹を案内する栗田くん。その間に2組の夫婦は話し合った。

  「あの子たちは、いつもあそこまで元気がいいのですか?」

  「ああ、そうだ。毎日大はしゃぎしながら遊んでるんだ。」

  「その声が気になりませんか?」

  「たまに私たちのうちに泊まってるけど、そんなに気にならないね。うちは集落で一番広いから。」

  栗田夫妻は顔を見合わせた。どうやらまだ心配なようだ。

  (うちも割と広い方だけど、あの子たちにとっては狭いかもな…)

  (永雄がちゃんとまとめてくれるといいけど…)

  「へえ、ここがクリクリの部屋か!」

  「いろいろ置いてあるね。」

  「すげえな、この漫画の量!」

  「この飛行機もかっこいいね!」

  栗田くんの部屋を見た4匹は、またしても感動と興奮の混ざった声を上げた。

  「そう。ぼくの部屋はぼくの国さ。

  漫画は読み放題、ゲームも遊び放題。時にはプラモデルを作ったりするんだ。

  この飛行機もプラモデル。誕生日に友達からもらったんだ。」

  「クリクリ、いい友達持ってるな!」

  [newpage]

  [chapter:町の案内]

  しばらく部屋でくつろいでから1階に降りると、穴太郎の両親は既にホテルへ出発していた。

  「俺たちはどうする?」

  「この近所を散歩しよう。ぼくが案内するからね。」

  5匹は家を出た。栗田くんは自分の知っている場所を案内する。

  「ここにはぼくの親友、キタキツネの稲荷山 紺助くんが住んでるんだ。」

  「ここにはぼくのガールフレンド、シマリスの縞野 くるみちゃんが住んでいる。」

  「ここには白猫の金子 真里ちゃんが住んでいる。彼女も友達の1匹だよ。」

  穴太郎たちは話を聞きつつ、家が隙間なく並ぶ光景に驚きと感動を覚えた。

  「クリクリはよく友達の家が覚えられるな。やっぱり住宅街育ちは違うぜ!」

  「おいらたちの集落じゃ、家なんて両手で数えられるぐらいしかないからな…」

  しばらく歩くと、小さな公園の前に出た。

  「ここにはよく友達で集まっている。他の誰かが遊んでいる事は滅多にないから、ぼくにとっては憩いの場さ。」

  「いつもここで何をするんだ?」

  「ちょっとした話をしたり、ボールや縄跳びで遊んだり。特に用事のない時は、ここに行くんだ。」

  「よし、せっかくだから遊ぼうぜ!」

  「わあ、ブランコだ!本物を見るのは初めてだよ!」

  ぴょん太は早速ブランコに乗った。川助が背後から押す。

  「そーれ!」

  「楽しーい!最高だよ!」

  「今度はもっと強くだ!そーれ!」

  「イヤッホー!」

  栗田くんは微笑ましく見つめていた。

  「すっかり楽しんでるね。」

  「ああ、俺たちの集落には公園なんてないからな…ぴょん太にとってはあれでも十分楽しいんだろう。」

  公園を出て、またしばらく足を進めた。

  「ここがケモノ小学校埼玉校。ぼくの通う学校さ。」

  「おお、でっけー!」

  「さすが都会の学校だ!」

  「ちょっとしたビルじゃねえか!」

  「ぼくは学校がどんな場所か話でしか聞いた事がないけど、とりあえず穴太郎たちのより大きい事はわかったよ!」

  興奮する一同に、栗田くんは学校の説明をする。

  「ぼくの教室は3階にあるんだ。」

  「それじゃ毎日階段を上り下りしなきゃいけないのか!その点では俺の方が楽だな。俺の学校は平屋建てだから。」

  「ああ、穴太郎の所は児童が50頭もいないんだったね。」

  「そう。俺たちの村には子供が少ないからな。」

  その後も特別教室や部活動、行事について話した。穴太郎たちには未体験の物事も多かった。

  「さて、そろそろ帰ろう。」

  栗田家に向かって歩いていると、トントンが道端を指した。

  「ん?何か落ちてるぞ。」

  近寄って見ると、それは高級ブランドの財布だった。

  「交番に届けなきゃ!」

  「一応、中身も見てみよう。どこかに名前が書いてあるかもしれない…」

  栗田くんが財布を開けると、1万円札が何枚も詰まっていた。

  (すごいお金持ち…ん?まさか…)

  よく調べると、裏側に名前が印字されている。それを見た彼は喜んで言った。

  「この子なら知ってるよ!届けに行こう!」

  「誰だい?」

  「雪見カトリーヌ理沙ちゃん。ホッキョクギツネで、ぼくの同級生なんだ。

  クラスは違うけど、何度もお世話になってる。理沙ちゃんの家はこっちだよ!」

  [newpage]

  [chapter:セレブの家でおもてなし]

  そこから7分ほど歩くと、雪見家が見えてきた。3階建ての大豪邸で、庭もかなり広い。

  「こ、こ、これが家なのか!?」

  「穴太郎の家よりすごい…」

  「まるで宮殿だぜ…」

  「理沙ちゃんってお姫様なの!?」

  「お姫様じゃないけど、この町で一番の大金持ちだよ。お父さんはフランスの貴族で、お母さんは大企業の社長令嬢さ。」

  「クリクリにそんなすごい友達がいたなんて知らなかったぜ!」

  「しかしこんな住宅街に、よくこれだけの土地が残ってたね。」

  「前に聞いたんだ。元々団地が建ってたけど取り壊されて、その直後にお父さんが土地を買い取ったんだって。」

  そこまで話すと、栗田くんはインターフォンを押した。

  ディン・ドン!

