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ケフェウス隊長は猫である【後編】

  [chapter:鮭弁]

  訓練を終えた一同が待機所に戻るとそこには今朝のコーリーがいた。

  「あっ!バルジ隊長、お疲れ様でした」

  「コーリー?お前……こんなところで何をしている?」

  「あの……差し入れでお弁当を買ってきました。ローレンス隊長がいたら食堂へは行けないと思いましたので」

  「なるほど。流石、気が利くな」

  「いいえ。これくらいのことは。それより…ローレンス隊長はどうですか?」

  「ん?あぁ…相変わらず猫のままだが。至って大人しいぞ。なぁ、お前ら」

  バルジが白猫を抱き抱えたまま振り返ると、シリウス一同は一斉に目を逸らした。

  「大人しい……ですかね」

  「俺にはとんでもない悪猫にしか見えねぇけどな」

  「そうね……散々な目にあったものね」

  シリウス一同の不満の声を聞いてコーリーは少し身震いがした。

  「あの……何かあったんですか?」

  「あ~あれか。なに、少し訓練指導を受けただけだよ」

  「訓練……指導ですか。猫なのに?」

  「あはは、まぁな。中々過激な指導だったよ」

  「はぁ……そうですか」

  未だに能天気に話すバルジに若干呆れたものの、シリウス一同からの刺さる視線が気になったので咄嗟に話題を変えることにした。

  「あっ!そうそう!お弁当、皆さんの分も買ってきたので良かったら召し上がってくださいね」

  少しでも雰囲気を変えようと、弁当を机に出すとシリウス一同の表情が変化した。

  「おっ!マジかよ」

  「私たちの分もあるなんて気が利くわね!」

  「丁度お腹ペコペコだったんだ!ありがとう!」

  一同が一斉にお弁当を取ろうとすると、コーリーが慌てて一つの弁当を取り上げた。

  「ちょ!これはダメよ!」

  「「「へ?」」」

  コーリーが手に取ったのは一際大きい幕の内弁当。

  咄嗟に奪い取ると、怒りに燃えたシリウス一同と言い争いが勃発した。

  「なっ!?なんでその弁当はダメなんだよ!」

  「この幕の内弁当はバルジ隊長のだからよ」

  「な、なんでバルジ隊長だけそんな上等な幕の内弁当なのよ!」

  「あのね!上官にワンランク上のお弁当を用意するのはビジネスマナーとして当然でしょ!」

  「なっ…そんな…」

  「は?!そんなん有りかよ!」

  「そうよ!そんなのは差別よ!」

  「あんた達ね……少しはバルジ隊長に日頃の感謝とかはないわけ?!」

  「扱き使われた恨みならあるぜ!」

  「そうね。今までの騙された恨みならあるわ!」

  「コーリー、ちょっとバルジ隊長を美化しすぎだよ!」

  一同が醜い言い争いを少し離れたところで傍観していたバルジは唖然としていた。

  「これはまた……凄まじい逆恨みだな」

  「にゃにゃにゃ」

  「食の恨みは恐ろしい…か。確かにそうだな。と言うかコーリーも意外とビジネスマナーを徹底しているのだな」

  「にゃにゃにゃにゃ…」

  「銀河鉄道管理局も株式会社だから…か。そう言えばそうだったな…。ならば今後はアイツらにも多少はマナー指導をした方がいいのだろうか…」

  「にゃにゃ…」

  「……それは無理だと?何故だ?」

  「にゃにゃにゃ~」

  「……俺がアイツらの上官だからだと。それはどういう意味だ」

  「にゃにゃにゃ」

  「なっ?!俺はそこまで甘くはないぞ!」

  「にゃにゃ~」

  不適な笑みを溢している白猫に絶句していると、気が付けば先程まで言い争いをしていた一同が注目をしていた。

  「………隊長。なに猫相手にムキになってるんっすか」

  「やっぱり…猫の言葉が分かるんですね」

  「てことは…ローレンス隊長には自我があるって事なのかな…」

  「……え?そ、そうなの???だったら、私たちがローレンス隊長にしたことは…」

  「多分、ローレンス隊長は分かっていると思うぜ」

  「そうね。一応、人間に戻ったら記憶はなくなるらしいけど…」

  「でもそれは今までも統計だろ?もしも例外で覚えていたらどうするんだい?」

  まるで他人事のように告げるシリウス一同にコーリーは全身に汗を流しながら反論した。

  「べ、別に…まだ必ず覚えているって決まったわけじゃないでしょ。それに…たとえ覚えていたとしてもローレンス隊長は見た目より寛大だから…多分大丈夫よ」

  「寛大……ね」

  「どうだろうな」「どうでしょうね」

  シリウス一同が白けた瞳で猫を眺めていると、下らない話に呆れたバルジが声を掛けた。

  「お前ら…いい加減下らない話はやめろ。コーリー、弁当の差し入れ感謝するぞ。お前もここで食べるか?」

  「……え?あぁ…いえ、私は食べてきたので大丈夫です。それにまもなく休憩時間が終わりますので、これで失礼します。あっ…これお弁当です」

  「そうか。二人にもよろしくな」

  「はい!では…失礼しました」

  コーリーが軽く敬礼をしたのち、早々に待機所を後にした。

  残された一同が唖然として見送ると、再びバルジが声を掛けた。

  「……さて。色々あったが、腹も減ったことだし昼飯にするか」

  「そうっすね」

