第18話「またニンゲンがやってきた!」

  [chapter:プロローグ]

  ここは人間界。場所は日本国、埼玉県さいたま市大宮区。

  そこに住むある青年の身に、不思議な出来事が起きた。

  彼の名は亀田 清。20歳の青年で、大宮駅周辺のマンションで1人暮らしをしている。

  6月にしては珍しく晴れた土曜日、彼は大宮駅東口を歩いていた。昼食を買うため、コンビニに行く所だ。

  東口には多くの店が立ち並び、多くの人が歩いている。

  目指すコンビニが見えてきたため、清は歩みを速めた。

  その時、足元に落ちていた空き缶で足を滑らせ、転んでしまった。

  「うわっ!」

  清は頭を街灯に打ちつけ、意識を失った。

  その場にいた数人は、不思議な光景を目撃した。

  「あの男、どこへ消えたんだ?」

  [newpage]

  [chapter:ケモノの世界へ]

  (ここは…)

  清は薄く目を開けた。青空が見え、雑踏が聞こえる。

  (そうだ。俺は転んで頭をぶつけ、意識を失っていたんだ。財布は大丈夫かな…

  良かった、無事だ。さあ、コンビニ…ん?)

  何気なくコンビニの方を見た清は、目を疑った。看板は黄色と白の見慣れた配色だったが、店名が微妙に違う。

  (マウスストップ?なんだありゃ?)

  立ち上がって周囲を見ると、看板に書かれた店名がどれも知っている物と微妙に違っている。

  パチンコ RACCOON、タイガー・ステーション、カラオケ ビッグネコー…

  (どうなってるんだ?みんな違うし、動物に関係する名前ばかり…)

  見回すと、また別の事に気がついた。周囲を歩いている人が動物の姿をしている。

  うさぎ、狐、豚、ライオン、熊、カバ、象、クジラ…それらが服を着て、2本足で歩き、話している個体もいる。

  (なんだここは!どうやら俺は違う世界にいるらしいぞ!)

  清は頭をぶつけたショックで、異世界にワープしてしまった。

  ここはケモノ界。文明レベルは人間界と同等だが、人間ではなくケモノが暮らしている。また、肥満率が高い世界でもある。

  清が現れた場所はケモノ界の日本国、埼玉県さいたま市の大宮区…ではなく大上区。

  人間界と同じように、大勢のケモノたちが歩いていた。

  「見ろ、ニンゲンがいるぞ!」

  「またなんとか王国から来たみたいだな。」

  周囲から注目するような声が聞こえてくる。

  (人間の事は知っているのか。でもなんとか王国って何の事だ?

  それにしても、やけに太った動物が多いな。服からお腹を丸出しにするなんて、恥ずかしくないのか?)

  清は走りながら考えた。

  景色は基本的に人間界と同じだが、各所が違っている。

  (大宮駅じゃなくて大上駅?するとここは大上区という場所なのか。あっ、東口のリスの銅像が狼になってる!)

  スマートフォンで写真を撮ろうとしたが、すぐに思い出した。

  (そうだ、家で充電中だった!すぐ帰るはずだったから持って行かなかったが、まさかこんな世界に迷い込むとは…

  あっ、あそこはデパートがあるはずなのに城になってる…結構違うな。

  そうだ、一応家にも行ってみよう…)

  清はしばらく歩いて見慣れたマンションに入り、エレベーターで自分の住む階に向かった。

  自分の部屋がある場所の表札には、「亀田」と見知った名前が書かれている。

  鍵を開けようとした時、ドアが開いて虎の青年が出てきた。

  「なんで…なんでニンゲンがここに?」

  「あ、すみません、間違えました!」

  清は慌てて逃げた。

  [newpage]

  [chapter:栗田くんとの出会い]

  (ああ、どこに行けばいいのだろう…)

