[chapter:プロローグ]
ケモノ界のさいたま市大上区に住む、太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)。
普段通りに平和な1日を過ごし、寝る時間になった。
「お父さん、お母さん、おやすみなさい。」
「おやすみ、永雄。」
栗田くんはベッドに入った。
(今日はどんな夢が見られるかな?楽しい夢だといいな…)
やがて栗田くんは眠りに落ち、夢の世界が始まった。
しかしそれは「楽しい夢」とはかけ離れた物だった…
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[chapter:悪夢の始まり]
ここは夢の中。栗田くんは近所の道を普通に歩いていた。
「さあ、どこへ行こうかな?」
すると、つまずいて転んでしまった。
「いてて…」
起き上がろうとしたが、体が動かない。どういうわけか転んだはずみで上半身と下半身が分かれてしまった。
「ええっ、どういう事!?」
栗田くんは驚いたが、さらに信じられない事が続けて起こった。
「ああ、やっと軽くなったぜ!」
突然、下半身が声を出した。
さらに、しっぽが下半身から分離して宙に浮き始めた。
「これで俺は自由だ!」
「自由って何!? ぼくの体に戻ってよ!」
栗田くんは訴えるが、下半身としっぽはそれに反論した。
「フン、お前の体なんかには戻りたくねえよ!その太り過ぎの体を乗せて歩くのはもうごめんだ!」
「俺だってお前の後ろについて歩くのは飽き飽きだ。やっと解放されたぜ!
あばよ、食ってばかりのデブリス!」
下半身としっぽは逃げて行った。
「嫌だー!待ってー!ひどいよ!帰ってきてよ!」
栗田くんは叫ぶが、下半身としっぽは角を曲がって遠くに消えてしまった。
「そんな…」
絶望していると突然周囲が暗くなり、栗田くんの意識もそこで途切れた。
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[chapter:肉にされる恐怖]
「ん…ここは…」
気がつくと、下半身としっぽが復活していた。
「ああ、良かった。戻ってきたんだ!」
その時、背後に何かの気配を感じた。
振り向くとそこには巨大な肉切り包丁が浮かんでおり、さらにそれが話しかけてきた。
「今からお前をハムにしてやろう。覚悟はいいか?」
「ハムにされるなんて嫌だよ!」
逃げ出そうとすると、今度は目の前に巨大な肉挽き機が現れた。
「この中に入ればハムにならなくて済むぞ。その代わりお前はミンチになるがな!」
「どっちも嫌だ!それにシマリスなんか食べてもおいしくないよ!そもそも哺乳類の肉を食べる事は法律で禁じられているんだぞ!」
そう叫ぶと、肉切り包丁と肉挽き機は声を荒げた。
「この嘘つきめ!お前はたっぷりと肉がついてるだろう!」
「そうだ。その突き出た腹には肉が詰まってるじゃないか!」
「それにこの腕。切ったらうまいハムになりそうだ!」
「いや、こいつはミンチ向きだな!」
「なんだと?こいつはハムにした方が似合うだろ!」
「ミンチだろ、このマヌケ!」
2つの道具が口げんかを始めたため、栗田くんは隙を見て逃げ出した。
しかし、太っているためあまり速く走れない。それでも何もしないよりはましなため、全力で走った。
「おい、逃げたぞ!」
「本当だ!追いかけろ!」
2つの道具は、栗田くんが逃げた事に気がつくと猛スピードで追いかけてきた。
移動速度は彼よりもはるかに速く、あっという間に追いつかれてしまった。
「助けてー!」
大声で叫んだ瞬間、また周囲が暗くなって意識も途切れた。
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[chapter:生えてきたのは…]
栗田くんが気がつくと、2つの道具は消えていた。周囲にも不審な物はない。
「良かった、ひとまず助かった…」
ほっと胸を撫で下ろした時、お腹に違和感を覚えた。
「ん?これは…ええっ!?」
なんと、お腹から鉛筆が生えてきた。
今度は右腕に違和感を覚えたため、見てみると斧が生えてきた。
右脚からは提灯、頭の右側からはピストルが生えてくる。
「何これ、どうなってるの!?」
栗田くんは恐怖におびえた。体からは次々に色々な物が生えてくる。
やがて生える現象は収まったが、栗田くんは奇妙な機械のような姿になってしまった。
頭の右側にはピストルと煙突、左側には信号機とホース。
右腕には斧、のこぎり、アンテナ。左腕には自動車のギア、フォーク、ハンマー。
お腹には鉛筆、ドライバー、電気スタンド、ゲームコントローラーのボタン、エレベーターのボタン、コインの投入口、円周率の書かれた紙テープ。
右脚には提灯、左脚にはドリルとろうそく。しっぽにはクラッカーと電気のコード。
それらを抜こうとしても、まったく手ごたえがない。
「どうしよう…ぼくは一生このままなの?それにうるさいよ!」
ピストルは弾丸を発射し続け、ホースは水を出し続け、ドリルは回転し、紙テープはいつまでも終わらず、使い捨てなはずのクラッカーも爆発を続けている。
ピストルがあるため頭の横に手を回せず、両耳をふさぐ事もできない。
「もう、うるさいよ!誰か止めてー!」
その時、頭の上から何かが生えてきた。
それは巨大なダイナマイトだった。導火線がゆっくりと燃えて行く。
鏡がないため彼には見えていないが、導火線の燃える音でそうとわかった。
「嫌だ、嫌だ!爆発しちゃう!」
しかし導火線は燃え続け、ついに爆発してしまった。
ドッカーン!
