第13話「初めての林間学校」(前編)

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界のさいたま市大上区。

  ゴールデンウィーク明けのケモノ小学校埼玉校で、朝の会が始まった。

  ここは4年1組の教室。

  「皆さん、おはようございます。」

  「おはようございます。」

  ハツカネズミの森口 美樹先生は挨拶を済ませると、話を始めた。

  「さて、皆さんに重大な発表があります。今年の夏休みについてです。」

  それを聞いて、25頭の児童はざわめき始めた。

  「夏休みにどうなるの?」

  「まさか宿題が10倍になるとか?」

  「夏休み中止のお知らせとか?」

  「そんなの嫌だよ!」

  頃合いを見て、彼女は続けた。

  「今年の夏休みには…4年生が林間学校に行ける事になりました!」

  児童たちは安心と同時に、歓声を上げた。

  「やったー!林間学校だ!」

  「当分行けないと思ってたのに!」

  「行けるなんて嬉しいわ!」

  「これは奇跡だね!」

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  なぜこれほど喜んでいるか…その理由は、とある怪現象だ。

  2017年の開始と同時に、全世界でケモノの成長が止まった。新たに子供が生まれる事も、病気や老衰で死ぬ事もなくなった。

  そのため栗田くんたちは5年生に進級せず、4年生を4周も続けている。

  林間学校は5年生が行くため、4年生はそれを羨んでいた。また、5年生もそろそろ林間学校に飽きてきた。

  そのため、上記の内容が職員会議で決められた。

  休み時間の4年生たちは、林間学校の話で持ち切りだった。

  「林間学校、楽しみだなあ!」

  太ったシマリスの栗田 永雄くんは嬉しくて仕方がないようだ。

  「時が動き出したみたいだね!」

  太ったキタキツネの稲荷山 紺助くん(彼の親友)が話しかける。

  「でも本当に時が動き出すのはもっと後にして欲しいな。やっぱり小学生は楽しいもん!」

  「そうだよね。ずっと小学生でいたいよ!」

  白猫の金子 真里ちゃんは4年2組に顔を出し、ホッキョクギツネの雪見カトリーヌ理沙ちゃんと話している。

  「林間学校についての話は何度も聞いていたけど、ついに行けるのね!」

  「みんなで自然の中を歩けるなんて、楽しみですわ!」

  皆が思い思いの想像を膨らませていた。

  その日から、学活の時間には林間学校の準備がされた。

  行動の説明、バスの座席決め、バス内のレクリエーション…その他もろもろが決められた。

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  [chapter:いざ、林間学校へ!]

  7月29日。いよいよ当日だ。

  「それじゃ、行ってきまーす!」

  朝7時。早起きした栗田くんはリュックサックを背負い、小型のスーツケースを引いて家を出た。

  空はよく晴れ、朝日で明るく輝いている。

  しばらく歩くと、稲荷山くんと合流した。

  「稲荷山くん、おはよう!」

  「おはよう。ちゃんと起きられたみたいだね。」

  「もちろん。昨日は早く寝たからね。」

  仲良く話しながら、ケモノ小学校埼玉校へ向かった。

  校門前には、2台のバスが止まっていた。その前にはクラスメイトが半分ほど集まっている。

  「栗田くん、おはよう!」

  ドブネズミの遠藤 隆志くんが声をかける。

  「2日間楽しみましょうね!」

  真里ちゃんも元気そうだ。

  すべての児童が、これから始まる2日間の旅に期待を膨らませている。

  残りの児童も次第に集まってきた。集合時間は7時半まで。

  時間切れの1分前で、イタチの鼬川 卯井是瑠ちゃん(1組所属)とアナグマの穴田 熊助くん(2組所属)が眠い目をこすりながら来た。

  2匹はそれぞれのクラスで一番太っている児童だ。栗田くんのそれを上回るサイズの太鼓腹や饅頭のような出べそが、歩くたびに震えている。

  「もう、遅いよ!」

  「もう少し時間に余裕を持ってくださらない?」

  呆れたように言う稲荷山くんと理沙ちゃん。

  「あたいはまだ寝ていたかったのに、起こされたのよ…」

  卯井是瑠ちゃんは不満げだ。

  「ぼくはおねs…あ、え、その、お寝坊!お寝坊しちゃったんだ。」

  穴田くんは妙に慌てている。

  全員が揃った所で、両クラスの担任による点呼が始まった。

  1組は森口先生。2組は柴犬の小山 裕先生。

  児童たちは元気よく返事をした。欠席者はなし。

  「みんな元気で何よりです。それではバスに乗りましょう。」

  50頭の児童は荷物入れに小型のスーツケースを入れ、2台のバスに次々と乗り込んだ。

  担任の他、引率の教師も2頭ずつ乗っている。

  1組は、太ったエゾリスの滝沢 実先生(5年1組担任)と白猫の猫田 勝江先生(保健医)。

  2組は、ヌートリアの沼田 理子先生(5年2組担任)と太ったホッキョクグマの保良 部亜先生(6年1組担任/相撲部顧問)。

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  [chapter:にぎやかなバスの中]

