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涼感と悪寒 前編

  残暑。

  待機をしているシリウス一同は管理局全域の冷房故障での暑さに苦しんでいた。

  「あちぃ……くっそ……なんで天下の管理局が冷房故障なんてするんだよ!!!」

  「本当にね……おまけにこの隊服暑苦しくて熱中症になりそうだわ…」

  項垂れながらデイビットとルイが文句をぼやく中、汗を拭っている有紀は隊長デスクの方へ視線を向けていた。

  「暑いな……バルジ隊長、大丈夫ですか?」

  「はぁ……あぁ…なんとかな」

  バルジも首元のスカーフを少し緩め、書類を扇いで風を受けていると様子を見ていたデイビットが告げ口をする。

  「でも…こんな時くらい…その暑苦しいスカーフ…取ったらどうですか?」

  「そういう訳にはいかん。これも規則だからな」

  「そんなこと言っていたら…そのうち全身干からびてゾンビみたいになっちまいますよ」

  「そう簡単にゾンビになってたまるか。他人の心配をするよりも自身の心配をした方がいいと思うぞ、デイビット」

  「ちぇっ…相変わらずの石頭っすね」

  「放っていてくれ」

  大量の汗を流しながらつまらない言い争いしていると、呆れたルイが尋ねた。

  「あの……隊長」

  「なんだ…ルイ」

  「こんな時こそ……何か暑さを凌ぐ名案はありませんか?」

  「……何故俺に聞く?」

  「だって…隊長はアバディーン人ですよね……知能が高いなら何か思い付くかもっと思いまして」

  「あ……そういえばそうだった」

  「確かに…隊長~こんな時こそ…高い知識力を生かす時です…なんとかしてくださいよ」

  「お前ら……俺を便利屋だと思っておらんか」

  「そんなつもりはありませんよ」

  「同じく…」

  「俺たちも隊長を信じているんすよ。シリウスの命の為にも…お願いしますって」

  「全く……」

  身勝手なシリウス一同に文句を言ったものの、現実は確実に熱中症の危険が迫っていた為、腕を組んで考え込んだ。

  (やれやれ…こいつらも無茶ぶりにも困ったもんだな。だが…確かにこのままではまずい。何か打開策を検討しなければ全員が熱中症で詰みだ。一番手っ取り早いのはビッグワンで涼むことだが、こんな事で起動させるわけにはいかんし…なにか他に…簡単に涼む方法は…)

  暑さに耐えながら、思考を巡らすと先日の暁との会話が過ぎった。

  (…………あ。少々愚策だが、先日暁さんが話をしていたアレを試してみるか…)

  ある考えが纏まると、バルジはそっと隊長デスクの受話器を手に取って電話を始めた。

  プルルルル……ガチャ!

  『はい。ユキです』

  「バルジだ。今、医局の方は人では足りているか?」

  『はい。問題ありません』

  「そうか。すまんが、今からビッグワンの車庫に行くのだが、ある手伝いを頼みたい」

  『手伝い…ですか。それはどのような?』

  「内容は車庫で話す。とりあえず来てくれるか?」

  『……分かりました。今から車庫へ向かいます』

  「頼むぞ、それじゃ」

  ガチャ!

