[chapter:プロローグ]
ある夜。屋敷の一室で3匹と1人が話し合っていた。
「あの世界に魔法は存在しないようだね。」
「ええ。魔法が使える分、私たちの方が上ね。」
「まあ魔法までは行きませんが、不思議な現象もそこそこあるようです。誰も歳を取らないなど…」
「世界中に逸材が揃っている。奴が住む町でも、良質な毛皮や臓器が入手できそうだ。」
「出発は明日の朝。計画は完璧です。また1つの世界が滅びますね。」
「忘れるな。世界を滅ぼすのはあいつを始末してからだぞ。わしの目的が優先だからな。」
「ええ、わかっていますよ。」
[newpage]
ここはケモノ界のさいたま市大上区。時は2022年3月26日の夜。
(ああ、今日は楽しい1日だったな…)
太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は、寝る直前だった。
今日は彼の誕生日。家族やクラスメイトが企画したサプライズパーティーが開かれた。
彼は料理やケーキ、カラオケなどを楽しみ、家族や友達からプレゼントももらった。
両親から贈られたゲームソフトを早速楽しみ、金子 真里ちゃん(白猫)からの漫画3冊も半分ほど読んだ。稲荷山 紺助くん(太ったキタキツネ)からのプラモデルは、明日から組み立てる予定だ。
雪見カトリーヌ理沙ちゃん(ホッキョクギツネ)からの腕時計は、机の上に置かれている。高級品のため、しばらくはここに飾っておくようだ。
縞野 くるみちゃん(シマリス)からの手作りお守りも、横に置かれている。これは彼女のしっぽを模した物だ。
(くるみちゃん、ありがとう…)
彼はお守りを優しくなで、入手時の会話を思い出した。
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「実はこれ、もう1つあるの。それは私が持ってるわ。」
「どうして2つも作ったの?」
「栗田くんのは私のしっぽを、私のは栗田くんのしっぽをイメージしたの。
私はこのお守りを大切にしているわ。お守りが無事なら、栗田くんも無事って気がするの。」
「ぼくもそう思う事にするよ。もしこのお守りに何かあれば、すぐに駆けつけるからね!」
「ありがとう、栗田くん…」
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「おやすみ、くるみちゃん。」
お守りに話しかけ、照明を消してベッドの中へ。幸せな気分に包まれながら眠りについた。
[newpage]
[chapter:不吉な夢]
ここは夢の中。栗田くんは野原を歩いていた。
太陽が輝く青空。足元に広がる緑。咲き乱れる美しい花。楽園のような場所だ。
(なんて素敵な場所だ!ここで友達とピクニックしたら楽しそうだな…)
ところが、次の瞬間に様子が一変。空が一瞬で暗雲に覆われ、花や草が枯れ始めた。
(嫌な予感がする!逃げなきゃ!)
全力で逃げたが、太っているためそれほど速くは走れない。どれほど走っても似たような景色のため、どこまで逃げれば良いかもわからない。
そのうち雷が鳴り始めた。地面に落ちると枯れ草が燃え始め、周囲は火の海に。
栗田くんの四方10メートルほどにも落ち、彼は行く手を阻まれた。
「うわーっ!誰か助けてー!」
次の瞬間、雷が彼を直撃した。
[newpage]
栗田くんはベッドから起き上がった。
(ああ、夢で良かった…しかし誕生日の翌日に、こんな悪夢を見るなんて…
ハッ!まさかこれは、あの時の占い…)
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2021年8月末。栗田一家はよく当たると評判の占い師(ヤギの女性)に未来を占ってもらった。
「栗田 永雄くん。あなたはとてもラッキーです。誕生日の直後に大きなトラブルが起こりますが、それさえ乗り越えればずっと幸せが続きます。
残り2匹も幸せに暮らせますが、それは春が来るまで。それ以降は不幸になります。」
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(すっかり忘れてたけど、ちゃんと当たった…
大きなトラブルとは悪夢の事だろう。もう目覚めたから、ずっと幸せが続くんだ!
でも、お父さんとお母さんは不幸になっちゃうの!? もう春は来ているから…)
着替えなどを済ませ、恐る恐る1階へ。
「お、おはよう…」
「おはよう、永雄。どうしたんだ?」
「いつもの元気がないわね。」
「あ、その、変な夢を見ちゃってね…」
「そうか。おととしみたいに不眠症にならないといいな。」
「ぼくは大丈夫だから安心してね…それよりお父さんとお母さんが…」
「私たちがどうしたの?」
「う…ううん、なんでもない。」
(2匹ともあの占いは忘れているだろう。またあの話を持ち出すと不安になりそうだから、話さないでおこう。
でも万が一を考えて、今日はお父さんやお母さんとずっと一緒にいよう!)