  清は歩き続け、大上駅から東に進んだ住宅街まで来た。

  すると、丸々と太ったシマリスの男の子が話しかけて来た。

  「あの…あなたはニンゲンですか?」

  「え、ああ、そうだよ。」

  「別の世界から迷い込んだのですか?」

  「そうだ。ため口でいいよ。」

  「わかった。良かったらぼくの家に来ない?」

  「いいのか?」

  「もちろん。ぼくの家はこっちだよ。」

  「ありがとう、リスくん。」

  「ぼくの名前は栗田 永雄。君は?」

  「俺は亀田 清。」

  「わかった。清さんって呼ぶね。」

  しばらく歩くと、家に着いた。

  「清さんはそこで待ってて。」

  それから、栗田くんは自分だけ玄関に行った。

  「ただいま。」

  「お帰り、永雄。」

  「お母さん、話があるんだ。また異世界からニンゲンが迷い込んできたんだ。しばらくうちに置いていいかな?」

  「まずどんなニンゲンか見せてくれない?魔女とかだったらだめよ。」

  「わかった。ちょっと待ってて!」

  栗田くんはドアを閉め、清に聞いた。

  「清さんは魔法を使えたり、何か特殊な能力があったりする?」

  「別にないよ。俺は普通の人間だ。」

  「ありがとう。じゃあ入って!」

  栗田くんは清を連れて家に入った。

  「お母さん、これがそのニンゲンだよ。亀田 清っていうんだ。

  魔法も超能力も使わないから、大丈夫だよ。」

  「そうなのね。じゃあいいわよ。」

  母親は快諾してくれた。

  「亀田 清です。しばらくお世話になります。」

  「別の世界からようこそ。今度のニンゲンは私たちと同じような服を着ているのね。

  もうすぐ昼食ですけど、良かったら一緒に食べませんか?」

  「いいんですか?ありがとうございます。」

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  [chapter:栗田くんの家で]

  清と栗田一家は、昼食を始めた。メニューはソーセージを添えたカレーライス。

  「いただきます!」

  一家は食べ始めたが、清は怪訝そうな顔をしている。

  「どうしたの?清さん。」

  「栗田くん、このソーセージはいったい何の肉を使っているんだ?」

  「ずいぶん当たり前の事を聞くんだね。ソーセージなら鶏肉に決まってるよ。」

  「するとこの世界ではチキンソーセージがメインなのか。それなら安心して食べられるよ。」

  「…清さんの世界のソーセージは、何の肉を使っているの?」

  「豚肉だな。一応チキンソーセージもあるけれど、一般的じゃない。」

  「えっ、豚を!? なんて恐ろしいんだ!哺乳類の肉を食べるなんて…」

  栗田くんは恐怖で震えたため、清は謝罪した。

  「ああ、怖がらせてごめん。ここは動物たちの世界だったな。」

  「動物じゃなくて、ケモノの世界だよ。」

  「ケモノってのは?」

  「ぼくたちみたいに、進化して高度な知能と二足歩行を手に入れ、文明を築いた哺乳類たちの事さ。」

  「進化しなかった動物には、どんな種族があるんだ?」

  「爬虫類や魚、鳥、虫とかだよ。哺乳類でも霊長類だけは進化していないんだ。」

  「ありがとう。栗田くんはずいぶん詳しいんだね。」

  「図鑑で見たからね。」

  清はカレーライスを半分ほど食べると、また質問をした。

  「そういえば、この世界には前に人間が来た事があるのか?君も駅周辺のケモノたちも人間を知っているみたいだけど。どこかの王国から来たとか…」

  「ああ、2年前にね。ファンタスティカ王国のエイミーとジェームス王子、それにスーザン女王と従者のピーターが3日間来たんだ。珍しい事だから世界中で話題になったんだよ。

  それで、ファンタスティカ王国はどの辺りにあるの?」

  「ファンタスティカ王国だって?聞いた事ないな。きっとその人間たちは、俺とはまた別の世界から来たんだ。」

  「そうなの?異世界はたくさんあるんだね!」

  「そうだな。それより栗田くんはその姫や王子も保護したのか?」

  「ううん、ぼくの友達の金子 真里ちゃんっていう猫の女の子がエイミーを保護したんだ。どんな事があったか話すね。」

  一家は食事を終わらせていたが、栗田くんは清にその話をした。

  「ありがとう。不思議な体験だね。そんな映画があったような気がするけど…」

  後片付けが済むと、栗田くんは清を自分の部屋に案内した。

  「さあ、ここがぼくの部屋だよ。」

  「いい部屋だね。ところで、聞いてもいいかな?」

  「なんだい?」

  「栗田くんは太っているし、駅の方にも太っているケモノが多かったけど、それはどうしてだ?」

  「よくわからないけど、このケモノ界には食いしん坊が多いんだ。全員がそうじゃないんだけど、太っている事も普通の事なんだよ。

  もちろんぼくも食いしん坊!見てよ、このお腹。」

  栗田くんは丸々としたお腹をポンと叩いてみせた。

  「おお、いい音だな!まるで狸だ!」

  「ありがとう。こんな体だから運動は苦手だけど、相撲は得意なんだ!

