お久しぶりです、憧れの人。

  戸惑いの表情を浮かべた獣人を前に、爽はどきどきとしていた。

  初恋の獣人が前にいる。

  (う…嬉しい!あ、会えた!)

  そう思っていたのも一瞬だった。

  レオは首を傾げて訊ねてきた。

  「あの…失礼だけど…。もしかして、初対面ではなかった?」

  その言葉は、レオが爽を忘れていると伝えてきた。

  爽は今までの理想を壊されたような気分に浸った。

  「あ…えっと…」

  爽はショックを受けて、レオの差し出す本を受け取ったままの手をがくりと落とした。

  その姿に、レオは驚いている。

  レオの尻尾も不思議そうに固まっているし、本気で覚えていてもらえなかったようだ。

  「ど、どうしたの?」

  もはや心配そうに訊ねるレオに、爽の気分はさらに下がった。

  「い…いえ…。」

  シュンとした爽に、レオは苦笑いを浮かべたまま立ち尽くした。

  しかし、悩んだ末にこう言った。

  「す…好きって…恋愛の意味かい?」

  「は、はい!恋愛の意味がいいです!」

  爽は咄嗟にそう答えた。

  なぜか必死になっていた。

  その様子に、レオはクスクスと笑って答える。

  「ありがとう。なら…別に嫌じゃないし、君が受付の日にはここに来るよ。」

  「え………えぇ?!」

  「そんなに驚くの?」

  レオは楽しそうに笑いながら話す。

  「週に一度は来るようにしているから、そうするよって言っただけなんだが…。」

  「嬉しいです!」

  爽は素直にそう言った。

  憧れのあの人と話している、ということが嬉しくてたまらなかった。

  レオは爽を子供としか思っていなかったので、微笑ましく思いながら話を続ける。

  「突然俺のことが好きだなんて…君は面白い子だね。」

  「突然じゃないです!昔から好きでした!」

  「は?」

  レオは思わず表情を固めてしまう。

  爽は勇気を振り絞って言ってみた。

  「昔、あなたに…道端でうずくまってたところを、助けてもらったことあるんです。初恋です!」

  「お…俺が?」

  「覚えていらっしゃいませんか!」

  「お、覚えてないな。」

  はっきりとそう言われてしまい、爽は落ち込んだ。

  レオは驚いた顔で爽を見つめる。

  「き…君…本気で?」

  「はい。」

  当たり前のようにうなづいて答える爽に、レオは微笑んだ。

  「ありがとう。君は…Ωだろ?」

  「はい。」

  「俺はαの犬の獣人だ。外交官をしている。」

  「知ってます!」

  「あまり…人と獣人が付き合うって話はないだろう?」

  そう言われて、爽はまた落ち込んでしまう。

  そもそも、Ωが交際の末に結婚するなんて、よほどの金持ちでないとありえない話だ。

  爽は今、夢を見ているようなものだ。

  「別に…嫌だとは言っていないけど…。世間体的にも、君は獣人なんかを相手にしていていいのかい?」

  レオは続けてそう言った。

  人は人と、獣人は獣人と、というのが一般的でもある。

  レオはそれを心配していた。

  「僕は…孤児院に住んでいます。世間体なんて気にしません!それに…Ωだし…。」

  爽は必死に、前のめりになって言った。

  レオはその様子に困惑しながらも、微笑んで答えた。

  「わ、わかった。お試しで…友人から始めよう。」

  「ほ、本当ですか?!」

  「う〜…うん。」

  うなづいたレオの姿に、爽は喜んで笑顔を見せた。

  レオはその表情に思わず微笑んだ。

  前向きで一生懸命な姿は可愛らしかったのだ。

  そして、その笑顔が昔に出会った可愛らしいΩの少年を思い出させた。

  (まさか…彼ってことは…ないだろう…。)

  それが爽だったのだが、レオは信じられなかった。

  運命があったら、もう一度出会ってみたいと思っていた相手だったからだ。

  あまりにも可愛い少年で、キラキラとした瞳で見つめてくる優しい視線は離れがたかった。

  そして、覚えているのは甘く酔ってしまいそうなほどのいい香りがしたこと。

  それが今、爽から香っている気がしている。

  レオは獣人とも人とも交際をした経験はない。

  明るい性格をしているのでよく告白はされるが、こんなに純粋な告白は初めてだった。

  「よ、よろしくお願いします!」

  爽は心底嬉しそうに微笑んで言った。

  レオは微笑んでうなづく。

  「よろしくね。」

  爽は憧れの人との繋がりができたことが嬉しかった。

  なんとか振り向いて欲しいと思う。

  その日は仕事の間中ずっと、レオの顔が頭から離れなかった。