Ad
18:00 フェスタ後半
「あと、2時間か…」
バルジが時間を確認していると、携帯が鳴り響く。
ピロロロ、ピ!
「こちらバルジ」
『こちらルイ。定期連絡、暴力行為の為、酔客一名確保。警備隊へ引き継ぎ済。その他異常なし』
『こちらキム。定期連絡、熱中症で女性一名救急搬送済。その他異常なし』
『こちらピエール。定期連絡、食い逃げ客一名確保。警備隊へ引き継ぎ済。その他異常なし』
「了解した。夕暮れになり、視界が悪くなる。より警戒を強化しろ」
『『『了解』』』
通信を切ると、少し不安な表情をしている。
「やはり…夕暮れになると事件が増えてきたな」
「あぁ、暗くなれば人目を避けることができるからな」
「我々も油断はできんな。引き締めて行くぞ」
「了解」
巡回を再会しようとすると、近くの少年から声が掛かった。
「おじちゃん達!丁度良いところにいたよ。ちょっと来て!」
「ん?俺たちか?なにかあったのか?」
「いいから来てよ!早く!!」
謎の少年の急ぎの言葉に二人は一気に危機感を感じた。
「まさか…なにか事件か?」
「とにかく状況確認に行くぞ」
「あぁ」
二人は急いで、少年の後をつけた。
すると少年はある店の前で足を止めた。
「ここは……射的屋?」
「坊主!一体なにが…」
「おやじ~お客さん連れてきたよ!」
「「はぁ?!」」
少年が店主のおっさんに声を掛けていた。
「お~出来したぞ、翔太!なんとも腕利きそうなお客さんじゃないか」
「えへへ、でしょ!おやじと違って見る目はあるからね!」
ニコニコと会話している親子に二人は呆れ顔をしていた。
「まさか…ただの客引き」
「子供にまんまと騙されるとは…」
「おじさん達!射的していくでしょ?」
ライフルを持って話しかけてくる少年にローレンスが怒りを露わにした。
「なにを言っている!散々急かして連れてきておいて!なにか事件だと思ったではないか!」
「でも僕、一言も事件なんて言ってないよ」
「なっ?!この餓鬼!」
少年の言い訳に怒りを爆発しているローレンスをバルジが宥めた。
「まぁ…落ち着け、確認せずについてきた我々にも問題はある」
「お前な!」
「だがな、翔太くん。すまんが今は遊んでいられない。他の客を探してくれ。ローレンス行くぞ」
「あ?あぁ…」
素っ気なく返した後、二人が射的屋から離れようとすると、少年から意外な一言が放たれる。
「へぇ~おじちゃん達、逃げるんだ?」
「なに?」「なんだと?」
少年の一言に、思わず振り向く二人。
「なんか、腕利きそうで声かけしたけど。もしかして射的下手くそなの?だから逃げるんだね?ごめんね。そんな腰抜けだとは思わなかったよ!」
「下手くそ…」「腰抜けだと…」
ニコニコして明らかに挑発してくる少年に二人はふつふつと怒りの表情を浮かべていた。
普段であれば隊服を着用している為、こんな屈辱的な言葉を聞くことはまずあり得ない。
しかしなにも知らない少年とはいえ、SDFかつ隊長職として、二人は今の発言を無視することができなかった。
「随分と舐められたものだな……バルジ」
「あぁ……流石に無視できないな。少し本気を出すか?ローレンス」
「そうだな。これも環境に馴染む一環だ」
相互確認をすませて、二人は射的をすることにした。
「へぇ~下手くそなのにおじちゃん達やるの?」
「下手くそかどうかは見てから言った方がいいぞ」
「いいから早く銃をよこせ」
「はいはい。じゃあこれね。全部で十発あるから、棚の景品を落とせたらGETだよ」
「「了解」」
射的用のライフルを受け取り、二人は玉を装填して、真剣な表情で構えた。
「バルジ、つまらんミスはするなよ」
「お前もな」
そして射的を開始した。
開始直後から、次々に景品をGETしていく二人。
あまりの光景に親子は目を点にしていた。
お互いに9個ずつ景品を手に入れると、最後の一発を前に手を止めてバルジが呟いた。
「ふぅ…そろそろ目玉商品が欲しいと思わんか?」
「そうだな。だが、あれは一発では少し厳しいぞ」
二人がターゲットにしたのは、射的屋の大型目玉商品。
「え?!おじちゃん達、あれも狙うの?!」
「安心しろ、翔太。彼らの言う通り、一発ではGETできん」
親子がおどおどする中、バルジがローレンスに提案した。
「なに、急所を2カ所同時に叩けば、撃墜できるだろ?」
「そうだな。お前は左側、俺は右側だ」
「了解」
再度、構えて同時に引き金を引いた。
