第30話「激しい戦いと時間を超える旅」

  [chapter:前回のあらすじ]

  時は2022年3月27日。大上区は暗雲に覆われ、住民たちは凶暴化した。

  それは異世界の滅亡を楽しむ悪の軍団…シェルフィールド卿、エレノア、スーザン女王、ナシーリェ・プリェストによる物だった。

  大上区に住む栗田くん、くるみちゃん、稲荷山くん、真里ちゃん。

  異世界タイムマシンで集められたイタ助、ヴェルトン、エイミー姫、ジェームズ王子。

  戦いのすべてを知る長尾くん。

  大上スピードシティの最上階で9対4のバトルが始まろうとしていたが、ヴェルトンが持つ魔法の杖と、彼女の用意したお助けリュックサックがシェルフィールド卿によって消されてしまう。

  絶体絶命の栗田くんたち。ついに戦いの火蓋が切って落とされた…

  [newpage]

  [chapter:残酷なショー]

  「さあ、あなたたちを苦しめてやりましょう。覚悟はいいですか?」

  「シェルフィールド卿、いったいぼくたちに何をする気なんだ!」

  「何度も言いましたよね?苦しんでもらうのです。苦しみ抜いた所で始末します。

  ではまず、皆様にショーを楽しんでもらいます。こちらの映像をご覧ください。

  そこの窓よ、高画質のモニターに変われ!そこには私が思う場所をすべて映せる!」

  その通りになると、ナシーリェが言った。

  「わしはショーの準備に。シェルフィールド卿、理沙の家にわしをワープさせろ!」

  「はい、わかりました。」

  命令が終わると、モニターに理沙ちゃんが映った。居間のソファーに座り、両親や使用獣と不安げに話し合っている。

  「お父様、今日はいったいどうしちゃったのかしら…空は闇のように曇り、友達に電話をかけても連絡がつかないなんて…」

  「とにかく大変な事が起きているのは間違いない。今日は家に引きこもっていよう。それなら安全なはずだ。」

  「良かった、理沙ちゃんは無事ね。」

  くるみちゃんが胸をなで下ろしていると、栗田くんが表情を凍りつかせた。

  「ちょっと待って!ナシーリェがワープするって言ってたよね!つまり理沙ちゃんはもうすぐ…

  そうだ、ナシーリェはグレゴワールとそっくりだ!」

  「グレゴワールって誰?」

  「理沙ちゃんのおじいちゃん。ぼくが鏡の世界からケモノ界に戻ってきた時、助けてくれたんだ。

  きっと、理沙ちゃんはナシーリェをおじいちゃんと間違えて…」

  その予想は的中。ナシーリェが居間に入ってきた。

  「あら、おじいさま!いつの間に来ていましたの?」

  「ああ、ちょっと理沙の事が心配でな。わしがいればもう大丈夫だ。」

  「良かったわ。でもこんな短時間でどうやってパリから…」

  「そこは気にしなくていい。さあ、理沙の顔をもっとよく見せておくれ。久々に会うからな。」

  理沙ちゃんはもちろん、両親や使用獣も彼がグレゴワールと疑わなかった。モニターを見つめる栗田くんたちは必死に叫ぶ。

  「理沙ちゃん、だめよ!」

  「そいつは敵だ!」

  「早く離れて!」

  「お願いよ、逃げて!」

  しかし、その声が届くはずはない。ナシーリェは理沙ちゃんの隣に座り、手を強く握った。

  「ああ、相変わらず素敵な顔だ…」

  「おじいさま、ありがとうございます…」

  「わしがもっと素敵にしてやろう。これでな!」

  彼は不気味な笑みを浮かべ、ナイフを取り出して理沙ちゃんの顔面を激しく切り裂いた。彼女の悲鳴が響き渡る。

  「孫に手をかけるとは、気でも狂ったか!」

  父親は怒りに燃えたが、直後に気づいた。ナシーリェはナイフを左手に持っている。

  (待てよ、父は右利きだったぞ。つまり…)

  「みんな、こいつは私の父ではない!殺し屋だ!逃げろ!」

  それを合図に母親や使用獣たちは逃げ出したが、約5分で全員が犠牲になった。

  「ナシーリェよ、戻ってこい!」

  シェルフィールド卿の合図で、彼は展望台に戻った。得意げに笑い、語り掛ける。

  「栗田とその仲間たちよ、今の気持ちを教えてくれ。」

  一同は恐怖と怒りに震えた。栗田くんが怒りの声を上げる。

  「なんて…なんて残酷なんだ!ぼくは許せないよ!

  罪のない理沙ちゃんをだまして殺すなんて、本当にひどい!とても同じケモノのする事とは思えないよ!」

  残りの7名も、怒りと悲しみの声を上げた。理沙ちゃんを知らないイタ助、ヴェルトン、ジェームズ王子も同様だ。

  それを見ながら、シェルフィールド卿は不敵に笑う。

  「先程のショーも素晴らしかったですが、皆さんの反応はさらに素晴らしいですね。私の心が満たされますよ。」

  [newpage]

  [chapter:殺される知り合い]

  残酷なショーはまだ終わらない。

  「大上区以外に住む栗田と関わりの深いケモノよ、ここに映れ!」

  一帯の窓がモニターに変わり、複数の映像が流れた。

  友達と銭湯を楽しむ母方の祖父。

  大根おろしを作る母方の祖母。祖父共に川獺市在住。

  草刈りに励む父方の祖父母。

  水鉄砲で遊ぶ穴太郎(アナグマ)、川助(カワウソ)、トントン(豚)、ぴょん太(野うさぎ)。父方の祖父母共に富山県土井中村在住。

  両親と日曜日を楽しむ愛知県在住の栗田くん(シマリス)。彼は元々ナシーリェと同じ世界の住民だったが、紆余曲折を経て2年前にケモノ界の住民となった。

  駄菓子を食べている黒崎くん(シマリス)。こちらも川獺市在住。

  ベッドで眠るグレゴワール。パリ在住。

  大上区以外では平和が続いているようで、全員が普段通りの日常を送っていた。しかしそれももうすぐ終わる。

  栗田くんはそれを悟ったが、モニター内のケモノに伝える事は不可能だった。

  「みんな、残り少ない平和を楽しんでね…」

  悲しげにつぶやいた直後、シェルフィールド卿が命令を出した。

  「銭湯のお湯よ、硫酸に変われ!

  大根とあの女よ、入れ替われ!

  草刈り鎌とあの夫婦も入れ替われ!

  水鉄砲よ、火炎放射器に変われ!

  あのシマリス夫婦よ、そこにいる子供を包丁で突き刺せ!

  駄菓子よ、猛毒に変われ!

  あのホッキョクギツネよ、自然発火せよ!」

  その通りになり、すべてのモニターで残虐な映像が流れた。一同は悲鳴を上げ、目を覆い、真里ちゃんに至っては気絶してしまった。

  「真里ちゃん、大丈夫!?」

  稲荷山くんが慌てて介抱する。

  シェルフィールド卿たちは映像を楽しんでいる。4名には楽しいショーと感じられるようだ。

  「実に見事な叫び声ですね。」

  「本当に素敵だよ。安眠時に流したいねえ。」

  「苦しみ方も惚れ惚れする。これは永久保存版だな!」

  「見てると興奮してくるわ。さあ、感想をどうぞ。」

  栗田くんはショックのあまり口が回りづらくなっていたが、なんとか言葉を絞り出す。

  「あ、あ、あ…ぼくの…友達…親戚…みんなを返せ!」

  「返す?そんな事はしませんよ。あなたが次に皆さんと会えるのはあの世ですね。」

  「お前は全知全能の力を持つんだろ?だからその力で復活させればいいじゃないか!」

  「私のポリシーに反します。それにあの方が美しいですよ。」

  「あんな残酷な物が美しく見えるなんて、お前は本当にどうかしてるよ!」

  「フフフ、順調に苦しんでいますね。さて、次はこちらをご覧ください。

  モニターよ、元の窓に戻れ!」

  [newpage]

  [chapter:破壊される大上区]

