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2:00 就寝をしていると、突然着信音が鳴り響く。
ピロロロ…
「ん……なんだ…こんな時間に」
バルジは寝ぼけながらに携帯に出た。
「はい…こちらバルジ」
『藤堂だ』
「藤堂司令?なんですか?こんな夜中に…」
『緊急事態が発生した。すまないがシリウス小隊緊急招集だ』
「緊急事態ですか?何が起きましたか?」
『内容は集まり次第説明する。急いでシリウス待機所に集合してくれ』
そう告げて、藤堂は通信を切った。
よく分からないまま、バルジは飛び起き隊服に着替えて待機所に向かった。
待機室に集合したシリウス小隊一同は強烈な眠気のまま苛立ちを感じていた。
「たく…こんな夜更けに…一体なんの緊急事態だよ!」
「本当に…これで下らないことだったら、流石に切れるわよ…」
「でも藤堂司令からだろ。きっと大変な事が起きているに違いないよ」
「有紀の言う通りだ。眠いのは分かるが、気を抜かずに待機しろ」
「「「了解」」」
一同に命令を出したものの、一向に説明をしない司令部に苛立ちを感じていた。
(呼び出しておいて、いつになったら説明するつもりだ。そろそろ連絡が来てもいいところだが…)
「そういえば…ユキがきてないな」
「そうね…いつもならいるのに」
「まだ寝れるんじゃねぇか?」
「ユキはセクサロイドよ。そもそも寝ないでしょ」
「そりゃそうか…たく、こんな事なら俺もセクサロイドならよかったっぜ!」
デイビットが愚痴を漏らしながら、お馴染みのコイントスをした。
チャリーーーン、パチン!
軽い気持ちで手の甲を見ると、コインは裏。
「ありゃ?なんだよ…女神にも嫌われたってか?」
「デイビット!緊急招集だぞ。ふざけるのも大概にしろ」
「すみません隊長…ところで連絡遅くないっすか?」
「確かに遅いな…ルイ!管理局司令部に連絡を頼む」
「了解」
バルジの命令でルイが連絡しようとすると、突然に照明が落ちた。
「っ?!停電?!」
「でもここは管理局だぞ。予備電源があるから停電はあり得ねぇだろ!」
「じゃあ……これって」
デイビットと有紀が動揺していると、状況を見てバルジが告げた。
「おそらく、これが緊急事態の意味だろ。ルイ!通信はどうだ?」
「……駄目です。繋がりません」
バルジは咄嗟に携帯を掛けるが、やはり繋がらない。
「携帯も駄目か…完全に通信手段を絶たれているな」
「隊長、どうしますか?」
バルジは脳裏で今後の事を検討していた。
(停電に合せて通信手段と絶たれたとなると…状況は最悪だな。ともかく今は情報入手が最優先か…)
不測の事態につき、バルジは決断した。
「やむを得ん……総員、第一級武装装備。これより管理局司令部に向かう」
「「「了解」」」
シリウス一同はコスモガンを構えて、待機所を後にした。
腕時計のライトを照らしながら、ゆっくりと移動をする。
「それにしても…誰もいないですね…」
「確かに…いくら深夜でもここまで人がいないのはおかしいだろ」
「もしかしたら…もう侵入者に…」
「まだ分からん。だが油断をするな」
静けさが漂う管理局内部を警戒しながら進む一同。
そして廊下を歩いていると、すこし先の角から足音がした。
コツ、コツ、コツ
その音に気づいたバルジは一同を制止させ、小声で伝える。
『待て……誰かくる』
『もしかして…侵入者?!』
『ファーストコンタクトってか?』
『どんな相手かしら…』
有紀、デイビット、ルイは不安に感じていた。
『私が対応する。お前らはここで待機していろ』
バルジは恐る恐る壁に背を向けてゆっくりと曲がり角まで移動する。
そしてタイミングを見計らって、角から出てコスモガンを構えた。
カチャ!
カチャ!