[newpage]
[chapter:異変の始まり]
朝食は何事もなく終了。それから部屋でくつろいでいると、母親に呼ばれた。
「永雄、お使い頼んでいい?」
「え、お使い?何を?」
「スーパーでココナッツオイルバターを買ってきてちょうだい。」
「あの、どうしてもぼくが行かないとだめなの?」
「変ね。いつもはすぐ行くのに…」
「わかった、行ってくる…」
栗田くんはお守りをポケットに入れ、家を出た。空はよく晴れ、白い雲が所々に浮かんでいる。
平和な風景だが、心の中は不穏だった。
(あの占いが当たりませんように…)
スーパーマーケットへ行き、目的のバターを買う。ここまでは何事も起きなかった。
(よし、後は帰るだけだ。)
住宅街を歩いていると、スーパーマーケットの方から悲鳴のような音がかすかに聞こえた。
(何だろう…事件!? いや、何かの聞き間違いだろう…そうであってくれ…)
一抹の不安を覚えつつ、足を進めた。空には黒雲が増えている。
自宅の近所まで来た時、近くの家から女性の悲鳴がはっきり聞こえた。
「誰かー!助けてー!」
「命乞いをしても無駄だ!お前さえいなくなれば世界は平和になるんだ!
さあ、この剣を喰らえ!これで俺は正義のヒーローとして称えられるだろう!」
同時に激しい悲鳴が響き、女性の声が聞こえなくなった。
(あの家には猫の夫婦が住んでいたはず…今の声もその夫婦だった…
仲が良さそうだったのに、夫婦同士でいったい何が!?
もしかすると、さっきのも悲鳴だったのかもしれない!何か大変な事が起きてるぞ!)
[newpage]
[chapter:変わり果てた栗田家]
恐ろしくなり、走って帰宅した。空は暗雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。
「お父さん!お母さん!町が大変…ええっ!?」
室内が派手に荒らされている。壁には穴が開き、床はへこみ、家具も破壊されていた。
台所の食器棚や冷蔵庫は倒れ、その周辺には食器の破片や食品の残骸が散らばっている。よく見ると血溜まりもできている。
「ああっ!? お母さんが!?」
始めは気づかなかったが、血まみれの母親が倒れていた。栗田くんは物が落ちていない部分を通り、慌てて駆け寄る。
「お母さん!だ、大丈夫!?」
「永雄…早く…逃げて…お父さんが…」
「いったいどうしたの!?」
「お父…さんが…突然…」
そこで声が止まった。
「お母さん!お母さん!しっかりして!」
恐る恐る鼓動を確認したが、既に止まっている。母親の体は冷たくなっていった。
「ああーっ!お母さんがー!どうしてこんな事にー!」
もうバターを買ったと報告する場合ではない。彼は泣き崩れた。
少し落ち着いた所で、2階の自室へ。
「ああ、そんな!」
そこも破壊されていた。破れた漫画、破壊されたゲーム機、中央が陥没したベッドや机…
プラモデルや腕時計も無残な姿と化した。無事だったプレゼントは身に着けていたお守りのみ。
(ああ、ぼくの宝物がゴミになっちゃった…プラモデルなんてまだ開けてなかったのに…)
その時、気がついた。隣の寝室から打撃音が聞こえる。
ドアの隙間から恐る恐る覗くと、父親が暴れていた。手に持ったゴルフクラブでベッドやタンスを破壊し、目覚まし時計を壁に叩きつける。
よく見ると、クラブのヘッドには血が付着していた。どうやら母親もこれで叩かれたようだ。
「どうして…どうしてだ!」
急に父親が手を止め、振り向いた。その目は血走り、狂気に満ちている。
「まだここにいたか!俺の息子に化けてこの家を乗っ取る気だな!
正義のクラブがお前に裁きを下す!さあ、もう逃げられないぞ!」
それからクラブを振り上げ、廊下に出た。しかし栗田くんはセリフの途中から逃げ始めたため、その時点では階段を下りている途中だった。
「そこか!逃がさないぞ!」
栗田くんは全力で逃げ、急いで玄関のドアを開け、横の部屋に隠れた。
「逃げられたか!待て!」
父親はクラブを振り回し、通りを走っていった。残された栗田くんはドアを閉め、鍵をかけた。
(ふう、ひとまず助かった…
出かけている間、お父さんに何があったんだろう…突然暴れ出して、家を壊して、お母さんを殺すなんて…
待てよ!逃がしたのは間違いだったかも!あれじゃまた犠牲者が増えちゃう!ぼくのせいだ!)
自責の念にとらわれながら、母親の元へ。
「ごめんね、お母さん…守れなかった上に犠牲者を増やしちゃって…」
[newpage]
[chapter:元凶の登場]
その時、奇妙な点に気がついた。台所やテーブルは完全に破壊されているが、隅に置かれたテレビとその周辺は無事だ。
(どうしてここだけ?)
考えていると、突然テレビのスイッチが入った。
そこには、3匹のケモノと1人の人間が映っていた。
(このニンゲンは…スーザン女王じゃないか!あの時改心したはずなのに、前より凶悪そうな顔になってるぞ!
それからこのホッキョクギツネ…あの時と違って冬毛だけど、鏡の世界でぼくをいじめた奴だ!
残りの狼と猫は知らないけど、悪い奴なのは間違いないな。)
考えを巡らせていると、猫が口を開いた。
「栗田 永雄。今はどんな気持ちですか?」
「え…ええっ!? こっちが見えてるの?」
「見えますとも。さあ、答えてください。」
「ぼくはとっても怒ってるし、悲しいよ!昨日まで幸せだったのに、それが全部叩き壊されたんだから!
