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着ぐるみ噺5

  いつか解放された時の為に、何があったか、一つずつ思い出すと言う事を繰り返している。事実、今の自分に出来る事は、それぐらいだから。

  

  もう、随分と前、あれは、盆休みに暇だと言っていたら、Xが遊びに誘ってくれた事に始まる。

  彼女とはオフで何度か顔を見合わせているし、特に変な人にも見えなかった。身ぎれいで、割と上等な身なりだ。

  女同士で、かぶり物コスの仲間と言うので、すっかり信頼していた。ぶっちゃけ、彼女が急にレズビアンを告白して、自分に迫ってきても、多少はいいかなと思うぐらいはあった。

  

  彼女の家は、Q県のA駅から車で数十分と言う距離である。

  迎えに来た車がなかなかの高級車であったから、覚悟はしていたつもりだが、山奥の豪邸を見ると、流石に驚いた。

  大雨でも降れば、何処かの密室サスペンスみたくなるだろう。そんな冗談も、彼女は笑って受け流してくれた。

  

  新作を着せたいと言うので、早速奥の部屋に通される。

  用意されていたのは、ドールのようなお面と、球体関節肌タイ、やたらと複雑なドレスであった。

  「一番似合うかなと思って」

  そんな風におだてられながら、肌タイを着る。

  全裸になってと言われた時にはぎょっとしたが、まぁ、彼女にそう言う部分があるだろう事は織り込み済みだ。自分としても、彼女に股間をまさぐられて、胸を揉みしだかれてもいいと思っている。

  肌タイは、手足指付きで、色は面に合わせてある。球体関節風に模様が描いてあり、その位置は、自分の四肢に丁度よい風になっていた。胸も、自分のバストに合わせて、上手く立体裁断されている。所謂、乳袋と言う奴だ。

  次いで、全頭面を被る。どうやって測ったのか、サイズはピッタリで、覗きと目の位置は完璧だった。

  

  服は、上等なサテンで作られた、見事なドレスである。尤も、着替えるのに、彼女の手を借りなければならない。

  普通、こう言うのは、面を被るよりも先にするものだが、今回の面は自分の頭部にギリギリなぐらい小さく、普通の服でも頭を通せるぐらいだったのだ。

  

  そこから、別室に移動して写真撮影である。

  彼女がネットに上げる写真は、いつも何処かしらの撮影スタジオでやっていたと思っていたが、察しの通り、彼女の自宅で行われていた。

  何枚も何枚も写真を撮っていく。

  今まで、撮影会の経験は何度もあるから、ポーズや背景を変えて撮っていくと、あっという間に時間が経過する事を知っている。

  だが、今回は、撮影者が余りにも乗りすぎたのだろう。段々腕が重くなってくるのを感じた。

  頭を取って休みたいと、口にしようとして、言葉が出ない。全く、声が出ないのだ。

  自分は慌てて、それをジェスチャーで伝えようとするが、相手には全く通じない。

  

  次第に、手足は動かなくなる。

  これは、脳の血管が切れたとか、そう言う奴じゃないか? こんな山奥なら、病院まで暫く掛かるだろう。これは、もう死んだなと覚悟を決めざるを得なかった。

  

  しかし、そうはならなかった。

  身体が固まっていくが、平衡感覚だけはしっかりしていたからだ。呼吸は正常、視界も良好である。

  それにXは、動かなくなった私を見ても、動揺する様子がないばかりか、当然と言う顔をしているのだ。

  

  「定着したようね」

  Xは不敵な笑みを零すと、そのまま私の腕を好きに動かし、ポーズ付けて、そして撮影をすると言う繰り返しを始めた。

  だが、そんなことも長く続かず、彼女は、私の股間をまさぐり、胸を揉みしだくと言う行動に移っていった。

  そんなことをするだけなら、こんな事をしなくてもいいのにと思いつつ、身体の方は反応してしまう。

  自分でも前進がピクピク動くのが分かるし、息も荒くなってくる。

  Xは無言で私の身体を玩び、そして放置した。

  

  そこからは、時間の感覚などない。

  この部屋には窓がないし、自分はこの状態のまま、眠ったり起きたりしていなければならない。外部から見て、呼吸音ぐらいしか、私のそれを知る事は出来ないだろう。

  しかし、不思議と、喉の渇きや空腹などを感じる事もなかった。否、既に何日も過ぎている筈だが、体臭すら感じていない。

  これは、明らかに何かの薬で筋肉が弛緩だか緊張だかしていると言う訳ではなさそうだ。

  

  尤も、その謎を彼女が語るとも思えない。

  彼女は何をするにも寡黙であった。

  私がただの人形となっているのであれば、それは当然のことかも知れない。人形遊びをする大人が、人形に語りかける事までするのは、なかなかウェットな人間だけだろう。大抵の人間は、ドールにせよフィギュアにせよ、玩具としか考えないだろう。

  彼女にとっての私も実にドライな関係でしかないのだ。

  

  彼女の近頃の遊びは、私の手を股間に持っていって、私の指先だけ自由に動かせるようにする事である。何か特別な注射や何かをしたとも思えず、その原理は謎だが、彼女に逆らうのも怖く、素直に彼女の女性器を愛撫することに専念した。

  また、ある時は、私を全裸にして、ベッドに横たわらせて、同じく全裸になった彼女と添い寝したこともある。勿論、私の太腿や股間に、彼女の股間を擦り付けるような事もしていたが、私は身動きも出来ないので、受け容れるしかない。

  

  最終的に、彼女の遊びは、時間限定で私を自由に動かせるようにして、自分とセックスをして、その後、じっくり固まっていくのを見て楽しむ趣味へと移っていった。

  私は、当初、固定化に抗うように手を動かしたり、頭を外したりしようと必死になったものだが、そうした苦労が全くの無駄だと分かると、素直に諦めるようになった。

  

  また、ある自由時間の時、自分を鏡で見たが、あらゆる関節が、ドールのように球体関節に変化していた。また、皮膚もソフトビニールのように柔軟性のあるプラスチックのように変化していたのだ。

  暫くは、それに見とれていたが、しかし、これはもう、二度と普通の人間に戻れないのだと言う事を知る事となり、私は絶望した。

  尤も、絶望など今までと何一つ変わることはない。早々に、心を凍らせ、何も考えないようにした。否、脱出できたときの事以外は。

  

  そう言う諦念が、彼女の不興を買ったのだろう。もっと言えば、すぐに飽きて仕舞ったのだろう。

  余り使わないコレクション部屋の大きなショーケースにしまわれる事が多くなった。

  

  そうなってくると、気まぐれでも自分をいじって遊んでくれた方が、どんだけ楽かが分かった。

  そこからは、もう、奉仕の一言でしかない。下手くそな演技も身につくようになった。

  

  ただ、これらも彼女の飽きを多少遅くさせるに過ぎなかった。

  もう、ここ何日もショーケースの中で、同じポーズをとっている。疲れもせず、空腹も乾きもない。これは、もしかしたら、死すらないかも知れない。

  他の誰でもいい。私を構って欲しい。

  

  

  

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