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怒れる拳、笑顔に当たらず?【前編】

  『怒れる拳、笑顔に当たらず』

  怒って強い態度で向かってきた者に対しても、優しい態度で接するほうが効果的であるということ。

  怒って振り上げた拳も、相手の笑顔に気勢をそがれて打ち下ろせないとの意味から言われている。

  だが…正月早々に発生した奇怪な事件ではこれは別の意味となっただろう…

  とある冬の共同ミーティングルームにてシリウスとケフェウスが合同待機をしているときのこと。

  「隊長!今年も例のチャレンジ…お願いします!!!」

  盛大に請願してきたデイビットにデスクに腰掛けていたバルジは頭を抱えた。

  「はぁ……やはり忘れておらんのか。お前、よく覚えているな」

  「そりゃもう!去年の雪辱は忘れられませんって!」

  「はぁ…全く。正直、別のことを覚えていてほしいものだがな」

  「そんなこと言わねぇでくださいよ。どうせ、準備しているんでしょ?」

  「まぁな。俺も記憶は良い方だからな」

  ぶっきらぼうにぼやきながら懐から封筒を1封出して、デスクにそっと置いた。

  袋にはお年玉10000エイブルと記載されている。

  デスクに置くなりバルジは少し真面目に向き合った。

  「チャレンジは去年同様で一度限りだぞ」

  「分かってますって。んじゃ、今回も俺が先攻でいいっすか?」

  「好きにしろ。ユキ、すまんが今回も判定を頼む」

  「分かりました」

  お互いに真剣な表情のままあるゲームが開始された。

  そのやり取りを放れたテーブルで書類整理をしながら傍観していたローレンスが疑問の声を漏らした。

  「……有紀、あいつらは一体何をしているのだ?」

  「え?あぁ…アレですか。 『古今東西ゲーム』と言いまして、 お題を決めて相手と自分の回答を記憶して答えていくゲームです」

  「ほぅ……で、去年同様とはどういう意味だ?」

  「去年、デイビットがおふざけで『お年玉をください』と、隊長に請願しました。はじめはキッパリ断っていたんですけど、あまりにしつこく請願してきましたので、隊長が折れてしまって…」