  また大上区が見渡せるように戻ったが、相変わらず空は曇ったまま。

  「さあ、窓の外をご覧ください。

  栗田たち8名よ、窓のそばから動けないようになれ!目を2秒以上閉じる事も不可能になれ!」

  困惑する8名。シェルフィールド卿たちは階段の方に消えた。どうやら事前情報なしで何かを始めるようだ。

  「どうしてそんな事を…」

  「きっとこのショー…いや、残虐行為をすべて見せるためよ。」

  「そんな!今度は何をする気なんだろう…」

  「この風景を見せるって事は、まさか大上区が…」

  その時、エイミー姫が叫んだ。

  「ちょっと待って!長尾くんはどこに行ったのかしら?」

  言われてみれば、戦いが始まった辺りから姿が見えなくなっていた。

  「そうだ!どこへ消えたんだ!?」

  「きっとみんなを見捨てて逃げたのよ!」

  「じゃあ、ぼくたちは負けるんだ!魔法の杖がなくなった今、ぼくたちに勝ち目はない!」

  「ひどいわ、長尾くん!」

  叫んでいると、イタ助くんが言った。

  「ねえみんな、落ち着いて!何か聞こえない?」

  耳を澄ませると、地響きのような音が近づいてくる。

  「確かにそうだ…」

  「地震かな?」

  「いや、何か大きな物が近づいてるような…」

  「あ、あれは!」

  音の正体は、巨大化した栗田くんだった。大上駅東口のビルを破壊しながら近づいてくる。

  「な、何よあれ!」

  本物の栗田くんが説明を始める。

  「3年ぐらい前かな。ぼくはある夢を見た。自分が巨大化して、地球や宇宙を破壊する内容だ。

  あれはその時のぼくだよ!シェルフィールド卿はあんな物まで実体化させたんだ!」

  シェルフィールド卿がまた展望台に現れた。

  「その通り。夢を分析し実体化させました。

  あなたの見た夢が自分の町を破壊している。つまり、あなたは大上区を壊したのです。

  栗田、すべてあなたの責任です。生き残りの住民に謝罪をするなら今ですよ。

  あなたが謝罪すれば、私は破壊を止めます。さあ、どうしますか?」

  「いや、でもそれは…」

  「このまま止めなければ、いずれこのビルも破壊されます。私たちは不死身ですが、あなたたちはここで死を迎えますよ。

  さあ、まだ死にたくなければ今のうちに謝罪を。謝りなさい、謝りなさい…」

  言葉責めに耐えられず、栗田くんは口を開いた。

  「大上区の皆さん、ごめ…」

  その時、くるみちゃんが叫んだ。

  「栗田くん、やめて!ここで謝ったら奴らの思うツボよ!」

  稲荷山くんと真里ちゃんも続く。

  「栗田くんは何も悪くない!悪いのは全部シェルフィールド卿じゃないか!」

  「謝ったら負けよ!ここまで来たんだから希望を持ち続けましょう!」

  残り4名も全力で彼を励ます。それを聞いて、彼の考えが変わった。

  「ぼくは何も悪くない。だから謝らないぞ!謝るのはお前らの方だ!

  いや、謝罪ぐらいじゃ満足しない。お前らがした事の何倍もの苦しみを与えてやりたい!」

  視線は動かせないが、栗田くんはシェルフィールド卿に思いをぶちまけた。

  「これほど言っても謝らないなら、次の段階に行きましょう。」

  彼は再び階段方面に消えた。巨大栗田くんは大上駅を破壊しつくし、西口のビルに手をかけた。

  「どうしよう、もうすぐこっちに来ちゃうよ!」

  その時、ジェームズ王子が空を見て叫んだ。

  「おい、みんな!あれは!」

  巨大な隕石が落ちてくる。

  「あ、あ、あの時の隕石だ!」

  「栗田くん、あれも夢で見たの?」

  「違うよ、エイミー姫!あれは本当に起きた事だ!」

  5年前の秋、大上区に巨大な隕石が迫ってきた。幸いにして衝突寸前で小型隕石と衝突し、軌道が変わったため被害は一切発生しなかった。

  「残念ですが、あなたたちにはここで死んでもらいましょう。大上区と共に最期を迎えられるなんて、幸せですね!」

  戻ってきたシェルフィールド卿が得意げに笑う。栗田くんたちは逃げる事や目を閉じる事もできない。

  「どうしよう!もうおしまいだ!」

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  その時、巨大栗田くんが隕石に目をつけた。

  「おっと、危ないぞ!」

  彼は隕石をつかみ、宇宙へ放り投げた。

  「よし、これで大丈夫!」

  栗田くんたちは喜んだ。

  「ああ、助かった!本当にありがとう、巨大なぼく!」

  「やっぱり、破壊魔と化しても優しい心は残っていたのね。」

  一方、シェルフィールド卿たちは悔しがっていた。

  「あんたの作戦は完璧と思ってたけど、あれはどういう事かしら?」

  「すみません、女王様。私とした事がとんだ誤算でした…

  次の作戦に移りましょう。巨大栗田と隕石よ、消えろ!栗田たち8名はまた自由に動け、目を2秒以上閉じる事も許可する!」

  「ヴェルトンさん、これからどうしよう?」

  「奴らはもっと完璧な作戦を考えるでしょうね。だから、より私たちには歯が立たなくなるでしょう。」

  「今度こそ私たちの最期が来るのね…」

  「長尾くんもどこかに行っちゃったし、もうどうする事もできないよ…」

  絶望に襲われる一同。その時、栗田くん以外の姿が突然消え始めた。

  「え、えっ!? みんなどこへ行くの!?」

  栗田くんが驚いていると、突然後頭部を殴られた。

  「ううっ!ああ…」

  彼は気絶した。

  殴った者は、エレノアだった。

  「魔法の杖にそんな使い道があるとは驚いたな。」

  「そう、物は使いようさ。ヴェルトンと違って私の杖は太いから、鈍器としても使える。

  さあ、お前の計画通りに事を進めようじゃないか!」

  「もちろんですよ、エレノア様…ん、これは何だ?」

  栗田くんのポケットから、お守りが覗いている。

  「どうやら大切にしている物らしい。奴を苦しませるために…」

  シェルフィールド卿はポケットからナイフを取り出すとお守りの上半分を切り取り、残りの部分にも傷をつけた。

  「目覚めたらさぞショックを受ける事でしょう。大切な物がここまで破壊されているのですから…

  では皆さん、先程7名をワープさせた場所に向かいましょう。」

  栗田くんの横にメモを残すと、一同はどこかへワープした。

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  [chapter:絶体絶命]

  どれぐらい時間が過ぎただろう…

  意識を取り戻した栗田くんは、すぐお守りに気がついた。

  「ああっ、お守りが!くるみちゃんの身に何かあったんだ…」

  体を起こすと、近くにメモが置かれている。

  栗田 永雄へ

  これを見たらすぐ、ウルフデパートの屋上に行け。お前の仲間はそこで待っている。

  シェルフィールド卿より

  (ああ、みんなそこにいるのか。すぐにでも行かないと…

  いや、待てよ。あいつの事だから罠かもしれない!ここは展望台だから、屋上も見えるはず…)

  窓から景色を眺めようとしたが、屋上の見える位置の窓には闇が広がっている。

  (まさかここまで考えているなんて…これじゃ行かないとわからないや。

  何が待つかわからないけど、すぐに行かなくちゃ!)

  破損したお守りを握り、語り掛ける。

  「くるみちゃん、守れなくてごめん!どうか無事でいてね!」

  それから、階段へ向かった。

  31階から1階まで降り、自動車の残骸が転がる道路を横切り、ウルフデパートの入り口へ。

  彼はこの時点で相当疲れ果てていたが、友達や仲間の事を第一に考え、休憩は必要最低限に留めた。

  また階段を上り、屋上へ。予想通りシェルフィールド卿たちが待ち構えていた。

  「よくここまでたどり着きましたね、栗田 永雄。これから更なるショーが始まりますよ。」

  「この世でただ1回しか見られないショーさ。しっかりと目に焼きつけな!」

  「あんたが来てくれたから、ようやく始められるわ。もうみんな待ちくたびれてるのよ。」

  「異世界からの4名はあちらでお待ちだ。顔を見せてやれ。」

  隅の柱にはイタ助くん、ヴェルトン、エイミー姫、ジェームズ王子がロープで縛られていた。

  「み、みんな!どれぐらいここにいるの?」

  ヴェルトンが質問に答える。

  「5時間ぐらいよ。あの展望台からいきなりここにワープさせられたの。」

  「そんなに長く…やっぱりトイレに行って正解だったね。それで何が起きたの?」

  「シェルフィールド卿はこう言ったわ。『ロープよ、現れろ!そいつら4名を柱に縛れ!私が再び命令するまで絶対にほどけるな!』

  だから私たちは、これから始まる残酷なショーが終わるまで絶対に動けない。いや、動けたとしても次は私たちが犠牲になるでしょうね…」

  「そんな…くるみちゃんたちはどこにいるの?」

  シェルフィールド卿が答える。

  「ここにいますよ。ライト、オン!」

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  屋上の一角が明るく照らし出された。そこにはステージが設営されている。

