第17話「元気になって!栗田くん」

  [chapter:プロローグ]

  ケモノ小学校埼玉校に通う太ったシマリス、栗田 永雄くん(4年生)。

  彼はのんびり屋で食いしん坊。いつでも明るく、楽しく暮らしている。

  しかし、ここ最近は元気がなくなっていた。

  栗田くんが気がつくと、板の上に寝ていた。その横には巨大な刺身が並んでいる。

  (やった!これだけあればたくさん食べられるぞ!)

  その時、2本の巨大な棒が現れて刺身をつかみ、どこかへ運んでいった。

  (あれは何だろう?)

  その先を見ると、刺身は巨大な上に太っているホッキョクグマの口に運ばれていく。

  「ああ、やっぱり刺身はうまいな!」

  それはケモノ小学校埼玉校の保良 部亜先生だった。彼は6年1組の担任と相撲部の顧問を兼ねている。

  栗田くんは小さくなった状態で刺身の横に並んでおり、巨大な棒は箸だった。

  (このままじゃ食べられちゃう!)

  逃げ出そうとしたが、次の瞬間箸に捕まった。

  全身に醤油とわさびを付けられたため、目や鼻がヒリヒリしてたまらない。必死で暴れたが箸からは逃れられなかった。

  「おや、ずいぶんと活きのいい刺身だ。」

  保良先生は栗田くんを口に放り込んだ。

  「助けて!ここから出してよ!」

  どれだけ暴れても、保良先生は無視している。

  「こんなに新鮮な刺身は初めてだ!」

  そう言いながらなめ回すため、栗田くんの体は唾液で濡れた。

  「よし、踊り食いしよう。」

  鋭い歯が迫ってきた。

  「助けてー!」

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  叫んだ時、目が覚めた。今の出来事はすべて夢だった。

  栗田くんはベッドに寝ていたが、その姿は以前とかけ離れている。

  机に飾ってある家族写真。そこに写る彼は丸々と太っている。

  ふっくらと丸い頬に二重顎、肉付きの良い手足。お腹は服に収まらないほど大きく、ズボンのボタンは外れ、ファスナーも開きかけている。

  一方、ベッド上の彼は病的なまでに痩せ細っていた。

  うつろな目にげっそりとこけた頬、骨ばった手足。

  胴体はパジャマで隠れているが、肋骨が浮いて見えるほど痩せていた。

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  [chapter:弱る栗田くん]

  栗田くんに何が起きたか…それは3月のある夜に見た悪夢のせい。

  あまりにも恐ろしく混沌とした内容だったため、彼は寝る事が怖くなり、不眠症になった。

  それが何日も続いた結果、次第に体調が悪くなり、食欲も落ちて痩せてきた。

  それから両親の勧めで病院に行き、睡眠改善薬を処方してもらった。

  しかしその薬には悪夢を見やすくなる副作用があったため、やはり毎晩悪夢に悩まされた。

  その結果体調はますます悪化し、痩せ衰えてしまった。

  4月になり、1学期が始まった。

  ケモノ界では2017年より誰も成長しなくなったため、クラス替えは起こらない。栗田くんは今年で5回目の4年生だ。

  彼はその時点でかなり衰弱していたが、無理して始業式に出た。クラスメイトは彼の変わり果てた姿にショックを受けた。

  その上、式の途中で倒れてしまい、1学期初日から早退する羽目になった。

  その翌日からは学校にも行かなくなり、ついにはベッドから出る気力すら落ちてしまった。

  「永雄、おはよう。気分はどう?」

  部屋に入ってきた母親が不安そうに尋ねる。

  「今日もあまり…良くないんだ…」

  栗田くんは弱々しく答えた。

  「どんな夢を見たの?」

  「巨大な保良先生が…ぼくを食べようとする夢…」

  「まあ、それは怖かったわね…トイレに行きたい?」

  「お願い、そうして…」

  母親は栗田くんを抱き起こし、トイレに案内した。

  「早く元気になりたいけど…寝るのが怖いんだ…ずっと悪夢の事ばかり考えちゃうんだ…」

  「それは大変ね…お母さんも永雄の元気な顔がまた見たいのよ。」

  「その願い、いつか叶えるよ…いつかね…」

  ベッドに戻ってしばらくすると、母親が朝食を運んできた。

  「永雄、つらいと思うけど頑張って食べるのよ。」

  「うん、わかった…」

  栗田くんはおぼつかない手つきでオレンジジュースとパンを口に運んだが、パンは半分ほど残した。

  その数分後、インターフォンが鳴った。

  「おはようございます、栗田さん。」

  玄関前に立っている子は、太ったキタキツネの稲荷山 紺助くん。栗田くんの親友だ。

  「栗田くんは今日も欠席ですか?」

  「そうなのよ。いつもありがとう。今日もお願いね。」

  母親は欠席する旨を書いた連絡帳を稲荷山くんに手渡した。

  「わかりました、栗田さん。

  ああ、栗田くんはいつ元気になるのかな…」

  稲荷山くんは心配そうな表情で、学校へ向かった。

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  [chapter:栗田くんのいない教室]

