[chapter:プロローグ]
ここはケモノ界のさいたま市大上区。時は12月のある月曜日。
太ったシマリスの栗田 永雄くん(4年生)が、ケモノ小学校埼玉校から帰ってきた。
「ただいま。」
「永雄、お帰りなさーい!」
出迎えてくれた母親は、妙にテンションが高い。
「お母さん、どうしたの?」
「懸賞が当たったの!東京ウルヴァリンホテルのスイートルームに1泊できるのよ!」
「あの超高級ホテル!? しかもスイートルームだって!?
豪華な食事、広い部屋、ふかふかのベッド、きれいな夜景…楽しみだ!」
栗田くんは喜びの表情を浮かべたが、それはぬか喜びに終わった。
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「…待って、続きがあるの。成獣2名しか泊まれないのよ。残念だけど永雄は行けないわ。」
彼の顔から笑いが消えた。
「え、そうなの?がっかりだ…」
「次の土日にお父さんと泊まってくるの。」
「すると…まさか土日はぼくだけで留守番!?」
「大丈夫よ。永雄はその間、川獺市のおじいちゃんとおばあちゃんに預かってもらうわ。」
「そうか。良かった!」
栗田くんの祖父母は父方、母方共に健在だ。
父方は富山県在住のため、交流は少ない。
一方、母方は川獺市(さいたま市の隣)在住。そのため交流が多い。
(ホテルに行けないのは残念だけど、おじいちゃんとおばあちゃんの所ならいいや。どっちも優しいから大好きさ。)
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[chapter:1匹だけの小さな旅]
日が流れ、土曜日の午前中。栗田くんはリュックサックに必要な物を詰めていた。
着替え、パジャマ、歯ブラシ、電車賃、ゲーム機…なお、宿題は前日に終わらせている。
昼食後、栗田一家は大上駅へ。栗田くんは切符を買い、両親と別れた。
「永雄、行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「楽しめよ。」
「もちろん!お父さんとお母さんも楽しんでね!それじゃあまた明日!」
それから両親は東京方面、栗田くんは川獺市方面の電車に乗った。休日のため、車内は賑わっている。
1匹で母親の実家に行く事は、今日が初めてだ。
(川獺駅で降りればいいんだよね。それまではゆっくり暇つぶしだ。)
栗田くんは席に座り、ゲームを楽しんだ。
大上駅を出発した電車はゴルフ場や田畑の中を通り過ぎ、20分ほど経って川獺駅に到着した。
電車を降り、駅の東口へ。大上駅より小さいがこちらもペデストリアンデッキがあり、大型商業施設のotterを始めとするビルが並んでいる。
デッキを降りてビルの間を抜け、10分ほど歩くと住宅街に出た。しばらく歩いて目的の家へ。
(さあ、着いたぞ!)
栗田くんはインターホンを押した。
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[chapter:祖父母との出会い]
ドアが開き、祖父母が迎えてくれた。
「おお、永雄!よく来たな!」
「いらっしゃい。永雄の好きな物、たくさん用意したわよ!」
祖父は栗田くん以上の肥満体で、縦横に大きい。シャツからはお腹の大部分が覗き、中心には巨大な出べそが付いている。
祖母はぽっちゃり体型で、シマリスとしては太っているが栗田くんよりは細い。お腹も服に収まるサイズだ。
「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは。」
栗田くんは家へ入った。
靴を脱いで手を洗っていると、祖母が呼んだ。
「永雄、おやつの準備ができたわよ!」
「わあ、ありがとう!何だろうな…」
お腹を空かせた栗田くんはリュックサックを2階の部屋に置き、テーブルへ向かった。
そこにはシュークリーム、プリン、コーヒーゼリー、カステラ、ショートケーキ、チョコレートが並んでいた。
