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混沌の雑誌 後編

  [chapter:恋人の激怒]

  「ん?お前ら…こんなところに突っ立って何をしている?」

  予想外の声にシリウス一同の背筋が凍った。

  (この声って……もしかして…)

  (間違えねぇ……多分、あの人の声だ)

  (嘘でしょ…よりによってこんなタイミングで来るなんて…)

  有紀、デイビット、ルイが全身で恐怖を感じながら、ゆっくりと後方を振り向いた。

  そこには不思議そうに見てくるローレンスの姿があった。

  「ん?どうした?そんな驚いた顔をして」

  「「「ろ、ローレンス隊長…」」」

  「本当にどうした?ところでバルジはいるか?業務も終了したから、晩飯でもと…」

  ローレンスが一同の隙間から覗くと、そこにはソファーで胸元を開いて色気全開のまま待機をしているバルジの姿が見えた。

  直視した瞬間、ローレンスも顔を真っ赤にして怒号を飛ばした。

  「な、な、なんだこれは!?!?」

  いきなりの怒号に思わずキリアンも手を止めて、慌てて振り向いた。

  「げっ?!ろ、ローレンス隊長?!」

  「キリアン!それにバルジ!お前ら一体何をしているのだ!!!」

  「これは…その企画部の企画で…今度、SDFの雑誌を発行することになりまして…その写真を…」

  「雑誌の写真だと?」

  「えぇ…」

  「お前ら!!!SDFの雑誌にこんな色気顔の隊長姿を写真で載せるつもりか!!!SDFに泥を塗るつもりか!!!」

  「し、侵害です!これは全て企画部の指示で…藤堂司令の了承も得ています!」

  「藤堂司令の?」

  「は、はい…」

  説明を聞いても已然納得がいかず、今にも殴り掛かりそうな形相で睨みつける。

  「ふざけた事を…そんな命令従ってたまるか!!それにバルジ!お前もお前だ!こんなふざけた企画、なぜ拒否をしないのだ!!」

  ローレンスが怒号を飛ばすも、ソファーに寝そべって待機をしているバルジは反応をしなかった。

  「バルジ?どうした?なんとか言ったらどうだ?」

  不自然な態度に疑問を感じたローレンスが再び声を掛けると、バルジから思いがけない回答が飛んだ。

  「……私は…キリアンの指示に従います」

  「は?!お、おい…今…なんと言った?!」

  「私はキリアンの指示に従います」

  依然として視線が合っていないバルジからの回答を聞いて、異変を感じたローレンスはキリアンを睨んだ。

  「おい…これはどういう事だ!」

  「どういうと…言いますと?」

  「明らかに変だろ!お前…バルジに何かしたのか?」

  「え?それは…その…」

  目を逸らして話そうとしないキリアンに、苛立ちを感じると質問者を有紀に変える。

  「有紀!お前らはそこで見ていたよな。バルジに何があった?」

  「へ?!あ…ローレンス隊長。実は…キリアンが雑誌に必要なポルノ写真を撮影する為に催眠アプリを使用しまして…」

  「催眠アプリ?」

  「はい…それでバルジ隊長は催眠状態に陥ってしまい…キリアンの言いなりになってしまいました」

  「なっ?!なんだと!!それでこの有様か?!」

  「は、はい……」

  事件の全貌を知ると、恋人を玩具にされた怒りが激しい波のように全身に広がる。

  「貴様ら…なぜ止めずにそこで傍観しているのだ!!それでもシリウス小隊か!!!」

  「だって…藤堂司令の指示と言われたら、手が出せなくて…」

  「ローレンス隊長、これが組織の死クズですよ」

  「私だって…なんとかしたかったです」

  「全く……臆病者共が…」

  あまりに無責任な一同に呆れると、覚悟を決めて冷徹の表情のままコスモガンを抜いて構えた。

  カチャ!

