[chapter:プロローグ]
ここは人間界。場所は日本国、埼玉県さいたま市大宮区。
そこに住むある青年の身に、不思議な出来事が起きた。
彼の名は亀田 清。20歳の青年で、大宮駅周辺のマンションで1人暮らしをしている。
6月にしては珍しく晴れた土曜日、彼は大宮駅東口を歩いていた。昼食を買うため、コンビニに行く所だ。
東口には多くの店が立ち並び、多くの人が歩いている。
目指すコンビニが見えてきたため、清は歩みを速めた。
その時、足元に落ちていた空き缶で足を滑らせ、転んでしまった。
「うわっ!」
清は頭を街灯に打ちつけ、意識を失った。
その場にいた数人は、不思議な光景を目撃した。
「あの男、どこへ消えたんだ?」
[newpage]
[chapter:ケモノの世界へ]
(ここは…)
清は薄く目を開けた。青空が見え、雑踏が聞こえる。
(そうだ。俺は転んで頭をぶつけ、意識を失っていたんだ。財布は大丈夫かな…
良かった、無事だ。さあ、コンビニ…ん?)
何気なくコンビニの方を見た清は、目を疑った。看板は黄色と白の見慣れた配色だったが、店名が微妙に違う。
(マウスストップ?なんだありゃ?)
立ち上がって周囲を見ると、看板に書かれた店名がどれも知っている物と微妙に違っている。
パチンコ RACCOON、タイガー・ステーション、カラオケ ビッグネコー…
(どうなってるんだ?みんな違うし、動物に関係する名前ばかり…)
見回すと、また別の事に気がついた。周囲を歩いている人が動物の姿をしている。
うさぎ、狐、豚、ライオン、熊、カバ、象、クジラ…それらが服を着て、2本足で歩き、話している個体もいる。
(なんだここは!どうやら俺は違う世界にいるらしいぞ!)
清は頭をぶつけたショックで、異世界にワープしてしまった。
ここはケモノ界。文明レベルは人間界と同等だが、人間ではなくケモノが暮らしている。また、肥満率が高い世界でもある。
清が現れた場所はケモノ界の日本国、埼玉県さいたま市の大宮区…ではなく大上区。
人間界と同じように、大勢のケモノたちが歩いていた。
「見ろ、ニンゲンがいるぞ!」
「またなんとか王国から来たみたいだな。」
周囲から注目するような声が聞こえてくる。
(人間の事は知っているのか。でもなんとか王国って何の事だ?
それにしても、やけに太った動物が多いな。服からお腹を丸出しにするなんて、恥ずかしくないのか?)
清は走りながら考えた。
景色は基本的に人間界と同じだが、各所が違っている。
(大宮駅じゃなくて大上駅?するとここは大上区という場所なのか。あっ、東口のリスの銅像が狼になってる!)
スマートフォンで写真を撮ろうとしたが、すぐに思い出した。
(そうだ、家で充電中だった!すぐ帰るはずだったから持って行かなかったが、まさかこんな世界に迷い込むとは…
あっ、あそこはデパートがあるはずなのに城になってる…結構違うな。
そうだ、一応家にも行ってみよう…)
清はしばらく歩いて見慣れたマンションに入り、エレベーターで自分の住む階に向かった。
自分の部屋がある場所の表札には、「亀田」と見知った名前が書かれている。
鍵を開けようとした時、ドアが開いて虎の青年が出てきた。
「なんで…なんでニンゲンがここに?」
「あ、すみません、間違えました!」
清は慌てて逃げた。
[newpage]
[chapter:栗田くんとの出会い]
(ああ、どこに行けばいいのだろう…)
清は歩き続け、大上駅から東に進んだ住宅街まで来た。
すると、丸々と太ったシマリスの男の子が話しかけて来た。
「あの…あなたはニンゲンですか?」
「え、ああ、そうだよ。」
「別の世界から迷い込んだのですか?」
「そうだ。ため口でいいよ。」
「わかった。良かったらぼくの家に来ない?」
「いいのか?」
「もちろん。ぼくの家はこっちだよ。」
「ありがとう、リスくん。」
「ぼくの名前は栗田 永雄。君は?」
「俺は亀田 清。」
「わかった。清さんって呼ぶね。」
しばらく歩くと、家に着いた。
「清さんはそこで待ってて。」
