第13話「初めての林間学校」(後編)

  [chapter:前回のあらすじ]

  7月29日、ケモノ小学校埼玉校の4年生は初の林間学校に行った。

  山登り、カレーライス作り、キャンプファイヤーと様々なイベントで盛り上がったが、キャンプファイヤーの後でシマリスの縞野 くるみちゃん(4年2組所属)が行方不明になってしまう。

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  [chapter:行方不明のくるみちゃん]

  「誰か、縞野さんを見ていませんか?」

  小山先生の声に、バンガロー内の栗田くんたちは驚いた。

  「え、くるみちゃんが行方不明なの!?」

  「まさかここでトラブルとは…」

  「どうする?礼央、助けに行くか?」

  「ぼくはちょっと怖いなあ…ぼくまで行方不明になったらどうしよう…」

  「ぼくはもう眠いし…」

  栗田くんが力強く言った。

  「よし、ぼくが助けに行くよ!」

  稲荷山くんが心配そうに返す。

  「え、大丈夫?」

  「大丈夫。同じシマリスとして見過ごせないよ!

  それじゃ、行ってくるよ。無事に帰るからね!」

  「気をつけてね、栗田くん。」

  「くるみちゃんを見つけてね!」

  栗田くんは5匹の声援を後に、バンガローを出た。

  森口先生と小山先生は、懐中電灯を持って探していた。

  森の奥でも懐中電灯の光が動いているため、他の教師も捜索中のようだ。

  「先生、ぼくも協力します!」

  「栗田くん、ありがとう!いい子ね!」

  「ありがとうございます、先生。」

  [newpage]

  [chapter:くるみちゃんを探せ]

  捜索隊は森中に呼びかける。

  「縞野さーん!」

  「どこですかー!」

  「くるみちゃーん!」

  「返事をしてくださーい!」

  呼びかけながら歩いていくと、遠くでかすかに聞こえた。

  「ここよ…助…けて…」

  「小山先生!今の声聞こえました?」

  「はい、聞こえましたよ。あれは縞野さんでしょうね…」

  「私は聞こえませんでしたけど、どっちから聞こえました?」

  「あの木々の奥です。」

  「わかりました。では行ってみましょう。」

  3匹は声の聞こえた方へ直行した。

  そこにたどり着くと、地面には岩が数個転がっている。その奥は急坂だった。

  「きっと、この岩につまずいて坂を転がり落ちてしまったんだ!」

  「そうらしいな…」

  「呼びかけてみましょう。」

  3匹は大声で呼んだ。

  「縞野さーん!返事をしてください!」

  「助けに来ましたよー!」

  「くるみちゃん!待っててね!」

  弱々しい返事が来た。

  「その声は…栗田くん…それに先生たち?」

  「そうだよ!そっちはくるみちゃんだよね?」

  「そう…縞野 くるみよ…助けて…」

  「くるみちゃん、どうしたの?」

  「足をくじいて…動けないのよ…もう疲れたし…周りもよく見えないし…」

  「今明かりをつけるからね!」

  懐中電灯で坂の下を照らすと、くるみちゃんがうずくまっていた。

  「あそこにいるぞ!」

  「見つけた!」

  「もう大丈夫ですよ!」

  小山先生が坂を静かに下り、くるみちゃんを抱きかかえて戻ってきた。森口先生はスマートフォンを出し、他の教師にショートメッセージで発見を伝えた。

  「このまま猫田先生の所に行こう。」

  「ぼくも付き添います!」

  任務を終えた捜索隊は、夜の森を行く。

  「くるみちゃん、何があったの?」

  「星空を眺めてたら、石につまずいて坂を転がり落ちちゃったの。暗くて怖かったし、足が痛いわ…」

  「それは大変だったね…」

  「そうね。でももう大丈夫よ。幸せなぐらいよ。」

  「どうして幸せなの?」

  「えーと、それは…でももうケガなんかどうでもいいわ…」

  「縞野さん、体が熱いですね。熱でもあるんですか?」

  「先生、大丈夫よ。大丈夫だから心配しないで…」

  (ついに栗田くんと接近できたわ。私とっても幸せ…)

  くるみちゃんは幸せの中、猫田先生の待つ管理棟にたどり着いた。くるみちゃんが自力でたどり着く場合も考慮して、彼女はここで待っていた。

  「くるみちゃん、もう大丈夫だよ。」

  「安心したわ…栗田くん、おやすみなさい。」

  「おやすみ。」

  栗田くんはバンガローに戻りながら考えていた。

  (無事に見つかって良かったけど、くるみちゃんはどうして幸せだったのかな?「助かって嬉しい」とは少し違ったような…

  それに、体が熱くなっていたのはどうしてだろう?)

