第15話「ウルフデパートでお買い物」

  [chapter:ウルフデパートに行こう!]

  ここはケモノ界のさいたま市大上区。時は2月のある日曜日。

  太ったキタキツネの稲荷山 紺助くん(小学4年生)と妹の稲荷山 万梨阿ちゃん(3年生)が宿題に励んでいると、母親が呼んだ。

  「紺助、万梨阿!ウルフデパートへ買い物に行かない?」

  2匹は喜んだ。

  「ウルフデパート?やったー!」

  「デパート大好き!」

  「何買おうかな?」

  小さなバッグを持ち、玄関へ向かう。

  「ほら、お兄ちゃんも早くおいでよ!」

  「ぼくは太ってるから、ゆっくり行くね。」

  ウルフデパートはこの近辺で一番大きな商業施設だ。休日には大上区の住民で賑わっている。

  稲荷山一家は楽しそうに住宅街を歩く。

  「お昼ご飯、楽しみだな!」

  「私はおもちゃが欲しい!」

  「お母さんは何にしようかしら。」

  楽しみ方は別々のようだ。

  住宅街を抜けると、高い建物が増えてきた。大上駅の東口に近づいている。

  大きな城を模した食べ放題レストラン、フード・キャッスル。

  4階建てのゲームセンター、タイガー・ステーション。

  カラオケのビッグネコー、パチンコのラクーン、ボウリング場のラビット1…東口は娯楽施設やレストランが並ぶにぎやかな場所だ。

  稲荷山一家は大上駅の構内へ。ここは埼玉で一番のターミナル駅だ。

  中はかなり広く、大勢のケモノが歩いている。

  改札口から出てきたツキノワグマの家族、新幹線の改札を通る太った三毛猫の老女、落とし物を取りに案内所へ向かうマッチョな水牛の男性…

  「今日も賑わってるね。」

  「そうよ。ここは昔から賑やかだったの。

  お母さんが高校生の頃は電車で大上高校に通ってたんだけどね、その当時から毎朝こうだったわ。」

  構内を抜け、西口のペデストリアンデッキへ出た。この辺りは高層ビルが立ち並んでいる。

  一番高いビルは大上スピードシティ。日光を受けて輝いている。

  それと反対側の通りにある建物が、ウルフデパートだ。

  建物の上には大きな赤い文字で「WOLF」と書かれている。ロゴマークは赤丸の中に狼の横顔が描かれた物。

  入り口の左側にあるエレベーターシャフトはガラス張りで、外からは乗客がよく見える。

  「さあ、着いたぞ!」

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  [chapter:デパートの中へ]

  稲荷山一家はデパートに入った。ペデストリアンデッキと直結した2階には化粧品やアクセサリー、香水などが売られている。

  「わあ、この指輪きれい!」

  万梨阿ちゃんはショーケース内の指輪に夢中だ。

  「素敵な指輪ね。でもこんな小さいのに10万円もするのね…」

  「そうね、お母さん。うちがもっとお金持ちなら買えたのにね。」

  「指輪じゃお腹はいっぱいにならないよ。ぼくなら10万あれば全部食べ物に使うね。」

  「お兄ちゃん、やっぱり食いしん坊!」

  その時、声をかけられた。

  「こんにちは、稲荷山家の皆様。」

  「あ、スカンダーさんだ!」

  声の主はタキシードを着たスカンクだった。

  彼はグリムズ・スカンダー。雪見家(ホッキョクギツネ)の執事だ。

  「スカンダーさん、今日はどのような要件でここへ来たのですか?」

  「お嬢様に頼まれて、指輪を買いに来ました。」

  それは先ほどまで万梨阿ちゃんが見ていた指輪だった。

  「あれを簡単に…すごいですね、スカンダーさん!」

  「ええ。理沙様なら10万円などすぐに用意できますから。」

  「やはりセレブは違うね…」

  スカンダーと別れ、エスカレーターで3階へ。ここは女性用の服売り場だ。

  「お母さん、ちょっとここで服を見るわね。紺助と万梨阿も付き合ってくれる?」

  「もちろん!」

  「…うん、わかった。」

  万梨阿ちゃんは乗り気だが、稲荷山くんは退屈そうだ。

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  [chapter:退屈な稲荷山くん]

