2/4 オスケモ白虎元兵士の戦後の日々と恋文通~

  白虎兵と黒豹兵は猫国から引き上げた。俺の戦いもこうして終わった。しかし戦場に行った多くの白虎兵の若者にとっては心にぽっかり穴を空けてしまった。

  今まで無我夢中でやってきたことが突如として終わった、俺達兵士がもっと強ければ黒豹軍を打ち負かして引き分けになどならなかったのではないか、そう後悔してしまう。それに戦場以外を知らずに青春を過ごした俺達兵士にとって、白虎国での日常は味気ないものだった。

  白虎国本国は、猫国に派兵してる間も国民の生活には特に影響はなかった、強いて言えばマタタビの輸入が止まっていたくらいだ。

  俺達兵士は白虎国に戻ると、歓迎のパレードを受け、国民から労われ喜ばれた、家族との再会を喜ぶ者も多くいた。皆俺達兵士を英雄扱いして歓迎してくれた。酒場に行けば酒をご馳走してくれるし、武勇伝を興味津々に聞いてもらえる。

  旦那になろうと言い寄ってくる雄白虎獣人や酒池肉林の誘いをしてくる者も大勢いて、発展場は常に満員で、俺達兵士は久しぶりに帰った故郷での大乱交にはしゃいだ。

  かくいう俺は故郷に帰ることもしていない、首都での歓迎パレードには叔父と兄貴が弟達を連れて会いに来てくれた、そこに親父はいなかったが。

  俺が軍服姿でパレードを歩いている姿を、しばらく見ないうちに大きくなった弟達が尊敬の眼差しで見てくれた。俺は叔父と兄貴と弟達と食事を囲み、懐かしい再会に喜んだ。

  親父は農作物の手入れで来れないらしい、親父とは家を出ていったきり会ってもないし手紙のやり取りすらしていない。

  叔父と兄貴は、親父が俺のことをずっと心配していたと話してくれた、今日のパレードにも来たがっていたが、俺と喧嘩の続きをしてしまいそうな不安で来なかったと。まあ俺だって今日親父と会っていても喧嘩してしまってたかもしれない、お互い頑固だしな。そのうち親父に会いに行かなきゃならないだろうが今はそんな気分にもなれない。

  数日間のパレードが終わり、叔父と兄貴と弟達は故郷に帰って行った。兵役が終わったらそのうち故郷に帰ってくるか尋ねられたが「分からない」と答えた。俺はまだ故郷に帰る気分じゃない、しばらくは他に退役する仲間達と過ごしたい。

  俺は兵役を終えると、同じく兵役終了の仲間達と一戸の家を借りて、仲間が出入りしながら一つ屋根の下で気ままに暮らした。酒を飲み戦場での思い出話にふけり、軍に残っていた誰かが退役すればパーティーを開く。

  だが戦場にいた時ほどの繋がりを禁じることができなくなっていた。戦場でのように全員で一つの使命に燃えることもないし、仲間と背中を守り合う必要もない、それぞれ別行動をとることも増えてきたし、何より仕事やその後の生活も考えなくてはならない。軍人恩給が貰えるから衣食住には困らないが、無尽蔵に遊び呆けていられるわけではない。

  俺達兵士は元の生活に何か馴染めずに居心地の悪さを感じていた。戦場では必要だった黒豹兵を犯して戦果を誇ることがここでは必要ないのだ。

  白虎国内にも黒豹獣人が住むようになってきて、一般国民同士は仲よくしているが、俺達元兵士は黒豹獣人を見ると憎さの方が出てしまうが、そんなことを戦場を経験していない者に言えば非難されるのは分かっている。俺達兵士は、同じ戦場を経験した兵士仲間達こそが理解者だと思って一緒に過ごしていた。

  しかしいつまでもそうしているわけにはいかない、兵役の期間が終わり始める兵士達も増えてきた。俺達兵士は戦場では互いを守り合い連帯感を感じていたが、戦が終わるとそれぞれの道は違っていて寂しさを感じていた。

  使命や仲間との絆を求めて軍に残る者、故郷に帰る者、傭兵として次なる犯し合いを求めて別の国に旅立つ者、何か兵士以外の仕事や生活を求める者、などだ。

  俺はやりたいことがなく途方に暮れた。もう兵士として戦いをやりきった気がするから、軍人や傭兵になるつもりもない。だが故郷に帰ってしまえば、農作業に追われるし兄弟達との時間は心地よくなって、いつまた故郷を出れるか分からないし、喧嘩別れした親父とも向き合わなければならない。

