第28話「ハッピーバースデー!栗田くん」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界のさいたま市大上区。

  今回の物語は、3月25日の夜から始まる。

  (いよいよ明日。楽しみだな…)

  太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は、自室のカレンダーを見つめていた。26日の欄には「ぼくの誕生日」と大きく書かれている。

  (どんなプレゼントがもらえるかな?ケーキやごちそうも食べられるし、もう楽しみで眠れないよ!)

  ケモノ界では2017年以降、誰も歳を取らなくなった。栗田くんの9歳祝いも今年で7回目だ。

  (成長したい気持ちも少しはあるけど、当分このままでいいや。ずっと祝ってもらえるからね。

  ああ、早く明日にならないかな…)

  ベッドに入った後もしばらく考えていたが、やがて眠りについた。

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  [chapter:誕生日当日…?]

  差し込む朝日で目覚めた栗田くん。しばらくはベッドの中で軽く動いていたが、突然気がついた。

  (そうだ、今日はぼくの誕生日だ!)

  元気にベッドを出て、朝の支度を済ませ1階へ。

  「お父さん、お母さん、おはよう!」

  しかし、様子がどこかおかしい。

  朝食を摂っていた両親は席を立ち、栗田くんに駆け寄った。

  「ああ、永雄!やっと目覚めたのね!」

  「なかなか目覚めないから、病院に連れていくかどうか考えていた所だったんだ!無事で良かったよ!」

  栗田くんは事情が飲み込めない。

  「な、何があったの!? ちゃんと説明してよ!」

  「実はな、永雄は36時間近く眠ってたんだ。どんなにゆすっても起きないから、心配したよ。」

  「病気にでもなったんじゃないかと心配で…でも良かった!」

  「そうか、目覚めて良かった…」

  彼は安心を覚えたが、直後に表情が変わった。

  「ちょっと待って!そんなに寝てたって事は、ぼくの誕生日は…」

  「永雄が寝てる間に過ぎちゃったわよ。ケーキもお父さんと食べちゃったわ。」

  「そ、そんな!」

  「ほら見て。今日は27日よ。」

  母親はスマートフォンのホーム画面を見せた。確かに日付は27日だ。

  よく見ると、壁の日めくりカレンダーにも「3月27日」と書かれている。

  「まあ9歳の誕生日なんてもう6回も…いや、おととしは不眠症で苦しんでいてパーティーどころではなかったから5回だな。

  とにかく何度も祝ったから、1年ぐらいなくてもいいだろ。きっと来年も来るさ。」

  「でも誕生日は年に1回の楽しみなんだ!おととしだってゴールデンウィークに振り替えでパーティーしたよね!せめておめでとうの一言でも…」

  「もう誕生日は過ぎちゃったから、来年までお預けよ。」

  「嫌だー!なんでぼくはそんな日に限って目覚めなかったんだ!」

  「ほら、そろそろ朝ご飯食べなさい。早くしないとトーストが冷めちゃうわよ。」

  栗田くんは落ち込みながら、トーストをかじり始めた。

  しばらく食べているうちに気がついた。今日は普段と異なり、テレビがついていない。父親も新聞を読んでいない。

  「あれ、テレビは…」

  「昨日壊れちゃったんだ。」

  「じゃあ、新聞は?」

  「今日は休刊日よ。」

  「ありがとう。」

  朝食を済ませ、部屋に戻った栗田くん。

  (ゲームでもして、気を紛らわせよう…あれ?)

  充電器にゲーム機が刺さっていない。

  (確かに昨日、寝る前に充電したのに…)

