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病魔 解決編

  [chapter:隠れ鬼]

  ローレンス達が罠に嵌まった頃、床に伏せているバルジはイヤホンで戦況を確認しながら咳き込んでいた。

  「げほっ…げほっ…やれやれ……まさか通信回線まで遮断してくるとは。盗聴器が独自無線で良かった」

  隣に置いてあったコップで一口水を飲んでから、再度情報分析に戻った。

  「はぁ……まさかあのローレンスが負けるとはな。なかなかできる少年のようだ」

  (アイツが負傷したのは想定外だが、あれは先に撃ったアイツが悪い。いくら危険人物でももっと慎重に対処すべきだったな」

  軽率な行動に少し呆れながら、バルジはそっと瞼を閉じて情報の整理を始めた。

  (しかし…カメール人か。昔、宇宙人種辞典で見たが、元々は温厚な種族のはずだ。それがこんな復讐劇をするとはな。まぁ…管理局上層部の悪事を考えると無理もないか)

  管理局上層部の愚かさに顔を顰めながら、本題の打開策について検討を始める。

  (さて……問題はどう対処するかだな。あのステルス能力はかなり厄介だ。ローレンスが為す術がなかったことを考慮すると、真っ正面で対処は不可。センサーも頼りにならないとすると、こちらから捕らえるのは難しいな)

  「となると、罠を張るか、待ち伏せるか……か。どちらも正直厳しいな」

  有効な打開策を思いつかない状況に思わず苦笑していると、ふと脳裏にカイトの目的が気がかりになった。

  (それにしても…カイト少年は一体何が目的なのだ?虐殺事件の事がトリガーならば真っ先に管理局上層部を殺しに行くはず。だが彼は藤堂司令やローレンスを殺さなかった。それどころか他のSDF隊員にも今のところ死者は出ていない。つまり……殺しが目的ではないということか)

  「殺さない報復……か。だが…それで報復ができるのか」

  頭をかきながら考え込んでいると、ふとカイトの言葉が浮上した。

  『言ったでしょ。失う悲しみを味わって貰うって。精々何もできない無力さを知るといいよ』

  「失う悲しみを味わう…つまり管理局がダメージを受けること。何もできない無力さを知る……知るということは……見る。見るというと……傍観する……傍観?」

  脳裏で情報のカードを並べると、少しずつ点と点が繋がっていく。

  大切なもの……管理局の最重要……利用者の命。

  失う悲しみ……命が奪われること

  何もできない無力さを知る……何もできずに傍観すること

  「……利用者の命が奪われる状況を何もできずに傍観する……か」

  (管理局にとって一番避けたいのは利用者の命の見殺しにすることだ。だが銀河鉄道管理局にはSDFがある。SDFがいるかぎりその可能性は……はっ!ま、まさか?!)

  言葉が繋がった瞬間、ある策略が過ぎると一気に瞼を開いた。

  「なるほど……カイト少年の狙いはこれか。なかなか…悪質な方法を思い付く少年だな」

  手で顔を覆って思い悩んでいたが、すっと手を離して手のひらを見つめると、バルジも覚悟を決めた。

  (……すまんな、カイトくん。悪いがキミの報復は見過ごすことはできん)

  決意を固めると、バルジは脱力した体をゆっくり起こした。

  「ぐっ……はぁ……はぁ……キツいな。だるさが残っているが……仕方がないか」

  自身の体の状態に苦笑して立ち上がろうとすると、腕の点滴を思い出した。

  「……流石にこれは邪魔だな。………すまん、ユキ」

  一言謝罪の言葉を漏らすと、躊躇無く腕の点滴を引き抜いた。

  引き抜いた点滴の針は床に落とし、ゆっくりベッドから立ち上がった。

  「げほっ……げほっ……なんとか……歩行はできそうだな。さて……」

  咳き込みながらゆっくりと移動を始めると自身のデスクに辿り着いた。

  「げほっ…げほっ…さて……こんな状態で…何処まで命中率があるかだな…」

  デスクに置いてあったコスモガンに触れた瞬間、ふとある疑問点が過ぎった。

  (……待てよ。今更だが、何故カイト少年は30年もの時が流れた今頃になって報復を結構したのだ?もしも俺が彼なら準備期間を入れたとしても10年以内には事を起こしていてもおかしくはない。何か…理由でもあるのか?)

