第31話「ふしぎな狐塚家」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界。数多くの哺乳類たちが人間のように暮らす世界だ。

  この世界における狐にはごく稀に突然変異が起こり、しっぽが9本生えた状態で生まれてくる。これは「九尾」と呼ばれている。

  普通の狐も化ける能力を持つが、それには練習が必要だ。

  一方、九尾は幻術に長けており、練習をせずともその能力を自由に使いこなせる。

  さらに稀だが、九尾同士で結婚した場合は生まれた子供も九尾になる。また、生まれつき様々な特殊能力を持っている。

  今回の主役は、世にも珍しい九尾の家族。

  [newpage]

  [chapter:不思議な子供たち]

  埼玉県さいたま市大上区。ここの住宅街に、九尾の家族が暮らしている。

  苗字は狐塚。家族構成は両親と4匹の子供だ。

  両親は狐色だが、子供たちの毛色はそれぞれ異なり、それに対応した能力を持っている。

  7時。子供たちが目覚める時間だ。

  (ああ、よく寝たわ…)

  長女の花江ちゃん(6年生、黄緑の毛皮)が一番に目覚めた。4匹の中では一番のしっかり者だ。

  洗面所に行くと、窓辺の花がしおれかけている。

  (またしおれてきたわ。それじゃ…)

  両手で花を包みこみ、精神を集中させてパワーを送る。20秒ほどして手を離すと、花はきれいに咲いていた。

  彼女の能力は、枯れた植物の復活。そのおかげで、この花は何年も咲き続けている。

  部屋に戻ると、残りの3匹も起きていた。

  長男の海くん(5年生、青い毛皮)は布団の中でため息をついている。彼は冷静で、よく家事を手伝う。

  彼の能力は、水を操る事。空気中から瞬時に水流を出したり、池や川の水を自由に動かせる。また、水中でも呼吸が可能。

  しかし水と縁があるためか、ほぼ毎朝のおねしょが悩みだ。今朝も布団には水たまりが広がっている。

  彼は庭に布団を干した。

  「笛吾、風子、いつもの頼むよ!」

  次男の笛吾くん(3年生、赤い毛皮)と、次女の風子ちゃん(1年生、白い毛皮)が庭に現れた。

  笛吾くんはわんぱく小僧で、スポーツが好き。また少し怒りっぽい。

  能力は炎を操る事。狐火を自由に操り、温度の調節も可能だ。また、火の中に入ってもダメージを受けない。

  風子ちゃんは好奇心旺盛で、何にでも手を出したがる。

  能力は風を操る事。思いのままに風を吹かせられ、風との会話も可能だ。

  2匹はそれぞれ狐火と暖かな風を呼び、布団を乾かし始めた。これは何年も繰り返されてきた朝のルーチンだ。

  この連携プレイで、すぐに布団は乾いた。

  「いつもありがとう。早くおねしょを直さなきゃ…」

  「おむつ履いて寝たらどう?」

  「笛吾、何度言ったらわかるんだ!それは恥ずかしいから嫌だ!」

  その時、優しい風が吹いてきた。風子ちゃんが挨拶をする。

  「風さん、おはよう。」

  「おはよう、風子ちゃん。いつも挨拶してくれてありがとう。」

  彼女の耳には、優しい女性の声で聞こえた。この挨拶も日課だ。

  台所では、母親が朝食のトーストを作っていた。トースターではなく、手から出した狐火を使っている。

  父親はタブレットでニュースを見ながら、狐火でコーヒーを温めている。

  「はい、トースト焼けたわよ。」

  「ありがとう。」

  しばらくして、着替えた4匹の子供たちも着席。

  「いただきます!」

  朝食の時間が始まった。

  今でこそ平和に暮らしている狐塚一家だが、かつて大きなトラブルに見舞われた事がある。

  これは、子供たちが自分を取り戻す物語。

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  [chapter:平和だった暮らし]