  エンジンがかかり、バスが出発。本格的に旅が始まった。

  住宅街を抜けて大上駅方面へ。この辺りは通勤者で賑わっている。

  「おっ、林間学校のバスだな。楽しんでこいよ!」

  太ったヒョウの会社員が手を振った。

  「父ちゃん、行ってきまーす!」

  ぽっちゃりしたヒョウの兵藤 礼央くんと兵藤 春斗くん(1組所属の双子)が手を振り返した。

  町を抜け、インターチェンジへ。

  「うおー!ジェットコースターだ!」

  「気分爽快!」

  急カーブに興奮を覚える児童が多いようだ。

  高速道路に入ると、レクリエーションが始まった。

  「それでは皆さん、ゲームを始めます。」

  1組はモモンガの亀有 春子ちゃん、2組はドールの堂本 瑠宇くんが進行役を務める。

  ゲームは「食べ物しりとり」。その名の通り、食べ物専門のしりとりだ。

  こちらは1組。

  「それでは、森口先生からどうぞ!」

  「そうね、じゃあ…春巻き。」

  次は狼の山田 犬代ちゃん。

  「きんぴらごぼう。」

  礼央くん。

  「えーと、梅干し。」

  春斗くん。

  「シュークリーム。」

  稲荷山くん。

  「蒸しパン…あ、これじゃだめだ!」

  最後列の卯井是瑠ちゃんは怒った。

  「ちょっと、食べ物想像してたのに流れを止めないでよね!」

  2組も盛り上がっている。カラカルの唐沢 光くんが答えた。

  「じゃあ、寿司!」

  理沙ちゃんがつなげる。

  「シュークルート。」

  太ったライオンの真島 雷太くんが尋ねた。

  「理沙ちゃん、それってシュークリームの仲間?」

  「いいえ、フランスの郷土料理ですわ。塩漬けの肉や魚と発酵させたキャベツを煮込んでいますの。」

  「へえ、そうなんだ。理沙ちゃんはたくさんの料理を知っていそうだね。」

  「ええ、これまでいろいろ食べてきましたの。」

  バスは1回の休憩を挟んで走り続け、高速道路を降りて山梨県へ。目的地まであと少しだ。

  「さあ、ついに来たぞ!」

  「楽しみが待ってるわね!」

  一同は林間学校のしおりを取り出し、改めて予定を確認した。

  青空の下、キャンプ場の駐車場に到着。児童たちはホールに集まった。

  壁には「ケモノ小学校埼玉校 4年生の皆様 ようこそ」と書かれた看板が飾られている。「4」の部分は上から貼り付けられていた。

  4年生と5年生の担任が話を始めた。

  「4年生の皆さん、林間学校へようこそ。これからいろいろな体験が始まります!」

  「この美しい自然の中で様々な事を経験し、これまで以上に絆を深めましょう!」

  「去年までとは違う子たちと行けて、新鮮な気分です。」

  「もしわからない事があれば、私たちに聞いてください。」

  それから注意事項が続き、本格的な活動が始まった。

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  [chapter:山を登る4年生たち]