  立ったまま脳裏でその理由について考えていると、カイトの口調や言動が過ぎった。

  (ボク……か。成長が12才で停止する…人種。50年生きた…少年か)

  言葉の内容を再確認してある仮説が出来上がった。

  「もしかしたら……あのカイト少年は……」

  仮説に対してコスモガンに触れているバルジは少し悲しい笑みを溢した。

  「なるほど……そういうことか、カイト少年。ならば……これは必要ないな」

  バルジはふと微笑みながらコスモガンを取ることをやめ、代わりにマスクを手に取って口元につけた。

  隊服のコートを肩に掛けて、脱力した体は部屋を後にした。

  [newpage][chapter:対話]

  それから数分後、捜索対象のカイトはステルス能力をフル活用して管理局を歩き回っていた。

  (きゃはは、ホントにSDFって馬鹿な奴らだよな。ちょっとガラの悪いおじさん達からのアドバイス通りにしたら簡単に戦力を削れたよ)

  上機嫌のカイトが利用したのは宇宙闇バイト。宇宙海賊のアドバイスを受けて、今回の報復を決行していた。

  (さてと。ある程度戦力は削ったし、あとは最後の仕上げだな。カメール人の生き残りとして、絶対にやり遂げてみせるぞ!)

  決意をしたカイトは最終目的を果たす為、あるところへ向かった。

  カイトが向かったのはSDFの戦闘列車の車両所。

  車両所には点検が完了したSDF戦闘車両が綺麗に並んでいた。

  ステルス能力を使用しながら周囲を確認するとニヤリと笑みを溢した。

  (きゃはは、やっぱり警備されていないな。馬鹿な奴らは、ボクが仕掛けたダミー爆弾に踊らされて全然違うところを総出で探しちゃっているもんな)

  クスリ笑いをしたカイトは警備がされていない車両所で、ある列車を探した。

  (えっと……確か…この辺りにあるはずだけど……あっ、あった!!)

  順番に列車を確認して見つけたのは車両識別番号001のビッグワン。

  その黒の巨体にはいつもの煙はなく、静かに出番を待っている歴戦の勇士の姿だった。

  (これが……ビッグワン。遠くでは見たことがあるけど、間近で見るのは初めてだな)