「すごい!こんなにいっぱいありがとう!」
栗田くんはおやつを夢中で頬張った。口の周りがクリームまみれになる事も気にしない。
「ああ、甘い、おいしいっ!ぼくは幸せだよ!」
15分後、彼はおやつをすべて平らげた。口の周りに付いたクリームやチョコレートをなめ取り、少し膨らんだお腹をなでる。
「食べた食べた…ごちそうさま!」
「やはり永雄は甘い物が好きね。」
「そう!食べると幸せな気分になるんだ!」
「私も子供の頃はあんみつとか団子が大好きで、よく食べていたのよ。」
「うん、和菓子もいいよね。」
「永雄のお母さんもね、子供の頃は甘い物が大好きだったから太っていたのよ。今の永雄と同じぐらいかしらね。」
「そうらしいね。お母さんの昔の写真はそうだったよ。高校を卒業してからダイエットして細身になったけど。」
「永雄の食欲はお母さんに似たのね。」
「きっとそうさ。ぼくはこの太った体が好きだよ。相撲では有利だし、胃も大きいからたくさん食べられる!」
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[chapter:初めての銭湯]
歯を磨き、部屋で休んでいると祖父が呼びに来た。
「永雄、わしと銭湯に行くか?」
「行こうかな。銭湯なんて初めてだよ!」
「そうか。わしも永雄と行ける日が来るのを楽しみに待っていたんじゃ。」
栗田くんと祖父はタオルを持ち、夕焼け空の下を歩いて銭湯へ向かった。
「ここじゃよ。」
「わあ、レトロ…」
その銭湯「狸の湯」は昭和の雰囲気が残る建物だった。祖父はここの常連だ。
受付で料金を払い、脱衣所へ。かなり太った中年のツキノワグマや、筋肉質なカンガルーの若者など数匹が服を脱いでいる。
「思ったよりお客さんがいるね。」
「今でもこの雰囲気が好きなケモノも多いんじゃよ。さあ、入ろう。」
裸になった栗田くんと祖父は、男湯への扉を開けた。
洗い場が並び、いくつかの浴槽が置かれ、壁には富士山が描かれている。
10頭ほどの客が体を洗ったり、浴槽に入っている。
「永雄、あれがわしの銭湯仲間じゃよ。」
祖父は教え、呼びかけた。
「おーいみんな、今日は孫を連れてきたぞ!」
一番大きな浴槽に入っているドブネズミ、アライグマ、ハムスターが手を振った。年齢や体型は3匹とも祖父に近い。
「おお、これがお前さんの孫か。よく似てるな。」
「可愛いお孫さんじゃな。」
「よく太っているから、相撲をやっていそうじゃな。」
祖父はかけ湯をして、浴槽に入った。栗田くんも続く。
「紹介しよう。わしの孫の栗田 永雄じゃ。ケモノ小学校埼玉校の4年生で…」
祖父は得意げに語るが、栗田くんは知らないお年寄りに囲まれたため緊張していた。
優しい表情を浮かべているものの、全員が太っているため威圧感が強い。
(なんか居心地悪いな…)
アライグマが質問した。
「相撲部は楽しいか?」
「はい、楽しいです…」
「わしも昔は力士じゃった。相撲の話でもしないか?」
「す、すみません、また今度にします…」
栗田くんは浴槽を出て、洗い場へ向かった。
「行ってしまったな…」
「どうやらこの雰囲気が合わなかったらしいな。やはり同世代と話したいのかもしれん…」
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[chapter:新たな出会い]
栗田くんが体を洗っていると、ハイエナの親子連れが入ってきた。彼の祖父並みに太った父親と、彼と同年代の太った息子だ。
親子連れはかけ湯をすると、隣の洗い場で体を洗い始めた。
(あの子ならぼくと同年代だし、体型も似ているから話しかけやすそうだな。)
「あの、はじめまして。」
ハイエナは答えた。
「ん?ああ、よろしくな。
俺は灰原 永太。川獺小学校に通う4年生さ。君はどこの学校?」
「ぼくは栗田 永雄。隣のさいたま市にあるケモノ小学校埼玉校の4年生で、相撲部所属なんだ。」
「偶然だな!俺も相撲部所属だぜ。
それにそこの相撲部も知ってるぜ!ホッキョクグマの保良 部亜先生が顧問の所だな?」