  「なるほど。お年玉を渡す条件として指定したゲームに勝つことにした…と」

  「はい…」

  「なんとも馬鹿げた話だな。で、そのお題とは何なのだ?」

  「お題は、昨年にシリウスで対応した事件や事故に関係する用語だそうです」

  「なるほどな。振り返りも含めてやっていると」

  「その通りです。でも多分去年同様で数分後にケリがつくと思いますけどね」

  素っ気なく告げた学の言葉にその場にいたケフェウス一同が首を傾げた。

  「ん?なんですぐに決着がつくって分かるんだよ」

  「そうよ。デイビットだってそこそこ記憶力は良い方でしょ?」

  「だよな。それにお年玉があるって分かっていたら予習だってしてきているだろう」

  キム、コーリー、ピエールが疑問の声を漏らす中、真意を理解したローレンスは鼻で笑った。

  「ふん。お前ら、バルジの性格を全く理解出来ておらんな」

  「え?」

  「それは…」

  「一体どういう…」

  「まぁいい。お前らも黙って傍観していろ。俺の予測ではあと3分くらいだ」

  意味深な言葉を聞いたケフェウスが再び二人のゲーム状況を傍観した。

  「………アルフェラッツ支線普通列車707号、エクスファル連邦!」

  「……アルフェラッツ支線普通列車707号、エクスファル連邦、アルタエル新線特急222号」

  「げ?!また列車っすか?!」

  「まぁな。ほら、無駄口を叩いておらんで早く回答しろ」

  「くっそ!えと…惑星リオグランデ…バーンズ534号…惑星タビト…レグルス本線特急808号…」

  デイビットが回答している最中、審判をしていたユキが割り込んだ。

  「デイビットさん、回答が違いますよ」

  「へぇ?!マジかよ?!」

  「はい、レグルス本線特急808号ではありません」

  「えっ…ちょ、ちょっと待ってください!んじゃ…レグルス本線特急858号!」

  「違います。カウントを取ります。10…9…8…」

  回答が異なる為、ユキはルール通りに終了のカウントダウンを始めた。

  「げっ?!ちょ、待ってって!だったらレグルス本線特急814号!」

  「違います。6…5…4…」

  「んなら、レグルス本線特急864号!」

  「違います。3…2…1…0」

  デイビットの奮闘も虚しくユキは無表情のままゲーム終了のカウントをゼロにした。

  ゲーム終了を確認すると、バルジは座ったままニヒルな笑みを溢した。

  「どうやら、今回も俺の勝ちのようだな。これは回収させて貰うぞ」

  デスクに出された封筒を懐にしまうと、デイビットがげっそり肩を落とした。

  「くっそーーー!あんだけ予習してきたっつうのになんで勝てねぇんだよ!!」

  全身で悔しがっている姿を見たケフェウス一同は唖然としていた。

  「本当に3分でケリがついたな」

  「本当…でもなんで…」

  「ローレンス隊長、何か理由でもあるのですか?」

  キム、コーリー、ピエールが不思議そうに尋ねる中、ローレンスは腕を組んで薄ら笑いをしていた。

  「なんだ。お前ら傍観していても分からなかったのか?」

  「はい…」

  「すみません…」

  「流石にアレだけでは…」

  「全く……観察力が欠如した連中だ。やむを得ん、ちょっとこっちに寄れ」

  観察力が乏しい部下に少し呆れると、ローレンスはそっと手を振って一同を寄らせて静かにコソコソ話を始めた。

  ロ『いいか。アレは完全にバルジの策略に嵌まっているだけだ』

  コ『バルジ隊長の…策略ですか?』

  ロ『あぁ。あいつは敢えて自身のターンすべてで列車番号が絡む回答をしているのだ』

  ピ『それは…ただ覚えていたのがそれだったのでは?』

  ロ『馬鹿者が。ならば、あいつの回答に全く列車以外の回答がないのは不自然だろ。人間の記憶とはある現象に結びつけて覚えるものだ。惑星や事件の当時者関係ならば任務のやり取りで想い出しやすいが、列車番号は割と覚えにくい。それを路線と合せて回答することで相手を惑わずと言うわけだ。1つ、2つならば回答できるが、後半になるに連れてそれは相手に取って致命的になる』

  キ『な、なるほど…でも、それだとバルジ隊長も覚えるのが大変そうですが…』

  ロ『お前…バルジの記憶力を舐めすぎだ。あいつは今まで対処した事件、事故の事は大概記憶しておるぞ』

  キ・コ・ピ『え?!ほ、本当ですか?!』

  ロ『あぁ。最近は特に待機時間が増えているからな。恐らく過去の事故の見直しもしている。そんなやつに記憶力で勝負をした時点で敗北は確定だ。その上、策略じみたことまでされたら、恐らく俺でも勝てん』

  キ『ま…マジですか』

  コ『それじゃ…あのお年玉は一生手に入らないってことね』

  ピ『あぁ。それどころか、ゲームって言っておきながら昨年の復習を自主的に誘導するなんてとんでもない詐欺師だぜ』

  キ・コ『『確かに…』』

  ケフェウス一同が納得をしていると、盗み聴きをしていた学とルイも話しに介入した。

  「どうやら、カラクリが分かったみたいですね」

  「デイビットもいい加減に気が付いたらいいのにね」

  二人が珈琲啜りながらぼやいていると、ローレンスが尋ねた。

  「お前らはあいつのカラクリを知っていたのか?」

  「はい。去年バルジ隊長から聞きましたから」

  「お正月だし、意地悪せずに渡してはどうですかとも言ったのですが…」

  「ふん。あいつはそういうのは受け入れない主義だからな。大方、賭け事の軍資金に使われると察して、このゲームを仕掛けたのだろ。なんとも悪手なことだ」

  「「そうですね」」

  二人が変に納得をしていると、共用ミーティングルームに警報が鳴った。

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『惑星ファレイダー駅構内にて謎の落書き事件発生!駅係員より協力要請受領。アクルクス小隊は現場に急行してください』