それから、栗田くんは自分だけ玄関に行った。
「ただいま。」
「お帰り、永雄。」
「お母さん、話があるんだ。また異世界からニンゲンが迷い込んできたんだ。しばらくうちに置いていいかな?」
「まずどんなニンゲンか見せてくれない?魔女とかだったらだめよ。」
「わかった。ちょっと待ってて!」
栗田くんはドアを閉め、清に聞いた。
「清さんは魔法を使えたり、何か特殊な能力があったりする?」
「別にないよ。俺は普通の人間だ。」
「ありがとう。じゃあ入って!」
栗田くんは清を連れて家に入った。
「お母さん、これがそのニンゲンだよ。亀田 清っていうんだ。
魔法も超能力も使わないから、大丈夫だよ。」
「そうなのね。じゃあいいわよ。」
母親は快諾してくれた。
「亀田 清です。しばらくお世話になります。」
「別の世界からようこそ。今度のニンゲンは私たちと同じような服を着ているのね。
もうすぐ昼食ですけど、良かったら一緒に食べませんか?」
「いいんですか?ありがとうございます。」
[newpage]
[chapter:栗田くんの家で]
清と栗田一家は、昼食を始めた。メニューはソーセージを添えたカレーライス。
「いただきます!」
一家は食べ始めたが、清は怪訝そうな顔をしている。
「どうしたの?清さん。」
「栗田くん、このソーセージはいったい何の肉を使っているんだ?」
「ずいぶん当たり前の事を聞くんだね。ソーセージなら鶏肉に決まってるよ。」
「するとこの世界ではチキンソーセージがメインなのか。それなら安心して食べられるよ。」
「…清さんの世界のソーセージは、何の肉を使っているの?」
「豚肉だな。一応チキンソーセージもあるけれど、一般的じゃない。」
「えっ、豚を!? なんて恐ろしいんだ!哺乳類の肉を食べるなんて…」
栗田くんは恐怖で震えたため、清は謝罪した。
「ああ、怖がらせてごめん。ここは動物たちの世界だったな。」
「動物じゃなくて、ケモノの世界だよ。」
「ケモノってのは?」
「ぼくたちみたいに、進化して高度な知能と二足歩行を手に入れ、文明を築いた哺乳類たちの事さ。」
「進化しなかった動物には、どんな種族があるんだ?」
「爬虫類や魚、鳥、虫とかだよ。哺乳類でも霊長類だけは進化していないんだ。」
「ありがとう。栗田くんはずいぶん詳しいんだね。」
「図鑑で見たからね。」
清はカレーライスを半分ほど食べると、また質問をした。
「そういえば、この世界には前に人間が来た事があるのか?君も駅周辺のケモノたちも人間を知っているみたいだけど。どこかの王国から来たとか…」
「ああ、2年前にね。ファンタスティカ王国のエイミーとジェームス王子、それにスーザン女王と従者のピーターが3日間来たんだ。珍しい事だから世界中で話題になったんだよ。
それで、ファンタスティカ王国はどの辺りにあるの?」
「ファンタスティカ王国だって?聞いた事ないな。きっとその人間たちは、俺とはまた別の世界から来たんだ。」
「そうなの?異世界はたくさんあるんだね!」
「そうだな。それより栗田くんはその姫や王子も保護したのか?」
「ううん、ぼくの友達の金子 真里ちゃんっていう猫の女の子がエイミーを保護したんだ。どんな事があったか話すね。」
一家は食事を終わらせていたが、栗田くんは清にその話をした。
「ありがとう。不思議な体験だね。そんな映画があったような気がするけど…」
後片付けが済むと、栗田くんは清を自分の部屋に案内した。
「さあ、ここがぼくの部屋だよ。」
「いい部屋だね。ところで、聞いてもいいかな?」
「なんだい?」
「栗田くんは太っているし、駅の方にも太っているケモノが多かったけど、それはどうしてだ?」
「よくわからないけど、このケモノ界には食いしん坊が多いんだ。全員がそうじゃないんだけど、太っている事も普通の事なんだよ。
もちろんぼくも食いしん坊!見てよ、このお腹。」
栗田くんは丸々としたお腹をポンと叩いてみせた。
「おお、いい音だな!まるで狸だ!」
「ありがとう。こんな体だから運動は苦手だけど、相撲は得意なんだ!