「保良先生を知ってるんだ!」
「俺んとこの顧問はうさぎの場丹井 楽美斗先生。彼は保良先生と友達なんだ。休憩時間にそんな話をしてたぜ。」
「そういえば、保良先生も友達の話をしていたかな。相撲仲間が多いみたいだね。」
栗田くんと灰原くんは完全に打ち解け、相撲部の話で盛り上がった。
体を洗い終えると、2匹は浴槽に入った。灰原くんの父親も続く。
「永太に新しい友達ができたのか。良かったな。」
「隣のさいたま市から来たんだぜ。この子も相撲部所属さ。」
「さいたま市から?」
「はい、そうです。母の実家に預けてもらったのでここに来ました。」
「そうか。銭湯は初めてかい?」
「はい。いい場所ですね。」
栗田くんは灰原父子と会話を楽しんだ。
「永雄、そろそろ上がろうかの。」
「うん。」
「わしは先に帰る。みんな、また会おうな。」
栗田くんと祖父、灰原親子は浴槽から出た。銭湯仲間の3匹は体を洗っている。
4匹は全身ドライヤーの部屋に入り、体を乾かした。
「永雄、わしのしっぽを乾かしてくれ。」
「わかったよ、おじいちゃん。自分じゃ手が届かないもんね。」
栗田くんは祖父の長いしっぽを手で触り、よく乾くようにした。
服を着てロビーに戻ると、祖父は自動販売機の前へ。
「風呂上がりにはココナッツミルクが一番じゃ。永雄の分も買ったぞ。」
「ありがとう、おじいちゃん!」
栗田くんと祖父はベンチに座り、ココナッツミルクを飲んだ。灰原親子も横で飲んでいる。
「うーん、甘い!風呂上がりに飲むと一層おいしいね。」
「そうじゃろう?わしも大好きじゃ。」
喜ぶ栗田くんは、灰原くんにも話しかけた。
「灰原くんもここによく来るの?」
「そう、父ちゃんも俺も銭湯が好きなんだ。ココナッツミルクも毎回飲んでるぜ。」
「甘くておいしいよね!ぼくも好きだよ。」
「俺たち、気が合うな。」
外に出ると空は暗くなり、星が輝いていた。
「おじいちゃん、ありがとう。新しい経験と新しい友達ができて良かったよ!」
「銭湯は交流ができる場所でもあるんじゃよ。わしの友達も銭湯で話しかけた事から交流が始まったからな。」
「灰原くん、今日は楽しかったね。また会おうね!」
「ああ!いつになるかわからないけどな。」
月明かりの下、2組はそれぞれの家に帰った。
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[chapter:夕食の時間]
「ただいま。」
「ただいま、おばあちゃん。」
「お帰りなさい。楽しかった?」
「もちろん!銭湯があんなに楽しい場所だとは知らなかったよ!」
「まあ、そうなの。良かったわね。
ちょうど夕食ができた所よ。たくさん食べてね!」
「わーい!ありがとう!」
夕食が始まった。テーブルにはご飯やみそ汁、煮物、天ぷらや稲荷寿司などが並んでいる。いずれも大盛りだ。
「この天ぷら最高だよ!やっぱりおばあちゃんは料理が上手だね!」
「永雄はいつもそう言うわね。ありがとう。」
「この稲荷寿司、稲荷山くんにも食べさせてあげたいな…」
「ああ、永雄のお友達の狐さんね。きっと喜ぶでしょうね。
永雄、学校は最近どう?」
「いつも通りだよ、おばあちゃん。
もう4年生を4回もやっているから、勉強なんてすっかり覚えちゃったよ。体育は苦手だけどね…
でも学校に太った子は多いから、体育の成績評価は甘いんだ。」
「私が子供の頃もそうだったわ。今も変わらないのね。」
3匹は食事を楽しみながら、会話を続けた。
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[chapter:それぞれの夜]
栗田くんの両親は、東京ウルヴァリンホテルのスイートルームから夜景を眺めていた。
窓からは数多くの高層ビルや東京ハイタワー、東京ジラフタワーが見え、はるか遠くには東京湾も見える。
「素敵な夜景ね…」
「10億円の夜景ってとこかな。」
「食事は豪華だったし、部屋も眺めも素敵!さすが高級ホテルね!