  黙って一同が放送を聞いていると、第一声にデイビットがぼやいた。

  「謎の落書き事件って…おいおい、正月早々になんていう事件で呼び出し喰らってるんだよ!」

  「確かにな。落書き如きでSDF出場とは…拍子抜けだな」

  珈琲を啜っていたキムもぼやくが、隣にいたコーリーは意外と前向きだった。

  「確かに変な事件だけど、殺人事件よりかはマシじゃない?流石に正月早々に人殺しは嫌よ」

  「……それもそうだな。年明けくらいこうして平和にいたいもんな」

  「そうそう」

  平和に過ごせることに2人がそっと祈りを捧げていると、意地の悪いデイビットがコインを取り出した。

  「よ~し!せっかくだし、運試しでコイン占いでもしてみるか!」

  「ついさっきバルジ隊長に惨敗したやつの占いって言うのもな…」

  「そうね。でも一度失墜してるし、案外良い運が出るかも」

  「おいおい、せっかくの平和なひとときにそんな運試しは御免だよ」

  「固い事言いなさん。じゃあ行くぜ!それっ!」

  「……」「……」「……」

  チャリーーーーン、パシン!!

  キム、コーリー、ピエールの助言も聞かずにデイビットはお馴染みのコイントスを行い、手の甲に納めた。

  期待感0のケフェウス一同が手の甲に注目していると、デイビットはゆっくりと手を退けた。

  手の甲にあったのは、1000年女王の微笑みがない裏。

  「げっ!?う、裏かよ?!」

  「はぁ…やっぱりか」

  「なんとなく想像はしていたけど…」

  「どうしてくれるんだよ。これで今日一日不安になったじゃないか」

  「え……なんか、わりぃ」

  4人がなんとも言えない雰囲気になっている最中、書類整理が完了したローレンスは呆れ顔で見ながらバルジの元へ向かっていた。

  「全く。あいつらも呑気なものだな。ほら、今度の合同訓練の立案書できたぞ」

  「あぁ。来週の件だな。それにしても…」

  書類を受け取ったバルジは一同の動向を未だに見つめている。

  「……あいつらがどうかしたか?」

  「……いや。ちょっと先の放送が気になってな」

  「先の?あの落書き事件の緊急出場要請のことか?別に下らない要請以外変ったことはないだろ」

  「確かにそうだが…わざわざ距離のある管理局に要請するのが不自然だろ。俺が駅員なら惑星ファレイダーの警察にでも協力要請をするところだ」

  「それは確かにそうだが、あまりの下らない事件だから外部協力を渋ったのではないか?」

  真顔で告げられた理由に脳裏で状況を考察したバルジは一定の理解をした。

  「……それもあり得るか。全く…正月早々、馬鹿馬鹿しいかぎりだな」

  「全くだ。それはそうと、さっさと合同訓練の内容を纏めるぞ」

  「はは、了解」

  それから2時間後。

  バルジとローレンスが合同訓練内容の最終確認をしていると、再び館内放送が鳴り響く。

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『アンドロメダ分岐点構内にて謎の落書き事件発生!分岐点職員より協力要請受領。リゲル小隊は現場に急行してください』