お父さんは暴れ出した。お母さんは殺された。家もこんなにめちゃくちゃだ!
ぼくは何もする事ができない。むしろ事態を悪化させてしまったかもしれない!」
「どうやら苦しんでいるようですね。」
「ああ、もちろんだよ!」
「その調子でもっと苦しんでください。」
「どうしてだ!」
「私たちの目的のためですよ。そうですよね、皆さん?」
残り3名が続けて言う。
「そう。私たちの目的はこの世界を滅亡させる事さ!」
「もっとも、あなたには関係ないわね。それより前に死んでもらうから。」
「お前に思いつく限り最高の苦しみを与えてから、あの世に送ってやる。2年半分の苦しみをな!」
その言葉を最後に、テレビのスイッチが切れた。
(奴らの仕業か…許せない!絶対に許せない!
でも、奴らはどこに住んでるんだ?それがわからない限り、手出しはできない…)
その時、ドアがノックされた。
(まさかお父さん!? でもクラブで叩く音じゃない、もっと柔らかい物で叩く感じだ…)
確認用のモニターは破壊されているため、室内から来客の姿を確認できない。
「ねえ、そこにいるのは誰?」
「ぼくだよ!稲荷山 紺助さ!」
「ああ、来てくれたんだ!良かった!」
彼はドアを開けたが、その瞬間に表情が凍りついた。
そこには謎の物体が立っていた。卵型で彼より少し小さい。
毒々しい色合いの不気味な模様で覆われ、ゴムのように柔らかく揺れ動いている。それが稲荷山くんの声で話しかけていた。
「さあ、ぼくと一緒にいればもう大丈夫ミュフェギュゴヴァーゴビューロンパルチェリヌヂュエワキベスギャメビ!」
その声も、途中から意味をなさない言語に変わった。
「うわーっ!来ないで!来ないで!」
慌ててドアを閉め、鍵をかける。
(忘れかけてたけど、あいつは2年前の悪夢に出てきた奴だ…どうして現実に出てきたんだ?
もうドアを開けるのも怖いよ。友達の声でも、偽者かもしれない!)
彼はますます怯え、床にうずくまった。
[newpage]
[chapter:悲劇の連続]
またドアがノックされた。今度は普通のノックだ。
「そこにいるのは誰!?」
「ぼくだよ!稲荷山 紺助さ!」
「本当に稲荷山くんだよね!? 狐だよね!?」
「そうだけど、何でそこを…とにかく早く入れてよ!」
ドアを軽く開け、隙間から覗く。今度は見慣れた稲荷山くんが立っていた。
「良かった。さあ、中へ!」
中に入れて鍵をかけると、彼は泣き出した。
「ああ、栗田くん!君は無事だったんだね!」
「無事だった…まさか君の所でも!?」
「そうなんだよ。お母さんがいきなり包丁を持って暴れ出したんだ!
ぼくは逃げたけど、万梨阿は…ああ、妹を守れないなんてぼくは兄として失格だ…」
「なんて事だ…実はこっちでも同じような事が起きたんだ。リビングのソファーは無事だから、そこに座って話そう。」
ソファーに座ると、栗田くんは事情を説明した。
「そうか。それで家がこんなにめちゃくちゃなんだね。」
「うん。昨日もらったプラモデルも壊されちゃった…まだ組み立ててないのにごめん…」
「栗田くんが謝る事はないよ。悪いのはお父さんなんだから。」
「いや、誰かがお父さんを洗脳したに違いない。」
「それはなぜ?」
「さっきの話には続きがある。その後テレビが急についたんだ。そこに映ったのは…」
その時、またドアがノックされた。
「栗田くん!栗田くん!早く入れて!」
「お願い、私もかくまって!」
「今度は誰が来たの?」
「縞野 くるみと金子 真里よ!」
ドアを開けると、2匹が駆け込んできた。
「くるみちゃん、真里ちゃん、君たちもお父さんがいきなり…」
「よくわかったわね、栗田くん。お父さんが狂ったように暴れ出したのよ。アイスピックでお母さんを…ああ…」
「私の方はお母さんよ。お父さんと弟の雄二が料理用のはさみで…だめ、これ以上は言えないわ…」
「辛いなら言わなくていいよ。ぼくたちの方は…」
栗田くんと稲荷山くんが事情を話す。
「栗田くんたちも同じ目に遭ったの!? でも無事で良かったわ…」
「本当にひどいわ!どうしてこんな事が起きたのかしら!」
「ねえくるみちゃん、あのお守りは…」
「それよ。お父さんが暴れ出したからお守りを持って逃げようとしたら、倒れた写真立ての下敷きになっていたのよ。
お守り自体は無事だったけど、栗田くんに何かあったかもしれないと思って、すぐに駆けつけたの。その途中で真里ちゃんと合流したわ。」
「ぼくの体は無事だけど、心は大きく傷ついた。きっとそういう事なんだ。」
「そういえば栗田くん、さっき話の途中だったよね?」
「ああ、そうだったね。お父さんが出ていった後、テレビがついたんだ。それでそこに映ったのは…」
その時、リビング内の空間が揺れ始めた。
「えっ、何!?」
「またおかしな事が起こるのかも…」
「怖いわ…」
「助けて!」
次の瞬間、そこに白い球体が現れた。軽自動車ほどのサイズで、ドアや窓は付いているが中身は見えない。