  時は2015年。まだケモノ界の住民が普通に成長していた時代。

  この頃、狐塚一家は富山県の山間部に位置する土井中村に住んでいた。4匹の子供は毎日自然の中で遊び、特殊能力も当たり前のように使っていた。

  一家が住む集落に家は少なく、子供も住んでいない。そのため、普段の生活で誰かの目につく可能性はかなり低かった。

  土井中小学校には父親の運転する車で通っていた。全校児童は約45頭。

  当時の花江ちゃんは5年生、海くんは4年生、笛吾くんは2年生。

  児童たちは皆仲が良く、特殊能力についても受け入れていた。

  「花江ちゃん、この花をよみがえらせて!」

  「海くん、今日は暑いからミストを出して!」

  「笛吾くん、ちょっと寒いから狐火を出して!」

  困った事があれば、頼りにされる。3匹は頼みをしっかりと聞き入れていた。

  ちなみに風子ちゃんは未就学児で、なおかつこの辺りには幼稚園が存在しない。そのため1日中家の近所で遊んでいた。

  「ねえ風さん、今日はこれからどうなるの?」

  「午後から雨が降るわよ。だからそれまでお家に入りなさい。」

  「はーい、ありがとう!」

  平和な日々が長らく続いていた。その日が来るまでは…

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  [chapter:大喧嘩]

  15年度新入生の1匹に、かなり太った豚の男の子が含まれていた。トントンのあだ名で呼ばれている。

  彼はやんちゃでいたずら好き。怒られる事もそこそこ起きたが、それでも全く懲りない。

  12月のある日、1、2年生が合同で図工の授業を受けていた。

  テーマは「自分が好きな物の絵」。児童たちは思い思いに絵を描いていた。

  笛吾くんはゲーム機を描いているが、形がうまく描けない。いらだちながら手を動かしていると、隣に座るトントンに声をかけられた。

  「なあ笛吾、茶色の絵の具貸してくれよ。おいらカレーを描こうと思ったけど、ちょうど茶色が切れちゃってて…」

  「はい。でも使いすぎるなよ。俺も後で使うから。」

  「ありがとう。さてと…」

  チューブを絞ろうとするが、中身が出てこない。形状記憶を持つ素材で作られているため、外見では中身の残量がわからない製品だった。

  「笛吾、この絵の具も切れちゃってるぜ。だから返すよ。」

  それを聞いた笛吾くんは、不機嫌に答えた。

  「おい、全部使っただろ!」

  「いや、最初から切れてたんだ。だってこのチューブ…」

  「お前の事だから、チューブから出した時点でカレーと間違えて全部飲んじゃったんじゃないか!?」

  「そんなわけない!いくら食いしん坊のおいらでも絵の具は食べないから!」

  「後で使うってさっき言ったよな?俺の絵にはどうしても茶色が必要だったんだ!ゲーム画面の地面にだ!」

  「他の絵を描けばいいじゃんかよ!」

  「俺の好きなゲームの画面だぞ!あの画面じゃないと嫌だ!」

  口喧嘩が始まった所で、担任の鹿島 角太(鹿)が駆けつけた。

  「こら、喧嘩はやめろ!今は静かに絵を描く時間だぞ!」

  笛吾くんが喧嘩の原因を説明すると、鹿島先生は予備の絵の具を渡した。

  絵は完成したが、期待には程遠いクオリティ。彼はその怒りをどこかにぶちまけなければ気が済まなかった。

  休み時間。笛吾くんはトントンに詰め寄っていた。

  「どうして俺の絵の具を全部使ったんだ!?」

  「だから、おいらは使ってないって!」

  「いいや、使ったか食ったに決まってる!謝れ!」

  「謝らないよ。おいらは悪くないもん。」

  「いいから謝れ!ごめんなさいと一言でも言えば今回は許してやる!」

  「言わないよ。」

  「さっさと言え!」

  「ごめんねごめんねぇ~。」

  「ふざけるな!そんなお笑いタレントみたいな謝罪をするな!ちゃんと謝れ!