  授業開始前の4年1組では、児童たちが栗田くんを心配していた。

  「早く栗田くんの元気な顔が見たいわ…」

  白猫の金子 真里ちゃんが言う。

  「まさか栗田くんがああなるなんて…」

  太ったカワウソの河合 旺太くんも言った。

  「いつ帰ってくるんだろうね…」

  太ったレッサーパンダの安藤 列太くんも不安そうだ。

  「栗田の事だから、また太って帰ってくるさ!そしていつものように、給食でおかわりしまくるだろ!」

  ぽっちゃりしたヒョウの兵藤 春斗くんは周囲を元気づけようとするが、兵藤 礼央くん(双子の兄)が悲しそうに言った。

  「戻ってくるわけないよ。始業式の日にあんなに痩せ衰えてたんだもん。もっと痩せ衰えて、そしてこの学校の児童が1匹減る事に…」

  「嫌よ!そんなの絶対に嫌!」

  「栗田くんがいなくなったら悲しいよ!」

  「お願い栗田くん、帰ってきて…」

  ハツカネズミの森口 美樹先生が来て、朝の会が始まった。

  「皆さん、おはようございます。」

  「おはようございます。」

  「さて、栗田くんが学校に来なくなってから今日で2週間が経ちました。今日の4時間目には、栗田くんに励ましの手紙を書きましょう。」

  この提案には、全員が賛成した。

  その話を教室の外から聞いている子がいた。

  (これはいい事聞いたぞ!いいアイデアがひらめいた!)

  彼はテンの柴田 貂助くん。4年2組の児童で、周囲を困らせるようないたずらばかりする問題児だ。

  これまで何度もいたずらをして、その度に叱られているが、それでも全く懲りていない。

  今日も教室を抜け出して、早速いたずらを思いついたようだ。

  (でもその前に、他の所でもいたずらしてやるんだ!)

  [newpage]

  [chapter:黒板へのいたずら]

  2時間目、柴田くんは家庭科室に向かった。今日は6年2組が調理実習をしている。

  黒ヒョウの萩原 正男先生が、料理の説明を始めた。

  「みんな、今日は甘い煮物を作ろう。主な具材はこの3つだ。」

  萩原先生は黒板に材料を書いた。

  ・サツマイモ

  ・カボチャ

  ・小豆

  「んー、おいしそう!」

  太った狼の大木 上くんが嬉しそうに言う。

  「さあ、まずは手を洗って、顔に毛固めスプレーをかけよう。」

  こうして、調理実習が始まった。

  サツマイモやカボチャを切る段階で、萩原先生は家庭科室を出た。

  「ちょっと用事があるんだ。みんなは気にせず続けてくれ。」

  「はい、先生。」

  彼は職員室へ向かった。

  その姿が見えなくなった時、家庭科室の前にいたコオロギが柴田くんに変わった。

  (よし、いなくなったぞ。いたずら始めるか!)

  テンは狐や狸などと同様、化ける事が得意な種族だ。

  彼は萩原先生に化けて、家庭科室に入った。

  「皆さん、用事が終わりました。」

  「お帰りなさい。」

  「さて、これを見てください。」

  柴田くんは、黒板にいろいろ書き足した。

  「また用事があるので、後でお会いしましょう。」

  書き終えると、家庭科室を急いで出た。それからまたコオロギになり、本物が戻ってくる時を待った。

  用事を終えて戻ってきた萩原先生は、廊下を歩きながら気がついた。家庭科室が妙に騒がしい。

  (なんだ、あの声は?みんな笑っているようだが…)

