あれからまた月日が経った。
かつて、妻であるモグリーナと可愛い子供をさらわれ、じんべえランドへ乗り込み、無事にじんべえの手から助け出したオレ。
その後普段の生活を取り戻し、何事もなく過ごしてきたオレはいつものようにキャビッジを集めに行く途中で、“ラビッピ”という名のウサギの女の子と出会った。
彼女がじんべえの奴に吊し上げられた上に、叩かれながら罵倒されている様子を目の当たりにし、正義感からか彼女を助けてあげる事になった。
しかし、その彼女はかつて道中でオレの行く手を阻んできたうちの一人。
だが、散々オレを邪魔する為に彼女を使っておきながらあの仕打ちだ。当然彼女はアイツを嫌っていて、寧ろヤツから助けたオレに好意を向けていたのか、告白された直後にオレはつい一目惚れをしてしまう。
でも、オレの元には愛する妻のモグリーナと子供達という大切な存在が居るという事で断り、一旦は友達という関係になったあの春の出来事から3ヶ月がたった今。
実は彼女とはあれから、一度も会っていない。
たまにふと今頃彼女はどうしているのだろうと、その後の事が気になる時があるものの……未だ彼女の元へは行けずにいた。
さすがに、あんな断り方をしたから傷つけてしまったか……オレの中で、彼女へした返事を思い返しては、「いや、これで良かったんだ」と自分の選択を正しかったというように、自らの心を納得させてきた。
しかし、あの子には一緒に居てくれる仲間も居ない感じだった為、時々不安に思う事もあった。
そうだ、オレは今彼女に会いたい。
その気持ちのまま、オレは彼女と初めて出会った森へと向かっていた。
[newpage]
「ラビッピ……元気にしてるかな。」
今日は、たまたまモグリーナが子供達を連れて少し離れたひまわり畑の方へと行っている。
本来オレは留守番を頼まれたんだが、彼女と会うには今しかないと思い、申し訳なく思いながら森へと向かっている。
暫く歩くと、前方には彼女と出会った一本の木が見えてきた。
するとそこには、まるでオレが来ることを予測していたように、彼女の姿があった。
「……ぁ、モグラーニャさんっ!」
「っ、ラビッピっ。」
オレはすぐに彼女の元へと走っていく。
彼女はそんなオレを見て、嬉しそうに小さく両手を振っていた。
「良かった……また会えて……っ。」
「っ、ごめんな?でもオレは、ラビッピの事忘れてた訳じゃないぞ。」
「い、いえ……。その……モグラーニャさんはそんな人じゃないって、信じてますからっ……。」
「ん、そうか。ありがとな?」
オレに抱きつく彼女を、そっと抱き締めてやり、頭を撫でながら頬を赤らめる様子を見てクスッと笑う。
そして、オレの事を信じてくれていることへの礼を言うと、彼女は小さな声で「いえいえ」と返してきた。
「っ、あ……あの……。」
暫くオレに抱き締められたままの彼女だったが、そのまま顔を上げるとオレを見る。
何か言いたそうな感じが、普段通りのか細い声から伝わってきた。
オレはそんな彼女に聞いてみる。
「ん?どうした、ラビッピ。」
「ぁ……いえっ。」
しかし、相変わらずの消極的さにオレは爪を引っ込ませて、右手で彼女の頭を撫でた。
気持ちよさそうにしながら、彼女は何か言葉を考えているのか、少し俯き気味になる。
そして数分位経ってから、彼女は顔を上げて再びオレの顔を見ると、何やらお願いするような目をし……。
「……あ、あの……いい、ですか……?」
「ん?……悩みとかあるのか?」
「ぁ……はい。悩み、というか……その……。」
先程までとは違って、口調も真剣そうな感じになる。
でも、彼女の性格上思っている事をそのまま言い出せないのか、どもっていた。
しかし、間を置くと彼女は思わぬ言葉を口にした。
[newpage]
「わたし……最近誰かに狙われてる、気がするんです……。」
「……。」
オレは、彼女の言葉を聞くとまず最初に、あいつの姿が思い浮かんだ……“じんべえ”だ。
あいつは、一度彼女に対して酷い事をしている。可能性はあるかもしれない。
でもまだ、そうとは限らないと思い、彼女の言葉の続きを待った。
「誰かに……。」
「はい……。いつもわたしが此処で、眠っていたり、遊んでいる時……木の陰からわたしの事を見ている人が居るみたいで……。」