  それなら俺の言う文字を今から続けて言ってみな!ご!」

  「ご。」

  「め!」

  「り。」

  「ん!」

  「ら。」

  「な!」

  「の。」

  「さ!」

  「は。」

  「い!」

  「なくそ。」

  「さあ、続けて言え!」

  「ゴリラの鼻くそ。」

  「なんだと!? だからふざけるな!真面目にやれ!

  さあ、もう一度だ!ご!」

  「ご。」

  「め!」

  「は。」

  「ん!」

  「ん。」

  「な!」

  「た。」

  「さ!」

  「べ。」

  「い!」

  「たい。」

  「続けて言え!」

  「ご飯食べたい。」

  「はあ!? まだふざけるのか!お前が素直にごめんなさいと言えば終わる事だぞ!

  さあ、もう一度だ!お前が謝らないと終わらないぞ!」

  「じゃあ今からおいらの言う文字言ってみな。あ!」

  「あ。」

  「き!」

  「き。」

  「ら!」

  「ら。」

  「め!」

  「め。」

  「ま!」

  「ま。」

  「す!」

  「す。」

  「さあ、続けて言うと?」

  「あきらめます…おい!何を言わせるんだ!」

  「あきらめるのか。それじゃもうこの事はチャラだな!」

  「こいつめ!よくも俺をコケにしやがったな!」

  笛吾くんはトントンの腕をつかみ、怒りを爆発させた。同時に彼の全身から炎が上がった。

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  [chapter:事態の悪化]

  「ギャーッ!」

  トントンの悲鳴で、笛吾くんは我に返った。彼は手にやけどを負い、服の一部が燃えている。

  「ああ、ごめん!本当にごめん!こんなつもりじゃなかったんだ!」

  慌てて謝るが、トントンは泣きながら廊下を走り回った。

  「誰か!水を!水を!」

  児童の1匹が急いで水筒の中身をかけ、事なきを得た。

  「どうしたんだ?すごい声が聞こえたが…」

  鹿島先生が走ってきた。

  「笛吾がおいらにやけどを負わせたんだ!もう少しで丸焼きにされる所だったよ!」

  「いったいどういう状況だ?」

  「おいらと笛吾とでけんかになって、最後に笛吾が体から炎を…」

  「おい、笛吾!少しは手加減しろ!」

  「いや、トントンが俺をやたらとおちょくってくるから、ついカッとなって…」

  「なんだと?元はと言えばお前が勝手に怒り出したせいだぞ!だからお前の方が悪い!」

  またけんかが始まりそうなため、鹿島先生は慌てて言った。

  「落ち着け!別室でお前たちの話を聞くから、そこでどっちがより悪いか判断する。」

  話を聞いた結果、笛吾くんに非があると決まった。理不尽な理由で下級生に文句をつけ、最終的にやけどまで負わせたから当然の結果だ。

  狐塚家の両親はトントンに対して治療費を払う羽目になり、トントンも笛吾くんを避けるようになった。

  この学校には、さらに厄介な児童が在籍していた。

  5年生の狼、礼堂 乃愛ちゃん。一見愛らしいが、実は意地悪な子だ。

  常に周囲の粗探しを行い、教師の目が届かない場所で悪口や陰口を言う。

  彼女は校内で笛吾くんとすれ違う度に、ささやいた。

  「やけどの元、近寄らないでよね。」

  それを聞くたびに、彼は気分が落ち込んだ。

  (好きで近寄ってるんじゃないのに…近寄って欲しくないのはお前の方だよ!)