緊迫したまま構えたら、目の前にローレンスがいた。
「ローレンス!?」
「バルジか。全く……脅かしおって…」
「それはこっちの台詞だ。で、ケフェウス小隊も緊急招集か?」
「あぁ待機所に集合したら、停電がして調査をしていたところだ」
「我々と同じだな。だが丁度いい。一先ず司令部に向かわないか?」
「そうだな」
シリウスとケフェウスが合同で移動を開始した。
警戒ながら進んでいくと、ローレンスがバルジに尋ねた。
「バルジ、今回の件どう思う?」
「なんとも言えん。だがただ事ではないのは間違いない」
「そうだな…それにしてもなぜ他の職員が一人もいない」
「分からん。可能性としては集団でのテロ攻撃で拘束されているかもしれん」
「それだと最悪だな」
「あぁ、だがどんな状況であれ、ここで屈するわけにはいかん」
「その通りだ」
話をしながら、進んでいくと有紀が声を上げた。
「あれ?」
「どうした有紀?」
「あの……ルイがいません」
「……なんだと?」
有紀の一言で、バルジが振り向くとルイの姿が消えていた。
「本当にいない?!デイビット、お前近くにいただろ?ルイはどうした?!」
「おっかしいな……俺の後ろを歩いていたはずなんですが…」
バルジ、デイビットが困惑していると、状況を見ていたローレンスが呆れて告げた。
「お前らな…こんな時に迷子になるとは何事だ!」
「ルイはそんなヘマはしない」
「では、なぜいなくなる?」
「それは……」
バルジが言葉に悩んでいると、突然声がした。
「キャアーーーーーー!!!」
「はっ!!ルイ!!!」
声の主がルイと判明した瞬間、有紀が声の方へ走り出した。
「待て有紀!単独行動をするな!!!」
バルジの制止も聞かずに、有紀は走って行った。
「全くあのがむしゃら馬鹿が!追うぞ、バルジ」
「あぁ」
シリウス・ケフェウス一同が有紀を追うと、食堂に着いた。
そこで周囲を見渡している有紀にバルジが命令した。
「はぁ…はぁ…有紀、状況報告をしろ!」
「隊長……確かにこちらから聞こえたのですが…ルイが見当たらなくて」
「聴き間違えではないのか?」
「はい」
有紀の話を聞いて、ローレンスがバルジに確認をする。
「で、どうする?」
「仕方がない。少し周囲を探そう。協力を頼む」
「やれやれ…ケフェウス小隊、ルイ隊員の捜索を行え」
「「「了解」」」
「シリウス小隊もルイの捜索だ。警戒を怠るなよ」
「「了解」」
食堂内を隈無く捜索していると、厨房にいたピエールが声を上げた。
「な、なんだこれ?!」
「っ!?どうしたピエール!」
ローレンスをはじめ一同が駆け付けると、厨房には多くの人が倒れていた。その光景に一同が驚愕した。
「これは一体…」
「まさか……全員死んでるのか…」
「笑えないぜ…」
キム・有紀・デイビットが絶句している中、バルジとローレンスは状況確認していた。
「どうする?生存確認するか?」
「いや…数が多すぎる。それに今はユキもいない。気の毒だが感染症の危険を考慮すると今は放置するしかないだろ」
「そうだな。状況的に救助をしている場合ではない。一刻も早く藤堂司令に合わなければいかん」
「その通りだ。こうなった以上今はルイの捜索も断念するしかないか…」
バルジ達のやり取りを聞いて、有紀が噛みついてきた。
「隊長!ルイを諦めるんですか!!」
「辛いが今はそうするしかない。ルイから目を離した俺の責任だ」
「でも…今どこかで助けを求めているかもしれないんですよ!」
「気持ちは分かる。だが今は耐えてくれ」
バルジの言葉に未だに納得しない有紀。
すると静かな空間に声が聞こえる。
「助けて……助けて……」
助けを呼ぶ声に一同が振り向くと、そこには下を向いたままふらふらと歩いてくる血まみれの男性がいた。
「まさか…生存者か?!」
「良かった…大丈夫ですか!」
有紀が男性に近づこうとすると、バルジが制止した。
「待て!有紀!!」
「隊長、どうしたんですか?」
「なにか……様子がおかしい」
バルジの警告で一同が様子を見ていると、男性が顔を上げた。
「う……が…助け……て…が」
その顔は青色に変色しており、うめき声を上げながら近づいてくる。
「おいおい……これって…」
「まさか…」
「嘘でしょ…」
「もしかして……」
デイビット・キム・コーリー・有紀が立ちすくんでいると、ピエールが叫んだ。
「ぞ、ゾンビだーーーー!!!」
ピエールの発言に一同が恐怖を感じると、間髪入れずにローレンスが告げる。
「馬鹿者!ゾンビな訳があるか!」
「その通りだ。恐らくテロ集団に何かされたのだろ」
「で、でもどちらにしてもまずいですよ!」
「そうです!このままじゃ俺たちだって、ゾンビになりますよ!」
完全にゾンビと思い混んでいるデイビットとピエールに、バルジは苦渋の決断をした。
「やむを得ん…同胞を手に掛けるのは忍びないが、ここで始末しておくしかない!」
バルジはやむなくコスモガンを構えて、男性の胸元を狙って発砲した。
バキューン!!!
「がぁ!!!」
バタン!