栗田くんは吹き飛ばされた。
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[chapter:肉食系両親]
「ここはどこだろう…柔らかいな…」
栗田くんが気がつくと、そこはベッドの中だった。
起き上がって辺りを見ると、そこは自分の部屋だった。
「ああ、夢か…怖い夢だったな…」
窓の外には抜けるような青空と静かな住宅街が広がっている。普段と変わらない光景だった。
「さあ、今日も元気に過ごそう!」
朝の支度を済ませると、階段を降りた。目的地は1階のダイニングテーブルだ。
「ん?なんだこれ?」
いつもはトーストの焼けるいい香りがしてくるが、今日は血の匂いが漂ってくる。
「何が起きているんだろう…」
栗田くんは恐る恐るダイニングテーブルへ向かった。
「永雄、おはよう。」
「朝ごはんできたわよ。」
両親が普段通りの口調で言うが、テーブルの上には信じられない物が並んでいた。
「こ、こ、これが…朝ご飯!?」
皿には、血まみれの肉塊が置かれている。堂見ても生肉だ。
いくら食いしん坊の栗田くんでも、食べる気は起きなかった。
「あら永雄、どうしたの?いつも食べてるでしょ。」
「そう。こうやってかぶりつくとうまいんだ!」
両親は肉塊を頬張り始めた。それはまるで古代の肉食獣だ。
「ちょっと!そんなの食べたらお腹壊しちゃうよ!大体それは何の肉なの!」
「大丈夫よ、こんな肉ぐらい。」
「気にせず食えよ。」
そう言う両親の口には、鋭い牙が生えていた。
「ああ…ああ…」
栗田くんは恐ろしさのあまり腰が抜け、思考が停止して言葉にならない声を上げる事しかできなくなった。
やがて、意識は途絶えた。
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[chapter:奇妙な場所に1匹だけ]
気がつくと、栗田くんは靴も履かずに野原に立っていた。
「あれ、ここはどこだろう?」
そこはまったく知らない場所だった。国も、季節も、時間さえもわからない。
野原の奥には森が広がり、その奥には2つの山が見える。片方の山は雪で真っ白に覆われているが、もう片方の山には緑が生い茂っている。
その横には、廃墟と化したホテルが建っている。
空の半分は夜空で月と星が輝いているが、もう半分は青空だ。その中を飛行船が飛んでいる。
周囲にも様々な物が落ちている。ビーチボールに巨大なサイコロ、古ぼけた木製の車輪、骨。
「これは何の骨だろう?鳥や魚のじゃなさそうだ。まさか、ケモノの骨…?」
栗田くんは先ほどとは違った恐怖感を抱いた。
「なんだか怖くて寂しいよ…お家に帰りたいよ…」
その時、新たな物が目に入った。野原の中に西洋風の墓がある。
「こんな所に1つだけ…いったい誰の?」
恐る恐る近づいて、墓石に書かれた文字を見た。
R.I.P
Nagao Kurita
2007~2020
「こ、これはぼくの名前…じゃあぼくは死んじゃったの?