  花江ちゃんや海くんも、陰口の対象にされた。

  「あいつがいたら、花屋が儲からないわね!」

  「あいつはそのうち洪水を起こすんじゃないかしら?だったらますます近寄りたくないわ。」

  数日後には仮病を使って学校を休み、両親が出かけている間に山を越えて狐塚家を観察。風子ちゃんが風と話している現場を覗き見た。その執念には恐怖すら感じられる。

  「狐塚家の末っ子は、誰もいない空間に向かってしゃべってるのよ。きっと頭がおかしいのね。」

  「えー、ほんとなの?」

  「そうよ。私見たの。あれは病院で見てもらった方がいいわ。」

  乃愛ちゃんの噂に盛り上がる数名の児童。それを離れた場所で見る花江ちゃんは、悲しく感じた。

  (確かに私だって風子に何が聞こえているかはわからない。それにあの能力は目で確認できない。

  でもあんな風に言う事ないじゃない!本当に許せないわ!)

  もちろん、すべての児童や教師が乃愛ちゃんの話を信じたわけではない。話を真摯に聞いてくれる教師がほとんどだったため、乃愛ちゃんはよく𠮟られた。

  しかし彼女は全く懲りずに陰口を言い続けた。校内のみならず、村の住民にも言いふらす。

  それによりあらぬ噂が立ち始め、狐塚家の子供たちは学校を休みがちになった。

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  [chapter:追い詰められる子供たち]

  翌年1月。小学生の3匹は完全な不登校となった。

  「もう学校なんて絶対行かないわ…」

  「普通に生まれたかった…こんな能力さえ持ってなければ陰口なんて言われなかったのに!」

  「こうなったのもみんな俺のせいだ…ああ、俺さえいなければ…」

  室内に険悪な雰囲気が漂う。小学生でない風子ちゃんもそれを感じ取り、部屋に閉じこもって泣く日が増えた。

  「もうここで暮らすのは嫌!私は風になって自由に飛び回って生きたいわ!

  それか空の雲になる!名前も雲に子って書いて、『くもこ』にする!」

  夕食の席で号泣しながら、家族に思いをぶちまける彼女。

  「それ本当は『うんこ』って読むんじゃないのか?アハハ!」

  「もう、ふざけないで!家族にまでそんな事言われるなら、もう私はずっと部屋から出ない!」

  笛吾くんが場を和ませようと言った冗談も、彼女には逆効果となった。

  数日後。子供たちが寝静まった後、両親は話し合っていた。

  「子供たちがかわいそうだ。何とかしなければ…」

  「ええ、そうね…引っ越しなんてどう?」

  「それがいい。特殊能力の事を隠して、遠くへ引っ越せばいい。俺たちの事を誰も知らない地へ。」

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  [chapter:新天地へ]

  約2週間後、両親は子供たちを集めて話した。

  「うちの家族は春休みに引っ越す。新天地は埼玉県さいたま市大上区だ。みんなはそこで普通の子として暮らすんだ。」

  「お父さん、それどういう事?」

  「つまり、誰かの目につく危険性がある場所で特殊能力を使ってはいけない事にする。

  花江は植物を復活させない。海は水を出さない。笛吾は火を出さない。風子は風と話さない。」

  「そんな!私たちのアイデンティティが!」

  「おねしょの布団は自然乾燥するの?そっちの方が見られたくないよ!」

  「俺はもう抑えるつもりだけど、他のみんなまで巻き添えにしなくても…」

  「もう風さんが話しかけてきても、無視するしかないのね…」

  「みんな辛いだろうけど、世間のためにはそれがいいわ。今の世の中、少しでも目立ってしまったら注目されてしまうのよ。

  それに向こうはここよりも生活が便利よ。その点では向こうの方が良いわ。」

  子供たちは不満を感じていたが、両親の前では我慢した。

  土井中村で過ごす日々も残りわずか。子供たちは登校を再開した。

  できるだけ仲の良い子と過ごし、乃愛ちゃんの陰口を聞いてしまった時は意識を逸らした。

  笛吾くんはトントンに改めて謝ろうとしたが、まだ彼に避けられてしまう。そのため、最後の日まで謝れないまま終わった。

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  春休みが始まる頃、一家は大上区に引っ越した。早朝に自動車で出発し、昼前に新居へ。

