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ケフェウス隊長は猫である【前編】

  [chapter:救助要請]

  ある日のシリウス待機所にて。

  シリウス一同はいつものように早朝ミーティングを開始しようとしていた。

  「皆、おはよう」

  「「「「おはようございます」」」」

  「体調確認」

  「「「心身状態異常なし」」」「システム異常なし」

  「宜しい。それではこれより早朝ミーティングを行う。今日の日程は…」

  バルジがタブレットを持って一同に説明を始めようとした時だった。

  ドンドン!!ドンドン!!

  突然、後方の扉からノック音が聞こえるとシリウス一同が一斉に振り向いた。

  「なんだぁ?朝っぱらからやけに騒々しいな」

  「何かしら…」

  「なんだろう?」

  「ユキ、すまんが対応を頼む」

  「分かりました」

  シリウス一同が不思議そうに首を傾げる最中、バルジの命令でユキが扉対応を行った。

  ユキがスイッチを押すと、目の前には白猫を抱きかかえたコーリーと困り果てた顔のキム、ピエールが立っていた。

  「「「バルジ隊長!どうかお助けください!!!」」」

  「「「「「「………………」」」」」」

  ケフェウス一同からの悲痛な叫びを聞いて、バルジを含めたシリウス一同が目を点にする。

  しばらく沈黙が流れた後、救助要請を受けたバルジが恐る恐る尋ねた。

  「………よく分からんが、一先ず事情を聞こうか…」

  その後、早朝ミーティングは一時中断されて一同はソファーに腰掛けて対話を始める。

  ケフェウス一同はユキに出されたお茶を飲んで少し落ち着きを取り戻す。

  「「「はぁ~~~~~~」」」

  「落ち着いたようだな。で、先程の助けてくれとはどういう事だ?」

  コーヒーを啜りながらバルジが疑問を投げかけると、コーリーが困ったように話始めた。

  「実は……助けて頂きたいのは、この猫の事です…」

  コーリーの一言でシリウス一同が抱き抱えている猫に注目した。

  見た目は綺麗な毛並みにブルーの瞳が目立つ大きめの白猫。何処かぶっきらぼうな雰囲気を醸し出した白猫はじーーと見つめている。その猫を見たシリウス一同が思わず感想をぼやいた。