  まずは山登り。50頭の児童と6頭の教師は山道を登った。

  「すごく落ち着くわ…」

  真里ちゃんはリラックスムードに入っている。

  「鳥の声がする。大上区では聞いた事のない声だね。」

  遠藤くんは周囲に耳を傾けている。

  「スコットランドの森も素敵でしたけど、こちらも良いですわね…」

  理沙ちゃんはヨーロッパ旅行で立ち寄った森を思い出した。

  「見た事ない鳥が飛んでる!私もあんな風に空を飛びたいな…」

  「春子ちゃん、その気持ちよくわかるよ。」

  自由な飛行に憧れる春子ちゃん。太ったレッサーパンダの安藤 列太くん(彼女の親友)が共感して話しかける。

  「この山は何度来ても素敵ね!」

  沼田先生も楽しそうだ。

  栗田くんと稲荷山くんも、仲良く話している。

  「ねえ稲荷山くん、ぼくたちの先祖もこんな場所に住んでいたのかな?」

  「シマリスやキタキツネは本州に住まなかったけど、こんな感じだったんだろうね。」

  「言葉も話せないし、服も着ない。それに食物連鎖の関係にあったらしいね。」

  「リスと狐が友達になるって、その当時じゃありえないね。」

  「こんな山の中には漫画もゲームも服もないし、食べ物だって木の実ぐらいしかない。

  今のぼくがそんな風に生活したら、退屈で仕方ない。それに裸だから恥ずかしいし、お腹が空いちゃうよ…」

  「それに、ぼくにとって栗田くんは食べ物になってしまう…」

  「ぼくだって、いつ自分が食べられるか怯えながら生きる羽目になるんだよね…」

  卯井是瑠ちゃんは道沿いにキノコを見つけた。

  「これは食べられるかしら。」

  森口先生が答える。

  「毒かもしれないからやめた方がいいわ。」

  「つまんないわね。食べられるキノコだけならいいのに!」

  高く登るにつれ、疲労感が強まってきた。太った子は荒い息を吐いている。

  「もう疲れたわ!今すぐここを頂上にしなさい!」

  わがままな卯井是瑠ちゃんは、無理難題を言い始める始末だ。

  /////////////////////

  その頃、大上区にて…

  (今年も太った誰かが山道を転がり落ちているのかしら。私みたいに…)

  三毛猫の鈴木 真央ちゃん(5年生)が、肥満児の身を案じていた。

  彼女も相当な肥満体で、体重は全校の女子で一番。見事な太鼓腹で足元がよく見えない。

  そのため毎年山の上部で足を滑らせ、山道を転がり落ちていた。

  /////////////////////

  その予感は的中。穴田くんが足を踏み外し、山道から外れてしまった。

  「うわーっ!」

  丸い体の彼は斜面を転がり、太い木に衝突して止まった。

  「ああ、痛い…誰か助けて…」

  沼田先生、小山先生、理沙ちゃんが斜面に下り、救出作業を始めた。

  「大丈夫?動ける?」

  「なんとかね…」

  「お腹とおへそに傷が!」

  「木にぶつかったせいかも。おへそが痛いよ…」

  それを聞きつけた猫田先生が話しかける。

  「安心して。私はばんそうこうを持っているから大丈夫よ。」

  「ありがとうございます。さすが保健室の先生ですね…」

  「ええ。いつ誰がけがをしても大丈夫なように毎年来ているのよ。」

  「そうなんですね。おかげで助かりました…」

  その間に残りの児童と教師は登り続け、頂上の広場にたどり着いた。

  「うわあ、すごい!」

  「きれいな景色だわ…」

  片隅には展望台が作られている。多くの児童がそこへ駆け寄った。

  「青い空に白い雲、緑の山…きれいだなあ…」

  「ぼくたちの住んでいる所じゃ、こんな景色は見られないね!」

  「大上区は高層ビルや家が並んでいるけど、こっちは家が少し見える程度ね。」

  皆が景色を眺め、思い思いの感想を述べた。

  その反対側には、木製のピクニックテーブルと椅子が並んでいた。横では卯井是瑠ちゃんと滝沢先生が話している。

  「ここでお弁当食べるの?」

  「そうだよ。みんな揃ったらお弁当の時間だ!実は先生ももうお腹がペコペコなんだよ。」

  「やったー!あたいも腹ペコなの!ここでお弁当を食べないんだったらあたいはずっとふもとで待ってたわ。」

  やはり彼女は食欲第一だ。

  穴田くんと救出作業組も戻ってきた。

  「皆さん、お待たせしました。穴田くんは小さな傷で済みました。」

  「みんな、遅れてごめんね…」

  戻ってきた穴田くんを見て、一部の児童が笑う。

  「うわ、何そのおへそ!」

  「なんか面白い!」

  彼の出べそには、ばんそうこうがXの形に貼られていた。

  「どうしたの?見せて見せて!」

  「わあ、出べそがもっと立体的になってる!」

  「よし、4D出べそと名付けよう。」

  景色を楽しんでいた児童たちも寄ってきたため、彼は恥ずかしがった。

  「もう、よりによってこんな形に貼らなくても…」

  「ごめんなさい、あの傷ではこれが一番いい貼り方だったのよ…やっぱり恥ずかしかったかしら?」

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  [chapter:様々な弁当]