  「「「「え???」」」」

  ローレンスは恨みのこもった眼差しで銃口をキリアンに向けた。

  「キリアン…これは警告だ。今すぐにバルジの催眠を解け」

  「え?でもこれは…」

  「弁解は要らん。要求に応じないのであれば、今すぐここでお前を殺す」

  「え?!ちょ、それは冗談ですよね…」

  「この状況で…俺がそんな冗談を言うと思うか?」

  「で、でも!!そんな理由で人殺しをしたら、もうSDF隊員ではいられなくなりますよ!」

  決死に説得するが、すでにローレンスには儚い誇りのために大きな代償を支払う覚悟があった。

  「ふん、別に構わん。俺はバルジの事を守れるのならば、アルカーズ囚人所でも喜んで行ってやるさ」

  迷いなき決意を目の当たりにしたシリウス一同はお互いを見て頷くと一斉にコスモガンを抜いて構えた。

  カチャ!

  カチャ!

  カチャ!

  「え?!有紀さん、デイビットさん、それにルイさんまで?!」

  「キリアン…これは俺たちの意志だ。バルジ隊長の催眠を解いてくれ!」

  「そうだぜ、俺たちの大切な隊長を元に戻せよ!」

  「お願い…私たちもこの引き金は引きたくないわ!」

  一同からの追及に流石のキリアンも観念した。

  「皆さんまで…。はぁ…分かりました、分かりましたから銃を下ろしてくださいよ」

  降参と言わんばかりに手を振っているが、ローレンスは気を緩めなかった。

  「駄目だ。催眠を解除が最優先だ」

  「はぁ……心配性だな。了解…」

  しぶしぶとキリアンはタブレットを操作して、催眠状態のバルジに向けた。

  そして覚醒と書かれたボタンを押下する。

  [newpage][chapter:反撃の狼煙]

  ピコン!