  「はい、どちら様ですか?」

  スカンクの執事、グリムズ・スカンダー(30歳、イギリス出身)が応対した。

  「栗田 永雄です!落ちていた理沙ちゃんの財布を届けにきました!」

  「ありがとうございます!これで理沙様の心も落ち着きますね。さあ、お入りください。」

  自動で開いた門をくぐり、広い庭を通ってドアの前へ。スカンダーが開けてくれた。

  玄関には理沙ちゃんが立っていた。

  「理沙ちゃん、こんにちは。はい、財布だよ!」

  「本当にありがとうございました!この御恩は一生忘れませんわ!

  良かった、中身も無事ですわ!買い物から帰って財布がなくなっている事に気づいた時はどうしようかと思いましたが、本当に良かった…

  あら栗田くん、後ろにいるのは…あのビデオレターに出てた子たちですわね。」

  「うん、ぼくの所に泊まりに来たんだ。それで近所を案内していたら、財布が落ちてるのを見つけたんだ。」

  「おいらが最初に見つけたんだぜ!」

  「皆さんのおかげでもありますのね。せっかくだからお礼をしなくては。

  さあ、どうぞお上がりください。」

  5匹は家に上がり、理沙ちゃんとスカンダーの案内でリビングへ。

  「スカンダー、お茶やお菓子を用意して!」

  「はい、理沙様。」

  彼が部屋を出ると、理沙ちゃんは自己紹介を始めた。

  「私は雪見カトリーヌ理沙ですの。お父様はフランスの貴族で…」

  「ああ、それはさっきクリクリから聞いたぜ。だから俺たちが自己紹介する番だ。

  俺は穴太郎。この4匹のまとめ役さ。」

  「ぼくは川助。よろしくお願いします。」

  「おいらはトントンだぜ!」

  ところがぴょん太は名前を言わず、理沙ちゃんをじっくり見つめている。

  「へえ、これが…」

  「あら、どうしました?」

  次の瞬間、彼は理沙ちゃんの胸を触った。

  「嫌ですわね!何するのよ!」

  一同は騒然となった。川助が慌てて押さえつける。

  「ぴょん太、だめじゃないか!女の子の胸を触るなんて!」

  「ご、ごめんなさい!だってぼく、女の子をこんなに近くで見た事ないもん!だからどうしても触りたくなって、その…」

  それを聞くと、理沙ちゃんは優しい表情に戻った。

  「まあ、女の子と触れ合った事がなかったのですわね。それなら仕方ありませんわ。」

  「うん、ぼくたちの集落に女の子はいないんだ。ぼくの知っている女は、お母さんとおばあちゃんだけ。

  女の子は週に一度の買い物で客として見かけるぐらいさ。村から出た事だって今日が初めて。」

  「かわいそうに、ずいぶんと狭い世界で生きてきたようですわね…」

  穴太郎たちは、部屋の調度品にも興味を示した。

  「この部屋はすごいな。これみんな高級品か?」

  「そうですわよ。例えばあのスタンドランプはフランス製。アール・ヌーヴォーのデザインを取り入れておりますわ。」

  「ふーん、俺にはキノコにしか見えないけどな。」

  トントンは窓際に置かれたろうそくを見つめている。ピンク色でらせん状のデザインだ。

  「おお、あのろうそくは…」

  「あら、どうしました?」

  「おいら、あれが気に入ったんだ。あのろうそくはどこで買ったんだ?」

  「駅前のウルフデパートですわよ。ろうそくに良さを見出すなんて、トントンくんは芸術的センスがありますのね。」

  「だってあれ、そっくりだもん!おいらのチン…」

  川助が慌てて止める。

  「そこから先を言うんじゃない!女の子の前だぞ!」

  そこへスカンダーが戻ってきた。

  「お待たせしました、お茶です。」

  後から黒い牛の男の子が、ワゴンを押しながら入ってきた。彼は慣れた手つきで紅茶を注ぐ。

  「クリクリ、あの牛は誰だ?」

  「雪見 健吾くん。ぼくのクラスメイトで、先月やってきた転校生さ。

  とっても働き者で、遊びや食事よりもお手伝いが好きなんだ。」

  「苗字が理沙ちゃんと同じなのに、なんで種族が違うんだ?」

  「彼の家族は行方不明で、彼自身にも過去の記憶がないらしい。だからここの養子になったんだ。

  時々過去を思い出しそうになるらしいけど、はっきりとは思い出せないみたい。」

  「そうか、ずいぶんと重い過去を持っていそうだな…」

  「ぼくもそんな気がする。初めは過去が気になっていたけど、今は知らない方がいいんじゃないかって思い始めたんだ。」

  会話の間に健吾くんは紅茶を注ぎ終わり、お菓子を並べ始めていた。トントンの声が響く。

  「おっ、エレノアじゃないか!」

  その瞬間、栗田くんは凍りついた。脳内を恐ろしい想像がよぎる。

  (エレノアだって!? あの恐ろしい魔女じゃないか!なんでトントンがあいつの名前を知ってるんだ!?

