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風紀は護るもの、護るとは害成すものを排除するという事。
季節は春、先輩諸兄を見送って正式に認められた委員長という肩書。『風紀委員会』の長としてこの学校を護る旗頭に成れた。始業式を経て今、下級生たちの前に立ち今年の新入生を迎え入れる。協調性に長けたイヌ科の面々が例年通り整然と並び名乗っては列に戻るそんな途中。
「ほ、本日より風紀委員会に所属させて頂きます蒼空鷲己です。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
ほう、今年の新人は活きの良い生徒が入ってきたようだ。蒼空元委員長の弟君か面白い。
見れば見るほどに、いや蒼空先輩に比べれば背も精神年齢も低いようだがそれは御しやすいもの。あの蒼く澄んだ目もピンと立った羽角も見れば見るほど血を感じる。
「……ああ、貴方の護ってきた風紀とその意思を継ぐもの。人は触れ合えば傷つけずには居られないのですよ」
「あの、委員長?氷蜴委員長、挨拶の続きをお願いします」
小さく独り言ちると、隣に立っていたドーベルマンの副委員長が耳打ちしてきた。
「失敬、以上で今年度の新人の紹介を終える」
風紀委員会に自ら志願する意識の高い生徒達だもの閉会の挨拶だけで退室して行く。群れの中に埋もれ、躓き転ぶ鷲。
急ぎ歩み寄って手を差し出し目を見て「怪我は無いか」と問う。
嘴に左手を当てもう片方の手を氷晶石のようなこの手に乗せて「はい、お気遣いありがとうございます」と答える。その目は微かに潤みいつか見た蛋白石のように黄昏時の陽を湛え、元委員長とは異なる引力を感じる。
「貴君は、蒼空先輩の弟かな」
「そうですが、氷蜴委員長は兄をご存じなのですね」
跳ねるように立ち上がり、左手も重ねて私に問い返す。
「ああ、私も貴君を気に入った。今日は帰りなさい、また特別にお話ししよう」
別れを告げて幾度と頭を下げる白い頭を見送って、独り残った委員会室で手に残った羽毛の感触を確かめる。
有象無象の犬に猫が大多数を占め、鳥類を含む爬虫類なぞ時代を追うごとに消えてきた希少種の生き残り。さらにアルビノと欠陥に満ちたこの身が利点に働く数少ない事例。被毛が無く色も変えられないが故にこの熱く巡る血潮が誰にも気づかれないという事実。
「学校とは生徒という商品を育て、社会に売り出すものですからね。不都合な個性は隠してもいつかは破綻する。ならば削げばいい」
誰だ、珍しい事は良い事だと決めつけたのは。緑から褐色の体色を可動域の広い眼で周りを窺っては紛れる。自分の身を飾り付けて目立つなんて理解できない。生まれつき紛れる事の出来ない私に突き付けられた烙印は一族から別離し家庭環境を悪化させた。やはり波風立てないように不幸が起きないようにするには隠すなんて過程を飛ばして削った方が早く確実に違いない。
「私が直々に教育して、規格外を減らす風紀へ正せばきっと認めて頂けるでしょうか」
手を差し伸べてきた暗い色の羽毛に覆われた手は振りほどかれようやく自分の途が歩ける。運命に見放されてきたけれど、目の前の障害を乗り越えて今。
左腕に通した腕章を握りしめ遠い山に沈む陽を見る。
「蒼空先輩、貴君の敷いた性善説ありきのやり方では未来ある若者たちを導けないという事を証明して差し上げますよ」
***
目を掛けてきた蒼空が何やら腑抜けた顔をしているのなら大人になるべく私が手ほどきをしよう。信じてきたことが偽りだったとあの目を澱ませて私に従わせれば怪しげな連中も個性にこだわり足搔く学業を蔑ろにする者も減って、私の扱いも次の段階も約束されるというもの。
そう、蒼空先輩に声を掛けられたのも放課後の日が沈んだこんな時間。連中は何をしているかは下級生に情報を集めさせればすぐにわかる、あとは綺麗な風紀を護ってやるんだ。
「こんな時間にこそこそと何をしているのやら」
無所属の生徒が居残っているなんて碌なことをしているわけがない。
「調べは付いている。貴君の処遇は私が決める」
これからは私が風紀を護るのだから邪魔だてはさせない。
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