AdAd
  
病魔 報復編

  [chapter:謎の少年]

  バルジが床に伏せている頃、司令長室では藤堂が頭を抱えていた。

  「はぁ……まさか、あのバルジが風邪で寝込むとはな…想定外だ。さて…問題は今回の任務をどうするか

  …」

  コーヒーを啜りながら今後の検討をしていると突然後方から幼い声が聞こえる。

  『ふふふ、何に悩んでいるの?僕にも教えてよ』

  「っ?!誰だ!!」

  聞き覚えのない声に藤堂の警戒心が上がり、周囲を見渡すが誰もいなかった。

  「誰も……いない。聞き間違えか?」

  「そんな寂しいこと言わないでよ…散々奪っておいてあんまりだよ」

  再び声が聞こえ咄嗟に振り向くと、部屋の片隅に少年が立っていた。

  「子供……だと。貴様は何者だ!」

  藤堂からの問いかけに対して少年は不気味な笑みを添えて応えた。

  「僕の名前はカイト。今は亡きカメール人の生き残りだよ」

  「カメール人……っ!あのカメール星の生き残りか?!」

  「そうだよ。銀河鉄道が滅ぼした星だよ。良かった……覚えていてくれたんだ。嬉しいよ」

  不適な笑みを溢しているカイトに藤堂は嫌な汗をかいた。

  (まさか…30年前の事件で滅んだカメール星の生き残りがいたとは。だが今頃になって何故現れた?!)

  脳裏に疑問が過ぎった藤堂は真剣な瞳でカイトに問いかけた。

  「それで…自己紹介までして、私に何の用だ?」

  「ふふ、そんなことを言って、もう分かっているんでしょ。僕がここに来た理由」

  「………まさか。報復か」

  嫌な汗を流しながら漏らした言葉にカイトは再び笑みを溢した。

  「ふふふ、そうだよ。君たち銀河鉄道管理局が僕から色々と奪ったように、僕も君たちから大切なものを奪おうと思ってきたんだよ」

  「それで…まずは司令長である私の命を狙いにきたのか?」

  「命?ぷふふ、そんな簡単に殺すわけがないよ。僕の恨みはそんなもんじゃ治まらないもの」

  「では一体何が目的なのだ!」

  小馬鹿にするようにあざ笑うカイトに藤堂が追及すると、笑うのを止めて憎悪の籠もった瞳で告げた。

  「君たちも……大切なものを失う悲しみを知るべきだよ」

  「なんだと……それはどういうことだ!」

  「それは自分たちで考えてよ。時間はまだあるからさ」

  「何を企んでいるか分からんが、馬鹿な事はやめるのだ、カイトくん!」

  「でたよ。その大人ぶってる言葉。何言っても無駄だよ。もう色々と準備もしちゃったし、この帽子も貰っちゃったしね」

  カイトは後ろから見慣れた制帽を出して、自身の頭に被せてニヤリと笑った。

  「それは私の制帽?!一体いつの間に奪った?!」

  「種は知っているでしょ。この帽子は挨拶した記念に貰っていくね。精々、僕らカメール人を怒らせた事を悔やむといいよ」

  何か企んでいる笑みを溢してカイトは徐々に体が透けていっていた。

  「待て!カイトくん!!!」

  藤堂が慌てて取り押さえようと駆け寄るが、カイトはそのまま姿を消した。

  一人残された藤堂が慌てて周囲を見渡すが、もはや人の気配は残っていなかった。

  「これは……非常にまずいぞ」

  予想外の事態に危機感があがった藤堂は早々に司令長室を飛び出した。

  [newpage][chapter:漢方薬]