  まさか、トントンはエレノアの手下…)

  次に聞こえた川助の声で、想像は終わった。

  「それを言うならエクレアだよ。」

  「あ、そうだっけ?あんまり食べた事ないからなー。」

  「まあ、面白いですわね。エレノアなんて外国の女の子みたいですわ。」

  (ああ、良かった…考えてみれば、エレノアはイタ助くんの世界の住民だったから、トントンと出会ってるわけないよね。

  理沙ちゃんはあの戦いでも、過去が変わった今でも、エレノアとは出会ってないからその名前に怖いイメージがないんだ。)

  「おいクリクリ、どうしたんだ?急に黙るなんてよ。」

  「あ、いや…トントンの言い間違いがあまりにも自然だったから、一瞬正しい名前がわからなくなって…」

  準備が終わり、6匹の前に紅茶とお菓子(エクレア、シュークリーム、モンブラン、ババロア)が並んだ。

  「皆さん、食べていいですわよ。」

  「いただきまーす!」

  栗田くんと川助は、礼儀正しくカップを持って紅茶を一口飲んだ。

  しかし残りの3匹は豪快に飲み干し、お菓子を頬張る。トントンとぴょん太は口の周りをクリームまみれにしているが、まったく気にしていない。

  「みんな、もっとお行儀よく食べないとだめだよ!ここはセレブの家だから。」

  川助が慌てて言うが、この3匹は礼儀より食い気が勝つタイプ。滅多に食べられない物を出された今は、それがよく現れていた。

  「ごめん理沙ちゃん、見苦しい物見せちゃって…」

  「いいえ栗田くん、あの年齢なら仕方ありませんわ。それにきっと初めてのお菓子ですから、興奮していますのよ。」

  一番に食べ終わったトントンが尋ねた。

  「そう言えば駅の近くにお城が建ってたけど、あれも理沙ちゃんの物か?」

  「いいえ、あれはレストランですわよ。皆さんもここにいる間、一度寄ってみるといいかもしれませんわ。」

  「へえ、いい事聞いたぞ!クリクリ、この3日間で一度はあのレストランに行こうな!」

  「ああ、フード・キャッスルだね。ぼくもおすすめするよ。きっとみんな気に入るさ!」

  栗田くんはモンブランを落ち着いて食べながら答えた。

  トントンと理沙ちゃんの会話は続く。

  「理沙ちゃんは毎日フランス料理を食べてるのか?」

  「毎日ではありませんけど、よく食べますわ。我が家の専属シェフもフランス出身ですのよ。」

  「じゃあナメクジも食った事あるのか?」

  「いいえ、さすがにそれは…」

  「え?フランスじゃナメクジを食うって、前に川助が言ってたような…」

  「トントンくん、それを言うならカタツムリですわよ。」

  「ああ、そうだったな。フランスがどこにあるかよく知らないけど、食いもんも結構変わってるんだな…」

  「いえ、カタツムリもおいしいですわ。貝の仲間ですから。」

  数分後、全員が食べ終わった。

  「ありがとうございました。それではそろそろ帰りますね。」

  「待って、皆さん。もう1つお礼を…」

  理沙ちゃんは財布から5000円札を5枚出した。

  「皆さんに1枚ずつあげますわ。有効活用してくださいね。」

  「わあ、感謝するぜ!でもこんなにもらっていいのか?」

  「いいですわよ、穴田くん…いや、穴助くん…いや、何でしたっけ…」

  ぴょん太が補足する。

  「穴太郎!」

  「そう、穴太郎くんでしたわね。」

  「うん、みんなが俺をそう呼ぶ。」

  一同は理沙ちゃんにお礼を言って、栗田家に戻った。

  「ただいま。」

  「みんな、お帰り。もうすぐお昼よ。」

  程なくして昼食が始まった。メニューはホットサンドと冷製コーンスープ。

  普段よりも少ないが、先程お菓子を食べたばかりの一同には適量だ。

  食事の最中、一同は散歩で起きた出来事を話した。

  「まあ、それはいい事したわね!」

  「それに5000円もいただいたなんて、ありがたいな!」

  「明日は夏祭りがあるから、ちょうどそこで使えるわね。」

  [newpage]

  [chapter:1日目後半]