閃光は男性の胸元に命中し、その場に倒れた。
「許せよ…」
バルジが謝罪の言葉と共にコスモガンを下げると、一同が安堵した。
「流石、隊長!」
「お見事です」
感謝の言葉が漏れる中、ローレンスが叫んだ。
「っ!!まだだ!!!」
ローレンスの声で再度見ると、倒れた男性が再び立ち上がった。
「うが…ぁ…」
「ば、馬鹿な?!完全に心臓を打ち抜いたはずだ!」
「バルジ隊長!やっぱりこいつゾンビですよ…不死身なんです!!」
バルジにしがみついているピエールの言葉を聞いて、今度はローレンスがコスモガンを構えた。
「馬鹿馬鹿しい事を!なら俺が撃つ!!」
今度は脳天にめがけて発砲した。
バキューン!!!
「ぐはぁ!!!」
再び命中するも、男性は倒れた頭を起こしてうめき声を上げて立っている。
「なん……だと…」
「脳天を打ち抜いても駄目か…」
バルジとローレンスが驚愕している中、男性の後ろに倒れていた人々が少しずつうめき声を出しながら動き出した。
「うぇ…がぁ…」「あぁ…うぅ…」「が…うぉ…」
「おいおい…これってまずいぜ」
「こんなに沢山…」
「俺たちは食おうとしてるんだよ」
「嘘でしょ…笑えないわよ」
「でも…早くなんとかしないと…」
一同が完全に蹴落とされている中、ローレンスがバルジに尋ねた。
「バルジ…どう対処する?」
バルジは冷や汗を流しながら考えていた。
(恐らく…なにかのウイルス感染か。この場にいても感染していないとすると、空気感染ではない。つまり感染方法は接触か)
「状況からして、何かしらのウイルス感染の可能性が高い。未確認だが恐らく接触感染だ。ユキがいない以上解毒はできん。現状取れる手段は……」
「「「手段は???」」」
一同がバルジに注目する中、はっきりと答えた。
「ここは逃げの一手だ!!総員、食堂より待避!急げ!!」
「「「了解」」」
バルジの合図で一同は入り口に走り出すと、同時にゾンビ集団も追撃を始める。
「やべ!追ってきやがる!!」
「早く逃げないと捕まっちゃうよ!!」
デイビット、有紀の叫び声を聞きながら逃走していると、近くに消化器が見えた。
「お前達!命令だ!先に行け!」
「バルジ隊長?!」「隊長?!」
バルジは消化器を手に取り、反転して消化液をゾンビにぶちまけた。
ブシューーーーーーー!!!
周囲に煙が充満し、ゾンビ達の歩みが止まった。
その隙を突いて、バルジも再び逃走する。
猛ダッシュで食堂から逃走し、気が付くと少し離れた物置部屋に身を潜めた。
「ぜぇ…ぜぇ…たく…なんなんだよ」
「はぁ…はぁ…食われるかと思った…」
「もう…はぁ…一体…なんなのよ」
肩で息をしながら、座り込んでいるデイビット・有紀・コーリー。
立ちながら呼吸を整えているローレンスはあることが気がかりだった。
(しまった…逃走する途中でキムとピエールを見失った…バルジと共に逃げ切れるといいが…)
警戒をしていると、バルジが息を切らして部屋に入ってきた。
「はぁっ…はぁっ…ローレンス…一先ず…ゾンビ共は振り切ってきた…みんな無事か?」
「それが逃走中にキムとピエールを見失った。てっきりお前と一緒かと思ったのだが」
「なんだと?!俺の前には誰もいなかったぞ」
「恐らく違う方向へ逃走してしまったのだろ…単独ではないから大丈夫とは思うが…」
ローレンスの話を聞いて、バルジは表情を曇らせた。
(この状況で分裂はまずいぞ……)
バルジが考え込んでいる中、ローレンスが今後の事を相談した。
「で、どうする。このまま司令部に向かうつもりか?」
ローレンスの問いかけに一同が注目すると、少し考えて返答した。
「いや…作戦変更だ。医務局に向かう」
「「「医務局?」」」
「その理由は?」
「このままでは遠からずに我々も感染して全滅だ。となれば、まずは解毒方法も模索した方がいい。医務局にはユキがいる。無事かどうか分からないが、少なくても医療関係者はいるはずだ。彼らに解毒剤または予防ワクチンを用意して貰う」
「なるほどな。完成するまでは我々が護衛としてつくというわけか」
「そう言うことだ」
「「「了解」」」
一同がバルジの作戦に賛同すると、有紀が尋ねた。
「でも…コスモガンが効かないのに、どうやって防ぐんですか?」
「そうだぜ…ここにもコスモガンを上回る武器はねぇし」
「それに相手は管理局職員です。助かる見込みがある以上、体を木っ端みじんにするっていうのも…」
有紀・デイビット・コーリーが不安そうにしていると、ローレンスが答えた。