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  [chapter:バンガローの夜]

  「ただいま。くるみちゃん無事だったよ!」

  バンガローに戻ると、残りの5匹は体操服に着替えていた。相変わらず稲荷山くんと河合くんはお腹が隠せていない。

  「お帰り。良かったね!」

  「足をくじいたけど大丈夫だって。」

  「そのくらいで済んで安心したよ。ぼくたちはもうシャワーを浴びてきたから、栗田くんも浴びてきて。」

  「わかった。行ってくるね。」

  「迷子にならないように気をつけてね。」

  「もちろん!」

  栗田くんはシャワーを浴び、全身ドライヤーで毛皮を乾かした。

  (あー、さっぱり…)

  体操服に着替え、トイレを済ませてバンガローに戻ると、残り5匹はもう眠っていた。

  (ぼくも寝よう。おやすみ。)

  布団の中でも、先程の事について考えた。

  (もしかして、くるみちゃんはぼくがいるから嬉しかったのかな。そうなると…ぼくに恋してるのかも?

  だとしたら嬉しいな…)

  考えがまとまった辺りで、彼は眠りに落ちた。

  数十分後。静寂の中、礼央くんが目を覚ました。

  (トイレ行きたいな…シャワーの時に行けばよかった…)

  恐る恐る布団を出て、ドアへ向かう。

  (怖いけど…勇気を出さなきゃ…火の神に勇気の火を与えられたんだから…)

  靴を履いてドアを開け、外へ出た。月はちょうど雲に隠れ、風の音やフクロウの鳴き声が聞こえる。

  (ああ、怖いよ…でも勇気を出して行くぞ…)

  森の中を進むうち、トイレが見えてきた。

  (もう少し、あと少し…)

  その時、近くの枝から飛び立ったフクロウがすぐ前を通過した。

  「う、うわあーっ!」

  彼は悲鳴を上げてバンガローに戻り、布団にもぐりこんだ。

  (ああ、怖かった…いきなり来るなんて…)

  震えているうち、眠りに落ちた。

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  [chapter:バンガローは朝から大騒ぎ]

  翌朝7時。

  「あーあ、よく寝た…」

  栗田くんが一番に目覚めた。

  「おはよう。まだ眠いけどぼくも起きなきゃ…」

  稲荷山くんも目をこすりながら起きた。他の4匹も次々と目覚める。

  「気持ちいい目覚めだな。なあ礼央?」

  「い、いや、ぼくはちょっと…ね、ねえ、みんなここから出てってくれないかな?」

  春斗くんは普段通りに元気だが、礼央くんの態度が何かおかしい。

  「ああ、またいつものか?見せてやれよ!」

  春斗くんは礼央くんの掛け布団をはがした。

  「ちょっと、やめてよ!…ああ…」

  「どうしたの、礼央くん?」

  布団を覗いた西園寺くんは、すぐに目をそらした。

  「ごめん、見るんじゃなかった…」

  彼の布団には、水たまりが広がっていた。春斗くんが得意げに説明する。

  「礼央は臆病で、いまだに夜は誰かが付き添わないとトイレに行けないんだぜ。だから今でもしょっちゅうおねしょをするんだ。」

  「そんな事言わないでよ…知られたくなかったのに…」

  秘密をばらされた礼央くんは、恥ずかしがってうずくまった。

  「そんなに恥ずかしがらないでいいよ。内緒だけどぼくだって時々しちゃうからさ…」

  河合くんは彼にささやき、励ました。

  「そうなんだ。少し落ち着いたよ…」

  6匹は洗顔のため外へ。礼央くんは布団を干してから合流した。

  朝の森には爽やかな空気が漂っている。

  「すごく気持ちいいね!」

  「晴れた空、澄んだ森の空気、自然の匂い、鳥のさえずり…自然ならではの良さだね。」

  栗田くんたちが自然を楽しむ中、春斗くんは礼央くんをからかい続ける。

  「おい見ろよ!あっちに礼央の仲間がいるぞ!」

  「ちょっと、大声出さないでよ!」

  別のバンガローにも、おねしょの布団が干されている。その中では穴田くんが困っていた。

  (どうしよう、ぼくのおねしょ癖がばれちゃったよ…やっぱりおむつを履いてくるべきだった…

  昨日の朝にぼくが慌ててた理由も、きっとばれちゃったよね…)