  「そうですね。今、お茶入れますね」

  「俺も手伝うよ」

  その後一同が席につき、各々が弁当を開ける中ルイが皿を持ってバルジの元に向かっていた。

  「隊長。ローレンス隊長のご飯をお持ちしました」

  「ん?あ~すまんな。それが猫の飯なのか」

  「はい。お世話セットにあったキャットフードとミルクです」

  「ほぅ…そうか。飯だそうだぞ、ローレンス」

  抱き抱えていた白猫を隊長デスクの上に置くと、ルイが不思議そうに尋ねた。

  「……隊長。もしかして机の上で食べさせるのですか?」

  「……ん?ダメなのか」

  「いえ……普通は床に置いて食べさせますので」

  「……だが、それでは些か行儀が悪くないか?」

  「いえ……猫なので……行儀までは。まぁ…隊長がそれでも宜しいのなら問題はありませんが」

  「そうか。俺はどちらでも構わんが、お前はどうしたい?」

  バルジがふと白猫の方を向くと、前足で机を軽く叩いた。

  「……なるほど。このままが良いと言うことか。しょうがないな、特別に許可してやろう」

  「にゃ!」

  ニコニコしながらサラッと許可を出している姿に、シリウス一同は茫然としていた。

  「見たかよ。あの甘やかし」

  「あぁ。あんなニコニコしている隊長、中々見ないよな」

  「ちょっと…不気味よね」

  一同が妙な不安を抱えている中、各々が弁当を開けた。

  バルジの弁当には一際大きい鮭が中央に置かれていた。

  それをみた白猫が目を大きくしてじーと見つめていると、バルジが箸を止めた。

  「……なんだ。その目は」

  「………にゃ~」

  「……もしかして…鮭が欲しいのか?」

  「にゃ!」

  「そ、それは困ったな…」

  箸を止めて硬直していると、不思議そうにルイが尋ねてきた。

  「隊長、どうされたのですか?」

  「いや、ローレンスがこの鮭を食べたそうにしていてな」

  「……なら、あげたらいいじゃないですか」

  「だが……人が食べるものを与えて大丈夫なのか?腹を下したりとかないのか」

  心配そうに尋ねてくる姿を見て、ルイを始めデイビットと学も呆れながら答えた。

  「はぁ……隊長、無知にも程があります。魚は猫の好物ですよ」

  「そうっすよ。それにそんなこと言ったら世の中の野良猫は生きていけませんって」

  「俺の実家の秀太郎も魚とか普通に食べますよ」

  「なっ?!そ、そう言われれば確かにそうだな。なら…このまま与えればいいのか?」

  「そうですね。まぁ…少し優しさを出すなら、ちょっとほぐして手のひらに乗せて与えてあげてください」

  「ほぅ…そうか」

  言われるがままに左手のひらに鮭をほぐし、そっと差し出してみた。

  「ほら、できたぞ」

  「にゃ!」

  手のひらを差し出した途端、白猫は嬉しそうに鮭を食べ始めた。

  「あはは、くすぐったいぞ」

  「にゃ!」

  くすぐったさに耐えながら微笑んで与えている姿に、シリウス一同は再び唖然としていた。

  「……なんだよ。あの笑み」

  「なんか……普段見ないだけに…気持ち悪いな」

  「そうね……バルジ隊長って普段笑わないものね」

  「にしてもよ、めっちゃ楽しそうだな」

  「そうだな。あの調子じゃ絶対におかわりとかさせちゃうよ」

  「そうね…多分あの大きな鮭…全部なくなるわね」

  「いくら幕の内弁当でもメインがなくなると辛いよな」

  「だな。なら、俺たちも早く食べた方が良さそうだな」

  「………ん?なんでだい?」「………ん?なんでよ?」

  「だってよ。見ろよ、あの食欲。絶対あの鮭だけじゃ足りねぇぜ」

  「………もしかして、俺たちの鮭もターゲットにされる可能性があるってことかい?!」

  「う、嘘でしょ?!」

  「なら、賭けるか?あの鮭で満足するか、しないかで?」

  デイビットからの問いかけで再び二人が隊長デスクを見ると、既に殆どの鮭がなくなっていることに危機感を持った。

  「………俺、満足しない方に賭けるよ」

  「………私も、満足しない方に賭けるわ」

  「ちぇ!そんじゃ、賭けにならねぇだろうが!」

  結局、その後バルジの鮭は全て完食されてしまい、残されていたシリウス一同の鮭も隙を見て白猫に強奪されてしまった。

  [newpage][chapter:猫の誘惑]

  食事を終え休憩時間が終了し、シリウス一同がそれぞれに任務へ出かけると、残されたバルジは隊長デスクでパソコンを開いた。

  「さて……午後からは書類整理だな。ローレンス、すまんが大人しくしていてくれよ」

  「にゃ~~~」

  満腹感に満たされた白猫は隊長デスク上に置いたお世話セットのクッションに座り、毛並みを整えていた。

  あまりに愛くるしい姿に、バルジはパソコンに向けていた視線をそっと猫の方へ向けた。

  「にゃ……」

  (か、可愛いな。いかん…気になって全然作業に集中できんではないか)

  しばらくチラ見をしながら作業を続けていたが、あまりに愛くるしい姿に耐えられなくなりそっと周囲を見渡した。

  「………誰も……おらんな」

  周囲に誰もいない事を確認すると、ポケットから徐に携帯を取り出した。

  カメラ機能を起動させると、可愛らしい姿に向けて撮影ボタンを押下した。

  パシャ!