  「あっ、みんな!」

  くるみちゃん、稲荷山くん、真里ちゃんが鉄の柱に縛られていた。その前には大型の回転のこぎりが3つ並んでいる。

  「栗田くん、やっと会えたわ…」

  「でももうすぐお別れなんだ…」

  「今までいろいろ楽しかったわ。でもこれで本当にお別れよ…」

  「シェルフィールド卿、いったいこれはどういう事なんだ!みんなをどうする気なんだ!」

  「それをこれから説明しましょう。今から始まるショーで、ケモノ界の生き残りは1匹だけになります。」

  「1匹だけ…ちょっと待って!それってつまり…」

  「あなたが気絶していた5時間のうちに、世界中のケモノをほぼすべて始末しました。当初の予定ではあなたの始末が先でしたが、これを知った方がより苦しむと思い、予定を変更しました。

  現在の生き残りはあなたたち4匹です。これから始まるショーでは、あののこぎりであなた以外の首を切り落とします。あなたはその様子を最前列で楽しんでください。」

  「なんて残酷な!そんな物楽しめるわけないよ!」

  「問答無用です。すぐにショーを始めます。

  栗田 永雄よ、ステージの前に移動しろ!そこから動けなくなれ!」

  その通りになると、のこぎりが動き始めた。不気味な金属音と共に、3匹の首へ近づいていく。

  「お願い!誰か助けてー!」

  「嫌だー!ぼくはまだ死にたくないよー!」

  「なんとかしてー!助けてー!」

  死の恐怖を感じた3匹は、鋭い悲鳴を上げ始めた。栗田くんも見ている事しかできない。

  シェルフィールド卿たちはその様子を楽しんでいる。

  「さあ、あと1分もしないうちに奴らの首が外れますよ。」

  「そこから美しい真っ赤な花が咲く。素敵な光景になりそうだね。」

  「最前列で見られるあの子がうらやましいわ。」

  「実に素晴らしい悲鳴を上げているな。もうすぐ聞けなくなるのが惜しい…」

  のこぎりは首まで残り10cm。屋上は悲鳴に包まれ、栗田くんは思わず目を覆った。

  (みんな、助けられなくてごめんね…今度はあの世で一緒になろうね…)

  [newpage]

  [chapter:救いの手]

  やがて、笑い声が聞こえ始めた。

  (そうか、みんな恐怖のあまり狂ったか…

  いや待てよ。のこぎりはもうとっくに首に到達しているはずだ。じゃあ…)

  恐る恐る目を開けると、のこぎりの刃がすべて羽に変わっている。3匹は首を羽でくすぐられていた。

  (えっ、何が起きたんだ…あっ!)

  振り向くと、そこに異世界タイムマシンが浮かんでいた。長尾くんがドアから身を乗り出している。

  「良かった、来てくれたんだ!」

  よく見ると、彼はヴェルトンの杖を持っている。

  「さあ、これでもう大丈夫!ついでに…」

  3匹を縛っているロープに向けて杖を振ると、紙に変化。簡単に破って抜け出した。

  イタ助くんたち4名も、同様に救出された。

  「ありがとう!助かったぞ!」

  「良かったわ、これで自由の身よ!」

  長尾くんは、全員に魔法の杖を配った。

  「さあみんな、これを使って!」

  「なんで杖が9本も?それにどこから持ってきたの?」

  「その話は後!とにかくこれで勝てるよ!」

  シェルフィールド卿たちは唖然とした。

  「あいつは逃げたと思っていましたが、考えが甘かったようですね…」

  「そんな!それじゃお前の計画はどうなるんだい?またさっきみたいに杖を消すのか?」

  「予定を大幅にカットして、ここから一気に奴らを始末します!杖は消しません。戦いらしい事をしましょう!

  自動追尾かつ回避不能の銃弾よ、100発現れろ!」

  大量の銃弾が現れたが、ヴェルトンが杖を振るとすべて綿に変わった。

  「さあ、みんなも私の真似をして!」

  「でもどうやって使えばいいかわからないよ!ぼくたちの世界に魔法はないから!」

  稲荷山くんが叫ぶと、ヴェルトンが杖を握る。その直後、全員の頭に声が流れ込んできた。

  (この杖は頭で念じた魔法を使う事ができるの。どうしたいかを念じて振るだけで使えるわ!)

  それを聞いた一同は、早速杖を構えた。

  「出でよ弓矢嵐!突風のように奴らを襲え!」

  エレノアが唱えると、大量の矢が飛んできた。

  真里ちゃんが杖を振ると、矢はすべて花に変わった。

  「やった、成功!きれいね…」

  「真里ちゃん、私と同じ事を考えるのね。」

  ヴェルトンは過去を思い出した。エレノアと戦ったあの日を…

  スーザン女王は魔法、ナシーリェは武器で攻撃をする。それらもすべて魔法で無効化された。

  (よし、奴らは魔法に頼りきりだな。このタイミングで…)

  シェルフィールド卿は頃合いを見て、唱え始めた。

  「非常に強力で、爆発すると周囲の物をすべて吹き飛ばし、なおかついかなる魔法でも防げない超大型爆弾…」

  その直後、ヴェルトンが杖を振った。すると彼は紫色の霧に包まれた。

  「ねえ、あれは何?」

  「もうちょっと待って、イタ助くん!」

  続けて3回振ると、エレノア他3名の動きが止まった。

  「みんな集まって。何をしたか教えるわ。」

  全員が集まると、ヴェルトンは話を始めた。

  「エレノア、スーザン女王、ナシーリェには時間停止魔法をかけたの。私が解除するまで動けないわ。

  それからシェルフィールド卿は、催眠の霧で覆ったの。これで私の思いのままよ。」

  「催眠でどうするんですか?」

  「奴は言った事がすべて真実になるのよ。つまり、これで思い通りの事を言わせれば…」

  「そうか!ヴェルトンさんは頭が回るね!」

  ヴェルトンはシェルフィールド卿の前に立った。

  「さあ、あなたは私の言う事になんでも従わなければなりません。」

  彼はぼんやりとした表情で答える。

  「はい、なんでも従います。」

  「ではこれから、私の言う事を続けて言ってください。

  エレノアとスーザン女王よ、魔法の力を失え!」

  「エレノアとスーザン女王よ、魔法の力を失え!」

  「ナシーリェの武器よ、すべて消えろ!」

  「ナシーリェの武器よ、すべて消えろ!」

  「私たちは不死身ではない。大きなダメージを受ければ死ぬ!」

  「私たちは不死身ではない。大きなダメージを受ければ死ぬ!」

  「私はこの言葉を最後に、全知全能の力を失う!」

  「私はこの言葉を最後に、全知全能の力を失う!」

  「はい、お付き合いありがとう。それでは…」

  時間停止魔法と催眠の霧が解除された。

  [newpage]

  [chapter:形勢逆転]

  「ん?私は何を…仕切り直しだ。

  非常に強力で、爆発すると周囲の物をすべて吹き飛ばし、なおかついかなる魔法でも防げない超大型爆弾よ、現れろ!」

  唱えるが、何も現れない。

  「どうしたんだい、シェルフィールド卿!私に任せな!

  出でよ大岩の群れ!流星群のごとく降りそそぎ、奴らに直撃するのだ!」

  エレノアも唱えたが、何も起こらない。

  「どうしたのかしら?おかしいわね…」

  スーザン女王も魔法を使おうとしたが、やはり何も起きない。

  「まさか、魔法が失われたのか?それならわしのナイフを…」

  ナシーリェはポケットを探ったが、武器が見つからない。

  困り果てる4名の前でヴェルトンが杖を振ると、チェーンが4本現れて一同の手足を縛りつけた。

  「フフフ、気づいたかしら?あなたたちはもう魔法や武器を失ったのよ。

  もちろんシェルフィールド卿だって、全知全能の力を失った。つまりみんなただのケモノ、もしくはニンゲンよ。

  でも私たちはみんな魔法の杖を手に入れた。いよいよ復讐の始まりよ。みんな、準備はいい?」

  「ああ、もちろんだよ!」

  特殊能力を失った悪の軍団と、強力な魔法を手に入れた栗田くんたち。一気に形勢逆転だ。

  「さあみんな、どうやって復讐する?」

  「ヴェルトンさん、ここはデパートだからいろんな物が置いてあるよ。売り場からそれらを持ってくればいいんだ!」

  「生き残りがぼくたちしかいないなら、商品が取り放題だね!」

  「さあみんな、行きましょう!」

  念のため悪の軍団に時間停止魔法をかけ、売り場へ。デパート全体を1時間ほど回り、使えそうな商品を大量に集めた。

  イタ助とヴェルトンはデパートを初訪問。栗田くんたちにいろいろ尋ねながら商品を選んだ。

  ヴェルトンの出したバッグには物が無限に入る。そのため、持ち運びも楽だ。

  「これぐらいあれば十分かな?」

  「ええ、そうね。恐ろしい復讐ができるわ。」

  「さあ、戻りましょう。」

  [newpage]