そういえば、永雄は今何してるのかしら。」
「あっちも夕食が終わった辺りじゃないか?いつもみたいにたくさん食べてそうだな。君の母親は料理を山のように作るからな…」
父親の予想通り。栗田くんと祖父母は大量の料理を完食し、さらにケーキまで平らげていた。
「ああ、お腹いっぱいだわ…」
「ゲーップ…もう食べられないね、おじいちゃん…」
「じゃな。わしも腹がパンクしそうじゃ…」
「でもこの感覚が気持ちいいよね。お腹は食べ物、心は幸せで満たされる…」
「いい例えじゃな、永雄。」
3匹は満腹感に浸りながら、しばらく寝転んだ。
お腹が落ち着くと、祖母は食器の片付けを始めた。栗田くんも少し手伝った。
その後、彼は2階の部屋でくつろいだ。
(あ、昔よく見ていた絵本だ!ここにあったのか。)
押し入れから懐かしい品を見つけ、ノスタルジーに浸っている。
30分後、祖母が呼んだ。
「永雄、お風呂沸いたわよ!」
「はーい!」
パジャマや下着を持って1階に下りると、祖父が待っていた。
「わしと入るか?」
「もちろん!」
栗田くんと祖父は風呂に入った。浴槽は太った2匹が入っても余裕のあるサイズだ。
「永雄、湯加減はどうじゃ?」
「うちよりちょっと熱いかな…でも大丈夫!」
十分温まると、シャンプーで体を洗った。全身に毛の生えている種族は基本的に石鹸を使わない。
「永雄、わしの背中を洗ってくれ。さっきは一緒に洗えなかったからな。」
「わかった、おじいちゃん。」
シャンプーを泡立て、大きな背中に手を伸ばす。
「おお、そこも洗ってくれるのか。わしの手は届かない部分じゃ。」
「気持ちいい?」
「ああ。」
その後も会話を続け、風呂の時間を楽しんだ。
「1日に2回もお風呂に入るなんて、ぼくにとっては珍しい事だよ。」
「わしにとっては当たり前じゃ。」
全身ドライヤーを終えた2匹は、パジャマに着替えながらも会話を続けていた。
「そろそろ寝ようかな。おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
「ぐっすり眠るのよ。」
栗田くんは祖父母に挨拶をして、2階の部屋へ。布団が敷かれていた。
(布団で寝るのは林間学校以来だな。ふかふかで気持ちいい…)
その感覚に浸るうち、眠りに落ちた。
[newpage]
[chapter:2匹で散歩]
翌朝、栗田くんは部屋に差し込む朝日で目覚めた。
着替えなどを済ませて1階に降りると、祖父がテレビでニュースを見ていた。
「次は天気予報です。本日の関東地方は…」
栗田くんはテレビに目もくれず、テーブルに目を向けた。
祖母は朝食の準備中。メニューはご飯、味噌汁、卵焼き、大根おろしを添えた焼き魚。
「おはよう。おいしそうな朝ご飯だね!」
「永雄、おはよう。そしてありがとう。」
「うちの朝はいつもパンだから、こういうのは久々だよ。」
「そうか。ご飯の朝食もいい物だぞ!」
「だよね。たまには違うのもいいよね!」
朝食が始まった。
「んー、この卵焼きふわふわだね!」
「そうかしら?」
「給食のよりずっとふわふわだよ!やっぱりおばあちゃんは料理が上手だね!」
「ありがとう。永雄はいい子ね。」
「それほどでもないよ…あ、鮭フレーク取って。」
「はい、永雄。」
「ありがとう、おばあちゃん。」
朝食後に部屋でくつろいでいると、祖父が来た。
「永雄、わしと散歩に行くか?」
「いいね!この近所を久々に見てみたいな。」
2匹は住宅街を歩いた。
「この公園は覚えているかの?」
「うーん、何だっけ?」
「永雄が2歳の時にわしと遊んだ公園じゃよ。あの時は砂場で砂プリンを作ったら、永雄がそれを食べてしまい、『プリンの味がしない!』と号泣しておったな…」
「ぼくは物心ついた時から食いしん坊だったけど、そんな事までしてたんだ…」
またしばらく歩くと、曲がり角で声をかけられた。
「また会ったな、栗田!」
声の主は灰原くん。今日は買い物袋を持っている。
「灰原くん、こんにちは。お使いの途中?」
「そう。母ちゃんに頼まれたんだ。」
「頑張ってね。」
「ああ!じゃあな。」
「またね、灰原くん!」
灰原くんは遠ざかった。
(今度はいつ会えるかな?)
その後も散歩を続けたが、やがて疲れが溜まってきた。
「もう歩き疲れたのう…」
「ぼくもそろそろ休みたいな。」
2匹は家へ戻った。
[newpage]
[chapter:ここにもあの店が!]