  「………ふっ。これは中々良いのが残せたな。念の為もう一枚撮っておくか」

  パシャ!

  「………悪くないな。もう一枚いくか」

  パシャ!……パシャ!……パシャ!

  しばらく無我夢中で撮影をしていると、ある程度満足してからアルバムを見た。

  (うむ……どれも可愛らしいな。しかし完全に私利私欲だな。これは隠していた方が良さそうだ)

  少し微笑みながら携帯をしまって作業を再開したが、驚くほどに作業が進まない。

  中々片付かない資料に徐々に頭を抱えていた。

  「はぁ………いかん。全然進まん。ここまで不調だと脅威だな」

  頭を抱えながらパソコンを睨んでいると、クッションで寛いでいた白猫が立ち上がった。

  「にゃ~~~」

  「ん?どうした。何か用か?」

  気の抜けた声を掛けると、背伸びした白猫は徐にパソコン前までやってきた。

  画面を見るなり、少し険しい瞳でバルジをみた。

  「にゃ~」

  「あ?あぁ…これか。なに、少し行き詰まっただけだ」

  「………にゃ」

  「なっ?!」

  明らかに呆れ顔で返された事に絶句していると、白猫は可愛い肉球をパソコンの画面に向けた。

  「……ん?まさか……手伝ってくれるのか?」

  「にゃにゃ」

  先程の鮭の礼と言わんばかりの返答を聞いて、少し笑みが溢れた。

  「はは、相変わらずぶっきらぼうだな」

  「にゃにゃにゃ…」

  その後、白猫の手引きもあり、あっという間に書類整理が済んだ。

  「ふぁ~~何とかなったな。礼を言うぞ、ローレンス」

  「にゃにゃ…」

  少しぶっきらぼうに返答した白猫は少しウトウトしていた。

  「……もしかして眠いのか?」

  「にゃ…」

  「ならばクッションに戻って良いぞ」

  「にゃにゃ…」

  睡魔があると思い提案をするが、白猫はバルジの元から離れようとしなかった。

  「………放れんな。やれやれ…」

  少々呆れたものの、猫なりに頑張ってくれた事に感謝しながら、ゆっくり抱き抱えて立ち上がった。

  机に置いてあったタブレットを片手で取り、部屋のソファーに腰掛けた。

  「よっこいしょ。ふぅ…これならゆっくり休めるだろ?」

  「にゃにゃ…」

  膝元であくびをしてウトウトしている姿に微笑みながら、バルジはタブレットで作業を再開させる。

  しばらく作業をしていると、徐々にバルジにも睡魔が襲ってきた。

  「ふぁ~~~眠い。おかしいな。普段はここまで眠くなることはないのだが……」

  タブレットで作業しながら普段と違う感覚に疑問を感じていると、ふと膝元の白猫に視線を向けた。

  (まさか……こいつのせいか?よくよく考えればほんわか温かい。だが…これはまずいな。これでは作業が進まん。かと言ってこれだけ気持ちよさそうにしているのに今更動かすわけにもいかんし…)