  「随分と無愛想な白猫だな」

  「そうね…毛並みはとても綺麗だけど…あまり可愛げはないわね」

  「私たちにはあまり興味がないようですね」

  「コーリー、その白猫どうしたんだい?」

  「「「……………」」」

  デイビット、ルイ、学からの質問に言葉を詰まらせるケフェウス一同。

  中々返答がない為、不安になったシリウス一同からあらぬ妄想が漏れる。

  「もしかして……拾ってきたのかい?!」

  「あなたたちが野良猫を拾うなんて珍しいわね」

  「それは困りましたね」

  「なるほどな。そんでローレンス隊長にバレて叱られたってわけか」

  「「ち、違う!!」」「ち、違うわ!!」

  全力で否定をしてきたケフェウス一同に圧倒され言葉が止まった。沈黙をしていたバルジは進展しないと思い、会話に参入した。

  「お前らな……勝手に妄想して決めつけるな。少しは相手の気持ちも考慮して発言しろ」

  「「「「す、すみません」」」」

  「全く……。で、コーリー。先程の質問だが、いい加減に内容を教えてくれんか?」

  「あ、はい……あの…驚かないで聞いてくれますか?」

  「安心しろ。大抵の事ならそんなに驚かん。変な心配をしていないで話して見ろ」

  「……はい。実はこの白猫は……」

  コーリーが額に汗を流しながら震える声で話している最中、周囲の一同も息を飲んだ。

  そしてコーリーは呼吸を整えてキリッとして告げた。

  「ローレンス隊長です」

  「………は?」「「「「……え?」」」」

  たった一言の発言にその場から声が消えると、正気に戻ったバルジが再び問いかけた。

  「す、すまんコーリー。今……なんと言った?」

  「ですから…この白猫はローレンス隊長なんです!」

  「はぁぁぁぁぁ?!」「「「えぇぇぇぇぇ?!」」」

  衝撃的な発言に前言撤回してシリウス一同が大声を上げた。しばらく驚愕してからバルジが俄に信じられない顔で再びコーリーを問い質した。

  「そ、その猫があのローレンスだと?!い、一体何があったのだ。説明を頼む」

  「はい…実は3時間前にオペラ座宙域を走行していたキャッツトレインで暴動を起こすと犯行声明があり、藤堂司令から緊急出場要請を受けて出場しました」

  「キャッツトレイン……あの猫愛好家が集まる列車か。確か不定期運行で今日が運転日だったな。それで、実際に暴動は起きたのか?」

  「はい……10人程で暴動を起こしました。参加者も大勢いましたので、早期鎮圧をする為にローレンス隊長とキムと私が現場に急行しました」

  「なるほど…あいつらしい。それで事件はどうなったのだ?」

  「ローレンス隊長のご参加もあったお陰で速やかに暴動は鎮圧できました」

  「ほぅ。それは良かったな」

  「はい。ですが隙を見て逃げ出した犯罪者がキムに攻撃をしようとしまして、先に気が付いたローレンス隊長が咄嗟にキムを庇いました」

  「それは大変だったな。ではその時に何か受けたと?」

  「はい……その犯罪者はニャルツ人の血液を使用した薬品をぶちまけました」

  「ニャルツ人……あの…猫の特異体質のある人種か。……っておい…まさか?!」

  「はい……あとはお察しの通りです」

  「はぁ……なるほど。状況は理解したよ」

  二人が何かをお互いに理解している姿にシリウス一同が質問を投げかけた。

  「ニャルツ人って聞いたことがないわね…デイビット、知ってる?」

  「いんや。俺が知るわけねぇだろ。学は知ってるか?」

  「いいや、知らないよ。隊長、そのニャルツ人が何か問題があるのですか?」

  学からの問いかけにバルジは深くため息をついた。

  「はぁ……お前ら、そんなことも知らんのか。ユキ、説明を頼む」

  「はい。ニャルツ人は宇宙人種辞典に特別警戒人種で定められております」

  「特別……警戒人種?」

  「随分物騒な人種だな」

  「その…定められている理由は?」

  「理由は彼らの血液です。彼らの血液に触れると、どういうわけか普通の人間は猫になってしまう作用があります」

  「え?!」「ウソ?!」「マジかよ?!」

  「という訳だ。管理局もその問題は重要視している。確か…SDF宇宙人種取扱いマニュアルにも記載があったはずだがな」

  「「「す、すみません……」」」

  無知なシリウス3人を睨みながら説明を済ませると、再び困り果てているコーリーの方を向いて尋ねる。

  「しかし…確かにニャルツ人の血液には猫化の作用があるが、精々1時間程の効果だろ。3時間も経って何故治らん?」

  「どうも……犯罪者によって薬物改良されたようです」

  「薬物改良……医局に成分分析は依頼したのか?」

  「はい。成分分析の結果、個人差はありますが、最長で1日ほどの効果があるそうです」

  「そんなに長いのか?!それで医局の連中は何か処置はしたのか?」

  「いいえ。こればかりは自然に薬の効力が切れるのを待つしかないとだけ」

  「そうか。それはまた無責任な事だな」

  「はい…。一応、藤堂司令にはご報告をしていますが、薬が切れるまで私が隊長代理をするように指示を受けました。ケフェウスの動向も…全て任せると」

  「それまた…キツい指示だな」

  「はい……」

  一通り説明を終えたコーリーが再び下を向いている姿を見て、シリウス一同は気の毒に感じていた。

  「なるほどな。そりゃ助けを求めたくなるはずだぜ」

  「そうね。あのローレンス隊長が猫になったらね」

  「だよな……でも猫の時ってローレンス隊長の意識はどうなっているんだろう」

  「そう言われればそうね。ユキ、何か知っている?」

  「過去のデータでは、猫化している間の記憶は人間に戻ると殆ど残らないようです。その為、自我があるかどうかは判明していません。ただ当然喋ることはできませんし、行動は猫の本能のままにするようですよ」