すると二発の玉は命中し、予想通りに目玉商品をGETした。
「ふぅ~なんとかGETだな」
「あぁ。ノーミスでコンプリートだ」
「え~~~そんなのインチキじゃないか!」
「何言ってる?ふたりで共闘してはいけないとは言っていないぞ」
「そうだな。ありがたく景品は頂くぞ」
「う“う”う“~」
もの凄く悔しそうにしている少年に二人は笑みを溢し、バルジが告げた。
「ふっ…なんてな。別に景品は要らん」
「へ?!でも、本当にいいの?」
「あぁ、手に持っていると邪魔だからな。なぁローレンス」
「あぁ。お前の悔しそうな顔で充分満足だ。これに懲りたら、あまり大人を挑発しないようにな」
二人は銃を置いて、景品を受け取らずに店を後にしようとした。
「待って!おじちゃん達!」
「今度はなんだ?」
「あの…さっきはごめんなさい。お詫びとして、これどうぞ!」
少年が手に持っていたのは、可愛らしいビッグワンのストラップ。
「…これは?」
「今回のフェスタの景品だよ。銀河鉄道管理局から景品として貰った。いっぱいあるから参加賞で配ってるんだ」
渡されたストラップを見て、バルジは笑みを溢していた。
「随分と可愛らしいビッグワンだな…」
「恐らく企画部の連中の仕業だな」
「全く…だがせっかくだ。ありがたく頂くぞ」
「うん。おじちゃん達も楽しんでね」
「あぁ、ありがとうな」
二人は少年と別れて、再度巡回警備を続けた。
19:00 フェスタ終了まで、あと1時間
バルジは定期連絡を待っているが、誰からも連絡来ずにいた。
「おかしいな…誰からも定期連絡が来ない」
「シリウスの奴らはともかく、俺の部下からもなしか」
「あぁ、試しに有紀に掛けてみるか」
「なら、こちらはコーリーに掛けてみるぞ」
ピロロロ…
しばらく掛けてみるが応答が無かった。
「駄目だな。そっちはどうだ?」
「こちらも応答なしだ」
「まずいな…事件に巻き込まれていなければいいが…」
「で、どうする?」
「……やむを得えん。一先ず中央広場の方へ向かう。そこなら会場全体を見渡せるだろ」
「そうだな」
二人は急遽中央広場へ向かうことにした。
向かう途中に左右から大きな声が聞こえる。
「助けて!!誰か!」
「誰か~助けておくれ~」
左からは老人のおばあさん、右からは若いお姉さんからだった。
ローレンスが左側を確認し、バルジは右側を確認した。
「老人の方は、どうやら救急要請のようだ」
「こっちの女性は、詳細が不明だが表情からして事件性が高い」
「となると…どちらも放置できんな」
二人は状況を冷静に判断して、バルジは決断をした。
「仕方がない…部下の応援が期待できない以上、手分けするぞ。お前は老人の救助を頼む。俺は女性から事情を聞いて対応する。終わり次第、連絡をしてくれ。場合によっては救援を要請するかもしれん」
「了解した」
「散開」
緊急事態につき、二人は手分けをして対応することになった。
バルジは女性の元に行き、事情を聞いた。
「どうされましたか?」
「え?!あの…」
「怖がらなくていい。俺はバルジ。なにがあった?」
「私はアリサ。私の友達がガラの悪い人たちに絡まれているの!お願い助けて!」
「分かった。すぐに案内してくれ」
「はい!」
バルジは女性と共に移動を始めた。
しばらく走っていると、目的地が見えてきた。
「……あれか!」
「はい!」
目の前には一人の若い女性の周りに細型の男性、中肉の男性、大型の男性がいた。
「嫌!こっち来ないで!やめて!!」
「だからさ~俺たちはお嬢さんとお友達になりたいだけなんだよ」
「そうだぜ~せっかくのフェスタだからさ~一緒に楽しもうぜ」
「それにあんまり暴れると流石に俺たちも我慢できなくなるぜ」
若い女性に詰め寄ろうとしているところに、バルジ達が到着した。
「ユーリ!助けを呼んできたわよ!」
「アリサ…戻ってきてくれたんだ…」
二人が安堵している中、男達の視線はバルジとアリサに向いていた。
「あれ~さっき逃げたアリサちゃんじゃん。戻ってきてくれたんだね」
「それにしても、なんだ?そのおっさんは?」
「そうだぜ~もしかして、そいつが助っ人ってやつか?」
男達が勝手なことを言っている中、バルジは間髪入れずに怒鳴った。
「お前達そこまでにしておけ。嫌がっているだろ。すぐに彼女から離れろ!」
バルジの言葉に3人組は怒りを露わにした。
「なんだと!いきなり来て、生意気言ってるんじゃねぇ!」
「俺たちの邪魔をするな」