  中に入った彼は、一瞬何が起こったかわからなかった。先程まで真面目に調理していた児童のほとんどが、呼吸困難になるほど笑っている。

  「なんだよあれ!」

  「いつもは厳しい先生があんな事をするなんて!」

  萩原先生は一喝した。

  「お前たち、授業中だぞ!何がそんなにおかしいんだ!」

  するとミンクの皇斗 民子ちゃんが笑いながら言った。

  「だって、アハハハハ!先生が自分で、ウフフフフ!黒板に書いたじゃないですか!ハハッ!」

  「黒板?」

  萩原先生は黒板を見て、あっけに取られた。そこにはこう書かれていた。

  ・サツマイモを食って屁をこいた萩原

  ・カボチャ頭の萩原

  ・小豆みたいにちっぽけな脳みその萩原

  萩原先生は怒鳴り声を上げた。

  「おい!6年生にもなってこんな落書きをしたのは誰だ!」

  民子ちゃんが言う。

  「先生が書き足したじゃないですか!3分ほど前に!」

  「でたらめを言うな!先生はそんな事しないぞ!6年生にもなって責任を先生に押しつけるとは、なんという振る舞いだ!」

  コオロギに化けた柴田くんは、それを聞いて笑っている。

  (予想通りの大騒ぎだ!もっといたずらをしてみんなを困らせてやれ!)

  [newpage]

  次のいたずらの現場は、3時間目の1年1組。科目は道徳だった。

  丸々と太ったサイの斎藤 梨乃先生が話している。彼女は今年度より開始された女子相撲部の顧問でもある。

  「はい、今日のテーマは…」

  彼女は黒板に「よろこび」と書いた。

  「喜びです。みんなはどんな時に喜びを感じますか?」

  太った白猫の金子 雄二くん(真里ちゃんの弟)が答えた。

  「お饅頭を食べている時!」

  次はぽっちゃりした狼の男の子。

  「キャラメルを食べている時!」

  その次は太ったビーバーの女の子。

  「チョコレートを食べている時!」

  「みんなありがとう。ちなみに先生は、お菓子を食べている時よ。」

  黒板にはこう書かれた。

  よろこび

  まんじゅう

  キャラメル

  チョコレート

  おかし

  その時、教室の窓から鳩が入ってきて斎藤先生の教科書をつかみ、窓から放り投げた。

  「あっ!今すぐ取ってくるから、みんな待っててね。」

  彼女が教室を出た隙に、鳩は校舎反対側の窓から廊下に入り、柴田くんに戻った。

  (さあ、こっちでもいたずらだ!)

  彼は斎藤先生に化けて教室に入り、黒板に文字を書き足して教室を出た。

  5分後、斎藤先生が戻ってきた。

  「ただいま。どうしてみんな笑っているのかしら?

  …え、ちょっと何よこれ!」

  黒板にはこう書かれていた。

  よろこびが1つもない斎藤

  まんじゅうの食べ過ぎで太った斎藤

  キャラメルの食べ過ぎで虫歯になった斎藤

  チョコレートの食べ過ぎで鼻血を出した斎藤

  おかしな顔の斎藤

  「まあ、こんなひどい落書きをしたのは誰?今すぐ名乗り出なさい!」

  「この落書きを、アハハハハ!したのは、フフッ!先生じゃないですか!アハハ!」

  「先生はそんな事をしていません!責任を先生に押しつけるなんて許しませんよ!

  いいですか?誰がやったかわかるまで授業は中断します!」

  またしても教室は大騒ぎになった。柴田くんはおかしくてたまらない。

  (ああおかしい!誰がやったかなんてわかるわけないのに!

  さあ、次は4年1組。今日のメインイベントだ!)

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  [chapter:手紙を書こう]

  4時間目、4年1組では森口先生が話していた。

  「皆さん、栗田くんに励ましの手紙を書きましょう。」

  24頭の児童に紙が配られた。

  「栗田くんを元気づける言葉や絵を、思い思いに描いてくださいね。」

  24頭が手紙を描いている間、コオロギに化けた柴田くんが棚の上から見つめていた。

  (さて、いついたずらをしようかな…)

  しかし森口先生は黒板に何も書いていない。

  (残念だけど、いたずらはやめようかな…いや、やり方を変えてみよう!)