  「そうなんだ……」

  「マジかよ」

  「てことは……普通の猫と一緒ってこと?」

  「そうなりますね」

  ユキの説明を聞いたシリウスとケフェウス一同がげっそりと肩を落としている最中、ずっと疑問に思っていた事をバルジが尋ねた。

  「事情は分かった。しかし何故俺に助けを求めてきた?流石に猫化を戻すことはできんぞ」

  「なら…単刀直入に言います。バルジ隊長にお願いしたいことは……」

  何処か真剣な眼差しにシリウス一同が息を飲むと、キリッとして懇願した。

  「薬の効果が切れるまでローレンス隊長を預かって頂けませんか!」

  「………お、俺が?!何故だ?」

  「それが分析の結果です。この猫を世話できるのはバルジ隊長だけです!」

  妙な断言をするコーリーに不自然さを感じたシリウス一同から反論の声が漏れる。

  「おいおい…いくらなんでも無茶苦茶だろ!」

  「そうだよ。自分達の隊長なんだからケフェウスで面倒を見たらいいじゃないか!」

  「そうね。今後の事を考えてもそれが一番いいと思うわよ」

  「環境を変えるとあまり良くないと私も思いますよ」

  全力で意見を述べるシリウス一同に、黙っていたバルジも同感だった。

  「別に突き放すわけではないが…俺も同意見だ。アイツの性格を考慮してもケフェウスで完結した方が良いのではないか?」

  「………それができれば苦労しません」

  「………だよな」「………あぁ」

  「ん?それは…どういう意味だ?」

  あまりに圧し籠もったケフェウス一同の声を聞いて聞き直すと、表情を一変させてコーリーが鬼の形相で語り出した。

  「なら…ハッキリ言います。この猫……全く私たちの言うことを聞きません!!!」

  「「「「「え?」」」」」

  恨みの籠もった言葉を聞いてシリウス一同から乾いた声が漏れる中、再度バルジが聞き直した。

  「こ、コーリー。それは……一体どういうことだ?」

  「どうもありませんよ。この馬鹿猫……先程まで待機所で面倒を見ていましたが、あっちこっち荒らすわ……暴れるわ……挙げ句の果てに引っかき回して散々だったんです!!!」