  再びの不可解な放送に任務報告書を読み返していた学とルイが反応した。

  「ん?また落書き事件…しかも今度は分岐点でか」

  「そうね。ちょっと変ね」

  「でもなんで落書きなんだろ?」

  「もしかして…宇宙ネットで『正月に銀河鉄道施設に落書きをしましょう』とか広まっていたりして」

  「ちょ、それは流石に笑えないよ!」

  「嫌だ有紀くんたら。あくまで可能性よ。それにそんな宇宙中でされたら流石にしんどいわよ」

  「他人事だと思って…もしその推理が正しかったら俺たちもいずれ出場要請が掛かるかもしれないんだぞ」

  「それは……ちょっと嫌ね」

  シリウス若手二人が雑談をしている最中、バルジは協議を止めて黙ったまま考え込んでいた。

  その様子を対面で話していたローレンスが気に掛けた。

  「……どうかしたか?」

  「いや……また似たような事件が発生したと思ってな」

  「大方、馬鹿な奴らが落書きの話題を宇宙に広めたのだろ。それに便乗して第二の落書き犯が出てしまった間抜けな話だ」

  「……本当にそうだろうか」

  「……なんだと?」

  ぶっきらぼうに告げた仮説を疑問視するバルジを思わず睨んだ。

  「今回は分岐点での落書きだ。あそこには駅以上に防犯ロボ共がいるだろ。武器を所持している輩も制圧できるのに、わざわざSDFを呼ぶか?」

  「それはそうだが…ならば数が多いのではないか?」

  「イベントではないのだ。そんな大勢が射殺されるリスクを犯してまで落書きに賛同するとは思えん」

  「………それもそうだな。ならば…お前は何だと思っているのだ?」

  「現状ではなんとも言えん。だが…」

  「だが?」

  「次に…同じ放送が流れれば、我々も少し覚悟をしなければならんかもしれん」

  まるで任務時のような瞳で告げるバルジに思わず笑いが漏れた。

  「ぷはははっ落書き事件如きで随分と弱気だな。考えすぎだ。俺はそこまで身構える必要なないと思うがな」

  「笑いすぎだ。まぁ、要請がない以上、我々はやることを終わらせるぞ」

  「はは、分かっている」

  それから2時間後からバルジが恐れていた放送は館内に鳴り響いた。

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『アンドロメダ分岐点発、特急808号車内にて謎の落書き事件発生!乗務員より協力要請受領。スピカ小隊は現場に急行していください』

  能面のような顔で耳を傾けていると、ローレンスが再びぼやいた。

  「お前の予想通りになったな、バルジ」

  「そのようだな。ハッキリ言って的中して欲しくはなかったが」

  「能書きはいい。で、お前の心情を聞こうか?」

  「心情?」

  唐突の質問に首を傾げると、見透かしたような瞳で追及してきた。

  「お前がさっき不審に感じたことだ。何か過ぎったからそう思ったのだろ?」

  「……ふっ。察しが良いな。なに、大した根拠ではない」

  「こういう時のお前の勘は当るからな。参考に聞かせろ」

  「全く。なら言うが…笑うなよ」

  「下らん心配をしておらんで、早く言え」

  ローレンスからの追及に観念したバルジは自身の仮説について話始めた。

  「あくまで仮説だが。今回の落書き犯は恐らく同一人物か同一集団によるものだ」

  「……は?お前、何を言っているのだ?」

  「話は最後まで聞け。先程から空を見ているが、先に出場したアクルクス、リゲルが帰還しておらん。それに事件現場がいずれも発生後1時間以内に移動出来る距離の範囲で発生している。もしも、俺が司令ならば、余分な人員を出すより、事件を集束させたアクルクスに追加ミッションを送るところだ。それが出来ずに他の小隊を派遣したということは…」

  「ま、まさか…落書き犯如きにSDF小隊が敗北したというのか?!」

  「可能性はある。だが仮にアクルクスがやられたとして救援要請を出していないのは不自然だ。死んではいないとは思うが現状ではなんとも言えん」

  神妙な趣で告げた仮説に黙って聞いていたシリウス一同も参入した。

  「け、けどよ!流石にそれは考えすぎじゃないですか??」

  「そうですよ。落書き犯を相手に苦戦するとは思えません」

  「アクルクスもリゲルもそれなりの実力者の小隊ですよ。そう簡単にやられるとは俺も思えません」

  デイビット、ルイ、学までもが反論すると、バルジは素っ気なく返した。

  「確かにそうだな。だが、客観的な考えで油断をするな。俺も考えたくはないが、次に同様の事件で放送が流れれば恐らく我々かケフェウスが出場になる。心構えをしておけ」

  「「「りょ、了解」」」

  気が付けばいつもの任務時の緊張感が走るシリウスにその時はケフェウスをはじめローレンスですら考えすぎと高を括っていた。

  さらに2時間後。

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『惑星タビト駅構内にて謎の落書き事件発生!駅員より協力要請受領。ケフェウス小隊は現場に急行してください』

