「戦場」
狂ったような叫び声、金属のぶつかり合う音、断末魔。
ブラムは、戦場のなかで地獄のような音に囲まれながら剣を振るった。
十人ほど斬り伏せたところで、何人を相手したのか数えるのをやめた。
床に広がる血の海から漂う金臭い臭いがヴァンパイアである彼の本能を昂らせたが、何とかそれを理性で押さえつけていた。
「ブラム!」
戦闘が始まってからどれくらい時間が経った頃だろう。背後からロキが呼びかけてきた。
「何?」
ブラムは、前を見つめたまま尋ねた。
「スヴェートが単体で先に行ってしまった。追いかけるから、着いて来てくれ」
「分かった」
そう返事を返すと、横で何かが通りすぎた。
ブラムは、その後を追った。
しばらく進むと、スヴェートが扉の前で奇声を上げながら鎌を振り回している姿が見えた。
彼女の前では兵士が一人武器を捨て跪いていた。
緑色の衣は返り血で真紅に染まり足元には数えきれないほどの死体が転がっていた。
「ははははははははははははは!」
スヴェートは笑い声を上げながら、目からは涙を流していた。
「降伏する。命だけは、助けてくれ…」
兵士は、ガタガタ震えながらスヴェートに向かって言った。
だが、妖精は降伏を聞き入れず処刑人のように鎌を持ち上げた。
そして次の瞬間、彼女は目の前の兵士に向かって鎌を振り振り下ろした。
「あっ!」
ブラムが声を上げるのとほぼ同時に、ロキが動き出した。
妖精と兵士の間に入り込むと、柄舌を素手でつかんで鎌を止めた。
切っ先が肩に刺さったが、ロキ自身はたいして気にしていないように見えた。
「落ち着け、スヴェート!」
「邪魔をするな!」
二人の声は、普段の彼らからは想像できないほど語気が荒かった。
「無抵抗な者まで殺すな。ヤツらと同等になりたいのか?」
ロキは、肩に刺さった鎌を手荒に引き抜きながら言った。
「お前の目的を思い出せ」
彼は、そう言うと扉を蹴破った。
「お前らは、先に行け。他のヤツらが合流したら、すぐに追いかける」
スヴェートは、何も言わず扉のなかに入っていった。
ブラムは、ロキに一礼してから彼女の後を追った。
扉の向こうは、広く長い回廊だった。
兵士や罠の気配はなかったが、ブラムは先行して念入りに確認しながら進んだ。
後方を進むスヴェートは、まだ気が治まらないのか時々唸り声を上げながら鎌を何度も握りなおしていた。
ブラムは、前方を注視しながら迷っていた。
このままスヴェートを先に向かわせていいのか?
彼女の今の様子は、自身の復讐のことについて話すマリのそれと良く似ていた。
そして、あの時の自分とも―。
スヴェートは、復讐のために戦っている。
恐らくその考えは間違えではないだろう。
だからこそ、彼は迷っていた。
復讐の後の空しさは、自分が良く分かっている。
だが、それと同等に復讐を実行するまでの快楽にも似た怒りの感情も知っていた。
自分はスヴェートではない。
彼女が本当に望んでいることなど完璧に理解することなどできない。
それに、もしかしたら彼女は空しさを覚えることなく新たな道を進むきっかけを得ることもあるかもしれない。
止めるべきか見守るべきか。
迷っているうちに回廊は終わりを迎えた。
目の前に先程通ったモノの二倍はありそうな扉が見える。
スヴェートが扉に向かって足を速めた。
「待って」
ブラムは手を上げて彼女を制した。
「僕が先に行く」
彼は、そう言うと扉を両手で押した。