  「この服素敵だね!私、大きくなったら着てみたいな…」

  「万梨阿はきっと、その服が似合うようになるわ。」

  「お母さんにはこれが似合うんじゃない?」

  「ありがとう。でもデザインがちょっと派手すぎるかしら…」

  「このしっぽアクセも可愛い!」

  「これを着けて歩いたら、みんな振り返りそうね。」

  万梨阿ちゃんと母親はファッションに興味があるため、楽しそうに話している。

  しかし、稲荷山くんは大して興味がない。そもそも3階に男性用の服は陳列されていない。

  (ああ、早く選んでくれないかな…

  ぼくの好きな格好は、やっぱりTシャツだな。お腹出してる方が涼しくて気持ちいいよ。)

  彼はシャツに収まらない太鼓腹を撫でた。

  20分ほど服を見て、ようやく4階に上がった。しかし、こちらも女性用の服ばかり。

  2匹はまだ服を選んでいるが、稲荷山くんはますます退屈な表情になった。

  (ああ、まただ…もうお腹がペコペコでたまらないよ…)

  彼のお腹は、先ほどからグーグー鳴り続けている。

  (早くお昼が食べたいな…)

  その時、聞き慣れた声がした。

  「こんにちは、稲荷山くん。ここでは何を?」

  声の主は、クラスメイトの金子 真里ちゃん(白猫)。今日は母親、弟の雄二くん(1年生)と共に来ている。

  「こんにちは、真里ちゃん。買い物の付き添いで来てるんだ。でもお母さんと妹ばかり盛り上がってるから退屈なんだよ…」

  「そうなの。これから先に楽しみはあるかしら?」

  「お昼かな。それとおもちゃ売り場!あと漫画も欲しいな!」

  「たくさんあるわね。それについて考えると時間つぶしになるわよ。」

  「そうか。ありがとう!」

  「良かったわ。それじゃあね!」

  真里ちゃんと別れた稲荷山くんは、食事や漫画の事を考えて時間をつぶした。

  「紺助、お待たせ。」

  母親が呼びに来た。2着の服が入った袋を持っている。

  「お母さん、次はお昼?」

  「そうよ。紺助の食べたい物にするわね。」

  「やったー!待ってましたー!さあ行こう!」

  稲荷山くんは元気になり、エレベーターホールへ向かった。

  「お兄ちゃん、食べ物の事になると元気出るよね…」

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  [chapter:レストラン街へ]

  しばらく待っていると、エレベーターが到着。稲荷山一家の他には、虎の家族と太った中年のカラカルが乗っている。

  レストラン街は9階だが、そのボタンはすでに押されていた。

  ドアが閉まり、エレベーターが上がり始めた。稲荷山くんと万梨阿ちゃんは窓から景色を眺めている。

  「フード・キャッスルが見えてきたよ!」

  「ケモノ小学校埼玉校も見えた!」

  「お家も見えるね!」

  「あっ、大上駅に新幹線が入ってきたよ!」

  エレベーターはすべての階で止まり、そのたびに客が乗ってきた。黒猫の女子高生、かなり太ったサイの中年女性、ぽっちゃりした柴犬の家族…

  8階を出発した頃には、客で埋まっていた。

  9階のドアが開くと、客は一気に外へ。

  「今日は何を食べようかな?」

  稲荷山くんも胸を踊らせながら、レストラン街へ足を踏み入れた。

  和食、洋食、中華、ベトナム料理、喫茶店…昼下がりのため、どこも賑わっている。

  好きな店を選んでいいと言われた彼は、目を輝かせつつ案内図を見ている。

  「どれがいいかな?お寿司も食べたいし、うな重もおいしそうだし、ステーキなんかもいいし…

  ああ、目移りしちゃって決められないよ…」

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  [chapter:昼食の時間]

