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混沌の雑誌 前編

  [chapter:企画部のシナリオ]

  銀河鉄道管理局査問委員会。

  薄暗い会議室の中央に幹部に呼び出された藤堂が立たされていた。

  「藤堂くん。ここ最近のSDF隊員の殉職率……君は理解が出来ているのかね?」

  唐突に聞かれた事に、藤堂は真剣な趣で返答した。

  「その件につきましては、重々理解をしております」

  「では…その責任が君にあることもかね」

  「お言葉ですが、私は最善の司令を出すよう日々心掛けております。殉職したSDF隊員は気の毒ではありますが、銀河鉄道を守る為には致し方がないかと」

  「ふん。そうは言ってもな。現実、SDF隊員の人員は確実に減少している。これでは宇宙に張り巡らされた銀河鉄道を守り切ることはできんぞ」

  「それは……確かにその通りでありますが。しかしそれは私にはどうにも…」

  藤堂が言葉を詰まらせていると、幹部の一人が冷徹な声で追及する

  「藤堂くん。君は呼び出された理由を理解しているのかね?」

  「ん?それにつきましては何も連絡を受けておりませんので分かりかねます。この際、教えていただいてもよろしいでしょうか?」

  藤堂が質問すると、見かねた幹部からちらほらと不適な笑い声が漏れる。

  そして幹部の一人が説明を始める。

  「忙しい君を呼び出したのは、この度、管理局企画部が提案した極秘プロジェクトを完遂させるためだ」

  「極秘……プロジェクト?」

  「藤堂くん。この極秘プロジェクトには銀河鉄道の…君の命運も掛かっている。精々尽力したまえ」

  幹部の他人事のように聞き取れる言い方に藤堂は嫌気が指していた。

  (相変わらず、身勝手な連中だな。しかし命運まで掛けられては従うしかないか)

  藤堂は気乗りがしないまま一先ず幹部の指示に従う覚悟を決めた。

  「それで…その極秘プロジェクトとは一体どのような物なのでしょうか?」

  「君にはある男と戦ってもらい、あるものを手に入れてきて貰うぞ」

  「ある男?それは…一体誰と…」

  「全ては…銀河鉄道管理局企画部のシナリオ通りだよ。藤堂くん」

  「は?」

  上層部の連中の不気味な笑い声が会議室中に響きわたると、藤堂の嫌な予感が背筋に冷たく流れた。

  その頃、シリウス小隊待機所では…

  「ふぁ?!」

  突然、バルジの全身に強烈な身震いが走った。

  その驚いている姿をみたデイビットとルイが思わず声を掛けた。

  「ど、どうしたんっすか?」

  「何か…ありましたか?」

  「いや……すまん。なんだかもの凄く嫌な予感がしてな…」

  「ふぇ~隊長でも身震いすることってあるんっすね」

  「隊長が震えるなんて…初めて見ました」

  「ホントね…」

  デイビット、有紀、ルイが驚いていると、少し恥ずかしそうに頬が少し赤くなる。

  「俺だって人間だ。身震いくらいするさ」

  「へぇ~でもその身震いの正体ってなんだろうな?」

  「そうね…考えられるのは、また変な任務かしら」

  「それか、ローレンス隊長ってか?」

  「それもあり得るわね」

  デイビットとルイが談笑している中、有紀が心配そうに問いかけた。

  「もしかして…また風邪とかではありませんか?」

  「いや…そんな感じではなかったから大丈夫だ」

  「そうですか。それならいいですけど」

  有紀が安堵の息を漏らすが、バルジの中では不安が立ちこめていた。

  (一体なんだ…今までこんな危機感を察知した記憶はないぞ。まさか本当にとんでもない任務がくるのではないだろうな)

  不安を抱えながらコーヒーを啜っていると、待機所のドアがノックされた。

  コンコン…

  「ん?こんな時間に誰かしら?」

  「またスピカかケフェウスじゃねぇか?」

  「もしかしたらキリアンかもしれないよ」

  ルイ、デイビット、有紀が不思議そうに振り向く最中、同じく茫然としているバルジが返答した。

  「どちら様でしょうか?」

  「…………」

  バルジの声かけに返答がない事に、一同が首を傾げた。

  「返事……ねぇな」

  「聞こえなかったのかしら?」

  「そんな事は無いと思うけどな…」

  デイビット、ルイ、有紀がぼやく中、バルジの内心が徐々に薄暗くなっていく。

  (何だ……返答がないな。なんだか嫌な感じがする)