「あっ、これは確か…」
「異世界タイムマシンよ!」
[newpage]
[chapter:異世界からの避難民]
「さあみんな、着いたよ!」
ドアが開き、太ったシマリスが一番に降りてきた。栗田くんを若干成長させたような姿で、銀色の全身タイツを着ている。
その後から人間の姫と王子、赤いふんどしを締めたイタチの男の子、スカンクの中年女性も登場。
「君は異世界に住むぼくのそっくりさんじゃないか!ぼくが1歳成長したらこんな感じになるんだね。」
「エイミー姫にジェームズ王子、久々ね!どうしてここに来たの?」
「まあ落ち着いて。すべてを話すからみんなそこに座って。」
栗田くんに似たシマリス…長尾 繰太くんは語り始めた。
「栗田くんとその友達は、ぼくを覚えてるよね。」
「うん。1年前にそのタイムマシンでいろんな時代や世界を旅したね。まずは1年後の世界に行って…
ん?それってつまり今年だよね!? あの日見た世界は平和だったけど、それは…」
「…ごめん、あの時は嘘をついてたんだ。あれは2020年だったんだよ。だって2022年はこうなってるから…」
「じゃあ、その時にはもうこれがわかってたの?」
「そう。去年の夏からいろんな世界が次々と滅亡させられているんだ。ぼくの住む世界は無事だけど、ケモノの住む世界もたくさん滅びた。
このタイムマシンにはテレビも搭載されている。その時代や世界に行かなくても、映像で見る事ができるんだ。
世界の滅亡が始まる前に、ぼくはそれを知った。それでこの4名を助けに行ったんだ。さあみんな、自己紹介を。」
イタチが前に立った。
「ぼくはイタ助。おねしょ島に家族や友達と暮らしてた。
平和な島だったけど、ある日何者かが攻め込んできた。その時に家、家族、友達をすべて失ったんだ。
森に隠れていると、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。そっちに行くと、この乗り物が止まっていたんだ!」
次はスカンク。
「私はヴェルトン。スカンキー王国に住む魔法使いです。
イタ助くんと同じような経緯で乗りましたが、その時点で既にイタ助くんも乗っていました。
ちなみに、イタ助くんと同じ世界の住民です。かつて彼は友達と共に私の国を訪れました。」
最後に姫と王子。
「私はエイミー姫。こちらはジェームズ王子です。ファンタスティカ王国に住んでいます。」
「ある夜、城で国民の集まる舞踏会が開かれました。その終了直後、突然城に火が放たれたのです。私とエイミー姫は避難誘導係になりましたが、誰も助ける事ができませんでした…」
「私の大事な息子や、森に住む友達も焼かれてしまったの…」
「その直後、廊下の奥から呼ぶ声が聞こえました。その先にあの球体が止まっていたのです。」
「その時点でイタ助くんとヴェルトンさんが乗っていました。それから1分でここに到着しました。」
[newpage]
[chapter:悪の軍団]
語り手が長尾くんに戻った。
「本題に戻ろう。この事件は誰が起こしているか。それは…」
栗田くんが口を挟む。
「そこはぼくに話させて!さっきから稲荷山くんに話そうとしてたけど、その度に誰かが来たんだ。でももうみんな揃ったみたいだから、やっと話せるよ。
あの後テレビが急について、4名の姿が映ったんだ。スーザン女王、鏡の世界でぼくをいじめたホッキョクギツネ、魔女っぽい狼、タキシードを着た猫。猫がリーダーのようだった。
みんなぼくに十分な苦しみを与えてから殺し、それからこのケモノ界を破壊するんだって!どうやらぼくが狙われてるみたいなんだ!」
一同は驚いた。
「栗田くんが…どうしてなのよ!」
「スーザン女王、また悪の心に染まったの!?」
「狼の魔女って、きっとエレノアだよ!」
「イタ助くんと仲間が倒したはずですが、復活するなんて…」
「栗田くんをいじめた奴、まだ懲りてなかったのか…」
「でも猫には誰も心当たりがないようね。」
「あいつらは恐ろしい悪者たちだ。ぼくが詳しい情報を教えよう。
まず人間のスーザン女王。あいつはファンタスティカ王国の女王だった。かつては強欲で腹黒かったけど、その後改心した。でも今は前以上の悪者さ。」
ジェームズ王子が補足する。
「彼女は僕の母親です。僕とエイミーは3年ほど前に、成り行きでケモノ界を訪れました。そこで彼女は改心したのですが…
先程話した舞踏会の火事ですが、その数分前から彼女の姿が見えなくなっていました。やはり事件と関係があるようですね。」
「次は狼の魔女、エレノア。
かつてスカンキー王国を襲ったが、イタ助くんと仲間たち…下着イタチと呼ばれる7匹の子供とヴェルトンによって倒された。しかし復活したんだ。」
ヴェルトンが補足する。
「あの時のエレノアも確かに悪者でしたが、命を奪うほどではありませんでした。せいぜい気に入らない相手を石に変える程度です。