  「ちょっと……格好いいな。……って!ヤバいヤバい!見とれている場合じゃなかった。早くおじちゃん達の作戦をやらないと!」

  宇宙海賊達がしたアドバイスは、SDF戦闘列車の破壊。カイトは事前に手渡されていた破壊優先度リストの最上位にあるビッグワンの破壊から試みることにした。

  ステルス能力のままカイトはビッグワンの機関車に乗り込んだ。

  ビッグワンへ乗り込むとステルス能力を解除してポシェットから一つの金属物を取り出した。

  「よし……あとはこの時限コスモ爆弾をメインシステムがある機関室にセットすればいい。へへへ、楽勝だ」

  少し笑みを溢しながら、メインシステムがある機関室に入室した。

  カイトは薄暗い機関室内部を周囲の確認をしながらゆっくり進んでいった。

  「うわぁ……なんか……薄暗くて……怖いな…」

  少し覚えながら奥に進んでいくと、突然低い男性の声が聞こえた。

  「……きたか。待っていたよ、カイト少年」

  「う、うわっ?!」

  予想外の声に驚いたカイトが慌てて正面を向くと、メインシステム前に隊服を肩にかけて座り込んでいる男が一人いた。

  「……あんたは……誰だよ?」

  おどおどしながら尋ねられた事に男はマスクをしながら応えた。

  「げほっ…げほっ…驚かせてすまんな。俺はバルジだ」

  「バルジ…さん?もしかして…SDFの人?」

  「げほっ…げほっ…そうだな。普段であれば、SDFシリウス小隊隊長と名乗るところだが……見ての通り病人だ。だからここはバルジさんのままでいいぞ」

  「シリウス小隊の隊長さん?!あっ!そういえば…さっきの共用ミーティングルームにいなかったね」

  「げほっ…げほっ…あぁ…少し風邪を拗らせてな。病欠で自室にて療養をしていたところだ」

  「へぇ……そうなんだ。それでさ、そんな病人がこんなところで何をしているの?」

  「なに、個人的に君と話がしたいと思ってな。管理局に内緒でここまできた」

  まるで楽しみにしていたかのように話をする姿にカイトは徐々に苛立っていた。

  「なにそれ。バルジさんはボクが誰かは分かってないの?」

  「知っているぞ。最年少で管理局に喧嘩を売った少年だろ?」

  「きゃはは、なんだ~ちゃんと分かってるじゃん。だったらさ、早くここを出て行ってよ。流石に病気の人に怪我とかさせたくないからさ」

  あざ笑うカイトに対して、穏やかだったバルジも表情を一変させて真剣な瞳で応えた。

  「それは…このビッグワンを破壊するからか?」

  意外なバルジの発言対してカイトは一気に驚きの表情へと変貌した。

  「なっ?!なんでそれを知っているんだよ!」

  「別に知っていたわけではない。少しだけキミの言葉を推理しただけだ」

  「す、推理?」

  「あぁ。キミは我々に『失う悲しみを味わって貰う』と『何もできない無力さを知るといい』と言ったな。つまり我々に生きた状態で絶望を与えるのが狙いだ。そして管理局が絶望することと言えば、銀河鉄道の利用者の命を何もできずに守れないこと。そう考えると、一番手っ取り早いのはSDF戦闘列車の破壊となるわけだ」

  淡々と説明したバルジに話を聞いていたカイトは気が抜けたように尋ねた。

  「な、なんで…バルジさんはボクの言葉を知っているの?」

  「なに、俺の部下の隊服に盗聴器をつけさせていてな。盗み聞きをしただけだ」

  「へぇ……そんな裏技をしていたんだ。でもボクの言葉でここまで辿り着くなんてバルジさんは頭いいんだね」

  「まぁな。俺もキミと同じく希少人種であるアバディーン人の生き残りだからな。人並みよりは冴える方だ」

  「へ?!そ、そうなの?」

  「あぁ、俺の人種もそれなりに酷い目にあっている。だからキミの気持ちも多少は理解できる。実際、俺にも管理局の嫌に思う部分はあるからな」

  「だったら!なんでバルジさんは銀河鉄道管理局の味方をするんだよ!バルジさんの仲間だって酷い目にあっているじゃないか!なのに…どうして?!」

  必死に自信の考えをぶつけるカイトに対して、バルジは表情を変えずに淡泊に応えた。

  「それはな。嫌いな部分よりも好きな部分が大きいからだ」

  「好きな……部分?それってなんなの?」

  「俺は…人々を繋げる銀河鉄道が好きだ。昨日まで知らなかった人々が出会い、絆を深めていく。そんな繋がりを守りたいと思って俺はここにいる」

  「で、でも!!その繋がりが僕たちを不幸にしたじゃないか!」

  「確かにな。全てが良いことばかりではない。だがそれは銀河鉄道に限らず、生きている限り何処でも幸福と不幸は付き纏うものだ」

  「そうかもしれないけど……でも……それでもボクは銀河鉄道が許せないんだ!!!」

  激昂したカイトは説得も聞かずに、腰に挟んでいたコスモガンを手に取り銃口をバルジに向けた。

  カチャ!