「そいつの、姿とか顔は?」
「……っ、そこまでは……。でも、何となく……ちょっと大柄な感じかなって……。」
彼女の答えから、オレの中では既に二人の姿が浮かんできていた。
一人はやはり、あいつ。そしてもう一人は……。
「アソン……。」
一瞬、あのサムドンだと思ったが、根は優しいという事を思いだし、その子分へ対象を変える。
いや、それ以前に何故敵の名前を覚えてたのか自分でも不思議だが。
そんな事を考えていると、彼女は慌てた口調で。
「わっ。あ、アソンさんは……そんな、悪い事するような人じゃないですよ……っ!」
「っ、そっそうなのか?」
「はいっ。たまにわたしが高いところへ、キャロットを投げてしまった時、取りにいってくれたり……わたしが、つまずいて転んだりすると何処からかっ……!」
彼女は半ば夢中で話すと、オレの顔を見てすぐに話すのを止め、下を向いた。
彼女のどこか夢中で話す姿は、普段よりも早口でびっくり……。
「っ……うぅ……。」
「そっか。よしよし、ごめんな?」
オレは顔を赤くして俯く彼女をそっと撫でた。
[newpage]
――それからオレは、落ち着きを取り戻し話し始めた彼女の話を聞いてあげていた。
「冬なら……きっと、子ネヂミちゃん達が守ってくれると思うので……安心できそうです……。」
「なら……今の時期だけだな。気を付けなきゃならないのは。」
「はい……。」
小さく返事をする彼女。やはりその表情を見るからに嘘偽りなく、本当の事なのだと察した。
すると、彼女はオレに向き直り……。
「なのでっ……その……。」
「ん?」
「わたしの事、……守っていただけますか?」
頬を染め、恥ずかしげな様子を見せながらも、彼女はそうオレに問うてきた。
オレにはもちろん、彼女と友達関係になり、さらに彼女の事が好きな以上断る理由はない。
「……ああ、守ってやるよ。」
「ほ、本当……ですかっ?」
「本当だ。お前に悪さをするやつが居たら、オレがやっつけてやる。」
「ぁ……ありがとうございますっ。」
オレは右手を拳にして胸を叩いて言うと、嬉しそうにお辞儀をする彼女に笑いかけた。
だが……そんなオレ達にこの後、とんでもない事態が待ち受けているとは、この時には思いもしなかった。
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一先ず、オレは久し振りに会えた彼女とゆっくり、二人だけの時間を過ごそうと思い、切り株に座った。
彼女は一度「ちょっと待ってて」と言い残し、森の中へと入っていったが、すぐにリンゴやキャロットを転がしながら戻ってきた。
「ん?それは?」
音に気付き、転た寝をしかけていたオレは彼女の方を向き、持ってきたものについて問いかける。
「ぁ、えっと……リンゴと、わたしの好きなキャロットです……っ。リンゴは、カンガルーンさんがくれました……。」
「おお、ちょうど良かった。腹へってたんだ。」
オレは切り株から降り、リンゴの元へと歩いていく。
彼女は迷うことなく、キャロットを両手に持つと、ウサギらしく前歯を立ててかじりついていた。
しかし……。
「おい……これ、どうやってたべるんだ?」
生憎リンゴはそのままで硬く、かじりつこうとしても、あまりの硬さと丸いため、食べられない。
オレはキャロットを食べる彼女に聞いた。
「っ、ぁ……ごめん、なさいっ……。無理、ですよね……。」
彼女はキャロットを手放すと、申し訳なさそうに謝る。
でも、彼女でもこのリンゴは食べられなさそうなかんじだ。
「あぁ……無理にやればオレの歯が折れる……。」
「……じ、じゃぁ……キャベッジ、持ってきましょうか?」
「ん……いや、オレはミミズでいいや。ごめんな?」
オレは仕方なく、地中にいるミミズを探して食す事にし、リンゴから離れる。
彼女も、俯き加減になってリンゴから離れた。
と、それから間を置かずして何か妙な音が後方からしてきた。
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(グシャっ、グシャっ……ガブっ。)
何やら硬いものを食べているような音だ。
オレは後方へ振り向こうとした、その時。
「あっ……アジラさん……。」