  昼食後、子供たちは栗田くんの部屋で時間を潰した。

  漫画を読んだり、しりとりで遊んだり、昼寝をしたり…

  穴太郎たちから見ればかなり狭い遊び場だが、遊んでいれば気にならなかった。

  時間が流れ、夕食が始まった。メニューはご飯、味噌汁、海藻サラダ、ワニ肉ハンバーグ、フライドポテト。

  「やっぱりどこの母ちゃんも料理がうまいんだな!」

  「ありがとう、穴太郎。ぼくもお母さんの料理が大好きだよ。」

  食いしん坊の子供たちは、夢中で料理を頬張った。おやつを食べなかったため、お腹が空いているようだ。

  「ご飯のおかわりください!」

  「じゃあ俺もおかわり!」

  「おいらも!」

  「ぼくもね!」

  次々とおかわりを繰り返す子供たち。炊飯器の中身は一瞬で空になった。

  「すごい食欲だな…」

  「これじゃとても足りないわね…」

  「ぼくの分が…」

  栗田一家は困り顔だった。

  一通り食べて落ち着いた子供たち。穴太郎が尋ねた。

  「クリクリの父ちゃんは、どんな仕事をしてるんですか?」

  「私は山猫商事という会社で係長をしている。そこそこ大きい会社だから、結構給料も高いんだ。」

  「へえ、よくわからないけどすごそうだな…車で通うんですか?」

  「いや、電車通勤だよ。ここから2駅で着く。」

  「電車で通うのか!俺たちの住んでる所じゃ考えられないな。駅まで遠いから。」

  「ちなみに君たちの親御さんは、どんな仕事をしてるんだ?答えられる範囲で教えてくれ。」

  「ぼくもまだその話は聞いてないよ。気になるな。」

  「ええ。田舎に住んでると、仕事もこの辺りとは違いそうね。」

  穴太郎から順に、親の仕事を説明した。

  「俺の父ちゃんは、隣の集落にある役場で働いてるぜ。母ちゃんは家事だな。」

  「ぼくのお父さんは、町工場まで働きに行ってるんだ。お母さんは専業主婦。」

  「おいらは父ちゃんも母ちゃんも農業だぜ。」

  「ぼくのお父さんも農業で、お母さんは内職で造花を作ってる。昼間はほとんど相手をしてくれないから、ぼくはみんなと遊ぶんだ。」

  「やっぱり田舎は農業が多いんだね。」

  「家庭によっていろいろだな。」

  「新しい世界を知った気分だわ。みんな、ありがとう。」

  その後は風呂の時間。栗田家の風呂は同時に5匹も入れるほど大きくないため、2グループ(栗田くん、穴太郎、トントン/川助とぴょん太)に分けて入った。

  風呂から上がると、栗田くん以外はおねしょ対策としておむつを履いた。それからパジャマに着替え、2階の子供部屋へ。

  普段は下着姿で寝るトントンとぴょん太も、パジャマを着ている。

  今日は床に布団が敷かれている。栗田くんは普段通りベッドに寝て、穴太郎たちは床に雑魚寝した。

  [newpage]

  [chapter:布団の中でお話]

  部屋の電気を消しても、すぐには眠れない。ぴょん太が期待を含んだ声で言った。

  「クリクリお兄ちゃん、何かお話してよ!今度は楽しいのがいい!」

  「お話か。そうだな…魔女退治の伝説にしよう。」

  「魔女退治か!面白そうだね!」

  「すっごく気になるぜ!」

  「ぼくの知らない話だといいな。」

  「心が躍るぜ!」

  ぴょん太のみならず、穴太郎たちも胸を躍らせている。栗田くんは嬉しくなり、話を始めた。

  「これは、ぼくが友達から聞いた話。どこの本にも載っていないんだよ。

  ある島に7匹の子供が住んでいた。種族はイタチ、カワウソ、スカンク…」

  イタチ科or近縁種の7匹グループが、夢のお告げでスカンクの王国に導かれ、良い魔法使いと協力し、そこを支配していた狼の魔女を魔法とおならで倒し、平和を取り戻す物語だ。

  「…そして子供たちは、世界中で勇者として語り継がれるようになりました。おしまい!」

  話が終わると、4匹は拍手を送った。

  「ありがとう!すっごく面白かったよ!」

  「クリクリはやっぱり、お話が上手だな。笑いとドキドキが止まらなかったぜ!」

  「こんなすごい話を聞かせてくれるなんて、いい友達だね!まあちょっと下品な部分もあったけど。

  でもぼくと同じカワウソが出てきて、嬉しかったよ。」

  「すごく面白かったぜ!勇者たちに会ってみたいぐらいだ!」

  その感想を聞きながら、栗田くんは心の中で笑った。

  (別の世界で本当に起きた出来事だと知ったら、驚くだろうな…

  まあ、1回しか聞いてないから正しくない部分があるかもしれないし、登場するケモノの名前も伏せたけど。)

  春休み、栗田くんは世界の運命を賭けた戦いに巻き込まれた。同様に巻き込まれたイタチのイタ助から聞いた実話だ。

  イタ助の住む世界では、この伝説が本として出版されている。

  ちなみに、先程名前が出た「エレノア」はこの魔女だ。

  10分も経たないうちに、興奮していた5匹は自然と眠りに落ちた。

  [newpage]

  [chapter:夏祭りへ]

  翌朝7時、5匹は目覚めた。

  「おはよう。今でもみんなしちゃってるんだね。」

  「そうなんだよ、クリクリ。この癖が治って欲しいような、欲しくないような、そんな気持ちだ。」

  例によって穴太郎たちはおねしょをしているが、おむつを履いたため布団は濡れていない。

  栗田くんは台所へ行った。

  「お父さん、お母さん、おはよう!」

  「永雄、おはよう。」

  「他のみんなは?」

  「ああ、今は部屋にいるよ。それで朝ご飯は何?」

  「今日はね…」

  両親と話している隙に、穴太郎たちは風呂へ。残り湯で下半身を洗い、川助の用意したビニールにおむつを処理した。

  この連携プレイで、おねしょについては両親に気づかれなかった。

  それから着替えや洗顔などを済ませ、朝食のトーストを摂った。

  今日は年に一度の大上夏祭り。理沙ちゃんからもらった5000円を持って出発だ。

  住宅街を抜け、駅に近づいてくると大きな建物が増えてくる。この辺りから屋台も並び始める。

  「ねえ、まずは何を買う?」

  「俺たち、夏祭りなんてこれが初めてだよ。だからどんな物が売ってるか見てからな。」

  栗田くんを先頭に、屋台を見て回った。穴太郎たちにとっては見た事もない食べ物ばかり並んでいる。

  「バナナにチョコを塗って食べるなんて、考えた事もなかったぜ!」

  「鯛焼きを前に食べたのは、いつだったかな…」

  「あれは知ってるぞ。カエルの卵だ!」

  「トントン、それタピオカドリンクだよ…」

  「ぼくはあれがいいな。冷やしキュウリ!」

  「それは村でも食べられるよ。ここでしか食べられない物の方がいいよ!」

  一通り見たため、食べたい物を選んで買った。

  チョコバナナ、たこ焼き、かき氷、クレープ…様々な味を夢中で楽しむ5匹。

  「どれもこれもうまいぜ!」

  「年に一度の楽しみさ。」

  [newpage]

  [chapter:ゲームセンターと女の子]