  『コケコッコー!!!』

  タブレットから聞こえた音を聞くと、徐々に曇っていた瞳に澄んだ青色が戻る。

  「んっ……あれ……俺は一体なにを…」

  「「「バルジ隊長!!!」」」

  覚醒したバルジに一同が半泣きしながら感激な声をあげる。

  しかし当の本人は未だに何が起きたのか状況を読み込めずにいた。

  「お前ら…一体なにをそんなに驚いているのだ?」

  混乱をして周囲を見渡している姿にコスモガンを下ろしたローレンスが呆れ顔で苦言した。

  「はぁ……お前な。それは自身の姿を見てから言ったらどうだ?」

  「姿?それはどういう………ん?」

  ゆっくりと下を向くと自身のはだけた姿が見え、一気に顔を真っ赤にして声を荒げた。

  「なっ?!なんだ…これは?!ローレンス!これは一体どういう事だ?!俺はこんな格好をした覚えは無いぞ!」

  「覚えていなくて当然だ。なんせ催眠に掛けられていたからな」

  「は?!催眠だと?!一体誰がそんな事をした?!」

  動揺するバルジの台詞を聞いて、恨みの籠もった表情でキリアンを睨んだ。

  「すべてキリアンの策略だ。催眠アプリでお前を催眠状態にして、ポルノ写真を手に入れる算段だったようだ。なぁ…キリアン」

  「キリアン……貴様」

  二人が怒りの表情で睨んでくると、キリアンが弁解をした。

  「ちょ、ちょっと待ってください!!これは藤堂司令の指示です。すべて僕のせいでは在りませんよ!」

  キリアンが必死に弁解をすると、今まで沈黙していたシリウス一同が反論した。

  「けどよ!藤堂司令の指示は『手段を選ばずにしろ』ってことだったよな!」

  「そうだぞ!何も催眠に陥れていいとは言っていないよ!」

  「キリアン、催眠アプリを制作したのもあなたよね!」

  デイビット、有紀、ルイが叫ぶと、状況の悪化にキリアンは顔面蒼白になった。

  「そ、そうでしかっけ?あっ!!そういえばこの後用事がありました。ではこれで失礼…」

  まずいと感じ諫早に逃走しようとしたところ、黙っていたバルジが間髪入れずに声を掛けた。

  「待てキリアン!!!」

  「え?!な、何でしょうか???」

  「お前……話からして俺のポルノ写真を撮ったのだよな。どんな写真が撮れたか見せてもらおうか?」

  「え……それはあまり見ない方がいいかと?」

  「おいおい、本人が要望しているのだぞ?無許可で撮った以上、見せる責任はあると思うが?それとも…強硬手段に出た方がいい…か?」

  そう告げながら、恨みを凝縮した顔のバルジがゆっくりと拳で指鳴らしを始めると、キリアンは一気に身の危険を感じた。

  「わ、分かりました!み、見せます!見せますから、許してください!!!」

  「許すつもりは微塵もないが、痛い思いをしたくなければ、さっさと渡せ」

  鬼か悪魔のように憎むバルジに怯えながらしぶしぶカメラを渡した。

  カメラを受け取ると、離れていたローレンスが近寄り二人で写真データを確認した。

  初めは酷薄な顔で眺めていたが、鑑賞していると徐々に二人は顔を赤くしていった。

  全て見終わると、恥ずかしさのあまりバルジは手で顔を覆って下を向いた。

  「これが……俺か。醜態にも程があるぞ…」

  「予想以上に危険な写真だ。これでは完全に淫乱隊長だな」

  「全くだ。流石に酷すぎる」

  「未然に拡散を防げて良かったな」

  「あぁ……感謝するぞ。お陰で再起不能にならずに済んだ」

  「そうだな」

  脱力しながら話をしていたバルジは、ゆっくり手を伸ばして机に置いてあったホルスターからコスモガンを取り出した。

  その行動を不審に感じたキリアンが思わず声を上げた。

  「え?!ちょ、バルジ隊長なにを…」

  キリアンの質問に答えることはなく、表情を失った顔つきでカメラを離れたところに放り投げた。

  そしてコスモガンを構えて容赦なく引き金をひく。

  バキューン! バキン!!

  放たれた閃光は見事に命中してカメラは木っ端微塵となった。

  「あ~~~~なんてことをするんですか!!あれ企画部からの貸与品なのに!」

  「知らん。名誉毀損での代償だ」

  「まぁ当然の報いだな。少しは気が晴れたか?」

  茫然と眺めていたローレンスが尋ねるが、被害者のバルジは満足していなかった。

  「いいや…まだだ。已然、心のダメージが癒されておらん。それに…」

  「それに?」

  「敵の親玉が無傷というのが気に入らん」

  「敵の親玉?……藤堂司令のことか?」

  「あぁ。この屈辱の仮はきっちり返す」

  今にも噛み殺しそうな殺気に周囲の一同が凍った。

  デ(あの顔……マジだ)

  ル(あんな顔…宇宙海賊なんかよりよっぽど恐ろしいわ…)

  有(藤堂司令……どんな仕返しを受けるんだろ…)

  キ(まずい事になったな…これじゃ俺が叱られるじゃん)

  ロ(司令……あなたは完全に虎の尾を踏んづけてしまいましたよ)

  一同が恐怖に恐れを感じていると、バルジは身なりを整えながら自身のデスクに向かった。

  椅子に腰掛けると、無表情のまま引き出しから古い手帳を取り出した。

  直ぐにでも殴り込みに行くと思っていたが、予想外の不可解な行動にローレンスが尋ねた。

  「おい…一体どんな仕返しをするつもりだ?」

  「なに、当事者の気持ちを理解して貰うだけだ」

  「は?」

  意外な返答に気の抜けた声を漏らしている最中でも、バルジは手帳のページをめくっていた。

  「えーと、確か…ここに書いていたような……あっ!これだ」

  バルジが何かを見つけると隊長デスクの固定電話で番号を入力して電話を始めた。

  受話器を持ちながら繋がるのを待っていると、シリウス一同に命令を下した。

  「おい、お前ら俺の電話が終わるまでキリアンを逃がすなよ」

  「え?!それはちょっ…」

  「「「了解」」」

  キリアンの反論を聞くことは無く、シリウス一同は直ぐさま了承し、監視の任についた。

  その様子を眺めながら電話のコールを待っていると、すぐに繋がった。

  「もしもし、シリウス小隊のバルジです。ご無沙汰しております。………いえいえ。こちらこそ突然の連絡で申し訳ありません。………はい。はは、お陰様で元気に過ごしております」

  先程の憎悪な表情とは違い、笑みを溢しながら会話している姿を見て、一同は相手が誰なのか気になった。

  デ『なぁ…あれ誰に電話していると思う?』

  有『バルジ隊長が敬語使っているから、上官かな?』

  ル『でも、バルジ隊長が久しい上官って言ったら藤堂司令くらいしか思いつかないけど…』

  デ『だよな。でも今敵視しているから、それはねぇな』

  有『じゃあ…誰だろう?』

  デ『うーーーん、駄目だ。分かんねぇ』

  シリウス一同がコソコソと会話をしている中、ローレンスも黙って脳裏で相手について考察していた。

  (あいつがあんなに久しく会話をする人物か。それも藤堂司令を陥れる為の救世主となり得る人物……はっ!まさかあいつ?!)

