Scape wolf 3-11「古き狼たちの集い」
「古き狼たちの集い」
マリが自身の過去を打ち明けていた頃、ロキは彼女たちのいる森から遠く離れた川岸で静かに瞑想をしていた。
新しく作った集落からも幾分か離れたそこには、川の音だけが静かに流れていた。
王は静寂に耳を傾けながら、疲れを癒した。
とその時。突然静寂が破られた。
ガサガサと言うヒトの足音。
一瞬、ガルムかと思ったが、すぐに違うと分かった。
目を開け、音のした方を見つめる。
「久しいな、ロキ」
足音の主が言った。
そこにいたのは、ウールヴヘジンの副司祭ルーだった。
ルーは、金の装飾をあしらった黒いコートを翻しながらロキの隣に近づいた。
「ほお。兄上がここまで来るとは、珍しいね」
ロキは、そう言うと姿勢を崩しルーを見上げた。
「何の様だい?」
放浪民の王は、騎士修道会の副司祭を見上げながら尋ねた。
「聞きたいことがあるんだ。マリ・ゴールドについて何か知っていることは、あるか?」
「マリについて?」
ルーの問いかけに、ロキは首を傾げた。
ちょうどその時だった。
「その話、ワシも聞かせてくれぬかの」
そう言って現れたのは、リュカオンだった。
灰色のローブをまとった老狼は、槍の石突で地面を突きながら二人に近づくと槍にたもたれかかりながら腰を下ろした。
「親父殿も来たか。今日は、妙に賑やかだねえ」
ロキは、愉快そうにつぶやいた。
「楽しいのは、分かった。それで知っているのか知らないのか、どっちだ?」
ルーは、眉間にシワを寄せながら再びロキに問いかけた。
「相変わらず、兄上は固いなあ」
ロキは、やれやれと溜息をつくと、突然王の表情になって口を開いた。
「結論から言おう。マリについては、兄上にも親父殿にも話す気はない」
「つまり、知っているのだな?」
ルーは、問い詰めるように言った。
「何故、教えてくれない?」
リュカオンもロキに向かって問いかけた。
すると、ロキはスッと立ち上がり、二人から距離を置くように後じさった。
「俺にとって、今の家族はリュバン。マリもその一人だ。
俺は、家族だけは裏切らない。それが理由さ」
「昔の家族を裏切ってもか?」
ルーは、語気を荒げながら問いかけた。
「勘違いするなよ、兄上。俺は、誰も裏切らない。
俺は、常に中立だ」
「よく言う。そんなことを言って、お前は、いつも魔物ばかりに肩入れしているではないか?」
「それは、人間が魔物を不当に扱うからだ。
それに人間の番犬は、兄上がやっているではないか?俺が魔物、兄上が人間。ほら、これでとんとん」
「減らず口を! だいたい、お前は、いつもいつもそうやって屁理屈ばかり―」
「やめんか、二人とも」
リュカオンが、突然二人の間に割って入った。
その声には、静かだが有無を言わさぬ力が働いていた。
ルーとロキは、互いを睨みながら口をつぐんだ。
「全く、しかたない子らだ」
リュカオンは、そう言うと立ち上がり森へ向かって歩き出した。
「ワシは、仕事に戻る。くれぐれも兄弟仲良くするのだぞ」
老狼のこの言葉にロキは鼻を鳴らした。
「兄上が、こんな堅物じゃなければ、いつでも仲良くしてやるさ」
「不真面目なお前にだけには言われたくない」
ルーは、吐き捨てるように言うと、リュカオンとは別の方向へ踵を返した。
「今日のところは、引き下がってやる。だが、いつか力づくにでも聞き出してやるからな」
副司祭は、そう言い残すと木々の群れの中に入っていった。
ロキは、リュカオンとルーが消えた方を何度か交互に睨んだ。
「どいつもこいつも。マリは、お前たちの道具じゃないんだよ」
彼は、独りつぶやいた。