「ん?あ……アジラ?」
オレ達の振り向いた先には、さっき食べようとしていたリンゴを、いとも簡単に音を立てて食す、恐竜のような姿の、アジラというやつが居た。
彼も、彼女同様にじんべえランドではオレの進行を妨げようとしてきたやつだ。
「……ン?これ、お前らのだったのか……?」
彼がオレ達の方を向いて聞いてくる。
すると彼女は物怖じせず。
「はい。……でも何だか硬くて、食べられなかったのでっ。」
「……ま、お前らじゃ当然だな。」
彼女の答えに、彼はオレ達を見下すような態度でそう返してきた。
オレはその態度に、ちょっとだけイラッとする。
「ですよね……。」
彼女は彼の指摘に、否定することができず俯く。
そんな横で、彼はオレの方を向いた。
「そう言えば……お前はモグラーニャと言ったな?」
彼はオレの名前を覚えていたのか、そう質問してきた。
オレは頷き「その通りだ」と返すと、彼は暫くオレを見つめた。
「……なんだ?」
「っ、別に……おれはもうお前には何もしねぇよ。おれも……そのウサギと同じ目に遭ったからな。」
「……えっ?」
オレが彼を見上げると、彼は急に顔を反らして俯き、ため息混じりにそう答えた。
それを聞いたオレはふと、アジラの答えの中から、1つの単語が引っ掛かった。
[newpage]
「わっ……わたしはラビッピです……っ!」
その隣で、“ウサギ”呼ばわりした彼を小さく膨れて見ながら言い返す彼女。
それを横目に、オレはその単語について聞いてみる。
「なぁ、アジラ……1ついいか?」
「……何だ?」
「お前も……あいつに何か酷い事された、のか?」
オレは、彼女と同じような仕打ちをじんべえから受けたのか気になった。
すると、彼は何故か周囲を見回し、何かを感じたのかオレ達に背を向けてしゃがんできた。
「お前ら……おれに乗れっ。」
「えっ?」
突然の彼の行動に、オレも彼女もキョトンとする。
しかし、彼は真剣な顔でオレ達に乗るよう促してくる。
「いいから早くっ!」
「わ、分かったっ……行くぞ、ラビッピっ。」
「ゃっ……あ、はいっ。」
オレは彼の背中に乗り、彼女の手をとって一緒に乗せる。
彼女は急に手を握られたからか、小さく悲鳴を上げるも、そんな場合じゃないんだと思い、オレに抱かれるような姿勢で、彼にしがみついた。
「ここは危険だ……っ、おれ達を狙ってるやつが居る。」
「っ……!」
彼は先程までと違い、少しばかり焦っていた。
それを聞いて彼女もその見えない恐怖に怯えているせいか、ビクッとして顔を伏せる。
どうやら、例の犯人が近くに居たようだ。
「っ……ごめん、なさい……。」
「いや、ラビッピは悪くないっ……でも誰なんだ一体……。」
彼女は自分のせいで、オレや彼を巻き添えにしていると思い込み、申し訳なさそうに涙声になりながら謝っている。
オレは彼女を落ち着かせようと、頭を撫でた。
「モグラーニャの言う通りだ……っ。ウサギは気にするな……。」
「っ、ぐすっ……ラビッピです……っ……。」
彼も、彼女を庇うようにそう言い、涙声の彼女からまたさっきと同じく言い返される。
そんなやり取りをする中、オレ達は森から離れた、砂浜の見える辺りへ向かっていた。
[newpage]
――やがてオレ達は、砂浜の近くで降ろされた。
「フゥ……ここまでくれば、流石に来ないだろ……。」
彼は一息吐くと、オレ達の方を向く。
しかしオレ達は何故ここへ連れてこられたのかわからず、不満そうにしていた。
「ここは何処だ……?」
「う……なんだか、暑いです……。」
辺りを見回すオレ。ふとじんべえランドにも似たような所があった事を思い出す。
彼女は元々森や冬の雪山にしか居なかったせいか、暑さには弱いみたいだ。
「……なんか不満か?」
彼は逆に南国や森にしかいなかった為か、暑さには慣れているようで、オレ達を目を細めて見つめながら。
「いや……わざわざこんな所じゃなくても良かっただろ。ほら、ラビッピなんか暑そうじゃないか……。」
「っ……、早く帰りたい、です……。」
そう答えるオレと、今すぐに元の森へ帰りたいと呟く彼女。
彼は片手で頭を掻くと、仕方なさそうにまたオレ達へ背を向けてしゃがんだ。
「……分かったよ、おれがバカだった……。……帰るぞ。」