  「バルジさん!ボクはあなたを傷つけたくない。だから…早くここから出て行ってよ!」

  今度はカイトが必死に説得するが、バルジはその場から動こうとはしなかった。

  「悪いが……そういうわけにはいかん」

  「な、なんでだよ!!」

  「ビッグワンは……俺にとって大切なシリウス小隊の一員だ。むざむざ破壊させるわけにはいかん」

  「な、なんでだよ。たかが機械でしょ?!」

  「今の…怒りに囚われているキミにはきっと分からないだろうな」

  「なんだよそれ……意味が分からないよ!」

  「やれやれ……困った少年だな」

  なかなか話が終結しない状態を打破するため、バルジは最終手段に打って出ることにした。

  覚悟を決めた瞬間、バルジは口元のマスクを取り、今までの病人の姿から一変して小隊長としての覇気を纏って告げた。

  「カイト少年……どうしても管理局を許すことができないのか?」

  「えっ……それは…そうだよ」

  「……そうか。ならば俺から一つ提案をしてもいいか?」

  「…提案って……なんだよ?」

  カイトが息を飲んで恐る恐る尋ねると、バルジは迷いなき瞳でハッキリ告げた。

  「ビッグワンを破壊する代わりに………俺を殺していけ」

  「えっ……」

  突然のバルジからの申し出にカイトは言葉を失いしばらく硬直してしまった。

  数秒の沈黙後、正気に戻ったカイトが再び問いかけた。

  「な、なに言っているんだよ、バルジさん!そんな冗談はやめてよ!」

  「悪いが…命のやり取りでそんな冗談は言わん。自分で言うのもなんだが、俺には今日までシリウス小隊の隊長として何度か銀河鉄道を救ってきた実績がある。俺を始末すれば、管理局にそれなりのダメージにはなるはずだ」

  「バルジさんって…そんなに凄い人だったんだ。でも…だったらなんでそんな大切な命をボクに差し出すんだよ!」

  「そうだな…一種の罪滅ぼし…かな」

  「罪滅ぼし?」

  「あぁ。カメール人が受けた悲劇に対しての罪の償いに、俺一人の命では割に合わないのは重々承知している。だが、どうかここは俺の命でキミの矛を収めてくれないだろうか。頼む」

  話を終えたバルジが頭を下げて懇願している様子がカイトには不思議でしかなかった。

  「ど、どうして……どうしてそこまでするんだよ。バルジさんは関係ないじゃないか!」

  「いや……俺もSDFの…銀河鉄道管理局の一員だ。そんな俺が同業の罪を背負うのは当然の事だ」

  「で、でもさ!ボクは何も誰かを殺そうなんて思ってないんだよ!」

  「………そうかもしれん。だがな!キミがやろうとしている事は助けを求める人々の救いの手を払い除け殺しているのと同類だ。そんなこと、見過ごせるわけがないだろ!」

  「で、でも…別にボクが直接やるんじゃないんだから……何もそこまで…」

  「間接的でもだ!俺はキミに罪のない人々を殺させたくはない。それを阻止できるのであれば…たとえ銀河鉄道の悪行での罪を背負ってでも…キミの恨みの犠牲になることも俺は厭わん。さぁ!キミの恨みの為に俺を撃ち殺せ!!!」