もっとも、下着イタチに対しては殺意を持っていましたね。ドラゴンに変身して一撃必殺の炎を吐きましたから。一発も当たらなかった事が幸いです。」
「次はホッキョクギツネのナシーリェ・プリェスト。
栗田くんたちの住むケモノ界とよく似た鏡の世界に住んでいる。一見紳士的だけど、児童虐待が好きなサイコパスだ。
奴の好きな物は毛皮と臓器。それを売って金儲けしている。聞いただけでぞっとするよね。」
栗田くんが補足する。
「あいつは精神的に追い詰める方が好きらしいんだ。毛皮と臓器に傷がつかないからね。
ぼくは本当にラッキーだったのかもしれない。あんな奴から生きて逃げられたなんて…」
「最後に白猫のシェルフィールド卿。あいつがすべての元凶さ。
元々は幸せに暮らしていたが、父親が仕事をクビになった事からすべてが狂い始める。父親は酒とたばこに溺れて死に、それを知った母親は頭がおかしくなって彼を虐待するようになった。
ある日、彼は雷に打たれた事がきっかけで全知全能の力を身に着ける。それを悪用して独裁者になり、9年間で彼の住む世界を滅亡させた。
それから異世界に手を出し、その中でさっき説明した3名を仲間にした。エレノアの復活も、スーザン女王に悪の心を植えつけたのも、全部あいつだ。
おまけに不死身で、どんな攻撃を受けてもケガ1つしない。そんな風に設定してるんだよ。」
「許せないわ!でもかわいそうね…」
「くるみちゃん、同情しちゃだめだ!あいつはみんなから幸せを奪ったんだぞ!」
[newpage]
[chapter:冒険の始まり]
「これで悪者たちの紹介は終わりだ。」
「ありがとう。よくわかったよ。でもぼくたちはどうすればいいの?」
長尾くんは、真面目な顔で答えた。
「栗田くん、くるみちゃん、稲荷山くん、真里ちゃん、イタ助くん、ヴェルトンさん、エイミー姫、ジェームズ王子。君たちはあいつらと戦わなければならないんだ!」
「戦うだって!? ぼくたち普通の小学生だよ!」
「急に言われてもできないわ!」
「いや、戦う事が正しい歴史なんだ。ぼくはすべて調べている。
栗田くんたち4匹が集まる事も、ぼくが残りの4名を連れてくる事も、すべて正しい歴史だ。そして戦いの後に起きる事は、ぼくの世界に大きく関わってくる。」
「ぼくたちは最後まで生き残るの?そこを教えてよ!」
「それは君たちの目で確かめて欲しいから、ぼくからは何も言わない。
でも、奴らの居場所は教えるよ。大上スピードシティの31階さ。」
「早速連れてって!」
「このタイムマシンは定員5名だから、ぼくは異世界から来た4名を乗せていく。君たちは道がわかるだろうから、自分の足で向かって!」
「そんな無責任な!」
するとヴェルトンが魔法の杖を振り、リュックサックを出した。
「これを使ってください。お助けリュックサックです。背負えば確実に皆さんを助けてくれますよ。」
「ありがとう、ヴェルトンさん!」
感謝する栗田くん。イタ助が説明した。
「ヴェルトンさんの魔法はすごいんだ。ぼくたちがエレノアに勝てたのも彼女のおかげだよ。
それじゃ、ぼくたちは行ってくる。またみんなで会おう!」
異世界タイムマシンは部屋から消え、4匹の4年生が残された。
栗田くんはお助けリュックサックを背負い、力強く言う。
「さあみんな、ぼくについてくるんだ!勇気と希望を胸に進もう!」
「みんなで力強く戦おう!悪を滅ぼし、世界を守れ!」
「敵討ちに出発よ!お母さん、天国から見ててね!」
「絶対に勝ってみせるわ!ケモノ界の平和を守るわよ!」
全員の手を重ね、勝利を誓うと家を出た。冒険の始まりだ。
[newpage]
[chapter:狂気の町]
まだ昼前のはずだが、空は夜のように暗い。見慣れた住宅街も変わり果てていた。
ほとんどの家は窓が割れ、悲鳴や殴打音が響いている。
「みんな凶暴になったのね…」
「見慣れた町がこんなになるなんて、昨日は考えられなかったよ…」
「理沙ちゃんは無事かしら…」
「今はそれどころじゃない。奴らのいる所へ進むんだ!」
しばらく進むと、栗田くんが叫んだ。
「お、お父さん!」
彼の父親が暴れまわっていた。服も先程より血まみれになっているため、犠牲者をさらに出したようだ。
今は太った中年の狸を前に、クラブを構えている。
「やめろ、やめてくれ!」
そこへ狼の青年が立ちはだかった。
「ここは私に任せてください!早く安全な場所へ!」
直後、父親はクラブで狼を殴打した。狸は電柱の影で涙を流していた。
「ああ、あいつはいい友だった…」
次の瞬間、父親は栗田くんに目を向けた。
「見つけたぞ、悪魔め。もうお前は逃げられない…」
「お父さん!お願いだ!元に戻ってよ!」
彼がクラブを振り上げた時、突然リュックサックが開いてバリアが4匹を覆った。
「この!この!」
殴打が続くが、バリアは破れない。最終的に父親はあきらめ、他の道へ消えた。
「すごい!これなら確実だよ!