  予想通りに放送が流れてローレンスは大きくため息を吐いた。

  「はぁ…どうやらお前の予感が的中したな」

  「そのようだな。ローレンス、分かっていると思うが落書き犯だからといって油断するなよ」

  「あのな!俺が落書き犯如きにやられると思うのならばとんだお節介だ。心配せんでもキッチリ捕らえて説教をしてくるさ」

  捨て台詞を吐き終わると、ケフェウス一同を連れてミーティングルームを後にした。

  残されたバルジは不安の表情を浮かべながら外の空を眺めた。

  (落書き犯…か。あいつがやられるとは思えんが、一体どんな犯行者だろうか)

  「何事も……なければいいが」

  それからさらに1時間後、シリウス待機所に戻った一同の元に固定電話が鳴り響き、ルイが出た。

  ピロロロ…ガチャ!

  「はい!こちらシリウス小隊。………あ!お久しぶりです!……え?隊長ですか。今なら大丈夫ですけど……分かりました。そのままお待ちください」

  要件内容を確認したルイが、保留ボタンを押下して受話器を切ると、バルジの方に向いた。

  「隊長!タビトのカンナさんよりお電話です。なんでも急用みたいですけど…」

  「か、母さんが?!ど、どうしたんだろ?」

  ルイの隣で驚愕している学に対してバルジは嫌な汗をかいていた。

  (惑星タビトか。確かローレンスが出場した現場だな。ま、まさか…)

  「……分かった」

  バルジは恐る恐る受話器を取り、保留を解除して応答した。

  「はい。シリウス小隊隊長バルジです」

  『あ!バルジさん。お久しぶりですね』

  「カンナさん、お久しぶりです。勤務中にお電話とは珍しいですね」

  『突然でごめんなさいね。実は今タビト駅が大変なことになっているのよ』

  「タビト駅が…ですか?」

  『えぇ。駅構内や停車している列車に変なイラストが描かれていてね。もう~それは凄いのよ』

  (やはり落書き事件の事か。だが時間的にローレンスが現着しているはずだが…)