  自身も睡魔と戦いながら考え込んでいると、ふと腕時計を見た。

  「……アイツらが戻ってくるまで、まだ時間があるな。ここは無理に耐えるより少し仮眠を取る方が得策か」

  睡魔に耐えることが無意味に感じたバルジは手に持っていたタブレットを机に置いて、白猫を支えながらゆっくり横になった。

  「ふぅ……念の為、アラームだけセットして……これでいい。まぁ…15分ほど仮眠すれば…なんとか…なる…だ…ろ…」

  腕時計のアラームをセッティングした後、あっという間に意識を飛ばし眠りについた。

  それから10分後。

  隊員派遣で任務に出かけていたルイと学は任務を終えてシリウス待機所へ向かっていた。

  「それにしても思ったより早く任務が終わって良かったな」

  「そうね。それに『もうやることはもうないから先に戻って』って言ってくれたジュリア隊長には感謝ね」

  「そうだな」

  二人が能天気に廊下を歩いていると、曲がり角でデイビットと出くわした。

  「んぁ?なんだおめぇらか。随分と早いお戻りだな」

  「デイビット?貴方こそどうしたのよ?」

  「そうだよ。暁さんと一緒にビッグワンのメンテナンスチェックしていたんじゃないのかい?」

  「そんなもん。開始30分で終わってるよ。余った時間でくっちゃべってたんだけどよ。流石に飽きたから戻っただけだ」

  「うわぁ~堂々のオサボり発言…」

  「最低ね」

  「うるせぃ。たまにはこんな事があってもいいだろ。あの鬼隊長もいねぇしな」

  「まぁ…気持ちは少し分かるよ」

  「確かにね」

  二人が変な納得をしたのち、3人は揃って待機所へ向かった。

  雑談をしながら待機所へ到着すると、いつものように扉を開けて途端シリウス一同が大きく目を開いた。

  「「「……え?」」」

  真っ先目に入ったのはソファーで未だに仮眠をしているバルジの姿。

  横になっているバルジの胸元には抱き抱えられた状態で一緒に眠っている白猫もいた。

  あまりに心地良そうに眠っている姿を直視したシリウス一同は思わず小声で会話を始めた。

  『あのバルジ隊長が……寝てる』

  『多分、書類整理をしていたら眠くなったんだろ』

  『あの仕事の鬼にしては珍しいわね』

  『確かに…でも気持ちよさそうだな』

  『だな。ありゃ猫からの誘惑に負けたな』

  『でも。これってある意味奇跡よ。あっ!そうだ』

  寝相をみたルイはニコニコしながらポケットから携帯を取り出した。

  『え?!ちょ、ちょっとルイ、何っすんだよ?!』

  『決まってんじゃない。記念撮影よ』

  『え?だ、ダメだよ。そんな勝手なことしたら、バルジ隊長に叱られるよ?!』

  『大丈夫よ。ちゃんと対抗策もあるから』

  『た、対抗策?』

  『なんじゃそりゃ?』

  有紀とデイビットが不安そうに見つめている中、ルイは淡々と撮影をした。

  パシャ! パシャ! パシャ!

  『よし、できた!』

  『本当に撮っちゃった…』

  『マジかよ』

  二人が絶句している中、携帯を持ってきたルイは二人に見せた。

  『ねぇねぇ、見てみて。すっごい良い写真でしょ?』

  『いや……確かに凄い写真だけどさ』

  『こんなん。隊長にバレたら大目玉だぜ?』

  『大丈夫よ。私を信じなさい』

  妙な自信があるルイに男二人は若干不信感を感じていた。

  『なぁ、学。アレどう思う?』

  『俺は…ヤバいと思うけど、でも何か自信ありげだよな』

  『だよな。ここは念の為やっておくか…』

  デイビットはポケットからお馴染みのコインを取り出して小さめにコイントスをした。

  チャリーーン、パシン!

  手の甲に納めたコインを見ると、表。

  『……表…だよな』

  『だな。ってことは本当に大丈夫ってことだろ』

  『だといいけどな…』

  未だに不安が払拭できない中、待機所内にアラームが鳴動した。

  ピロロロロロロロ…

  「「「っ?!」」」

  シリウス一同が驚きながら周囲を見渡すと、音源がバルジのところであることに気が付く。

  そしてずっと眠っていたバルジがアラーム音と共に目を覚ました。

  「……んっ。時間…か。ふぁ~~~よく寝………あ…」

  「「「あ……」」」

  あくびをしながら覚醒すると、目の前のシリウス一同と目が合う。

  数秒の沈黙後、状況を理解したバルジは飛び起きた。

  「お、お前ら…一体いつの間に帰ってきた?!」

  「にゃ?!」

  「あ~ダメですよ。そんな飛び起きて、ローレンス隊長がびっくりしているじゃないですか」

  「帰ってきたのは2分前くらいっすよ」

  「それより隊長?私たちがいない間、何していたんですか?」

  「あっ……これは…その…作業効率が落ちてな。15分だけ仮眠をしていただけだ」

  「はぁ…仮眠ですか」

  「へぇ~隊長にしては珍しいっすね」

  「相当お疲れだったんですね。それに猫って温かいから眠くもなっちゃいますよね」

  「あ……いや…まさにその通りだ。その…居眠りをしてすまなかった」

  「へぇ…猫って隊長が負けるくらい温かいんだ」

  「まぁ、猫の体温もそこそこ高いからな」

  「それにモチモチしてるし、眠たい時のあの誘惑は凄いのよ」

  能天気に話しているシリウス一同にバルジは申し訳なさそうに懇願した。

  「その……流石に恥ずかしいから、今のは見なかったことにしてくれんか?」

  「……すみませんが…それは無理です」

  「だな。かなり貴重な事なんで忘れられませんって」

  「そうね。いっそのこと、一生の思い出にしますね」

  「はぁ……最悪だ」

  「にゃ~」

  [newpage][chapter:人と猫の攻防]