  柴田くんは4年2組に戻り、4時間目が終わるまでコオロギのまま待機していた。

  給食の時間になると、柴田くんはテンに戻った。

  「柴田!さっきまでどこにいたんだ!」

  担任の小山 裕先生(柴犬)に叱られても、とぼけている。

  「どこにいようとぼくの勝手でしょ?ぼくは好きな事をして過ごすんだ。」

  「本当にもう、お前って奴は!どうせまたいたずらしてたんだろう!昼休みに何があったか先生たちに聞いてみるからな。」

  給食と掃除が終わり、昼休みが始まった。

  小山先生は職員室で先生たちと話し、萩原先生と斎藤先生の話を聞いて柴田くんのいたずらと確信した。

  「そんないたずらをしていたとは…皆さん、後でうんと叱ってください。」

  「はい、そのつもりです。」

  「何度叱られても懲りないなんて、本当に困った子ですよね…」

  「それにすばしっこいし、どんな姿にでも化けられるのですから捕まえるのも大変ですよ。」

  「今は何をしているのか…」

  その時、職員室の入り口に真里ちゃんが来て言った。

  「柴田くんは4年2組にいます!叱るなら今がチャンスですよ!先生たち全員で向かった方が捕まえられると思います!」

  「そうなのか。ありがとう、金子さん。」

  すべての教師が4年2組に直行した。

  [newpage]

  [chapter:手紙でいたずら]

  職員室が空になると、真里ちゃんはニヤリと笑った。

  (うまくいった!ここにいるのに誰も気がつかないなんてね。)

  実はこれも柴田くんの化けた姿だった。

  元の姿に戻ると、森口先生の机に行ってカバンの中を見る。そこには4年1組の児童たちによる24枚の手紙を入れた、大型の封筒が入っていた。

  (よし、これで…)

  手紙をゴミ箱に捨てると、森口先生の机から無地の紙24枚と筆記用具、児童の名簿を持ち出した。

  (これで4年1組のみんなの名前がわかる!)

  それから鳩に化けて窓から飛び上がり、屋上に上がった。

  (ここは立ち入り禁止だから、誰かに見つかる心配はないな。)

  元の姿に戻ると、鉛筆を握った。

  その頃、職員室に教師たちが戻ってきた。

  「柴田くん、いませんでしたね。」

  「金子さんが嘘を言うとは思えないし、また逃げてしまったんじゃないでしょうか?」

  「あまりひどい事をしていなければいいが…」

  話しているうちに5時間目の開始時刻が来たため、一同はそれぞれの教室に向かった。

  6時間目が終わった直後、柴田くんは自分で書いた24枚の手紙を封筒に入れ、筆記用具や名簿を元の場所に戻して4年2組の教室に戻った。

  「お前のいたずらの話は先生たちから聞いたぞ!後でたっぷり叱るからな!」

  案の定、小山先生の怒鳴り声に迎えられた。

  [newpage]

  帰りの会が終わった4年1組では、森口先生が稲荷山くんに封筒を渡した。

  「稲荷山くん、この封筒を栗田くんの家に届けてね。」

  「わかりました、先生。必ず届けます。」

  稲荷山くんは中身がすり替えられているとも知らず、封筒を持って教室を出た。

  廊下を歩いていると、シマリスの女の子が声をかけた。4年2組の縞野 くるみちゃんだ。

  「稲荷山くん、昼休みに話を聞いたけど、その中身は栗田くんへの手紙?」

  「そうだよ、くるみちゃん。」

  「私も1枚書いたの。これも入れていい?」

  「もちろんだよ。」

  「ありがとう、稲荷山くん。この手紙で栗田くんに元気を取り戻して欲しいわ。」

  柴田くんは放課後、小山先生と萩原先生、斎藤先生にひどく叱られた。

  「授業を抜け出していたずらするとは何事だ!」

  「よくも私の悪口を黒板に書いたな!」

  「私の悪口も書いて、みんなの笑いものにするなんて!本当に許せないわ!」

  「ごめんなさい!もうぼくはいい子になります!いたずらなんか二度としません!」

  柴田くんは謝罪するが、教師たちは信じない。

  「お前の言葉はもう信頼できないぞ!」

  「謝るのは口先だけで、しばらくすればまたいたずらをするんだからな。」

  「ほんとにもう!どんな教育を受けたのかしらね!」

  柴田くんは謝りながらも、内心ではほくそ笑んでいた。

  (いたずらをやめるつもりはないんだけどね。この後、栗田くんの家は大騒ぎになるぞ!)