「こんな事で怖じ気づいてどうする!」
「その通りだ。我々はSDFだ。こんな事ですくんでいる場合ではない」
そう言いながら、バルジは倉庫奥を捜索していると、長めの鉄パイプを発見した。
「とりあえずこれでいいか、ローレンス!」
バルジはローレンスに鉄パイプを渡した。
その様子を見て、有紀が恐る恐る確認する。
「隊長…まさか…それで対処するんですか?」
「そうだが?相手と距離を取りつつ自衛するには、現状これしかないだろ?」
「距離を取りつつ自衛って…まさか殴打ですか?!」
「おいおい…冗談だろ」
「私…SDFやめようかしら…」
有紀・デイビット・コーリーが不安そうにしている中、ローレンスが渇を入れる。
「シャキッとしろ!これも任務だ」
「「「はぁ…了解」」」
全員が鉄パイプを持ち、ゆっくりと医務局へ向かった。
館内を歩き回っていると、ローレンスとバルジの不信感は徐々に上昇していった。
「なぁ、バルジ…人気がなさすぎると思わんか?」
「あぁ…もしかしたら想像以上にまずいかもしれん」
「もし、医務局の連中が全員やられていたらどうするつもりだ?」
「その場合は…最悪、管理局から脱出して外に応援を要請するしかない」
「そうか…全くとんだことになったな」
「そうだな」
そうこうしているうちに、一同は医務局に到着した。
「ここだな…相変わらず気配がしないが…」
「一先ず入るぞ…俺が先頭でいく、ローレンスは最後尾を頼む。各自警戒を怠るなよ」
「「「了解」」」
バルジがゆっくりと中に入ると、まずロビーだった。
周囲を警戒しつつ、進む一同。
一部屋ずつ確認するが、やはり誰もいない
「誰も……おらんぞ」
「そんな馬鹿な……」
ローレンスとバルジが驚愕していると、一同の恐怖が最高潮を迎えた。
「やっぱり…みんな…感染しちゃったんですよ」
「マジでやべぇ…早いところ脱出した方がいいですって!」
「隊長!お願いします!!」
完全に戦々恐々になってしまっているコーリー・デイビッド・有紀をみて、バルジは判断に悩んでいた。
(確かにこれではワクチンは期待出来ん。残念だが、ここは脱出するのが得策か)
「やむを得ん…総員、一時管理局から撤退…」
バルジが命令を下そうとすると、有紀が声を上げた。
「ルイ!!!」
その声に一同が振り向くと、そこにはルイが立っていた。
「ルイ!良かった…無事だったんだな」
有紀の声かけにルイは不気味な声で答えた。
「ううん…違うよ…有紀くん…」
「へ?それはどういう意味だよ?」
「私ね…噛まれちゃって…ゾンビになっちゃったの…」
そう告げると、腕にある歯形を一同に見せつけた。
「なん……だって…じゃあ…」
「有紀くん…お願い…私寂しいから…一緒にゾンビになってよ…」
ルイの言葉に動揺している有紀にバルジは怒鳴り散らした。
「学!!惑わされるな!近づけばお前も感染するぞ!」
「バルジ隊長も…お願いします…それに…もう…逃げ場はないですよ」
ルイの一言で、様々なところからゾンビ群が出てきた。
「っ!!しまった。囲まれたか!!」
「まずいぞ、退路をたたれた」
囲まれた一同にジリジリとゾンビ群が迫ってくる。
「隊長!!どうしますか?」
「このままじゃ俺たちもゾンビになっちゃいますって!!」
「それだけは嫌!」
震える有紀・デイビッド・コーリーにバルジは命令を下した。
「こうなればもはや策はない。強行突破だ!総員、管理局外に脱出する。各自散開!!!」
バルジとローレンスが先陣を切り、出口付近のゾンビ達を鉄パイプで殴り始めた。
各が対応する中、後方から叫び声が聞こえた。
「嫌!!!離して!!助けてローレンス隊長!!!」
「くそが!!来るんじゃねぇよ!!ぎゃあ!!!」
「コーリー!!!」
「デイビット!!!」
ローレンスとバルジが戻り救出に向かうが、そこに再びゾンビ群が立ちはだかる。
「くそ!邪魔だ!どけ!!」
「お前らの相手をしている場合ではない!!」
悪戦苦闘していると、今度は有紀の声が聞こえた。
「うわ!離せ!!やだ!!助けてください!!バルジ隊長!!」
「学―――!!!」
血相をかいて駆け付けようとするが、近づくことができない。
そうこうしている内に、コーリー・デイビット・有紀は群衆の中に消えていった。
「くっそ!!」
「バルジ、今は悔やんでいる場合ではない!我々の体力も時間の問題だ。一気に切り抜けるぞ!!」
「分かっている!!!」
二人は鬼の形相のまま攻防を続け、その場から離脱した。