でもぼくは間違いなく生きている。じゃあ、この墓は?」
中に何が埋まっているか気になったが、掘り返してみる勇気はなかった。
「ここにはいたくないな…あっちに行こう。」
栗田くんは青空の方に歩き出した。明るい場所なら気分が変わるだろう。
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[chapter:いないはずの妹と弟]
歩き続けて、青空の下に出た。
靴を履いていないため、足に触る草の感覚が心地よい。栗田くんは安らいだ気分になった。
「なんだかすがすがしいな。やっと平和になったよ。」
その時、しっぽに何かが生えた感じがした。
「え?またクラッカー?」
すると、今度はお腹から何かが生えてきた。大きい物のようだ。
視線を落とした栗田くんは、驚きのあまり叫び声を上げた。
お腹から生えていた物は、シマリスの上半身だった。
頭と胴体の上半分、2本の腕があり、真っ白な服を着ている。まつ毛が長く、胸が少し大きいため女の子だろう。
しっぽからはスカートと2本の脚、小さなしっぽも生えていた。
「ね、ねえ、君は誰なの…?」
恐る恐る尋ねると、女の子は明るく答えた。
「あなたの妹よ、永雄お兄ちゃん。」
彼はわけがわからなくなった。自分には兄弟も姉妹もいないからだ。
「ぼくには妹なんていないのに…」
妹は話し続ける。
「私の事が大好きだって?嬉しいわ!」
「そんな事言ってないよ!」
「大好きなお兄ちゃんといつでも一緒、ルンルン♪」
まるで話がかみ合わない。いつの間にか青空も血のように赤黒くなっていた。
栗田くんは呆気に取られているが、妹は話し続ける。
「何して遊ぶ?ゴルフにポーカー、それとも麻雀?」
「君はずいぶん難しい遊びが好きなんだね…」
「裁判ごっこでもいいわよ。それともナイフでお手玉?」
「そ、そんな危ない事は嫌だ!」
「大好きなお兄ちゃん、私といっぱい遊んでくれるでしょ?」
栗田くんは怒鳴り声を上げた。
「君とは遊んでやらないぞ!ぼくに妹はいないんだ!」
すると、妹は泣き出した。
「ひどーい!お兄ちゃんは私が嫌いなのね!
私の存在を否定するなんて!私はこうしてお兄ちゃんと合体してるのに!」
「悪かった!ごめん!」
謝っても、妹は泣き止まない。
「もう、どうすればいいんだ…」
その時、栗田くんのしっぽが動き始めた。中からは泣き声がする。
「な、なんだ!?」
しっぽが開き、中から生まれたてで毛皮のないシマリスが20匹も湧き出てきた。
「い、いったいあれは…」
お腹から生えている妹が、泣きながら答えた。
「ひどいわ、お兄ちゃん!弟たちまで忘れるなんて!」
「弟たち!? あんなの知らないよ!うちに子供はぼくしかいないんだ!」
「もう、お兄ちゃんの意地悪!さあ、今すぐ世話をしてあげて!」
「子育てなんて知らないよ!」
困り果てる栗田くんを前に、弟たちは号泣し続ける。
それを聞いているうちに辺りが暗くなり、また意識を失った。
[newpage]
[chapter:タイタンブルク号の旅]
かすかな揺れを感じて、栗田くんは意識を取り戻した。
また場面が変わっている。今度は乗り物に乗っていた。
機関車のようだが、横には翼、後ろにはスクリューといかり、その他クレーンやプロペラなどが付いている。屋根や壁はない。
「いったいどこに向かっているのかな…」
何気なく言うと、乗り物から声がした。
「タイタンブルク号へのご乗車ありがとうございます。この乗り物はどこへ行くのかわかりません。無事にたどり着けるかもわかりません。」
「いったいここはどこですか?」
「ここはあなたの知らない世界。何が起こるかわからないのが当たり前の世界です。」
よくわからない回答だった。
景色を見ても、どこかわからない。
夜空が広がり、一部分には暗雲が立ち込めて雷が鳴っている。
それ以外の部分には星が輝き、月も出ている。
しかしその月は奇妙な欠け方だった。まるで8枚切りのピザから2枚をランダムに抜いたような見た目だ。
また別の場所には虹がかかっているが、それも目が痛くなるようなどぎつい色をしている。
空の下には山が並び、タイタンブルク号は未舗装の地面を走っている。周囲に建物やケモノは何1つ見えない。
旅は続く。山を越え、つり橋を渡り、海沿いも走った。