  「っ?!」

  真剣な青の瞳で告げられた真意に心打たれたカイトは、涙を流しながら震えるコスモガンをそっと下ろした。

  「クスン……クスン……ずるいよ、バルジさん。そんなことを言われたら……もう…撃てないよ」

  カラカラ……

  大粒の涙を流したカイトは手から力が抜け、所持していたコスモガンを床に落とした。

  その無気力状態をみたバルジはすっと肩から力を抜いてそっと語り掛けた。

  「………カイト少年。ちょっとこっちに来なさい」

  「………うん」

  涙を拭ったカイトはゆっくりバルジの元へ向かった。

  側まできたカイトをバルジはそっと自身の胸の中に招き入れた。

  「バルジ…さん?」

  「辛い思いをさせてしまったな。すまなかった。やはりキミは心が綺麗な少年だな」

  「ボクの…心が綺麗?そんなことないよ」

  「……なぜだ?」

  「ボクは……ずっと銀河鉄道を恨んで生きてきたんだ。そんなボクの心が綺麗な訳がないよ…」

  胸元に顔を寄せながら泣いているカイトにバルジはそっと諭した。

  「……なぁ……カイト少年、俺から人生の教訓を一つ教えてやろう」

  優しい口調で話すバルジに反応したカイトは顔を上げて見つめた。

  「くすん……人選の教訓って…なに?」

  「人はな……憎しみだけでは生きてはいけない」

  「……どうして、そう思うの?」

  「深い憎しみに囚われて実際に恨みを晴らしても、結局最後まで心が晴れることはない。キミもそれが分かっているから30年の時が流れても復讐をしなかったのではないか?」

  「それは…分かっていたけどさ……」

  項垂れているカイトを見てたバルジは少し呆れ顔で追及した。

  「大方……悪い大人にでも唆されたのではないか?」

  「え?ど、どうして…分かるの?」

  「お前の性格がヒントだ。俺の推測では50年生きても見た目は12の子供のまま。という事は精神年齢も12の子供のままと言うことではないか?」

  「そ、そうだよ。生きた年数を言ったらよく誤解されるけど……」

  「やはりな。恐らくお前が頼った大人はお前の大人ぶっている演技を見抜いたのだろう。だから都合良く利用するために話を聞いて同情で寄り添って近づいた」

  「えっ?!そ、そうなの???そんな風に見えなかったけど…」

  「あのな。そういう奴らは詐欺のプロだ。子供を騙すことなど造作も無い。大方、宇宙海賊の連中ではないか?」

  「そ、そうだよ。よく分かったね」

  「まぁ…アイツらとは犬猿の仲だからな。言っておくが、アイツらにはキミへの同情は一切ないぞ。それどころか、もしかしたら今回の作戦が完了したら、キミの人身売買を検討しているかもしれんぞ」

  「えっ?!そ、そんな……」

  衝撃的な言葉にカイトは再び俯くと、涙を流しながら声を漏らした。

  「じゃあ……ボクがしようとしたことは……罪を訴えたことは……間違っていたのかな…」

  再び胸元で泣きじゃくっている幼い子にバルジはそっと頭を撫でて応えた。

  「……いや。自身に起きた不幸を世の中に主張することは悪いことではない」

  「くすん……そうなの?」

  「あぁ。ただ…方法を誤っただけだ。正規の方法で主張すればきっと世の中は反応してくれるさ」

  「そっか……そうだよね」

  話に納得したカイトだったが、徐々に自身がやらかした事を気になりそっと尋ねた。

  「ねぇ……バルジさん」

  「……なんだ?」

  「ボクは……これからどうなるのかな」

  「ん?これから?」

  「やっぱり……死刑になるかな」

  不安げに尋ねてきた事にバルジは気の抜けたように応えた。

  「なにを言っている。死刑などにはならんだろ」

  「…そうだよね…………えっ?!な、なんで???」

  「キミはまだ一人も殺していないだろ。精々…不法侵入・器物破損・業務妨害くらいだ」

  「で、でも…ボク、あの白の隊長を撃っちゃったよ?!」

  「ん?あ~~アレか。アレについては『いきなり撃たれてビックリして撃っちゃった』とでも言っておけ」

  「えっ……そ、そんな嘘通じるかな?」

  「実際、いきなり撃ったアイツにも非がある。正当防衛だったということで俺が進言しておくさ」

  淡々ととんでもない虚偽を話す姿に聞いていたカイトは徐々に疑いの瞳を向けた。

  「………ねぇ…バルジさんって嘘吐きって言われてない?」

  「まぁ……『実直の詐欺師』とは言われたことはあるな」

  「そう……なんだ」

  「まぁ!それはさておいてだ。俺に少し当てがある。キミの罪を減刑できないか掛け合ってみよう」

  「ありがとう…バルジさん。いや、バルジ隊長!」

  「気遣いは不要だ。さて……そうと決まれば、とりあえず藤堂司令へ謝りに行くか…」

  「うん!」

  話が終わり、カイトが笑顔で返答して離れると、バルジはゆっくりと立ち上げた。

  「よいっ…しょ……げほっ…げほっ…」

  「なんか…すっごく辛そうだけど…体は大丈夫なの?」

  「げほっ…げほっ…すまんな。まぁ…体も辛いのだが……療養命令を無視してここにいる事実の方がまずいかもしれん」

  「え?!そうなの?!SDFって厳しいんだね…」

  「あはは、確かにな。さて……行こうか」

  「うん!」

  笑い話をしながら、二人はビッグワンから降車し、司令部へと向かった。

  [newpage][chapter:解決]