  その後、一日の業務終了を迎えるとシリウス一同に解散宣言をしたのち、バルジは白猫を連れて自室へ帰った。

  「はぁ…全く。今日はお前のせいで散々だったぞ」

  「にゃ~」

  「自業自得だと。それまたあんまりではないか?」

  「にゃにゃにゃ~」

  「俺の責任ではない…か。全く…」

  依然としてぶっきらぼうに返す白猫に苦笑すると、気を取り直した。

  「さて…今日は程よく汗もかいたし、まずはシャワーを浴びるか」

  「にゃ?!(ギクっ!)」

  バルジが振り向くと、床にいる白猫は睨みながらすっと後ずさりをしていた。

  「……ん?なんだ…その態度は」

  「……」

  「………まさか。シャワー嫌いではないだろうな」

  「………」

  未だに睨み続けている姿をみて、瞬間的に理解すると、バルジは冷ややかな瞳で見つめた。

  「ほぅ……お前は綺麗好きだと思っていたが、まさか猫になって性格が変わったか」

  「……」

  「………黙秘か。だが、生憎俺は綺麗好きだ。この部屋で一晩過ごす以上、シャワーは浴びてもらうぞ」

  「………」

  未だに後ずさりを続けている白猫に詰め寄ると、バルジもそっと体を構えた。

  両者緊迫する雰囲気の中、意を決したバルジが行動に出た。

  「それ!うわっ!?」

  咄嗟に飛び込んで白猫を捕まえようとすると、隙間に回避されてしまい取り逃がしてしまった。

  しばらく攻防を続けていたが、結局捕まえることはできず、バルジは息切れを起こしていた。

  「はぁ…はぁ…くっそ……やはり一筋縄ではいかんか…」

  「にゃっ!」

  勝ち誇ったかのような顔をみたバルジがムッとするとあることを思い付いた。

  「やむを得ん……こうなれば奥の手だ」

  「にゃ?」

  バルジは後方にあるお世話セットに手を入れてある物を取り出した。

  そして手の持った物を未だに警戒心丸出しの白猫に向けた。

  「にゃ?!」

  「ほ~~ら、お前が大好きな猫じゃらしだぞ。気になって仕方がないだろ」

  羽がついた棒をチラチラさせていると、先程の警戒心が嘘のように近づいてきた。

  一定の距離まで来た白猫の前で猫じゃらしを止めると、無我夢中で飛びついた瞬間に取り押さえた。

  「よし!確保だ!!!」

  「にゃっ?!にゃにゃ!」

  「こ、こら!無駄な抵抗はやめろ。お前も男ならいい加減に腹をくくれ!」

  「にゃにゃにゃ~」

  抱き抱えた白猫を強引に引き連れてシャワー室へ向かった。

  『こ、コラ!こんな狭いところで暴れる…うわっ!お、お前!いい加減大人しくしろ!!!』

  『にゃにゃ、にゃ~!!!』

  『何がお前には関係ないだ!これだけ世話をしてやっているのだぞ!』

  『にゃ、にゃにゃ!』

  『うわっ!おい…大概にしろ!!!』

  激しい死闘の末、数分後二人はずぶ濡れ状態でシャワー室から出てきた。

  「………どうしてくれるのだ。お前のせいで隊服までびしょびしょではないか」

  「にゃ……にゃにゃ」

  ずぶ濡れのバルジが無責任な態度に睨むが、無意味と察するとそっとタオルを手に取った。

  「やれやれ……全く。ともあれ風邪を引いたら大変だ。こっちにこい、体を拭いてやる」

  「……にゃ」

  未だにぶっきらぼうな白猫がよたよたと向かうとそっとタオルで拭いた。

  「それにしても綺麗な毛並みだな。これはタオル拭きだけでいいのだろうか…。猫にもドライヤーとかした方がいいのか?……いや。あまり好きそうではないな」

  白い毛並みを丁寧に拭いてもらっている最中、ずぶ濡れになっているバルジを眺めていた。

  「へ…へっくしゅん!くすん……あ“…これはまずいな」

  少し鼻水が出ている姿を見て、白猫は咄嗟にタオルから抜け出した。

  「お、おい!何処に行く?」

  抜け出した事に文句をぼやくと、白猫はタオルを一枚引き摺ってきた。

  そして引き摺ってきたタオルを咥えたまま合図を送る。

  「にゃ、にゃにゃにゃ」

  「…………もしかして、お前も体を拭けと言っているのか?」

  「にゃにゃにゃ」

  「……全く、分かったよ。俺もシャワーを浴びてくる。ここにタオルを置いておくから後は自分で拭けよ」

  「にゃ!」

  少し微笑んだバルジは着替えを持ってシャワー室に向かった。

  しばらくして着替えを終えたバルジが戻ってくると、白猫は猫皿の前で待機していた。

  「ふぅ……ん?今度はなんだ?」

  「にゃにゃにゃ!」

  「まさか……飯か?」

  「にゃ!」

  「たく……殆ど動いておらんのに食欲だけは恐ろしいな」

  「にゃにゃ!」

  「それくらいが猫の楽しみ…か。全く…分かったよ。今用意するから」

  風呂上がりのバルジが渋々お世話セットからキャットフードとツナ缶を取り出した。

  そして猫皿に盛ってミルクと一緒に差し出した。

  「……ほら、できたぞ。溢さないようにな」

  「にゃ!」

  出された食事を満足そうに食べ始めると、バルジはそっと微笑んだ。

  「やれやれ……良い食べっぷりだな。さて……俺も何か食べるか」

  しゃがんだ状態から立ち上がると、冷蔵庫へ向かった。

  冷蔵庫を開けるなり、食べ物を物色する。

  「しかし……今日は殆ど雑務だったから大して腹は減っておらんな。……仕方がない。夜食はレーションとトマトジュースで軽く済ませるか」