全速力で走っていると、少し離れたところに白いワンピース姿の女性が立っていた。
「お二人とも!こっちです!!早く!!」
「はぁっ はぁっ 誰だっ あの女は?」
「見たっ ところっ ゾンビではっ なさそうだ」
「まさかっ この状況でっ 信じるのか?」
「この状況だからっ 信じるのだろ!!」
打つ手がない状況に二人は疑心暗鬼になりながらもその女性の指示に従った。
ある部屋に入ると、女性は念入りに鍵を閉めた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…なんとか…逃げ切れたが…」
「はぁ…はぁ…はぁ…その…ようだな」
肩で大きく呼吸をしている二人に女性は声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…なんとかな。それにしても君は一体…」
「私はここの医務局で入院していたものです。外に異変を感じて逃げていました」
「そうか…なら初めての生存者だな」
「呑気な事を言っている場合か!!現状ここから出られないというのに!!」
ローレンスが状況の悪さに苦言をすると、女性が二人に再び声を掛ける。
「それでしたら、ご安心してください」
「なんだと?」
「この部屋には裏口があります。ここを通っていけば、エントランスまで行くことができます」
「エントランスか…どうするバルジ」
「こうなった以上、外に応援を呼ぶしかない。少々危険だが、確実に外へ出るにはそこしかないだろう」
「確かにな。了解した」
「それと、ローレンス。さっきはすまなかった」
「何の事だ?」
「俺の判断ミスだ。大切な部下を失ってしまった」
「まだ失ったと決まった訳ではない。それにこの作戦は俺も同意の上だ。気にするな」
「すまんな」
バルジが頭を下げていると、ローレンスが女性について相談をした。
「ところで、この女性はどうする?」
「そうだな…正直守りぬく自信はないが、ここに置いていくわけにはいかんだろ」
「まさか…同行させるのか?」
「うーん」
いい案が浮かばない中、女性が提案をした。
「あの…私はここに残ります」
「なに?一人では危険だ」
「今までここで隠れていたので大丈夫です。それに今は早く応援を呼ぶ方が大切です」
女性の真剣な眼差しにバルジは観念した。
「そうか……分かった。では君はここで待機していてくれ。後で必ず助けにいく」
「はい」
「ところで、君の名前は?」
「テレサです」
「テレサさんだな。心細いかもしれんが、我々を信じて待っていてくれ」
「はい!」
相互確認を済ませると二人は裏口を通ってエントランスへ向かった。
向かう道中、ローレンスはバルジを呼び止めた。
「なぁバルジ、少しいいか?」
真剣な表情で話す姿に嫌な予感がしながら歩みを止めた。
「…なんだ?」
「脱出の際、恐らくゾンビ群と対峙することになることが予想される」
「だろうな。それがどうした?」
「その際、もし俺がゾンビに襲われてもお前は加勢にくるな」
「なっ?!何言っている?!」
「無論負けるつもりはない。だがここで二人ともゾンビになってしまっては銀河鉄道に未来はない。最悪の場合、お前を死守するために俺が囮になる」
「ならば俺が囮になる。お前が生き残ればいいだろ!」
「バルジ!お前は最後の砦だ。俺よりSDF随一の頭脳のお前を生かす方が今後の勝率は上がるだろう」
ローレンスの真剣な眼差しにそれ以上言い返すことが出来なかった。
「ローレンス……分かった。だがあくまでも二人で逃げ切るのが前提だ。忘れるなよ」
「了解した」
覚悟を決めた二人は再びエントランスへと移動を始めた。
エントランスに到着し、物陰から監察していると、すでに数名のゾンビが歩き回っていた。
「やはり…待ち伏せているか」
「だが外の扉は開いたままだ。タイミングをみて、走り抜けていくしかない」
「了解した」
二人がタイミングを見計らっていると後方から声が聞こえた。
「あら…やっときてくれたのね…」
慌てて後方をみると、そこにはジュリアが立っていた。
「ジュリア?!」
「何故、お前がここにいる?!」
「なにって…みての通りよ…」
ジュリアが首元を見せると、ルイと同様の歯形が付いている。
「まさか、お前もか?!」
「なんて事だ…」
「残念だけど…もう…管理局で…感染していないのはあなた達だけよ…だから…諦めて…仲間になりましょう?」
ジュリアの問いかけに二人は後ずさりをしながら、話し合った。