フゥ、と自分の考えが間違っていた事を認めて一息吐く彼。
オレ達が再び彼の背中に乗ると、どこからともなくこちらへ走ってくる音が聞こえてきた。
[newpage]
「おーい!もう帰るのー?」
「っ……あ、アソンさんっ。」
「ん?アソン……?」
突然向こうから走りより、オレ達の前で息を切らしながら笑顔で聞く筋肉質の男、アソン。
そんな姿を見ると、すぐにあの嫌な思い出が蘇ってくる横で、彼女が手を振る。
「ん?おやー、モグラーニャくんにアジラくんじゃないかー。それにラビッピちゃんも、どうしたの?」
常に笑顔を浮かべる見た目にマッチした、まるで何も考えてなさそうな口調でアソンはオレ達に話しかけてくる。
オレはあの戦いを思い出してしまったせいか、ソッポを向いた。
「どうしたって……まぁ、何だかな。」
彼はアソンの問いにそう答えると、ちらっと彼女を見る。
彼もあまり、アソンの事をよく思っていない様子だ。
「ぁ……えっと……。」
「うん?何か悩み事なの?ほらほら、お兄さんに話してごらん。」
彼女は、自分が誰かに狙われているという恐怖を口にしようとするが、アソンの態度に圧されて口ごもる。
そんな様子を見ていた彼が、少しばかり不満そうな顔をしつつも代わりに答えた。
「ラビッピは今、悪い奴に狙われてる……それだけだ。」
「へ?そーなの?」
彼の答えに、アソンはキョトンとして聞き返す。
彼女もアソンの方を向いて、彼の言う通りだと小さく頷き、小声で申し訳なさそうにこう話した。
「ごめんなさい……。そのせいで、皆さんに心配かけて……。」
「ん、オレは気にしてないからな。アジラも、だろ?」
「あ、ああ。……寧ろ女の子なんだから、幾らでも掛けてくれて構わない。」
オレ達はそう安心させようと、彼女に返す。
そんな様子を見ていたアソンが、何か気になる事を口にしてきた。
「ね、ねーみんな?最近、ガジャとかフェイスネークを見ないんだけど、知ってる?」
アソンは急に真顔で、そうオレ達に訪ねてきた。
ガジャやフェイスネークも、かつてじんべえランドでオレの邪魔をしてきた奴らだ。
「ん?……あいつら、お前の所によく居たはずだぞ……。どうかしたのか?」
彼は2人の事をよく知っている様子で、そう答える。
オレと彼女は黙って2人のやりとりを見ているだけ。
しかし、その後にまたアソンは予想もしない質問を最後にしてきた。
「うーん。なんか、フェイスネークがやたら意味の解らない歌を歌いだしたり、ガジャが壁や木に体当たりしたりしておかしいんだー。
んで、何日か前から見かけなくなっちゃってね。……もしかしてキミ達の所に居たりしない?」
「……ぇっ……。」
何故か、彼女はビクッとして下を向く。ひょっとして彼女を狙ってる奴って……。
「いや、そいつ等割と普段は普通なはずだろ?……フェイスネークの奴は、いつも口開けてるだけでのんびりしてるはず……、?」
彼はアソンの質問に対して信じられないという様子でそう返す。
しかし、2言目で何かに気付いたのか急に黙り込んでしまった。
「フェイスネークさん……。」
彼女はふとその内の1人の名前を口にすると、森の方を見つめた。
きっと、犯人の特徴を思い出したんだろう。
「あれ?あれ?なにかボク、変な事言っちゃった?」
「あいつか……もしあいつだったらおれは……っ!」
アソンがそんな彼女の様子に慌てる中、彼はすぐに森へと戻る準備をし、構えている。
どうやらフェイスネークに対して、何か気になる事が出来たらしい。
「有難う、アソン。じゃあな……っ!」
「っ、きゃあっ……!?」
「大丈夫か?ラビッピっ。」
「ぁ、はい……っ。」
彼はそう言うと、オレ達を乗せたまま急いで森へ向かって走り出した。
「ちょっ、せっかく来たんだから遊んでいってよーっ。」
[newpage]
「ぁ、あの……っ。」
森へと戻る最中、彼女が突然オレ達に話しかけてきた。
彼は走りながら耳を傾け、オレは彼女の方を向いて続きを待つ。
「ん、どうした?ラビッピ。」
オレは気になり、彼女の様子を伺う。
何となく彼女の表情から、オレ達に気を遣わせまいと何か言いたげな感じだ。
「っ……っ……、ここまで来て、やっぱり戻りたいってのは無しな……っ?」