  全員が揃ったため、弁当の時間が始まった。

  50頭の児童と6頭の教師はピクニックテーブルに集まり、弁当と水筒を取り出した。弁当箱は食後に捨てるため、プラスチックの入れ物が使用されている。

  森口先生が話し始めた。

  「皆さん、お疲れ様でした。もうお腹が空いている事でしょう。

  さあ、待ちに待ったお弁当の時間です。元気に食べましょう!それでは…」

  「いただきまーす!」

  「んー、おいしい!」

  栗田くんの弁当箱には、唐揚げやおにぎり、卵焼きなどが詰まっていた。いずれも彼の好物だ。

  「やっぱりお弁当には稲荷寿司だよね。」

  稲荷山くんの弁当箱は、半分が稲荷寿司で埋まっている。

  「わあ、理沙ちゃんすごいわね!見たことないおかずばっかり!」

  シマリスの縞野 くるみちゃんが驚きの声を上げた。

  「ええ。このお弁当は我が家の専属シェフが作りましたのよ。

  世界三大珍味のトリュフ、キャビア、フォアグラをはじめ、高級食材をふんだんに使っていますわ。」

  「すごーい!うらやましいわ!」

  「ええ、パリの一流料理学校を卒業した彼に作れない料理はありませんわ。」

  「ああ、本当に素敵…ねえ、良かったらそのキャビア、私のおかずのどれかと交換してくれない?」

  「いいですわよ。私はキャビアをよく食べますから。

  じゃあ…くるみちゃんの唐揚げもらっていいかしら?」

  「いいわよ。どうぞ。」

  「ありがとうございます。」

  おかずの交換も各所で見られた。

  誰もが弁当の時間を楽しんでいる。

  卯井是瑠ちゃんの弁当は入れ物3つ分。夢中でガツガツと頬張っている。

  うさぎの場丹井 姫子ちゃんは、キャロット尽くしの弁当。

  コッカースパニエルの藤田 克子ちゃんは、ミートボールスパゲッティ。

  会話を楽しみながら食べたり、1匹で黙々と食べたり。中身も食べ方も様々だ。

  教師たちものんびり食べている。

  「森口先生、自然の中での食事は最高ですね。」

  「そうですね、小山先生。私たちの先祖もかつてはこんな環境の中で食事していたのでしょうね。」

  4年生の担任は、2匹とも落ち着いている。

  こちらは滝沢先生と保良先生。

  「ずいぶんと大きい弁当ですね。」

  「ああ、愛妻弁当だ。私の妻は料理が上手でね、普段の食事もたくさん作ってくれるんだよ。」

  「うらやましいですね。私は独身ですから今日もコンビニ弁当ですよ…」

  周囲が楽しんでいる中、穴田くんは悲しげだった。

  「うわあ…ぼくのお弁当が…」

  先程斜面を転がり落ちた際に、弁当が箱ごとつぶれて中身が混ざり合ってしまった。食べると料理の味が混ざっており、本来のようには味わえない。

  「けがはするし、お弁当はつぶれちゃうし、こんなのつまらないよー!」

  それを聞いた唐沢くんと土井 竜夫くん(太ったモグラ)は、自分のおかずを彼に差し出した。

  「ぼくのサンドイッチ、半分あげるよ。」

  「ぼくのハンバーグも2枚あるから、1枚あげるね。」

  「本当にいいの?」

  「いいんだよ。ぼくたちはクラスメイトだからね。」

  「ありがとう!それじゃ遠慮なくいただきまーす!」

  穴田くんに笑顔が戻った。

  30分後、全員が食べ終わった。

  「ごちそうさまでした!」

  「おいしかったね!」

  そこで森口先生がまた話を始めた。

  「皆さん、お弁当はおいしかったですか?」

  50頭が一斉に答える。

  「はい、もちろんです!」

  「良かったですね。さあ、ロープウェイでふもとに降りましょう。

  その前に、ちゃんとプラスチックの入れ物をゴミ箱に捨てましょうね。」

  「はーい!」

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  [chapter:ロープウェイとバンガロー]