  脳裏にある人物が浮き上がり驚いた顔を見てバルジはニヒルな笑みを溢した。

  そして会話が聞こえないように受話器に手を置いてコソコソ話を始めた。

  「あぁすみません。実は今回お電話した件ですが、ゴニョゴニョ…という訳でして、その為、ゴニョゴニョ…を出来れば頂けないかと。えぇ……出れば早急に。………はは、やはりそうでしたか。………はははっそれは強烈ですね。……それだけあれば充分です。やはりあなたに依頼をして正解でした。えぇ………え?!そうですか………分かりました。その件につきましては私が近日中に手を撃ちます。…………いえいえ、それくらいお安い御用です。…………そんなことはありませんよ。たまにはそういう時間も必要ですので。………はははっ分かりました。そのうちに私も顔を出しに行きますので。………はい。ありがとうございます。では、お忙しい中申し訳ありませんが、例の物は私のアドレスに送ってください。…………助かります。では失礼します」

  ガチャ!

  バルジが長い電話を終えると、背もたれに寄りかかりながら満足そうな笑みを浮かべていた。

  そのあまりに不気味な笑みにローレンスが恐る恐る尋ねた。

  「お前……まさかだとは思うが、相手は〇〇〇さん…ではないだろうな?」

  名前のところで声を出すのをやめて、口パクで話すとバルジは再び悪魔的な笑みを溢した。

  「ご名答。そのまさかだ」

  バルジの戦略を理解すると、その質の悪さに思わず苦笑した。

  「はは、なるほど。それは確かに一撃必殺の策だな」

  「だろ?すぐに手に入る上にこちらが消費する物はないからな」

  「確かにな……やはりお前は優しい男だな」

  「それは嫌みか?」

  「皮肉だ」

  不気味な会話を聞いていた他の一同は身の毛もよだつほどの恐怖が全身に巡った。

  デ(一体…誰なんだよ?!)

  ル(もう…そこまで言うなら教えてよ!気持ち悪いじゃない!)

  有(バルジ隊長のあの笑み…恐ろしいな)

  キ(一体、誰に電話したんだろう???)

  その後、雑談をしながらしばらく待機をしていると、バルジのパソコンにメールが届いた。

  ピコン!

  「ん?お!来たな」

  「そうか。どれどれ…」

  届いたメールにくぎ付けになっていると、内容を見た二人の肩が徐々に震え始めた。

  そして笑いに耐えられなくなった二人は思わず口に手を置いて声を漏らした。

  「くくくっこれはまた…傑作だな」

  「ぷっはははっ確かにな。これなら間違えなく一種報い得るな」

  二人が謎の高笑いをしているのを傍観していた一同はあまりの気持ち悪さに再び恐怖を感じていた。

  有(笑っている…あのバルジ隊長とローレンス隊長が…)

  ル(なんなのよ!あの笑いは!気味が悪いわ)

  デ(あれが本当の悪魔の笑いだな……おっかねぇ)

  キ(あの二人が笑うなんて……一体どんな物が届いたんだろ?)