「だいたい、お前に何の関係があるって言うんだよ!」
「俺はこの会場の関係者だ。参加者に危害を加えようとしているのを見過ごす訳にはいかん」
「関係者だと?笑わせるな。所詮事務方のお前らに俺たちを止められるとでも?」
「そうだぜ?SDFならともかく、ただの中年のおっさんにやられるほど落ちぶれちゃいねぇよ!」
「悪いことは言わねぇ、さっさと失せな」
男達が文句を言っている中、冷静に状況分析をしていた。
(3対1か…流石に少し辛いな。一人でも応援がいてくれると余裕なのだがな…。まぁ、悔いても仕方がない。やれるだけやるしかないな)
「なにを言っても無駄か…なら、強硬手段に出るしかないな」
「ははは、おっさん俺たちとやり合うの?」
「いい度胸だな」
「すぐに土下座で謝らせてやるよ」
男達が臨戦態勢に入ると、アリサに声を掛けた。
「アリサさん、今から恐らく乱闘になる。隙を見てユーリさんと避難してもらえるか?」
「それはいいですけど、バルジさん一人で大丈夫ですか?」
「あぁ、それなりに鍛えているからな。それに…」
「それに?」
「俺には心強い相棒がいる」
「それは、どういう意味で…」
「さぁ!危ないから少し離れていろ」
バルジがアリサを待避させると、男性達が襲いかかってきた。
「てめぇ!格好つけているんじゃねぇ!!!」
まず、細型の男性が殴りかかる。
怒り心頭の男に対して、バルジは至って冷静だった。
殴りかかった拳を回避しつつ、掴み、振り回しながら首に腕をかけ、入身投げを決めた。
ドサッ!
「ぐぁ!!!」
男は大きく地面に叩きつけられ、動けなくなった。
「おい…うそだろ」
「どうやら、ただの中年のおっさんって訳じゃなさそうだな」
男二人が傍観していると、バルジは再度忠告をした。
「本当はせっかくのフェスタで争い事などは御免だ。今ならまだ大した罪にはならない。このまま自首してくれると俺としても助かるのだが、どうだろうか?」
「ふざけるな!!仲間やられて黙っていられるか!!」
「こうなれば、二人でやるぞ!!!」
「やれやれ…厄介な連中だな…」
今度は二人同時に相手をすることになった。
(一番厄介なのは、あのデカ物だな…あれを押さえるのは骨が折れそうだ)
襲いかかってくる間に、戦況分析をして同時に対応は困難と判断した。
そして、咄嗟に近くの樹木下の砂を掴み、デカ物の男性の目元に投げつけた。
バシャ!
「うぎゃ!目がっ!染みる!!」
「おい!なに油断してるん…」
もう一人の中肉の男性が目を逸らしている内に、バルジは急接近していた。
近づくと、間髪入れずに胸倉と腕の裾を掴んで、背負い投げを決めた。
ドサッ!!
「がぁ!!!ぁぁ」
男を地面に叩きつけると、アリサに声を掛けた。
「今だ!!!早くユーリさんと一緒に安全なところに逃げろ!」
「分かりました!ユーリ、行くよ!」
「ありがとうおじさん!」
二人は離れたところまで待避した。
(これで人質問題は解消したな。残る問題は…)
「くそ!!!このくそ親父!!!もう容赦しねぇ!!覚悟しやがれ!!!」
目に前に見えるのは、激情してしまっている巨体の男。
その姿はもはや殺気状態のゴリラそのものだった。
(これは…そう簡単にはいかないな)
その後、しばらく攻防は続くが一向に決着がつかずに、バルジの体力が徐々に奪われていた。
「はぁ…はぁ…なんて……馬鹿力だ…」
(ここまで巨体だと、投げ技をしても大して効果がなかった。さて…俺の体力もそろそろ限界だ。どうしたものか…)
離れたところから傍観していたアリサとユーリは、バルジの事を心配していた。
「ねぇ…バルジさん疲れてきてるよ…このままじゃ負けちゃうんじゃない」
「確かにこのままじゃまずいかも…でも、私たちじゃどうにもできないし…」
アリサはどうにかできないかと、考えていると、ふとバルジの言葉を思い出した。
【俺には心強い相棒がいる】
「はっ!そうだ!ユーリ、一緒に来て!」
「え?うん」
そして二人は走ってあるところに向かった。
その頃、救急対応をしていたローレンスは到着した救急隊に引き継ぎをしていた。
「以上が、状態の報告です。後は任せても宜しいですか?」
「はい。ご協力感謝します」
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいか…」
頭を下げる付き添いの老人にローレンスは手を振った。