  理由が分からない不信感を抱いたバルジは隣にいたユキに命令した。

  「ユキ。すまんが対応を頼む」

  「分かりました」

  ユキが徐に扉を開けると、そこにはなんとも言えない不機嫌な顔をした藤堂が立っていた。

  「「「「と、藤堂司令?!」」」」

  いきなりの上官の登場に一同が立ち上がり背筋を伸ばして敬礼をした。

  そして驚いた表情でバルジが声を掛けた。

  「司令とは気付かず失礼致しました」

  「………別にいい。気にするな。入室してもいいかな?」

  「は…はい。どうぞ」

  「失礼する…」

  依然として元気がない姿にシリウス一同は不安な表情を浮かべる。

  (まさか…藤堂司令直々に来るなんて…)

  (しかも…なんかすげぇ不機嫌じゃねぇか)

  (一体何があったのかしら…)

  有紀、デイビット、ルイが内心ぼやいている中、同じく疑問に感じているバルジが応接対応を行った。

  「それで…今回はどのような要件でしょうか?内密な話であれば隊長室でお伺いしますが…」

  「いや…まぁ…内密ではあるが、そこのソファーで話をしてもよいか?」

  「え?あ…はい」

  あまりの無気力状態に思わず引いてしまったバルジは、休憩スペースのソファーに腰掛けた。

  二人が腰掛けると、ユキがコーヒーを差し出した。

  「どうぞ」

  「すまんな」

  藤堂は制帽を外し、コーヒーを啜ると、大きくため息をついた。

  その全身で脱力している雰囲気に、バルジの中では不審に感じていた。

  (なんだ…この落ち込みようは。今までこんな藤堂司令を俺は見たことがないぞ)

  「あの……藤堂司令、一体何があったのですか?」

  「うん?あ……そうだな。実は先程、私に査問委員会が設けられてな」

  「査問委員会……ですか」

  「あぁ…そこで近年問題になっているSDF隊員の減少を追及された。殉職が増えたのは私のせいだとな」

  「なっ!?」

  藤堂からの話を聞いて、バルジの中に徐々に怒りが込み上げた。

  (またあいつらか。相変わらず現場を知らん奴らが勝手な事ばかり言いおって。最善を尽くしている司令によくもまぁそんな事を言えるな)

  「なるほど……それで落ち込んでいらっしゃると。しかし司令はいつも最善を尽くして頂いています。気にしない方がいいかと」

  「そう言ってくれると、救われるよ」

  「いいえ。でも、査問委員会が開かれたという事は何か処罰が発生したのですか?」

  「あ?あぁ……ある意味で処罰かもしれん事ならある…」

  「それは……一体どのような?」

  シリウス一同が息を呑むと、藤堂がシリアスな目つきでバルジに告げる。

  「なぁ……バルジ。お前と私の付き合いは長いよな」

  「え?まぁ…入隊してからお世話にはなっておりますが」

  「ならば……内容を聞かないであることを了承してくれんか?」

  「は?」

  (内容を聞かないでって…なんだか嫌な予感がする)

  「流石にそれはちょっと…せめてご説明頂ければ…」

  「やはり駄目か。はぁ……なら、説明をしよう」

  再びコーヒーを啜ってから、脱力した声で説明を始めた。

  「査問委員会で出された処罰は、SDF隊員の増員対策の助力命令だ」

  「助力命令……なんですか。そのわけの分からない命令は?」

  「最後まで話を聞け。その増員対策は管理局企画部が提案した案件だ。SDF隊員の募集で駅にポスターを張っていることは知っているな」

  「えぇ…まぁ、あまり効果はなさそうですが」

  「その通りだ。案の定、毎年応募件数が減少している。それを打開する為に、この度管理局監修でSDF特集雑誌を発行することになった」

  「特集…雑誌?」

  「タイトルは『SDFの強さの秘密大暴露!!現役SDF小隊長特集』だ」

  「現役SDF小隊長特集……ってまさか?!」

  「そうだ。君も含めた、全小隊長が対象だ」

  「なっ?!そんな事を急に言われましても…」

  「何をいう。小隊隊長職は今やSDFを夢に見る者たちからしたら憧れの的だ。特集になるのは当然だろ」

  「しかし……」

  バルジが未だに困惑している中、シリウス一同は楽しそうに会話を始めた。

  「うわ~良いじゃないですか!ようは写真集って事でしょ?ある意味憧れだわ」

  「確かに別に悪いことじゃねぇな」

  「そうだよな。それでSDF隊員が増えてくれれば俺たちも助かるしな」

  脳天気に話をするルイ、デイビット、有紀に対してバルジは何処か腑に落ちずにいた。

  (全く…人ごとだと思って呑気な連中だ。しかし仮にこの話が本当だとして何故ここまでする必要があるのだ?もしかして…)