  [chapter:恐ろしい復讐]

  屋上に戻り、バッグの中身を取り出した。

  大量の刃物やガラス製品、ミキサー、シュレッダー、ラジコンのヘリコプター、その他多数…

  それらを並べ、時間停止魔法を解除。4名は目に見えて怯え始めた。

  「それでわしらをどうするつもりだね!」

  「今までの事は謝るから、どうか許してちょうだい!」

  「末恐ろしい子供たちだね…私たちにその武器を使ったら許さないよ。」

  「いまや私たちはただのケモノ、もしくは人間です。それらを一方的に殺すなんてひどくないですか?」

  栗田くんたちは声を荒らげた。

  「何だと!? お前らの言える事じゃないだろ!」

  「被害者ぶるのもいい加減にしなさい!」

  「謝ったぐらいじゃぼくたちの気は済まないぞ!」

  「あんたたちをたっぷり苦しめてやるわ!覚悟しなさい!」

  「狂った悪魔め、子供だと思って油断するなよ!」

  「身の毛もよだつ恐ろしい復讐。どこまで耐えられるかしら?」

  「私の友達や息子はとても辛い思いをしながら灰となった。あんたたちは灰ぐらいじゃ済まないわよ!」

  「地獄を味わわせてやる。いくら母上とは言え、ここまでされたらもう許さないぞ!」

  「さあみんな、復讐だ!平和を取り戻そう!」

  長尾くんの合図で、一同は魔法を使い始めた。

  ラジコンヘリのプロペラにナイフを結びつけ、小さくした上で口や鼻から潜入させ、それから少し大きくする。

  ガラス製品を叩き割り、破片を体内にワープさせる。

  屋上には凄まじい悲鳴が響き渡った。

  「痛い!痛い!頼むからやめてくれ!わしの家をやるから!」

  ナシーリェが必死で命乞いをするが、栗田くんは涼しい顔で答える。

  「ぼくはお前と同じ事をしてるだけだよ。今までお前が始末した子供の気持ちがわかったかな?」

  「ああ、もう十分わかった!だからもうやめろ!」

  「やめないよ、サイコパス野郎。あの時のお返しさ。」

  それ以外にも様々な方法で苦しめ、最終的にミキサーとシュレッダーを巨大化させて2名ずつ放り込んだ。

  非常に残虐な行為が続いたが、9名は抵抗を感じなかった。故郷や家族、友を奪われた事に対する怒りと憎しみは、これぐらい派手に行動しない限り収まらない。

  [newpage]

  [chapter:勝利の宴]

  約30分後、悪の軍団は肉片と化した。返り血にまみれた一同は勝利を喜び合う。

  「やった!ついに勝ったぞ!」

  「やはり正義は勝つのね!みんな、この後も地獄で苦しんでね!」

  「そう、永遠に終わらない苦しみを味わってくれ!」

  「最高にすがすがしい気分よ!」

  「ああ、胸がすっとした!」

  「みんなよく頑張ったわね!」

  「私たちは正義の使者として語り継がれるでしょうね。」

  「…エイミー、語り継ぐ人はどこにいるんだ?」

  「ああ、そう言えばそうね。とにかくやったわ!」

  長尾くんが語り掛ける。

  「みんな、ありがとう。これでもう悪の軍団は滅びた。これ以上世界が滅ぼされる事は起きないよ。」

  「お疲れ様。血まみれの服は魔法で元通りにしましょう。」

  ヴェルトンが杖を振ると、全員の服と体に付着した血液が消えた。

  「ついでにもう1つ。」

  空に向かって振ると、暗雲が晴れて星空が現れた。

  「わあ、きれい!」

  「今日は一段ときれいに見えるわね。」

  「みんな殺されちゃったから、どのビルも明かりが消えてる。だから星がよく見えるんだね。」

  「皮肉ね…みんないなくなった方がきれいになるなんて。」

  「それじゃ、宴にしましょう。みんなよく頑張ったからね。」

  3回目の振りで、料理の乗ったテーブルが現れた。ワニ肉ステーキにグラタン、シチュー、パン…どれも大盛りだ。

  「ありがとう、ヴェルトンさん!ぼくもうお腹ペコペコだよ。

  さあみんな、たっぷり食べよう!」

  [newpage]

  「それでは、いただきます!」

  全員が席につき、夕食が始まった。稲荷山くんが質問する。

  「ねえ、あの杖9本はどうやって持ってきたの?」

  「タイムマシンで平和だった頃のスカンキー王国に行って、ヴェルトンさんが寝ている時に枕元から杖をちょっと借りてきた。9日間連続で同じ事をしたんだ。

  宴が終わったら、杖を借りた1分後に戻って返すよ。」

  「ありがとう。頭がいいね!」

  一行は会話を楽しみながら、料理を食べた。

  次々と頬張る栗田くん、普段は食べない料理に興奮を覚えるイタ助、上品に食べるエイミー姫とジェームズ王子…食べ方も様々だ。

  「ヴェルトンさんも本当に頭が回るね!催眠術にかけて思い通りの事を言わせるなんて、ぼくだったら絶対思いつかないよ!」

  「ありがとう、栗田くん。奴らは不死身だけど『どんな魔法にもかからない』とは言っていなかったようね。予想通りで良かったわ。

  それにあいつの能力は口に出さないと発動しない。私の魔法は念じるだけで発動するから、こちらの方が上よ。」

  「そう、ヴェルトンさんは細かい事によく気がつくんだ。ぼくたちが前にエレノアを倒した時だって、ヴェルトンさんのアドバイスがあったから勝てたようなもんだよ!

  あれ、待って。あの時のヴェルトンさんは結構魔法を唱えてたけど、念じただけで使えるなら必要ないよね?」

  「ああ、あれはみんなを盛り上げるために詠唱したのよ。7匹も同行してたから、雰囲気作りも必要ね。」

  「そうだったんだ。あの時はエレノアの隙が大きかったからできた事だね。」

  過去の思い出にまつわる話も出た。イタ助が語る。

  「ぼくたちはエレノアを倒した事で、世界中で有名になった。おねしょのコンテストに呼ばれた事もあるんだよ。」

  「コンテスト…ぼくたちもそこに行ったぞ!」

  「えっ、栗田くんも来てたの!?」

  「うん。ぼくたち4匹は異世界タイムマシンでそこへ行ったんだ。あのカワウソ、本当にいい考えを出したよね!」

  「ああ、川太郎くんだね。あの子は賢かったんだ。今はもうあの世にいるだろうけど…」

  「ねえ栗田くん、どうやって屋上に来たの?」

  「あ、くるみちゃん。それはね…」

  栗田くんは破壊されたお守りとメモについて説明した。

  「ありがとう。やっぱりお守りが役に立ったのね!」

  「いや、メモのおかげだよ…

  でもお守りがズタズタにされてるのを見た時は怖かった。くるみちゃんまでズタズタにされたかと思ったよ。

  だから約束通り、すぐに駆けつけた。ぼくが不眠症になった時、手紙を送ってくれたお返しさ。」

  「本当に嬉しいわ、栗田くん…」

  [newpage]

  [chapter:正義とは何か]

