Ad
森にスイカズラの花が咲いている。子供たちが楽しそうに蜜を吸う姿を見て、ハリは頬をゆるめた。
「どこの郷でも子供は変わらへんなぁ…」
今日は主が朝議参列の為、供をしてニコシ領へ入っている。主の事が済めば、軽く食事をとって帰路へつくことになっていた。
ハリは指定された待合場で小隊の食事を作っている。
そろそろ主が戻る頃であるが、ハリの元を訪れたのは思わぬ人物だった。
国宰の嫡子、ウマラである。 本来であれば臣下の礼を取らねばならないが、ハリは一瞥して作業を続けた。
「なんか用か」
ハリにとって今の国主らは仇にあたる。訳あって仕えているものの、服従するつもりは無い。人前ではともかく、2人の時は対等に…むしろ下に見ていた。
「お前の一族の不始末だ。ツリフネ…あれはなんなんだ。私を殺すつもりか?」
「ツリフネ…?」
一族に古くからある術師の家の者だが、性格や行動に難がある。ハリ自身も嫌いだし、なるべく関わりたくなかった。
「私に毒を盛ろうとしたのだぞ?」
「見たとこ平気そうやんか」
火にかけた甕の中身をかき混ぜながら、ハリがせせら笑う。
「…今は、だ」
低く返したウマラはムッツリと不満そうな顔している。
「腹下したん?何食わさんたんや」
ハリは正直なところウマラの私事など興味は無い。が、一族の不始末とあれば聞かない訳にもいかない。形だけ尋ねた。
「サンショウウオの干物」
ハリの手が止まる。思わず苦笑が漏れた 。
強壮にいいと聞いたことがある。しかし目の前のウマラはまだ13だ。放っておいても盛るだろうと、下世話に思った。
「ワレには早いんとちゃうか?」
「夏負けに良いとアレが言ったんだ」
まぁ、そういう効果もあるのかもしれない。効用について聞いたことがあるハリは頭の中に考えを巡らせる。
効きすぎたのだと合点した。
「ま、ツリフネに関しちゃ気をつけた方がええで…。あいつの持っとるもんは少量なら薬かも知らんが、量間違えりゃ毒になるさかいなぁ」
「…」
ウマラは眉をひそめる。
「アイツのもんは飲まんにこした事ねぇで」
体良くウマラを追い出したハリはツリフネを思い出していた。
以前過ごしていた郷で、一族の少女を手篭めにした男がいた。ツリフネとも懇意にしていたらしい男は、ハリの一族がその郷を立った日に死んだ。家中が糞尿と吐瀉物でまみれていたという話だから、死ぬまでに相当もがき苦しんだに違いない。
男自身が毒キノコを間違えたという話で落ち着いたらしいが、ハリはツリフネを疑っている。
「なんせ、澄ました顔して人殺しよるさかいなぁ…」
呟きながら、ハリはひとつ身震いした。
Ad