  ある可能性が過ぎったバルジは、疑惑の目で藤堂を問い質した。

  「あの…司令。ひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」

  「なんだ?」

  「その話……本当にそれで全てですか?」

  「っ!!!」

  バルジの声を聞いて、藤堂の全身がビクッとした。

  その質問に対して、デイビットが不思議そうに尋ねた。

  「隊長、それってどういう意味っすか?」

  「どうもおかしい。本当に雑誌の件だけならば、別に司令自らここに訪れる必要もないだろ。もし俺が司令の立場なら、キリアンにでも報告を指示するところだ」

  「「「確かに」」」

  「司令。なにか…まだ伝えていない事、ありませんか?」

  今度はバルジが真顔で追及すると、藤堂は大きくため息をついた。

  「はぁぁぁぁ。やはりお前は鋭いな…」

  「やはり何かあるのですね。この際、全て教えていただけますか?」

  バルジからの追及についに観念して説明を始めた。

  「はぁ……やむを得ん。実は今回の雑誌だが、少しでも興味を持って貰えるように細工をする事になった」

  「細工?」

  「要は……袋とじを付けることになった」

  「袋とじ……それで?」

  「問題は…その袋とじの内容がシリウス小隊隊長とケフェウス小隊隊長のポルノ写真となってな。普段は見せない姿を載せたいとの要望だ」

  「は?……はぁーーーー?!?!?!」

  藤堂からの説明に流石のバルジも大声を上げた。

  説明を聞いていたシリウス一同も同様に驚愕した。

  「隊長たちのポルノ写真って…マジかよ」

  「流石にそれはちょっと…」

  「でも、私が第三者ならちょっと気になるかも」

  「え?!本気かい、ルイ」

  「だってSDFの隊長さんのポルノ写真よ。普通に気になるじゃない」

  「まぁ……それは一理あるけどさ」

  話をしながら有紀がゆっくりバルジを見ると、全身で嫌そうな雰囲気を醸し出していた。

  予想外の話に、痺れを切らしたバルジが藤堂に猛反発をし始めた。

  「じょ、冗談ではありません!お断りします!!」

  「お前、先程の話を聞いておらんかったのか。これには私の命運が掛かっているといっただろ!」

  「そんなことを言われましても、私にも人権はあります。拒否権を主張するのは当然です!」

  「これも銀河鉄道の為だ。減ってしまったSDF隊員が増えると思えば割り切れるだろ!」

  「それは人事課が果たす責務です。現場の私がする事ではありません!」

  「人事課がどうにもできないから、こうして企画部が動いたのだろ!」

  「知りませんよ!大体、何故私とローレンス隊長が対象なのですか!」

  「ナンバー1とナンバー2が載るのは当たり前だろ!」

  「だったら、まずローレンス隊長に申し出たらいいではありませんか!」

  「お前な、あいつがこんなお願いを聞くと思っているのか?無理と判断したからまず君を説得しに来たのだろ!」

  「私を丸め込んでいこうなど愚策にも程があります。何を貢がれても賛同できません!」

  「お前……これで私が辞職することになってもいいというのか?!」

  「それはあなたの運命です。私に押しつけないでください!!!」

  「この…頑固者が!!!」

  「どっちがですか!!!」

  激しい言い争いをシリウス一同は少し離れて傍観をしていた。

  「見たかよ。あの罵声」

  「あんなに言い争っている二人初めて見たな…」

  「でもよ。流石に今回は藤堂司令には分が悪いな」

  「そうね…あの堅物のバルジ隊長がポルノ写真なんて撮らせてくれるはずがないものね…」

  「だな。でも、企画部もセコいことするぜ。あの藤堂司令の弱みを握って仕掛けてくるなんてな」

  「確かにな」

  3人がぼやいていると、不思議そうにユキが尋ねた。

  「あの……有紀さん。ポルノ写真ってなんでしょうか?」

  「あ……ユキは知らない方がいいと思うよ」

  「だな。下手したら思考回路に影響するかもしれねぇしな」

  「ユキ、世の中には知らない方がいいこともあるわ」

  「ん?よく分かりませんが、了解しました。それにしてもお二人とも血圧が上昇しています。このままでは高血圧になってしまいます」

  話の内容よりもバイタルの心配をしているユキに一同は大きくため息をついた。

  シリウス一同が再度二人を見ると、未だに鬼の形相で言い争っていた。

  「バルジ!!今まで世話をしてやった恩を忘れたか!!」

  「こき使われた恨みなら覚えています。司令こそ、私への感謝の気持ちが足りないのではありませんか!」