「いいえ、人として当然の事をしただけです。お礼は不要です。私は別件がありますので、これで失礼します」
「そうですか。でも、本当にありがとうございました」
ローレンスは軽く会釈をして、老人と別れた。
(さて…こちらは状況終了だな。あいつの応援にでも行くか…)
ローレンスが携帯を出していると、走って到着したアリサが声をかけた。
「はぁっはぁっ…あっ!いた!あの!そこの!深緑のおじさん!」
「ん?あれは…確かバルジが声をかけていた女性か?おい!一緒について行った男はどうした?」
ローレンスがアリサに尋ねると、乱れた呼吸を整えながら二人が必死に告げる。
「はぁ…はぁ…それが…バルジさんが…ゴリラみたいな…やつに…やられそうで…大変…なの」
「このままじゃ…バルジさん…負けちゃう…よ…だから…助けて」
「なんだと?!分かった。すぐに案内しろ!」
危機感を持ったローレンスは二人の案内に連れられて、バルジの元へ向かった。
同時刻、バルジはいよいよ体力の限界を感じていた。
「はぁ…はぁ…全く…動きづらいな…」
(ここまで浴衣が不便だとはな。こんな事なら企画部に甚平くらい許可するように意見具申しておけば良かった…)
企画部に内心愚痴を漏らしていると、巨体の男から蹴りが襲いかかった。
「うりゃ!!!」
「っ!!!しまっ」
咄嗟に胸元に腕をクロスして防御をしたが、圧倒的な威力に樹木まで吹き飛ばされてしまった。
ドサッ!
「がはっ!!!うっ…くそ……油断した…」
衝撃が大きく、その場に座り込んでいると巨体の男が近づいてきた。
「ようやく観念したか?ちょろちょろとしやがって!」
怒りに満ちた巨体の男はバルジの首を掴み、無理矢理立たせて樹木に押しつけてきた。
「ぐっ…が…ぁ…」
「がははっ苦しいか?いい様だな。だが、さっきの攻防は中々の腕前だったな。今から俺の子分になるなら、許してやってもいいぞ」
巨体の男が意地の悪い顔でバルジに降伏を要求すると、キッパリと答えた。
「断る…俺に…そんな…悪趣味は…ない」
「へ!そうかよ!なら、このまま彦星のところに行きやがれ!!!」
「がぁぁぁぁ!!!」
巨体の男が急激に首を締め付けてきて、窒息の危険が迫った。
(まずい…このままでは窒息死だ。早く…打開…しないと…)
次第に意識が遠のいていくと、腕の力が抜けてきてしまった。
「へへへ、さっさと楽になりやがれ!!!っ!がはっ!」
窒息し欠けていると突然巨体の男がバルジから手を離した。
解放されて呼吸を整えながら状況確認をした。
「げほっ…げほっ…一体…なにが…」
再び巨体の男をみると、そこには背後から腕で首を絞めているローレンスの姿があった。
「がは…なんだ…てめぇ!」
「そいつの連れだ。随分と痛ぶってくれたようだな」
「てめぇ…いきなり…来て…背後から…襲うなんて…卑怯…だろ!」
「ふん。集団で女性を襲うような奴らに言われる筋合いはない。最終警告だ。このまま降伏するか?」
「ふざけるな…俺は…絶対に…負けない!」
「そうか…なら、仕方がないな」
その言葉を最後にローレンスは首の締め付けを一気に強めた。
「ぐぁぁぁぁやめぇぇぇ死ぬぅぅぅ…がぁぁ」
ガクン…
ローレンスの絞め技により、巨体の男は気を失った。
そのまま横に倒すと、ローレンスは安堵の息を漏らした。
「はぁ…全く。バルジ大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…あぁ、大丈夫だ。助かった、感謝する」
ローレンスはバルジに手を差し伸べて、助力でその場から立ち上がった。
「ふぅ…それにしても、とんでもないゴリラだったな。危うく本当に殺されそうだった」
「そう思うなら、何故逃げなかった?」
「こんなゴリラを野放しにはできんだろ」
「全く…相変わらず、無謀な奴だ」
「悪かったな。しかし久しぶりに見たが、お前の絞め技は強烈だな。完全にのびているぞ」
「当然だろ。お前が殺されそうになっている状態で手加減などできるものか」
「ははは、それもそうか。ありがとうな」
「ふん。下らないことを言っていないで、早く此奴らを連行するぞ」
「了解」
その後、外の警備隊を招集し、3人組の引き渡しを行った。
一通り作業を終えると、先程のアリサさん達がやってきた。
「あの!バルジさん!」
「ん?アリサさんか。二人とも怪我はないか?」
「はい!ユーリも大丈夫です。あの、わざわざ助けていただいてありがとうございました!」