  ユキとの打ち合わせが終わり受話器を切ると、汗だくのまま立ち上がった。

  「皆、すまんが少し席を外す。何かあったら連絡してくれ」

  「それは構いませんが…何処に行かれるのですか?」

  「ビッグワンの車庫だ」

  「ビッグワンの車庫?でも、今あそこは灼熱地獄になっていますよ」

  「なに、暁さんからある物を受け取ってくるだけだ。長居はしない」

  「ある物…ですか?」

  「それって…何ですか?」

  「それは後のお楽しみだ。まぁ、程々に期待して待機していろ」

  「「……了解」」

  若手二人が呆気に取られている中、バルジは待機所を後にした。

  残されたシリウス一同は上官の不審な行動について雑談を始める。

  「隊長…何を取りに行くんだろう」

  「電話ではユキにも手伝いを依頼していたわよね」

  「手伝いがいるなら俺たちを使ったら良いのにな」

  「……確かにそうね」

  若手二人が疑問に感じていると、天井を見上げているデイビットから言葉が漏れる。

  「とか言って…自分だけ涼みに行ったんじゃねぇか…」

  「デイビット…流石にそれはないでしょ」

  「そうだよ。あの隊長がそんな薄情なことするわけないだろ」

  「わかんねぇぞ……なんせ実直の詐欺師だぜ…俺たちを騙すことくらい造作もねぇだろ」

  「いくらなんでもそこまで言わなくてもいいだろ」

  「そうよ。何がそんなに信用できないのよ」

  「んなら聞くがよ。あんな灼熱地獄の車庫で何を回収してくるって言うんだよ」

  「そりゃ…何か涼めるものだろ」

  「もしかしたらミニクーラー的なのがあるのかもしれないでしょ」

  「そんなもんがあるんなら、ユキじゃなくて男手の俺と学を連れていくだろうが」

  「……確かに…」

  「…そう…ね」

  「だろ。やっぱ俺たちを騙して、ユキにアイシングでもしてもらっているんだろうよ…」

  「デイビット…」

  「うーん……」

  思いたくない憶測でシリウス一同の中に不穏な空気が流れたまま、時は流れた。

  待機所でシリウス一同が静かに待機していると、30分前に出ていったバルジがユキと共に戻ってきた。

  「お前ら、待たせてすまんな」

  「………隊長」

  「良かった…帰ってきた」

  「で……車庫から何を持ってきたんですか?」

  汗びっしょりのシリウス一同からの言葉に、バルジは自信ありげに告げる。

  「実は先日の暁さんとの会話を思い出してな。最近、青の地球のレトロ文化ブームで製作したかき氷機を借りてきた」

  「かき氷…機?」

  「てか、また青の地球かよ。どんだけドハマリしてんだ…暁さんは」

  「隊長、かき氷って何ですか?」

  「かき氷とはな、氷を細かく削るか砕いて、シロップ等をかけた氷菓のことだ。別の呼称では『ぶっかきごおり』や夏氷(なつごおり)、氷水(こおりみず)などがあるそうだぞ」

  「…相変わらず…雑学がすげぇな」

  「多分暁さんから聞いたのね」

  「へぇ…そんなものがあるんだな」

  「まぁ、解説はこれくらいにして、早速作ってみるか」

  「作ってみるかって…」

  「…ひょっとして…今、作って食べるんですか?」

  「隊長…今、勤務時間内ですよ。そんなん隊律的にまずくねぇですか?」

  「熱中症対策だ。水分補給がOKなら似たようなものだ。それにこれなら隊服を着たまま体内を冷やすこともできるぞ」

  「これまた…とんだ詭弁だぜ」

  「ホント……でもド正論すぎて言い返せないわ」

  「本当に大丈夫なのかな…」

  シリウス一同が若干不安を感じ始めていると、バルジは嫌みったらしい顔つきで告げる。

  「ほぅ……そうか。せっかく暁さんから借りてきたのだが、どうやら不要のようだな。なら暁さんへ返却ついでに整備士の皆に振る舞ってくるか…」

  「なっ!?ちょ、ちょっと待ってください!」

  「いります!いりますから持っていかないで!」

  「じょ、冗談ですって!真に受けねぇでくださいよ!」

  血相をかいた説得に応じた後、シリウス一同はせっせとかき氷を作った。

  出来上がったかき氷を目の前に置いているシリウス一同が困惑の瞳を向けていた。

  「とりあえず出来たけど…これ美味しいのかしら?」

  「なんせただの氷を削っただけだもんな…」

  若手二人が食べることを躊躇していると、隣にデイビットが声を上げた。

  「しゃなねぇ……こういうのは勢いだ!」

  パク!