  「ば、馬鹿猫……(おいおい、仮にも自分達の上官だぞ…)」

  内心で絶句したものの、気を取り直してなるべく穏やかに会話を再開する。

  「な、ならば……動物用のケースに入れて面倒を見たら良いではないか?」

  「医局から指示を受けました。いつ薬の効果が切れるか分からないのでなるべくケースには入れないようにと」

  「そ、そうか。だが…見たところ大人しそうな猫ではないか。実際、今のところ暴れもしないし…」

  「……それは多分バルジ隊長が目の前にいるからです」

  「は?な、なぜ俺がいたら大人しくなるのだ?」

  再び疑問の声を漏らすと、横で待機をしていたキムとピエールが捕捉を入れた。

  「実はここに来る前に誰に頼ろうか相談をしてたんですよ」

  「色々と候補はあったんですけど、バルジ隊長の名前を漏らした瞬間、ものすごく鳴いて要求してきたんです」

  「それは……たまたまではないか?」

  「いえいえ。それはないですよ」

  「実際、今過去一で落ち着いているので」

  二人の発言で再び白猫を見ると、未だに見つめられていることに気が付いた。

  そっと視線を移しつつ、現実的な問題を告げた。

  「だ、だがな。俺は猫の取扱いは分からんぞ。そういうことは実際猫を飼っているルイの方が適任ではないか?」

  バルジの提案にその場の一同の視線がルイに向いた。

  「ふぇ?!わ、私ですか???」

  突如舞い降りた話に困惑していると、見守っていたシリウス一同からも声が漏れる。

  「そういえば……ルイって自室で猫飼っていたな」

  「ん?なんでおめぇは猫飼っているの知ってんだよ?」

  「いや…以前の広報部からの広告依頼の時に知ってさ…」

  「なるほど。そん時にしれっと女子部屋を見物したってわけか…罪だね~」

  「なっ?!変な誤解を招くようなことをいうのはやめろよ、デイビット!」

  「へいへい。にしてもだ、良し悪しは別にして、確かに飼育経験がある方がいいじゃねぇか」

  「そうですね。ルイさん。試しに抱っこしてみてはいかがですか?」

  「ユキまで……分かったわ。ダメ元で一度やってみます」

  「よろしく頼むぞ」

  シリウス一同に押し込まれたルイは恐る恐るコーリーの元に近づいた。

  「ほ~ら。ローレンス隊長…ちょっとだけ…抱っこさせてくださいね~」

  驚かさないようにそ~と近寄り、もう少しで触れようとすると…

  『シャァァァァ!!!』

  「キャっ!!」

  尻尾を高く上げて、歯をむき出しにして睨んでくる姿は完全に威嚇の合図だった。

  あまりの怒りの態度を見て、その場の一同も理解をしてしまった。

  「これは……明白な威嚇だな」

  「これ…完全にルイを敵視しているよ」

  「んだな。よっぽど若手に可愛がられたくねぇんだな」

  「でも変ですね。ローレンス隊長に自我があればそこまで拒絶もしなさそうですが…」

  「いや…恐らく無意識に猫の本能と混ざって拒絶したのだろ」

  「隊長……そんなことありますか?」

  「なんせ相手はあのローレンスだからな」

  「「「確かに…」」」

  一同が変な納得をしてしまうと、肩を落としたルイがバルジに告げた。

  「申し訳ありません、隊長。どうも私では無理のようです」

  「そのようだな。無理を言ってすまなかった。下がってくれ」

  「はい……」

  バルジの指示でその場から離れると、状況をみたコーリーが再び声を漏らした。

  「見ての通りです。この猫…どうも自己主張が強くて、並の隊員では歯が立ちません」

  「確かにそのようだな。だが俺も同類かもしれんぞ?」

  「だったら抱っこしてみてください。私たちの分析が正しいって直ぐに分かりますから!」

  「妙な自信だな。やれやれ……分かった。とりあえずダメ元でやってみよう。但し期待外れでも恨むなよ」

  降参したバルジが立ち上がると未だにじっと見つめている白猫にそっと近づいた。

  「よ~し、よし……大人しくしていろよ」

  声かけをしながらグローブを外し、ゆっくりと手を伸ばした。

  声を掛ける様子をその場一同が息を飲んで見守った。

  「こっちにこい……ローレンス」

  両手を広げて優しい口調で告げると、黙っていた白猫が応えるように胸元に飛びついてきた。

  「にゃ~~~!!」

  「うわっ?!」

  無事にバルジの胸元に着地した白猫は落ち着いた態度で腕の中に収まった。

  「ふぅ………全く。あまりびっくりさせるな」

  「にゃ~」

  腕の中で寛いでいる姿をみて一同から安堵の息が漏れる。

  「「「「「はぁぁぁぁぁ良かった~~~」」」」」

  コ「やっぱりバルジ隊長にお願いして正解だったわ」

  キ「俺の情報分析に感謝しろよ」

  ピ「情報分析って…ただの勘だっただろうが!」

  学「すごいな~あのローレンス隊長が懐くなんて…」

  デ「そりゃそうだろ。興味のないやつより恋仲の方が落ち着くんだろ」

  ル「でも良かったわ。流石にローレンス隊長を預かる重責なんて耐えられないもの」

  ユ「心拍も安定しています。よほど落ち着くのですね」

  一同からの感激の声を盗み聴きしていたバルジは少々呆れ顔でいた。

  「やれやれ……どうやら俺が預かるのが確定のようだな。しかしお前ら本当にそれでいいのか?」