だから学校でも相撲部に入っているんだよ。ほら、これがその写真。」
栗田くんはアルバムを取り出し、相撲部の集合写真を見せた。栗田くんを含む12頭の部員と、ホッキョクグマの顧問が写っている。
「これは顧問の保良 部亜先生だよ。それからこれは…」
「全員分の紹介ありがとう。みんなすごい太り具合だな。」
「でしょ?これよりもっと太った子もいるんだよ。」
「そうなのか。すごいな。
そうだ、他の部屋も見せてもらえれないかな?ケモノ界には人間界と違う場所があるかもしれないから、気になるんだ。」
「わかった。違う場所があったら教えてね!」
清は栗田くんに案内されて、家の各所を見て回った。
「大体は人間界と同じだな…おっと、これはなんだ?トイレの便器にフックみたいな物があるぞ。」
「ああ、これはしっぽを固定する部分だよ。しっぽが便器に入らないようにね。」
「そうか。人間にはしっぽがないから必要ないな。」
次は風呂に行った。清の目に留まったのは浴室の外にある大きな箱のような機械だ。
「これは見た事がないな。何か当ててみせよう。ケモノ界では一般的な物か?」
「そうだよ。ほとんどの種族が使っているんだ。」
「なんだろう。ここはドアになっていて、中に入れる。外にはボタンが付いている。
温度設定、風の吹く時間、風の強さ…わかったぞ!」
「清さん、正解をどうぞ!」
「これはケモノ用のドライヤーだ!全身に毛が生えているのならこの方が乾かしやすいね。」
「正解!ちなみにニンゲンはどんなドライヤーを使うの?」
「先が大きいピストルみたいな形で、手で持って使う。先の所から風が出るんだ。」
「そうなんだ!そっちの方は場所を取らないんだね。」
[newpage]
[chapter:みんなで散歩]
「栗田くん、次はこの辺を散歩してみたいな。ガイドを頼めるかな?」
「うん、いいよ!」
2名は散歩に出た。
「せっかくだから、友達も誘おうかな。」
「栗田くんの友達を紹介してくれるのか?それは嬉しいね。」
栗田くんはある家の前で止まり、インターフォンを押した。
「こんにちは、稲荷山くん。散歩に行かない?」
「うん、いいよ!万梨阿も連れて行くね。」
しばらくしてドアが開き、2匹のキタキツネ(太った兄と細身の妹)が現れた。
「こんにちは、栗田くん…あっ、ニンゲンを連れてるぞ!」
「またファンタスティカ王国から来たの?」
「ううん、また別の世界から迷い込んだんだよ。こっちとそっくりな文明の世界なんだって。」
「へえ、それはびっくりだ!」
驚く稲荷山くんと万梨阿ちゃん。清も自己紹介をした。
「俺は亀田 清。人間界の埼玉県さいたま市大宮区に住む20歳だ。君たちは?」
「ぼくは稲荷山 紺助。栗田くんと仲良しなんだ。食べるのと相撲が大好き!」
「私は稲荷山 万梨阿。お菓子作りが得意な3年生なの!」
「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、よろしくね。」
その後もクラスメイトを誘い、散歩を続けた。
シマリスの縞野 くるみちゃん。
白猫の金子 真里ちゃんと、太った弟の雄二くん(1年生)。
ホッキョクギツネの雪見カトリーヌ理沙ちゃん。6月のため灰色の夏毛になっている。
テンの柴田 貂助くん。こちらも茶色の夏毛だ。
全員が清を見て驚いたが、栗田くんから話を聞いて納得した。