  部屋中を探すが、ゲーム機は見つからなかった。

  「お父さん!お母さん!ぼくのゲーム知らない?」

  「知らないわよ。もう一度よく探してみたら?」

  「探したけどどこにもないんだ!本当だよ!」

  「まあ、そのうち出てくるだろ。気分転換に散歩でもしてきたらどうだ?駅の方とか。」

  「そうだね。行ってきます。」

  栗田くんは家を出た。

  ドアが閉まった直後、両親は微笑んだ。

  「第一段階、成功だな。」

  「あなたの演技、本当に上手だったわ!」

  「君だって感情がこもってたぞ。」

  スマートフォンの日付設定を直し、日めくりカレンダーに3月26日の紙を洗濯バサミで留め、戸棚から今日の新聞とゲーム機を取り出し、テレビの電源コードを差し込む。

  「永雄、ゲーム隠してごめんね。でもすべてがわかればきっと許してくれるでしょ。」

  「さあ、第二段階だ!」

  2匹はよそ行きの服に着替え、自動車に乗り込んだ。母親はハンドバッグにゲーム機を入れ、父親は物置から取り出したカラフルな包み紙の箱をトランクに詰めた。

  「連絡が来たわ。稲荷山さん、縞野さん、金子さんはみんな到着したって。」

  「永雄は駅の方に行っただろうから、この計画は気づかれないだろうな。」

  父親は自動車を走らせた。

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  [chapter:寂しい栗田くん]

  栗田くんは住宅街を歩いていた。

  (そうだ、駅の方より友達の家に行こう!きっと友達なら「おめでとう」って言ってくれるよね。)

  隣のブロックに建つ稲荷山家へ行き、インターフォンを鳴らすが返事はない。

  (こんな時に限って留守なんて…)

  縞野家と金子家も訪れたが、こちらの2軒も留守だった。予告なしで気軽に訪問できる同級生の家は、この3軒のみだ。

  (仕方ない。やっぱり駅に行こう。)

  住宅街を抜け、大上駅の東口へ。この辺りは店や娯楽施設が並ぶにぎやかな場所だ。

  (でも、何をしよう?お金を持ってないから、町を歩くぐらいしかできないや。)

  駅を通り抜け、西口のペデストリアンデッキへ。こちらはデパートや高層ビルが立ち並んでいる。

  あるビルに付けられた大型ビジョンを眺めながら、考え込んだ。

  (あんなに寝過ごさなければ、今は誕生日プレゼントで楽しんでいたのかな…)

  その時、大型ビジョンで天気予報が始まった。

  「本日午後の予報です。さいたま市の天気は…」

  画面に表示された日付は「3月26日」。

  (えっ、26日?つまり…今日は…)

  栗田くんは周囲のケモノが振り返るほどの大声を上げた。

  「やった!誕生日は過ぎ去っていなかったぞ!」

  彼は大急ぎで家へ走った。

  /////////////////////

  その頃、とある家で…

  「飾りつけ、すべて終わりました!」

  「プレゼントの準備、完了です!」

  「料理もすべて完成しました。後でキッチンから運びます。」

  「準備、すべてよし。では主役が来るまで、歌の練習をもう一度しましょう。

  楽器、用意!皆さん、声を揃えて…」

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  [chapter:両親はどこへ?]

  「誕生日、誕生日!」

  栗田くんが帰宅すると、自動車がどこにも見えない。

  (なんて事だ!お父さんとお母さんが出かけちゃった!)

  インターフォンを押しても返事は聞こえない。鍵を持っていないため、家に入る事もできない。

  (まさか、ぼくをだまして家から追い出し、その隙に2匹で出かけちゃったの!? ひどいよ!最悪の誕生日だ!)

  泣きながら住宅街を歩いていると、うさぎの場丹井 姫子ちゃん(彼のクラスメイト)とすれ違った。

  「あら栗田くん、どうしたの?」

  彼は事情を話した。

  「まあ、それは悲しいわね…取り残されたなんて思わなかったわ。」

  「え、どうして?」

  「さっき栗田くんちの車が走っていくのを見たの。てっきりあれに乗ってると思ったけど…」

  「見たの!? ねえ、どっちへ行った?」

  「あっちよ。」

  「姫子ちゃん、ありがとう!」

  指示された方向を探すうち、雪見家の前に出た。

  ここは3階建ての大豪邸。同級生の雪見カトリーヌ理沙ちゃん(ホッキョクギツネ。日本とフランスのハーフ)が家族や使用獣と暮らしている。

  (ん?あれは…)

  よく見ると、塀の近くに見慣れた自動車が止まっている。

  (うちの車だ!お父さんとお母さんはここにいるのか!)