  何より白虎国での生活は普通で退屈で味気ない、戦場であれほど勇敢に戦ったが、ここではそれを発揮する場所もないのだ。

  俺は軍に入った動機を思い出した、世界を見たかったからだ。俺は荷物をまとめて、歩いて旅をすることにした。様々な獣人国を周り、宿を巡ることも、野宿することも、出会った雄獣人と一夜を共にしながら泊めてもらうこともあった。様々な獣人国を巡り、結局猫国にやってきた。

  兵士として派遣されていた時の景色しか知らなかったが、猫国はいい国だ。のんびりしている。猫国に平和が訪れ、かつての争いは嘘のように白猫と黒猫が仲良く暮らしている。元々同族のよしみだし猫獣人は喧嘩になると激しくなるが、普段はおおらかでのんびりした気性だからだろう。

  俺みたいな白虎獣人はたまに見かけるが数は多くない、現地の猫獣人達は白猫・黒猫関わらずに、俺が兵士と知ると握手を求めて抱き締めてくれる。俺達白虎兵も黒豹兵も現地の猫獣人にとっては故国のために戦ってくれた感謝すべき奴らだそうだ。

  俺が猫国にいることを知った叔父は、俺に仕事を紹介してくれた、住み込みのアパート管理人だ。叔父は不動産業をしているが、猫国でも商売をするつもりらしい。

  古いボロ屋敷だが、それを修理して伝統あるお屋敷に変えて欲しいそうだ、主な仕事は老朽化した水道の修理や壁紙を張り替えたりといった大工仕事だ。

  屋敷は大きいから管理人としての仕事は溢れてるし給料も貰える、軍人恩給のおかげで生活には困らない。

  猫国で過ごしている生活は安らぐが何か楽しみが欲しい、猫獣人ばかりの猫国では俺のような白虎獣人は目立つ。

  猫獣人の友人も大勢できた。しかし広い屋敷に一人でいると孤独を禁じる、そう思った俺は雑誌の文通欄の恋人募集のやり取りに手紙を出した。

  雄獣人同士の恋愛なんて日常茶飯事で活発な獣人世界で、文通で出会いを探すなんて古風だろう。だが俺はペンで文字を書きやり取りするのが気に入っていた。

  何故なら戦地で故郷の家族に手紙を書く時、どんな風に書くか迷いながらやり取りしていた時の懐かしい気持ちを思い出すからだ。

  俺は一人の文通相手とペンフレンドになった。猫国に住んでいる奴だから猫獣人に違いない。俺は相手に白虎獣人だと知られたくはなかった。白虎獣人と分かれば、だいたい元白虎兵士だろうと思われるだろうし、兵士だと知られたら相手からの文通では兵士時代のことばかり聞かれてしまうだろう。

  文通相手とは読む本や食べ物に時間の過ごし方、様々な感性が合った。俺は観光したと嘘をついて、兵士時代に猫国を遠征して見た自然の景色の美しさを伝えた。

  すると文通相手も同じように猫国の自然の美しさを伝えてきた。霧の中に差し込む朝陽に感じる希望、水滴の滴の中に見える小さな世界、風に感じる花の匂い、俺と文通相手は自然の景色に同じものを感じていた。

  俺と文通相手は意気投合し、会ったことないはずなのに、二人で旅をしてみたいと、手紙で様々な旅のプランや行き先をやり取りした。文字のやり取りだけなのに既に旅行した気分だ。俺はまだ行ったことがない、猫国の様々な自然を巡るのを想像した。想像の中にはいつも文通相手、恐らく猫獣人の彼がいる。俺と文通相手は最早互いへの思いを我慢できずに遂に会うことを約束した。

  俺と文通相手は意外と近くに住んでいた、大きな町に出ればすぐ会えるようだ。鏡の前で身支度をする俺はご機嫌だ。歌いながらクシで毛並みを整え、猫耳辺りの頭の毛はワックスで立たせてソフトモヒカンにする。コロンをつけて鏡の前で何度も服を変える。結局チノパンと白いYシャツの上にカーキ色のミリタリージャケットを羽織ることにした。

  どんな猫獣人と会えるか楽しみだ、そう思いながら俺は家を出た。とんだ思い違いをしてるとも知らずに…。