  冷蔵庫からレーションとトマトジュース缶を取り出して、椅子に腰掛ける。

  徐に開けていると、先程まで夢中に食べていた白猫がじーと睨んでいた。

  「……ん?今度はなんだ?」

  「にゃ…にゃにゃにゃ」

  「まさか…それだけですませるつもりか…だと?」

  「にゃにゃ」

  「べ、別に良いだろ。今日は大して動いておらんのだから」

  「にゃ!にゃにゃにゃ!」

  「なっ?!そんな栄養バランスだから体調不良を引き起こすのだ…だと?!」

  「にゃにゃにゃ!」

  「お前……猫になってもその捻くれた性格変わらんな」

  「にゃにゃにゃ!」

  その後、文句の言い合いをしながら食事を済ませると、ベッドでごろ寝をしていた。

  「はぁ……なんだか今日は疲れたな」

  「にゃ~」

  「……ん?お前もか。そうだな…お前も慣れない体だからな」

  「にゃにゃ~」

  ベッド上で寝そべっている横で丸くなっている姿をみて、思わず声を掛けた。

  「……ローレンス、こっちにこい」

  「にゃ?」

  横になったバルジが胸元に招くと、よたよたとやってきた。

  胸元までやってくると、ゆっくり毛並みを撫でた。

  「よし…よし。それにしても本当に心地良い毛並みだな」

  「にゃにゃ…」

  「あはは、そのぶっきらぼうなところがなければ、アイツらにも好評だったと思うぞ」

  「にゃにゃにゃ…」

  「はは、そんなことはお構いなしか。お前らしいよ」

  しばらく毛並みを撫でていると、睡魔が襲ってきたバルジはふと白猫を自身へ引き寄せた。

  「にゃ?!」

  何事かと声を荒げたが、ウトウトしているバルジからの声で体を止めた。

  「温かいな……モフモフだし……これなら猫でも悪くないな」

  「にゃ…にゃにゃ?」

  「…はは…冗談だ。やはり…お前はお前のままが…一番いいと思うぞ」

  「にゃ?」

  「あぁ。だから……早く…戻ってくれ……ロー…レンス」

  「にゃにゃにゃ?」

  気疲れしたバルジがそのまま寝落ちしてしまうと、白猫は寄り添いながらじっと顔を見つめていた。

  「にゃにゃにゃ…」

  感謝の気持ちで軽くキスをすると、白猫もそのまま瞼を閉じ眠りについた。

  [newpage][chapter:ケフェウスの帰還]

  数時間後。

  (………ん“っ。なんだ……なんだか……ヤケに……窮屈だな…)

  深い眠りからゆっくり意識を浮上させると、目の前には大柄の男がスヤスヤと眠っていた。

  「………は?」

  寝ぼけながら目を凝らしてみると、大柄の男が猫化したはずのローレンスであることに気が付いた。

  「なっ?!ろ、ローレンス?!」

  「………んっ…なんだ……バルジか」

  「なんだではないだろ!それでお前、体は大丈夫か?!」

  慌てて肩を揺すって確認すると、鬱陶しそうな顔で返答してきた。

  「体って…何の事だ。それに……何故お前が俺のベッドで眠っている?」

  「はぁ?!お、お前……まさか、なにも覚えておらんのか?」

  「……だから何がだ。それに質問をしているのに質問で返すなど失礼だろうが」

  「…………」

  依然としてぶっきらぼうに返してくる姿で、バルジの中で何かが切れた。

  「…………おい。ふざけるのも大概にしろよ」

  「は?だから…それはどういう意味だ?」

  「どうもこうもない。散々丸一日振り回しおって。それに質問をする前に自分の身なりを確認したらどうだ」

  「……は?自分の身なりって一体なにを………ん?!」

  バルジからの冷ややかな指摘に従って自身を見ると、服を一切着ていないことに気が付いた。

  「なっ?!な、な、なんだこれは?!」

  「今頃のお気づきか。散々人を小馬鹿にしたわりには情けない姿だな」

  「ま、まさか…お前、俺が眠っている間に何かしたのか!」

  「おい…俺がお前の服を脱がせて記憶まで消したと言いたいのか。笑えない冗談だ」

  「では、この状況をどう説明するというのだ。一部始終見ていたのならばちゃんと説明責任を果たせ!」

  「ふっ…ここにきて責任転嫁か。思い出せないのならば、後でお前の部下に事情を聞け。嘸かし衝撃を受けるだろうがな」

  「なっ?!それは…何の脅しだ。それにさっきからその塩対応はなんだ!」

  「さて……何でしょうな。それより……お前、今何時だと思っている」

  「は?何時って……2時22分だが」

  「あのな……もうとっくに就寝時刻を過ぎている」

  「………だからなんだ?」

  「悪いが俺は眠い……。話なら朝にしてくれ」

  「なっ?!お、お前!そもそも起こしたのは貴様だろうが!それにこの状況で眠るつもりか!」

  「ふぁ~~~~うるさいな。お前も……もう一度寝ろ。寝て……また…猫に…戻って…くれ」

  再び眠りについたバルジからの発言でローレンスは一気に青ざめた。

  「……は?ね、猫??おい……本当に何の事だ。おい、起きろバルジ!頼むから説明をしてくれ!!!」

  その後、必死の声かけも虚しく、再び深い眠りについてしまった。

  [newpage][chapter:猫に鰹節]

  翌日になってもバルジは一切説明をしなかった為、やむを得ず、ローレンスは昨日のケフェウス任務報告書で事実を知ると、無責任な部下を問い質しかつてないほどの怒号を飛ばした。