  一方その頃、お粥を食べ終わったバルジはベッドに座ったまま有紀と雑談をしていた。

  「ふぅ……なんだか腹が膨れたら生き返ったようだ…」

  「栄養が補給できましたからね。お粥下げておきます」

  「あぁ…すまんな」

  膝上に置かれていたお粥を下げると、有紀は薬袋を手に取った。

  「隊長、これが医局から処方された薬です。服用をお願いします」

  「……ん?あぁ、そうだな」

  有紀が袋の内容を確認しながら錠剤を一粒ずつ手渡した。

  「えっと……。まずこれが咳止めで、これが解熱剤で、これが…痰切りで、あとこれが喉の痛み止めですね」

  「………ヤケにあるな。これを全て飲まんといかんのか」

  「まぁ、対処療法ならこれくらいは普通ですよ」

  「そうなのか。風邪とは大病だな」

  「まぁ、罹ったことがないとそう思いますよね。はい、水です。一気にグビッといってください」

  「まるで酒を飲むような感じで言うな」

  若干呆れながらも手のひらに乗った4粒の錠剤を一気に口に入れ、水でさらっと流した。

  「(ゴクン…)ふぅ……これでいいか」

  「はい。あとはこれだけです」

  「……ん?」

  袋から薬の入った小袋を取り出すと、バルジにそっと手渡した。

  「………これも薬か?」

  「はい、粉末の漢方薬です。説明では整腸剤みたいですよ」

  「整腸剤?つまり腸を整える薬か。だが別に腹は下しておらんぞ」

  「これは母さんが言っていたんですけど、発熱って菌を殺す為にするらしいんです」

  「それはそうだな。で?」

  「で、菌を殺す過程で腸内の善玉菌も死滅する可能性があるらしいですよ」

  「は?!善玉という位だからそれは体に良い菌ではないのか?」

  「良い菌ですよ。でも悪い菌を殺すためには仕方がない事みたいです」

  「ほぅ…。それは難儀だな」

  「はい。それもありますけど、風邪での不調の時って、消化器系の機能が落ちちゃうんです。 特に腸と免疫系は密接に結びついているみたいで、ここをフォローしておくと抵抗力もあがるみたいですよ」

  「………随分と詳しく知っているのだな」

  「最後の部分は医局の方からの小言です」

  「ほぅ。お前がちゃんと人の話を聞くとは珍しいな」

  「そりゃ、この薬は隊長の分ですから。任された以上、内容を知るのは大切でしょ」

  「ふっ。それもそうだな。では、ご説明も頂いたし、これも飲むとするか」

  説明に対して少し笑みを溢しながら袋を破くと、そのまま口に入れようとしたところで有紀が声を掛けた。

  「あっ!あのちょっと待ってください!」

  「……ん?なんだ?」

  「その……あまり鼻で息をしない方がいいですよ」

  「……ん?だが…口で飲む以上、鼻で呼吸をしなければ苦しいだろ」

  「そ、それは…そうなんですけど…」

  「変なアドバイスだな」

  不可解な指摘に首を傾げながらそのまま口に含ませると、一瞬でその理由が分かった。

  (……苦っ!!!)

  尋常ではない苦味で瞬間的に顰めると、すぐにドリンクボトルを手に取って一気に飲み下した。

  「(ゴクン…ゴクン…)ぷはっ!げほっ…げほっ…なっ…なんだ、この激苦の薬は!」

  「あ~~やっぱり。俺の経験ありますけど、漢方薬って大体がすっごい苦いんですよ」

  「げほっ…そうならそうと、何故先に言わなかったのだ!」

  「いや~変に抵抗感が出たら良くないかなって…」

  「お前……わざとだろ!」

  「いえいえ」

  二人が薬のことで口論していると、館内に非常ブザーと放送が鳴り響いた。

  [newpage][chapter:非常警戒態勢]

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『すべてのSDF小隊に通達、第一級非常警戒態勢発令!繰り返す!第一級非常警戒態勢発令』