「ありがとうございました」
二人が頭を下げて感謝していると、バルジは微笑んで答えた。
「大したことではない。それより怖い思いをさせてしまったな、すまなかった。君たちの行動のお陰で、助かったよ」
「いいえ、私たちにはあれくらいしかできなかったので…」
「だが、その勇気が俺を窮地から救ったのは事実だ。こちらこそありがとうな」
その言葉に再び二人は笑顔を取り戻した。
「こんなこと言うと不謹慎かもしれませんが、私今日のフェスタに参加してよかったです」
「はい、バルジさんとえっと…」
ユーリが名前に困っていると、バルジがローレンスに名乗れと合図を送った。
それを確認すると、ローレンスはしぶしぶと答えた。
「……ローレンスだ」
「バルジさんとローレンスさんに出会えて良かった」
「私も君たちに出会えて良かったよ」
「これからは気をつけるのだぞ」
「「はい!ありがとうございました!」」
二人がその場から移動しようとすると、アリサがバルジに告げた。
「あの!最後にメインステージでサプライズイベントがあるみたいですよ!良かったら、見に行ってくださいね!」
「そうか、分かった。ありがとうな」
二人が去って行くと、ローレンスと共に安堵の息を漏らした。
「はぁ…さて、あとは音信不通の部下達の所在か」
「はぁ…全く。あいつら手間をかけさせよって…」
「とりあえず、メインステージの方へ行くか」
「そうだな…もう歩いてでいいか?」
「気が合うな…俺も同意見だ」
二人は疲れた体で、ゆっくりとメインステージに向かった。
19:45 フェスタ終盤
メインステージに到着すると、ステージではエンドセレモニーが始まっていた。
二人は周囲に警戒しつつ、他の部下を探していた。
「いたか?ローレンス」
「いいや、一人もいないな…」
「全く…本当にあいつら何処に行った?」
「まさか…七夕伝説と同じで職務放棄しているのではあるまいな…」
「流石に笑えないぞ…」
未だに発見できない状況に二人は苛立ちを感じていると、ステージでは司会が大きく声を上げていた。
『それでは!!!まもなくこのフェスタも終了となりますが、ここで影のMVPを発表したいと思います!』
その声に反応して、バルジとローレンスは思わず、ステージを確認した。
((影のMVP?なんだ…嫌な予感が…))
『皆さん!今回会場内に警備員が一人もいないことにお気づきでしょうか?それでも、なぜ安全が保たれていたか。分かりますか?』
司会の問いかけに会場内がざわついた。
『それは…彼らのお陰です!どうぞ!!!』
すると、ステージ脇から有紀達が壇上に上がった。
((なっ?!あいつら?!))
バルジとローレンスが驚愕していると、どこか落ち着かない一同を横に司会が淡々と話を続ける。
『皆さん!実は、この人達はただの一般客ではありません。なんと!あのSDFのシリウス小隊とケフェウス小隊の方々なんです!』
「「「えぇーーーー!!!」」」
『皆さんが驚かれるのも無理はありません。実は、これは管理局企画部からの要望で極秘に進めていた任務だったのです!彼らは浴衣姿で武器も持たずに一般客に紛れて密かに安全を守ってくれていました。そうですよね?』
司会が有紀に尋ねると言葉に悩んでいた。
「へ?!いや…俺たちは」
『ところで?皆さんの隊長さんはここにはいないのですか?』
「あぁ…会場が広いので…別行動で警備をしていたので…」
『そうですか…もし良かったら、ここにお呼びしていただくことはできませんか?』
「え?!それは…ちょっと…多分忙しいと思いますので」
『そうですか、それは残念ですね』
有紀が司会より質問攻めにあっている中、絶句していたローレンスがバルジに確認をした。
「バルジ!これはどういう事だ?!」
「知るか!俺が聞きたいところだ!」
「なんで、あいつらが祭り上げられている?!」
「だから知らんと言っているだろ!!」
二人が言い合っている中で、壇上でキムが司会に尋ねた。
「一つ質問いいですか?なぜ隠密行動をしていた我々を発見できたのですか?」
『え?気になりますか?それはですね!これです!!』
司会の合図でスクリーンに映像が流れた。
そこには『フェスタヒーロー』と題名がある。
最初に、中年の男性が映し出された。
『いきなり酔っぱらいが絡んできて、危なかったけどさ、ある若いカップルが助けてくれたんだよ。本当にありがとうな』