  「……うぐっ!!!」

  「で、デイビット?!」

  「だ、大丈夫?」

  目を開いて硬直している姿を見て、有紀とルイが心配の声を上げたが、その様子は直ぐに解消される。

  「うめぇぇぇぇぇぇぇ!!」

  「………へ?」

  「………う、うまい?」

  突然の叫びに呆気に取られている最中、1番手のデイビットが食レポを始める。

  「なんだよこれ!ただの氷がふわふわじゃねぇか!シロップが付いているから味もあるし、何よりすっげぇひんやりしてるから、いくらでも食えるぜ!」

  「そ、そう…なんだ」

  「じゃあ…私たちも食べてみようかしら…」

  デイビットの言葉を聞いて、有紀とルイも恐る恐る食べ始めた。

  「(パクっ……)う、旨い!!!」

  「(パクっ……)なにこれすっごく美味しい!!」

  シリウス一同が黙々と食べ始めた様子を、隊長デスクでバルジはホッコリと安堵していた。

  (ふぅ…どうやら、とりあえず好評のようだな。これで熱中症の危険は回避できそうだ。これはあとで暁さんへお礼を考えておかないといかんな)

  「(パクっ……)……うむ。旨いな」

  バルジもかき氷を食べながら体を涼めていると、突然悲鳴が待機所内で木霊する。

  「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

  「「「「っ?」」」」

  悲鳴を上げているのはデイビット。

  突然の叫びに隣にいた有紀が心配の声かけをする。

  「ど、どうしたんだい?」

  「がぁ………頭が……痛ぇ…」

  「なんだって?!隊長大変です。デイビット…が?」

  体調の急変で咄嗟に隊長デスクへ振り向くと、バルジは未だにのんびりかき氷を食べていた。

  「た、隊長!なに呑気に食べているんですか!」

  「(パクっ…)…有紀、心配はいらん」

  「へ?で、でも頭痛を訴えていますよ!もしかしたら食中毒の類いかもしれないじゃないですか!」

  返答しても未だに血相をかけている姿を見て、呆れながらスプーンを置いた。

  「はぁ……有紀。食中毒なら腹痛だろ。それにその頭痛は寒冷刺激による頭痛だ」

  「寒冷刺激による頭痛?なんですか…それ」

  「はぁ…仕方がないな。解説すると、喉に冷たいものが通過すると、奥の三叉神経が冷たさで刺激されて、伝達信号により脳が『冷たい』ではなく『痛い』と勘違いをする。これが寒冷刺激による頭痛だ。他にも急激に冷やされた喉や口の中を温めるために、血流が増えることで頭の血管が拡張し、一時的な炎症が発生して頭痛が起きるという説もある」