  「お前!私は上官だぞ!!」

  「私は一人の人間として文句を言っているだけです。この話については肩書き無しです!」

  「好き勝手いいおって。そういうところは渉にそっくりだな!」

  「当然です。私も有紀隊長から教えを受けていますので!」

  「この…」

  二人が言い争っている中、藤堂の携帯が鳴動した。

  ピロロロ…

  「……司令。お電話ですよ。早く出たらいかがですか?」

  「……言われんでも分かっている」

  お互いに睨みながら藤堂が携帯に出ると、オペレーター陣からだった。

  「藤堂だ。あぁ。……そうか…分かった。直ぐに戻る」

  通話を終えると、携帯を閉まって制帽を被った。

  「司令部より呼び出しだ。一先ずこの件は保留だ。また連絡する」

  「保留にしなくて結構です。私の気持ちは変わることは絶対にありませんので」

  間髪入れずに回答するバルジに今にも切れそうな顔で睨み返すと藤堂は黙ったまま待機所を後にした。

  藤堂が退出すると、黙って傍観していたシリウス一同から大きなため息が漏れた。

  「「「「はぁぁぁぁぁ」」」」

  「なんですか…あれは」

  「はぁ…怖かったわ」

  「隊長、藤堂司令にあんな啖呵切って大丈夫なんですか?」

  デイビットが不安そうに尋ねると、恨みのこもった眼差しで答えた。

  「知るか。俺は自身の意志を主張しただけだ」

  「確かにそうっすね。でも…あれで引いてくれますかね」

  「どうだろうな。なんといっても相手はあの藤堂司令だからな。油断はできん」

  「だよな…なんなら、いつものコイン占いでもしてみますか?」

  「……頼む」

  「え?!マジっすか?」

  「こうなれば運も見ておきたいからな」

  「隊長…本気でやり合うつもりっすか?」

  「当たり前だ。売られた喧嘩は買うのが礼儀だ」

  「また訳の分からないことを…ではいきますよ」

  デイビットは少し呆れながらいつものコイントスをした。

  チャリーーーーーポロっ!

  「ありゃ?!」

  いつもは必ず手の甲に納めるデイビットが珍しく床に落とした。

  「あれ~~俺が落とすなんてあの惑星エウメレス以来だな」

  「そういえばそうね」

  「てか…そんな嫌な思い出、思い出させないでくれよ」

  「あ……わりぃ」

  デイビットが謝罪すると、転がったコインを見つけた。

  見ると、そこには1000年女王の微笑みはなかった。

  「ありゃ…どうやら天命は駄目みたいですね」

  デイビットの言葉を聞いてバルジはげっそりと肩を落とした。

  「そうか。はぁ……では第一級武装装備で待機でもするか…」

  「ちょ!ま、マジっすか?!

  「冗談だ」

  「はぁ…もう!笑えませんって!!」

  何処か気が抜けない状態に苛立ちを感じていると、待機所内に警報がなる。

  ブーーー、ブーーー、ブーーー

  『カルーン星系走行中の特急列車345号が脱線事故発生。シリウス小隊に緊急出場要請』

  緊急出場要請の放送を聞いてシリウス一同はげっそりとした。

  「ちぇ!司令が帰宅後に早速かよ」

  「これが藤堂司令の嫌がらせでないといいけどね」

  「だといいな」

  「無駄口を叩くな。シリウス小隊スクランブル!!」

  「「「了解」」」

  シリウス一同は駆け足でビックワンへ向かった。

  ビッグワンに乗り込んだ一同は発進準備に入った。

  バルジ「システムチェック」

  デイビット「システムチェックスタンバイ」

  有紀「全武装システム、異常なし」

  ルイ「通信・レーダー、異常なし」

  デイビット「重力ブレーキ、異常なし」

  ユキ「ミッションデータダウンロード完了」

  デイビット「メインボイラー接続点火」

  オペレーター『ビックワン第二総装備にて出場』『第二装備スタンバイ』

  ルイ「上昇フロート固定確認」

  有紀「スペースイーグルクルー配備完了」

  バルジ「微速進行、出場位置へ」

  デイビット「微速進行」

  ルイ「磁力シールド発生機関、正常値へ」

  デイビット「エネルギー正常、ボイラー内圧力上昇、シリンダーへの閉鎖弁オープン、臨界まであと02」

  オペレーター『28番線発進スタンバイ』『ビッグワン発進を許可します』

  ルイ「発進許可確認」

  デイビット「ボイラー内出力120%」

  バルジ「メイン回路へ接続」

  デイビット「接続」

  有紀「システム、オールグリーン!」

  すべてのチェックを確認したバルジは発進号令を放つ。

  「ビックワン、発進!!!」

  ポォーーーーーーー!