  クレープを食べ終わった所で、トントンが後ろの建物を指した。

  「おっ、ここはゲームセンターか?」

  「そうだよ。ぼくが時々遊びに行く場所さ。」

  「クリクリの行きつけか!じゃあ入ってみようぜ!でも隣のゲームセンターも立派だから、どっちに入るか迷うな。」

  「え、隣の『RACCOON』って店?」

  「そうそう。」

  「こっちはパチンコ屋だから、子供は入れないよ。」

  「なんだ、そうなのか…」

  ゲームセンター「タイガー・ステーション」は4階建て。様々なゲーム筐体が並んでいる。

  レースゲーム、シューティングゲーム、音楽ゲーム…栗田くんの解説入りで、すべてのフロアを見て回った。

  「みんな、どのゲームで遊びたい?」

  「うーん…俺たちは遊ばなくていいかな。

  どのゲームも目まぐるしくて、田舎もんにはついていけなさそうだ。俺たちには自然の中で遊ぶ方が似合ってる。みんなもそうだろ?」

  「おいらも同じだ。あんなスピードにはついて行けそうにないぜ!」

  「それにすごくうるさくて仕方がないよ。もう耳がおかしくなりそう…」

  しかし、川助の意見は違った。

  「せっかく来たんだから、1つぐらい遊びたいな。ぼくたちでもできそうなゲームを教えてくれるかな?」

  「そうだな…あれにしよう!」

  栗田くんは4匹をある筐体の前に案内した。

  「ミートパニック。1プレイ100円だよ。

  あの穴から次々とワニが出てくるから、ハンマーで素早く叩くんだ。簡単だからはまるよ。」

  ケモノ界ではワニ肉が一般的に食べられている。このゲームも、肉用のワニを捕獲するコンセプトだ。

  「よーし、まずは俺からな!」

  穴太郎は100円を入れ、ハンマーを握った。

  「それ!それ!行け!」

  夢中でハンマーを動かし、的中率80%のスコアを出した。

  「程よく疲れるのがいいな!」

  残り3匹も次々と挑戦。

  川助は100%、トントンは30%、ぴょん太は60%だった。

  「やっぱり川助はすごいぜ!」

  「ぼくは一番身軽だからね。」

  ゲームセンターを出て、祭りの会場に戻った。

  射的やくじ引きなど遊戯系の屋台も出ているが、5匹はそれらに目もくれず食べ物の屋台へ。

  タピオカドリンクを飲んでいると、栗田くんが言った。

  「あ、くるみちゃんと真里ちゃん!」

  「クリクリの友達?」

  「そう。みんなに紹介するよ。

  おーい、くるみちゃん!真里ちゃん!」

  綿菓子を片手に歩いていた縞野 くるみちゃん(シマリス)と金子 真里ちゃん(白猫)が、振り向いた。

  「あ、栗田くん!」

  「その子たちって、あのビデオレターの子?」

  「そうだよ。この夏休み、ぼくの所に遊びに来たんだ。

  みんなに紹介しよう。くるみちゃんと真里ちゃんはぼくの友達だ。

  くるみちゃんは隣のクラスだけど、ぼくとはとても相性がいい。真里ちゃんは同じクラスで、こっちもいい性格をしている。」

  「へえ、クリクリには女友達が2匹もいたのか!やっぱり都会の子は違うな!」

  2匹は穴太郎たちとしばらく会話を楽しんだ。

  「田舎の生活って、この辺とずいぶん違うのね!」

  「この辺じゃ聞けない話を聞かせてくれて、ありがとう。」

  「俺たちも女の子とここまで長く話したのは初だぜ。また会えるといいな!」

  「ええ、みんなお元気で。」

  くるみちゃんと真里ちゃんは、一同と別れた。

  「なあ、他にはどんな友達がいるんだ?」

  「ぼくの一番の親友は、キタキツネの稲荷山 紺助くん。赤ちゃんの時から友達なんだ。」

  「俺たちの友情より長いな!そいつにも会わせてくれよ!」

  「ごめん、稲荷山くんは今、親戚の家に泊まってるんだ。また次の機会だね。」

  [newpage]

  [chapter:長年の悲しみが消える時]

  それからも屋台を楽しむ一同。

  道端で焼きそばを食べていると、ぴょん太が声を上げた。

  「わあ、見て!カラフルな狐がいっぱい!」

  見ると、狐塚家の兄弟姉妹(九尾の狐)だった。上から順に6、5、3、1年生で、四大元素の能力を持っている。

  「ああ、あの子たちは不思議な力を持ってるんだ。ぼくのクラスメイトじゃないからよく知らないけどね。」

  すると、トントンが急に立ち上がった。

  「あ、あ、あいつは!すぐに行かなくちゃ!」

  肥満体を揺すりながら、彼にしては速く移動した。残り4匹も急いで追う。

  狐塚家に追いつくと、トントンは3年生の笛吾くん(赤い毛皮)を引き留めた。

  「待ってくれ!なあ、待ってくれ!お前の話を聞いてあげられなくて悪かった!」

  「えっ、なんだいきなり…あっ、お前は!」

  2匹は顔を見合わせた。

  「そう、おいらはトントン。大昔、お前にやけどを負わされた。

  それからずっとお前を避けていたが、お前は何か言いたそうだったと思っているんだ。それを今聞かせて欲しい。」

  「俺は…ずっとトントンに謝りたかった。

  トントン、本当にごめん!あの時俺は怒りが抑えきれず、その結果あんな事をしてしまったんだ!