  計56頭は、山道を歩いてロープウェイの駅に着いた。7頭前後で乗り込み、下山する。

  栗田くんは稲荷山くん、真里ちゃん、礼央くん、春斗くん、姫子ちゃん、春子ちゃんと相席した。

  「わあ、いい眺め!遠くまでよく見えるね!」

  興奮する栗田くん。春子ちゃんや春斗くんも楽しそうだ。

  「なんだか空を飛んでいるみたいね!」

  「すっげえ!こんな眺め始めてだぜ!」

  しかし礼央くんは怯えている。

  「高すぎて怖いなあ…もしロープウェイが落ちたらどうしよう…」

  「大丈夫だ、礼央。滅多な事じゃ落ちないぜ。」

  「でも心配だよ…」

  姫子ちゃんが指さした。

  「あ、あそこ!私たちが降りてきたインターチェンジだわ!」

  稲荷山くんが続けて言う。

  「でもすごい渋滞だね。巻き込まれなくて良かったよ…」

  それから、マイクを持つ真似をして言った。

  「こちら道路交通センターです。ただいま高速道路が渋滞しておりますのでお気をつけください。」

  栗田くんはそれを見て、思わず笑った。

  ロープウェイを降りてしばらく歩き、バスでキャンプ場へ。

  降車後は下から荷物を取り出し、班ごとにバンガローへ。

  栗田くんは稲荷山くん、礼央くん、春斗くん、河合 旺太くん(太ったカワウソ)、西園寺 亜夢くん(シャム猫)と同じ班だ。

  「へえ、意外と広いね!」

  「ぼく以外が太ってるこの班でも、十分余裕があるね。」

  「押し入れの中は…やっぱり布団だ。」

  「でもテレビはねえな。」

  「お風呂やトイレもないよ。いったいどこにあるの?」

  「礼央、しおりにキャンプ場の地図があるだろ。」

  「そうだったね。」

  礼央くんはしおりを開いた。

  「えーっと…え、シャワーとトイレってこんな遠い場所にあるの!? ああ、ぼくだけで夜に行けるかな…」

  「まったく礼央は臆病だな。もう4年生なんだから、夜のトイレぐらい自分で行けるようになれよ!」

  「だって、暗い森の中は怖いよ…」

  双子だが、性格は正反対だ。

  疲れた体を休ませるため、3時間ほど自由時間が用意されている。

  6匹は会話や散歩、しりとりなどで時間を潰した。他のバンガローでも、同じような事が起きていた。

  [newpage]

  [chapter:みんなで作ろう!カレーライス]

  16時55分。

  「さあ、調理場に行こう!」

  西園寺くんの合図で、6匹は調理場へ向かった。

  大きな調理場には、調理器具と材料が用意されていた。

  キャロット、玉ねぎ、ジャガイモ、鶏肉、各種調味料、米、カレールー。いずれも山ほど用意されている。

  全員でカレーライスを作る、林間学校の恒例行事が始まった。

  エプロンを着けた森口先生が話す。

  「皆さん、これからカレーライスを作ります。まずは手を石鹸でよく洗いましょう。」

  児童たちは手を洗い、ビニール手袋をはめた。

  「次は毛固めスプレーを頭にしっかり吹き付けましょう。目と口は閉じてくださいね。」

  このスプレーを使うと毛が固まって抜けにくくなるため、料理に毛が混入する事態が減る。ケモノ界では調理時の必需品だ。

  10本用意されているため、児童たちは5頭ほどで1本使った。

  なお、イルカなど毛の生えない種族には必要がない。

  「準備はいいですか?さあ、早速始めましょう!」

  児童たちは各自の作業を始めた。

  栗田くんはジャガイモの皮を剥いている。これに決まってから自宅でも練習したため、かなり上手にできた。

  (どんどん剥いていくのは気持ちいいな!)