  「はい。問題ありません」

  「丁度、本日のケフェウスは駅の巡回任務なので、実際その方が助かります」

  「ちなみにシリウスはどのようなご予定ですか?」

  「本日の我々は隊員派遣日だからな。午前中は訓練室で技量確認をして、午後からはバラバラだ。俺は待機所で書類整理の予定だから…まぁ問題無いな」

  「そうですか。それは良かったです」

  「んだな」

  「では、これはバルジ隊長に渡しておきますね」

  ケフェウス3人が何処か嬉しそうにしながら、バッグと紙袋をそっと出した。

  「……それはなんだ?」

  「医局から渡された猫お世話セットとローレンス隊長の着替えです」

  「お世話セットの方は俺たちも詳しくはないので、後でルイさんにでも聞いてください」

  「それでは俺たちも任務がありますので…これで失礼します!!」

  「え?お、おい…ちょっと待て、もう少し説明を…」

  バルジが唖然として声を漏らす最中、ケフェウス3人は整列をして深々と頭を下げた。

  「「「それではバルジ隊長、シリウスの皆さん。ローレンス隊長のこと、よろしくお願いします!!!」」」

  「え……あ………あぁ」

  荷物を置いたケフェウス一同は早々にシリウス待機所を後にした。

  残されたシリウス一同は唖然とした表情で立ち尽くしていた。

  「行ってしまったな…」

  「たく……あいつら、いきなりきて丸投げかよ!」

  「コーリー達にも困ったものね」

  「恐らく相当大変だったのでしょうね」

  「やれやれ…それで隊長、これからどうしますか?」

  「そうだな……とりあえず早朝ミーティングを済ませてしまうか」

  「あ……そう言えば、まだ途中だったな」

  「すっかり忘れてたわ」

  「無理もねぇ。あんな訪問があったらな」

  「隊長、ミーティング後はどうするのですか?」

  「後は予定通りだ。ルイはミーティング後にお世話セットの確認と説明を頼む」

  「「「了解」」」

  一同が指示を確認すると、デイビットが驚きの顔で尋ねた。

  「え?!隊長、マジで世話をしながら一日過ごすつもりっすか?!」

  「預かった以上放ってはおけんだろ」

  「マジかよ。隊長って…こういう押しに弱いっすね」

  「ならばお前が面倒を見るか?別に構わんが」

  バルジの発言で思わず白猫をチラ見したが、まるで話を聞いていたかのようにギロっと睨んできた。

  「……遠慮しておきます。引っかかれて隊長みたいに傷物になりたくねぇんで」

  「傷物で悪かったな…」

  その後、大幅に遅れてミーティングを終えた。

  [newpage][chapter:猫のムチ]

  ミーティングを終えると、ユキは医局へ向かい、残りのシリウス一同は訓練室へ向かっていた。

  「しっかし…隊長。ローレンス隊長も連れて行くんですか?」

  「流石に待機所に残して行くわけにはいかんだろ」

  「だったら…自室で待機をさせてはどうですか?」

  「どのくらいで薬が切れるか分からんのにそんな無責任なことはできん」

  「たく……そういうところは本当に真面目っすね」

  「これでも隊長だからな。管理責任を持つのは当然だ」

  「へいへい、それにしても大人しいっすね」

  「そうだな。このままで宜しく頼むぞ、ローレンス」

  『にゃ~~~』

  依然としてバルジの腕の中で大人しくしている姿を見て、お世話セットと紙袋を持っている有紀とルイがコソコソ話を始める。

  『有紀くん…あれどう思う?』

  『どうって…落ち着いているようだけど』

  『じゃなくて、本当に自我がないと思う?』

  『それ…どういう意味だい?』

  『なんかバルジ隊長への態度を見たら、ちょっと自我があるように感じるのよ』

  『え………それはそれで恐ろしいんだけど』

  『確かにそうね……ここは自我なしでいて欲しいわね』

  『激しく懇願するよ』

  二人が妙な不安を抱えているとあっという間に訓練室へ到着をした。

  到着後、バルジは一同に対して今回の訓練について説明を始めた。

  「よし、これより技量確認を踏まえたシミュレーション訓練を行う。今回は連携行動も確認をする為、3人同時で少し高めのレベルにて実施する。では今から設定をするから準備をして訓練室で待機してくれ」

  「「「了解」」」

  バルジの指示でシリウス一同はコスモガンの点検を済ませて訓練室に入室していく。

  「ふぅ…さてと、設定をするからお前は少しここで待機だ」

  『にゃ?!』

  ずっと抱き抱えていた白猫を椅子に乗せてバルジはシミュレーション設定を行った。

  パネル操作を行っている姿を白猫はじーーと睨みながら待機をしていた。

  「よし……こんなもんか」

  設定を終えるとマイクでシリウス一同にアナウンスを掛けた。

  『設定完了。これより訓練を実施する。レベルは中級レベル5だ。訓練時間は20分。訓練スタート』

  バルジのパネル操作で訓練が開始した。

  訓練状況をモニタールームで傍観していたバルジは腕を組みながら各々の評価をしていた。

  (思ったよりも悪くないな。デイビットの反射も申し分ない。ルイの精確な射撃も良いし、有紀の咄嗟の回避能力も悪くない。こいつらも少し見ない内に成長したものだな)