  なかなか決まらないため、母親が助け舟を出した。

  「紺助にはお腹いっぱい食べられる店がいいんじゃないかしら。」

  「うん、もう腹ペコだし…そうだ、あそこがいい!」

  稲荷山一家が向かった店は、中華バイキング「老虎飯店」。90分制限の食べ放題だ。

  ここにも多くの客が列を作っている。稲荷山一家も最後尾に並んだ。

  「やあ、稲荷山くん!」

  突然の声に振り向くと、太ったシマリスの男の子が標準体型の両親と共に立っていた。クラスメイトの栗田 永雄くんだ。

  「栗田くん!君も買い物?」

  「そうだよ。お昼にしようと思ってこの階に来たら稲荷山くんたちがいたから、同じ店で食べようと思って後をつけたんだ。」

  「これは嬉しいサプライズだね。一緒にたくさん食べよう!」

  並びながら会話を楽しむうち、稲荷山一家の番が来た。

  「ああ、やっとお昼だ!」

  稲荷山くんは喜びの声を上げながら店内へ。

  「紺助、万梨阿、思いっきり食べるのよ。」

  「もちろん!」

  「たくさん食べようね、お兄ちゃん!」

  席に案内されると、稲荷山くんと万梨阿ちゃんは早速皿を山盛りにした。

  チャーハン、エビチリ、春巻きに蟹玉…

  「ああ、やっと昼食にありつけたよ…」

  「もうお腹ペッコペコ!いただきまーす!」

  2匹は目を輝かせ、料理を頬張った。

  「いつもよりおいしく感じるよ!」

  「やっぱり空腹は最高の調味料だね!」

  「いくらでもおかわりできちゃう!」

  「気分最高!」

  母親も料理を食べつつ、2匹の子供を眺めていた。

  「やっぱり子供にはたくさん食べさせてあげなくちゃね。」

  「んー、おいしくて心から叫びたいぐらいだ!」

  栗田くんも同様に、山盛りの料理を頬張っている。

  稲荷山一家とは離れた席に座っていたが、頬張る合間に稲荷山くんを眺めていた。

  「永雄が元気に食べる姿を見ると、嬉しくなるわね。」

  「好きな事に夢中だからな。」

  両親も微笑んでいる。

  90分後、稲荷山一家は店を出た。

  「うーん、食べた食べた!満足だ…」

  「私もお腹いっぱい。ちょっと苦しいけどとっても幸せだね。」

  稲荷山くんと万梨阿ちゃんは相当な量を食べたため、お腹はパンパンに膨らんでいた。母親のお腹は少し突き出た程度だった。

  「動くのが大変だよ…お腹が落ち着くまでベンチで休まない?」

  「私も歩きにくいから、しばらく休みたいな。」

  万梨阿ちゃんは細身のため、大きなお腹には慣れていない。

  「そうね。お母さんはそんなに疲れてないけど、30分ぐらい休みましょうか。」

  栗田一家も少し遅れて店を出た。案の定栗田くんのお腹も膨らんでいる。

  「ゲープ、もうお腹いっぱいだよ…しばらく休もう。」

  ベンチで休む稲荷山くんと万梨阿ちゃんを見つけると、隣に座った。

  「稲荷山くん、ぼくと同じぐらい食べたんだね。」

  「あ、栗田くん。満足するまで食べたよ。お腹がこんなに膨れちゃった!」

  「ぼくもポンポコリンになっちゃったよ。もう動くのも大変さ…」

  大量に食べれば眠くなる。3匹の子供はいつしか眠っていた。

  「可愛い寝姿ね。」

  稲荷山くんの母親は、その様子を撮影した。

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  [chapter:ペットショップと屋上]

  30分ほどして、3匹は昼寝から目覚めた。

  「ああ、よく寝た…体力回復だ!」

  「お腹も軽くなったね。」

  「さあ、そろそろ行きましょう。」

  「上のフロアに行こう!」

  お腹の落ち着いた稲荷山一家は、上りエスカレーターに乗った。栗田一家は下りエスカレーターへ。

  10階にはペットショップが入っていた。

  爬虫類や熱帯魚、鳥類が並んでいる。当然だが犬や猫などの哺乳類は売られていない。

  「お兄ちゃん、カナリアの鳴き声ってきれいだよね!」

  「金魚もきれいだね。」

  「お母さんも昔金魚飼ってたのよ。世話が楽で良かったわ。」

  「イグアナをペットにしたら、みんな驚くだろうね!」

  しばらくペットを物色したが、実際に飼う予定はないため何も買わなかった。

  「今度は屋上からの景色を見よう!」

  すぐそばのドアから屋上へ。広大なスペースで、フェンスからは外が見渡せる。

  「ここからの眺めは最高だ!」

  「エレベーターよりも高いからね!」

  「あっちの方は隣の川獺市よ。」

  一家は景色を見ながら、様々な事を話し合った。

  「知ってる?昔はここに遊園地があったのよ。」

  「この何もない広場が?」

  「コーヒーカップや汽車、ゲームコーナーなどがあって、たくさんの子供で賑わっていたわ。でも紺助が生まれるちょっと前に閉鎖されちゃったの。」

  「そうなんだ…行ってみたかったな。」

  「でもその頃は、景色を見に来るケモノは少なかっただろうね。」

  「今はこうして静かに景色が見られるから、こっちもこっちでいいよね!」

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  [chapter:稲荷山くんの買い物]