  栗田くんはインターフォンを押した。

  「こんにちは、栗田 永雄です!ぼくのお父さんとお母さんがここに…」

  「栗田 永雄様、どうぞお入りください。」

  門が自動で開いた。

  庭を横切り、ドアの前へ。執事のグリムズ・スカンダー(イギリス出身の若いスカンク)が出迎えてくれた。

  「ようこそいらっしゃいました。お父様とお母様はこちらです。」

  廊下を通り、大広間の前へ。スカンダーがドアを開けた。

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  [chapter:サプライズ]

  次の瞬間、大きな破裂音が響いた。

  「えっ!?」

  驚いて大広間を見回す栗田くん。壁は風船やモールで飾られ、「Happy Birthday 栗田くん」と書かれたポスターも貼られている。

  ドアの奥には栗田くんの両親、雪見一家(理沙ちゃんと両親)、シマリスの縞野一家(くるみちゃんと両親)、キタキツネの稲荷山一家(紺助くん、妹の万梨阿ちゃん、母親)、白猫の金子一家(真里ちゃん、弟の雄二くん、両親)、専属シェフのラトン・ラブーシュ(フランス出身の太ったアライグマ)、メイドたち(白猫、うさぎ、レッサーパンダ、アライグマ、カワウソ、キタキツネ)、総勢22匹が立っていた。

  全員の手に爆発したクラッカーが握られている。先程の音は22発のクラッカーだった。

  「はい、ミュージックスタート!」

  メイドたちが楽器を持ち、スカンダーが指揮を執り、残りの16匹が歌った。

  ハッピー・バースデー・トゥー・ユー

  ハッピー・バースデー・トゥー・ユー

  ハッピー・バースデー・ディア・栗田くん/永雄

  ハッピー・バースデー・トゥー・ユー!

  「それでは皆様、ご一緒に!」

  スカンダーの合図で、一同は言った。

  「栗田くん/永雄、お誕生日おめでとう!」

  「みんな…ありがとう!誕生日、ちゃんと覚えてたんだね!」

  栗田くんはまた泣いたが、今度は嬉し涙だった。

  両親が駆け寄った。

  「永雄、いろいろ嘘をついて悪かった。全部サプライズパーティーのためだったんだ。

  もちろん誕生日は覚えているし、今日は26日。テレビも壊れていないよ。」

  「ゲームを隠しちゃってごめんなさい。ホーム画面の日付でばれると困るから隠したのよ。

  ここにちゃんとあるから安心して。家に帰ったら好きなだけ遊んでいいわよ。」

  「もういいんだ。こんなサプライズを企画してくれるなんて思わなかったよ。やっぱりお父さんもお母さんも大好きさ。」

  [newpage]

  [chapter:スペシャルランチ]

