「守護の鎌」
スヴェートは、全身の毛を逆立つのを感じた。
急に気分が落ち着かなくなった。
妖精は腹部に手をあてた。
思い返せば、兄が死ぬ前日にも似たようなことがあった。
マリとブラムの身に何か起きたのだろうか?
そう思いながら、彼女は無意識に足元に置いてあった大鎌に手を伸ばした。
その時、先程まで彼女が語る昔話に耳を傾けていた少女がスカートの裾を引かなければ妖精は二人を探しに森に駆けだしていたかもしれない。
スヴェートは、ハッと我に返り少女の顔を見た。
初めて会った時と同じ不安に支配された表情。
もしかしたら、自分自身もこの子と同じ顔をしているのかもしれない。
妖精は、脳内に入り込もうとする不安を追い払おうと頭を振り、意識的に口角を上げ少女に形ばかりの笑顔を向けた。
「大丈夫。二人ともすぐに戻ってきますよ。もしも怖いモノが来たら私が守ってあげますからね」
確証も自信もなかったが、少女を安心させるためスヴェートは強い自分を演じ、少女の頭を撫でた。
「違う…」
少女は、そうつぶやくと首を横に振った。
「違う? 何が違うのですか?」
スヴェートは、小首を傾げた。
少女は、再びか細い声で答えた。
「誰か…いる…。外…。こっち見てる…」
その言葉を聞いた瞬間、スヴェートは鎌をグッと握り直し立ち上がった。
「良いですか、私が良いと言うまで外に出ないように。私やマリたちでない誰かが来たら、すぐに隠れてくださいね」
妖精は、そう言うと少女の答えを待たずに小屋の外に出た。
外に出た瞬間、物陰から強い視線を感じた。
少女の言った通りだ。
「そこにいるのは、誰ですか?答えないのなら、敵と見なし斬り捨てますよ」
スヴェートは、視線の源に向かって叫んだ。
「貴様こそ何者だ? 何故、我々の村にいる」
声が返って来た。
年配の男の声。
声音から察するに、ひどく混乱しているようだった。
「我々の村? それは、ここに元々住んでいると言う意味ですか?
それとも、つい最近先住者から奪い侵略したという意味ですか?」
スヴェートは、声に向かって尋ねた。
「我々の質問に答えるのが先だ、魔物。何故、ここにいる?」
再び声が返ってきた。
スヴェートは、聞こえよがしにため息をついた。
これでは、ラチが開かない。
彼女は仕方なく質問に答えることにした。
「私は、この地を渡り歩くストレイ。この地が魔物による不当な侵略を受けていると聞いて、仲間とともにこの地にやって参りました。」
「仲間だと? そいつは、その小屋の中にいるのか?」
「さあ、どうでしょうね? ご想像にお任せしますわ」
スヴェートは、わざとらしく答えた。
嘘を言ううことは簡単だが、ここは敢えて濁した方が相手も警戒するだろう。
「さて、質問に答えたのましたよ? 今度は、そちらが質問に答えていただきます」
スヴェートは、相手に考える隙を与えずに問い返した。
その時だった。
「スヴェート?」
突然、少女が小屋の扉から思案するような顔を覗かせてきた。
「来ちゃダメ!」
妖精は鋭く叫んだが、既に手遅れだった。
「そいつを捕まえろ!」
男がそう叫ぶと同時に背後の物陰から強い殺気を帯びた何かが妖精と少女に向かって飛び出してきた。
スヴェートは、少女を小屋の中へ突き飛ばすと、獣のような唸り声を上げながら片手で鎌を振り上げた。