  だから学校でも相撲部に入っているんだよ。ほら、これがその写真。」

  栗田くんはアルバムを取り出し、相撲部の集合写真を見せた。栗田くんを含む12頭の部員と、ホッキョクグマの顧問が写っている。

  「これは顧問の保良 部亜先生だよ。それからこれは…」

  「全員分の紹介ありがとう。みんなすごい太り具合だな。」

  「でしょ?これよりもっと太った子もいるんだよ。」

  「そうなのか。すごいな。

  そうだ、他の部屋も見せてもらえれないかな?ケモノ界には人間界と違う場所があるかもしれないから、気になるんだ。」

  「わかった。違う場所があったら教えてね!」

  清は栗田くんに案内されて、家の各所を見て回った。

  「大体は人間界と同じだな…おっと、これはなんだ?トイレの便器にフックみたいな物があるぞ。」

  「ああ、これはしっぽを固定する部分だよ。しっぽが便器に入らないようにね。」

  「そうか。人間にはしっぽがないから必要ないな。」

  次は風呂に行った。清の目に留まったのは浴室の外にある大きな箱のような機械だ。

  「これは見た事がないな。何か当ててみせよう。ケモノ界では一般的な物か?」

  「そうだよ。ほとんどの種族が使っているんだ。」

  「なんだろう。ここはドアになっていて、中に入れる。外にはボタンが付いている。

  温度設定、風の吹く時間、風の強さ…わかったぞ!」

  「清さん、正解をどうぞ!」

  「これはケモノ用のドライヤーだ!全身に毛が生えているのならこの方が乾かしやすいね。」

  「正解!ちなみにニンゲンはどんなドライヤーを使うの?」

  「先が大きいピストルみたいな形で、手で持って使う。先の所から風が出るんだ。」

  「そうなんだ!そっちの方は場所を取らないんだね。」

  [newpage]

  [chapter:みんなで散歩]