  その後はケフェウス総出で詫びの菓子折を持ってシリウス待機所へ向かった。

  「その……この度はうちの隊員の判断でシリウスには迷惑を掛けた。申し訳ない…」

  少し頬を赤くして頭を下げたのは白の隊服が目立つローレンス。

  ソファーに腰掛けていたシリウス3人は頂いた菓子のマドレーヌを食べながらニコニコした返答した。

  「いえいえ。こちらこそ、こんなお礼までありがとうございます、ローレンス隊長」

  「そうですよ!そんなに気にしないでください。それよりこのマドレーヌすっごく美味しいです」

  「とりあえず元に戻って良かったじゃねぇですか。いや~俺たちも頑張った甲斐がありましたって」

  満足げに話す有紀、ルイ、デイビットを少し離れた隊長デスクでバルジが呆れながら見つめていた。

  「……というか。お前らは殆どなにもしておらんではないか。それでよくそんなに偉そうにできるな」

  ボソボソとぼやいていたバルジに能天気なシリウス一同が反論した。

  「何言ってるんですか。俺たちだって訓練では酷ぇ目に遭いましたぜ」

  「そうですよ!お弁当の鮭も食べられちゃいましたし…」

  「ある意味、一日変な気分でもいましたし…」

  「はぁ…あのな。訓練については最終的には俺の判断だし、鮭弁はそもそもコーリーの差し入れだろ。それに猫の面倒を見ていたのは殆ど俺だ」

  肘をついて手に顎を乗せてぼやくバルジにシリウス一同が反論した。

  「でも、意外と満更でもない感じだったじゃないですか」

  「そうだぜ。珍しくニコニコなんてしちゃってさ」

  「それどころか一緒にお昼寝までしていましたよね」

  「「「「一緒にお昼寝?!」」」」

  「なっ?!」

  ルイからの発言にケフェウス一同が驚愕した。

  「る、ルイちゃん。バルジ隊長が猫とお昼寝って本当なの??」

  「えぇ。本当よ」

  「ガセじゃねぇのかよ」

  「すげぇ…めっちゃ激レアじゃねぇか」

  ケフェウス一同が俄に信じられずにいると、呆れ顔でローレンスが尋ねた。

  「お前……そんな醜態を部下に晒したのか?」

  「そ、そんなわけがないだろ!俺は隊長だ。そもそも部下の前で昼寝などするはずがないだろうが!」

  まずいと感じたことで必死に弁解するとルイはニヒルな笑みを溢していた。

  「隊長。ウソはよくないと思いますよ。ちゃんと本当の事を言わないと」

  「ルイ、いい加減にしろ。そもそもそれはお前のでっち上げだろうが」

  「またまた~そんなに必死になっちゃって。ちゃんと証拠はあるんですよ」

  「しょ、証拠だと…」

  「はい、これです」

  ルイはポケットから何枚かの写真を出して皆の前に見せた。

  そこには気持ちよさそうに白猫と昼寝をしているバルジの姿があった。

  「なっ?!お、お前…一体いつこれを撮影した?!」

  「いつと言いますと…お昼寝しているときにしれっと」

  「し、しれっとって…これは完全に盗撮だろ!」

  「良いじゃないですか。こんなの生涯で一度取れるか取れないかの激レア写真ですよ」

  「お前……俺で楽しんではおらんか」

  「そんなことは決して。どうです?欲しければ差し上げますよ」

  「お前……」

  ニコニコしながら説明する姿に呆れていると、今まで黙っていたローレンスが口を開いた。

  「……その写真、少し見せてくれんか?」

  「え?これですか?」

  「あぁ。その……差し支えがなければだが」

  「えぇ。いいですよ」

  「お、おい!せめて本人に許可を取れ!」

  鬼の形相で文句を言っているバルジにルイはしれっと返答した。

  「何言っているんですか、隊長。ローレンス隊長だって撮影者のおひとりではありませんか」

  「あ?あ……そう言われればそうだが…」

  「それに、ご本人から見たいって要望があったらお答えするのが礼儀だと思いますけど?」

  「た、確かに……それは一理あるな」

  ルイからの説得に妙な納得をしている最中、ローレンスは写真を一枚ずつ確認していた。

  「確かに……これは激レア写真だな」

  「なっ!?お前まで何を言っているのだ!」

  「事実を言っているだけだ。お前が猫と添い寝など早々見られないからな」

  「お前……それが自身であることを分かって言っているのか」

  「まぁな。だが全く記憶がないから、実感はゼロだ。俺からしたらただの白猫にしか見えん」

  「お前な……」

  恐ろしいほどの短絡的な考えに頭痛が走っている頃、ローレンスは撮影者のルイに問いかけた。

  「これは相談だが、この写真…買い取らせて貰えんだろうか?」

  「え?」

  「は?!」

  予想外の発言に絶句していると、頬を真っ赤にしたバルジが怒号を飛ばす。

  「なっ!?お、お前!冗談も大概にしろ!」

  「本気だ。それにこれはルイ隊員に相談をしているのだからお前は黙っていろ」

  「ふ、ふざけるな!ルイは俺の部下だ。直属の上官として認められるわけがないだろうが!」

  「意外とお堅い性格だな。だがこれは個人的な要望だ。それなら上下の関係は関係ないだろ」

  「何を勝手な解釈をしているのだ。絶対に俺は容認しないからな!」

  腕を組んでムッとしている姿に呆れると、ある作戦を思い付いた。

  「やれやれ……面倒な性格だな。ともあれ、ルイ」

  「は、はい」