  「それにつきましては、先程管理局から放送で確認をしています。そろそろケフェウス小隊が現着しているはずです。なので…」

  『ローレンス隊長なら現場に到着しているわ。でも!手に負えないのよ!』

  「……は?それは…どういう意味でしょうか?」

  『駅員は勿論。現地の警察でも駆け付けたケフェウス小隊でも犯人を止められないのよ』

  「そ、そんなに大人数の犯行グループなのですか??」

  意外な返答に驚きの声を漏らすと、カンナは疑問符を付けて返答した。

  『何を言っているのよ。落書きの犯人は一人よ!』

  「は?!ひ、一人って…それはどういう事ですか?!」

  『どうもこうもないわよ。だから犯人は…あ!見つかっちゃっ』

  ブツン…

  「なっ?!もしもし!カンナさん。カンナさん!!!」

  突然切れてしまった受話器に立ち上がって必死に声を掛けるが、当然カンナからの返答は無かった。

  唖然と受話器を見つめながら立ち尽くしていると、異変を感じたシリウス一同が不安そうに近寄ってきた。そして第一声に学が尋ねた。

  「た、隊長…母さんに何かあったんですか?!」

  「……分からん。電話の状態から恐らく現場から逃走したのだとは思うが…」

  「そんな……相手はただの落書き犯ですよね?!」

  「……どうだろうな。カンナさんは単独犯と言っていた。単独犯相手にSDF4小隊がやられたと考えると…」

  バルジのつぶやきに驚愕しているデイビット、ルイ、ユキも声を漏らした。

  「け、けどよ!そんな凶悪犯なら何でこんな小出しして小隊派遣をしてるんだよ」

  「もしかして…これも犯人の策略なのかしら…」

  「隊長、カンナさんは大丈夫でしょうか?」

  「現状ではなんとも言えんが、これだけは言える。敵は…強敵だ」

  「「「っ!!!」」」

  バルジの一言でシリウス一同に戦慄が走る最中、それからさらに2時間後に意外にもサザンクロス、ホワイトフォーン、フレイムスワロー、飛龍が管理局へ帰還をした。

  帰還してから数分後、シリウス待機所の固定電話が再び鳴り響く。

  ピロロロ…

  「「「「「っ?!」」」」」

  デスク上で鳴り続ける電話機に一同が息を飲んで注目をすると、今度はバルジが受話器に手を伸ばして応答した。

  ガチャ!

  「……はい。こちらシリウス小隊」

  『バルジ隊長。整備士の暁だ』

  「暁さん?どうかされましたか?」

  『それがよ…今、操車場でビックワンの点検をしていたんだがな。中々ヤバいことになっていてな』

  「ヤバいこと…ですか?それは先に帰還した4小隊の事でしょうか?」

  『察しが良いな。まさにそのことだ』

  陽気に話す暁に対してバルジは全身で危機感を感じていた。

  (ヤバいことだと…一体何だ。まさか車内が死体の山だとかではないだろうな)

  「その……偉いこととはどういう事でしょうか?」

  『へへ、そんなにビビらなくていいぜ。まぁ~暇なら一度来てみた方が早いぜ。それじゃ』

  「え?それまたどういう…」

  ガチャ!