  一同が変な震えを感じていると、データをチップに移したバルジがキリアンに近寄った。

  「キリアン、お前に重要任務を言い渡す。このチップの中身を見ずにそのまま企画部に渡してくれ」

  「え?!それは…流石に…」

  「お前に拒否権はない。どうしても拒否をするのならば、お前にもそれなりの罰を付けるが?」

  「わ、分かりました!必ず渡します!!!」

  「宜しい。あと、藤堂司令には『写真は手に入りました』とだけ伝えろ。その他の報告は不要だ。いいな」

  「りょ、了解…」

  「よし、では後は頼むぞ。俺は疲れたから、失礼する」

  やることを終えたバルジが脱力したまま去ろうとすると、ローレンスが呼び止めた。

  「バルジ!俺は念の為キリアンが寄り道をしないか見届けておく。それと、あとで訪問してもいいか?」

  「あぁ…いいぞ。ただし旨い酒を持ってこい。今日はとことん愚痴に付き合って貰おう」

  「了解した。期待して待ってろ」

  「分かったよ。では失礼する」

  バルジが待機所を退出すると、シリウス一同は大きくため息をついた。

  「「「はぁ~~~」」」

  「おっかねぇな…バルジ隊長。流石に…呼吸が止まったぜ」

  「本当にね…とりあえず死者が出なくて良かったわ」

  「キリアン…もうこんな事は二度とないようにしてくれよ」

  「僕だってこんな恐ろしい事なんて、もう御免ですよ」

  脱力した一同がそれぞれ愚痴を漏らす中、ローレンスがキリアンに怒鳴った。

  「おい!お前、バルジからの命令を忘れておらんか。今から企画部に行くぞ!」

  「はいはい…(そんなに急がなくても…)」

  「なんか言ったか?」

  「いいえ!では行きましょうか、ローレンス隊長!」

  (まるで地獄耳だ…怖ぇ……)

  恐怖を感じながらキリアンはローレンス同伴で企画部へ向かった。

  残されたシリウス一同がその様子を不思議そうに見送った。

  「ローレンス隊長…徹底しているな…」

  「そりゃそうだろ。恋人を酷ぇ目に遭わせたんだからよ」

  「でも……本当にそれだけかしら?」

  ルイが言い放った言葉に有紀が不思議そうに尋ねた。

  「それ、どういう意味だい?」

  「なんか……分かんないけど…他に理由があるような気がするのよ」

  「ん???」「ん???」

  デイビットと有紀が首を傾げるが結局結論は出なかった。

  [newpage][chapter:密談]

  その頃、企画部に向かう二人が廊下を歩いていると、突然キリアンを通り道にあった部屋に連れ込んだ。

  「おい!ちょっとこい!!」

  「え?えーーー!!」

  部屋に引き込まれると、キリアンを壁に押しつけて、圧し籠もった声で静かに告げた。

  「…出せ」

  「えっ…それはどういう…意味でしょうか???」

  動揺しているキリアンにローレンスは顔を近づけて、低い声で答える。

  「キリアン……俺が何も気付いていないと思うのか?」

  「だ、だから……何をですか?」

  「先程の写真のバックアップチップ……お前は隠し持っているよな」

  「え?!な、な、何を根拠にですか?」

  「お前の性格を根拠にだ。データ好きのお前がバックアップをしないはずがないからな」

  「それは……考えすぎでは…」

  「そうか。ならば…ここでお前を気絶させて身ぐるみを剥いででも探すが…いいか?」

  「え?!そ、それは勘弁してください!!!」

  「だったら……早くバックアップチップを渡せ」

  「わ、分かりました……これです」

  恐怖に負けたキリアンが残念そうにポケットから出すと、黙って受け取った。

  「バックアップチップはこれだけか?」

  「はい…それだけです」

  「嘘……はついておらんだろうな?」

  「流石に……この状況で嘘付けませんよ…」

  「そうか。ならば念の為に忠告だ」

  「な、なんでしょ…」

  怯えながら尋ねると、ローレンスは無言のままキリアンの顔横の壁を拳で殴った。

  ドン!!!

  「ひぃ!!!」

  恐怖に怯えるキリアンに耳元でまるで地獄から聞こえるような声で最終忠告をした。

  「キリアン…もしも…他にバックアップチップを隠し持って、万が一にもバルジのポルノ写真が世の中に出回ったりしたら…」

  「出回ったり……したら?」

  「俺は……お前に地獄より辛い苦痛を与えて……確実に殺す。心に留めておけよ、キリアン」

  「は、は、はい!!承知しました!!!」

  全身を震わせながら即答するとローレンスはキリアンを解放した。

  「くれぐれも肝に銘じておけよ。要件はこれだけだ。それでは俺は失礼する。必ず!!言われた通りにしろよ」

  「わ、分かりました…」

  返事を確認してローレンスはキリアンを残して部屋を後にした。

  残されたキリアンは一気に力が抜けてその場に座り込んだ。

  「ふわぁ~~~めっちゃ怖かった」

  急激に恐ろしくなったキリアンはポケットからあるチップを取り出した。

  それはローレンスが気に掛けていたバックアップチップの予備。

  それを手に持ってへし折って床に捨てた。

  バキン!