  司令部に到着すると、バルジが職員に説明をして管理局内の第一級非常警戒態勢が解除された。

  詳しい話を聞くために藤堂が司令長室へ二人を招き入れるとマスクをしたバルジが事の顛末を話した。

  「げほっ…げほっ…以上が……今回の報告内容です」

  「はぁ……そうか。了解した。それにしてもお前…体は大丈夫なのか?」

  「げほっ…げほっ…はい。なんとか」

  「私にはそうは見えんがな」

  「げほっ…それはそうと…これは私の個人の要望です。今回の事件、事情が事情なだけに、彼の罰を減刑していただきたいのですが…」

  「それくらい分かっている。そもそも根源は銀河鉄道管理局上層部の失態だ。それを元に私から圧力を掛けておく」

  「ありがとうございます。良かったな、カイト少年」

  「はい、本当にご迷惑をおかけしました。あと…これお返しします」

  深々と頭を下げたカイトから奪われていた制帽を受け取った。

  「いいや。こちらこそ、すまなかったな。すぐに解放してあげたいところだが、しばらくは証書などを取らねばならんから、管理局で身柄預かりになる。決して悪いようにはしないから安心してくれ」

  「……分かりました」

  「これは私からの罪滅ぼしではないが…何か要望はないか?できるだけの事は叶えるぞ」

  「え?ほ、本当ですか?」

  「あぁ。あくまで私にできる範囲ではあるがな」

  「じゃあ……ひとつお願いをしてもいいですか?」

  「なんだ?」

  「その……管理局で身柄預かりになっている間、またバルジ隊長とお話はできませんか?」

  「バルジと?」

  「げほっ…げほっ…お、俺か?!」

  「はい。あの……だめでしょうか?」

  少しもじもじして聞いてくるカイトにバルジは微笑んで返した。

  「ふっ。やれやれ……療養期間中なら構わんぞ」

  「え?ほ、本当に?」

  「あぁ。ただ一緒にはいられないからリモートでもいいか?」

  「大丈夫です!ボク楽しみにしているよ」

  「あ?あぁ…」

  カイトが今日一番の笑顔をみせた事に驚いていると、藤堂も微笑んで告げた。

  「では、その件はまた調整をしよう。さて、そろそろ時間だ。迎えが来たから付いて行きなさい」

  「分かりました。あの……色々とお世話になりました!」

  カイトは再び頭を下げて、迎えに来た警備隊と共に司令長室を後にした。

  「やれやれ……とんだお騒がせの少年だな」

  カイトが立ち去ったドアを見つめながらぼやいていると、司令長デスクから低い声が聞こえた。

  「ところで……バルジくん。なぜ床に伏せているはずのお前があの少年を見つける事ができたのだ?」

  「……え?そ、それは…先程にお伝えした通り…彼の言動から…」

  「その少年の言動だが、どうやって情報を入手した。ローレンス隊長の性格と考えてもお前に情報提供はしておらんよな」

  「いや………それは……」

  目を泳がせながら言葉に悩んでいると、藤堂はより疑いの瞳で追及した。

  「まさか……何かしらの方法で盗聴していたのではあるまいな」

  「や、やだな~藤堂司令も人が悪い。それに隊長である私がそんなスパイじみたことをするわけがないではありませんか」

  「………」

  大量の汗をかきながらバルジが答えると、藤堂は頭を抱えてため息を吐いた。

  「はぁ………本当にお前は…こういう時の誤魔化しが下手だな。その大量の汗でバレバレだ」

  「なっ?!これは…きっと風邪のせいです。まだ…熱がありますので…」

  笑いながら誤魔化そうとしている事に一気に藤堂のこみかみにミミズのような血管が浮き出た。

  「そういうのならば……さっさと自室に戻って療養してこい。この馬鹿者!!!」

  「は、はい!失礼しました!」

  藤堂からの怒号に危機感を持ったバルジは敬礼をしたのち、諫早に部屋を後にした。

  一人残された藤堂は一気に全身の力を抜いた。

  「はぁぁぁぁ全く。病に罹っても大人しくしていない奴だ……我がシリウスは」

  [newpage][chapter:事後処理]