  みんな俺が悪いんだ!全部俺の責任だ!本当に悪かった!やけどの跡が残ってないといいけど…」

  「いや、おいらがふざけすぎたのも原因だ。お前を笑わせたかったんだ。

  嫌な空気も冗談で明るくすれば、けんかだってすぐ終わる。あの時はそう思っていた。」

  「そうか、そうだったのか…お前の気持ちに気づかなくて悪かったよ…」

  「それに安心しろ。やけどの跡なんてすっかり消えたぜ。」

  2匹は涙を流し、抱き合った。栗田くんは事情がわからず、戸惑っていた。

  謝罪が終わると、合計9匹の子供は楽しく会話を始めた。栗田くんも事情を聞いた。

  「まさか、狐塚家のみんなも土井中村に住んでいたなんて!世間は狭いね!」

  「俺たちが大上区に越してきた時も、ここが未来の世界のように感じたぜ。ここが安住の地になった今ではすっかりなじんだけどな。」

  様々な話題で盛り上がる一同。久々に会うため、ネタは尽きない。

  「そう言えば乃愛ちゃんには今でも意地悪されるか?」

  「ああ、6年生だった狼か。あいつならもういないぜ。」

  「ああ、転校したのか。」

  「そうじゃない。お前らが転校して1ヶ月ほどしたある日、あいつは突然行方不明になったんだ。」

  「行方不明だって!? 誘拐されたのか?」

  「そういうんじゃなくて、本当に突然消えてしまったんだ。俺はこの辺までしか覚えてないが、川助なら覚えていそうだな。」

  「うん、あの事件は衝撃的だったから覚えてるよ。

  ある日の夜、自分の部屋で急に消えてしまったらしい。その時間帯に来客はなく、部屋の窓にも鍵がかかったまま。靴も玄関に残っていたから、外に出たとは考えにくい。

  しばらく警察による捜査がされたけど、手掛かりが全くわからないから事件は迷宮入り。乃愛ちゃんの親もそれからすぐに消えてしまったんだ。

  今では乃愛ちゃんの話なんて誰もしない。村のタブーになったんだ。

  まあ意地悪な子がいなくなったから、結果としては良かったけどね。」

  栗田くんは首をかしげた。

  「いったいどこに消えたんだろうね…」

  「さあな。とにかくあいつはもういないんだ。」

  「おいらも乃愛の奴がいなくなって良かったよ。」

  「トントンは何をされたの?」

  「ちょっとな…それ以上はあまり言いたくないぜ。」

  話が一段落した所で、2つのグループは別れた。

  栗田くんたちはその後も屋台巡りを続け、5000円を使い切った所で帰宅した。

  「ただいま!」

  「お帰りなさい。楽しめた?」

  「うん!みんなでいっぱい食べてきたんだ。でももうお腹がちょっと空いてきた!」

  「みんな食いしん坊ね。」

  [newpage]

  [chapter:初めての宅配ピザ]

  日が沈みかけた頃、父親が提案した。

  「今日の夕食は、宅配ピザにしよう。穴太郎たちは食べた事がないだろうからな。」

  一同は沸き立った。ぴょん太が尋ねる。

  「ねえ、それってどんなピザ?」

  「電話で注文すると、バイクに乗った配達員がピザを持ってきてくれるんだ。」

  「すごいね!楽しみだ!」

  「さあ、これが広告だ。」

  父親は「ピザ・キャット」の広告を取り出した。ピザ屋の広告を初めて見た4匹は大興奮。

  「どのピザもうまそうだぜ!」

  「シーフードに照り焼きチキン、マルゲリータ…食欲をそそるね!」

  「ピザにパイナップルを乗せるなんて、驚きだな!」

  「いろいろ迷っちゃうね!どれにしよう…」

  「これがいいんじゃないか?いろいろ食べられるぞ。」

  穴太郎が選んだピザは、4種類が1つにまとまっている。

  全員が賛成したため、父親はそのようなピザを2枚頼んだ。

  約20分後、ピザ・キャットのバイクが来た。三毛猫の配達員が箱を2つ差し出す。

  箱を開けた4匹は、目を輝かせた。

  「すげえ、これが宅配ピザか!」

  「ぼくでも本物は初めて見たよ。」

  「おいら、冷凍のピザしか食った事ないからな!電子レンジ以外から出てくるピザなんて新鮮だぜ。」

  「いい匂いだね!早く食べたいよ!」

  栗田一家はそのリアクションを見て、微笑んだ。

  「頼んで良かったね。きっとあれも思い出になるよ。」

  「いただきまーす!」

  全員が思い思いのピザを取り分け、口へ運んだ。

  「うめえ!もう最高だぜ!」

  「チーズがよく伸びるね!これがナッツでできてるなんて信じられないよ。」

  「まだまだ食えるぜ!」

  「ピザなんて本当に久々だよ!」

  2枚目のピザを食べながら、栗田くんに語り掛ける穴太郎。

  「食いたいと思った時にうまい物が食えるなんて、最高だな!」

  「大上区はいろんな店があるからね。ハンバーガーショップにファミレスにケーキ屋さん!」

  「ケーキなんて、俺は誕生日とクリスマスにしか食べられないぞ。クリクリはよく食べてるのか?」

  「自分で買う事はないけど、お母さんがたまに買ってくれるんだ。」

  風呂を済ませて寝る直前、栗田くんは4匹に言った。

  「今夜は寝る前、トイレに行ってみない?」

  「でもな、トイレに行ってもやっちゃうんだよ。そういう体質なんだろうな。

  ま、クリクリがそう言うならやってみるか。」

  穴太郎たちは言われた通りにしてから、布団に入った。

  [newpage]

  [chapter:デパートで買い物]

  翌朝。目覚めた穴太郎たちは、ある事に気がついた。

  「あれ、おむつが濡れてないぞ!」

  「これはもしかして…」

  「おいらたち、おねしょが治ったのか?」

  「こんな朝は初めてかも!」

  喜びと驚きが混ざった声を上げる4匹。栗田くんはベッドの中でひそかに笑った。

  (ぼくのアドバイスが役に立ったみたいだ。これで変わるといいな…)