  しばらく楽しい時間が続いたが、そのうちジェームズ王子の表情が沈み始めた。

  「ねえジェームズ、勝利の宴なのにどうしたの?」

  「考えていたんだ。僕は自分の手で母上を殺してしまったと…」

  「それはそうだけど、でも女王様だって私たちの子供を殺したし、もっと前にはジェームズだって殺そうとしたのよ?それならお互い様よ。」

  「母上は僕の唯一の肉親だった。父上…つまり王は、僕の幼少期に病気でこの世を去った。だからその時期は彼女と共に過ごしたんだ。

  勉強も、生活の知識も、すべて彼女に教えられた。いくら悪の存在に心を支配されていたとしても、僕の母上な事に間違いはなかった…

  それなのに、あの時は怒りの気分が勝っていた。それであれほど残酷な事をしてしまったんだ…

  みんなも考えてみてくれ。君たちの行動は本当に正しかったのか?あんな方法で復讐して、本当に心が満たされたか?」

  それを聞いて、一同は考え始めた。

  「うん、言われてみれば確かにやり過ぎたかもしれない…」

  「奴らの苦しむ顔が、頭から離れなくなりそうね…」

  「ミキサーやシュレッダーでバラバラにされるなんて、あの時は見ていてスカッとしたけど…」

  「想像したら気分が悪くなってきたわ。さっきはよくあんな物が平気で見られたわね…」

  「ぼく、感じたよ。本当に怖い物は悪よりも正義だ。自分たちが正義と思い込めば、どんな残酷な事でもできてしまう。

  みんな正義のヒーロー気取りで、あんな事をしてしまった。ぼくには最後っ屁という武器があるのに、それすら使わなかった…」

  「何も知らない者が見れば、私たちの方が悪者にしか見えなかったでしょうね…」

  「本当の正義って何?いくら相手が悪者でも、許してあげる事かしら…

  でも奴らは罪のない命や多くの世界を面白半分で奪った。そんな事はとても許せないわ。私たちはどうすればいいの?」

  深刻な顔で語り合う一同。楽しい宴は暗い雰囲気に一転した。

  しばらくして、長尾くんが口を開いた。

  「ほらみんな、そんな暗くならないで!さっきの楽しい雰囲気を取り戻そうよ。」

  栗田くんが返す。

  「いや、ああ言われた以上はとても無理だ。ぼくは一生、あの後悔を背負って生きる事になるんだ…」

  「後悔するような事?極悪非道な奴らをやっつけたんだ。素晴らしいじゃないか!」

  「でもやり方が残酷すぎた!もっと平和なやり方でも良かったはずだ…小さくして一気に踏みつぶすとか…

  それにぼくたちは今後どうやって生きればいいの?もう家族はいない。前からの友達だって3匹だけ。おまけに町も壊された。」

  くるみちゃんが提案する。

  「そうだ、この魔法の杖で何もかも復活させましょう!」

  杖を構えた時、ヴェルトンが止めた。

  「待って、くるみちゃん!それは無理よ!」

  「えっ、どうして?」

  「壊れた建物は直せるわ。でも死者蘇生はできないのよ。ずっと昔に禁じられた魔法なの。

  だからその杖を握って死者蘇生を念じても、何も起こらないわ。」

  「そうなのね。残念だわ…」

  稲荷山くんも落ち込んだ。

  「シェルフィールド卿なら復活させられたかもね。全知全能だったから。

  ヴェルトンさんが催眠の霧を使った時に、今まで滅ぼした世界を復活させるように言わせてから始末しても良かったんじゃないかな。今更遅いけど…」

  「確かにそうだわ!どうしてもっと早く気づかなかったのかしら…」

  「やっぱりみんな暗い気持ちになった。それが正しい歴史さ。

  ぼくはこの後でみんなを助け、辛い思い出も消す。そのためにここへ来たんだ。」

  長尾くんの言葉に、全員が反応する。

  「えっ、どういう事?」

  「私たちは助かるの!?」

  「詳しく教えて!」

  「わかった。まずタイムマシンでぼくの世界に送るからね。着いたら話すよ。

  いや、その前に魔法の杖を返さないと。それが終わったらまた来るよ。」

  順番に杖が回収されていく。ヴェルトンの番が来た時、彼女は異次元栗田くんを止めた。

  「ちょっと待って。その前に…」

  杖を振ると、同じ杖がもう1本現れた。

  「よし、これで私の分を取り戻したわ。」

  それを見ていたイタ助は、テーブルの下でひそかに杖を振り、彼女の真似をした。

  [newpage]

  [chapter:真の目的]

  杖を返し終わると、一行は2回に分けて異世界に送られた。到着地点は大きな建物の廊下だ。

  「どこだろうね?」

  「砂漠みたいね。窓の外を見て。」

  夕焼けのような色の空。所々に石が転がる赤茶色の地面。アメリカ西部を連想させるが、舗装された道路や高層ビルも見える。

  「ぼくたちが前に来た時とは違う場所かな?」

  「そう、ここは火星だよ。ぼくのお父さんはここで働いているんだ。」

  「そう言えばそんな事を言ってたね。君の世界では火星もこんなに発展してるんだ!

  それで、お父さんの仕事は何?」

  「脳科学者さ。」

  「すごいね!ぼくたちは何をすればいいの?」

  「お父さんの所に案内する。それから話すよ。」

  長い廊下を通り、ある部屋へ。そこで彼の父親が待っていた。

  「お父さん、みんなを連れてきたよ。」

  「繰太、ありがとう。これでついに本格的な実験ができるな。」

  栗田くんたちは不思議な表情を浮かべた。

  「実験?どんな?」

  「ぼくたちが助手になるのかな?」

  父親が語り始める。

  「諸君は『水槽の脳』について知っているかね?」

  「えっ、何それ?」

  「知らないわ…」

  「一種の思考実験だ。君たちは培養液に入った脳で、大型コンピューターから伸びる電極につながれている。今体験している事は、すべてそのコンピューター内で起きている仮想現実…そういう話だ。

  もちろんこれはあくまで仮説だが、この話に興味を持った私はそれを実現できるか研究を始めた。

  カエルやトカゲなどを使った実験では成功したが、ケモノを使った実験はまだだ。そこで息子に君たちを連れてきてもらったんだ。」

  「そ、そ、それってまさか…」

  「君たちの脳をその実験に使うんだ。脳内から記憶を取り出し、それを元に君たちの世界をコンピューター内で再現する。

  もちろん、世界が破壊された事や実験に関する記憶は消すから安心してくれ。君たちは以前と寸分変わらぬ世界で暮らせるんだ。」

  一同はショックを受けた。

  「初めからそういう目的のために動いてたなんて!占い師が言っていた『トラブルを乗り越えれば幸せが続く』ってこういう意味だったのか!」

  「嫌よ!嫌よ!絶対に嫌!」

  「裏切り者!助けてくれると思ってたのに!」

  「作られた世界で暮らすなんて、そんなの幸せじゃないわよ!」

  「一生実験体として暮らすなんて嫌だ!」

  「脳みそだけになるなんてごめんよ!何か別の方法を探してください!」

  「ジェームズ、こんなひどい話ってある!?」

  「ないな。これからの生活はすべて作られた物になるなんて、考えたくもない!」

  長尾くんは涼しい顔で語る。

  「嫌がっても無駄だよ。これが正しい歴史なんだ。

  君たちのおかげで実験が成功し、ぼくの世界では水槽の脳に関する認識が一般的になる。難病で苦しむケモノも、そうやって救われるようになるんだ。

  もし君たちがここに来なかったら、未来が大きく変わってしまう。ぼくは君たちを助けたんだから、今度は君たちが助ける番だよ。」

  「助け合う…ぼくとくるみちゃんみたいなものか。くるみちゃん、どうする?」

  「私は絶対反対よ。他に何かいい方法があるはずだわ。」

  [newpage]

  [chapter:時間を超えて]

  その時、稲荷山くんが叫んだ。

  「そうだ、タイムマシン!これで過去に戻り、シェルフィールド卿を消せばいい!」

  父親が言う。

  「それはだめだよ、実験体くん。過去を変える事は禁じられている。」

  「でもあいつを消せば、多くの命が救われるんだ!世界の滅亡だって避けられる!」

  「自分勝手な奴だ。正しい歴史を知った以上、そこから外れる事は許されない。」

  「ぼくはまた本当の家族と会いたい!また楽しく暮らしたい!バーチャルで作られた家族なんて嫌だよ!」

  「それに関する記憶は消すから…」

  「それでも嫌だ!過去を変えてやる!」

  稲荷山くんは涙を流し、タイムマシンへ駆け寄る。

  「落ち着け、実験体!」

  それを見た長尾くんは、考えを改めた。

  「お父さん、待って!みんながかわいそうだから過去を変えよう!」

  「なんだと!? それはだめだ!そんな簡単に過去を変えるなど…」

  「みんなはバーチャルではなく、本当の家族と再会したいんだ!本当の世界に戻りたいんだ!

  ぼくはみんなを助けたい。それこそがみんなのためになると思うんだ!」

  「しかしこの実験体たちを元の世界に戻したら、私たちの世界はどうなるんだ!