  稲荷山くんは野菜を切っている。普段から家で手伝っているため、彼には得意中の得意だ。

  その体型ゆえに前かがみで切っているものの、腕は確かだ。

  理沙ちゃんと雪山 亜美ちゃん(オコジョ)はご飯を炊いている。

  「理沙ちゃんって結構ご飯を炊くの上手ね。お嬢様だから料理が下手だと思ってたわ。」

  「私は普段から家の手伝いをしていますからね。」

  「へえ、メイドさんがなんでもやってくれるんじゃないのね!理沙ちゃん偉いわ!」

  「いえいえ、できる事を手伝うのは当たり前ですわ。」

  「ううっ、それにしても…ゴホン!煙が…ゴホンゴホン!すごいわね…」

  「私もですわ…ううっ、目が痛いっ!」

  卯井是瑠ちゃんは野菜を切る係だが、同じ班の仲間に自分の作業を押しつけている。

  「姫子、ジャガイモ切って!」

  「犬代、キャロット切って!」

  「春子、あたいは玉ねぎ嫌いだから入れないでよね!」

  3匹は彼女に対して怒った。このような扱いを受けては当然だ。

  「ひどいわ、卯井是瑠ちゃん!」

  「もう、自分でやりなさい!」

  「このぐうたらデブイタチ!どんな教育受けてきたのよ?」

  卯井是瑠ちゃんは怒って声を荒げた。

  「うるさいわね!あたいに逆らったら最後っ屁をかますわよ!」

  姫子ちゃんが言い返す。

  「あら、ここでそんな事をされたら、最後っ屁のにおいで材料が腐って食べられなくなっちゃうわ!」

  「そんなの嫌よ!もうあきらめて作業するわ!」

  慣れない手つきで野菜を切り始めたが、ろくに練習をしていない。稲荷山くんの倍近く太っているため、ますます野菜が切りづらい。

  「痛いっ!指を切ったわ!こんなの嫌だから代わってよ!」

  春子ちゃんが冷たく言い返す。

  「私たちにいろいろ命令した罰よ。自分でやりなさい。」

  「はいはい、わかったわよ!」

  様々な事があったが、1時間ほどしてついにカレーライスが完成した。まだ空は明るいが、早めの夕食だ。

  教師たちが皿にカレーライスを次々と盛り付け、児童たちに配膳する。

  「さあ皆さん、準備ができました!それでは…」

  「いただきまーす!」

  夕焼け空の下で友達と食べるカレーライスは最高だ。

  「これ本当においしいね!今まで食べた中で一番かも!」

  栗田くんは喜びに満ち溢れた顔で頬張る。

  「フード・キャッスルのよりおいしいかも!」

  稲荷山くんも嬉しそうだ。

  「んー、ほんとにおいしいわ!最高!」

  先程まで不機嫌だった卯井是瑠ちゃんも、笑顔を浮かべた。

  「外で食べるのは楽しいわね!」

  パンダの村田 鈴子ちゃんも楽しんでいる。

  「いくらでも食べられそうだ!」

  テンの柴田 貂助くんもスプーンが止まらない。

  「今日はおやつを食べなかったから、いつもよりお腹が空いてるぞ!」

  太った黒猫の猫山 苗太くんも、ガツガツと頬張っている。

  20分後、森口先生が言った。

  「みんな、おかわりもたくさんあるわよ!」

  カレーとご飯は、まだ相当な量が残っている。

  「よーし、もっと食べよう!」

  「ぼくも行く!」

  「ぼくも!」

  「じゃあ私も!」

  「俺ももっと食べるぜ!」

  「あたいもたくさん食べるわよ!」

  ほとんどの児童が鍋の前に列を作った。

  「できるだけおかわりするぞ!」

  先頭に並んだ栗田くんは、皿からあふれそうになるほど盛りつけた。それでも鍋にはかなりの量が残っていた。

  もっともクラスの約半分が食いしん坊のため、これでちょうど良い量だ。

  [newpage]

  [chapter:カレーでお腹いっぱい]