でも、お父さんはもう元に戻らないだろうな…ぼくは優しかったお父さんをいつまでも忘れないよ!」
「栗田くん、気持ちはわかるけど泣くのは後にしましょう。今は敵を討たないと!」
「そうだね、くるみちゃん。悲しんでも先には進めない。進め!」
先の角を曲がった所で、くるみちゃんが叫んだ。
「あっ、先生が!」
4年2組の担任、小山 裕(柴犬)が白装束に身を包み、松明を手に立っている。3年前の林間学校で火の神を演じた時の物だ。
「先生!無事ですか!?」
小山先生が振り向いたが、非常に恐ろしい表情を浮かべている。どうやら彼も洗脳されたようだ。
「お前たちに素晴らしい物を見せよう。
破滅の火。これは何もかも焼き尽くす火だ!」
それから近くの家に放火した。室内からは悲鳴が聞こえてくる。
「ああ、素晴らしい光景だ!」
彼が見入っている隙に、4匹は逃げた。
「先生まであんなになっちゃうなんて…」
先程「泣くのは後にしましょう」と言ったくるみちゃんも、変わり果てた担任には耐えきれず涙をこぼした。
栗田くんと稲荷山くんは、別の理由で泣いている。
「あそこは保良先生の家だ…相撲部の顧問が…」
「お世話になりました…どうか安らかに…」
その通り、ホッキョクグマの保良一家が火災の犠牲となった。
気を取り直してまたしばらく進むと、今度は巨大な肉切り包丁が現れた。血が付着している。
「今からお前らをハムにしてやろう。覚悟はいいか?」
「こ、こいつは!」
その時、またバリアが発動した。包丁が切りかかっても破れない。
「お前らはあきらめた。他の奴をハムにしてやるぞ!」
包丁は立ち去った。
「ふう、助かった…今のは何だったんだろう…」
「あれは2年前、ぼくの悪夢に出てきた奴だ。夢では誰も犠牲にならなかったけど、こっちでは犠牲者が出ちゃったみたいだよ…」
「なぜ悪夢が実体化したのかしら…」
「これもシェルフィールド卿の仕業かもしれないわ。早く止めないと…」
その時、奥の道で叫び声が聞こえた。
「また犠牲者が出てしまったのね…」
「待って、聞き覚えのある声だったよ!一応見てみよう。」
角から覗くと、解体された2頭の虎が倒れていた。
「そ、そ、そんな!」
それは6年生の島田 大河くんと母親の虎子だった。栗田くんと稲荷山くんにとっては、相撲部の部長としてなじみ深い。
「ああ、部長まで…守れなくてごめんなさい…」
「部長、今まで長い間お世話になりました…どうか安らかに…」
2匹はまた涙を流し、手を合わせた。
/////////////////////
その頃、あの世にて…
「ああ、大河、虎子…」
父親の島田 虎助が涙を流していた。彼は2012年に病気でこの世を去っている。
「まさか、あんな最期を迎えるなんて…また一緒に暮らせるのはいいが、いくらなんでもあれはむごすぎる!」
あの世の住民は、この世に残った家族の様子を専用のモニターでいつでも見られる。彼は家族の無事を祈ってモニターを見ていたため、妻と息子が解体される様子の一部始終を見てしまった。
/////////////////////
恐怖と狂気に満ちた町を歩く4匹は、途中で何度も住民から攻撃を受けた。
トラックを暴走させてすべてをなぎ倒す運転手、ナイフを振り回すレストラン「フード・キャッスル」のコック、両手に血まみれのはさみを持った美容師…
そのたびにバリアが守ってくれたが、相手の行動が封じられるわけではない。4匹は自分たちが助かった安心感と、相手を止められなかった罪悪感が混ざった感情で先へ進んだ。
駅を通り抜け、西口へ。大上スピードシティのビルが見えてきた。
「あそこが奴らの本拠地か。もうみんな着いてるかな?」
「タイムマシンだから、ぼくたちが着く時間に合わせて設定してると思うよ。」
「ああ、そうか。シェルフィールド卿、手下たち、覚悟してろよ!」
[newpage]
[chapter:襲い掛かる罠]
その頃、ビルの31階では…
「イタ助、ヴェルトン、まさか生きていたとは!」
「なんでエイミー姫とジェームズ王子が生きてるのよ!」
「どうやら私の言い方がまずかったようですね…それにあのタイムマシンが存在する世界は完全にノータッチでした。」
「わしは途中から入ったのでよくわからないが、お前は未来を調べた事があるのか?」
「いえ、私のコンピューターに未来を知る機能は未搭載です。未来は私たちが作っていきますから…
まあ、今まで何度も世界を滅ぼしてきた私たちです。あんなガキどもに負けるなどあり得ないでしょうね。」
「いや、ヴェルトンがついてるから心配だね。見ただろ、あのリュックサック?」
「そうだ、わしにいい考えがある。この通りにすれば、栗田はかなり苦しむだろう!