  淡々と説明をするバルジに対して、聞いていた若手二人が唖然と尋ねた。

  「隊長……物知りですね」

  「その説…何で知っているんですか?」

  「暁さんから『頭痛がするから気をつけろよ』と言われたからな。念のために調べておいただけだ」

  「念の為って……相変わらず用意周到ですね」

  「でも…だったらどうして隊長は頭痛にならないのですか?」

  「それは少しずつゆっくり食べているからだ」

  「…それだけですか」

  「それって…何か意味があるんですか?」

  「さっきも言っただろ。要するに喉を通過する時にキンキンに冷えていなければ、三叉神経は刺激を受けん。脳が勘違いをすることもないと言うことだ」

  「な、なるほど…」

  「隊長…頭良いですね」

  「これくらいは造作もない。あと、これは捕捉だが、温かい飲み物や常温のものを一緒に食べたりするといいらしいぞ」

  「へぇ…」

  「へぇ…」

  淡々と告げた使いどころが限られる雑学に若手二人が感心していると有紀、絶賛頭痛の真っ最中のデイビットから怒りの声が届く。

  「痛てて………ってか!それ知ってたんなら、何で先に教えてくれなかったんすか!」

  「それはお前が俺の予想以上に暴食したからだ」

  「だからって…言う機会はいっくらでもありましたよね!」

  「まぁ、確かにそうだな。だが、若手指導に丁度良かったからな。モニターにさせてもらったぞ」

  「やっぱりそうかよ!こういう時に実験にするのは止めてくださいよ!」

  「なに、これも先輩としての務めだ。それが嫌ならばもっと自己管理能力をつけることだな」

  「この……」

  その後もしばらくデイビットの不満が続いたが、気にせずにその後もかき氷を堪能した。

  それぞれが一杯目を完食した頃にはシリウス一同は満足感に満たされていた。

  「はぁ…美味しかった」

  「そうね。身体も冷えたし、生き返ったわ」

  「旨かった。これなら何杯も食べられるぜ」

  「……それはやめておけ」

  「……へ?」

  「……え?」

  「……は?」

  突然の告げ口は隊長デスクで同じく完食しているバルジからの言葉だった。

  おかわりするつもりだった有紀は疑問の声を投げかけた。

  「…隊長、やめておけって…どういう事ですか?」

  「そのままの意味だ。それ以上、冷えた食べ物を胃袋に入れたら確実に腹を下す」

  「え?!そ、そうなんですか???」

  「有紀…お前はアイスを食べ過ぎた経験とかないのか」

  「ラーメンの食いすぎならありますけど……アイスは流石に…」

  「はぁ…流石はラーメン屋の倅だな。ユキ、面倒だから説明を頼む」

  「はい。お腹が冷えての腹痛になる理由はいくつかありますが、主に体温調節と消化機能の低下が主な要因です」

  「体温調節と…消化機能の低下?」

  「はい。体が冷えると、体温を元に戻そうとする働きがあり、その結果、腸が必要以上に動いてしまい、腹痛を引き起こすことがあります。そして冷えによって胃腸の動きが弱くなり、食事を消化できずに未消化のまま腸に送られることがあり、これが下痢の原因となります」

  「へぇ……そうなんだ…」

  「というわけだ。説明感謝するぞ、ユキ」

  「いえ」

  丁寧な説明に一同が納得している最中、デイビットは意地の悪い顔で尋ねる。

  「けどよ、なんで今回は忠告するんすか?(さっきは黙っていただろうが)」

  「寒冷刺激による頭痛は直ぐに自然治癒するが、腹痛や下痢は完治までに時間が掛かる。体調不良になられたら、俺が困る」

  「ちぇっ……そういうところは抜け目がねぇですね」

  「これでも管理職だからな」

  「へいへい……」

  若干納得がいかなかったが、それ以上に文句をいうのを止めて、今度はシロップボトルへ視線が向いた。

  「けどよ…今更だがよ、このシロップすげぇな」

  「…ん?どうしてだい?」

  「何が凄いのよ?」

  「だってよ。氷にシロップ掛けただけなのにすげぇ旨くなるじゃねぇか。ある意味発明だぜ」

  「……確かにそうだな」

  「そうね。シロップを掛けただけでいちご味になったものね」

  「お!おめぇのはいちご味だったのかよ。俺のはメロン味だったぜ」

  「俺は…レモン味だったよ」

  「てことは……全部違う味って事かよ。シンプルなくせに果汁を入れてくれるとは味な真似をしてくれるじゃねぇか」

  シリウス一同がシロップ話に盛り上がっていると、呆れ顔のバルジが話にメスを入れた。

  「言っておくがな……シロップの原料は全部同じだぞ」

  「……へ?」

  「……え?」

  「……は?」

  突然の宣告に一瞬言葉が消えたが、直ぐさまシリウス一同より抗議の声が届く。

  「原料が一緒って…そんなはずはねぇですって!」

  「……全て事実だ」

  「だって…この緑のシロップは完全にメロン味だったぜ?!」

  「俺が掛けた黄色のシロップはレモン味でしたし…」

  「私の赤色のシロップは完全にイチゴでした。これだけ味が違うなら原料が一緒の訳がありません。嘘つかないでください!」

  シリウス一同からの否定的な言葉に対して、バルジは淡々と真実を告げた。

  「はぁ…やれやれ。元の原料はどれも果糖ぶどう糖液糖だ。ボトルのラベルにも記載があるだろ」

  「ふぇ?!あ………本当だ」

  「3本とも…確かに果糖ぶどう糖液糖って書いてある」

  「け、けどよ。だったら何で味が違うんですか?!」

  「それは香料をつけて違うように感じるだけだ」

  「「「嘘!!!」」」

  「またまた…隊長、俺たちを騙そうとしますね」

  「お前達を騙して俺になんの利点がある?」

  「たまに真顔で騙してくるじゃないですか!」

  「はぁ…呆れてものも言えん」

  デイビットの台詞にため息をついていると、ドアがノックされた。

  コンコン!