  部下の成長を何処か嬉しそうに眺めていると、ずっとじっとしていた白猫が声を上げた。

  『にゃ~~~!』

  「……ん?どうした?」

  『にゃ~!にゃ~!』

  「もしかして……お前も見たいのか?しょうが無いな」

  気持ちを悟ったバルジが見える位置に持ち上げると、いきなり暴れだした。

  「うわっ?!お、おい…ちょっと落ち着け…って?!」

  バルジの元から離脱した白猫はパネルの上に立ち、徐にパネル操作をし始めた。

  「あっ……お、お前。流石にそれは…」

  操作した訓練内容に驚いたバルジが再度白猫を見ると、猫のくせに意地の悪い面をしていた。

  「お前……全く…分かったよ。お前の提案を受理しよう。だがあいつらに恨まれても知らんぞ」

  『にゃ~!』

  まるで望むところだという顔で鳴いてくる姿に苦笑すると、半分投げやりに確定ボタンを押下した。

  それから10分後。

  訓練が終了して、訓練室からシリウス一同が退出してきた。

  バルジが出迎えると全員が肩で息をしながら文句を垂れ流してきた。

  「ぜぇ…ぜぇ…隊長…これは…どういう…事ですか?」

  「ぜぇ…ぜぇ…そうだぜ……なんか…途中から…変だったぜぇ」

  「はぁ…はぁ…そうね……なんか…急にレベルが…上がったような…気がしましたが?」

  「皆、ご苦労だったな。技量確認は無事に完了だ。想像以上に良かったぞ」

  にこやかに話をする姿に少し怒りの視線を向けながらデイビットが尋ねた。

  「そんな…事より……質問に…答えてください!」

  「あ……レベルの件か。実は中盤からローレンスに指摘を受けてな。急遽2ランクアップした」

  「はぁ?!つ、2ランクアップ?!」

  「う、ウソでしょ?!そんなのむちゃくちゃよ!」

  「な、なんでそんなことをしたんですか!」

  「お前らの力量では甘すぎるということだろ。若干不安ではあったが無事に終えたから良かった」

  あまりに人ごとのような発言にシリウス一同から怒りの声が津波のように降り注いだ。

  「ちょ、ちょっと!!なに猫の指摘を真に受けているんですか!!!」

  「俺たちを殺すつもりっすか!!!」

  「隊長!いくら何でも無茶ぶり過ぎます!!!」

  「何を言う、ちゃんとクリア出来ているではないか。それにローレンスがお前らの力量を測れないはずがないだろ?」

  「いや今は猫ですよ。そんなことあるはずがないですって!」

  「デイビットの言う通りです!」

  「冗談も程ほどにしてください!」

  怒濤の怒りの声をさらっと流しながら白猫に微笑んで声を掛ける。

  「ははは、これはまた酷い言われようだな。全く信用されておらんぞ」

  『にゃ…にゃにゃにゃ…』

  「馬鹿共に言われる筋合いはない…か。相変わらず手厳しいな」

  『にゃにゃにゃ』

  「俺の指導不足か?それまたキツい事だな」

  『にゃ…にゃにゃ…』

  猫相手に話をしているバルジの姿を見たシリウス一同が嘘だと言わんばかりの驚きの表情を浮かべた。

  「ねぇ…なんか…隊長、猫と会話してない?」

  「ほ、本当だ。もしかして…言っていること…分かるのかな」

  「た、隊長…猫の言葉…分かるんすか?」

  「ん?そう言われればそうだな。何となくだが、そんな事を言っているような気がするだけだ」

  「言っているようなって…マジかよ」

  「凄い…恋仲だとそんな事もできるんですか?!」

  「ここまで来ると脅威だわ…」

  「お前らな……はぁ、まぁいい。とりあえず訓練を再開するぞ」

  気持ちを切り替えて訓練を再開させようとすると、再びシリウス一同から不満の声が漏れた。

  「訓練再開って……もう少し休ませてください!」

  「そうですよ!こっちは散々振り回されたんですから!」

  「そうだぜ!隊長だけのんびり傍観しているなんてずるいっすよ!」

  「全く…分かった。ではあと20分休息をしたらいけるか?」