次に中年女性。
『久しぶりの暑さで体調を崩していたら、若い男の人達が助けてくれてね。救急隊まで呼んでくれて本当に助かりました』
次に高齢の男性。
『店で食い逃げされて、叫んだら、若い姉ちゃんと兄ちゃんがすぐに捕まえてくれまして。すごく助かりました、ありがとうございました』
次に若い女性。
『私、たこ焼きを買おうとしていたら、変な男に盗撮されていて、そしたら、近くにいたデカいおじさんが助けてくれたの。怖くて何も言えなかったけど、おじさん!あの時は助けてくれてありがとう!』
次に中年の男性。
『実は、会場内でオヤジ狩りに合いまして…若い男子に有り金を全部取られてしまいました。しかし、その犯人を捕まえてくれた方がおられまして、無事にお金も返金されました。その方にお会いできなかったので、ここでお礼を言わせてください。ありがとうございました』
メッセージが終わると司会が話を続ける。
『皆さん!如何でしたか?この数々のお礼の言葉。この言葉を我々運営スタッフは無下には出来ず、証言を頼りにスタッフ総出で捜索を行いました。そして、努力の結果、彼らをこうしてステージに招待することが叶ったのです!』
司会の話を聞いて、ローレンスが再び尋ねた。
「おい!なぜ運営スタッフが隠密行動を暴露している?」
「そう言えば…企画部の連中が、イベントの運営は民間委託すると言っていたな。恐らく隠密行動についての告げ口を失念した結果だろ」
「なっ?!連絡不足にも程があるだろ!」
「それは企画部に言ってくれ」
二人が言い合っていると、状況は良からぬ方向へ進む。
『でもやっぱり隊長さん達にお合いしたいですよね!私たちの情報では黒の浴衣と深緑の浴衣までは分かっているんですけど、なかなか見つからないんです。そうだ!ここにいる皆さん!なにか情報をお持ちの方おられませんか?』
事もあろうに、司会はこの場でバルジ達の捜索を始めた。
「なんて執念深い司会だ…」
「感心している場合か!情報が漏れている以上ここにいるとまずい。速やかに離脱するぞ」
「あぁ」
バルジとローレンスがゆっくりとその場から移動しようとすると、少し離れたところから大きな声が聞こえた。
「あの!!!すみません!私たち隊長さん知っているかもしれません!!」
声の主は先程のアリサさんだった。
(アリサさん?!)(まさか…)
『本当ですか!助かります!さぁステージにどうぞ!』
アリサとユーリがステージに上がると、マイクを受け取り語り出した。
「皆さん、突然の乱入ですみません。情報の前に、改めてお礼を言わせてください。私たち、つい先程に事件に巻き込まれました。男三人組に絡まれて凄く怖い思いをしていても、周りの人達は誰も助けてくれませんでした。仕方が無く、私は友達を残して、助けを呼びに行くとすぐに答えてくれた人が黒色の浴衣のバルジさんです。一緒に来て、体を張って私たちを逃がしてくれたんです。状況が不利な中でも最後まで対応してくれました。本当に助けてくださってありがとうございました!」
「あと、途中から応援に来てくれたローレンスさんも、ありがとうございました」
『それは大変でしたね。でも、その人達はお強いんですね』
「はい!とても強くて優しい人達でした」
『そうですか。もし良かったらその人達の特徴を教えてくれませんか?』
「バルジさんは黒色の浴衣に左眉に傷があって、ローレンスさんは深緑の浴衣でオールバックの長身です」
そのやり取りを聞いて、ステージ上の一同の顔色が悪くなった。
(やべ…特徴までしっかりバレちまった…)
(このままだと…隊長達が見つかるのも時間の問題だわ)
(お願いします。どうか…この中央広場には二人ともいませんように…)
切実に願うデイビット・ルイ・有紀。
(この事がバレたらどんなお叱りを受けるか分からない…)
(あの二人に説教されたら、とてもじゃないけど耐えられない…)
(織り姫様…彦星様。どっちでもいいから、助けてください!)
顔面蒼白で怯えるキム・ピエール・コーリー。
情報が割れてしまった二人は、より危機感を感じていた。
(これは非常にまずい…)
(早々にここを去らなければ…)
再び、歩みを再開させようとしたが、時はすでに遅かった。
「あれ?もしかして…この人達じゃないか?」
「ホントだ!お姉さん達の言っていた人達だ!」
突然、二人の周囲にいた親子連れが事もあろうに指を指して大きな声で告げた。
((しまった?!))