  その日の午前中、穴太郎の両親が迎えに来た。スーツケースの他にも大量の紙袋を持っているため、ショッピングを楽しんだようだ。

  「みんな久しぶり!元気にしてたようだな。」

  「栗田さんの家族に迷惑はかけなかったよね?」

  「もちろん!俺たち、何も迷惑なんかかけてないぜ!」

  「それじゃ、そろそろ帰るか?」

  「いや、俺たちはもうちょっとみんなで遊びたいぜ。そうだ、デパートやフード・キャッスルにまだ行ってない!」

  「それじゃ、皆さんで行きましょう。栗田一家の皆さんもどうですか?」

  「良いですね。私たちと穴戸さんはあまり話ができませんでしたから。」

  9匹はウルフデパートへ。なお、穴太郎の両親は前日に訪れている。

  案内板を見ながら、興奮して話し合う4匹。

  「これが都会のホームセンターか…」

  「いろんな物が揃ってるね。」

  「もうこれ1軒あれば、他の店はいらないな!」

  「こんなに売り場があると、迷いそうだね!」

  「みんな、好きな物を1つずつ買ってあげるぞ。ただし3000円以下な。」

  穴太郎の父親による言葉に、4匹の子供は喜んだ。

  穴太郎たちは興奮しながら、様々な売り場を見て回った。

  「すげえ、入るといきなり宝石が売ってるのか!」

  「わあ、服がいっぱい!」

  「都会の方ではこんなおもちゃが流行ってるんだね。」

  「虫にも値段がついてるのか!おいらたちの所じゃタダで取り放題なのに。」

  「屋上からの眺めは最高だぜ!世界がすべて見渡せそうだ!」

  2時間ほど回り、1つずつ商品を手にしてデパートを出た。

  穴太郎は虫かご。川助は昆虫図鑑。トントンはらせん状のろうそく。ぴょん太はゴムボール。

  「俺の虫かご、ちょっと古くなってたからな…」

  「これで最新の情報が見られるぞ!」

  「2学期になったら、このろうそくでみんなをびっくりさせるんだ!」

  「また新しい遊びが増えるよ!」

  デパートを出た時、穴太郎の母親が言った。

  「そうだ、みんなに見せたい場所があったんだよ。プラネタリウムさ。

  あっちのビルに入ってる。とにかくあれはすごいんだよ!」

  「おっ、まだあるのか!母ちゃん、おすすめありがとな!」

  「ぼくも楽しみだ。村で見る星空と比べてどっちがきれいかな?」

  「川助はプラネなんとかがどんな奴か知ってるんだな。」

  「夜じゃないのに星空が見られるのかな?」

  一同は5分ほど歩き、高層ビル「JACKAL大上」の前に出た。

  「ここだよ。」

  中に入り、プラネタリウムの入り口へ。チケットを買って入場した。

  「すげえ、広い部屋だ…」

  「何が起きるか楽しみだぜ!あの真ん中にあるでかい機械はなんだ?」

  「この部屋がロケットになって、宇宙に行くのかな?」

  「まあ、始まればわかるよ。ぼくはどんな物か知ってるけど、本物を体験するのは初めてだからね。」

  興奮しながら着席する4匹。残り5匹は体験済みのため、それを微笑ましく見守った。

  しばらくするとブザーが鳴り、部屋が暗くなった。

  「夜空に輝く美しい星たち。その世界へ出かけよう…」

  ナレーションが流れ、天井一面に星空が映し出される。

  「すげえ…これ以上言葉にできない…」

  「思ってたよりきれいだ…」

  「こんなきれいな星空、初めて見たぜ…」

  「村で見るのよりきれいかもね!」

  夏の星座についての解説が30分ほど続き、プラネタリウムは終わった。

  部屋が明るくなると、4匹は思わず拍手した。

  「もうとにかくすごかったぜ!改めて母ちゃんに感謝だ!」

  「そうかい、思ったより喜んでくれて良かったよ。

  さあ、次は何するかい?」

  [newpage]

  [chapter:最後の食事]

  その時、子供たちのお腹が鳴った。

  「そろそろ昼の時間だな。」

  「それならフード・キャッスルへ行こう!最後の思い出作りだよ!」

  栗田くんの合図で、駅構内を抜け東口へ。ビルに混ざって洋風の城が建っている。

  「あの城、中はどうなってんだろうな?」

  「とにかくすごいよ。感動する事間違いなし!