  [newpage]

  [chapter:すり替えられた手紙]

  稲荷山くんは封筒を栗田家に届けた。

  「稲荷山くん、いつもありがとう。」

  封筒を受け取った母親は、栗田くんの部屋に入った。

  栗田くんは寝ていたが、また悪夢にうなされているようだった。

  「永雄、起きて!」

  「ん…ああ、お母さん。また悪夢を見ていたんだ…

  今度は毒蛾の大群に襲われる夢さ…毒の粉が全身にくっついて、目がつぶれ、口は回らなくなり、体がしびれて…」

  「それは怖かったわね…でももう大丈夫よ。クラスのみんなから手紙が来たの。

  この封筒の中よ。開けられる?」

  「なんとかね…」

  「良かったわ。」

  母親は部屋を出た。

  封筒には「栗田くんへ 4年1組のみんなより」と書かれている。

  「みんな、ありがとう…」

  痩せ細った栗田くんは久々に笑みを浮かべた。

  「どんな手紙かな…」

  その頃、教師たちは職員室の掃除をしていた。その途中で萩原先生が言った。

  「森口先生、ちょっとこれを見てください。」

  「どうしたんですか?」

  「ゴミ箱に捨てられていたんですが、これって4年1組のみんなが書いたという手紙ですよね?」

  「え、そんなはずは…間違いありません!

  じゃあ、あの封筒の中身は!? 胸騒ぎがするわ。」

  森口先生は急いで栗田家に電話をかけた。

  「4年1組担任の森口 美樹です。」

  母親が電話に出た。

  「はい、栗田です。いつもお世話になっております。今日はお手紙をありが…」

  「その封筒は開けないでください!中身が別の物とすり替えられているようです!」

  「え、もう永雄に渡してしまいましたよ!もう中身を見てしまったはず…」

  その時、2階から栗田くんの絶叫が聞こえた。

  「すみません、永雄が大変なので行ってきます!それでは失礼します!」

  母親は慌てて電話を切り、急いで栗田くんの部屋に向かった。

  [newpage]

  [chapter:いたずらの結果]

  「永雄!どうしたの…ああっ!」

  栗田くんはベッドに倒れていた。

  「大丈夫!? 生きてる?」

  確認すると鼓動と脈があり、呼吸も正常。ただ気絶しているだけだった。

  (ひとまず安心したけど、何があったのかしら…)

  母親は床に散乱した手紙を見て、驚きと怒りの混ざった声を上げた。

  「何よ、この手紙!」

  24枚の手紙には、見るに堪えない悪口や暴言が書かれていた。

  「さようなら、栗田くん。棺桶の中で永遠におやすみなさい。稲荷山 紺助」

  「栗田くんなんか大嫌い!もう二度と会いたくないわ。金子 真里」

  「食べるしか能のないデブに用はない。さっさと退学しろ!安藤 列太」

  「そのまま飢え死にして、地獄に落ちろ!それがお前にはお似合いだ。河合 旺太」

  「お葬式で会えるのが楽しみです。あの世で幸せに暮らしてね。兵藤 礼央」

  「栗田がいなくなればお前の家の食費が減って、親孝行になるよな!兵藤 春斗」

  絵が描かれている手紙も数枚あるが、それもひどい物ばかりだった。

  栗田くんの遺影、ナイフが刺さった栗田くん、鍋で煮込まれる栗田くん…

  「まあ、ひどい!どうしてみんなこんな事を書いたのかしら!うちの永雄に何か恨みでもあるの!?」

  ところが中に1枚、まともな手紙があった。

  「栗田くんへ

  私はまた栗田くんに会える事を願っているわ。

  林間学校の時に迷子の私を助けてくれたから、今度は私が助ける番。この手紙で元気になってね。

  4年1組のみんなが心を込めて手紙を書いたと聞いたから、隣のクラスの私も思いを伝えたくて書いたの。

  栗田くん、1日も早く元気になって、丸々と太って帰ってきてね。

  4年2組の縞野 くるみより」

  (隣のクラスなのにお手紙ありがとう、くるみちゃん。

  でもこれは大変だわ。今すぐ電話しないと…)

  母親は森口先生に電話をかけ、事情を説明した。

  「そうだったんですね。きっと4年2組の柴田くんの仕業です。」

  「柴田くん…栗田くんから何度か話を聞いています。ひどいいたずらばかりする子だとか…

  そういえば、あの手紙はどれも同じような筆跡だった。間違いないですね。また改めて叱ってください。」

  「はい、もちろんそうします。それから本当の手紙はこちらにありますので、また明日改めて届けさせます。」

  「安心しました。ありがとうございます。」

  [newpage]

  [chapter:栗田くん、元気を取り戻す]