家に帰ってしばらく休むと、祖母が言った。
「そろそろ永雄の帰る時間ね。駅まで送るついでに向こうでお昼も食べましょうか。」
「いいね!それじゃあ行こう!」
荷物をまとめていると、祖母が来た。
「永雄にお土産よ。家族みんなで食べてね。」
祖母は包まれた箱を手渡した。
「ありがとう!その言い方からするとお菓子かな?」
「永雄は鋭いわね。家に帰ったら開けてね。」
「わかった。中身が楽しみだ!」
箱もリュックサックに入れ、祖父母と共に家を出た。
家から川獺駅までは徒歩10分。
栗田くんと祖父は散歩で歩き疲れたが、レストランが目的地なら歩きも苦にならない。
「おじいちゃんは何が食べたい?」
「そうじゃな…寿司とか温かい鍋がいいのう。」
「ぼくはカレーとかオムライスがいいな!いや、なかなか食べられないような珍しい物でもいいかも!」
「私は中華料理の気分ね。」
なかなか意見がまとまらない。
「大上区ならフード・キャッスルがあるから、1つの店でそれが全部食べられるんだけどな…」
「あら、その店なら川獺駅の西口にもあるわよ。入った事ないけど…」
「わしもないな。いつも混んでおるしのう。」
「へえ、ここにもあるんだ!せっかくだから行こうよ!あの店は本当に素敵な場所なんだ!」
「そんなに永雄がおすすめするなら、行ってみようかしらね!」
「そうじゃな!」
駅を通り抜けて西口に出ると、建ち並ぶビルの中に城が見えた。
「あそこだ!」
3匹はフード・キャッスルへ。今はクリスマスフェアの最中だ。
入店まで1時間ほどかかったが、会話が弾めば一瞬のような物だ。
「まあ、すごい内装ね!」
「おいしそうな香りでいっぱいじゃのう!」
「でしょ?いつ来てもおいしい食べ物が待っているんだ。まずは何を取りに行く?」
「わしは寿司じゃ!」
「私は餃子ね!」
「じゃあぼくはテリーヌにしよう!それからクリスマスの七面鳥もね。」
それから2時間、3匹は豪華な城の中で様々な料理を食べた。
何種類ものおかずやデザートの他、欧米各国のクリスマス料理も堪能した。
「ああ、お腹いっぱいだ…」
栗田くんは満足そうにお腹を撫でた。
「ウップ、ここまで食べたのは久々じゃな…」
「満足したわね…」
祖父母も完全にお腹が満たされた。
祖父のお腹は大玉を飲み込んだように膨らみ、スタッフの手を借りなければ歩けないほどだった。
「わしはまだまだ元気だと思っていたが、そろそろ杖が必要かもしれんな…」
3匹は重くなったお腹に苦労しながら、店を出た。
「ああ、息が切れるわい…しばらく休まないと歩けそうにないな…」
祖父はまともに歩けないため、3匹はお腹が落ち着くまでベンチで休憩した。その間にも会話を楽しんだ。
[newpage]
[chapter:別れの時]
やがてお腹が落ち着いたため、栗田くんの帰る時が来た。
帰りの切符を買い、改札前で祖父母に別れを告げる。
「おじいちゃん、おばあちゃん、2日間いろいろありがとう!」
「こちらこそありがとう。永雄がいなければフード・キャッスルに行く事はなかったじゃろうな。」
「お土産、家族で仲良く食べるのよ!」
「もちろんだよ、おばあちゃん。
それからおじいちゃん、銭湯に連れてってくれてありがとう!楽しかったよ。」
「永雄と行けて良かったよ。また行きたいか?」
「もちろん!今度はお父さんも一緒にね。」
「そうか。そろそろ電車が来る頃じゃな。」
「うん、それじゃまた今度ね!バイバイ!」
栗田くんは手を振りながら、改札をくぐった。祖父母も孫が見えなくなるまで手を振った。
電車に乗りながらゲームを楽しむうち、大上駅に到着。
夕暮れが迫る中、自宅に帰った。
(やっぱりお家が一番だ!)
部屋でくつろいでいると、両親が帰ってきた。
「お帰りなさい。」
「永雄、ただいま。そしてお帰り。」
「楽しかった?」
「もちろん!銭湯って楽しい場所なんだね!今度みんなで行こうよ!」
「まあ、銭湯に行ったのね。良かったわね。」
「うん!友達もできたんだよ!それからおばあちゃんがお土産くれたんだ!」
「それはありがたい。どんなお土産なんだ?」
「これから開けるね。」
リュックサックから箱を取り出し、包み紙を破った。
[newpage]
[chapter:お土産]
「わあ、おいしそう!」
中身は「大熊でべそのへそごま饅頭」。
箱に描かれた絵では、中年のヒグマがはだけた和服から覗く太鼓腹をなでている。その中心にはゴマのたまった立派な出べそが付いている。
「なんかおじいちゃんの出べそみたい。」
中身は、X印が刻まれた茶色の饅頭。Xの隙間にはゴマ、饅頭の中にはゴマ餡が詰まっている。
「んー、おいしい!」
「濃厚ね!」
「うまいなこれ!そうだ永雄。向こうでの話を聞かせてくれ。」
「こっちもホテルの話が聞きたいな!」
栗田くんと両親は饅頭を食べながら、お互いの話で盛り上がった。
[chapter:おしまい]