  「っ!第一級非常警戒態勢って確か…」

  「あぁ。管理局内部に不審者が侵入したと言うことだ」

  突然の事態に二人が警戒心を上げていた中、有紀のポケットにある携帯が鳴り響く。

  ピロロロロロロ…

  「……ん?有紀、連絡が来ているぞ。恐らくローレンスだ」

  「はい。ちょっと失礼します」

  慌てて携帯を取り出して、直ぐさま応答した。

  「はい!こちら有紀」

  『こちらローレンス。今の館内放送は確認しているな。第一級非常警戒態勢につき緊急招集だ。速やかに共用ミーティングルームへこい』

  「了解。すぐに向かいます!」

  『それと…今、バルジと変われるか?』

  「はい。大丈夫です」

  耳から携帯を離すと、黙って見守っていたバルジに差し出した。

  「隊長、ローレンス隊長からです。変わって欲しいと」

  「……分かった」

  バルジは携帯を受け取ってそのまま応答した。

  「こちらバルジ」

  『俺だ。療養中ですまんが、お前のシリウスを借りるぞ』

  「気遣いは不要だ。アイツらの事はお前に任せる。だが管理局が第一級非常警戒態勢を発令するという事はただ事ではないはずだ。……充分に用心しろ」

  『承知している。お前は間違っても部屋から出るな。その体でフラフラされてはかえって足手纏いになる。避難指示があるまでは待機していろ。いいな』

  「……了解した。すまんがよろしく頼むぞ」

  『任せておけ』

  ブツン

  通話が切れると少し残念そうに耳から離した携帯を見つめた。

  「ふっ…足手纏い…か。確かに現状ではそうだな。すまんな、有紀」

  「いいえ。隊長はここで休んでいてください。では…俺は行ってきます」

  携帯を受け取り早々に部屋を出ようとすると、バルジが呼び止めた。

  「待て、有紀!」

  「は、はい!なんですか?」

  「俺のデスクの一番上の引き出しに青色のケースがある。それを取ってくれ」

  「え?はい…」

  急いでいる中、何かと思いつつ指示通りに引き出しからケースを出した。

  「これ……ですか?」

  「それだ。こっちに持ってこい」

  「はい」

  有紀は訳が分からないまま、ケースを持ってバルジの元へ向かう。

  ケースを受け取り、蓋を開けると中には小さなバッチとイヤホンが入っていた。

  「それはなんですか?」

  「盗聴器だ」

  「と、盗聴器?!」

  「あぁ、潜入捜査の時に使用するものでな。有紀、これを隊服の襟の裏につけておけ」

  「俺ですか?!なんでです?」

  「俺は見ての通り、この体では参戦はできん。今できることがあるとすれば、情報戦だ。お前が得た情報をここで分析をする」

  「でも…気にせずに休養していた方がいいのではないですか?」

  「有紀。お前が俺の立場だったら黙って大人しくしていられるのか?」

  「それは…その…」

  有紀が言葉に悩んでいると、バルジは真剣な瞳で訴えた。

  「これが今の俺にできる唯一の戦法だ。だから頼む」

  「バルジ隊長………分かりました。俺で良ければ協力します」

  「ありがとうな。だがこのことはローレンスには極秘で頼む。話すと色々と面倒だからな」

  「了解」

  有紀は盗聴器を受け取ると、襟の裏に装着した。

  「では…行ってきます」

  「あぁ。何か分かれば連絡する。相手が分からない以上油断をするなよ」

  「了解!」

  有紀は敬礼をしたのち、急ぎ足で部屋を後にした。

  一人残されたバルジは全貌が見えない事件に表情を曇らせた。

  「侵入者……か」

  (管理局に侵入する輩など毎度碌なことがない。誰も命を落とさなければ良いが)

  心の中に締め付ける思いが過ぎると無意識に拳を握る。先程の病に伏せていた瞳とは違い、青の瞳にシリウスの灯火を燃やすと、耳にイヤホンをしてゆっくりと横になった。

  「さて……俺無しで侵入者をどう対処するか。お手並みを拝見させてもらうぞ、ローレンス」

  [newpage][chapter:少年の恨み]