「バルジ…最悪のケースだ」
「あぁ…こうなれば猶予はない。一気にいくぞ!」
「あぁ!」
二人は息を合わせて、物陰から飛び出した。そして、ゾンビをなぎ倒して出口へ向かう。
手際よく倒していくが、出入り口から次々にゾンビ群が侵入してくると二人は焦りの表情をしていた。
「なんだと?!まさか外から来るとは!!」
「しまった!完全に裏をかかれた!!」
あとに引けなくなった二人は、攻防を続けるが次第に体力が限界を迎えてきていた。
「はぁ…はぁ…くそ…そろそろ限界だ…」
「はぁ…諦めるとは…らしくないぞ。ローレンス」
お互いに背を向けて、対峙するも逃げ場はなかった。
そんな二人にジュリアが最後の警告をする。
「もう…諦めて…ゾンビになりなさいよ…」
「断る!!」
「最後まで諦めないのがSDFだ!!」
「そう…なら…仕方がないわね…」
ジュリアは周囲に合図を送ると一斉に襲いかかってきた。
「バルジ!俺が囮になる!お前は生き残れ!!」
「ローレンス!!くそ!!」
群衆に飛び込むローレンスにバルジは悔しさを胸に出入り口へ走った。
しかし多勢に無勢。奮闘も虚しく二人ともゾンビに押さえつけられてしまった。
「ぐぁ!!!」
「くっ!!!」
お互いに両腕を掴まれ、二人がかりで羽交い締め状態にされた。
「くっ…動けん」
「くっそ…離せ!!」
抵抗しながら後ろをみると、そこには顔を青く染めた有紀とデイビットがバルジを押さえていた。
「デイビット…有紀…お前らまで…」
「隊長…待ちくたびれましたよ…」
「俺たちと一緒になりましょう…」
「ようやくね…バルジ」
正面を向くと、ジュリアが悪魔的表情でしゃがみ込んでいた。
「ジュリア…お前まさか…」
「えぇ。今からあなたもゾンビにするわ…これで仲間ね…」
ジュリアがバルジの首元を押さえつけると、ゆっくりとむき出しにした歯を近づけた。
「バルジ!!!!」
「やめろーーー!!!!!」
バルジは叫びながら、恐怖のあまり目をつぶってしまった。
(くそ…これまでか…)
死を覚悟した瞬間だった。
しかし、瞼をぎゅっと瞑りながら待っているが、一向に痛みがやってこない。
不審になりゆっくりと目を開けると、そこには笑みを溢しているジュリアがいた。
「ジュ…リア?」
「うふふ、なんてね」
「はぁ?」
ジュリアの一言で気が抜けると、エントランスの照明が付いた。
「はい!カット!!お疲れ様でした!!!」
周囲を見渡すとそこにはキリアンがいた。
「キ…リアン」
「これは一体どういう…」
「バルジ隊長、ローレンス隊長、驚かせてすみませんでした。これはフィクションです」
「「フィクション?!」」
二人が動揺している中、有紀とデイビットがバルジの腕を解いて謝罪をした。
「バルジ隊長…その…これには理由がありまして」
「ビビらせてすみませんでした」
「だからこれはどういうことだ!!!」
「それは…」
バルジの追及に有紀が目を逸らしていると、藤堂が現れた。
「バルジ、ローレンス、すまん」
「「藤堂司令?!」」
「今回の件、私が説明する。実はディスニーランドから来月オープンに向けてのゾンビ列車のPR動画の作成依頼が来てな。管理局企画部がそれを許可した」
藤堂の説明にローレンスが怒りを露わにして尋ねた。
「それで何故こんなゾンビ茶番になるのですか!!!」
「ゾンビ列車のアトラクションは管理局企画部との共同開発だ。少しでも恐怖感を上げるために、管理局でも有名なシリウス小隊とケフェウス小隊が恐怖に怯えるところを撮れれば、面白いだろうと提案が出た」
「それで…管理局全体でこんな撮影を?」
「そういうことだ」
「しかし!いくら撮影とはいえ生身の人間にコスモガンの銃弾が効かないはずが…」
「あぁ~そのことか。それは事前に殺傷能力のない銃に取り替えたからな」
「まさか…この為の緊急点検作業ですか?!」
「その通りだ」
「呆れたものだ…だが何故バルジと私を最後に残したのですか?」
「SDF随一の二人が万策尽きてゾンビになるシーンが一番撮りたいとの要望だった」
「なんという悪趣味……下らん!」
「まぁ~騙したのは悪かった。だがこれも任務だ。多めに見てくれ。なぁバルジ」
藤堂がバルジに問いかけると、下を向いたまま座り込んでいた。
「バルジ?どうかしたか?」
返答がないので、藤堂が不信に感じていると、バルジはうつむいたままゆっくりとグローブを外した。両手を外すと今度はスカーフを片手で外し、無言のまま纏めて地面に叩きつけた。
バサッ!!!