海上には静かな波が立っていたが、それを見ても心は晴れなかった。
「なんだか、胸騒ぎがするよ…」
やがて不安が的中。タイタンブルク号が異音を立て始めた。
「エンジンに異常発生。この乗り物はまもなく爆発します。」
栗田くんは降りようとしたが、崖を走っているため降りる事ができない。
「助けて、助けてー!」
「もうあなたは助かりません。さようなら。」
大きな爆発音が響いた。
[newpage]
[chapter:食べられないお菓子]
栗田くんが気がつくと、床に寝ていた。
「今度はどこだろう?」
そこは立派な洋風の部屋だった。天井にはシャンデリアが吊るされ、大きな窓からは日光が差し込んでいる。
栗田くんの横には大きなテーブルがあり、その上からは甘い香りが漂ってくる。
「とってもいい香りだ!何だろう?」
起き上がってテーブルの上を見た彼は、喜びの声を上げた。
「わあ、これはすごい!」
テーブルの上にはお菓子が並んでいる。巨大なケーキにゼリー、チョコレート、ビスケット、マカロン、キャンディ、各種ジュース…
その上、「好きなだけ食べてください」と書かれた看板まで立っている。
食いしん坊の彼は目を輝かせ、大きなお腹をグーグーと鳴らした。
「これを全部食べていいんだ!嬉しいな!」
栗田くんは椅子に座った。
「いただきます!さあ、何から食べよう?」
しばらく考えて、大きな棒付きキャンディーを手に取った。
「こんな大きいの、一度食べてみたかったんだ!」
満面の笑みを浮かべ、棒付きキャンディーを口に入れた。
ところが、口の中に入った物は棒だけ。
「あれ?おかしいな…」
キャンディーをもう1本食べてみたが、やはり口に入るのは棒のみでキャンディーの部分は消えてしまう。
次はオレンジジュースをコップに注いで飲んだが、コップを口につけた瞬間にジュースは消えてしまった。
「どういう事だ…でもあきらめないぞ!」
栗田くんは他の皿に手をつけた。これほど多くのお菓子があるから、1つか2つは普通に食べられるかもしれない。
「もう!どうなってるんだ!これは!」
お菓子を食べ続けるが、何も口に入らない。
ケーキもチョコレートもマカロンも、手に取ったり香りを楽しむ事はできるが、口に入れると空気のように消えてしまう。
何も食べられないため空腹でたまらず、ついに倒れてしまった。
[newpage]
[chapter:栗田くんの森]
差し込んでくる日光で、栗田くんは目覚めた。
今度は森の中にいた。空は澄み渡った青空で、周りは緑にあふれている。
「やっと平和な場所に来た!いい天気だ。」
その時、空から返事が来た。
「ね、いい天気でしょ?」
やけに聞き覚えのある声だ。
「今のは…ぼくの声だ!」
空を見ると太陽が輝いていたが、その中には栗田くんの顔が浮かんでいる。
「ああ、やっぱりここもおかしな場所だ!」
恐ろしくなって顔を下げると、地面からも声が聞こえた。
「きれいに咲いたよ!見て!」
そこには花が咲いていたが、その中にも栗田くんの顔がある。
「ぼくを食べてごらん。甘くておいしいよ!」
木の枝には、栗田くんの顔が木の実のようにいくつも実っている。食いしん坊の彼でも、自分の顔を食べる気は起きなかった。
「どうだい、このさえずりは?」
「ぼくを踏まないように気をつけてね。」
「いい気分だよね!」
鳥も、虫も、木の葉の1枚1枚に至るまですべて栗田くんの顔だ。それらがひっきりなしに話しかけてくる。
「ああ、こんな場所にいたら頭がおかしくなっちゃうよ!」
騒いでいると、また辺りが暗くなって意識も途絶えた。
[newpage]
[chapter:偽の友達]
気がつくと、そこは荒野だった。空は月や星も見えないほど暗い。
「もうこんなの嫌だよ。早く家に帰して…」
うずくまって泣いていると、聞き慣れた声がした。
「栗田くん、そこで何してるのかしら?」
「もう大丈夫だよ。ぼくたちがついてるよ。」
「その声は…真里ちゃんと稲荷山くんだ!」
白猫の金子 真里ちゃんとキタキツネの稲荷山 紺助くんは、共に彼のクラスメイトだ。
「ああ、助かった!ここがどこか知らないけど、友達といれば大丈夫だ!」
栗田くんは安心して顔を上げたが、直後に上げた事を後悔した。
そこに立っていた物は、2つの物体だった。
卵型で、栗田くんよりも少し小さい。毒々しい色合いの不気味な模様で覆われ、ゴムのように柔らかく揺れ動いている。