  数分後、有紀は駆け足で廊下を走り抜けて共用ミーティングルームに到着した。

  「はぁ…はぁ…すみません。遅くなりました」

  「きたか、有紀。道中に異常は無かったか?」

  「はい。一応警戒してきましたが、特に異常はありませんでした。それで今後はどうするのですか?」

  「丁度、今から藤堂司令より全小隊に説明があるところだ。お前も聞いておけ」

  「了解!」

  それから数分後、一同がメインスクリーンに注目していると通信が開かれ制帽のない藤堂が出た。

  『これより管理局で待機中の全小隊へ侵入者について説明を行う。重要な事の為よく聞いてくれ』

  いつもと違う緊張感に一同が身構えると、藤堂が説明を始める。

  『今回の侵入者は、カメール星の生き残りカイトという少年だ。見た目は12才くらいの男児。短髪の緑髪が特徴だ』

  「カメール星?聞いたことがない星だな」

  「12才の少年って…餓鬼じゃねぇか?!」

  「どうしてそんな子が管理局に侵入したのかしら」

  有紀、デイビット、ルイが第一声に驚愕している最中でも説明は続く。

  『カイト少年の目的は銀河鉄道管理局への報復とある。犯行手段は不明だが、彼は我々から大切なものを奪うと宣言をしている。従って上層部も彼の危険人物と特定をした』

  「子供が銀河鉄道管理局に報復だと?!」

  「私たちも随分舐められたものだわ」

  「なぁ、これってただの悪戯じゃないか?」

  キム、コーリー、ピエールが不満の声を漏らしている最中、藤堂は重要な部分の説明に入る。

  『ここまでの説明では、皆はただの悪戯と思うかもしれん。しかし重要なのは彼がカメール人であることだ』

  「カメール人?」

  説明を聞いていたローレンスもその用語に対して首を傾げていた。

  (カメール星のカメール人か。俺でも聞いたことがない星だ。だが、司令の言葉からして管理局はカメール人にかなりの危機感を持っている。……ということは何か裏があるな)

  静かに脳裏で考察していると、想定外の情報が藤堂より展開された。

  『これは30年前に管理局がトップシークレットにした内容だ。彼らカメール人には特異体質がある。それは究極のステルスだ』

  「「「究極の…ステルス?」」」

  『彼は自身の体をステルス化にする能力がある。その上、体温も自在に変えることが可能の為、センサー類は一切効果がない』

  「なんだそりゃ?!」

  「つまり透明人間ってこと?」

  「そんなのどうやって捕まえるんだ?」

  シリウス一同が再び驚愕している最中、一通り話を聞いたローレンスは情報を脳裏で整理を始める。

  (ステルス能力か。これはとんでもない隠し芸だな。つまり一度見失ってしまうと捜しようがないということか。そんな能力を披露されては出たとこ勝負では厳しい。さて…どうしたものか)

  脳裏で作戦の検討をし始めたとき、ふとある疑問点が過ぎった。

  (……ん?待てよ。報復ということは仕返しと言うこと。つまり管理局側がカイト少年に何かやらかしたのか。だとしたら、その理由が犯行手段に繋がるかもしれん)