  「取引をするか悩んでいるのならば、良いことを教えてやる。ちょっと耳を貸せ」

  「ふぇ?」

  手招きしているローレンスに引き寄せられるように耳を貸すと、小声で交渉を始めた。

  『……バルジからの処罰を心配しているなら安心しろ。お前の安全は俺が保証してやる』

  『そ、それって…どういう事でしょうか?』

  『なに、あいつを黙らせる口実があるという事だ』

  『口実…ですか?』

  『この写真……休憩時間で撮影したものではないのだろ?』

  『ふぇ?ど、どうして…そう思うんですか?』

  若干身震いがしながら不思議そうに聞き直すと、ローレンスはニヒルな笑みを溢して告げた。

  『写真のあいつの腕時計が15:56だ』

  『あ………』

  撮影時間が勤務時間内であることがバレた事でルイが絶句している中、ローレンスは耳元から離れて再び尋ねた。

  「で、どうする?この写真…お前の言い値で買い取るがいくら出せば良い?」

  「………タダで結構です」

  「ふっ…そうか」

  「なっ?!」

  返答後あっさり写真を明け渡している姿にバルジは再び猛抗議する。

  「ルイ!お前、なにサラッと明け渡しているのだ。一体あいつに何を吹き込まれた?!」

  「隊長…すみません。その…ローレンス隊長の方が上手でした」

  「は?お前それはどういう事だ!」

  「……それは黙秘させてもらいます」

  必死にルイを問い質している姿に、写真を手に入れたローレンスは鼻で笑っていた。

  「ふん。どうもシリウスは上官も部下もツメが甘いようだな」

  「お前……散々迷惑を掛けた上で今度は小馬鹿にするのか」

  「ふん。それはそれだ。これは隙だらけのお前に対しての忠告だ。有り難く受けるのだな」

  「くっ……」

  勝ち誇った方な笑みを溢している姿に、頭にきたバルジは立ち上がりローレンスの元へ向かった。

  その無表情な顔つきにその場の一同は危機感を持った。

  デイビット(おいおい…隊長、マジギレしてんじゃねぇだろうな)

  有紀(あの顔はヤバいよ…下手したら乱闘になるんじゃ…)

  ルイ(どうしよ。まさか写真でこんな事になるなんて…)

  コーリー(ちょっと…これってやばいんじゃない?!)

  キム(ローレンス隊長…何また問題を起こしているんですか?!)

  ピエール(もう…勘弁してくれよ)

  一同が息を飲んで見守る中、バルジはローレンスの前までやってきてしまった。

  無言で立ち尽くしている様子に、座っているローレンスが声を掛けた。

  「どうした?まさか…この場で俺を殴ってでも奪おうなど思っておらんだろうな」

  「……………」

  依然として無言でいるバルジはしばらく何も言わずに黙って待機をした。

  あまりに反応がないので、徐々に不安になってきたローレンスが再び声を掛けた。

  「……お、おい。一体いつまでそうしているつもりだ」

  「……………」

  再びの声かけでも反応しないことに不安に駆られたローレンスはそっと立ち上がった。

  「……おい。だ、大丈夫か?何もそんなの気にすることでもな…」

  気に掛けるように話し始めたとき、黙っていたバルジが行動を起こした。

  パシン!!!!!

  「っ!!!」

  制止していたバルジは正面に立っていたローレンスの目の前に両手を突き出し、掌を合わせて叩いた。

  突然の奇襲に咄嗟に目を瞑った隙に、手に所持していた写真をバルジは強奪した。

  「っ?!お、お前?!」

  再び瞼を開いた時には、既に待機所から離脱するバルジの後ろ姿があった。

  「「「「「「に、逃げた?!」」」」」」

  「なっ?!し、しまった。待てバルジ!!!」

  一同が絶句する中、血相をかいたローレンスは必死に後を追尾していった。

  隊長二人が待機所を退室していくと、残された一同は呆気に取られていた。

  「今のって……なに?」

  「さぁ……何だろう」

  「なんか…すげぇ簡素な奇襲だったな」

  「なんかの…武術かな?」

  「いや…あんなの技あるか?」

  「格闘技は好きだけど、あんなの見たことないわよ」

  その場の一同が首を傾げていると、待機所の奥から声が届く。

  「あれは猫騙しですね」

  待機所の奥から出てきたのは荷物を持ったユキ。

  「ゆ、ユキ?!」

  「そう言えば…奥で物品の整理をしていたわね」

  「てか…その猫騙しってなんだよ」

  シリウス一同からの質問にユキは淡々と話した。

  「猫騙しとは、相撲の戦法の一種です。立合いと同時に相手の目の前に両手を突き出して掌を合わせて叩くもので、相手の目をつぶらせることを目的とする奇襲戦法の一つですよ」

  「そ、そうなんだ…」

  「ユキって物知りね」

  「流石、医療セクサロイド」

  「てか…この猫事件で猫騙しを使うって…」

  「何というか…」

  「この土壇場でやるなんて……やっぱりバルジ隊長って油断できないわね」

  「「「「「確かに……」」」」」

  その後、残された一同はその激レア写真がどうなったかは定かではなく、ルイも隊長二人からの猛攻を受ける前に携帯のデータを削除することになった。

  にゃんにゃん!

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