  白い煙を吹き出し、宇宙へとビックワンは飛びたった。

  [newpage][chapter:藤堂の差し金]

  それから6時間後。

  勤務時間ギリギリまで出場していたシリウス小隊はユキは別件で医局に向かい、その他のメンバーはクタクタ状態で待機所へ戻った。

  「ぜぇ~~疲れたぜ…なんで出場して3件も現場梯子しないといけねぇんだよ」

  「これもやっぱり藤堂司令のせいかしら…」

  「でも……乗客を救えたからよかったよ…」

  各自着席したものの疲労LEVELは最高潮だった。

  流石のバルジも立て続けの任務に疲労の表情を浮かべていた。

  (司令…いくら朝の件で恨んでいるからといって、無茶ぶりにも程があります。はぁ…流石に疲れた)

  「皆ご苦労だったな。報告書は明日提出で構わん。では…これで本日業務は終了。各自解…」

  「失礼しま~~~す」

  バルジが解散宣言をしようとした時に、突然キリアンが訪問してきた。

  「「「キリアン???」」」

  「キリアン、お前は何しに来たのだ?」

  「いや~~~バルジ隊長。野暮なこと聞かないでくださいよ」

  「野暮なこと?」

  茫然としながら声を漏らすと、キリアンはびっくりしたようだった。

  「え?!本当にわかんないのですか?もう~じゃあ『藤堂司令の指示で来ました』って言ったら分かりますか?」

  「藤堂司令……おい、まさかだとは思うが…雑誌の件を説得しにきたのではないだろうな?」

  「そのまさかですよ」

  キリアンの台詞を聞いて、一気に頭痛が走った。

  (藤堂司令…あなたは馬鹿ですか。キリアン如きに俺を説得できると?随分と舐められたものだな)

  内心ぼやきながら、なるべく平常心でキリアンに告げた。

  「そうか。それはご苦労だったな。まぁ、立ち話ではなんだ。そこのソファーで話そう。ルイ、すまんがコーヒーを頼む」

  「分かりました」

  キリアンと二人でソファーに腰掛けると、ルイがコーヒーを持ってきた。

  「どうぞ」

  「すまんな」

  渡し終えたルイはデイビットや有紀と同様で少し離れたところで見守った。

  バルジは出されたコーヒーを少し啜って、気持ちを切り替えてキリアンに問いかけた。

  「はぁ……で、お前は俺をどのようにして説得しに来たのだ?」

  まるで敵と交渉をするような目つきで話すと、キリアンは能天気のまま話を始める。

  「そんなおっかない顔をしないでくださいよ。僕だって本当はこんな仕事したくないんですから」

  「そうか…それはご苦労だな。でもな、初めに断言しておくが俺の回答は変わらんぞ」

  「そうですかね。まぁ~とりあえずこれを見てください」

  緊迫する雰囲気の中、キリアンはタブレットを取り出してある棒グラフを見せた。

  「これは?」

  「これは、SDF隊員の殉職並びに退職した人員のグラフです。見てくださいよ。この右肩下がりを」

  (なるほど…まずは状況をしっかり示して説得をする作戦か。情報戦のキリアンらしいな)