  「さあ、栗田くんが来たのでパーティーを始めましょう!素敵なランチタイムをお楽しみください!」

  スカンダーの合図で、一同は席に着いた。栗田くんの席は中央に置かれ、椅子も一段と豪華だ。

  「では、私たちは料理の準備を。」

  ラブーシュとメイドはキッチンへ。

  「永雄の好きな物、いっぱい用意してもらったわよ!」

  「栗田くん、楽しんでね!」

  「ああ、楽しみだ…ところでこのサプライズ、いつから考えてたの?」

  「1ヶ月ぐらい前だな。永雄が出かけてる間に練習したり、プレゼントを買ったんだ。」

  「みんなで集まれるのは今日だけだから、バースデーソングはリモート通話で練習したのよ。」

  「いろいろ大変だったが、成功して良かった!」

  「一番大変だった点は、永雄に感づかれないようにする事ね。」

  「これほどの企画を考えてくれて、ありがとう!」

  そこへラブーシュが戻ってきた。

  「お待たせしました、スペシャルランチです!好きなだけお召し上がりください!」

  メイドたちがワゴンで数多くの料理を運び、料理用テーブルに並べる。

  カレーライス、ワニ肉ステーキ、ブイヤベース、テリーヌ、寿司、天ぷら、マカロニグラタン、鶏の唐揚げ…子供が好むメニューばかりだ。

  料理が揃った所で、父親が音頭を取った。

  「それでは皆様、永雄の誕生日を祝って乾杯!」

  グラスを重ねる小気味良い音が、大広間に響いた。

  一同は席を立ち、料理を取りに向かった。

  「よーし、たくさん食べるぞ!もうお腹ペコペコだ!」

  夢中で盛りつけ、皿に料理の山を作った栗田くん。

  参加者全員が着席すると、食事が始まった。

  「いただきまーす!」

  栗田くんは夢中で料理を頬張った。

  「やっぱりラブーシュさんの料理は何度食べても飽きないよ!」

  「ありがとうございます、栗田くん。」

  縞野家、稲荷山家、金子家の保護者は初めてここを訪れた。

  「うん、うまい!さすがフランスのシェフだ!」

  「料理学校を卒業しただけあるわね!」

  「こんなおいしいの初めてよ!」

  5匹とも細身だが、ついつい食が進んでしまう。

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  [chapter:3本のビデオレター]

  1時間後、皿はすべて空になった。

  「あー、お腹いっぱいだ!」

  栗田くんが満腹の幸せに浸っていると、母親が司会者のように話し始めた。

  「さあ、ここでビデオレターの紹介コーナーです!なんと永雄に3本も届いています!」

  「えっ、3本も!? 誰からだろう?」

  皿の回収に来たメイドのうち1匹が、部屋の隅から大型モニターを運んできた。父親がスマートフォンと連携させる。

  「1本目は、埼玉県川獺市のおじいちゃんとおばあちゃんからです!どうぞ!」

  モニターに母方の祖父母が映った。祖父はかなりの肥満体で、祖母はぽっちゃり体型だ。

  「永雄、誕生日おめでとう。」

  「今年も良い思い出が作れるといいわね。」

  「しかし、永雄はいつになったら2桁の年齢になるのかの?」

  「全世界のケモノがまた成長するようになったらよね。いつになるかわからないけど。」

  「まあ、小学生の可愛い永雄にいつまでも会えるのも悪くないな。

  わしらはいつでも待ってるよ。また泊まりに来てくれ。」

  「おいしい物、たくさん用意して待ってるからね!」

  司会が父親に交代。

  「2本目は富山県土井中村のおじいちゃんとおばあちゃんからです。どうぞ!」

  父方の祖父母が映った。こちらは共に細身だ。

  「永雄、誕生日おめでとう。」

  「今年も元気に育つのよ。この野菜みたいにね!」

  祖母は野菜の詰まったバスケットを見せた。この2匹は農業を営んでいる。

  「富山は遠いからあまり行けないと思うが、わしらはいつも永雄の事を考えているよ。ただ1匹の孫じゃからな。」

  「長い休みの時に来れたら来てちょうだい。それじゃ、またね!」

  「あと1本は誰からなの?他に付き合いの多い親戚はいないよね?」

  「3本目はスペシャルゲストからです!どうぞ!」

  「あっ、これは!」

  モニターにはアナグマ、カワウソ、豚、野うさぎの男の子が映った。程度は様々だが、全員が太っている。

  「穴太郎、川助、トントン、ぴょん太じゃないか!」

  去年の夏、栗田くんは父親の実家に泊まった。そこで出会った子供たちだ。

  彼らは遊び好きなわんぱく小僧で、あだ名で呼び合う。栗田くんは3日間、彼らと楽しく過ごした。

  「クリクリ、誕生日おめでとう!」

  「直接は会えないけど、気持ちはこうしてつながってるよ。」

  「おいらたち、いつかクリクリの所に行きたいぜ!」

  「クリクリお兄ちゃんと遊んだ事は、今でもよく覚えてるよ。」

  「俺たちはあれからも毎日元気に遊んでるぜ。それじゃ、またな!」

  「以上でビデオレターの紹介を終わります。永雄、感想をどうぞ。」

  「みんなありがとう!ぼくとっても嬉しいよ!