「い、いえ……っ、そんな……。」
彼は休む間もなく走っている為か、息を整えながら彼女にそう返す。
彼女はそんな彼の様子に、申し訳なさそうに言うのを躊躇っていた。
実際、森からさっきの砂浜まで向かっていた時は、例の彼女を狙う者が現れたという彼の言葉により、まるで逃げるようにして走っていたからあっという間だったのかもしれない。
でも今は、アソンの口にした言葉を気にした彼が、必死に森へと向かっている。
(もし……ラビッピを狙ってるのが、その、フェイスネークとかいう奴だったら……)
オレはふと彼の気持ちになって、アソンの挙げた2人の名前の内、怪しげな1人の事を考えてみる。
どんな姿だったかは、特徴的な為かすぐに頭の中に浮かんできた。
しかし、彼とそいつに何の関係があるのかまでは知らないし、知る由もないし、オレにとっては今は彼女の無事の方が大事だ。
──そんな事を思っているうちに、いつの間にかオレ達は元の森へと戻ってきていた。
「ありがとうございます……っ、アジラさん……。」
「いや、お礼なんか……寧ろおれがお前らを振り回させちまって、ごめんな。」
「……オレは気にしてないから、謝るなよ。な?ラビッピ。」
「ぁ……はい。わたしも……違う世界をちょっとだけ、体感する事ができましたから……っ。」
森へ着くなり、その場へ降ろされたオレ達はそんなお礼や謝罪を交わしていた。
だが、まだ本題は解決した訳じゃない……少しの油断もできない状況である事に変わりはないのだから。
「そうか。なら良いんだが……。」
彼は彼女の返事を聞き、安心したように一息吐くとそう言う。
でも、此処を出る前に感じた視線が気になるのか、彼は頻りに周囲を見回していた。
「アジラ……?」
オレがそう呼びかけると、また彼は気配を感じたのかその一点を睨みつけた。
どうやら、犯人と思わしき奴が現れたらしい。
「おれ……ちょっと行ってくる。お前らはそこで大人しくしとけ。」
「ああ。」
「は、はい……っ。」
オレ達は返事をし、彼を見守るようにしてその場で待つことにした。
[newpage]
──彼がその対象らしき者へと向かってから、数分が経った。
「アジラさん……大丈夫、でしょうか……。」
彼女は、彼が酷い目に遭わされていないか心配なのか、そわそわしていた。
そんな彼女の頭をそっと撫でてやると、俺は落ち着かせるようにとこう言う。
「大丈夫だ。きっとな……、何たってあいつもオレを散々妨害してきた奴だしさ。」
「……もう。忘れられない事なのは分かりますけど……そんな言い方h……きゃっ?」
「コ~ラっ。お前の方がオレ、結構邪魔されたり体当たりされた気がするぜ?」
「えぇっ、ごっ、ごめんなさいっ……!痛くなかったですか?」
「ああ、痛くな……痛かったに決まってんだろっ。お返しだっ!」
「きゃっ!?あっ、やっやめっあはははっくすぐったっ……!」
オレはかつての事を思い出すと、彼女を思い切りくすぐった。
くすぐられる彼女は、まるであまり笑ったことがなかったのか、それまでの気弱な感じとは違っておかしな笑い方を見せた。
そんな風にオレ達がじゃれ合っていると、少し不機嫌そうにしながら彼が戻ってきた。
と、彼の隣にはもう1人歩いてくるのに気づき、警戒しつつその顔を見ると、その顔には見覚えがあった。
「やっぱり、こいつだった……っ!」
彼は残念そうに言うと、そのもう1人の奴を後ろから突き飛ばす。
勢いで倒れこむ、ヘビのような奴……そう、そいつはアソンの言っていた”フェイスネーク”だった。
「フェイス……ネーク、さん……?」
彼女は倒れこんだフェイスネークの元へと近寄る。
すると、フェイスネークはゆっくりと起き上がり、彼女を見上げた。
「……っぐ……ゴメン……。」
「ご……ごめん、って……どうしてこんな事を……?」
フェイスネークはすぐに、彼女へ謝った。
そんな彼に彼女は、自分がフェイスネークに狙われていたという恐怖を改めて感じ、恐る恐る質問する。
ここからは、オレ達はその場から無言で2人を見守ることにした。
[newpage]
「……実は、その……僕、好きな子にフラれちゃいまして……。」
「好きな、子……?」
「あぁ、はい。……子ネヂミさんの一人に惚れて、ずっと仲良くしてたんですが……ある時、僕の顔の事で突然、逃げられてしまって。」