  栗田くんは小声で話しかけた。

  「ねえ礼央くん、パンツはどうするの?」

  「え…あ…昨日のを履くよ。ちょっと汚れてるけど他にないからね…」

  6匹は水道で顔を洗い、礼央くん以外はトイレも済ませた。

  バンガローに戻ってから服を着替え、朝食に向かった。

  「昨日カレーをあんなに食べたのに、もうお腹ペコペコだよ!朝ごはん何かな?」

  栗田くんは楽しみで仕方がない。

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  [chapter:自然の中で楽しむ朝食]

  食事スペースに全員揃った所で、森口先生が挨拶をした。

  「皆さん、おはようございます。今日もすがすがしい朝ですね。

  まずお知らせです。昨夜は縞野 くるみさんが行方不明になり、先生たちで捜索しました。そして途中で加わった栗田くんによって、無事発見されました。」

  児童たちから歓声が上がった。

  「本当にありがとう!」

  「くるみちゃんが無事でほっとしたよ…」

  「栗田くんは英雄だ!」

  「ばんざい、栗田くん!」

  賞賛される栗田くんは照れながら、くるみちゃんを見た。右足の包帯を除けば元気そうだ。

  「栗田くん、昨日はありがとう。」

  笑う彼女に手を振り返すと、彼の心はときめいた。

  朝食が配られた。メニューは豆乳、イチゴジャム、ロールパン、サラダ、目玉焼き、リンゴ。

  「皆さん、今日も元気に食べましょう!」

  「いただきまーす!」

  ロールパンにイチゴジャムを塗り、口へ運ぶ栗田くん。

  「パンも自然の中で食べるともっとおいしいね!」

  稲荷山くんはサラダを食べている。

  「これが自然の味か…最高!」

  50頭全員がしっかり食べた。先程まで落ち込んでいた礼央くんや穴田くんも、元気を取り戻したようだ。

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  [chapter:自然観察]

  朝食後、児童たちはバンガローからプリントと筆箱、色鉛筆を持ってきた。これから自然観察を始める。

  班ごとに森の自然を観察して、専用のプリントにまとめる。宿題の一環だ。

  (どんな鳴き声が聞こえるかな?)

  鳥の声に耳を澄ます稲荷山くん。

  (あっ、この花きれい!)