  おじいちゃんやおばあちゃんはもちろん、穴太郎たちからも来るなんてびっくりだったよ。」

  「あれはおじいちゃんがおまけとして送ってくれたんだ。ビデオレターを撮ったと穴太郎のお父さんに話したら、穴太郎たちを集めて撮ってくれたらしい。」

  「まさかまた会えるなんて、嬉しいサプライズだよ!」

  そこでくるみちゃんが尋ねた。

  「栗田くんはあの子たちとどんな事をしたの?こことは環境が違うから、遊びも違いそうね。」

  「それじゃ、説明しよう。」

  穴太郎たち4匹について手短に話し、遊びの話に移った。

  「ぼくと穴太郎たちは、自然の中でたくさん遊んだ。川遊び、虫取り、相撲などでね。

  穴太郎の家にみんなで泊まってはしゃいだり、ふざけて遊んだ。みんなで食べたアイスもおいしかったよ。

  さっきのビデオではみんな服を着てたけど、夏のトントンはふんどし1枚、ぴょん太は腹掛け1枚だったんだ。」

  女の子たちは驚いた。

  「え、そんな格好で外遊びしてたの!?」

  「腹掛け1枚って、つまりお尻丸出し!? 目のやり場に困りそうだわ。」

  「私たちの常識じゃ信じられませんわ…」

  「ぼくも驚きだったけど、土井中村じゃみんな受け入れてるみたいだったよ。あそこは家が少ないから、みんな顔見知りなんだ。

  田舎は不便なイメージだったけど、素敵な場所だったよ。」

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  [chapter:お楽しみの時間]

  話が一段落した所で、父親が言った。

  「さあ、次はカラオケです。みんな元気に歌いましょう!」

  栗田くんのゲーム機(斑点堂スイッチ)をモニターに接続し、カラオケを起動して2時間チケットを購入。カラオケタイムの始まりだ。

  参加者が多いため歌えるチャンスは1~2回だったが、全員が楽しんだ。主にアニメソングやJポップが歌われたが、理沙ちゃんと父親はシャンソンを披露した。

  「みんな、楽しかったね!」

  「久々に熱唱しちゃったよ。」

  「最初はちょっと恥ずかしかったけど、歌っているうちに気にしなくなってきたわ。」

  「続いてはプレゼントタイムです!皆様、ご用意を!」

  一同は片隅に置かれた戸棚から、カラフルな包みを取り出した。

  「わあ、みんなありがとう!ここで開けていいかな?」

  「もちろんよ。お母さんは中身を全部聞いてるの。永雄はきっと気に入るわ。」

  栗田くんは次々と包みを開けた。

  両親からは新しいゲームソフト。稲荷山くんからはジェット機のプラモデル。真里ちゃんからは漫画を3冊。理沙ちゃんからは高級ブランドの腕時計。

  くるみちゃんからは、小さな包みをもらった。中身はシマリスのしっぽを模したフェルト製のマスコットで、ひもが付いている。

  「くるみちゃん、これ何?」

  「私が作ったお守りよ。あんまりいい物じゃなくてごめんね…」

  「でも気持ちを込めて作ってくれたんだよね。ぼくはそれだけでも十分嬉しいよ。」

  「実はこれ、もう1つあるの。それは私が持ってるわ。」

  「どうして2つも作ったの?」

  「栗田くんのは私のしっぽを、私のは栗田くんのしっぽをイメージしたの。

  私はこのお守りを大切にしているわ。お守りが無事なら、栗田くんも無事って気がするの。」

  「ぼくもそう思う事にするよ。もしこのお守りに何かあれば、すぐに駆けつけるからね!」

  「ありがとう、栗田くん…」

  「それもあるけど、くるみちゃんじゃないと直せない気がするからね。ぼくは裁縫できないから。」

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  [chapter:特大ケーキ]

  「さあ、お腹も落ち着いてきましたからケーキを食べましょう!私の手作りですよ!」

  ラブーシュの合図で、メイドがワゴンと共に入ってきた。

  「うわあ、すごい!あんなケーキ見た事ないよ!」

  結婚式で出されてもおかしくないほど大きい、5段重ねのケーキだ。各段は様々な色のクリームで飾られ、フルーツも豊富に使用されている。

  最上段には栗田くんを模した砂糖菓子が飾られ、「9」型のろうそくが7個囲んでいる。

  「栗田くんが9歳の誕生日を迎えるのは7回目。そこで9のろうそくを7個置きました。当然ですが、999万9999歳の意味ではありません。」

  ラブーシュの冗談に、一同が笑う。

  「アハハ!そんなに長生きしたら、間違いなく世界記録だね!」

  「でもこの現象がずっと続いたら、本当に900万年生きられたりして!」

  「さすがにそれほど長く続いたら、もう子供に飽きちゃうわね。」

  別のメイドが脚立を運んできた。

  「栗田くん、この上からろうそくの火を吹き消してね。」

  「はい、了解しました!