  「任務よりも自分の命の方が大切だもんな。もう……こんな任務、二度と引き受けないぞ…」

  涙を浮かべたキリアンはしばらくその場から動くことが出来なかった。

  それから数時間後、バルジの自室にて・・・

  「あ“ぁぁぁくっそ!!!」

  ドン!

  怒りの大声を上げたのは今回の被害者のバルジ。

  ローレンスが持参した純米大吟醸『色おとこ』を飲んで酔い潰れていた。

  隣で同じく酒を飲んでいたローレンスは呆れ果てていた。

  「はぁ…お前な。もう少し静かに飲めんのか?」

  「黙れ……言っただろ…愚痴に付き合って貰うと」

  「確かにそう聞いたが、何もそこまで落ち込まんでも……」

  「あのな…不意打ちとはいえ、あのキリアンに出し抜かれたのだぞ!おまけにあんな羞恥的な写真まで撮影されて………情けない」

  「まぁ……気持ちは痛いほど理解はできるが、普通に考えて仲間内で催眠を使うとは誰も思わん。恐らくターゲットが俺でも同じ結果になっていたと思うぞ?」

  「だとしても、自身に油断があったのは事実だ。もっと警戒することは出来た。本当に…不甲斐ない…これでは有紀隊長に顔向けができん」

  再び下を向いて項垂れている姿を見て、ローレンスの心中は複雑だった。

  (これは相当悔やんでいるな。まぁ…元部下にやられたとすれば当然か。しかし…流石に今、ポケットに例の写真データが入ったチップがあるとは言えんな)

  「はぁ…やれやれ。これは困ったおおいぬだな」

  「誰が犬だ。それよりもお前にしては冷静だったな」

  「何がだ?」

  ローレンスが不思議そうに尋ねると、少し赤くして答えた。

  「いや……あんな写真を撮られたことを知れば…もっと激怒するかと思った」

  「ふん。あれでもかなり怒りがあったのだがな。だが、写真を撮られたことよりも違う部分で問題だな」

  「違う部分?」

  項垂れていた顔を起こして、疑問の表情をしていると、ローレンスが手で頬に触れた。

  そして悪魔的な顔で頬を撫でながら告げた。

  「写真よりも、あんな乱れたお前を俺以外の輩に見られたことの方が問題だ」

  「なっ?!お前、何を言っている!」

  その一言に一気に顔を真っ赤にして訴えるが、ローレンスは攻めの姿勢を崩さない。

  「大問題だ。あんな胸元を晒しおって…もしも男に興味のある奴なら、間違えなく襲われていたぞ」

  「ば、馬鹿!俺の部下がそんな奴な訳がないだろ!」

  「そうか?それにしては大分と堪えていたようにみえたがな」

  「笑えんぞ」

  依然として動揺するバルジに、少し意地の悪いことを思いつく。

  「ふん。だが、相手がキリアンで良かったな」

  「それは…どういう事だ?」

  「もしも、キリアンが俺だったら、より最悪のケースになっていたということだ」

  「は?それはなぜだ?」

  本当に何故と言わんばかりの顔をしている姿に不適な笑みをしながら耳元でそっと囁いた。

  「俺だったら…それこそ再起不能になるような…妖魔的な姿を引き出せたということだ」

  「なっ?!じょ、冗談はやめろ!!」

  「ふん。冗談なものか。それに…」

  「そ…それに?」

  「催眠なんて使わなくても…お前を落とす方法はいくらでもあるぞ」

  「な、何を馬鹿な事を…」

  「今更何を言っている。既に作戦は佳境だぞ」

  「作…戦……?」

  気の抜けた声が漏れると、思わず苦笑した。

  「おいおい、まさか気付いておらんのか?」

  「だから何がだ!」

  「何のために高い酒を持参したと思っている?」

  「高い酒……おい、まさか…酔わせる目的で…」

  バルジが恐る恐る尋ねると、ニヤリと微笑んだ。

  「ご名答だ。やはりお前は酒が入ると注意力が散漫になるな。もう少し自制をした方がいいぞ」

  「なっ?!うわっ?!」

  返答をする前にローレンスはバルジをソファーへと押し倒した。

  予想外の行動に即刻抗議をした。

  「ちょ、ちょっと待てローレンス!」

  「待てだと?よくもまぁ…あんな羞恥を晒しておいてそんなことが言えるな」

  「だ、だからアレは油断が招いた結果で」

  「弁解は結構だ。あんな写真を見て、平常心でいるのは苦痛だったからな。その分は精算してもらうぞ」

  「ちょっと待て…今日はそんなつもりで招いた訳では…んっ!!」

  バルジの弁解を最後まで聞かずに、ローレンスはそのまま唇を奪った。

  (藤堂司令…このツケも…しっかり精算してもらいますよ)