耳を貸せ、シェルフィールド卿。まずは…」
ナシーリェの考えを聞いた彼は、ニヤリと笑った。
「大変結構な考えです。実行しましょう。」
駅の西口から大上スピードシティの入り口までは、ペデストリアンデッキが続いている。
4匹がそこを歩いていた時、突然背後のデッキが崩れ始めた。
「うわーっ!」
「早く走って!」
くるみちゃんと真里ちゃんは早く走れるが、栗田くんと稲荷山くんは太っているため足が遅い。
「ああ、もうだめだ!」
その時、リュックサックから巨大なシャボン玉が現れて4匹を包んだ。
「うわあ、すごい!」
「メルヘンの世界ね!」
「一度こんなのやってみたかった!」
4匹はシャボン玉に入り、崩れる道を下に見ながら飛んだ。ビルの入り口まで着くと、シャボン玉は割れた。
「良かった、また助けられたよ。」
「でももう後には戻れない。31階へ急ごう!」
エレベーターに乗り、31階のボタンを押した。
「もうすぐ戦いが始まる。みんな、覚悟はできてる?」
「うん。きっとヴェルトンさんがまた何か出してくれるよ。」
「ちょっと気が楽になったわ。」
「私も頑張るわ。みんながいれば怖くない!」
31階まで残りわずか。一同は決意を表明した。
ところが、30階で突然止まった。
「誰か乗ってくるのかしら?」
「でもドアがなかなか開かないよ…」
次の瞬間、突然ワイヤーが切れた。エレベーターは高速で落下する。
「ギャーッ!」
「怖いー!」
「死んじゃうよー!」
「助けてー!」
その時、リュックサックから謎のエネルギーが放出された。
それに包まれたエレベーターはクッションのような柔らかい素材に変わり、4匹は落下後も無傷で済んだ。
「ああ、怖かった…でもみんな無事だ!」
「見て、エレベーターシャフトの下もふわふわになってるよ!」
「良かった、お守りも無事だわ。でもあんな高さから落ちたら、下がクッションでも結構なダメージを受けそうだけど…」
「その辺はきっと、ヴェルトンさんの魔法でどうにかなったのよ。さあ、行きましょう!」
「でもエレベーターはもう壊れちゃったよ。他のエレベーターでも同じ目に遭うだろうし…」
「もう階段しかないわね。」
「えー、31階まで上がるの?ぼく太ってるから、そんなに歩いたら疲れちゃう…」
「栗田くん、他に道はないよ。頑張ろう!」
階段を上がりながら、栗田くんが言った。
「そうだ、みんなにはまだ言ってなかった。この未来を予言していたケモノがいたんだ。」
「へえ、それは誰?」
「ウルフデパートで出会ったヤギの占い師だよ。よく当たると評判で、テレビに出た事もあるらしいんだ。
ぼくは去年の夏、家族で1年後の未来を占ってもらった。『ぼくは誕生日の直後に大きなトラブルが起きるが、それを乗り越えれば幸せが続く。お父さんとお母さんは春が来ると不幸になる』って結果だったんだ。
後でわかったけど、その占い師は去年の初夏辺りから誰を占っても『春が来ると不幸になる』と言っていたらしい。その時はでたらめだと思ってたけど、正しい未来だったんだ…」
残り3匹は息を飲んだ。
「まさかそんな事があったなんて…」
「驚きね…」
「でも、どうして詳しい事は教えてくれなかったのかしら?」
「きっとみんなを不安にさせたくなかったからだと思う。彼女なりの配慮だね。
それにこのトラブルを乗り越えれば幸せが続くんだから、きっとぼくたちは戦いに勝つんだ!みんな、頑張ろう!」
「それを聞けば安心ね!でも気を抜かずに頑張りましょう!」
4匹は希望を胸に、階段を上がり続けた。
「ハア…ハア…」
「疲れてきたわ…」
「これ以上は…とても歩けない…」
「まだ3分の1も…上がってないのに…」
5階まで上がると、4匹とも疲れを感じてきた。
その時、リュックサックからビームが発射されて4匹に当たった。
「あ、あれ?」
「疲れが消えた!」
「きっと今のビームが疲れを吸い取ったのよ!」
「さすがお助けリュックサックね!命を守ってくれるだけかと思ってたけど、体力も回復してくれるなんて!」
「よし、また上がろう!」
[newpage]
[chapter:束の間の安らぎ]
5階ごとに体力が回復され、ついに目的の31階へ。ここは展望台だ。
そこへ通じるドアをくぐると同時に、異世界タイムマシンが現れた。
「みんな無事に着いたようだね。」
「うん。いろいろ危ない目に遭ったけど、リュックサックのおかげで無事だったよ。ヴェルトンさん、ありがとう!」
「役に立ったようで良かったわ。そろそろお昼だから、食事にしましょう。ここだと見つかりそうだから…」
9名が階段の踊り場まで戻ると、ヴェルトンは杖を振り、2つのテーブルと9脚の椅子を出した。
「さあ、何でも好きな物を言ってちょうだい。」
「じゃあ、オムライス!」
「マカロニグラタン!」
「ぼくは稲荷寿司!」
「私はサンドイッチ!」
「焼き芋!でも島で食べてそれほど経ってないから、1本でいいよ。」
「私はシチューをお願いするわ。」
「僕はカツレツで。」
「カレーライス!」
答えを聞くたびに杖が振られ、数々の料理がテーブルに並んだ。
「最後は私ね。スイートポテト!」