  …ん?待てよ。もしかすると…

  繰太、一緒に時間管理局に行こう!両方の願いを叶えられる方法があるかもしれない!」

  「わかった。タイムマシンで行こう。話し合いが終わったら出発した1分後に戻る。みんなは1分だけ待ってて!」

  1分後、2匹が戻ってきた。

  「特別に過去を変える許可が下りた。さあみんな、行こう!」

  「やった!ありがとう!さあ、シェルフィールド卿を倒すぞ!」

  「いや、もっといい方法があるよ。シェルフィールド卿誕生のきっかけは覚えてる?」

  「お父さんが仕事をクビになった事だよね。」

  「そう。彼は仕事で大きなミスをしてしまったんだ。つまり、ぼくたちがそのミスを防げばいい!」

  「あっ、そうか!それなら誰も殺さずに平和を取り戻せるぞ!」

  「さあみんな、時間と空間を超える旅に出発だ!今回はお父さんも付き添うから、3回に分けて送るよ。」

  [newpage]

  [chapter:世界を救う任務]

  一同は町の通りに到着した。横には工事現場が見え、大勢のケモノたちがビルの鉄骨を建てている。

  「ねえ、ここはどこ?」

  「2011年の5月7日。シェルフィールド卿…この時はまだナルダという名前だった。彼のお父さんはこの現場で働いているんだ。

  クレーンを動かす仕事だけど、操作前の点検を忘れてしまった。その日に限って制御装置が壊れていたから、クレーンが暴走して鉄骨を破壊してしまった。もちろん大勢の作業員も犠牲になったんだ。

  それが今から10分後に起こる。ぼくたちでそれを食い止めなければならない。チャンスは1回だけだ。」

  「わかった。どうやって食い止める?」

  「急いで考えよう。まずは…」

  作戦会議が終わり、塀の穴から覗いているとナルダの父親がクレーンに近寄り始めた。

  「今だ!」

  長尾くんの父親はポケットから懐中電灯のような物を取り出し、スイッチを入れる。光に当たった彼以外の9名は現場の中に移動した。

  これは彼が作ったワープライト。使用者の脳波を読み取り、光が当たった相手を半径10メートル以内のどこかに飛ばす。

  「みんな、頑張ってくれ!」

  「な、なんだお前らは!? ここは立ち入り禁止だぞ!」

  突然目の前に子供たちや人間が現れたため、ナルダの父親は非常に驚いた。

  9名は必死で語り掛ける。

  「ぼくたちは忠告に来ました!」

  「お願いですから聞いてください!」

  「あなたはこの後クレーンを使いますよね?」

  「操作前の点検を忘れないでください!」

  「お願いです!お願いです!」

  「このままでは大事故が起こります!」

  「絶対に忘れないでください!」

  「世界の運命を変えるためです!」

  「ぼくたちはそのためにここに来たのです!」

  「いったい何を言ってるんだ?」

  不思議な顔で点検を始めた父親は、しばらくして驚いた。

  「た、大変だ!制御装置が壊れているぞ!

  修理班、クレーンの制御装置を今すぐ修理してくれ!」

  スピーカーで呼びかけると、修理班が慌てて駆けつける。父親は一同に感謝した。

  「本当にありがとう!君たちが忠告してくれなかったら、点検を忘れていたかもしれない。

  数日前に息子が5歳の誕生日を迎えたんだが、その時に息子の喜んでいた様子を思い出していたんだ。それで注意が散漫になっていた気がする。

  君たちの言葉で、点検の事を思い出せた。あのままでは事故が起きていただろう!

  ところで君たちは何者だ?こんな町中なのにふんどし1枚だったり、猿みたいな姫と王子とか…」

  「まあお気になさらず。仕事に戻ってください!」

  一同は現場を出た。

  「うまく行ったかね?」

  「うん、もちろん!事故を防げたよ!

  これでナルダがシェルフィールド卿になる未来は回避できたはずだ。さあ、元の世界に帰ろう!

  初めにお父さんを研究所に戻すね。みんなはその後だ。」

  父親を送り、すぐに戻ってきた。

  「みんなお別れの時間も必要だと思うから、2分割でそれぞれの世界に送るね!」

  一同は喜びながら異世界タイムマシンに乗り込んだ。

  [newpage]

  [chapter:別れの時]

  初めにファンタスティカ王国の森へ。遠くに城が見える。

  「おお、城が復活しているぞ!」

  「国民も動物たちも無事なのね!もちろんロバートも!」

  エイミー姫とジェームズ王子は、喜びの声を上げた。

  「ぼくは用事があるから、5分ぐらい待っててね。」

  異次元栗田くんはタイムマシンでどこかへ向かった。

  「エイミー姫、ジェームズ王子、これからも幸せに暮らしてね。」

  「もちろんよ、真里ちゃん。国を治めつつ、楽しく暮らすわ。」

  「これからも平和が続くように努めるよ。また君たちに会えるといいな。」

  「異世界タイムマシンを使わないと会えないけど、お互いの事はいつまでも忘れないわよ。私たちは心と心でつながってるの。」

  「いい事言うな、真里ちゃん。」

  その後も会話が続き、握手やハグを交わした所でタイムマシンが戻ってきた。

  「みんな、次の場所に行くよ!」

  「わかった。エイミー姫、ジェームズ王子、またね!」

  「さよなら!今度こそいつまでも幸せが続くね!」

  2組を見送ると、2人は城へ走っていった。

  「ロバート、ただいま!」

  「良かった!母上もいつも通りだ!」

  [newpage]

  次はおねしょ島へ。野原に到着した。

  「ああ、懐かしい島が戻ってる!良かった!」

  「良かったわね、イタ助くん!」

  また異次元栗田くんは用事へ。6匹は最後の会話を始めた。

  「そうだ、まだ聞いていなかった。おねしょ島ってどんな場所なの?」

  「栗田くんたちに教えてあげよう。のんびりしたのどかな島さ。

  子供たちは毎朝おねしょをして褒められる。遊ぶ時にはみんなでおならをしたり、トイレの時間だって楽しいよ!」

  「ぼくたちの常識とはずいぶんかけ離れてるね…」

  「そうね、栗田くん。でもイタ助くんが楽しいなら、それでいいわよ。

  それぞれの世界にはいろんな文化がある。だからその文化を大切にするべきよ。」

  「まあ、くるみちゃんはいい事を言うわね。その通りよ。」

  「ありがとう、ヴェルトンさん。」

  「ヴェルトンさん、いろいろお世話になりました!あなたがいなかったら、ぼくたちはどうなっていたか…」

  「そうよ。転落死していたに決まってるわ。」

  「いや、それ以前に撲殺されてたよ!

  とにかく本当にありがとうございます。かつてイタ助くんと仲間を救い、今度はぼくたちを救ってくれて!」

  そこへタイムマシンが戻ってきた。

  「さあ、栗田くんたちもお家に帰ろう!」

  「やっとぼくたちの番…そうだ、ヴェルトンさんはどうやって国に帰るんですか?この島の住民ではないですよね?」

  「魔法でワープすれば帰れるわ。それじゃ、さよなら!」

  杖を振ると、彼女は光に包まれて消えた。スカンキー王国に帰ったようだ。

  「ぼくたちももう行くね。バイバイ!」

  タイムマシンが見えなくなると、彼も村の方へ走っていった。

  「みんな、ただいま!」

  [newpage]

  [chapter:ケモノ界へ帰還]

  霧の中を飛ぶ異世界タイムマシン。1分後に霧が晴れた。

  「やった!帰ってきたぞ!」

  「懐かしい町よ!」

  「元に戻ったんだ!」

  「シェルフィールド卿のいない平和な世界だよ!何もかも前のままだ!」

  窓の外には、大上区の住宅街が広がっている。着陸地点は公園だ。

  「さあ、着いたよ!また用事があるから、戻ってくるまで公園から出ないでね!」

  4匹はベンチに座って話した。

  「本当にいろいろな事が起きた1日だったね。」

  「なんだか3日ぐらいに感じたわ。でも寝てはいないから、1日も経っていないのね。」

  「何度も危ない目に遭ったけど、ケガ1つしなかった。ぼくたち本当にラッキーだね!」

  「終わり良ければすべて良しね。最高の思い出になったかも!

  みんなで食べた料理はおいしかったし、作戦会議も楽しかった。それにみんなでいくつもの世界を救ったのよ!

  私、本当の正義が何かわかった気がする。悪者が現れない世の中を作る事よ。」

  「真里ちゃん、いい言葉だね。確かにその通りだよ。

  くるみちゃんのくれたお守りも役に立ったし…あっ!」

  栗田くんは表情を曇らせ、ポケットからズタズタのお守りを取り出した。

  「魔法の杖で直せば良かったのに、すっかり忘れてたよ!どうしよう…」

  「大丈夫、私が直してあげるわ。しばらくちょうだい。」

  「でもくるみちゃん、完全に元には戻せないと思うけど…」

  「いいのよ。だって私が作ったんだから、私が直さないと。気持ちを込めて直せば、元に戻せるわ。」

  「そうだね。ありがとう、くるみちゃん!」

  その後もしばらく話していると、タイムマシンが戻ってきた。

  「ぼくの用事は全部終わったよ!

  はい、これ!家に持って帰ってね!」

  栗田くんにレジ袋が手渡された。中身はココナッツオイルバターだ。

  「そうだ、お使いでバターを買った帰りに異変が始まったんだ…ありがとう!