  「確かにそうだな。だがな、いくら右肩下がりであろうと、これは俺が気にすることではない。そういう事は人事課にでも言ったらどうだ?」

  「人事課の人が知らないわけないですよ。寧ろこの問題を知らない現場の方々に示す方が有効的だと思いませんか?」

  「ほぅ…それで俺に示してどうする?」

  「現実を知ってもらうだけです。バルジ隊長、今月何回シリウス小隊が出場しているか知っていますか?」

  「なに?」

  「半月で32回ですよ」

  「それがどうした?」

  「通常ならば、精々1日に1回くらいが平均です。でもここ最近になって倍の出場になっています。それも、切り札であるシリウス小隊にですよ」

  「だからなんだ?」

  「要は…しわ寄せがきているって事ですよ。お仕事熱心のバルジ隊長はともかくそれでは他の隊員や乗務員が持ちませんよ」

  「銀河鉄道を守るのが我々の使命だ。例えしわ寄せが来ていようと、手を抜くつもりはない」

  「その心意気はいいですけどね。じゃあ…もし、多発事故は発生したらどうするのですか?」

  「その時は…SDF総出で対応するしかないな」

  「はい!そこですよ!!」

  「なんだと?」

  バルジの話を聞いていたキリアンがまるで「待っていました」と言わんばかりに指を指して告げた。

  「バルジ隊長の説明では、他の小隊に頼るって事ですよね。でも、その他の小隊の人員が不足しているとしたらどうですか?」

  「お前……なにが言いたい?」

  「つ・ま・り!シリウス小隊やケフェウス小隊がいかに迅速に対応をし続けても、カバー仕切れないところは当然出てきます。いくらビックワンでも、長距離を一瞬で移動はできませんから。そんな時に他の小隊に頼ろうとしても人がいない事にはどうにもならないってことです。のんびりしていたら、助けられる命も守れませんよ」

  キリアンの説明を聞いて、内心ではふつふつと怒りが込み上げていた。

  (キリアンのやつ…知ったようなことをペラペラと。そんなことは現場の我々が一番理解をしている。それを解消するのがお前ら幹部共の仕事だろうが!)

  「ふん。そんなことはとうの昔から理解をしている」

  「そうですか」

  「だがな。その問題を解消するのが、お前ら幹部の仕事だろ。ただでさえ、疲労が絶えない現場に押しつけるのはお門違いだと思うがな」

  「バルジ隊長…こんなに説得しているのにご納得いただけませんか?」

  「残念だが、無理だな」

  「それで…銀河鉄道の乗客が危険になってもですか?」

  「安心しろ。管理局もそこまで馬鹿ではない。今すぐどうにかなる事でもないからな。だからその内に新たな打開策を検討してくれ」

  「そうですか……最後に聞きますけど、了承していただけませんか?」

  「無理だ。諦めてくれ」

  「はぁ…そうですか。分かりました」

  意外にもあっさりと諦めた姿を見て、一気に肩の力が抜けた。

  (なんだ…えらく簡単に引いたな。もう少し抵抗があると思ったが)