  「さあ、ここが新しい家だ。引っ越しのトラックは後で来るよ。」

  「いいわね、あなたたちは普通の子として振る舞うのよ。

  もし使っている所を見られたら、私たちはまた引っ越さないといけないわ。この家、結構高かったから…」

  「はい、もちろん。」

  花江ちゃんと海くんは冷静に答えたが、笛吾くんと風子ちゃんは家具の置かれていない室内を駆け回った。広い家に興奮しているようだ。

  「話を聞いてるんだか、聞いてないんだか…」

  「まあこの辺りじゃ、あの村ほど思いっきり走り回れる場所はなさそうね。家具が運ばれるまでの短い間はああやって遊ばせておきましょうよ。」

  [newpage]

  [chapter:能力を使う時]

  その時、笛吾くんが叫んだ。

  「お、おい、裏の家が!」

  残りの5匹が駆けつける。

  「か、火事よ!」

  「大変だ!」

  台所で火事が起き、家の一部や庭木が激しく燃えている。このままでは新居にも燃え移ってしまうだろう。

  おまけに家主や近隣住民もすべて留守だ。春休みのため、どこかへ出かけているらしい。

  父親はなんとか冷静さを保ちながら、電話をかけた。

  「今119番に電話したから、もうすぐ消えるぞ!」

  「でもそんなすぐには来ないわ!どうすればいいの!?」

  花江ちゃんが提案した。

  「私たちの能力を使いましょう!」

  「でもお姉ちゃん、さっき言われたよね?使うなって…」

  「今はそんな場合じゃないわ!火事を消すには水が必須よ!それに風だって延焼を防げるかもしれない!」

  「わかった、もう仕方がない!笛吾と風子も行くぞ!」

  「俺はここで待ってる。俺の能力は火だから、使ったら迷惑だよな…」

  「笛吾も来て!あんたは火の中でも平気でしょ!それを生かせるわ!」

  「ああ、そうか!」

  「九尾の消防隊、出動よ!」

  4匹は慌てて裏庭へ。

  海くんは大量の水を呼び出し、何度も火に向かってかけた。風子ちゃんは風向きを調節し、火が自宅まで行かないようにする。

  「気休めかもしれないけど、何もしないよりましだ!」

  笛吾くんは空のペットボトル(大上区に向かう途中、サービスエリアで買ったジュースが入っていた)に水を汲み、火の中に入ってかけた。この能力は体に触れている物にも適用されるため、ペットボトルや服が燃えてしまう心配はない。

  花江ちゃんと両親は監視役に徹し、3匹を応援する。

  「頑張って、頑張って、みんな!」

  「火が小さくなってきたぞ!」

  「もうすぐ消せるわ!そこよ!」

  10分も経たないうちに、消火が完了。裏の家は台所を含む一部が燃えただけで済み、狐塚家にはほとんど被害が出なかった。

  「やった!やったよ!」

  「俺たちのおかげで、被害を最小限にできたな!」

  「風さん、ありがとう。こっちでもよろしくね。」

  「ええ、もちろんよ。新しい場所でも頑張ってね。」

  一同は喜びの声を上げた。

  「さあ、ここからは私の番よ。」

  花江ちゃんは燃えた草木の蘇生を始めた。完全に燃え尽きた物は無理だが、形が残っている物は復活させられる。

  [newpage]

  [chapter:自信を取り戻せ]