  「ん?どうぞ」

  扉が開くと、そこにはスピカ小隊が汗びっしょりで立っていた。

  「ジュリア?どうした。そんなに慌てて…」

  「慌ててなんて…いないわよ」

  「隊長…やはり…情報通りです」

  愛の言葉を聞いて、バルジの内心に嫌な予感が走った。

  (情報通り?こいつら…まさか…)

  「まさかだとは思うが…かき氷目当てでここにきたのではあるまいな」

  「その…まさかよ。この灼熱地獄で隠れて涼もうなんて…あたし達の情報力を舐めないで頂戴…」

  (いや…そんな下らないことに必死にならんでも…)

  「別に隠れてはいないだろ」

  「なんでもいいから…はやく私たちにもご馳走して頂戴!」

  あまりに必死のジュリアにバルジは観念した。

  「やれやれ…ユキ、彼女らにも配ってやってくれ」

  「はい」

  「ユキ、俺も手伝うよ」

  「有紀さん、ありがとうございます」

  有紀の協力でかき氷を配り終えると、スピカ一同は堪能していた。

  「冷たい~~~」

  「生き返る!!!」

  「ふわふわで最高~~~!」

  マギー、シェリー、愛の3娘が笑みを溢していた。

  バルジの横で立ちながら食べているジュリアが愚痴を漏らす。

  「本当に美味しいわね。こんないいものを隠しているなんて、どういう神経しているのかしら」

  「だから、隠しておらんと言っているだろ。それにしても一体どこから情報を入手した?」

  「さて、どこかしらね」

  ぶっきらぼうに告げた言葉にバルジは不信感を抱く。

  (まさか…この部屋に盗聴器でも仕掛けているのではあるまいな。念のためにそのうちに調査しておくか…)

  近日中に待機所の調査を決意していると、再びノック音が聞こえる。

  コンコン!コンコン!

  (なんだ…嫌な予感がするな)

  「ど、どうぞ」

  恐る恐る応答して扉が開くとそこには同じく汗びっしょりのケフェウス小隊が立っていた。

  (やはりこいつらか…)