  「じゃあ…最後に一つお願いを聞いてくれませんか?」

  「……なんだ?」

  バルジが身構えると、キリアンがタブレットを操作し始めた。

  「実は、企画部の方からSDFのPR動画の作成依頼を受けまして、完成したのでご視聴頂けないかと?」

  「PR動画?なんで俺が?」

  「企画部からSDFの要であるバルジ隊長のご意見を参考にしたいとのことなので」

  「はぁ……身勝手にも程がある。だが、それくらいなら構わんぞ」

  「ありがとうございます!ではこれを」

  「あぁ」

  キリアンから差し出されたタブレットを受け取ると、ソファーの背もたれに寄りかかった。

  「では、スタートボタンを押してください」

  「あ?あぁ」

  キリアンの指示通りに中央のスタートを押すと、画面が切り替わった。

  奇妙な音が流れる中、バルジは黙ってじっと画面を見続けていた。

  その様子を見ていたシリウス一同がコソコソ話を始めた。

  デ「なんだよ。この音」

  ル「あまりPR向けではないわね」

  有「でも…すごい真剣に観てるよ」

  デ「まぁ…ご意見を求められてるからな」

  ル「でも、なんか…ちょっと嫌な音ね」

  有「確かにな…ちょっと不気味かも」

  デ「だな。まぁ~キリアンが作ったPRだからな。終わったら隊長に感想を聞こうぜ」

  呑気に話をしていると、ふとバルジを見た有紀があることに気付いた。

  「なぁ…なんか、変じゃないか?」

  「どうした学?」

  「バルジ隊長…視線が合ってないような…」

  「え?」

  デイビットが慌ててみると、青い瞳は酷く淀み、焦点が合っていない。

  しばらく傍観をしていると、その状態のまま持っていたタブレットを床に落とした。

  「「「ば、バルジ隊長?!」」」

  予想外の事態に、シリウス一同はバルジの下に駆け寄った。

  「バルジ隊長!しっかりしてください?!」

  「おいおい、これりゃどういうことだよ?!」

  「キリアン、あなた一体バルジ隊長に何をしたのよ?!」

  一同が驚いている中、キリアンは笑顔でタブレットを拾いながらしれっと答えた。

  「驚かせてすみません。これは催眠アプリです」

  「「「催眠アプリ?!」」」

  「はい、企画部と僕で開発したものです。画面を見ているだけで、催眠状態になるんですよ」

  平然と話をするキリアンに有紀が怒鳴った。

  「催眠状態って…キリアン!そんな事をバルジ隊長にしてどうするつもりなんだよ!」

  「なにって、藤堂司令からの命令を遂行するだけですよ」

  「藤堂司令の…命令?」

  話を聞いて、一気にシリウス一同の表情が悪くなった。

  嫌な予感がしたルイが顔面蒼白のまま恐る恐る尋ねた。

  「キリアン…その命令って、もしかして…」

  「はい。バルジ隊長のポルノ写真を撮影することです」

  質問をする前にキリアンが即答すると、間髪入れずにデイビットが怒鳴った。

  「ば、馬鹿かてめぇ!いくらなんでも催眠に掛けて無理矢理撮影するなって許されるわけがねぇだろうが!」

  「デイビットさん。勘違いしないでください。これは…藤堂司令の指示です」

  「な、なんだと?!」

  「藤堂司令から、何が何でも写真を手に入れてこい…と。その際に手段は選ばなくて構わんと言われました」

  満面の笑みを答える姿にシリウス一同は動揺していた。

  「藤堂司令の命令だって…」

  「しかも、手段を選ばなくっていいって…博打すぎるぜ」

  「キリアン…これがバルジ隊長に知れたら大変よ!」

  有紀、デイビット、ルイが心配する中、キリアンが手を振って答えた。

  「大丈夫ですよ!この催眠に掛かっている間の記憶は残りませんし、正式な解除をしないかぎり絶対に自我が戻ることはありませんから」

  「キリアン……それはいくらなんでも…」

  「有紀さん。これは上官命令です。なので、皆さんは邪魔をしないでくださいね。妨害したら、即刻藤堂司令に報告しますので」

  「キリアン…」

  「ちっ!なんて性格してやがる」

  「卑怯よ、キリアン!」

  シリウス一同が為す術がなく傍観をしていると、キリアンがバルジに声を掛けた。

  「では、早速任務をしますか。バルジ隊長、僕の声が聞こえますか?」

  「…はい」

  「僕はキリアンです。催眠状態の今は僕があなたの上官です。なので今から出す命令には、必ず従ってください」

  「了解…」

  キリアンの問いかけに、未だに視点が合わないバルジは脱力した声で了承した。

  その声を聞いて笑みを溢すと、キリアンはポケットからメモを取り出した。

  「え……と。ではまず、ホルスターを外して一度、上半身裸になってください。で、コートだけ羽織って、首には…スカーフを解いた状態で付けてください」

  「了解…」

  催眠にかかったバルジは言われるがまま指示通りに脱衣を始めた。

  その無抵抗状態を見たシリウス一同は目を大きく開けて驚愕していた。

  「うそ……だろ。本当に従ってるぜ…」

  「これって…ある意味犯罪なような気がするけど…」

  「少なくてもSDFがすることじゃないよ」

  デイビット、ルイ、有紀が唖然としていると、指示通りに姿になったバルジをキリアンはまじまじと眺めた。

  「お!良い感じですよ。じゃあそこのソファーに横になってください」

  「了解…」

  言われた通りにソファーに横になると、キリアンは持ってきた鞄から小道具を出した。

  「えっと、左手は額に乗せて貰って…右手にはトマトジュースを持って…よし!あとは仕上げのこれだな」