  疑問の内容が纏まると、ローレンスはモニター越しに藤堂へ質問を投げかけた。

  「藤堂司令、ひとつ質問を宜しいですか?」

  『ローレンス隊長、質問を許可する』

  「カイト少年の銀河鉄道管理局へ報復をする動機はなんですか?」

  『………そのことか。それは…』

  ブツン

  「「「「っ?!」」」」

  藤堂が話をしようとした瞬間、突然通信が切れてしまった。

  「なんだ…急に通信が切れちまったぞ」

  「まだ話の途中だったのに変ね」

  「どうされたのでしょうか」

  「故障かな?」

  シリウス一同が不思議そうにモニターを見つめている中、ローレンスはすぐに指示を出した。

  「……ピエール、すぐに通信状況を確認してくれ」

  「了解」

  「きゃはは、その必要はないよ。故障じゃないからさ」

  「「「「っ?!」」」」

  ピエールに指示を出した直後、後方から幼い声が聞こえて一同が一斉にコスモガンを構えて振り向いた。

  振り向いた先には緑の短髪の12才くらいの男の子が扉近くに立っていた。

  「はじめまして、シリウス小隊とケフェウス小隊の皆さん。ボクがカイトだよ」

  子供姿でも何処か不気味なオーラを放っている少年にシリウス一同が会話を始めた。

  「あなたが……カイトくん?」

  「うん!そうだよ」

  「おいおい……本当に餓鬼じゃねぇか!」

  「そうかな。ボクからしたらアンタの方がお子ちゃまに見えるけどな」

  「は?!何言ってんだ、この餓鬼!」

  「お、落ち着けよ、デイビット。なぁ、カイトくん。さっきの必要ないってどういう事かな?」

  有紀がなるべく優しい口調で尋ねたことに対して、カイトは鼻で笑って応えた。

  「ねぇ~お兄ちゃん」

  「な、なんだい?」

  「あのさ。そんな銃口を向けられてさ、正直に応えると思うの?」

  「あ……それはその」

  カイトからの追及に所持しているコスモガンを見つめていると、近くにいたローレンスが間髪入れずに叫んだ。

  「惑わされるな、有紀!コイツは子供の姿だが、SDFのセキュリティを潜ってここまで来た侵入者だぞ!」

  「は、はい!」

  ローレンスの掛け声で正気に戻った有紀が再びコスモガンの銃口を向けると、カイトは舌打ちをした。

  「ちぇっ。ガチガチな隊長さんだよな。アンタがケフェウスの隊長さん?」

  「あぁ。ケフェウス小隊隊長のローレンスだ。私から質問をさせてもらうが、先程の必要ないとは、お前が通信を遮断したという意味で合っているか?」

  「さ~て、どうしようかな~」

  頭に腕を組んであざ笑う姿を見たローレンスは軽く引き金を引いた。

  バキュー――ン!

  「うわっ?!」

  放たれた閃光はカイトの真横を通り過ぎドアに命中した。

  発砲したことに驚いたカイトが再び前を向くと、いつになく真剣な瞳を向けているローレンスがいた。

  「……悪いが、俺には冗談は通じん。悪ふざけも大概にすることだな」

  「………なんだよ。いきなり子供に発砲するなんてさ。大人として恥ずかしくないの?」

  「別に。我々の目的は貴様を取り押さえることだ。その為には非情な対応も厭わない」

  「へぇ……やっぱり銀河鉄道管理局って冷たい人間の集まりだね」

  「……否定はしない。丁度いい。お前が通信を遮断した事でお前の犯行動機を聞きそびれた。この際、ここで話してもらおうか」

  「へぇ~冷たい人間なのにボクの動機が気になるの?変な人だな」

  「何とでも受け取れ。話す気がないのならば、無理には求めんが?」

  未だに銃口を向けているローレンスに対して、カイトは余裕な笑みを添えて返答した。

  「……いいよ。教えてあげる。アンタら銀河鉄道管理局が犯した罪についてね」

  「管理局が犯した罪だと?」

  「銀河鉄道管理局はね。僕らカメール人を裏切ったんだ」

  「「「「「裏切った?!」」」」」

  突然の発言にローレンスをはじめ一同が驚愕する中、カイトは淡々と説明を始めた。

  「そう。銀河鉄道管理局はボクたちの故郷のカメール星に駅を作ろうとしたんだ。その時に、ボクたちは約束したんだ。絶対にボク達の特異体質については外の連中に秘密にするようにと。それなのに…管理局上層部がその情報を研究者共にリークしちゃったんだよ!」

  「ま、まさか……それでカメールの人々は」

  「そうだよ!元々少なかった同胞はみんな研究所へ連れて行かれちゃったんだ。そして研究者共はそれだけに飽き足らず、ボクたちの故郷の星にまで研究のメスを入れた。無理に傷つけた結果、星はコアが暴走して砕け散ってしまった。それが、今日まで銀河鉄道管理局が隠していたカメール人虐殺事件の全貌だよ!!!」