  みんな、しっかり見ててね!お父さん、動画撮って!」

  「もちろんだよ、永雄。」

  脚立の上まで登れば、ケーキの最上段は目の前。4回ほど息を吹きかけ、すべての火を消した。

  「永雄、よくやったな!」

  「大成功!みんな、見てくれてありがとう!」

  栗田くんは脚立の上で、ポーズを決めた。

  [newpage]

  その時だった。

  「あっ、うわっ、ああっ…」

  不安定な場所でポーズを決めたため、バランスを崩してしまった。太った体では素早く行動できず、そのまま重心に身を任せてしまう。

  「ああーっ!」

  「く、栗田くん!」

  彼は脚立から落ち、上半身からケーキに刺さった。

  「大丈夫?」

  「けがはないかしら…」

  栗田くんは起き上がった。上半身はクリームやフルーツまみれだ。

  「ぼくは無事だよ。でもケーキが…」

  ケーキの半分は崩れ落ち、無残な姿となっていた。

  「みんな、ケーキを台無しにしちゃってごめんね…あんなに豪華だったのに…」

  「いや、永雄が無事ならそれでいいんだ。」

  「でもどうやって食べようかしら…」

  「崩れ落ちた半分は栗田くんが食べて、残りの半分は皆さんで分けましょう。」

  ラブーシュの提案に、全員が賛成した。

  「んー、おいしい!」

  「さすがフランスのシェフですね!」

  「これほど甘いケーキは初めてだよ!」

  ケーキの味に感動する一同。ラブーシュも笑顔を浮かべている。

  栗田くんは崩れ落ちたケーキを頬張り、クリームまみれの腕をなめていた。横には砂糖菓子の栗田くんが置かれている。

  「あら栗田くん、砂糖菓子は無事だったのね。」

  「そうだよ。これは最後に食べるんだ。

  もしかすると、お守りのおかげかな?ありがとう!」

  「きっとそうね。早速お守りが役立ったわ。

  そうだ、私のケーキを少しあげる。栗田くんも普通に食べたかったと思うから…」

  「くるみちゃん、いろいろありがとう!」

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  [chapter:夕暮れの帰宅]

  ケーキがすべて食べられた所で、パーティーもそろそろお開きだ。

  後片付けが済むと、参加者は庭へ出た。空は夕焼けに染まっている。

  「稲荷山くん、あのプラモデルが完成したら見せるよ。」

  「うまく作れるといいね。」

  「真里ちゃん、ぼくの持ってない漫画をありがとう。よく持ってないってわかったね。」

  「栗田くんのお母さんが、本棚の写真を送ってくれたのよ。それを元に選んだの。」

  「くるみちゃん、お守りありがとう。これからずっと大切にするよ。」

  「気に入ってもらえて嬉しいわ。何かの役に立つといいわね。」

  住宅街に出ると、4組の家族はそれぞれの家へ向かった。

  「永雄は帰ったらすぐお風呂に入らないとね。クリームまみれになっちゃったから。」

  「それが終わったら、早速あのゲームを楽しんでくれ。」

  「もちろん!」

  栗田くんの幸せに満ちた顔が、夕日に照らされていた。

  [newpage]

  [chapter:Extra Episode]

  その頃、別の世界で…

  「彼は今、幸せの絶頂ね。」

  「その幸せが今日限りとも知らない。無邪気なもんだねえ。」

  「奴に逃げられて2年半。それ相応の苦痛をたっぷり与えてやるぞ。」

  「彼にこれ以上ないほどの恐怖を与えるまで、あと一晩。最後まで手抜かりなくやりましょう。」

  雪見家よりも大きな屋敷。その一室で、3匹と1人が話し合っていた。

  計4名が見つめるモニターには、栗田くんが映っている。夕日に照らされる幸せに満ちた顔が…

  [chapter:おしまい]