  でもこれ、どこから持ってきたの?」

  「まあ、そこはあんまり気にしないで。

  それじゃ、ここでお別れだ。みんな、ありがとう!」

  長尾くんが帰ろうとした時、栗田くんが言った。

  「待って!最後に1つだけ聞きたい事があるんだ。ぼくたちの世界では、またみんなの成長が始まるの?」

  「ああ、ちょっと調べてみるよ。ぼくだけで行くからね。」

  タイムマシンは消え、5秒後に戻ってきた。

  「調べてきた。成長の再開する日は来るよ。まだまだ先だけど、その時が来ればおのずとわかるはずさ。

  それから、もう1つある場所に行ってきた。それがどこかはいつかわかるよ。」

  「そうか、永遠に続くわけじゃないんだね。ありがとう!」

  「みんな、今度こそお別れだ。またいつか会おう!」

  手を振る栗田くんたち4匹。今度こそ異世界タイムマシンは消え去った。

  [newpage]

  「これで、何もかも戻ったんだね…」

  「またいつも通りの日々が始まるのね。でもそれが一番!」

  「この冒険も、ぼくたちの秘密にしようね。」

  「ええ。家に帰りましょう。1日経っていないはずなのに、久々の気分ね。」

  4匹はそれぞれの家に帰った。

  「ただいまー!バター買ってきたよー!」

  「お父さん、お母さん、ただいまー!」

  「万梨阿、ただいまー!何して遊ぼうか?」

  「お父さん、お母さん、雄二!ただいまー!」

  すべての挨拶が、普段より元気に響いた。

  [newpage]

  [chapter:復活した世界たち]

  シェルフィールド卿の存在が消えた事により、ケモノ界に平和が戻ってきた。

  栗田くんはジェット機のプラモデルを組み立てていた。

  (完成したらみんなに見せようかな。)

  父親は庭でゴルフの練習。母親が洗濯物を干しに来ると、手を止めた。

  「あら、もう練習をやめるの?」

  「いや、君が通ったからだ。このクラブで誰かを殴っちゃまずいからな。」

  くるみちゃんはお守りの修理に一生懸命。

  (できるだけきれいに直さなきゃ。栗田くんのために…)

  稲荷山くんと万梨阿ちゃんはゲームで対戦中。

  「よっしゃ、また勝ったぞ!」

  戦いを経験したからか、今日の彼は絶好調だ。

  真里ちゃんはピアノを弾き、雄二くんはそれに合わせて踊っている。

  「ちょっと、あんまり足踏みしないでよ。うるさいわ!」

  「えー、これでうるさく感じるの?肉球付いてるよ。」

  「ピアノの練習中は、どんな小さい音でも気になるのよ。」

  文句を言いながらも、彼女は嬉しそうだった。

  (何もかも前の通りね…)

  理沙ちゃんは庭でティータイム。リラックスした表情だ。

  (春の陽気の中、飲むお茶は最高ですわね…)

  執事のグリムズ・スカンダー(スカンク)が尋ねる。

  「お嬢様、紅茶のおかわりはいかがです?」

  「もう1杯お願いするわ。」

  島田くんと母親は、壁に飾られた家族写真を眺めていた。去年の夏に3日間のみ帰ってきた父親と撮影した物だ。

  「父ちゃん、あの世で元気にしてるかな?」

  「そうだといいね。きっと今でもビールを飲んだり、大食いしてるさ。」

  その頃、父親はあの世でモニターを眺めていた。

  (大河、虎子、今日も元気だな。見てるだけで幸せだぜ…)

  狸の中年男性と狼の青年は、立ち話を楽しんでいた。

  「俺はまた小説を出すんだ。お前の方は今後何をする予定だ?」

  「そうですね…東京ドリームキングダムに行く予定です。」

  「また行くのか。お前本当に好きだな。」

  「ええ、でも新しいショーはまだ見ていませんから…」

  大上駅周辺でも、普段通りの日常が続いていた。フード・キャッスルやウルフデパートも客でにぎわっている。

  デパート8階の占いコーナーでは、ヤギの占い師が働いていた。通りかかったヒグマとパンダの中年男性が、それを見ながら話す。

  「あいつの占い、本当によく当たるんだぜ。俺なんか去年の夏、お告げに従って宝くじを当てたんだ!」

  「そうだったのか!それはすごいな。」

  「まあ、1万円だったけど…でも当たったのは事実さ。」

  占い師は「春が来ると不幸になる」とは一度も言っていない。去年の夏、島田一家と栗田一家には次のような結果を出した。

  「島田 大河くん。あなたは半年以内に強さを発揮します。長年勝てなかった相手に勝てるでしょう。

  残り2頭も平穏無事に暮らせます。安心してゆっくりお過ごしください。」

  「栗田一家の皆様も大きなトラブルは起こらず、幸せに暮らせます。

  栗田 永雄くんは春以降、普段よりゆったりと過ごせます。私に見える1年後もゆったりと過ごしています。」

  隣の川獺市でも平和が戻った。

  栗田くんの祖父(母方)は友達と一緒に銭湯を楽しんでいる。祖母は商店街で買い物の最中だ。

  黒崎くんは3匹の友達と駄菓子屋へ。何を買うか話し合っている。

  ライオンの有田 啓吾くん(獣崎小学校の相撲部部長。6年生)は、サイの相沢 銀次くん(6年生部員)と相撲の稽古に励んでいた。

  土井中村では、栗田くんの祖父母(父方)が農業に励んでいた。

  「アスパラガス、よく育ってるわね。」

  「ああ、立派な物じゃ。今年も息子に仕送りするかな。」

  畑の横を穴太郎、川助、トントン、ぴょん太が歩いていた。スナック菓子やジュースを持っている。

  「ピクニック、ピクニック!楽しみだな!」

  「ぴょん太、あんまり振らないでよ!それ炭酸入ってるから!」

  祖父母は微笑ましく見つめた。

  「暖かな日のピクニックか。楽しめよ。」

  「私があれぐらいの頃はおにぎりとか持っていったけど、今時の子はお菓子なのね。それもまたいいわね。」

  愛知県のある町では、栗田くん(旧:血出暗くん)が父親とゲームを楽しんでいた。母親は外出中だ。

  「お父さん、強いなあ…」

  「だろ?お前ももっと頑張れ!」

  こちらはパリ。グレゴワールは理沙ちゃんと同様、屋敷の庭でコーヒーを飲んでいた。

  (そうだ、後で息子に電話をかけよう。理沙の様子を聞くのもいいな…)

  /////////////////////

  他の様々な世界も、日常を取り戻した。

  おねしょ島では、子供たちが元気に遊んでいる。

  イタ助をリーダーとする7匹グループ・下着イタチ(カワウソの川太郎、フェレットのフェレ吉、スカンクのカンク、オコジョのこじょ子、ラッコのラコの海、オオカワウソのオー太)も野原ではしゃいでいた。