  怒りの涙を溢しながら訴えた内容に一同は言葉を失った。

  ロ「なんて…ことだ…」

  デ「おいおい…それじゃ完全に管理局上層部が悪じゃねぇか」

  ル「酷い…」

  ユ「あんまりです」

  有「それじゃ恨まれて仕方が無いよ」

  キ「これは…言い訳のしようがないな」

  コ「それで報復をしようとしたわけね」

  ピ「でも!なぜ君のような子供が報復テロをしているんだよ!」

  「そこのお兄ちゃんの質問に答えてあげるね。ボクたちカメール人は子供で成長が止まるんだよ」

  「成長が…止まる?」

  「うん。一番成長しても君たちでいう12歳くらいにしかならないんだ。でも意外と長生きでね。こう見えて50才なんだ」

  にこやかに話すカイトにシリウス一同は再び驚愕した。

  「え?!ご、50才だと?!」

  「う、嘘でしょ?!」

  「でも…見た目は子供だろ。話からして研究者達は…」

  有紀が漏らした言葉に対してカイトは悲しい笑みで応えた。

  「そうだよ。みんなモルモットみたいに実験体にして殺したんだ。ボクの家族も…友達もね」

  「さ、最悪だぜ…」

  「酷すぎるわ」

  「これじゃ恨まれても仕方がないよ…」

  「そうですね。同情に値します」

  話を一通り聞いたローレンスは再度カイトへ尋ねた。

  「お前の動機は理解した。だが、それだけ恨みがあるのならば何故お前はここにきた?」

  「ん?どういう事???」

  「とぼけるな。それだけ管理局を恨んでいるのならば、こんな所に用はないだろ。俺がお前なら真っ先に中枢である総司令部を堕としに行くからな」

  「「「た、確かに!」」」

  ローレンスの説明に一同が納得している中、カイトは不適な笑みを溢して応えた。

  「きゃはは、さっすがローレンス隊長だね。凄く素敵な作戦だと思うよ」

  「お世辞はいらん。で、どうなんだ?」

  「勿論、総司令部の方には遊びに行ったよ。このセキュリティーカードがあれば何処でも出入りが自由だからね」

  楽しげにポケットからセキュリティーカードを出して見せびらかすと、それをみた有紀が声を漏らした。

  「あっ!アレってサヤカさんが紛失したセキュリティ…」

  バキューーーン!!

  有紀が言い切る前に再びローレンスが引き金を引き、セキュリティーカード目掛けて発砲した。

  「うわっ?!」

  (ちっ……外したか)

  カードに目掛けて放たれた閃光はカイトが手を引いたことによりスレスレのところを通り過ぎてしまった。

  「あっ…ぶない。もう!いきなり撃つの止めてくれない?」

  「随分と甘ちゃんなおじさんだな。不法侵入ができるその魔法の鍵を見せられて見過ごす訳がないだろ」

  「むか~~~誰が甘ちゃんのおじさんだ!ボクはまだまだ若いんだぞ!」

  「ふん。自分で50才と言ったのだろうが。で、総司令部に行ったと言ったな。何をしに行ったのだ?」

  「なにって。ボスに逢いに言ったんだよ。本当は綺麗な女の人に会いたかったけど。見当たらなくてさ。代わりにさっきモニターに出ていた指令長さんに逢ったよ。みてみて!お土産にこの帽子を貰ったよ!」

  カイトはセキュリティーカードをしまって、背中に隠していた藤堂の制帽を出して頭に被った。

  「あれは…藤堂司令の制帽か?!くっそ、舐めた真似をしてくれたな!」

  「えへへ、ボクも挑発が上手でしょ。ついでにここに来た理由を教えてあげるよ」

  「なんだと?」

  「ボクが…ここに来た本当の理由はね…」

  不気味な笑みを溢しながら話す姿に一同が息を飲むと、カイトは一瞬で姿を消した。

  デ「なっ?!き、消えた!」

  ル「嘘でしょ?!あんなに注目していたのに…」

  ユ「これがカメール人の究極のステルス能力ですか」

  有「一体どこにいったんだ?!」

  キ「おいおい…本当に見当たらないぞ」

  コ「本当に厄介な能力ね」

  ピ「服や所持している物までステルスできるか。とんでもない子供だよ」

  一同が周囲を警戒する中、突如一発に閃光がローレンスの手元に目掛けて放たれた。

  バキューーーン! カラカラ…

  「ぐっ…!!しまった!」

  放たれた閃光は所持していたコスモガンに命中し、手元から弾き飛ばされてしまった。

  動揺している中、再度室内で銃声が鳴り響いた。

  バキューーーン!