フェイスネークは込み上げてきた涙をぬぐいながら、事の切欠を話し始める。
その様子を見てアジラは、殴りかかろうとしつつも抑え……話の行く末を見守っていた。
「確かに僕……いつも口を開けてますよねっ。でもこれは元からなんで、今更直せないから仕方がないんですよ!……でも、漸く彼女を見つけ、その事を話そうとしたんですが、僕の事を気持ち悪そうに見ると……「やっぱりキミとは付き合えないでチュ」って言われて……。」
「そう……、なんですか……。」
「それで、ちょうどその後……ラビッピさんが、えっとっ。」
「ぁ……モグラーニャさんです……。」
「ああ、オレがモグラーニャだ。」
「も、モグラーニャさんと仲良くしてる所を見かけたんで……羨ましさと同時にその、腹癒せがしたくなりまして……。」
オレはその言葉を聞くと、アジラ同様に怒りが込み上げてきた。
だが、オレの気持ちを察したのかすぐに彼が、オレを止める。
「でも決して、ラビッピさんを狙ってた訳じゃあないんですっ。ただ僕の弱った心が、ラビッピさんを僕のモノにして、モグラーニャさんを困らせたいって……っ!?」
彼がそう言い切った途端、オレは思い切り彼に殴りかかる。
しかし、それを見たアジラはすぐにオレの手を払いのけてきた。
「っ……!」
フェイスネークは、オレの手がまるで寸止めかどうかという所で押さえられているのを見て、驚愕した。
その顔は、もう少しで殴られてたという気持ちそのものを表しているようだった。
「モグラーニャ……お前は確か親父なんだろ?」
「……。」
そうだ。オレは妻のモグリーナと、7匹の子供を持つ親だった……。
うっかり、感情的になって殴ろうとしたオレは……一家の父親失格だ……。
「なら、そこは抑えろ……。」
オレはアジラの言葉で、本来の自分の立場を思い出させられ、その場で我に返る。
そして、フェイスネークを見ると「もうこんな事はするなよ」と言い残し、彼女を連れてその場を後にした。
[newpage]
──オレは、森の中にある泉の前まで来ていた。
そこで彼女を止まらせ、暫く泉の水面を見つめている。
これ以上、モグリーナに負担をさせていいのか……いや、良くないだろ。
現にオレは既に、こいつと友達になっている。でも、その事をモグリーナはまだ知らない。
だが、オレの事を一番信頼してくれている……子供達もきっと……。
オレは、そのまま目を閉じた……。
「モグラーニャさん……。」
暫くかつての、じんべえからモグリーナと子供達を取り戻しに頑張っていた頃の思い出に浸っていると、どこからか声がした。
オレは薄らと目を開けると、そこは森の前の一本の木だった。そこで彼女がオレを見つめている。
「ん……お、オレはまた……っておいっ?」
「っ、気が付いてよかったです……っ。」
目を覚ましたオレに、彼女は嬉しそうに抱きついてくる。
そんな彼女を、驚きながら抱き返し……オレが気が付くのを待っていてくれた、というご褒美に頭を撫でてやった。
そして……。
「今日は……その、ありがとうございました……っ。」
彼女は、さっきまでの事を振り返ると何故かオレに向かってお礼を言ってくる。
でも、俺は大して活躍はしなかったし、寧ろお礼ならアジラに言えばいいんじゃないかと思ったが、友達だという事もあり納得をして「いやいや」とだけ返した。
「あ、そういえばあいつらは?」
「……えっ?アジラさん達なら……なんか、仲良くなったみたいですよ……?」
「ん……ホントだなっ。」
オレは彼女の示す方を向くと、さっきまであんなに険悪な雰囲気だったアジラが、フェイスネークと雑談をしながら笑い合っていた。
だが、そこには何故かジャガイモ……じゃなくて、ガジャが混じっていたのは謎だったが。
「フゥ、一見落着だな。」
「じゃぁ……また、いつか会えたら……。」
「おう。何なら毎日会いにくるぜ?」
「くすっ……それが一番嬉しいですっ……。でも無理、しないで下さい……。」
「ああっ、分かってるって。」
オレはそう言い、手を振って彼女と別れた。
丁度日の落ちる時間だったせいか、妻や子供達ももう帰ってきている頃だと思い、オレはいつもよりも早足で巣へと帰っていくのだった。