  「みんな元気そうで、何よりじゃ!」

  島長のオコジョ(こじょ子の祖父)はそれを遠くから見つめ、微笑んだ。

  また、イタ助の部屋には魔法の杖が置かれていた。これが彼の宝物となるだろう。

  スカンキー王国に戻ったヴェルトンは、久々に城を訪れた。オーナラ姫とヘガップ王子が出迎える。

  「あら、ヴェルトンさん!お久しぶりね。」

  「あなたたちに差し入れよ。」

  2匹にスイートポテトが手渡された。

  「実においしそうだな。感謝するよ。」

  「お兄様、早速食べましょう。良かったらヴェルトンさんも一緒に。」

  「ありがとう。それじゃ、お茶にしましょう。」

  こちらも平和が続いていた。もちろんエレノアも倒されてからは姿を見せていない。

  ベッドウェットシティでは、港にケモノたちが集まっている。豪華客船S.S.グッショリア号が3ヶ月の航海から帰ってきた。

  この町に暮らすうさぎの少女ルーラが、両親と共に下船。彼女はより大きなおねしょを作るため、家族で修行の旅に出ていた。

  熊と猫の男の子、プードルと狐の女の子が出迎える。

  「ルーラ、お帰り!」

  「久々ね!」

  「ただいま。アルフィー、ジェラルド、ヴィッキー…この狐は?」

  「ベリナだよ。おねしょの方法を学ぶため、最近引っ越してきたんだ。」

  「それなら私が教えてあげるわ!この旅でいろんな方法を覚えたの。さあ、みんな来て!」

  得意げに走っていくルーラの後を、4匹が追っていった。

  「NEWスーパーディスカバリー1号、発進!」

  「NEWスーパーディスカバリー2号、発進!」

  マリーンシティから2機の飛行機が飛び立った。パイロットはそれぞれスカンクのスカッドとイタチのトーマスだ。

  目的地はドラゴンの住む島。少年ドラゴンのドラ助と母親が、芋畑を耕している。

  「ドラ助、手伝いに来たぞ!」

  「ありがとよ!お前らがいると仕事がはかどるぜ!」

  /////////////////////

  ファンタスティカ王国では、城の中庭で立食パーティーが開かれていた。エイミー姫とジェームズ王子が企画した物だ。

  「さあ皆さん、ご自由に食べてください!」

  集まった国民は料理を頬張り、笑顔を浮かべる。

  森の動物たちも楽しんでいる。シマリスのジェフは妻や子供と共に木の実を頬張っていた。

  「ねえママ、このトーストおいしいね!」

  息子のロバートが料理を勧めに来た。

  「本当ね!バターを塗るともっといいわよ。」

  「へえ、ありがとう!おばあちゃんにも教えよう。

  おばあちゃん!バタートースト食べてみて!」

  スーザン女王が答える。

  「おすすめありがとう。でもそんな風に呼ばないでよ。私まだそこまで歳取ってないから!」

  「でもぼくのおばあちゃんでしょ?おばあちゃん、食べてー!」

  「美しい女王様とお呼びなさーい!」

  言葉では怒っているが、笑いながらロバートを追いかけるスーザン女王。

  「女王陛下が王子様を結婚させたがらなかった理由、きっとあれですね。」

  従者のピーターは、含み笑いで王子に言った。

  /////////////////////

  鏡の世界に住むナシーリェは何も変わらない。栗田くんに逃げられた後も、相変わらず児童虐待を楽しんでいた。

  もうすぐ新たな子供が届く。彼は4匹の召使いたちと共に、庭でトラックを待っていた。

  目的のトラックが来たが、何かがおかしい。スピードが落ちず、庭へ向かってくる。

  慌てて逃げようとした直後、トラックはナシーリェたちに突撃。5匹は跳ね飛ばされて即死した。

  同時に運転席の狼はブレーキをかけ、荷台に積まれた犬の少年を解放。

  [[rb:"Je pense que c'était effrayant, mais ça va. Le méchant qui vous taquine a été éradiqué." > 怖かっただろうが、もう大丈夫だ。お前をいじめる悪党は退治した。]]

  [[rb: "J'ai toujours pensé que c'était mal, comme la vente d'un enfant. Tu prends soin de moi. repos assuré."> 子供が売り物にされるなんて、前からおかしいと思ってたんだ。お前は俺が大事に育てる。だから安心しろよ…]]

  殺伐とした鏡の世界にも、良識を持つケモノはごく一部ながら存在する。これから犠牲になる子供が少しは減るだろう…

  血出暗家の内部は、ひどく荒れていた。

  大量の薬瓶が転がり、壁や床は傷だらけ。猛烈な悪臭が漂い、ハエが飛び回っている。

  床には骨も転がっている。それはかつての血出暗夫妻だった。

  2匹は栗田くんを売って大金を手に入れると、大量のドラッグを買い込んだ。やがて依存症となり、幻覚が見えるようになった。

  ある日お互いを敵と思い込み、家中で死闘を繰り広げた。その結果がこれだ。

  /////////////////////

  食いしん坊の森でも、前と変わらない日々が続いていた。丸々と太ったケモノの子供たちが腹太鼓や大食いを楽しんでいる。

  満月丘に住む狐の魔法使いは、子供たちの元に行くと杖を振って特大ケーキを出した。

  「私からのプレゼントだよ。たんと食べな。」

  「わーい、ありがとう!」

  子供たちはケーキを夢中で頬張った。

  /////////////////////

  ティーア王国では、太りに太ったリヒャルト王(ライオン)が食事の最中。従者のパウル(猫)が肥満体を登り、料理を口へ運ぶ。

  「王様、相変わらず良い食べっぷりですね。」

  「ああ、何度食べても飽きないからな…」

  /////////////////////

  ポンポコ村も日常を取り戻した。化け狸たちは腹太鼓を楽しんだり、妖術の練習に励んでいる。

  村長の狸五郎は、同居する玉助とぽん助に昔話を語っていた。

  「あれは今から300年近く前。この村に狐と熊の子が迷い込んできたんじゃ。それでわしは…」

  /////////////////////

  こちらは人間界。都内の海鮮居酒屋では、仕事帰りの青年が同僚と海鮮料理を楽しんでいた。

  「今日もアワビの踊り焼きを食おうかな。」

  「お前、ずいぶん残酷な料理が好きなんだな…焼かれるアワビの気持ちを考えてみたらどうだ?」

  「それは…じゃあ今日は他の物にしよう。」

  同僚に言われ、海鮮サラダを頼む事にした。

  さいたま市大宮区のマンションでは、青年が絵を描いていた。彼の名は亀田 清。

  描き上がった絵は太ったシマリスの少年…栗田くんだった。

  (俺は今年で22歳だが、あいつはまだ歳を取ってないのか?あの世界に行く方法はわからないけど、元気にしてるといいな。)

  /////////////////////

  火星の研究所では、長尾くんと父親が話していた。

  「ありがとう、繰太。これで本格的な実験が始められるぞ!」

  「お父さん、これでこっちの未来も変わらずに済むね。」

  「ああ。早速始めよう。繰太は地球に戻っていいぞ。」

  「うん!」

  彼はポケットから小型麻酔銃を出し、異世界タイムマシンで出発前の地球に戻った。

  /////////////////////

  また別のケモノ界では、白猫の少年が町を歩いていた。

  肥満体の猪とうさぎが、お互いをからかいながら横を通り過ぎた。

  「お前、一段とデブになったな!」

  「君の方こそ、もう動くの大変じゃない?」

  ビルに取り付けられた大型ビジョンには、狸の力士が映っていた。先程の猪やうさぎを上回る肥満体で、出べそは大玉並みに大きい。

  「新たな力士の誕生です!狸の砧ノ海!」

  向かいの通りでは、新たなビルが建てられている最中だ。

  (お父さん、今日も頑張ってるみたいだな。)

  少年は住宅街に入り、大きな屋敷へ。

  「ただいま。」

  母親が出迎えてくれた。

  「お帰り。」

  「やっぱりこの家は落ち着くね。前に住んでた所は狭かったからな…」

  「でも、あれはあれで落ち着いたわよね?森に囲まれていたから、リラックスする環境だったし。」

  「まあ、それもそうだね。でもお父さんがお金を貯めてくれて良かったよ。おかげでこんな立派な家に引っ越せたから、僕はお父さんに感謝している。」

  「本当に優しい子ね。お父さんにも直接伝えなきゃ。」

  「もちろんだよ、お母さん。

  さて、僕ももうすぐ高校2年生か。ナルダ先輩って呼ばれるようになるんだな。」

  過去の改変により、一番運命が変わった存在はナルダだ。

  シェルフィールド卿と化す事もなく、優しい子に育った。3年ほど前に新たな家…広い庭付きの立派な屋敷も手に入れている。

  彼は部屋に入り、4月からの日々に思いを寄せた。

  (サッカー部に後輩が来るといいな。僕が丁寧に指導をしてあげるんだ…)

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  数日後、4月が来た。

  春らしい陽気のある日。住宅街の公園に栗田くん、くるみちゃん、稲荷山くん、真里ちゃんが集まっていた。

  「ジャーン!プラモデル完成したよ!」

  「おめでとう、栗田くん!かっこいいね!」

  「栗田くん、お守り直したわよ。縫い目だらけになっちゃったけど…」

  「ありがとう、くるみちゃん。よく頑張ったね。」

  「そうだ、いい考えがあるわ。」

  「真里ちゃん、どんな考え?」

  「明日、みんなで大上自然公園へお花見に行きましょう。もう桜も咲いてるし!」

  「賛成!お菓子やジュースをいっぱい持っていこう!」

  「お花見ピクニックね!私も賛成!」

  「世界を救った打ち上げだね!」

  翌日。4匹は桜の下にレジャーシートを敷き、花を見ながらお菓子やジュースを楽しんでいた。

  「んー、お団子おいしい!」

  「やっぱり栗田くんは花より団子ね。」

  「えー、花だってちゃんと見てるよ。こんなにきれいなんだから、自然と目に入るさ。」

  「この美しい世界、私たちが取り戻したのね。」

  「うん。誰にも秘密だけど、ぼくたちが行動しなければ二度と見られなかったよ。」

  太陽が輝く青空。足元に広がる緑。咲き乱れる美しい花。4匹は美しい景色の中、お花見ピクニックを楽しんだ。

  あの夢と似た光景だった。

  [chapter:おしまい]

  [newpage]

  [chapter:Extra Episode]

  俺は働く。とにかく働く。それしか方法がないから。

  ここがどこか、今がいつか、まったくわからない。

  あと40時間ぐらい働けば寝られる事はわかる。1時間は60分とどこかで聞いたから、1日も60時間だろう。

  真っ暗な闇の中、働き続ける。いつまでもこのような日々が続くのだろう…

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  ここはケモノ界。心優しい者は暖かく迎えられる場所。

  善良である限り、ここに来れば救われる…

  [chapter:To Be Continued...]