  バルジが確認をする前に暁は無責任に電話を切った。

  唖然として再び見つめていると、受話器を置いて立ち上がった。

  「皆、すまんがこれから操車場の方へ向かうぞ。ユキ、不測の事態に備えてキミも来てくれ」

  「「「「了解」」」」

  状況が気になったバルジはシリウス一同と共に急ぎ足で操車場へ向かった。

  操車場に到着すると、ビックワンの整備をしている暁に声を掛けた。

  「暁さん!」

  「お!バルジ隊長。なんだ早速来たのか」

  「来たのかではないですよ。あんな電話の切り方をしておいて」

  「あははは、すまんすまん。それよりも4列車の様子は見たのか?」

  「いいえ、まだですが。負傷者がいるのかと思ってユキも連れてきました」

  「負傷者?そんな奴はいねぇぞ」

  しれっと放たれた言葉にバルジは困惑した。

  「は?!で、ですが…やられて帰還してきたのではないのですか?」

  「まぁ…ある意味では惨敗して戻ってきたな」

  「ある意味とは…」

  「まぁ!その辺については今後の対応の為にも当事者から聞いた方がいいだろ。4隊長とも列車付近にいるから聞いてみろよ」

  「???」

  暁からの説明にシリウス一同は首を傾げるも状況が気になるため、隣の操車場へ向かった。

  長い廊下を走り抜けると、帰還したサザンクロス、ホワイトフォーン、フレイムスワロー、飛龍を黙認して思わず絶句した。

  バ「こ、これは……何とも奇怪だな」

  デ「おいおい……嘘だろ」

  学「これが……あのSDF戦闘列車?」

  ル「ひ、悲惨だわ……」

  ユ「これは酷いですね…」

  シリウス一同が目にしたのは車体全体に描かれた落書き。様々な色合いで何とも言えないイラストが多数描かれていた。とてもあのSDF戦闘列車と思えない程に。

  悲惨が状況に声が詰まる中、列車前に立ち尽くしているローレンスとジュリアを見つけた。

  「ろ、ローレンス!ジュリア!お前ら大丈夫か?!」

  バルジが二人の元に駆け寄ると、二人はゆっくりと振り向いた。

  振り向いた二人の顔は恨みの中にも何処か憂鬱のような雰囲気を醸し出していて思わずバルジは全身で恐怖を感じた。

  「ど、どうしたんだ…そんな顔をして」

  「なんだ…バルジか」

  「こんなところに何の用よ?」

  「何の用ではないだろ。一体何があった?!」

  必死に告げる姿を見て、ローレンスとジュリアは顔を合わせて告げた。

  「なに、お前の勘が的中しただけだ」

  「そうね。とんでもない敵に襲われただけよ」

  「とんでもない敵って…だが相手はただの落書き犯なのだろ?」

  「ただの落書き犯……だと」「ただの落書き犯……ですって」

  「あ……いや…その…」

  その一言に近くにいたアクルクス小隊、リゲル小隊、スピカ小隊、ケフェウス小隊の一同全員がバルジを睨んだ。

  あまりに恨みの籠もった雰囲気にシリウス一同も恐怖を感じていた。

  デ(な、何なんだよ…この殺気に近い雰囲気はよ?!)

  学(なんか…俺たち場違いな感じがするけど…)

  ル(あのジュリア隊長まであんな鬼みたいな顔をするなんて…)

  ユ(皆さんのバイタルが上昇しています。これは完全に怒りの状態ですね)

  操車場にいる一同が硬直している最中、突然館内放送が流れた。

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『緊急招集!管理局内に待機をしている全小隊長は速やかにグリーティングルームへ集結。落書き事件への緊急対策会議を行います』

  放送を聞いたシリウス一同は意外な放送に驚きの声を漏らした。

  学「ぜ、全小隊長での緊急対策会議だって?!」

  デ「おいおい、マジかよ?!」

  ル「ウソ!落書き犯相手にそんなに身構えるなんて」

  ユ「そんなに手強いのでしょうか?」

  シリウス一同が緊急対策会議について驚愕していると、参加対象者のバルジは一気に危機感が上がった。

  (この状況での緊急対策会議か。これは思った以上に深刻なのかもしれん)

  「どうやら…管理局も本気になったようだな」

  「そうね…これでフレイムスワローの仇が取れるわ」

  「そうだな。あのふざけた面に…怒りの鉄槌を喰らわせてやる」

  「同感ね」

  隊長2人がかつてない程に闘志を燃やしている最中、少しでも状況把握をするために声を掛けた。

  「お、お前ら少し落ち着け。なぁ…会議をする前に何があったか話してくれんか?」

  恐る恐る尋ねると、再び憎悪が籠もった瞳で睨んできた。

  「……悪いが、ここでは話したくない」

  「……そうね。どうせ、後で知れる事だからここでは控えさせてもらうわ」

  「えっ?!ちょ、お前ら本当にどうしたのだ?!」

  「事件の概要は会議で話す。だから今は黙っていろ。行くぞ、ジュリア隊長」

  「そうね、とりあえず今はグリーティングルームへ向かいましょう。いつまでも他人事だと思わないで急いだ方が良いわよ、バルジ隊長」

  素っ気なく告げた二人はバルジを残してそのままグリーティングルームへ向かった。

  残されたバルジはあまりの気迫に呆気を取られていた。

  「あの二人があそこまで怒りを露にするとは……想定外だ」

  「あの…バルジ隊長、のんびりしていないでグリーティングルームへ向かった方がいいのではありませんか?」

  学からの声かけで状況を想い出したバルジはハッと正気に戻った。

  「そ、そうだったな。では…会議に行ってくる。お前らはシリウス待機所で待機をしておけ」

  「「「「了解」」」」

  シリウス一同に指示を出したバルジは未だに状況が読み込めないままグリーティングルームへ急いだ。

  【次回予告】VOICEローレンス

  ついに落書き事件緊急対策会議が開かれた

  あの落書き犯…絶対に許せん

  バルジ?!貴様…まさか逃げるのではないだろな!

  次回、『怒れる拳、笑顔に当たらず?【後編】』

  俺たちは次の駅で誰かの地獄を見る

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