これで全員の料理が揃った。
「それでは、いただきます!」
9名は昼食を楽しんだ。
栗田くんが食べながら質問をする。
「ヴェルトンさん、イタ助くんがエレノアを倒した時はどんな感じだったんですか?」
「まずエレノアが岩なだれを起こしたのよ。でも私の魔法でシャボン玉に変えたわ。」
「すごい!それなら当たっても痛くないですね。」
「そうよ。とっさの判断だったけどうまく行ったわ。それから…」
一同はイタ助とヴェルトンが語る思い出に聞き入った。もっとも、食事中に聞きたくない展開も含まれていたが。
その頃、展望台で…
「しっかり味わって食べてください。何しろあれが最後の食事になりますからね…」
「シェルフィールド卿、こちらでも何か対策をしておかないかい?」
「いいえ、今まで通りで十分ですよ。我らには全知全能のパワーがありますから、魔法使いが相手でも絶対に勝てるでしょう。」
「でも油断は禁物よ。あのタイムマシンをここで破壊した方がいいと思うわ。」
「破壊しないでください。奴らを倒してから我々がいただこうと思っています。」
「…まあ、それもそうね。でも今はじっくりと作戦を練らないと。」
「奴らはあのリュックがあるから勝てると思っているでしょう。そこで…」
「いい考えだな、シェルフィールド卿。」
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[chapter:ついに対面]
「ごちそうさま!」
「さあ、ついに戦いだ。みんな準備はいい?」
腹ごしらえを済ませた一同が展望台へ向かおうとすると、栗田くんが言った。
「待って、まだする事があるよ!とても大事な事が残ってる!」
「それは何かしら?」
「トイレだよ!戦いが始まったら行けるかわからないから、今のうちに行っておかないと!」
30階のトイレで用を済ませ、また階段へ。幸いここでも何事も起きなかった。
「みんな、今度こそ準備はいい?」
「うん。」
「それじゃ、行くよ。」
栗田くんは勢いよくドアを開け、展望台へ躍り出た。
「シェルフィールド卿!覚悟しろ!」
廊下の角から、シェルフィールド卿と手下たちが登場。
「おや、勇者気取りの皆さん。よくここまで来ましたね。」
「ああ。ぼくたちは勇気と希望を胸に来た。お前らにも絶対負けないぞ!」
「元気があって何よりだな。せっかくだからここへ来た目的を話してもらおうか。」
ナシーリェの質問に、一同が答える。
「ぼくたちは敵討ちに来たんだ!」
「みんな大切な家族や友達を奪われたのよ!」
「そうだ!お前らを倒して平和を取り戻すぞ!」
「あんたたちも同じ目に遭わせてやるわ!」
「ぼくには強力な武器がある!戦力になるよ!」
「私には魔法がある!」
「私だって、全力で戦うわ!」
「ああ、僕もだ!」
「さあみんな、頑張って戦おう!」
エレノアが不敵に笑った。
「フフフ…お前たちは復讐に来たんだね。違うかい?」
栗田くんが強く返す。
「そうに決まってるじゃないか!」
「復讐したって失った家族や友達は返ってこないよ。負けを受け入れて、あの世で家族や友達と再会した方が幸せじゃないかい?」
「確かに、返ってこない事はぼくもわかっている。でもぼくたちはお前らを同じ目に遭わせないとすっきりしないんだ!」
「私たちを殺すつもりですか。そうすればあなたたちは殺害歴を持つ事になり、その後の生活に影を落としますね…」
「お前らのほとんどは子供だが、本当にそれでいいのかね?」
「後ろ指をさされながら生きたいのかしら?」
この煽りに、一同は激怒した。
「お前らの言える事じゃないだろ!この悪魔!」
「ぼくたちは理不尽に家族を殺されたんだぞ!」
「ひどい事をしてるのはあんたたちの方よ!」
「私たちの大切な町をこんなにしておいて、よくそんな事が言えるわね!」
「ぼくの家族や友達を返せ!それに美しい島も!」
「罪のないスカンクたちの命を奪ったあんたたちがそうなるべきよ!いや、もっとひどい目に遭わせるわ!」
「あんたらはいつまでも理解できないでしょうね!理不尽に殺されていった国民たちの気持ちが!」
「母上、お前は孫を殺したんだぞ!今度こそ勘当だ!」
「フフフ、良い感じに苦しんでるねえ。その調子だよ。」
「だが、苦しみはまだ始まったばかりだぞ。覚悟しておけ。」
「言っておくけど、私たちのパワーは強力よ。あなたたちは絶対勝てないわ。」
「忘れる所でした。戦いの前に…
お助けリュックサックとヴェルトンの杖よ、消えろ!」
シェルフィールド卿の言葉で、その2つが消滅した。
「あっ、頼みの綱が!」
「どうしましょう!みんなを助けられないわ!」
「なんてこった!杖のないヴェルトンさんなんてただのスカンクじゃないか!」
絶望する栗田くんたち8名。
曇り空に雷が轟き、戦いの火蓋が切って落とされた。
[newpage]
[chapter:果たして、戦いでは何が起こるか!?]
[chapter:栗田くんたちの運命は!?]
[chapter:戦いの後に起きる、長尾くんにとって重要な事とは!?]
[chapter:第30話に続く]