  19時、カレーもご飯も空になった。

  「ああ、おいしかった…ちょっと食べ過ぎたかも…」

  カレーを特盛りで5杯も食べた栗田くんは、お腹をパンパンに膨らませていた。

  ズボンのファスナーも全開だが、お腹で隠れるためさほど恥ずかしくはない。

  「ゲープ。満足だ…」

  稲荷山くんはげっぷを漏らし、膨らんだお腹を満足げになでた。彼は特盛りを4杯食べた。

  細身の柴田くんや堂本くんも、お腹が見事に突き出して服に収まらなくなった。

  「ううっ、つい食べ過ぎちゃった…ズボンがきついよ…」

  「堂本くん、そんな時はズボンのボタンを外すといいよ。」

  「そうか…ああ、少し楽になった。猫山くんありがとう。」

  太った狸の田吹 優子ちゃんは、普段以上に膨らんだお腹を叩きながら踊っている。

  「ポンポコポンのスッポンポーン!いい音ね!」

  安藤くんもお腹を叩く。

  「ぼくもやってみるぞ!狸とレッサーパンダは似てるからぼくのお腹もいい音で鳴るかも!」

  「じゃあ私も!」

  太ったリカオンの恩田 梨香ちゃんがお腹を叩くと、はずみで服のボタンが半分ほどはじけ飛んでしまった。

  「あら、お腹が丸出し!まあいいわ。これでみんなとお揃いね。」

  10杯食べた穴田くんは、お腹が膨らみすぎて起き上がれない。

  「誰か、起こして!」

  「穴田くん、手伝いますわ!」

  お腹を軽く膨らませた理沙ちゃんの手助けで、彼は起き上がった。

  「ありがとう…うわあ!」

  今度は重いお腹が重心となり、前のめりに転んでしまった。

  「ああ、せっかく起きられたのに…理沙ちゃんごめん…」

  「グゲエーーーーーーップゥーーーーーーッ…おいしかった!」

  12杯も食べた卯井是瑠ちゃんは、特大のげっぷを出した。同時に太鼓腹と出べそも震える。

  「ちょっと、お行儀悪いわよ!げっぷぐらい我慢しなさい!」

  「そういう真里だってお腹丸出しじゃない。」

  「これは仕方ないわ。ついつい食べ過ぎちゃったから服がきついのよ。」

  「じゃああたいはズボン脱ぐわね。もうきつくてきつくて!」

  「それもやめなさい!ここでパンツ丸出しになるなんてほんとに下品ね!」

  児童たちは重くなったお腹に苦労しつつ、バンガローに戻った。

  「ゲップ。ああ、お腹が重いよ…」

  床に寝転がる西園寺くん。

  「栗田くんや稲荷山くんはいつもこんな思いをしてるんだね。疲れない?」

  「大丈夫。ぼくたちは物心ついた時から太ってるから、すっかり慣れてるよ。」

  「そうなんだ。やっぱり何事も慣れだね。」

  「うーん、まだ口の周りにカレーが残ってるかな…」

  舌なめずりをする河合くん。

  「ああ、カレーの味だ。でもカレーはしばらく見るのも嫌だ…」

  彼はきつくなったズボンを脱ぎ、パンツ1枚となっていた。

  「見ろよ礼央!俺の腹はドラムだぜ!叩くといい音が出るぞ!」

  春斗くんは楽しそうにお腹を叩いている。

  「春斗、たくさん食べた後なんだからそんなに動いたら体に悪いよ。ぼくみたいに静かに寝てようよ…」

  「いいじゃねえかよ!こんなにいい音が出るんだぜ?まるで狸だ!」

  「でもやめておこうよ。お腹痛くなっちゃうよ…」

  稲荷山くんも言う。

  「その方がいいよ。今はのんびりしよう。」

  「そうだな。休むのもいいな。」

  「さあ、8時のキャンプファイヤーまでお腹を休ませよう。」

  [newpage]

  [chapter:火の神たち]

  19時55分、6匹はバンガローを出た。消化が進んだため、お腹は元に戻っている。

  「さあ、また行くぞ!」

  暗い森を歩き、広場へ向かった。

  広場の中心には薪が積み上げられ、それを児童たちが囲んでいる。ここはキャンプファイヤーの会場だ。

  「いよいよ始まるぞ!」

  「キャンプファイヤーってどのくらい熱いのかな?」

  全員揃った所で森口先生、保良先生、滝沢先生、沼田先生が来た。4頭が順に話す。

  「皆さん、この山にもすっかり夜が来て真っ暗になりました。」

  「この闇を明るく照らす物、それは火です。」

  「その炎をつかさどる火の神たちが、この山を訪れました。」

  「さあ、火の神たちの入場です。」

  木々の間から、火の神が5匹現れた。小山先生、安藤くん、千田 俊くん(チーター)、姫子ちゃん、理沙ちゃんが演じている。

  全員白装束を着て、しっぽの先に炎の飾りを付け、トーチを持っている。

  小山先生が語り始めた。

  「大昔から、ケモノたちは火と共に生きてきました。

  火は様々な目的に使われました。料理を作ったり、お風呂を沸かしたり、照明の代わりにしたり…

  今日はみんなで楽しむために、この火を使います。」

  「さあ、火です。」

  猫田先生が火種のランプを持って登場。まずは安藤くんが前に出て、トーチに火をつけた。

  「希望の火。これはみんなに希望を与えます。」

  次は千田くん。

  「友情の火。これはみんなの友情を深めます。」

  姫子ちゃん。

  「協力の火。これはみんなが協力するようになります。」

  理沙ちゃん。

  「勇気の火。これはみんなに勇気を与えます。」

  最後に小山先生。

  「楽しみの火。これはみんなを楽しませます。」

  火の神たちは積み上げられた薪に火をつけ、キャンプファイヤーが本格的に始まった。

  「わあ、すごい!」

  「ちょっと熱いけど、楽しそうだね!」

  [newpage]

  [chapter:大盛り上がりのキャンプファイヤー]