二人が気づいた時には、もはや多くの人達の視線が二人に集中してしまっていた。
『もしかして?隊長さん達ですか?やっぱり来ておられたんですね!さぁどうぞステージ上にお上がりください!』
司会の言葉に、ローレンスはバルジに小声で相談をした。
『バルジ…どうする?走って逃げるか?』
『いや…すでに退路は断たれている。それにこれだけの群衆では回避は不可能だ』
『まさか…司会の指示に従う気か?』
『それしか選択肢がないだろ』
『隊長さ~ん!聞こえていますか~!ステージにお願いします~!』
「「はぁ…」」
二人はため息をついて、しぶしぶステージ上に向かった。
壇上に上がると、すでにいる一同に二人とも鬼のような形相で睨みをきかせていた。
(((やっぱりめっっちゃ怒ってる!!!)))
顔面蒼白の一同を横に司会のところで歩みを止めると、早速インタビューが始まった。
『では、改めまして、こちらがSDFシリウス小隊ならびにケフェウス小隊の隊長さん達です。えっと…バルジ隊長かローレンス隊長。どちらか代表で何かお言葉をお願いします』
司会のいきなりの無茶ぶりに困惑していると、間髪入れずにローレンスが告げた。
「それでしたら、今作戦での総指揮官であるバルジ隊長より代表挨拶をさせていただきます。バルジ隊長、お願いします」
(お前?!いくらなんでもあんまりだろ!)
突然のローレンスからの発言で困惑していると、司会はバルジの方を向いた。
『了解いたしました!それでは総指揮官のバルジ隊長、締めのお言葉をお願いいたします』
無理矢理渡されたマイクを受け取り、バルジはしぶしぶと話しを始めた。
「え…その…皆さんこんばんは。SDFシリウス小隊隊長シュワンヘルト・バルジです。本日は銀河鉄道管理局主催の七夕フェスタにご参加いただき誠にありがとうございました。本来我々がここに立つことは予定していませんでしたので、正直言葉に悩んでおります。ですが、皆さんがイベントを安全に楽しく過ごすことができ、一同で安堵しております。どんな形であれ、皆さんの安全を守りぬく事が我々の使命です。今後も銀河鉄道を利用される際には、我々がお守りしますので、ご安心してください。本日はありがとうございました。以上です」
『バルジ隊長、ありがとうございました!それでは最後にSDFの皆さんに感謝の意味を込めて、大きな拍手をお願いします!ありがとうございました!!』
パチパチパチパチ!!!
『では、最後のフィナーレです!皆さん!夜空を見上げてください!』
司会の合図で会場内は消灯し、「銀河の煌」が流れた。
そして、曲に合わせて、星空に多くの花火が打ち上げられた。
色とりどりの花火が打ち上げられ、会場の皆がそれに見とれていた。
それはSDF一同も同じだった。
「うわ~なんて綺麗なの」
「本当だな…」
「こりゃ~すげぇな」
「火薬でこんな美しいものが作れるなんてな…」
「これも青の地球の文化だったのね」
「昔の人って凄いな」
シリウス・ケフェウス一同が感激していると、バルジとローレンスも空を見上げていた。
「管理局企画部もなかなか良いものを用意したではないか、なぁバルジ」
「そうだな…まさか儚く散るものがこんなにも美しいとはな…」
どこか嬉しそうに見つめるバルジをみて、ローレンスはあることを提案した。
「なぁ、バルジ。来年はこの時期にお互い休暇を取らないか?」
「どうした急に?」
「今回の事でお前がいかに非常識か判明したからな。この際色々と教えてやる」
「非常識って…しかしな…」
どこか心配そうにしているバルジにローレンスは鼻で笑った。
「そんな心配な顔をするな。銀河鉄道を守っているのは俺たちだけではない。そうだろ?」
「ローレンス…そうだな。たまには他人に頼るのも悪くはないな」
「ようやく理解したか、馬鹿者が」
「馬鹿で悪かったな」
こうして、七夕フェスタは無事に終了を迎えた。
参加者が退場し、後かたづけが行われている。
しかし…そのステージ裏側にて…
「この馬鹿者共がーーーー!!!!」
周囲に響きわたるのは、バルジの怒号だった。
姿勢を正して整列しているシリウス・ケフェウス一同に対して鬼の形相でバルジが説教を始めた。
「お前ら!あれだけ隠密にと命令しておいて、一般人に暴露されるとは何事だ!!!」
「「「申し訳ありませんでした」」」
「有紀!お前が代表で説明しろ!」
「はい!その…すみませんでした。隊長…」
「謝罪はいい!経緯を説明しろ!」
「実は…運営スタッフに捕まってから、逃げられなくなってしまって…」
「それで?」
「色々と質問攻めにあってしまい…ついデイビットがボロを出してしまいまして」