  キリアンが鞄から出したものに有紀が質問した。

  「キリアン…それはなんだい?」

  「え?なにって霧吹きですよ」

  「霧吹き?そんなもの何に使うんだよ?」

  「も~~有紀さんは野暮天ですね。まぁ黙って見ていてください」

  「ん?」

  有紀が疑問の表情を浮かべていると、ソファーに寝そべって待機をしているバルジの胸元に霧吹きを吹きかけ始めた。

  その不可解な作業をみたルイが思わず声を上げた。

  「ちょ!ちょっとキリアン何しているのよ?!」

  「え?何って汗の演出ですよ。こうすると色気が出て良い感じでしょ?」

  「色気って…あなたバルジ隊長の印象をなんだと思っているのよ?!」

  顔を真っ赤にして抗議すると、キリアンは呆れながら首を振った。

  「ルイさん…企画部がなんでバルジ隊長をターゲットにしたと思っているんですか?堅物な人ほど、こういうギャップに世の中は興奮するんじゃないですか?」

  キリアンの身勝手な説明に流石のデイビットも怒号を飛ばす。

  「興奮って…おめぇはそんな淫乱隊長を宇宙中に広めるつもりかよ!!!」

  「淫乱隊長って人聴きの悪い。僕はバルジ隊長の意外な一面を出しているだけです」

  「そりゃ偽造された一面だろうが!!」

  「なんとでも言ってください。これは上層部の指示なので」

  「くっ…このやろ…」

  デイビットが拳を握って怒りを露わにしてもキリアンは作業を止めなかった。

  「よし!あとは表情かな。バルジ隊長、少し色っぽい顔をしてくれますか?」

  指示を出すとバルジはぞくっとするほどの艶かしい顔を一同の前で披露した。

  今にも引き寄せられそうなフェロモンに当てられると全員が一斉に顔を真っ赤にした。

  「なんか……すごい色気ですね」

  カメラを手に持ったまま硬直するキリアン。

  「おいおい……この俺でも少しドキッとしたぜぇ…」

  胸に手を当てて顔を引き摺るデイビット。

  「もう……キリアンどうしてくれるのよ。これじゃあしばらく隊長を直視できないじゃない…」

  手で顔を覆って目を逸らすルイ。

  「こんなの……俺まで隊長を好きになりそうだよ」

  口に手を当てて茫然とする有紀。

  一同が思わず立ち尽くしていると、キリアンは顔を振って気持ちを切り替えた。

  「さ…さて!とりあえず写真を撮りますね」

  「ま、マジで撮るのかよ!」

  「やめておいた方がいいわよ!」

  「キリアン!こんな写真を撮ったらタダじゃすまないって!」

  「大丈夫です。細工は稜々ですから」

  一同の忠告も虚しく、キリアンはカメラを構えて撮影を始めた。

  パシャ!パシャ!パシャ!

  「よ~し!とりあえず撮れた」

  「やっちまった」「「やっちゃった」」

  シリウス一同がげっそり肩を落としていると、キリアンからとんでもない一言が漏れた。

  「さてと、あと4パターンだな」

  「「「え!?」」」

  一枚では満足をせずに再度撮影をしようとしている姿にデイビットが声をあげた。

  「ま、まさか…まだ撮るのかよ?!」

  「え?当たり前でしょ?袋とじで一枚だけじゃ詐欺じゃないですか」

  「で、でもよ!俺は一枚でも充分だと思うぜ??」

  「デイビットさんが満足しても読者は満足しませんよ」

  「おいおい……勘弁してくれよ」

  その後もバルジはキリアンからの命令に忠実に従い続け、数々のポーズが撮影をされた。

  撮影が終わると、キリアンは満足そうに写真データを確認していた。

  「よしよし、綺麗に撮れたな。これなら企画部の人も満足してくれるかな」

  満足そうにしているキリアンの後ろでシリウス一同は床に座り込んで睨んでいた。

  「やっと……終わったみてぇだな…」

  「もう……地獄だったわ」

  「キリアン……流石にやりすぎだよ…」

  シリウス一同が疲労の色を浮かべていると、キリアンが再び声を漏らした。

  「うーーん。でももう1パターンくらい撮った方がいいかな」

  「「「え?!」」」

  「ちょ!もう勘弁してくれよ!!!」

  「もう限界よ!!!」

  「キリアン!もう充分だろ!隊長の催眠を解いてくれよ!!!」

  一同からの再びの猛反発についにキリアンが呆れながら反論した。

  「もう~さっきからなんなんですか!そんなに辛いなら退出すればいいじゃないですか!」

  「ば、馬鹿!お前に隊長を預けられるわけないだろ!」

  「やだな~有紀さん。僕はゲイではありませんし、隊長を襲ったりしませんので大丈夫ですよ」

  「いや…俺が心配しているのはそこじゃなくて…」

  有紀の台詞に被せるようにデイビットが怒鳴った。

  「そうだぜ!それにこんなところ他の誰かに見られたら大騒ぎになるだろうが!」

  「そんな心配なら外で扉の警護でもしてくださいよ」

  「じょ、冗談じゃねぇ!なんでお前の共犯にならねぇといけねぇんだよ!!」

  「そうですか?僕はその方が賢明だと思いますがね」

  「キリアン…てめぇ…」

  再びデイビットが怒りに満ちる中でもキリアンは作業を再開した。

  「さて、ではバルジ隊長、もう少し付き合ってくださいね。じゃあ…また上半身裸で肩にコートを羽織って…」

  淡々と作業するキリアンに一同が唖然としていると、突然後方の扉が開いた。

  【次回予告】VOICE藤堂

  バルジ…君を犠牲にしてしまったのは

  私の責任だ。無駄にはしない…

  次回、混沌の雑誌 後編

  私たちは次の駅で誰かから報復を受ける。

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