総勢9名は、会話を楽しみつつ大上駅に向かって歩き出した。
「へえ、柴田くんはそんなにひどいいたずらをしていたのか!困った子だな。」
「そうだよね、清さん。ぼくも何度かひどい目に遭ったんだよ。
でももう大丈夫。改心していたずらなんかしない良い子になったからね。今ではぼくの友達さ。」
「うん、そうだよ。いたずらしないから安心してね。」
「良かった。」
「ねえ栗田くん、このニンゲンはエイミーよりも話が通じるみたいね。」
「そうだね。エイミーは現代文明を知らなかったけど、清さんの世界はここと同レベルの文明みたいだからね。」
「エイミーはいろんな物に感動していたわね。魔法よりもすごいって。」
「さっき栗田くんから聞いたけど、エイミーのいた世界には魔法があるらしいな。」
「魔法とはちょっと違うけど、ぼくたち狐は化けられるんだよ。狸やイタチ、カワウソ、テンもね。」
「そうなのか?ちょっとやってくれ!」
「わかった。何に化けて欲しい?」
「それじゃ…自転車!」
「わかった、やってみよう!」
稲荷山くん、万梨阿ちゃん、理沙ちゃん、柴田くんは目をつぶって精神を集中させ、自転車に化けた。
稲荷山くんは後ろからしっぽが生えている。万梨阿ちゃんはハンドルに耳が付いている。
理沙ちゃんと柴田くんは、どう見ても本物の自転車だ。
それを見た清は驚いている。
「これはすごい…まさに魔法だ!どれ、触り心地は…」
柴田くんが化けた自転車のサドルに触ると、実物と変わらない触り心地だった。
「すごい!ここまで再現できるなんて…」
そこで全員、元の姿に戻った。
「ね、すごいだろ?まあぼくは何に化けてもしっぽが出ちゃうけどね…」
「私も耳だけ消せないの。」
「私たちは、着ている物も含めて全身の細胞を自由に変質できるのですわ。
でもあまり長い時間化け続ける事はできませんの。疲れますからね。」
「着ている物まで変わるなんてすごいな!ショーに使えそうだね。」
感心する清に、稲荷山くんが言った。
「去年の林間学校では、キャンプファイヤーの出し物として使ったんだよ。ぼくはアイロンに化けたけど、コードの部分がしっぽだったんだよね。」
「そうそう。でも柴田くんはすごかったんだよ!」
「そう、ぼくはスマホに化けたんだ。みんなびっくりしてたよ!」
柴田くんは明るく笑って答えた。
清には、また別の疑問が生まれた。
「ちょっと待て、栗田くんたちは4年生なんだよな。君たちの学校では3年生が林間学校に行くのか?」
栗田くんと稲荷山くんが答えた。
「いや、いつもは5年生が行くんだけど、去年は4年生が行ったんだよ。」
「この世界では2017年が始まると同時に誰も成長しなくなったんだ。だからぼくたちは今年で5回目の4年生さ。」
清はまた驚いた。
「ええっ!? そんな漫画みたいな事が本当にあるのか?」
「そうだよ。最初は世の中が騒ぎになったけど、今は慣れたから割と落ち着いてるよ。」
「ぼくたちはずっと子供のままでいられるから、これでも大丈夫さ。勉強もずっと同じ内容だから、最近はテストで100点ばかりなんだ!」
「ああ、それはうらやましいな。いつまでも子供でいられるなんて…」
やがて大上駅の東口にたどり着いた。
「さっきから気になっていたけど、あの城は何?」
栗田くんが得意げに答える。
「ああ、清さん。あれはフード・キャッスルというレストランさ。あのお城の中では、世界各国の料理が2時間食べ放題なんだよ!