  「ぐあっ!!!」

  「「「ろ、ローレンス隊長!!!」」」

  2発目の閃光はローレンスの右足に命中し、激痛からその場に膝を付いた。

  衝撃を受けたケフェウス一同が駆け寄ろうとすると、痛みに耐えているローレンスが叫んだ。

  「ぐっ……く、来るな!!!」

  「「「っ?!」」」

  突然の停止命令でケフェウス一同が足を止めた瞬間、ローレンスの耳元では不気味な声が聞こえた。

  「はい……これで3回は死んだね。ローレンス隊長」

  「っ!!」

  声に反応して後方を見ると、そこにはこめかみにコスモガンの銃口を向けながら不気味な笑みで立っているカイトの姿が見えた。

  「き、貴様…いつの間に…」

  「痛い思いをさせてごめんね。でも隊長さんが悪いよ。いきなり2回も発砲したからさ、流石のボクも怒っちゃったよ」

  「ぐっ……先程の2発は…その報復と言いたいのか」

  「きゃはは、そうだよ。本当は無傷で無力化したかったけどさ。隊長さん相手じゃ難しかったよ」

  「ふん……そうか。で、短気なお前はこれからどうするつもりだ」

  痛みに耐えながらギロっと睨むと、カイトは少し顔を顰めた。

  「あのさ。その目つき止めてくれない?止めないとうっかり撃って殺しちゃいそうだからさ」

  「ふん。俺には…お前にそんな度胸があるとは思えんがな」

  「強がり言っちゃって。さぁ!ローレンス隊長は両手を上げて、逆らったら本当に撃つよ」

  少し脅しをかけた指示にローレンスは渋々言う通りに両手を挙げた。

  「ご要望に応えたぞ。で、俺を人質にしてどうするのだ?」

  「あのさ。さっきも言ったけど、ボクは隊長さんよりも長く生きているんだよ」

  「ほぅ……で、それがどうした」

  「こんな大きな組織ぶっ潰すのに、何も調べないわけがないでしょ」

  「要するに…こちらの事はすでに調査済と言いたいのか」

  「うん。色々と調べたよ。シリウス小隊とケフェウス小隊がSDFの要なんでしょ?一番厄介って情報だったから、みんなが一緒に仕事をする今日を狙ったんだ」

  「なるほど。それでここに来て、まず我々を始末するのが狙いか…」

  裏を書かれたことに若干嫌な汗を流していると、後方のカイトは突然笑い出した。

  「きゃははは、何言ってんだよ。別にアンタらの命を取りに来たんじゃないよ」

  「……なに?それはどういう事だ!」

  「あの司令長さんが言ったでしょ。『大切なものを奪う』って」

  「なんだと?どういう意味だ!」

  「キミたちもさ。一度、大事なものを失う悲しみを味わった方がいいって事だよ」

  「失う…悲しみだと」

  意味深な発言に動揺している中、銃口を突きつけているカイトはその他の一同に声を掛けた。

  「とにかく!この隊長さんを助けたかったらボクの言うことを聞いて貰うよ。言うことを聞かないと、すぐに引き金を引いちゃうからね」

  カイトからの要求にコスモガンを構えたままキムとデイビットが静かに協議を始めた。

  「なぁ、どうする?反撃するか?」

  「いや…流石にあれだけ頭に銃口を突きつけられたら、いくらローレンス隊長でも回避は不可能だ」

  「そうだよな…おまけに足を撃たれているもんな」

  「あぁ。あの足では対処は厳しい」

  「んじゃ…選択は一つだな」

  「あぁ、ムカつくが要求を呑むしかない」

  「はぁ…しゃあねぇか」

  中堅二人が決断すると、気乗りがしないままデイビットが返答した。

  「……待たせたな。てめぇの要求を飲むぜ」

  「助かるよ、おじちゃん。じゃあ、みんなのコスモガンをこの袋に全部入れてね」

  「ちっ!分かったよ」

  デイビットはしぶしぶと袋を受け取り、全員分のコスモガンを入れた。

  詰め終わると最後カイトへ問いかけた。

  「とりあえず全部入れたぜ」

  「ありがとう。じゃあ…袋の口を閉めてこっちに投げてよ」

  「ちぇ!注文の多い餓鬼だぜ」

  苛立っているデイビットは要求通り袋の口を閉じてカイトの前に投げた。

  バサ!