  「栗田くん、次はこの辺を散歩してみたいな。ガイドを頼めるかな?」

  「うん、いいよ!」

  2名は散歩に出た。

  「せっかくだから、友達も誘おうかな。」

  「栗田くんの友達を紹介してくれるのか?それは嬉しいね。」

  栗田くんはある家の前で止まり、インターフォンを押した。

  「こんにちは、稲荷山くん。散歩に行かない?」

  「うん、いいよ!万梨阿も連れて行くね。」

  しばらくしてドアが開き、2匹のキタキツネ(太った兄と細身の妹)が現れた。

  「こんにちは、栗田くん…あっ、ニンゲンを連れてるぞ!」

  「またファンタスティカ王国から来たの?」

  「ううん、また別の世界から迷い込んだんだよ。こっちとそっくりな文明の世界なんだって。」

  「へえ、それはびっくりだ!」

  驚く稲荷山くんと万梨阿ちゃん。清も自己紹介をした。

  「俺は亀田 清。人間界の埼玉県さいたま市大宮区に住む20歳だ。君たちは?」

  「ぼくは稲荷山 紺助。栗田くんと仲良しなんだ。食べるのと相撲が大好き!」

  「私は稲荷山 万梨阿。お菓子作りが得意な3年生なの!」

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、よろしくね。」

  その後もクラスメイトを誘い、散歩を続けた。

  シマリスの縞野 くるみちゃん。

  白猫の金子 真里ちゃんと、太った弟の雄二くん(1年生)。

  ホッキョクギツネの雪見カトリーヌ理沙ちゃん。6月のため灰色の夏毛になっている。

  テンの柴田 貂助くん。こちらも茶色の夏毛だ。

  全員が清を見て驚いたが、栗田くんから話を聞いて納得した。

  総勢9名は、会話を楽しみつつ大上駅に向かって歩き出した。

  「へえ、柴田くんはそんなにひどいいたずらをしていたのか!困った子だな。」

  「そうだよね、清さん。ぼくも何度かひどい目に遭ったんだよ。

  でももう大丈夫。改心していたずらなんかしない良い子になったからね。今ではぼくの友達さ。」

  「うん、そうだよ。いたずらしないから安心してね。」

  「良かった。」

  「ねえ栗田くん、このニンゲンはエイミーよりも話が通じるみたいね。」

  「そうだね。エイミーは現代文明を知らなかったけど、清さんの世界はここと同レベルの文明みたいだからね。」

  「エイミーはいろんな物に感動していたわね。魔法よりもすごいって。」

  「さっき栗田くんから聞いたけど、エイミーのいた世界には魔法があるらしいな。」

  「魔法とはちょっと違うけど、ぼくたち狐は化けられるんだよ。狸やイタチ、カワウソ、テンもね。」

  「そうなのか?ちょっとやってくれ!」

  「わかった。何に化けて欲しい?」

  「それじゃ…自転車!」

  「わかった、やってみよう!」

  稲荷山くん、万梨阿ちゃん、理沙ちゃん、柴田くんは目をつぶって精神を集中させ、自転車に化けた。

  稲荷山くんは後ろからしっぽが生えている。万梨阿ちゃんはハンドルに耳が付いている。

  理沙ちゃんと柴田くんは、どう見ても本物の自転車だ。

  それを見た清は驚いている。

  「これはすごい…まさに魔法だ!どれ、触り心地は…」

  柴田くんが化けた自転車のサドルに触ると、実物と変わらない触り心地だった。

  「すごい!ここまで再現できるなんて…」

  そこで全員、元の姿に戻った。

  「ね、すごいだろ?まあぼくは何に化けてもしっぽが出ちゃうけどね…」

  「私も耳だけ消せないの。」

  「私たちは、着ている物も含めて全身の細胞を自由に変質できるのですわ。

  でもあまり長い時間化け続ける事はできませんの。疲れますからね。」

  「着ている物まで変わるなんてすごいな!ショーに使えそうだね。」

  感心する清に、稲荷山くんが言った。

  「去年の林間学校では、キャンプファイヤーの出し物として使ったんだよ。ぼくはアイロンに化けたけど、コードの部分がしっぽだったんだよね。」

  「そうそう。でも柴田くんはすごかったんだよ!」

  「そう、ぼくはスマホに化けたんだ。みんなびっくりしてたよ!」

  柴田くんは明るく笑って答えた。

  清には、また別の疑問が生まれた。

  「ちょっと待て、栗田くんたちは4年生なんだよな。君たちの学校では3年生が林間学校に行くのか?」

  栗田くんと稲荷山くんが答えた。

  「いや、いつもは5年生が行くんだけど、去年は4年生が行ったんだよ。」

  「この世界では2017年が始まると同時に誰も成長しなくなったんだ。だからぼくたちは今年で5回目の4年生さ。」

  清はまた驚いた。

  「ええっ!? そんな漫画みたいな事が本当にあるのか?」

  「そうだよ。最初は世の中が騒ぎになったけど、今は慣れたから割と落ち着いてるよ。」

  「ぼくたちはずっと子供のままでいられるから、これでも大丈夫さ。勉強もずっと同じ内容だから、最近はテストで100点ばかりなんだ!」

  「ああ、それはうらやましいな。いつまでも子供でいられるなんて…」

  やがて大上駅の東口にたどり着いた。

  「さっきから気になっていたけど、あの城は何?」

  栗田くんが得意げに答える。

  「ああ、清さん。あれはフード・キャッスルというレストランさ。あのお城の中では、世界各国の料理が2時間食べ放題なんだよ!