  「やはり…対策を講じていたか、バルジ」

  汗だくだくのローレンスが睨みをきかせていた。

  「お前もか?!一体どこから情報が漏れている?」

  「情報?…何のことだ」

  「かき氷の情報を入手したからきたのではないのか?」

  「お前が…この非常事態に…対策をしないはずがないからな」

  「なんだ、その無茶苦茶な根拠は…」

  呆れ果てていると、鬼の形相でローレンスが告げる。

  「なんでもいい。とにかく…はやく我々にもよこせ!」

  「冗談ではない。こんな狭い空間に3小隊は密集しすぎだ。熱気で逆に暑苦しいぞ」

  「安心しろ…共用ミーティングルームを確保した。それなら文句はないだろ!」

  「お前な…らしくないぞ。こんなグレーなものに手をつけるなんて」

  「そんなことを言っている場合か!!このままでは熱中症で死者が出るぞ!!」

  「はぁ…やむを得ん。シリウス小隊、共用ミーティングルームへ移動するぞ」

  「「「了解」」」

  こうして、3小隊は共用ミーティングルームでかき氷を堪能することになった。

  一通り、食べ終わると一同は談笑を始めた。

  「は~~~~生き返った」

  「まさか…氷に救われるとは…」

  「昔の人って偉大ね…」

  キム・ピエール・コーリーが呟いていると、ローレンスがバルジに苦言する。

  「それにしても、よくもまぁこんなものを思いついたな」

  「なに、暁さんのおかげだ」

  「暁さん?あぁ~あの整備士か?」

  「趣味で製作してな。それを借りてきただけだ」

  「趣味か…全くビッグワンの乗組員は変わり者が多いな」

  「それは嫌みか?」

  「どうだろうな…だが救われた。感謝する」

  「だから暁さんに言ってくれ。それにしてもジュリア、いつになったら冷房は復旧するのだ?」

  「情報によれば、夕方くらいになるそうよ」

  「そうか…よりによってこういう時には出場要請がかからんものだな」

  「そうね…これなら、列車に乗っていた方が快適だわ」

  「全くだ」

  3隊長がため息をついていると、デイビットが話題を持ちかけた。

  「涼むといえば、今度ディスティニー駅近くにテーマパークが出来るらしいな」

  「あっ!それ私知ってる!あの『ディスニーランド』でしょ?」

  「なんだい?そのちょっとヤバそうな名前」

  「なにって、ディスティニーランドを少し削っただけじゃない」

  「いや…なんか寒気がしたからさ」

  「でも、その感じは外れてねぇかもしれねぇぞ、学」

  「なんでだい?」

  「そこの目玉アトラクションが『恐怖鉄道ゾンビ列車』らしいぜ」

  「ゾンビ列車?」

  「なんでも列車に乗ると次々にゾンビが出てくるアトラクションなんだとよ。噂では銀河鉄道管理局企画部が協力しているらしいぜ」

  デイビットの話を聞いていた3隊長は肩を落としていた。

  「管理局企画部か…またよく分からないことをしているな」

  「そうね…でも一応株式会社だから」

  「そうだったな…規模が大きすぎて失念していた」

  「色々と企画するのは構わんが、また変な事に巻き込まれるのは御免だ」

  「同感だな」「そうね」

  バルジとジュリアが肩を落とすと、再びノック音がした。

  コンコン!

  (今度は誰だ?!)