  西園寺くんは道端の花をスケッチする。

  「この葉っぱは何だ?」

  「むやみに触らない方がいいよ。毒かもしれないよ…」

  葉を研究する春斗くんと、相変わらず心配性の礼央くん。

  「あ、鳥だ。どこへ行くんだろう?」

  栗田くんが顔を上げると、遠くで観察中のくるみちゃんと目が合ったため、また手を振った。

  彼も次第に彼女を意識し始めていた。

  2時間後、自然観察が終わった。

  「いっぱい書いたぞ!いい評価もらえるかも。」

  「栗田くん、鳥の絵が上手だね。」

  「ありがとう、稲荷山くん。この葉っぱの絵も上手だね!」

  「ぼくにしてはたくさん書けたかも!」

  「でもせっかく自然の中に来たのに勉強はちょっとね…」

  「礼央、これは林間『学校』だぜ。」

  栗田くんたちはプリントを見せ合いながら、思い思いの事を話した。

  次は昼食。これが林間学校最後の食事だ。

  食事スペースに行き、キャンプ場が用意した弁当を全員で食べた。中身はごま塩のかかったご飯、漬物、ポテトコロッケ、エビフライ、サラダ。

  「ああ、庶民的な味…こういう食事も良いですわね。」

  しみじみ味わって食べる理沙ちゃん。

  「おいしいお弁当が食べられて良かった…」

  穴田くんは安堵した。

  栗田くんと稲荷山くんも、話しながら食べている。

  「ねえ栗田くん、自然の中で生活するのはどうだった?」

  「そうだね、たまにはこんな場所で生活するのも悪くないと思ったよ。

  ぼくたちが暮らす大上区は、いろいろな場所が揃っていて便利な生活ができる素敵な場所だ。

  でも、自然の中にもいい物はたくさんある。小鳥の鳴き声、あふれる緑、きれいな花や草木、おいしい空気…この林間学校では、それを全身で感じられたよ。」

  「いい事言うね、栗田くん。ぼくはそろそろテレビが見たいな…」

  昼食後、児童たちはホールに集まった。終わりの会だ。

  「皆さん、林間学校はどうでしたか?」

  「とても楽しかったです!」

  「そうでしょうね。皆さんはこの2日間で様々な事を学び、体験しましたね。」

  「自然の美しさ、おいしいカレー、友達との夜、楽しいイベント…この旅行はいつまでも皆さんの心に残るでしょう。」

  「家に帰ったらぜひ、家族にも話をしてくださいね。」

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  [chapter:帰りのバス]

  帰りの時が来た。スーツケースをバスに積み込み、児童たちも乗り込む。

  「楽しかったね、栗田くん。」

  「ぼくもだよ、稲荷山くん。」

  「いろいろあったけど、なんだかんだで最高の思い出になったね。」

  「そうだな、礼央!」

  エンジンがかかり、バスが発車。栗田くんは振り返り、遠ざかるキャンプ場を見つめていた。

  しばらく進むと、森口先生が言った。

  「皆さん、帰りは映画を見ましょう。」

  ボタンを押すと、天井からテレビの画面が現れた。

  「わあ、すごい!」

  「何の映画だろうね?」

  森口先生はDVDパッケージを見せた。船に乗るコアラの女性が描かれている。

  「『コアラと伝説の海』よ。」

  「あー、これ見たかった奴だ!」

  「私これ好き!」

  「見た事はないけど、歌は知ってるよ!」

  DVDがセットされ、映画が始まった。南の島に住むコアラのヴァイアナが、島を救う冒険に出る物語だ。

  ヴァイアナを応援する稲荷山くん、静かに見る真里ちゃん、挿入歌を口ずさむ遠藤くん、映画を見ずに眠っている卯井是瑠ちゃん…楽しみ方はそれぞれだ。

  ちなみに2組のバスでは「ベアマックス」が上映されていた。柴犬のヒロシ、ホッキョクグマ型ロボットのベアマックスなど6名のヒーローが悪と戦う物語だ。

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  [chapter:林間学校の終わり]

  行きと同様に休憩を1回挟み、学校前に到着。空は夕焼けに染まっていた。

  児童たちはバスを降りて荷物を取り出し、教師たちの前に集合した。

  「皆さん、安全に気をつけて帰りましょう。」

  「明日はゆっくり休んでくださいね。」

  柴田くんが質問する。

  「じゃあ宿題しなくてもいいのー?」

  「いいえ、宿題はちゃんとやってください。」

  「わかりましたー。やっぱりそうだよね。」

  「それでは皆さん、さようなら!」

  「さようならー!」

  児童たちはそれぞれの家へ向かった。

  栗田くんはくるみちゃんに駆け寄った。

  「ねえ、くるみちゃん。一緒に帰らない?」

  「ありがとう、栗田くん!私もそう思っていたの。」

  「そうなの?嬉しいな!」

  「私もよ!以心伝心ね。」

  2匹は手をつなぎ、会話を楽しみながら帰った。

  「栗田くん、昨日は助けてくれてありがとう。」

  「ううん、ぼくは当然の事をしたまでだよ。くるみちゃん、足は大丈夫?」

  「ちょっと痛いけど、これぐらいならすぐに治るって。猫田先生が言ってたわ。」

  「良かった。早く元気になってね。」

  「ええ、明日は1日家で休むわ。栗田くんは?」

  「ぼくもそうしたいけど、あさってから家族でグアム旅行なんだよね。だから明日は旅行の準備さ。」

  「グアムに行けるなんていいわね!」

  「夢だった海外旅行に初めて行けるんだ!くるみちゃんへのお土産も買おうかな。」

  「ありがとう。お菓子がいいわ。」

  2匹は非常に幸せだった。

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  この林間学校で、栗田くんは2つの事を知った。

  1つは、自然の美しさ。

  もう1つは、誰かを好きになった時の気持ち。

  [chapter:おしまい]