その異様な光景に藤堂をはじめ、周囲の一同が恐怖を感じていた。
「バルジ…隊長?」
「あの…どうしましたか?」
有紀とデイビットが心配になり声かけをすると、無言のままゆっくりと立ち上がりその場を後にしようとしていた。
「おい…待て!どこに行くつもりだ!」
藤堂の問いかけに背中を向けたまま、地獄の底から聞こえるような低い声で答えた。
「ちょっと……総司令のところへ行ってきます」
「「「総司令?!」」」
「一体…何をしに行くのだ?」
藤堂が恐る恐る尋ねると、思いがけない一言が出た。
「総司令に除隊の申し出をしてきます」
「「「除隊?!」」」
「ちょっと待て!!騙したことは悪かった!!早まらないでくれ!!」
「もう……どうでもいいです。シリウス後任の隊長は勝手に決めてください」
周囲が動揺している中、傍観していたローレンスが叫んだ。
「待て、バルジ!!!」
その一言に歩みを止めて振り向くと、この世のものとは思えない冷徹な瞳でローレンスを見た。
「なんだ…お前も俺を止めるのか?」
「違う。俺も共に行く」
「「「はぁ?!」」」
「ローレンス?!お前まで何を?!」
止めてくれると期待した一同から絶望の息が漏れた。
「俺も今回ばかりは堪忍袋の緒が切れたからな。お前と一緒に除隊する」
「そうか…気が合うな。なら共に行くとするか」
「あぁ」
ローレンスも立ち上がりバルジの元へ向かう姿に藤堂が叫んだ。
「ま、待て!!!お前ら正気か!!!」
「藤堂司令、今まで御世話になりました。シリウスと同様で後任の隊長はお任せします」
素っ気なく告げると、今度はバルジと会話を始めた。
「待たせたな。で、除隊後の事はなにか考えているのか?」
「いいや。だがもう戦闘は御免だ。どうせなら惑星ビーナスみたいなところでのんびり過ごしたいな」
「そうだな。この際一緒に暮らすか?」
「それもいいかもな…」
歩きながら、除隊後の雑談をしている二人を見て周囲の危機感が警鐘を鳴らした。
(((この人達…本気だ!!!!)))
「いかん!!!総員、あの二人を止めて説得しろ!!!」
「「「了解!!!」」」
藤堂の命令により、まずシリウス・ケフェウス・スピカが説得を試みる。
「バルジ隊長!!本当にすみませんでした!!!」
「今回は企画部からの要望なんで仕方がないですって!!!」
「バルジ隊長が辞めたら…銀河鉄道の安全はどうしたらいいんですか!!!」
半泣きしながらバルジにしがみつく、有紀・デイビット・ルイ。
「知らん。お前らでなんとかしろ。あと手を離せ」
嫌気がさした表情をしているバルジ。
「ローレンス隊長!!お願いです!思い留まってください!!!」
「俺たちには隊長が必要なんです!!」
「早まらないでください!!!」
シリウスと同様で、ローレンスにしがみつく、キム・ピエール・コーリー。
「見苦しいぞ!お前らをそんな風に育てた覚えはない!とっとと手を離せ!」
うっとうしそうな表情をしているローレンス。
しがみつかれている二人の前にスピカ小隊が立ち塞がる。
「バルジ隊長・ローレンス隊長!!!思いとどまってください!!!」
「SDFには、お二人が必要です!!!」
「どうか!!ここは穏便に!!!」
両手を広げて前に立つ、マギー・シェリー・愛。
「大人げないわよ。ちょっとした肝試しだと思って許して頂戴!」
3人の後ろにいる呑気に話すジュリア。
ジュリアの一言で、二人のこめかみにミミズのような血管が浮き出た。
そして、全身怒りの塊で耐え切れず爆発したように叫ぶ。
「「これの何処が肝試しだ!!!!!」」
盛大に管理局に鳴り響く怒号。
その後、藤堂も参戦し、SDF総出で二人を説得することになった。
結果、二人の要望(条件)で二人の出演シーンは全面的にカットされてPR動画は作成された。しかし、SDFが受けたダメージは大きく、不滅のシリウスの機嫌が戻るのに数日かかってしまうのは言うまでもない。
【完】
【次回予告】 未定(たぶんお月見かな)
~アフターエピソード~
翌日。夜間撮影の関係で、シリウス小隊の定期パトロールは中止となりケフェウスと共に共同ミーティングルームで待機をしていた。
「ふぁ~~それにしても…寝みぃな…」
「そうよね…」