  母親は栗田くんを起こし、事情を説明した。

  「そうだったんだ…良かった…」

  「それからこれを見て。くるみちゃんからの手紙よ。」

  彼は手紙を読み、安心して涙を浮かべた。

  「くるみちゃん、ありがとう…ぼく、なんだか元気が出てきたよ…」

  「良かった、永雄が元気を取り戻して…きっと明日はもっと元気になるわよ。」

  少し元気を取り戻した彼は久々に自力で起き上がり、歩こうとしたが転んでしまった。それでも大きな一歩だ。

  夕食もそこそこの量を食べたため、両親は喜んだ。

  「永雄、元気が出てきたわね。」

  「この調子で頑張れよ!」

  「お父さん、お母さん、ありがとう。元気になってみせるよ…」

  彼は弱々しく笑った。

  その夜は、手紙の事を考えながらベッドに入った。

  (くるみちゃんの手紙、とても嬉しかったな。隣のクラスなのにわざわざ書いてくれるなんて、ぼくの事が好きなんだね…

  でも柴田くんのいたずらはひどすぎるよ。あの手紙は本当に恐ろしかった…

  …ああ、だめだ!また怖い事を考えちゃった!)

  柴田くんによる手紙の文面が頭から離れない。恐ろしい想像の中、彼は眠りに落ちた。

  [newpage]

  [chapter:悪夢、再び]

  気がつくと、栗田くんは宙に浮かんでいた。

  (ここはどこだろう?なんでぼくは浮かんでるんだ…)

  下を見ると、そこはどこかの葬儀場だった。喪服を着たケモノたちが集まり、棺の中に花束や手紙を入れている。

  (いったい誰のお葬式だろう…ええっ!?)

  そこにいるケモノは見知った顔ばかりだった。

  栗田くんの両親と祖父母、くるみちゃん、稲荷山くん、真里ちゃん、森口先生、保良先生、相撲部の部員たち…全員が悲しい表情を浮かべ、涙を流している。

  棺の中には、痩せ細った栗田くんが入っていた。まるで剥製のようだ。

  「ぼくは死んじゃったの!? ねえ、ぼくはここにいるよ!」

  声を張り上げるが、誰にも聞こえない。

  葬式は続き、栗田くんは火葬されて骨になってしまった。それらは箸で拾われ、骨壺に収められていく。

  「嫌だ!嫌だ!こんなの嫌だよー!」

  その叫び声で、栗田くんは目覚めた。

  「ああ、夢で良かった…あの手紙のせいだ…」

  しばらく待っていると、母親が起こしに来た。

  「ぼくはもう起きてるよ…」

  「おはよう、永雄。今日はよく眠れた?」

  「眠れたけど、また悪夢を見たんだ。自分のお葬式の夢さ…」

  「まあ、それは怖かったわね…」

  「うん、それに寂しかったよ…」

  「今日こそみんなからの手紙が届くわよ。だから安心してね。」

  「そうだったね。頑張るよ…」

  [newpage]

  [chapter:柴田くん、いたずらがばれる]

  4年生の教室では、朝の会で教師たちが柴田くんのいたずらについて伝えた。

  「そんな事があったの?」

  「柴田の奴は最低だな!」

  「手紙が残っていただけ良かったけど、栗田くんがかわいそう!」

  「私が手紙を入れなかったら、どうなっていたかしら…」

  両クラスの児童は様々な事を言ったが、柴田くんを擁護する子はいなかった。

  また、当の柴田くんは困り顔だった。

  (ああ、ほんの軽い気持ちのいたずらだったのに、こんな事になるなんて…)

  放課後。柴田くんは森口先生、小山先生、萩原先生、斎藤先生に30分も説教をされた。

  「こんないたずらは言語道断だわ!手紙をすり替えるなんて!」

  「そうだ!縞野さんが手紙を入れなかったら、栗田くんは絶望して死んだかもしれないんだぞ!」

  「柴田!お前はこの学校が始まって以来の最悪な児童だ!」

  「本当に許せないわ。もうあんたの言う事は信じられない!」

  柴田くんは顔を涙と鼻水で濡らし、何度も必死に謝った。

  「本当にごめんなさい!もうぼくは反省しました!いたずらなんかもう絶対しません!心を入れ替えていい子になります!」

  柴田くんは本気だった。しかし今までの事もあるため、その言葉を信じる者はいなかった。

  [newpage]

  [chapter:本当の手紙]

  一方、栗田家には稲荷山くんが手紙を届けに来た。

  「今度こそ本物の手紙です。確認したので間違いありません。」

  「稲荷山くん、ありがとう。早速永雄に見せるわね。」

  栗田くんが封筒を開けると、24頭のクラスメイトによる優しく暖かい手紙が出てきた。

  「栗田くん、早く元気になってね。また一緒に相撲を取ったり、給食で何杯もおかわりしようね。

  稲荷山 紺助」

  「栗田くんがいないと寂しいです。また元気な顔が見られることを祈っています。

  金子 真里」

  「また栗田くんに会いたいな。元気になって戻ってきてね。

  安藤 列太」

  どの手紙にも、優しいメッセージと栗田くんの似顔絵が描かれていた。

  その手紙を読むうち、栗田くんには笑顔が戻ってきた。

  「みんな、本当にありがとう…ぼくとっても嬉しいよ!