  それが半分ほど終わった所で、サイレンの音が近づいてきた。消防車の到着だ。

  クジラ、象、カバ、アライグマの隊員がホースを持って駆けつける。

  「さあ、火事は…あれ?もう消えてるぞ!」

  花江ちゃんは前に出て謝った。

  「ごめんなさい、あなたたちの仕事を奪ってしまいました!私たちは裏の家に引っ越したばかりで、早くしないと家が燃えてしまうと思い、居ても立ってもいられなくなって…」

  「謝る事はないよ。せっかくの新居が燃えたら悲しいからね。しかしどうやって火を消したんだ?それに緑の狐なんて初めて見たぞ。」

  「えっ、それは…その…」

  しばらく口ごもっていたが、思い切って真実を話した。

  「実は私たち、特殊能力が使えるんです!それを使って消火したんです!」

  「いったいどんな能力だ?」

  「それはですね…」

  彼女は残り3匹を集め、すべてを話した。笛吾くんを除いて特殊能力も披露した。

  「これが私たちの能力。みんな生まれつき持っているのよ。

  私たちの両親は九尾の狐。九尾同士で結婚すると、子供は特殊能力を持って生まれるわ。

  でもこんな子供は滅多にいない。前の学校でいじめられるようになったから、こっちに引っ越したのよ。

  これから能力は隠すと決めていたけど、つい使ってしまった。こんな狐って変よね…」

  「いや、そんな事はない。枯れた花を復活させられるなんて素敵な能力じゃないか!」

  「君たちだけにしか使えない能力だから、生かさないともったいない。今だって十分役に立っただろう。」

  「隠す事はない。いじめる方が悪いんだ。みんなのために使ってあげれば、君たちはきっと学校のスターになれる!」

  「自分に自信を持てば、4月から新しい学校で元気にやっていけるさ!頑張れ!」

  消防士たちに諭されて、4匹は自信を取り戻した。

  「なんだか元気が出てきました。ありがとうございます!」

  「よし、ぼくは4月からすべてをみんなに話そう!その方がきっと受け入れてもらえるさ。」

  「じゃあ毎日おねしょしてる事も言うんだな!」

  「笛吾、それは絶対言わないで!それは秘密にしておきたいんだ!」

  「さあ、どうしようかな~?もうここの消防士たちには知られてるぜ。」

  「そんな!笛吾のせいだぞ!」

  クジラが彼に語り掛ける。

  「落ち着け。俺だってガキの頃はおねしょばかりしてたんだ。母ちゃんに『あんたはそっちから潮を吹くのね』ってよくからかわれたぜ…

  やはり水と縁のある奴はそういう宿命なんだろう。これでお互い様だな。

  ま、成長すれば自然と治るさ。お前もそうなるだろう。」

  「ありがとう、気が楽になりました。」

  消防士が帰ると、一家は再び新居へ。ちょうど引っ越しトラックも到着した。

  家具の搬入が終わると、新天地の生活が本格的に始まった。

  「さあ、まずはこの町を見に行こう!ついでにお昼も食べようじゃないか。」

  「この辺はいろんな店がありそうね。早速行きましょう!」

  [newpage]

  [chapter:安住の地]