  結局、その晩は無防備状態のままローレンスの猛攻を受ける羽目になった。

  [newpage][chapter:シリウスの逆襲]

  それから一週間後・・・

  藤堂は、勤務前に司令室でコーヒーを啜りながら寛いでいた。

  「ふぅ……本日はオペラ座本線の改修工事とディスティニー駅イベント開催があったな。何も問題がなければいいが。さて……アレを確認するか」

  藤堂はコーヒーを置いて、手を伸ばしたのは、先程届いてから未だに卓上に無惨に放置されている問題の雑誌。雑誌の表紙をみて大きくため息をついた。

  「はぁぁぁ。本当にこんな物でSDF入隊希望者が増えるのだろうか。私には愚策にしか思えんが。はぁ…どれ、読むか」

  藤堂は無表情のままページを一枚捲って内容を確認していく。

  (中身は至って真面目だな。シークレット部分は除いてしっかり紹介されているな。まぁ…それが普通ではあるのだが)

  藤堂がざっくり目を通していくと、あっという間に最後のページまで来た。

  そこには存在感たっぷりの袋とじが付属されていた。

  「これが……例の袋とじ…か」

  藤堂が袋とじを開けようとした時に一気に罪悪感が心を覆った。

  (この袋とじにはバルジの……。すまんバルジ…。君を犠牲にしてしまったことは全て私の責任だ。だがその犠牲は決して無駄にしない…)