  それに、昨日よりも元気が出てきたよ!」

  栗田くんは自力でベッドから起き上がり、部屋の中を歩いた。

  どことなく不安定な歩き方だったが、昨日よりはしっかりとしている。母親は喜び、嬉し涙を流した。

  「良かった、永雄に元気が戻って…」

  「お母さん、今日は夕食もたっぷり食べられそうだよ。」

  「ああ、本当に嬉しいわ…」

  栗田くんと母親は抱き合った。

  「永雄、ずいぶんと骨ばった体になったわね…でも毎日たくさん食べれば元に戻れるわよ。」

  「うん、ぼく頑張って食べるよ。それに弱い心も直さないとね。」

  栗田家は希望にあふれていた。

  [newpage]

  [chapter:2家族の夜]

  その夜、柴田家では…

  「貂助!あんたはどうしてそんなにいたずらばっかりするのよ!」

  「そうだ!そんな子に育てた記憶はない!」

  柴田くんが両親から厳しく叱られていた。

  「ぼくはもういたずらを絶対にしません!どうか信じてください!これからは本当に優しい子になります!」

  柴田くんは号泣しながら言い続けたが、両親は耳を傾けない。

  「そんな嘘はもう聞き飽きたわ!たまには違う嘘をついたらどうなの?」

  「お前は嘘しか言えないようだな!さっさと地獄に落ちろ!」

  「私はどうしてこんな子を産んでしまったのかしら?ああ、もっと可愛い子供が欲しいわ!欲しい欲しい!」

  「こんな事なら、さっさと毛皮を剥いで売れば良かったよ!」

  両親は怒りが抑えられず、実の息子に対する言い方とは思えないほど柴田くんを罵倒し続けた。

  柴田くんは目に涙を浮かべた。

  「そうか。もうぼくは必要とされてないんだね…それならぼくの毛皮を剥いでいいよ。

  ぼくの言葉は嘘じゃない。本当に反省したんだ。でもお父さんとお母さんは金持ちになりたいよね…

  だからぼくは今までの償いとして、自分の毛皮を差し出すよ。さあ、受け取って!」

  その反応を見て、両親は驚いた。

  「貂助、それは本当かい?」

  「また嘘じゃないでしょうね…」

  柴田くんは冷静に答えようとしたが、途中から号泣に変わった。

  「ぼくは…もう…生まれ変わったんだ!これからは優しい子になるよ!

  今まで迷惑ばっかりかけて本当にごめんなさい!ぼくはもういたずらっ子を卒業する事を決意しました!」

  両親もその気持ちが真実と確信し、涙を浮かべた。

  「ああ、貂助!本当に反省したか!」

  「とっても嬉しいわ!貂助が普通の子になる日が来るなんて!

  貂助、さっきはひどい事言ってごめんなさい…お母さんは言い過ぎたわ…」

  「お父さんも同じだよ。やっぱりお金より息子の方が大切だ。お金は世の中にたくさんあるけど、貂助は世界に1匹しかいないからな…」

  柴田一家は泣きながら抱擁を続けた。この日は柴田家にとって記念すべき日となった。

  一方、栗田家では栗田くんが夕食を元気に食べていた。

  「うーん、おいしい!久しぶりのご飯はおいしいね!お母さん、おかわりお願い!」

  「はい、どうぞ!」

  「ありがとう!それじゃいただきまーす!」

  元気な栗田くんを見て、両親は喜んでいる。

  「永雄、完全に元気になったみたいだな。」

  「体は痩せてるけど、この食欲があればすぐに元に戻りそうね。」

  それから風呂にも久々に入り、悪夢も見ずにぐっすりと眠った。

  両親はリハビリとして栗田くんを散歩や買い物、様々なレストランに毎日連れていった。

  日に日に彼は元気を取り戻し、体重も順調に増加していった。

  [newpage]

  [chapter:帰ってきた栗田くん]

