水面に太陽の光が水の底を照らしている。
青い空が水面に映り、ゆらゆらと揺らめいていた。
条件反射的に水面に向かって伸ばされた手は、ワイヤーが仕込まれている腕時計がないことに気が付いた瞬間に、その役目を終えた。
握りしめられた手は、ゆっくりと開かれ、最後に残った力を込めて、水面に揺れる太陽に向かって伸ばされる。
いつもならば、諦めはしない。
がむしゃらに何が何でも生きてやろうともがくところだが、今はそんな気は起きなかった。
大した高さから落ちたわけではない。恐らく2~3メートルくらいだろう。もっと高いところから落ちてもけろりとしていて、仲間からは「不死身か」などと呆れられることが多かったが、今は終わりしか感じられない。
思えば色々なことがあった。
NEXTに目覚め、周りからは気味悪がられ、避けられた子供時代。
Mr.legendに助けられ、ヒーローを目指そうと夢見た子どもは高校時代に無二の親友と最愛の人を見つけた。
子どもにも恵まれ、最高に幸せだと思っていたら、最愛の人が死んだ。好き勝手にやってきた結果、ヒーローを優先させた結果、死に目にも会えず、娘とも別居した。
落ち目だがヒーローを生きがいにしていたら、突然転職を余儀なくされ、相棒が出来た。
その相棒とはいろいろあった。
バディヒーロー誕生に、ジェイク事件、相棒がKOHになり、能力減退に、legendの真実。
そして、二度の解散を経たバディ再結成。
このままずっとヒーローを続けていたかった。
このままずっとヒーローを続けていければよかった。
女々しくてもずっとヒーローに縋りつきたかった。
だが、現実ってやつは残酷だった。
‐‐悪いな、相棒……
虎徹は終わりを覚悟した。
[newpage]
[chapter:シリアス、続きました。ごめんなさい]
ぶるりと寒さに身を震わせ虎徹は起き上がった。
虎徹がいる場所は、どこかの浜辺だった。
水平線に夕日は落ち、まだ微かに周りを見回せば何があるかわかるが、人の顔かたちまでははっきり判別できない――黄昏時というやつだった。
ぼーっと海を見ていると、シュテルンビルトのネオンの光が微かに届いていることに気が付き、虎徹は自分がいる場所の当たりをつけた。
直線距離にして30km程。シュテルンビルトに帰るには迂回しなければならないため、3~4時間かかる場所だ。シュテルンビルト側からは水平線近くに陸がある――その程度に認識されている場所だった。
今頃仲間たちは心配して探してくれているかもしれない――そう思い、連絡するためにPDAを弄ろうとして、腕に何も嵌っていないことに気が付いた。
「あ~……あんときかぁ」
音にした声が掠れていて、虎徹は自分で驚いて、喉に手を当てる。
一体どれくらい海の中にいたのだろう。一体どれくらいの時間が経っているだろう。
まだ一日は経っていないと思うが、少なくとも昼食べてすぐにインタビューを受けて「今日のご飯は何を食べました?」などとやりとりをしていた時に出動要請がかかったのだから、5時間か6時間は経っていることになる。
虎徹は自分の状態を確認して、ほぼ無傷であることを確認すると、先ほど撃たれたときに外れたPDAの跡を指でなぞった。
ヒーローの証ともいうべきPDAがない状態がひどく落ち着かない。引退していた1年、首になった数日間を思い出しながら、虎徹はぶるりと身を震わせた。
虎徹は立ち上がり、海に背を向けた。
シュテルンビルトに戻る方法はある。
それはひどく簡単なことだ、人がいる場所に行き、携帯電話でも借りればいいだけの話だ。
それだけの話。
虎徹は徐々に大きくなってくるヘリコプターの音から逃げるように走り出した。
今は、ただ一人になる時間が欲しかった。