  昼時だから列が長いけど、その間にいろいろ想像してね。」

  1時間ほど並び、ついに入店。待機スペースの廊下には様々な種族用の鎧が並んでいる。

  「すげえ、まるで昔のヨーロッパだぜ!」

  「川助、どんな種族が使う鎧か教えてくれよ!」

  「まずこれはイヌ科の鎧。顔の部分が尖った造りだから、柴犬や狼、狐向きだね。

  これはリスの鎧かな。他の物よりもちょっと小さめで、顔の造りもリスっぽい。きっとお尻の所には、しっぽを出す大きめの穴が開いてるよ。

  それからこの大きい鎧はクジラ用で…」

  解説で時間を潰しているうち、食事スペースへ案内された。

  「お、おお…すごい!」

  「まるで本物のお城だよ!」

  「なあ、おいらたちタイムスリップしたんじゃないか?」

  「あの町中にこんな世界があるなんて!」

  そこは立派なシャンデリアの下がった大広間だった。テーブルと椅子が何十セットも並び、多くの客が食事を楽しんでいる。

  2組の家族は、隣同士のテーブルに着いた。

  「料理はあの壁の向こうに並んでるよ。さあ、取りに行こう!」

  この店は和食、洋食、中華、エスニックまで何でも揃う食べ放題。子供たちは皿に料理の山を作り、次々と頬張った。

  「どれもこれもうまいぜ!おまけに初めての料理ばかりだ!」

  「こんな店が近くにあるなんて、うらやましいよ!」

  「全部のメニューを食ってみたいぜ!」

  「本当においしいね!ずっとここに住みたいぐらいだよ!」

  「おいらも同じだぜ!ここでずっと食い続けたい!」

  「トントン、すっかり気に入ったみたいだね。」

  「そう、今のおいらは食べ頃だからな!」

  「それを言うなら食べ盛りだろ!食べ頃じゃお前が食われるぞ!」

  「やめろ!おいらは食いもんじゃねえ!」

  そのやり取りに全員が笑った。

  料理を食べれば楽しい気分になり、自然と会話が弾む。

  「この餃子、ニンニクが効いてて最高だぜ!」

  穴太郎が嬉しそうに言うと、トントンが笑いながら過去を語り始めた。

  「そうそう、ニンニクで思い出したよ。おいらは昔、ニンニクとは肉の仲間だと思ってたぜ!」

  「何の肉だと思ってたんだ?」

  「鶏肉は鶏。ワニ肉はワニ。だからニンニクは忍者だと思ってた!」

  一同は爆笑に包まれた。

  「忍者!忍者かよ!」

  「どんな種族の忍者だよ!ってかよく食ってたな!」

  「忍者の肉は特別に食べてもいいんだと思ってたぜ。ある日それを食事中に言ったら、父ちゃんが大笑いしながら正しい事を教えてくれたんだ。」

  2時間後、食事の時間が終わった。

  「もう…食えないな…」

  「こんなに食べたのは初めてかも…」

  「お腹が破裂しそうだぜ…」

  「帯がきつい!外しちゃえ。」

  「やっぱりみんな食べ過ぎちゃったね。ぼくもここに来ると、いつも食べ過ぎちゃうんだ。

  あーあ、お腹が重い…」

  5匹の子供はお腹をボールのように膨らませていた。ぴょん太は着物の帯を外し、腹掛けを露出させている。

  「お腹が落ち着いたら、出発しような。」

  「そうだな、父ちゃん。」

  食べ過ぎて動けなくなる客はかなり多いため、店の横には休憩用のベンチが並んでいる。かなりの重量にも耐えられる構造だ。

  9匹はそこに座り、会話を楽しんだ。

  (この会話が終われば、またしばらく会えなくなるのか…最後まで楽しもう。)

  栗田くんは内心で思っていた。

  [newpage]

  [chapter:別れの時]

  30分ほどしてお腹が落ち着くと、一同は大上駅へ。

  「クリクリ、都会は本当に素敵な場所だな。俺たちから見ればテーマパークのような物だったぜ。」

  「ぼくもいろいろ勉強になったよ。ガイドしてくれてありがとう。」

  「おいらにとって最高の思い出ができたぜ!」

  「いつかまた行きたいな。」

  「理沙ちゃんの家、すごかったな!」

  「都会での生活を体験できた事が、一番の勉強かな。」

  「お祭りもうまい物がいっぱいだったし、同じ村に住んでた子と再会できたのも予想外だったぜ!それにあのきれいな…そうそう、プルトニウムも!」

  「ほんと良かったね、プルトニウム!」

  川助が慌てて訂正する。

  「それを言うならプラネタリウム!プルトニウムじゃ危険物だよ!」

  「あ、そうだっけ?あんまり聞いた事ない言葉だから間違えちゃった!」

  その後も挨拶やお礼などを交わし、穴太郎たちは新幹線の改札口へ向かった。

  「穴太郎、川助、トントン、ぴょん太!またね!」

  「おう、またいつかな!」

  穴太郎たちは新幹線で富山駅へ。そこからローカル線に乗り換え、駐車場に止めてあった車で集落に帰った。

  「そんなに日が経ってないのに、なんだかすごく久々な気分だな…」

  「また普段通りの日常に戻るんだね。」

  「いや、おいらたちの心には楽しい思い出が残っているぜ。」

  「そう、それにこのゴムボールもね!」

  川助たちは今日も穴戸家に泊まり、明日の午前中にようやく帰宅する。

  夕食や風呂では思い出話に花を咲かせ、楽しい気分で眠りについた。

  川助はおむつを履いていない。今朝はおねしょをしなかった事で、自信がついたようだ。

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  [chapter:エピローグ]

  翌朝、目覚めると全員の布団が濡れていた。慣れ親しんだ場所に戻った安心感からおねしょをしてしまったようだ。

  「あーあ、みんなおねしょ小僧に逆戻りか…」

  「今夜からまたおむつを履かなきゃ…」

  「そんなに気にするなよ。いつものおいらたちに戻っただけじゃないか。」

  「さあ、布団を干しに行こう!いつものようにね。」

  物干しに並んだおねしょ布団を見ながら、楽しく話す4匹。

  「何も変わってないな。朝の空気も、濡れた布団も…」

  「そう、変わらない。でもそれが一番じゃないかな?

  都会で非日常を過ごすのもたまにはいいけど、ぼくたちにはこの小さな集落が似合ってる。」

  「外の世界、本当に広かったよな…

  でもおいらはここが好きさ。ふんどし1枚で歩いても大丈夫だから!」

  「ぼくだって今日からはまた腹掛けで歩いてもいいんだね!」

  「ああ、そうだ。帰ってきたんだ。

  さあ、そろそろ朝ご飯だぜ!下半身洗ってから行くぞ!」

  「おう!」

  [chapter:おしまい]