「デイビット!またお前か!」
「ち、違います!それを言うなら、キムが自慢げに隠密行動の事を説明したからだろ」
「はぁ?!先にお前がSDFだとバラしたのが原因だろ!」
「いんや!絶対にキムの責任だ!」
「違うな、絶対にデイビットだ!」
デイビットとキムが言い争っている中、ローレンスが一喝する。
「やめんか!みっともない!!!」
「すみません」「申し訳ありません」
あまりの情けなさに頭を抱えると、キリッとした表情でバルジは告げる。
「お前らの不甲斐なさは充分に理解をした。しかし、命令違反は命令違反だ。今回は二人を止められなかった全員の連帯責任として、会場の後かたづけを無償で手伝う懲罰を言い渡す」
「「「え~~~~」」」
「勘弁してください!」
「もう…歩き過ぎて…体が限界です…」
「それなら二人だけにやらせてください!」
「そうです!俺たちは被害者です」
「おい!てめぇら裏切ってるんじゃねぇ!」
「そうだ!やるなら、お前らも道連れだろ!」
一同からも不満が爆発すると、ついにバルジも切れた。
「すべこべ言わずに、さっさと手伝ってこい!!!!!」
「「「りょ、了解!!」」」
渋々了承すると、あることが気になった有紀が恐る恐る尋ねた。
「あの……ちなみに隊長達はどうされるのですか」
「色々と疲れたからな。我々は帰って寝る」
「「「はぁ?!」」」
「20:15任務完了。報告書作成は明日で構わん。片付けが完了次第各自寮に戻れ。私からは以上だ。行くぞ、ローレンス」
「あぁ。お前ら、シリウス・ケフェウスの名に恥じぬようにしっかり手伝ってこいよ」
ぶっきらぼうに告げて二人は寮へと帰っていった。
自室に戻ると、バルジはソファーに腰掛け大きくため息をついた。
「はぁ~~~疲れた。全く…あいつらにも困ったものだ…明日の報告書作成が恐ろしい…」
愚痴を漏らしたのち、着替えの為、懐のものを取り出すとあの少年からもらったストラップが出てきた。手の上に収まる小さなビッグワンを見て、ふと笑みを溢しながら窓の外を向いた。
「七夕か……願うことも、ある意味人間の特権だな。人の数だけある願いをどう聞き入れるか…宇宙一、身勝手な恋人達のお手並み拝見だな」
外の星空を眺めながら、織り姫と彦星に思いを告げる不滅のシリウスだった。
【完】
【次回予告】 VOICE デイビット
七夕ではえらい目にあったな~
って今度はあのバルジ隊長が風邪だと?!
しかも、こんな時にあんな事件が?!
次回、『病魔 前編』全年齢
俺たちは次の駅で、何かに襲われる
~アフターエピソード~
残された一同は、しぶしぶ会場内の片付けをしていた。
「それにしても…なんでこんな事になっちまったんだ?」
「もう愚痴を漏らすのはやめろよ…急がないと朝になっちまうぞ」
へこみながら、ゴミ拾いをするデイビットとキム。
「本当にあの馬鹿たちは…とんだとばっちりだわ」
「そう言うなよ。確かに止められなかった俺たちにも非はあるよ」
テントを畳むコーリーとピエール。
「はぁ~せっかく楽しい七夕だったのにね~」
「そうだな」
笹を片付けるルイと有紀。
「それにしても、この笹どうするんだい?」
「一応、あとで燃やすらしいわよ」
「え?!そうなのか?せっかく皆が願い事書いたのに?」
「それが、文献の習わしでね、元々は海や川に流していたそうだけど、環境を悪くするからって、お焚き上げっていうのをしたらしいわ」
「へぇ~そんなんだ…ん?」
有紀が片付けをしていると、ある短冊が目に入った。
「有紀くんどうしたの?」
一枚の短冊をみて、有紀はどこか嬉しそうに笑みを溢した。
「なんでもないよ。早く片付けるよ、ルイ」
「え~~なによ、今の教えなさいよ!」
「だから、何でもないって言っただろ?」
「いいや、こういう時の有紀くんは絶対に何かあるわ!」
「ルイしつこいぞ!」
風に揺れる笹には、多くの願いが吊されていた。
それは、SDF一同の願いも共に。
【少しでも父さん達のようなSDF隊員になれますように 有紀 学】
【好きな人と長く一緒にいられますように ルイ・フォート・ドレイク】
【幸運の女神に嫌われませんように デイビッド・ヤング】
【SDFの皆さんが健康第一でありますように ユキ】
【デイビットとの掛けに全勝しますように キム・R・ナイトガイ】
【今より料理が上達しますように ジャン・ピエール】
【美容の成果が叶いますように コーリー・レイシード】
【困難な状況にも、精神的な成熟と深化を果たせるように ガイ・ローレンス】
【静かな時間で心身を癒せますように シュワンヘルト・バルジ】
Ad