それらが真里ちゃんと稲荷山くんの声で話している。
「私たちがついてるキュロキューロガーピェリン!」
「友達といれば怖くないミュフェギュゴヴァーゴビューロン!」
2つの物体は聞き慣れた声で意味不明な言葉を言いながら、近づいてくる。
「こんなのは偽者だ!ぼくの友達はこんな姿じゃない!」
パニックになって逃げ出すと、2つの物体が追いかけてきた。
「友達の助けを断るなんてひどいわマッグーイウグヌゼオイヂ!」
「お前を見損なったパルチェリヌヂュエワキベスギャメビ!」
[newpage]
[chapter:絶望の穴]
「助けて!元の世界に返して!」
逃げていると、穴に落下した。
「うわーっ!」
穴はとても深く、どれだけ落ちても終わりが見えない。
その上、落ちていく途中でまた異変が起きた、体がスライムのように柔らかくなり、変形していく。
不気味な声も響いてきた。
もうお前は目覚めない…
一生闇の中で眠るんだ…
お前はもう光を見る事も、音を聞く事もない…
さらば、栗田 永雄…
その声を聞きながら、栗田くんは考えた。
(ぼくはもう大上区に帰れないんだ。ずっとこのおかしな世界で暮らすんだ…)
やがて栗田くんは穴の底にたどり着いた。
しかしその姿は、茶色い立方体と化していた。
話す事も動く事もできない。光も音も感じられない。考える事しかできなかった。
(ぼくはずっとこのままなのかな…こんなの嫌だよ…
シマリスに戻りたい。そしてまた学校に通って、友達と遊んで、おいしい物をたくさん食べて、のんびりして…
ああ、とにかくいつもの日常に戻りたい!また家族や友達に会いたい!誰か助けて!ここに来て…)
しかし次第に思考も曖昧になり、何もわからなくなった。
[newpage]
[chapter:終わりと始まり]
差し込んでくる日光で、栗田くんは意識を取り戻した。
「ん…ここはどこだろう…まだおかしな世界にいるのかな…」
恐る恐る目を開けると、そこはベッドの中だった。
「でもまだ油断はできないぞ。窓の外は…」
カーテンを開けると、抜けるような青空と静かな住宅街が見える。いつもと変わらない景色が広がっていた。
「ああ、良かった…」
洗面所に向かい、恐る恐る鏡を覗きこむ。自分の姿は普段通りだった。
「良かった…」
朝の支度を済ませ、1階に下りた。テーブルにはトーストやサラダなどいつも通りの朝食が並び、両親も普段通りだ。
(生肉じゃなくて良かったけど、食べても消えないよね…)
栗田くんは恐る恐るトーストをかじった。
「ああ、おいしい…」
トーストの味が口に広がり、彼は心から安心した。
(もう悪夢は終わったんだ…ここは現実なんだ…
それにしても、本当に怖い夢だったよ。またあんな夢を見たらおかしくなっちゃう…)
栗田くんは普段通りに学校へ行った。
学校で楽しい時を過ごしたが、その間も悪夢の事ははっきりと脳裏に焼きついていた。
夜になり、寝る時間が来た。
「おやすみなさい…」
「おやすみ、永雄。なんだか元気がないわね。」
「大丈夫か?」
「気にしないで。おやすみ…」
彼は睡眠が怖かった。
その夜は、ベッドに入っても寝つけなかった。
(寝たら悪夢を見てしまう…今夜はずっと起きていよう…)
恐怖と戦いながらベッドの中で過ごし、眠りについた時は翌朝4時だった。
そのような生活が何日も続いた。
[newpage]
[chapter:エピローグ]
あれから1週間…
栗田くんは不眠症になっていた。目は落ちくぼみ、毛皮は乱れている。
日中は何度も眠気に襲われ、勉強や遊びも満足に楽しめない。
旺盛だった食欲も落ち、次第に痩せてきた。
常に震えており、寝る時間が近づくと元気がなくなる。
以前の元気な面影は消えていた。
「永雄、最近元気がないしげっそりしてきたわね。どこか悪いの?」
「心配しないで、大丈夫だからね…」
「いや、どう見てもおかしいぞ。何か悩みでもあるのかい?」
「気にしないで。お父さんとお母さんには関係ない事だから…」
両親は心配するが、栗田くんは言い出せなかった。
4年生にもなって「悪夢のせいで眠れない」と言う事は恥ずかしく感じた上、両親を心配させたくはなかった。
一夜の悪夢で心も体も傷つけられた栗田くん。
果たして、彼はどうなるか…
[chapter:次回に続く]