  数日後…

  「みんな、おはよう!」

  「おはよう栗田くん。元気になったね!」

  栗田くんは約3週間ぶりに登校した。クラスメイトが挨拶を返す。

  「でも前より細いね。お腹が服で隠れてるしズボンのボタンも留まってる。」

  稲荷山くんが言った。

  「ぼくと同じくらいだね。」

  礼央くんも自分のお腹を触りながら言う。

  「まだぽっちゃり程度かな。もっと食べれば元の太った体に戻るよ。」

  栗田くんは笑って、お腹を叩いた。

  「でもあたいはもっと休んでて欲しかったわ。だって給食のおかわりじゃんけんができなくなるもん!それにあたいは1回しか勝っていないのよ!」

  鼬川 卯井是瑠ちゃん(肥満体のイタチ)がつまらなそうに言った。

  「ちょっと、それはひどいよ!」

  「でもね、本当はあたいも栗田がいないとなんか寂しかったわ。」

  「そうなんだ。良かった…

  そういえば、柴田くんはあれからどうなったの?」

  真里ちゃんが答えた。

  「ここ数日は欠席してるの。謝罪の練習をしてるのかしらね。」

  「そうか。もういたずらしない優しい子になって戻ってきて欲しいな。」

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  [chapter:新しい友達]

  それから3日後の朝。

  栗田くんが教室に向かうと、ドアの前に柴田くんが立っていた。

  「あ、柴田くん、復帰したんだね。」

  すると彼は謝罪の言葉を口にした。

  「栗田くん、君に言う事があるんだ。ぼくは君にとても残酷ないたずらをしてしまい、ひどく叱られた。

  だからぼくはもう心を入れ替えて、優しい子になったんだ。今まで本当にごめんなさい!」

  「ありがとう。素直に謝るなんて、柴田くんもすっかり変わったね。なんだか前とは別獣みたいだよ。」

  「そう、ぼくは生まれ変わったんだ。もちろん例えだけどね。」

  「わかってるよ。でも改心して良かった。これでもういたずらされる心配はなくなったよ。」

  その日、柴田くんは休み時間を使って、迷惑をかけた先生や児童たちに謝った。

  「偉いぞ、柴田。自分から謝るなんて成長したじゃないか。」

  「素直に謝ってくれて嬉しいわ。もうすっかり改心したようね。」

  皆が彼を見直したようだ。

  下校時刻。今日は相撲部がないため、栗田くんは4年2組の教室に行った。

  「ねえ柴田くん、今日はサッカー部もないよね?ならぼくと一緒に帰らない?」

  「うん、いいよ!」

  日の傾いた空の下、栗田くんと柴田くんは一緒に下校した。

  「栗田くん、ずいぶんスタイルが良くなったね。」

  「痩せちゃったからね。でもぼくは太った方が好きなんだ。」

  「栗田くんなら短期間で元に戻りそうだね。」

  「ぼくももうすぐ戻れそうだと思うよ。『太ったぼく』近日公開!なんてね。

  さて、そろそろぼくの家が近づいてきたからここでお別れだ。柴田くん、また明日ね。」

  「栗田くん、また明日!」

  2匹は別れて、それぞれの家へ帰った。

  (また友達が増えて嬉しいな。これからますます楽しくなりそうだ!)

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  柴田くんも帰宅した。

  「ただいま。」

  「お帰り、貂助。おやつがあるわよ。」

  母親が優しく迎えてくれた。

  手を洗ってテーブルの前に行くと、そこには高級なチョコレートの詰め合わせが置かれていた。

  それを見て柴田くんは言った。

  「こんな高級なおやつ、ちょっと食べにくいな…」

  「遠慮せずに食べてね。貂助が心を入れ替えたお祝いだから、ちょっと奮発したの。

  そうそう、みんなに謝る事はうまくできた?」

  「うん、できたよ。先生たちもぼくが改心した事を信じてくれたんだ。」

  「良かったわ。これでもう安心ね。」

  柴田くんは落ち着いてチョコレートを食べた。それは口の中で甘くとろけ、消えていった。

  栗田くんが悪夢を見た事は、彼にとって大きなダメージとなった。

  しかしそれをきっかけに様々な出来事が起こり、最終的に柴田くんの改心へつながった。

  もし栗田くんが悪夢を見なければ平穏に暮らせていたが、柴田くんは今でも問題児のままだっただろう。また、栗田くんが友情の大切さを改めて感じる事もなかった。

  「悪夢を見て不眠症になる」というマイナスの出来事が、プラスの結果につながる事もある。世の中は先の読めない物だ。

  [chapter:おしまい]