「あ?起きた?」
私が目を覚ますと、そこは暖炉のある部屋だった。
暖炉のそばにはソファーがあり、私はそこに寝かされていたらしい。
「ここ、どこ?」
「私の家だよ!」
陽気で明るい声がする。私の目の前にはサンタクロースのコスプレをした小さな女の子が私を見つめていた。
「お姉さん!名前はなんていうの?」
「えっと…加奈です。」
「加奈お姉ちゃん、よろしくね!わたしは小雪っていうんだよ!」
「そっか…ところで、どうして私はここへ連れてこられたの?」
私が尋ねると少女は隣にあるソリを指さしている。
「今、サンタ業界じゃトナカイがみんなハードワークで疲れ果てて休業を取っちゃっててさ、だから代わりにトナカイになる素質のある人間を探して来いってサンタのおじいちゃんから言われたの!」
そう言いながら小雪ちゃんはソリに飛び乗る。
「加奈お姉ちゃん、ちょっとこのソリの革、くわえてみて?」
「えっ!?わ、わかった……」
私がソリの革をくわえると、私の身体から突然ピョコン!と薄い茶色のしっぽが生え、更に頭からは角が生えてゆく。
「!?」
「うん!いい感じだね!」
小雪ちゃんがそう言うと同時に私の身体はメキメキと音を立てながら変化してゆく。立てなくなって四つん這いになり、身体にはもりもりと筋肉がつく。手も足も蹄へと変わってゆき、身体中からは薄茶色の毛皮がブワッと生える。やがて顔までが変形してゆき、鼻先が尖りつぶらな瞳を持つ可愛らしいトナカイの姿になった。
「よし!これでOKだね!」
ソリに乗った小雪ちゃんが笑顔で言う。
「えっ、な、何これ!?」
私は突然自分の見に起こった変化に大きく戸惑っていた。しかし、そんな私に構わず小雪ちゃんは言う。
「えへへ、たくましくて立派なトナカイさんになったね♪あとはあなたの人間だった頃の記憶を消去して、わたしのトナカイさんになってくれれば完璧だね。」
「きゅ、急に何を言ってるの!?」
私がそう言うと小雪ちゃんはニコッと微笑み、
「大丈夫だよ。悪いようにはしないから。だってトナカイとしての役目を全うすればご褒美があるんだもん。それじゃ、行くよ〜」
そう言うと小雪ちゃんは私の耳元でシャンシャンとベルの音を鳴らした。その途端、私の頭に激しい痛みが走る。
「うぅ……頭が痛い……」
すると次の瞬間、今まで人間として生きてきて体験してきた様々な出来事が頭からふっと抜けてゆく感覚がした。それと同時に新しい記憶が植え付けられる。それは、トナカイとして生きた頃の記憶。私の頭の中に入ってくるのは、トナカイとしての使命、サンタの役に立つことの大切さだった…
[newpage]
私はトナカイだ。今、私はソリに乗って空を飛んでいる。
眼下に広がる景色はとても美しい。
今日はクリスマスイブ。これから世界中の子供達にプレゼントを配らなければならないのだ。
私は今年一年間頑張ってきたことを思い出していた。
厳しい訓練を乗り越えて、やっと一人前のトナカイになれたこと。そして、あの日出会ったサンタクロースの少女の小雪さまへの恩返しのためにも、頑張ろうと決意したこと。
その時の気持ちを思い出すと、なんだか涙が出てきそうになる。
「カナ、どうしたの?」
小雪さまが私に呼びかける。
「いえ、なんでもありません。次の目的地は○○町の子供の家です。」
私がそう答えると小雪様はニッコリ笑って言った。
「そうだよね!カナならきっとできるよ!」
そう言われると私は俄然やる気が出てきた。
「はい!ありがとうございます!」
それから私たちを乗せたソリは空高く飛び立ち、あっという間に目的の家にたどり着いた。
このようにあちこちの家を回っては子供たちにプレゼントを配るというやりがいのある仕事をして、私は自分の欲求を満たしている。そう、トナカイとしての使命をだ。
ところで、私はふと頭の中に何かが過ぎることがある。1人の人間の少女の生きた記憶だ。
私には関係の無いはずの人間が何故頭に浮かんできたのか…私には未だに分からない。
しかし、私にとってはサンタクロースに従事することが全てだ。
さぁ、今年のクリスマスをハッピーに迎えてもらうために頑張らねば。