「結局、全然眠れなかったしな…」
少し眠たそうにしているデイビット・ルイ・有紀。
「でも、まさか管理局全体であんな撮影会をするなんてな…」
「企画部の奴ら頭大丈夫か?」
「もうこんなのは御免よ」
企画部の計画に愚痴を漏らすピエール・キム・コーリー。
「そういえば…ルイ」
「なに有紀くん?」
「なんで、途中で離れたりしたんだい?」
「え?あぁ~あれはね。後方を歩いていたら突然、ジュリア隊長に口を塞がれちゃってそのまま連れて行かれちゃったの。その後、藤堂司令から事象を聞いてゾンビキャストに回ることになったのよ」
「そうだったのか…でも無茶するよな」
「なんで?」
「だって、もし俺たちが新しい武器とかを見つけていたら、それこそ怪我じゃすまなかっただろ?」
「その為のスピカ小隊じゃない。事前に武器は全て回収した上に、監視カメラのリアルタイム映像で情報収集を徹底していたわ」
「「「へぇ~」」」
「でもよ~実際は何人か怪我人出ているんだろ?」
「そうね…流石の藤堂司令も鉄パイプで殴打するとは思っていなかったみたい」
「思わなかったって無責任な…」
「バルジ隊長とローレンス隊長の殴打の猛攻…エグかったもんな…」
「藤堂司令もツメが甘いな…」
「ある意味で…一番の被害者達だよな」
「そうね」
有紀・デイビット・キム・ピエール・コーリーが惨劇を思い出すと、全員で両手を合わせて合掌した。
「だけど、流石に捕まったときは漏らすかと思ったぜ」
「確かに…俺も捕まったときは死を覚悟したよ」
「でも平気だったでしょ。それに有紀くん達も結局、ゾンビキャストになったじゃない」
「だって、藤堂司令からの命令じゃ逆らえないよ!」
「そうだぜぇ。なにが悲しくてバルジ隊長を羽交い締めしねぇといけねぇんだよ!」
「またまた~そんなこと言って、意外とノリノリだったじゃない!」
ルイの言葉を聞いて、机でなにかをしているバルジが凍てついた声で反応した。
「そうなのか?デイビット…有紀…」
「そ、そんなわけないじゃないですか!!」
「隊長も気にしすぎですって!」
怯えながら必死に反論する姿をみて、ローレンスは呆れ顔をしていた。
「全く…馬鹿が。ところでバルジ、お前さっきから何をしている?」
「あ?あぁ…なに、除隊届を書いているだけだ」
「「「はぁ?!」」」
「除隊届って!!!」
「まだ、諦めてくれていなかったのですか!!!」
「やべぇ!!!早く藤堂司令に連絡をしねぇと!!!」
バルジの思いがけない発言にルイ・有紀・デイビットが血相をかいている。
「お前ら…早とちりをしすぎだ」
「「「へ?」」」
「流石にSDF総出で説得されたら、断ることは出来ん」
「「「はぁ…良かった」」」
安堵していると、有紀が尋ねた。
「なら…その除隊届は?」
「なに、ただのお守りだ」
「「「お守り?!」」」
「あぁ、これを懐に入れておけばいつでも提出出来るだろ?そうすれば今回のような事は事前に防げるからな」
「なるほどな…確かに効果的だな。なら俺も後で用意しておくか」
「便せんが必要なら分けてやろうか?」
「そうだな。なら遠慮なく貰うぞ」
バルジとローレンスの不気味な会話を聞いて、周囲の一同は氷付いていた。
(((絶対にこの二人を騙そうなんてしたら駄目だ!!!)))
作業をしていると、バルジはあることを思い出した。
「あ…そういえば……ルイ」
「なんですか?」
「あのテレサさんもキャストの一員だったのか?」
「テレサさんですか?」
「医務局で逃げたときに出会った白のワンピースの女性だ。あの人も演出の一環か?」
バルジの問いかけにルイは頭を傾げた。
「いいえ。そんな演出の報告ありませんけど…」
「ゾンビの動画撮るって言うのに、そんな女性出したら目立つでしょ」
「撮影終了してもそんな人は居ませんでしたし」
ルイ・デイビット・有紀の言葉を聞いて、バルジとローレンスは少しずつ青ざめた。
「では……あの女性は……」
「まさか…………」
二人は脳裏に浮かんだ仮説を言葉に出すことはなかった。
そしてディスティニーに続く残暑の中、管理局では得体の知れない冷気が漂い続けていた。
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