  少し、イラッとするバルジが応答した。

  「…どうぞ」

  「失礼します!あっ良かった~皆さんお揃いですね」

  「「「キリアン?!」」」

  「なんだ?お前まで涼みにきたのか?」

  「えっ?違いますよ。ちゃんと仕事できました」

  「仕事?」

  「はい。管理局からの通達で、コスモガンの緊急点検作業です」

  「コスモガンの?」

  「はい、なんでも不具合が見つかったようで、皆さんのを回収にきました」

  「そうか、なら仕方がないな」

  各々がコスモガンを出すと、キリアンが回収していく。

  「修理できたら返却しますので、一先ずこれで対応してください」

  キリアンが貸出用のコスモガンを一同に配り終わるとバルジが返答した。

  「了解した。ちなみにいつまでだ?」

  「早ければ、明日か明後日にはできると思います」

  「そうか…分かった。それはそうとお前やけに涼しげだな」

  「それはそうですよ。僕が発明したこの首元ひんやり装置がありますから」

  その言葉を聞いて、その場の一同がキリアンを睨んだ。

  「てめぇ…まさか司令部の連中はそれを使っているんじゃねぇだろうな」

  「え?!そうですけど…」

  「私たちがこんなにも暑さに苦しんでいるのに?」

  「僕に言われましても…」

  「キリアン…本当にいい性格しているな」

  「有紀さんまで…」

  デイビット・ルイ・有紀からの台詞にキリアンは『まずい』と感じた。

  「あ…ではこれで…あっ!そういえば、あと30分くらいで冷房修理できるみたいですよ!暑いですけど頑張ってください。失礼しました」

  キリアンはその一言を告げて、退出した。

  「キリアンのやつ…逃げやがった…」

  「本当にいい度胸だわ…」

  一同が不満を漏らす中、冷房が復旧しあっという間に勤務時間外を迎えた。

  解散点呼を終えると、バルジがローレンスに提案した。

  「さて…無駄に大量に汗をかいたし、久しぶりに大浴場にでも行くか?」

  「そうだな、早く洗いたいからな」

  「よし、お前達も来るか?」

  「はい!」

  「行きましょか」

  「お供します」

  「俺も行きます」

  バルジの問いかけに男性隊員は賛同した。

  「じゃあ、あたし達もそうしようかしらね」

  「賛成!」

  「いいですね」

  「私も行きます」

  「ご一緒します」

  「早くさっぱりしたいですしね」

  ジュリアの言葉に女性隊員も賛同し、結局全員で大浴場へ行くことになった。

  大浴場に入ると、それぞれが体を洗い、バルジとローレンスは風呂釜に入ろうとした。

  二人は壁に貼ってあった張り紙を見てから入浴をした。

  「ふ~~~これはなかなかいいな」

  「そうだな…本部も気が利くな」

  バルジとローレンスがゆっくり浸かっていると、離れたことから叫び声がした。

  「冷たっ!!!なんだよ!この風呂!!」

  「なんか…寒気がしてきた…」

  「なぁ!これ水と間違えていれているんじゃねぇか!!」

  「なら、早く本部にいいに行こうぜ!」

  慌てているデイビット・有紀・キム・ピエール。

  「お前達!騒ぎすぎだ。もう少し落ち着いたらどうだ?」

  バルジの制止にデイビットが食いついてきた。

  「で、でも!隊長達はなんともないんですか?!」

  「なにがだ?」

  「だって!お湯が凄く冷たく感じるでしょ!!」

  「それはそうだろ。お前達この張り紙を見ておらんのか?」

  「「「「えっ?!」」」」

  バルジは風呂に入りながら壁の張り紙を指さした。

  そこには『本日の季節湯 ハッカ風呂』とあった。

  張り紙をみると、有紀が尋ねてきた。

  「隊長、ハッカ風呂ってなんですか?」

  「知らんのか?ハッカ油を入れた風呂のことだ」

  「ハッカ…油ですか?」

  「俺も詳しくは知らんが、確かハッカソウというミントから抽出した油だったはずだ。肌に触れるとスースーしてな。それをお湯に入れると涼しさを感じられる風呂なるわけだ」

  「え?!そんなこと出来るんですか?」

  「一応な。だが調節が難しくて最近はあまり実施してないがな」

  「調節?」

  「入れすぎ注意ということだ。差詰めこの風呂は油を少し入れすぎているだけだ」

  「「「「へぇ~」」」」

  話しを一通り聞いた一同から納得の声が漏れると、ローレンスが割り込んできた。

  「相変わらず物知りだな。これではまるで歩く宇宙百科事典だな」

  「人を物みたいに言うな。だが涼しいからと言ってあまり長風呂をするなよ」

  「ん?それは何故ですか?」

  不思議そうにキムが尋ねてきた。

  「ハッカ油は、冷感効果はあるが体温が下がる訳ではないということだ」

  「え?!そうなのですか?」

  「あぁ、原理的にはかき氷の頭痛と似たような物で脳の錯覚を利用しているだけだ」

  「「「「え~~!!」」」」

  「そうなのか、バルジ」

  「なんだ、お前も知らないで入っていたのか?」

  バルジがローレンスに呆れている中、ピエールが尋ねた。

  「でも…なんでそれで『長風呂するな』になるのですか?」

  「要するに…普通に風呂に入っているのと変わらんと言うことだ。熱中症対策にもならんし、それどころか気付かないうちに汗をかいて脱水症状にもなりかねん」

  「「「「へぇ~~~」」」」

  「だから風呂から出たらしっかりと水分補給をしておけよ」

  「「「「了解~」」」」

  (なんともまぁ…使いどころの限られた雑学だな。その知識力はSDFでは少し物足りんな。出来るなら上層部にも分けてやってほしいものだ)

  ローレンスは一人心の中でぼやいていると、各自風呂から上がりバルジは自室へ戻った。

  自室に戻ると帰りに買ったトマトジュースを飲んでいた。

  ゴクン、ゴクン、

  「ぷはぁ~。はぁ…まさかこの機械化時代に冷房故障が半日も続くとは…管理局の杜撰さが心配だ…」

  呆れながら、バルジはテイクアウトした冷麺を食べ始めた。

  (明日はオリオン座方面の定期パトロールだったな…あそこは事故が多いから気が抜けんな…まぁともあれ早めに就寝して明日に備えるか)

  冷麺を完食したバルジは、少し早めに就寝をした。

  次回予告 VOICE有紀

  こんな夜中に緊急招集だって?!

  一体なにが起きたんだろう

  次回『涼感と悪寒 後編』

  俺たちは、次の駅で何かに怯える

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