  屋内に戻り、エスカレーターで8階へ。

  「よし、新しい漫画を買おう!」

  稲荷山くんを先頭に、一家は書店へ。

  「さあ、どの漫画を買おうかな?」

  漫画のコーナーに行くと、また栗田くんに会った。

  「あ、栗田くんも買うの?」

  「そうだよ。さっきまで選んでいたけど、どれにするか決めたんだ。」

  2匹は目当ての漫画を手に取り、会計を済ませると親の所に戻った。

  「お兄ちゃん、漫画買えたんだね。」

  「うん。最新刊が買えて良かったよ。」

  「良かったわね。さあ、下に行きましょう。」

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  [chapter:フロアを下へ]

  次に向かった場所は7階。ここには家具や食器が売られている。

  「わあ、立派な椅子!」

  「見て。500キロまで耐えられるんですって。」

  「太ったケモノは多いから、これぐらいは必要だよね。」

  「これはヤマアラシ用のベッドか。」

  「針が刺さらないように固く作ってあるんだね。寝心地いいのかな?」

  「こっちの体重計は、1トンまでいけるみたい!」

  「学校でもこれ使ってるんだ。」

  会話を楽しみながら、商品を物色した。

  次は6階へ。ここには紳士服やスポーツ用品、楽器などが売られている。

  肥満率の高いケモノ界では相撲が盛んだ。スポーツ用品売り場にはまわしも並んでいる。

  「あ、猫山くんが来てる!」

  「稲荷山くん、こんにちは。」

  声をかけた相手は、黒猫の猫山 苗太くん。隣のクラスだが、稲荷山くんと同じ相撲部員のため仲が良い。

  彼も家族で来ている。肥満体の父親にぽっちゃりした母親、丸々とした弟の折葉くん(1年生)。

  折葉くんは町内の相撲教室に通い、父親も若い頃は相撲の全国大会で何度も優勝した。母親も高校時代は女子相撲部員。見事な相撲一家だ。

  「猫山くんは何を買うの?」

  「折葉が家で使うまわしさ。あいつが家で稽古をする時はパンツ姿なんだけど、やっぱりまわしの方が気分が出るみたいなんだよ。

  それに折葉はまわしがうまく締められないから、家でも練習したいんだって。」

  「ぼくも最初は難しかったよ。慣れておくのは大切だね。」

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  [chapter:おもちゃ売り場]

  猫山一家と別れて5階へ。ここには子供服やおもちゃが売られている。

  「わーい!やっとおもちゃ売り場だー!」

  万梨阿ちゃんは大喜びで走っていった。稲荷山くんと母親が後を追う。

  彼女の行く先には、数多くのおもちゃが並んでいた。

  ブロック、ミニカー、ぬいぐるみ、ゲームソフト、プラモデル…子供たちで賑わっている。

  「万梨阿は何を買う?」

  「そうね…ゴールデンファミリーの家具がいい!」

  ゴールデンファミリーとは、ヨーロッパ風の村に暮らすケモノたちをかたどったドールのシリーズ。女の子の間で有名なおもちゃだ。

  (どの家具にしよう…ベッドは持ってるから、テーブルかな?でもそれだけあっても微妙だし…)

  その間に稲荷山くんは他の棚を物色。ラジコンのコーナーでまた友達に会った。

  「あ、新井くんだ!こんにちは!」

  「こんにちは、稲荷山くん。ここで会うなんて奇遇だね。」

  ぽっちゃりしたアライグマの新井 楽くん。彼も相撲部の仲間だ。

  「今日は栗田くんと猫山くんにも会ったんだよ。」

  「へえ、やっぱり休日はみんなここに来るんだね。」

  「そうだね。ところで新井くんは何を買うの?」

  「ヘリコプターのラジコンだよ。」

  「新井くんはもう20台もラジコン持ってるんだっけ?」

  「そう。でも高いから年に少ししか買えないよ。今年買うのはこれが初なんだ。」

  「良かったね。」

  「じゃあ、ぼくはレジに行くね。」

  稲荷山くんは家族の所に戻った。

  「お待たせ。さっき新井くんと会ったよ。」

  「そう。今日はお友達がたくさん来てるわね。」

  「万梨阿は何を買うか決めた?」

  「本棚に決めたよ。」

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  [chapter:楽しかった1日]

  おもちゃの本棚を買い、2階へ。もう帰る時間だ。

  「楽しい1日だったね。みんな欲しい物が買えたし、おいしい物もいっぱい食べられた!」

  空は夕焼けに染まり始めている。稲荷山一家はそれぞれ服、漫画、ドールハウス用の本棚を持ち、家へ向かった。

  その背後では、ウルフデパートのネオンが輝いていた。

  [chapter:おしまい]