  「よくできました。じゃあ、ローレンス隊長も人質役お疲れ様でした」

  「なに?うわっ!!」

  「ローレンス隊長!」

  突然、カイトはローレンスを突き飛ばし、袋を受け取って入り口前に移動した。

  突き飛ばされたローレンスは駆け寄ったキムに支えられたままカイトを睨んだ。

  「ぐっ……貴様!一体何処に行くつもりだ!!」

  「そんなの教えるわけがないじゃん。それに今からここの扉も封鎖しちゃうから袋の鼠のキミ達が知っても無意味でしょ」

  「なっ?!なんだと。貴様、我々を閉じ込めて一体何をするつもりだ!」

  鬼の形相のローレンスに言葉にカイトは冷徹な瞳で応えた。

  「言ったでしょ。失う悲しみを味わって貰うって。精々何もできない無力さを知るといいよ」

  皮肉まじりの言葉を告げ終わると、カイトは扉を閉めた。

  「あのくそ餓鬼が!!」

  激昂したデイビットが慌てて扉の開閉を試みるがびくともしなかった。

  「くっそ!駄目か…有紀、キム!てめぇらも手伝え!」

  「分かった!」

  「将がないな。ユキさん、ローレンス隊長の応急処置をお願いします」

  「分かりました」

  支えていたローレンスをユキが手当てを始めると、状況をみたピエールが提案した。

  「ローレンス隊長!こうなったら管理局に連絡して救援を呼びましょうよ」

  「………いや、恐らくもう手遅れだ」

  「え?ど、どうしてですか??」

  「コーリー、デスクの固定電話で連絡してみろ」

  「は、はい!」

  指示を受けたコーリーが慌てて受話器を取って確認した。

  「……どうだ、コーリー?」

  「……駄目です。完全に通信回線が切られています」

  「やはりか。携帯も駄目だ。恐らく…管理局内の全通信手段が絶たれているのだろう」

  「そんな?!」

  「で、でもそんなのはシステム管理部のランベージさんの手に掛かれば…」

  「あっ!!」

  ピエールの進言に被さるように何かを思い出した有紀が突然声をあげた。

  「な、なによ、有紀くん?!」

  「ローレンス隊長。ランベージさんとキリアンはシステム監修でディスティニーを出ているってサヤカさん達が言っていました」

  「なんだと?!そこまで確認しての犯行だったのか」

  手当てを受けているローレンスが驚愕している中、目の前のユキがボソッと呟いた。

  「でも…私たちをここに閉じ込めてカイトさんは何をするつもりなのでしょうか…」

  ユキの質問に思考を巡らせたローレンスは自身が導き出した答えに嫌な汗をかいた。

  「もしかしたら…メインシステムの破壊かもしれん」

  「「「「「えっ…」」」」」

  ローレンスからの発言にその場の一同が言葉を失った。

  有「め、メインシステムの破壊だって?!」

  ル「嘘でしょ?!」

  デ「そりゃ…かなりまずいぞ!」

  キ「流石の管理局もメインシステムを壊されたらどうにもならねぇよ」

  コ「おまけにランべージさんとキリアンが留守なんて…」

  ピ「なぁ、早くあの子を止めないと!」

  一同が困惑する中、負傷したローレンスは必死に打開策を検討していた。

  (やられた。これは完全に裏を取られてしまった。このままカイトを野放しにしては銀河鉄道管理局がまずい。武器を奪われた今、どうやってここから脱出するか)

  脳裏で検討するが中々名案が浮かばないことに自然と握り拳に力が入った。

  (くっそ……何も思い付かん。こんな時にアイツがいたら何か名案が思い付いたのだろうか)

  この場にいない人物に期待を寄せるのは止めて、ローレンスは現実を見て一同へ指示を出した。

  「……仕方がない。時間は掛かるが、ここにあるものでドアの破壊を試みるぞ」

  「「「了解!!!」」」

  【次回予告】VOICE バルジ

  まさかあのローレンスが負けるとはな

  この身体が何処まで持ってくれるか…

  だが彼の犯行を見過ごす訳にはいかん

  次回、『病魔 解決編』

  俺たちは次の駅で誰かの覚悟を知る。

AdAd