どの料理もとってもおいしくて、何度食べても飽きないんだ。」
「すごい店だな!そんないい店は人間界にないよ。人間界ではあそこにデパートが立っているんだ。」
「へえ、デパートなんだ!ちなみにぼくは月に2回はここに通っている常連さ。」
「そんなにか!その体型になるのもわかるよ。」
「まあね。」
「でも、他の店は人間界にあるのとそっくりだよ。名前は少し違うけどね。」
「ねえねえ、ニンゲン界ではどんな名前なの?」
清は人間界における店の名前を教えた。
「わあ、本当にそっくりだね!」
「異世界でもみんな同じような事を考えるのね!」
[newpage]
[chapter:突然の別れ]
その時、一同の周りにケモノたちが集まってきて口々に言った。
「そのニンゲンはどこから来たんだ?」
「また異世界から?」
「数時間前もここにいたぞ。その時は見失ったが、今度はもう大丈夫だ!異世界の事を話してくれ!」
「またファンタスティカ王国から来たのか?」
清は答えた。
「いえ、違います。人間界の日本からです。ファンタスティカ王国とは別の世界です。」
「これは驚きだ!異世界にも日本があるとは!日本のどこからだ?」
「さいたま市の大宮区から…」
「そっちは大上区じゃなくて大宮区なのか!そこは違うんだな。」
ケモノたちは次々とスマートフォンを構えた。シャッター音が鳴り響く。
「なんかまずい事になっちゃった…ぼくたち先に帰るね!また後で!」
栗田くんたち8匹は雰囲気に圧倒され、清を放置して逃げ帰ってしまった。
「あっ、そんな!」
清は逃げようとするが、ケモノたちに取り囲まれて動きづらい。
なんとか隙間から逃げ出したが、すぐにケモノたちが追いかけてくる。
「やめろ!落ち着け!来るな!」
そう言いながら走っていると、足元に落ちていた空き缶で足を滑らせ、転んでしまった。
「うわっ、またか!」
清は頭を街灯に打ち付け、何もわからなくなった。
その場にいたケモノたちは、驚きに包まれた。
「あのニンゲンはどこへ消えたんだ?」
辺りを探すが、どこにも見つからない。
誰かが呼んだテレビ局のリポーターも来たが、もう遅かった。
「どこにニンゲンがいるんですか?」
「さっきまでここにいたのですが、転んだ時にどこかへ消えてしまったんです…
でも証拠はありますよ。スマホで撮影したこの写真です。」
そのため、ニュースはケモノたちが撮影した写真の紹介になった。
[newpage]
[chapter:エピローグ]
しばらくして、清は意識を取り戻した。
(ここはどこだ…)
目を開けて周囲を見渡すと、大宮駅の西口だった。
店の看板は見慣れた名前で、人間たちが歩いている。空は夕焼けに染まっていた。
(ああ、良かった。元の世界だ…)
清はマンションに帰った。
(しかし不思議な体験だったな。ネットに書き込むか…
いや、書き込んでも信じてもらえないだろうな。それにあの世界の物は持ち帰れなかったんだから、証拠もない。きっとあれは夢だったのか…)
そう思ったが、空腹を感じない事に気がついた。
(もしあれが夢なら、昼前から何も食べていないから自分は空腹なはず。だからカレーを食べた事になる。つまり本当だったのか!
それなら、せっかくだからもっといろいろ聞いておけば良かったな。どう進化したか、声帯がどうやって人間並みに変化したか…栗田くんに図鑑を見せてもらえば良かった。
それに誰も成長しないとなると、胎児はどうなるんだ?何年も妊娠したままの女性も大勢いるんだろうな…)
充電されたスマートフォンが立ち上がるまでの間、清は考えていた。
[newpage]
一方、ケモノ界では…
「清さん遅いなあ…まだ群衆に囲まれているのかな?」
栗田くんが心配しながらテレビをつけると、ニュースが流れていた。
「本日夕方、大上駅の東口にニンゲンが出没しましたが、すぐにどこかへ消えてしまいました。
目撃者の情報によると、そのニンゲンは男性とみられ、転んだはずみに忽然と消えたそうです。そしてこちらが目撃者の撮影した写真です。」
「あ、清さん…どこかへ消えちゃったんだ…」
「きっと元の世界に帰ったのよ。」
「そうだな。それならいいな。」
両親の言葉で、栗田くんは元気になった。
「清さん、短い間だったけど楽しかったよ。ぼくたちの事忘れないで欲しいな。」
清はもうケモノ界にいないが、栗田くんは感謝の言葉を述べた。
(異世界からニンゲンが2回もここに来るなんて、不思議な事もあるんだね。異世界のケモノが来るといいな…)
栗田くんはまだ知らない。間もなくそれが起きると…
[chapter:おしまい]