  変な覚悟を示すと、一気に袋とじを開けた。

  そして、恐る恐る見ると藤堂は一気に目を開いて叫んだ。

  「な、な、なんだこれはーーーーーーー!!!!!!」

  その叫びの声は司令部全体に響きわたる程の物だった。

  その頃シリウス待機所では、早朝のミーティングルームが行われようとしていた。

  「おはようございます!」

  爽やかな笑顔で入室してきた有紀にデイビット、ルイ、ユキが反応した。

  「おはよう、有紀くん」

  「よっ!おはよう学」

  「有紀さん、おはようございます」

  一同がニコニコしているところにバルジがそっと近づいてきて告げた。

  「有紀、準備をして来て早々申し訳ないが、今日のお前は休暇だ」

  「へ?」

  「「「えっ?!」」」

  思いがけない一言に有紀を含めたシリウス一同が硬直した。

  しばらくの沈黙の後、硬直していた有紀が顔を振って確認した。

  「な、なんで俺が休暇なんですか?!」

  「たまには良いだろ。今日から3日間、連続休暇を申請しておいた」

  「3日間?!それまたなんでですか?!」

  「お前にはタビトに帰省してもらう。キリアンと一緒にな」

  「へ?!な、なんでキリアンとなんですか?!」

  已然、真相が見えない有紀にバルジが白状した。

  「実はな。一週間前の写真事件を覚えているよな」

  「えぇ…まぁ」

  「その時に電話した相手はタビトのカンナさんだ」

  「母さん?!それまたなんで…」

  「カンナさんに昔のアルバムを探して貰ってな。藤堂司令と同期だった有紀隊長なら、極秘写真の一枚や二枚所持していると思ってな」

  「まさか……その写真で報復を…」

  「そのまさかだ。案の定上手くいったからな。その報酬として、お前とキリアンを3日間銀河亭の臨時スタッフとして送る約束をした」

  「え?!そ、そんなこと勝手に決めないでくださいよ!」

  「有紀、お前…全然里帰りをしておらんだろ。カンナさんが寂しがっていたぞ」

  「えっ……本当ですか?」

  「あぁ。丁度良い機会だ。たまには親孝行をしてこい」

  バルジが優しい笑みを溢して告げると、有紀も少し嬉しさを感じた。

  「分かりました。では3日間休暇を頂きます」

  「素直で宜しい。それとこれは9:30発の特急列車345号タビト行きの切符だ。キリアンには昨日、12番線の9:00集合と伝えたからな」

  「手配までありがとうございます。では行ってきます」

  「気をつけてな。あぁそれとこれは俺からの餞別だ。移動中にでも読んでおけ」

  「え?」

  バルジからある紙袋を受け取ると不思議そうに尋ねた。

  「あの…これは?」

  「それは列車に乗ってからのお楽しみだ。それより急がないと間に合わんぞ」

  「あ!や、ヤバい!では失礼します!!」

  「じゃあな、学」「気をつけてね、有紀くん」「有紀さん、お気を付けて」

  有紀が慌てて部屋を退出した直後、突然隊長デスクの固定電話が鳴り響いた。

  ピロロロ…

  有紀を見送ったバルジが電話を見ると少し笑みを溢した。

  「やれやれ……どうやら早速のようだな」

  「「「え?」」」

  残されたシリウス一同が不思議そうに見つめる中、バルジが電話に出ると…

  「はい。こちらシリウス小…」

  『バルジ!!!!一体これはどういう事だ!!!!』

  相手は藤堂だった。あまりの怒号に思わず子機を耳から離した。

  (これはかなりご立腹だな。まぁ…それが狙いなのだがな)

  「おはようございます、藤堂司令。いきなり怒鳴られてびっくりしましたよ。まずは要件をお伝え願いますか?」

  『白々しい事だ!!この雑誌に私の過去の写真を載せたのは貴様だろ!!!』

  「あ~~雑誌の件ですか。それなら私も先程購入をして拝見しましたよ」

  バルジがデスクに置いてあった紙袋から雑誌を取り出すと、不思議そうにしているデイビットに手を振って呼んだ。

  近くまで来たデイビットに無言で渡すと、アイコンタクトで『見て見ろ』と合図を送った。

  デイビットはルイとユキの元に戻り雑誌の袋とじを確認した。

  袋とじを開くと、そこには『秘話!伝説の隊長たちの裏の素顔』とタイトルがついていた。

  そこにはかつて隊長現役時代の藤堂と有紀隊長が仲睦まじく酒を飲み交わしている姿や居眠りをしている姿、野良猫と戯れている姿が載せられている。

  「うわ……これはまたとんでもないスクープだぜ」

  「ホント…これは特ダネね」

  「有紀隊長と藤堂司令は同期で仲が宜しかったですが、まさかここまでとは…」

  デイビット、ルイ、ユキが呑気にぼやいている最中でも電話越しで怒号が続いていた。

  『貴様!何故私に確認をしなかったのだ!!』

  「それは知りませんよ。私はただ企画部に代案を提案しただけなので」

  『代案だと!』

  「えぇ。こちらはあなたの指示のせいで、催眠に掛けられて、無理矢理恥ずかしい写真を撮られてしまいました。お陰様でそれなりに精神的ダメージを負いましたので、藤堂司令にもそれを味わって貰いたく思いました」

  『お前……キリアンを差し向けた事への報復のつもりか!!!』

  「まぁ…そうですね。いつも高見で見物をされている藤堂司令には理解は難しいと思いますが、たまにはやられたら倍で返されるということを肝に銘じておいた方がいいですよ」

  『バルジ……こんな事をしてタダで済むと思っているのか!』

  「割とタダで済むと思っていますよ」

  『なに?どういう事だ!』

  「どうって、では逆にどうされるつもりですか?まさか査問委員会に『自身の命令によって催眠に掛けた部下から報復を受けたと報告されるおつもりですか?』

  『そ、それは…』

  「これは全SDF隊員の代表としての忠告ですが、そんな上官の不祥事が管理局内で広まれば、それこそ隊員の除隊に拍車がかかりますよ」

  『ぐっ…嫌なことを言うな』

  「それはどうも。ともあれ、これから勤務時間を迎えますので、失礼します。あと、怒りにまかせて闇雲に司令は出さないでください。これも銀河鉄道の為…なので」

  『バルジ………貴様という』

  ブツン

  バルジは最後まで聞かずに受話器を切った。

  どこか満足そうな笑みを溢して、シリウス一同に告げた。

  「さて、これで事件は一件落着だ。よし!これより本日のミーティングを行うぞ」

  「「りょ、了解…」」「了解」

  依然として後方で固定電話が鳴り響く中、不滅のシリウスは陽気にいつもの日常を過ごした。

  【完】

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