  「まぁ…それくらい頂ければ」

  「つかよ。隊長も訓練されたらどうっすか?」

  「そうね…その小生意気な猫とバディを組んでされたらどうですか?」

  「ローレンスと?いや…流石にそれは無理だろ。なんせ猫だぞ」

  「その猫のせいで散々な目に遭ったのは俺たちっすよ!そんくらい大丈夫でしょ!」

  「まぁ…それも一理あるが…」

  デイビットの申告を受けて白猫をチラ見すると、猫とは思えない挑んだ瞳を浮かべていた。

  『にゃ~~~』

  「お前……まさかやるつもりか?」

  『にゃ!』

  「全く……猫になっても恐ろしいやつだな。分かった。ではあいつらが休息している間にやるか」

  『にゃ!』

  「「「え?!」」」

  冗談のつもりで提案したシリウス一同は意外な展開に大きく目を開いて確認する。

  「た、隊長。マジでやるんっすか?」

  「何をいう。お前らがやれと言ったのだろ」

  「いや…半分冗談だったんですけど」

  「俺にはそうは聞こえなかったがな」

  「真に受けすぎですって…」

  デイビットとやり取りをしていると、そんな事を気にせずに白猫は再びコントロールパネルを操作し始めた。

  内容が表示されると、再びシリウス一同が大きく目を開いた。

  「げっ?!上級者レベル4?!」

  「嘘でしょ?!私たちがしたレベルより2つも高いじゃない?!」

  「バルジ隊長…本気で上級者レベル4で訓練をやるんですか?!」

  「まぁ…俺は別に構わんが。それでお前はいけるのか?」

  再び白猫の方を向くと、何も告げないまま訓練室の方へ歩んでいった。

  「どうやら…大丈夫のようだな」

  「マジかよ…」

  「仕方がない。念の為、緊急停止ボタンの用意をしておいてくれ」

  「それって…隊長の危険で押下するんですか?」

  「馬鹿。猫の方に決まっているだろ」

  「ですよね…了解しました」

  「宜しく頼むぞ。では行ってくる」

  「「「いってらっしゃい~」」」

  その後、予定通りにバルジと白猫ペアの訓練が開始された。

  クールダウンしながらモニターで傍観していたシリウス一同は目を点にしていた。

  「おいおい……マジかよ」

  「あの猫……ちゃんとデコイと渡り合ってる」

  「それどころか、バルジ隊長のサポートまでしているよ」

  唖然と眺めていると、あっという間に20分の訓練が終了した。

  「ふぅ~なんとかなったな。しかし中々いい動きだったぞ、ローレンス」

  「にゃ~~」

  「「「お疲れ様でした」」」

  何事も無かったかのように戻ってくると、唖然としている一同に白猫は不適な顔を向けていた。

  「……にゃ」

  「あの猫……まるで勝ち誇ったような面をしてやがるぞ」

  「まるで馬鹿にされているような気分ね」

  「これもローレンス隊長の性格が関係しているのかな…」

  一同が何処か不服そうな表情をしている最中、白猫は椅子に腰掛けているバルジの膝元に乗って寛いでいる。

  「にゃ~」

  「よしよし、疲れただろ。ゆっくり休んで構わんぞ」

  「にゃ~」

  「はは、どうやらお気に召したようだな。こう見ると結構可愛らしい猫だな」

  (((何処がですか!!)))

  にこやかにしているバルジとは裏腹にシリウス一同が一斉に内心で文句をぼやいていた。

  その後、訓練が再開されたが通常よりもレベルが高めで行われた為、シリウス一同は疲労が絶えないままお昼頃まで続いた。

  【次回予告】VOICE バルジ

  一日預けることになった白猫になった恋人。

  アイツらの恨みの視線が恐ろしい

  はぁ…一体、いつまで続くのやら…

  次回、「ケフェウス隊長は猫である」【後編】

  俺たちは次の駅でも猫に悩みを抱える。

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