  どの料理もとってもおいしくて、何度食べても飽きないんだ。」

  「すごい店だな!そんないい店は人間界にないよ。人間界ではあそこにデパートが立っているんだ。」

  「へえ、デパートなんだ!ちなみにぼくは月に2回はここに通っている常連さ。」

  「そんなにか!その体型になるのもわかるよ。」

  「まあね。」

  「でも、他の店は人間界にあるのとそっくりだよ。名前は少し違うけどね。」

  「ねえねえ、ニンゲン界ではどんな名前なの?」

  清は人間界における店の名前を教えた。

  「わあ、本当にそっくりだね!」

  「異世界でもみんな同じような事を考えるのね!」

  [newpage]

  [chapter:突然の別れ]

  その時、一同の周りにケモノたちが集まってきて口々に言った。

  「そのニンゲンはどこから来たんだ?」

  「また異世界から?」

  「数時間前もここにいたぞ。その時は見失ったが、今度はもう大丈夫だ!異世界の事を話してくれ!」

  「またファンタスティカ王国から来たのか?」

  清は答えた。

  「いえ、違います。人間界の日本からです。ファンタスティカ王国とは別の世界です。」

  「これは驚きだ!異世界にも日本があるとは!日本のどこからだ?」

  「さいたま市の大宮区から…」

  「そっちは大上区じゃなくて大宮区なのか!そこは違うんだな。」

  ケモノたちは次々とスマートフォンを構えた。シャッター音が鳴り響く。

  「なんかまずい事になっちゃった…ぼくたち先に帰るね!また後で!」

  栗田くんたち8匹は雰囲気に圧倒され、清を放置して逃げ帰ってしまった。

  「あっ、そんな!」

  清は逃げようとするが、ケモノたちに取り囲まれて動きづらい。

  なんとか隙間から逃げ出したが、すぐにケモノたちが追いかけてくる。

  「やめろ!落ち着け!来るな!」

  そう言いながら走っていると、足元に落ちていた空き缶で足を滑らせ、転んでしまった。

  「うわっ、またか!」

  清は頭を街灯に打ち付け、何もわからなくなった。

  その場にいたケモノたちは、驚きに包まれた。

  「あのニンゲンはどこへ消えたんだ?」

  辺りを探すが、どこにも見つからない。

  誰かが呼んだテレビ局のリポーターも来たが、もう遅かった。

  「どこにニンゲンがいるんですか?」

  「さっきまでここにいたのですが、転んだ時にどこかへ消えてしまったんです…

  でも証拠はありますよ。スマホで撮影したこの写真です。」

  そのため、ニュースはケモノたちが撮影した写真の紹介になった。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  しばらくして、清は意識を取り戻した。

  (ここはどこだ…)

  目を開けて周囲を見渡すと、大宮駅の西口だった。

  店の看板は見慣れた名前で、人間たちが歩いている。空は夕焼けに染まっていた。

  (ああ、良かった。元の世界だ…)

  清はマンションに帰った。

  (しかし不思議な体験だったな。ネットに書き込むか…

  いや、書き込んでも信じてもらえないだろうな。それにあの世界の物は持ち帰れなかったんだから、証拠もない。きっとあれは夢だったのか…)

  そう思ったが、空腹を感じない事に気がついた。

  (もしあれが夢なら、昼前から何も食べていないから自分は空腹なはず。だからカレーを食べた事になる。つまり本当だったのか!

  それなら、せっかくだからもっといろいろ聞いておけば良かったな。どう進化したか、声帯がどうやって人間並みに変化したか…栗田くんに図鑑を見せてもらえば良かった。

  それに誰も成長しないとなると、胎児はどうなるんだ?何年も妊娠したままの女性も大勢いるんだろうな…)

  充電されたスマートフォンが立ち上がるまでの間、清は考えていた。

  [newpage]

  一方、ケモノ界では…

  「清さん遅いなあ…まだ群衆に囲まれているのかな?」

  栗田くんが心配しながらテレビをつけると、ニュースが流れていた。

  「本日夕方、大上駅の東口にニンゲンが出没しましたが、すぐにどこかへ消えてしまいました。

  目撃者の情報によると、そのニンゲンは男性とみられ、転んだはずみに忽然と消えたそうです。そしてこちらが目撃者の撮影した写真です。」

  「あ、清さん…どこかへ消えちゃったんだ…」

  「きっと元の世界に帰ったのよ。」

  「そうだな。それならいいな。」

  両親の言葉で、栗田くんは元気になった。

  「清さん、短い間だったけど楽しかったよ。ぼくたちの事忘れないで欲しいな。」

  清はもうケモノ界にいないが、栗田くんは感謝の言葉を述べた。

  (異世界からニンゲンが2回もここに来るなんて、不思議な事もあるんだね。異世界のケモノが来るといいな…)

  栗田くんはまだ知らない。間もなくそれが起きると…

  [chapter:おしまい]