  夕方、一家は住宅街に向かっていた。

  「いやあ、楽しかったな!」

  「本当ね!大上区は便利な場所ね!」

  「あんな高いビル、初めて見たわ…」

  「プラネタリウム、きれいだったね…」

  「ハンバーガーもうまかったぜ!」

  「なんだか未来の世界に来たみたいだった!」

  田舎で育った子供たちにとって、都会は未知の世界。興奮尽くしの1日だった。

  「そろそろみんな帰ってるだろうから、挨拶回りだな。」

  帰宅からしばらくして、裏の家に住む家族──うさぎの場丹井一家が帰ってきた。

  「まあ、何よこれ!」

  「どうやら出かけている間に火事が起きたようだ…」

  「考えてみれば、ガスコンロの火をちゃんと消さなかったからかも…ああ、台所が…」

  「でも待てよ。その割に被害が意外と少ないぞ。誰かが早めに消してくれたのかもしれない。」

  「それだったら、その誰かにお礼を言わないと!でも誰かしら?」

  そこへ狐塚一家が来た。

  「はじめまして、裏に越してきた狐塚です。これからよろしくお願いします。」

  「場丹井です。こちらこそよろしくお願いいたします。」

  「そうそう、引っ越してきた直後にそちらのお宅が燃え始めたため、うちの子供たちが消火活動をしたんですよ。」

  「えっ、そちらのお子さんが!? あ、ありがとうございます!こちらの不始末で大変すみません…」

  子供たちが前に出た。

  「私たちはみんな特殊能力が使えます。それを生かして火を消しました。」

  それから、能力の詳細や引っ越しの理由を話した。

  「いや、本当にすごい!ちょうどいい時に来てくれてありがとう。

  これからもその能力を生かし、みんなを助けて欲しい。できる範囲でね。」

  場丹井家の火事を消し止めた子供たちの話はすぐ近所に伝わり、狐塚一家は一躍ヒーローに。近隣の子供ともすぐに仲良くなった。

  シマリスの栗田 永雄くんとキタキツネの稲荷山 紺助くん(共に4月から4年生)は散歩中、子供たちに出会った。

  「へえ、君たちが狐塚家のみんな?」

  「火事を消したんだって?すごいね!」

  「うん。ぼくたちは力を合わせて頑張ったんだ。」

  「すごいね!ぼくもそれだけの力が欲しかったな…」

  「稲荷山くんにはもう十分すごい力があるよ。」

  「へえ、何?」

  「ぼくをいつも大切に思ってくれる心さ。」

  「ありがとう、栗田くん。

  そうだ、4月になったら一緒に相撲部へ入ろうね。」

  「もちろん!夢だった土俵に上がれるぞ!」

  引っ越し初日に良いイメージを与えたため、一家にとって平和な日々が続いた。

  4月からはケモノ小学校埼玉校へ。児童や教師は皆が優しく、特殊能力の事も受け入れてくれた。もういじめられる心配はないだろう。

  狐塚一家は、大上区を安住の地と決めた。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  翌年から全世界で成長が止まったため、2022年現在も同じクラスメイトと平和に暮らしている。

  しかし笛吾くんは、時折悩んでいた。

  (俺がやけどをさせてしまったあの豚、今はどうしてるんだろうな…

  もう名前も思い出せないが、あいつにもう一度心から謝りたい。でもこっちに引っ越した以上は無理だろうな…)

  /////////////////////

  こちらは土井中村。トントンは遊びの途中、突然座り込んで考え始めた。

  「急にどうしたんだ?」

  「いつもの元気はどこへ行ったの?」

  「トントンらしくないよ。」

  仲間の穴太郎(アナグマ)、川助(カワウソ)、ぴょん太(野うさぎ)が尋ねる。

  「昔の事を思い出したんだ。ずっと前、学校に真っ赤な狐の子がいただろ?

  そいつが怒って、おいらにやけどをさせた事があった。だからそれ以降、そいつと関わらないようにしてたんだ。

  でも思い返すと、あいつはおいらに何か言いたい事があったのかもしれない。だから次に会ったら、話をちゃんと聞いてやろうと思ったんだ。」

  「ああ、あいつの事か。同じクラスじゃなかったから名前も思い出せないな…

  ぴょん太は学校に行ってないし…川助は賢いから覚えてるんじゃないか?」

  「ごめん、結構前の事だからぼくも覚えてないよ。名前も、どこに引っ越したかも。」

  「そうか…もちろんおいらだって覚えてない。」

  「まあ会えたら奇跡だね。ここから動かない限りは、もう絶対に会う事はない。

  それに会えたとしても、向こうは忘れている可能性だってある。諦めた方がいいんじゃないかな。」

  「そうかもな…あいつは今どうしてるんだろう…」

  初夏の空の下、2匹の子供は同じ事を考えていた。

  果たして、お互いの想いが届く日は来るだろうか…

  [chapter:おしまい]