  一方その頃、共用ミーティングルームでは監禁状態が解除され、ソファーに腰掛けて談笑をしていた。

  「はぁ~~~たくよ。一時はヒヤヒヤしたぜ」

  「本当にね…あんな子供に踊らされるなんて情けないわ」

  「でも被害が最小限で良かったじゃないか」

  事件が収束して安堵の笑みを溢すデイビット、ルイ、有紀の横で、医療セットを持ってきたユキがローレンスの治療を行っていた。

  「はい。これで大丈夫です。痛みはどうですか?」

  「あぁ、問題ない。感謝するぞ、ユキ」

  「いいえ。思ったほど怪我が酷くなくて良かったです」

  「まぁな。だが…撃たれた事が正当防衛で処理されたことについては些か納得がいかんがな」

  あげていたズボンの裾を下ろしながらぼやいた事に近くにいたケフェウス一同も介入した。

  ピ「あっ!それってさっき報告があったバルジ隊長の要望ですか?」

  ロ「あぁ。どういうわけか。あの馬鹿曰く、先に発砲した俺に非があるそうだ」

  ピ「え……でもまさかバルジ隊長が少年を捕まえるなんて意外でしたね」

  ロ「そうだな。まぁ…完全に療養命令指示違反だから後でキッチリ処罰は必要だがな」

  キ「ローレンス隊長は厳しいですね」

  ロ「隊律を厳守しているだけだ」

  ピ「ふぇ~。でも風邪拗らせているのに、バルジ隊長も無茶をする人だな」

  コ「本当にバルジ隊長って人間かしら」

  キ「でもよ。なんでバルジ隊長、事件のこと知ってたんだろな」

  コ「そう言われてみれば…そうね」

  ピ「携帯の通信回路も遮断されていたよな」

  ケフェウス一同が疑問に感じていると、あることが過ぎったローレンスは徐に立ち上がって指示を出した。

  「有紀!」

  「え?は、はい…!」

  「命令だ。何があっても絶対にそこを動くな」

  「えっ…りょ、了解」

  突然の命令に一同が有紀に注目する中、ローレンスはゆっくり近づいた。

  あまりの威圧的な雰囲気に有紀が恐怖を感じていると、ローレンスはそっと襟元に手を伸ばしてある物を掴んだ。

  「あっ……それは」

  「やはりな。昔、アイツが使っていた盗聴器か」

  「「「盗聴器?!」」」

  「あ…これは……その…」

  「お前がバルジのスパイだな…有紀」

  「えっ?!べ、別にスパイって訳じゃ……」

  「ここに来て言い逃れはできんぞ。お前がこれの存在を知らない訳がないよな。大方、アイツに頼まれて密かに情報提供をしていたのだろ」

  「いや……それは……」

  「あの時、通信手段が立たれていた状態で、指揮官である俺に報告しなかったことは、重大な規律違反だ。その事は重々理解しているだろうな!」

  「え?!そ…それは……」

  突然の暴露を聞いた一同は徐々に不満の瞳を向けていた。

  「学……てめぇ…隊長とグルだったのかよ」

  「流石にそれは良くないわよ。有紀くん」

  「有紀さん…それはどういう事でしょうか?」

  「有紀……コソコソとそんなことをしていたのかよ」

  「随分と勝手な事をしてくれたわね」

  「最低だな……」

  各々が睨みをきかせながら、恨みの籠もった言葉が漏れる。

  その恐ろしさに耐えられなくなった有紀は咄嗟に叫んだ。

  「えと……その……ごめんなさい!!!!」

  盛大に謝罪した有紀はその場から逃げだそうとすると、間髪を入れずローレンスが指示を出した。

  「キム、ピエール、コーリー!有紀を確保しろ!!!」

  「「「了解!!!」」」

  「うわっ!!!」

  ローレンスの指示で有紀は呆気なく3人に取り押さえられた。

  取り押さえられている有紀の前にローレンスが立つと、鬼の形相で宣告した。

  「さて……この不届き者にどんな処罰がいいだろうな」

  「ちょ、ちょっと待ってください!今回の事件はある意味俺がバルジ隊長に連絡していたから解決したもんですよ!」