  火の神を演じた5匹も普通の格好に戻り、小山先生以外は輪に加わった。司会の森口先生が語る。

  「さあ、いよいよキャンプファイヤーが燃え上がりました!まずは歌を歌いましょう。」

  沼田先生がプレイヤーのスイッチを入れ、音楽がスタート。それに合わせて全員で歌った。

  「次は狐、狸、イタチ、カワウソ、テンの化け化けショーです!皆さん、見やすい位置に移動してください。」

  稲荷山くん、優子ちゃん、卯井是瑠ちゃん、河合くん、柴田くんが前に出た。滝沢先生が指示を出す。

  「さあ皆さん、まずは電化製品に化けてください。」

  5匹は電化製品を頭に思い浮かべて、精神を集中させた。

  「準備はいいですか?1、2の、3!」

  5匹の姿が電化製品に変わった。

  稲荷山くんはアイロンに化けたが、コードの先はしっぽのまま。

  優子ちゃんは冷蔵庫に化けたが、中心には出べそが残っている。

  卯井是瑠ちゃんは洗濯機に化けるはずだったが、胸にボタンが複数付いているのみ。あまり練習をしなかった結果だ。

  河合くんはパソコンに化けたが、こちらもしっぽが生えたまま。

  柴田くんはスマートフォンに化けた。どこから見てもスマートフォンそのものだ。

  児童たちは興奮の声を上げる。

  「すごいよね、化けられるって!」

  「ほんとだよ!全身の細胞や着ている物を自由に変質できるんだよね!」

  「でもどうしてあんなにできるのかしら?」

  「大昔、敵から身を守るためにあんな能力を身につけたんですって。図鑑で読んだわ。」

  「そうなんだ。服まで巻き込んで変質できるなんて、ものすごい進化だね…」

  5匹はその後も様々な物に化け、全員を感心させた。

  次は教師たちのダンス。あまり何度も化けると疲れてしまうため、参加した5匹の休憩も兼ねている。

  太った滝沢先生と保良先生はぎこちない踊りだったが、児童たちは大して気にしなかった。

  その次はフォークダンス。1組と2組で2重の輪になり、曲の区切りごとにペアを変えて順に踊る。

  くるみちゃんは、この時を楽しみにしていた。

  (やっと…やっと栗田くんと手がつなげるわ…)

  彼女は前から栗田くんに好意を持っていたが、彼とはクラスが異なる。明るい性格だが、告白に踏み切る勇気は何年も出せていない。

  2クラス合同のダンス練習日は家庭の用事で欠席したため、実質的に今日が初だ。

  くるみちゃんの胸は高鳴っている。

  (栗田くん、待っててね…)

  「さあ、準備はいいですか?始まりますよ!」

  フォークダンスの軽快な曲が始まった。1組と2組の児童は向かい合って手をつなぎ、回って踊る。

  この曲は20秒ごとに一区切りのメロディ。そのためペアを変えるタイミングがわかりやすい。

  栗田くんはまずコアラの新湖 優香ちゃんと踊り、千田くんと踊り…

  くるみちゃんは姫子ちゃんと踊り、西園寺くんと踊り…

  (ああ、あと2組で栗田くんと踊れるわ!)

  [newpage]

  その時、曲が止まった。

  (え、終わりなの?よりによってこのタイミングで…)

  すると、森口先生が言った。

  「さあ、もう1回踊りましょう!」

  くるみちゃんは喜んだが、ぬか喜びに終わった。

  「今度は反対回りですよ!」

  (そんな…)

  楽しそうに踊ったが、内心はかなり落ち込んでいた。

  フォークダンスが終わる頃、キャンプファイヤーの火は小さくなっていた。

  「さあ、最後に空をご覧ください!皆さんの喜びが光っています!」

  プレイヤーから幻想的な音楽が流れ、花火が打ち上がる。

  「うわあ、きれいだなあ…」

  「これが夢じゃないなんて…」

  (この花火、栗田くんの隣で見たかったわ…栗田くんと同じクラスだったら良かったのに…)

  5分ほどで花火が終わると、森口先生が最後の挨拶を始めた。

  「皆さん、キャンプファイヤーは楽しかったですか?」

  「はい、もちろんです!」

  「良かったです。この思い出は、皆さんの記憶にいつまでも残る事でしょう。

  それでは、気をつけてバンガローに戻りましょう。」

  児童たちは燃え尽きたキャンプファイヤーを後に去った。

  「稲荷山くん、やっぱりここは星がきれいだね。」

  「明かりが少ないからね。」

  栗田くんと稲荷山くんのように、星空を眺める児童も多かった。中には眺める事に夢中で、足元がおろそかになっている児童も…

  「あー、楽しかった…」

  栗田くんはバンガローに戻っても興奮が収まらなかった。

  「あんなに大きな焚き火は見た事ないよ…」

  「ぼくも初めて見たよ。」

  「さあ、後はシャワーを浴びて寝るだけだ!」

  [newpage]

  その時、外から森口先生と小山先生が叫んだ。

  「皆さん、大変です!4年2組の縞野 くるみさんが行方不明です!」

  「誰か、縞野さんを見ていませんか?」

  [chapter:後編に続く]