  「ほぅ……だから穏便に済ませて欲しいという訳か。だが甘いな。俺はそんな融通が利く性格ではない」

  「た、確かに…バルジ隊長も仰ってはいましたけど…」

  「ほぅ、アイツがそんなことを言っていたのか」

  「ふぇ?!あ……それは」

  失言をしてしまったことに気が付いた有紀が動揺していると、ローレンスはある指示を放った。

  「……ユキ!」

  「はい?」

  「ここはもう大丈夫だ。ずっと気がかりな事があるのだろ。行ってこい」

  「………ありがとうございます、ローレンス隊長。では失礼させて頂きます」

  「あぁ。くれぐれも……丁重にな」

  「…………はい」

  命令を受領したユキは何処か不気味な笑みを溢しながら部屋を後にした。

  ユキを見送ったデイビットとルイは変な危機感が過ぎっていた。

  「……なんか、ユキ…変じゃなかった?」

  「んぁ。なんか…聖母の顔の裏に不気味なオーラを感じたぜ」

  違和感があったのは取り押さえられている有紀も同様だった。

  「ユキ……どうしたんだろ。あんな怖い顔をして」

  「ふん。なに、自身の責務を果たしに行っただけだ」

  「せ、責務?」

  「あぁ。それもよりだ。他人の心配をする前に自身の心配をしたらどうだ」

  「えっ?!それは…どういう…」

  「せっかくだ。ケフェウス式の処罰を教えてやる。かなりキツいから覚悟しておけ」

  「えっ……あ、あの……」

  (た、助けてください!!バルジ隊長!!!)

  鬼の形相のローレンスを前に、恐れを感じながら心の中で叫ぶ有紀だった。

  それから数分後、司令長室から自室に戻っていたバルジは再び自身の体と対峙していた。

  「へ…、へ…、へっくしょん!!!」

  盛大にくしゃみをすると、全身で寒気を感じフラフラとしていた。

  「う“っ……いかん、今度は寒気までしてきたな。これはまた風邪がぶり返したのかもしれん」

  (そういえば…なにか忘れているような……う“っ…駄目だ…頭が痛い…これは早く戻って休息を取らなければ…」

  ふらつく体で歩み続けていると、通常の倍以上の時間を掛けて自室に到着した。

  「げほっ…げほっ……はぁ…なんとか辿り着いたな。さて……」

  早く横になりたい願望を抱えながら開閉スイッチに触れドアが開くと、意外な人物が正面に立っていた。

  「…………ん?うわっ?!ゆ……ユキ?」

  「お疲れ様です。バルジ隊長……と言いたいところですが、これはどういう事でしょうか?」

  「えっ……どういう事とは…どういう事でしょうか?」

  不可解な言葉に対して思わず聞き直すと、ユキは聖母のような笑みを溢しながら告げた。

  「私は確か…お部屋で療養をしていてくださいとお伝えしたはずですよね」

  「あっ……それは……あの…」

  「それに…あの点滴はどういう事ですか。まさかだとは思いますけど、勝手に引き抜いたのではありませんよね」

  「あ……その…これには理由があってだな。非常事態で…げほっ…げほっ…」

  「非常事態……ですか。そんなお体で一体どんな非常事態だったのでしょうか?」

  「げほっ…まて…ユキ。とりあえず……俺の話を聞いてくれ」

  「いいですよ。お部屋で…ゆっくりとお聞きします」

  「あ…ありがとう…ユキ」

  少し安堵の息を漏らすバルジだったが、その認識の甘さが災いを呼ぶことをすぐに知ることになった。

  「但し!まずはわたくしからの医学のご説明をたっぷり聞いて貰いますので、覚悟してくださいね」

  「えっ?!いや……もう…疲労で身体が限界だから…休ませ…」

  「いいですね!!バルジさん!!!」

  「…………はい。」

  その後、規律違反をした有紀はローレンスからキッツい処罰を受け、療養命令を無視した不滅のシリウスは横になりながらユキからのお説教を長時間聞くことになった。

  【完】

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