柴後輩とクロ兄ちゃん【夕暮れ】

  俺様は常々実感している。

  商売をするなら、常に下りのエスカレーターに乗ってる自覚を持ってなきゃダメだ。

  時代は常に上を目指して、前に前に進んでいく。

  人だって同じだ。個人差はあれど、全体の傾向は変わらない。新しいもの、より良いものを求め、いつしかそれを当たり前にして、いずれ飽きて棄てる。

  下りのエスカレーターで足を止めてしまったら、後は下って行くしかないないんだ。

  現状維持なんて考え方してたら、時代はどんどん進んで行って、止まったやつを置き去りにする。

  だからこそ、商売人は常に自分を、店をアップデートしていかなきゃダメなんだ。

  それなのにっ・・・!

  ────この[[rb:名古谷 > なごや]] [[rb:虎次郎 > とらじろう]]様の店は違う。

  客に選ばれる店になるように常にアップデートを続けてきた。

  かき氷1つにしても写真映えするように見た目を工夫したり、ドリンクも同じく見た目を飾って、名前も変えた。

  今の広告の主体はテレビじゃない。SNSだ。発信者となる客は自分を飾り立てるためのアクセサリーを求めている。アクセサリーに必要なのは、なによりも見た目。宝石の原石よりも磨かれたガラスが選ばれるのさ。見た目さえ良ければ客はガラスの宝石に満足する。

  現にフードメニューは海外産のものを上手く使って大幅にコストカットしているが、それでも客から文句は来ない。海水浴に来る客は飯を食いに来てるわけじゃないからだ。腹に収まればみんな同じ。味の違いなんて分かりゃしない。

  こういう所で利幅を確保するのが賢い経営ってもんだ。

  それなのにっ・・・!!

  ─────8月13日、日曜日の昼。

  今日は3連休の最終日だ。連休ってのは[[rb:中日 > なかび]]が一番混雑するもんだ。今日は昨日ほど客の数はいないだろうが、それでも人気ナンバー1、大入り満員、大繁盛、売上げトップはこの[[rb:名古谷 > なごや]] [[rb:虎次郎 > とらじろう]]様の店。

  そのはずだったのに──────

  「はーい、こちらの熊のお客様、塩焼きそばポセイドン盛りに挑戦されまーす!」

  かつてのような大入り満員のウミネコで、今まで見たことないほど明るく元気に接客をするミケ。

  元同級生で、昔から店を手伝う姿を見ている俺でさえ、あんなミケは見たことがない。

  あと一体なんなんだ、あのポセイドン盛りとか言うワケわかんねぇ焼きそばは!! 島か!!

  「[[rb:豹一 > ひょういち]]、2、6番とCのフォローは俺が行く」

  「うっすトリ先輩、じゃあ1番片付けてきまっす」

  今までウミネコで見たことないのに、指示もなくミケのフォローをこなしながら鮮やかな連携を見せるオウムと豹のホールスタッフ。

  「焼きそば10人前あがりぃー! [[rb:玄來 > げんき]]、へたばってねぇか?」

  「こっちもあがりっす!!」

  「・・・」

  今まで店の奥にあった調理場を広い客間のど真ん中に引っ張り出し、とんでもないスピードで調理する見覚えのあるデカい黒狼と柴犬。

  ・・・と、いつも通りの糸目のムスッと顔で炭火焼きを担当するミケのじいさん。

  「スゲー! あの量の焼きそばが既に半分ないぜ!」

  「マジかよ! なんか俺も行ける気がしてきた」

  化け物みたいなスピードで“島だったもの”を食う見覚えのあるデカい虎。

  「ほら、ここだよウミネコって!」

  「結構古い感じだな」

  「味は絶対間違いないから! 早く入ろ!」

  宣伝も、ましてやSNSなんてやってるはずがないのに、はなからウミネコ目当ての客たち。

  オマケに普段見ない客層までビーチに来ている。なんなら昨日に劣らないかそれ以上の客数だ。

  そして・・・・・・!!

  「へー、大学生なんだ!」

  「かわいいー!」

  「へへっ、お姉さんたちもウミネコで休憩していきま・・・ヒニャァーー!」

  「あら、すみません。コラ、お兄ちゃんの尻尾咥えないの。離しなさい」

  「んむー!」

  「“休憩していかないか?”だって!」

  「キャー!」

  デカい看板を持って意図してやってんのか分かんねー[[rb:面 > つら]]で卑猥な客寄せをしてやがるミケの彼氏面してやがったあのヒョロ猫野郎・・・!!

  しかも子供からマダムまで幅広くウケてるのが本気でムカつく!!!

  今、この海の客のほとんどが、寂れて消えて行きそうだったウミネコに集中してやがる。

  この[[rb:名古谷 > なごや]] [[rb:虎次郎 > とらじろう]]様を差し置いて!!

  「財布持った?」

  「うん、でもここで食べていかないの? ロッカー借りてるからてっきり・・・」

  なんなんだ・・・

  「ここじゃなくて、あっちのウミネコっていうところ行きたいの!」

  「ふーん。じゃあそっち行くか」

  なんなんだよこれは!!!

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ─────8月13日、日曜日、ウミネコ開店15分前。

  「準備はいいなお前ら」

  “俺たちで、この海の客を独占する”

  そんな店長の一言で始まった、1日限りの“ウミネコ大繁盛計画”。命名はミケ先輩のセンスだ。

  「フーー・・・」

  [[rb:玄來 > げんき]]は平手に[[rb:拳 > こぶし]]を打ち付け、真剣な顔で静かに燃えている。

  カッコいい。惚れる。惚れてる。好き。

  「いきなりミケに呼び出された時は何事かと思ったけどな。ま、突拍子もないのはいつものことだし、バイト代分はしっかり働きますかね」

  頭にかけたサングラスに前開きのシャツ、首に羽のシルバーアクセサリーをしたTHE・海辺の兄ちゃんスタイルのトリ先輩。彩やかな緑の羽毛も海にピッタリだ。

  「なあクロっち、休憩時間に一緒にナンパしに行こうぜ!」

  そう言って俺の肩を抱き、顔を寄せる[[rb:豹一 > ひょういち]]。

  [[rb:豹一 > ひょういち]]もトリ先輩と同じく、ミケ先輩に呼び出された本日の助っ人だ。

  「何言ってんの、同時に休憩取る暇なんてないわよ。あと従業員の変な噂が流れても困るからナンパは禁止よ[[rb:豹一 > ひょういち]]くん」

  「そんなぁ!! 水着美女がぁ・・・夏の思い出がぁ・・・」

  ミケ先輩に釘を刺され、[[rb:豹一 > ひょういち]]は膝をついて項垂れた。

  コッソリやればバレないだろうが、[[rb:豹一 > ひょういち]]はチャラそうに見えて根が真面目だからしないだろう。あとミケ先輩怖いし。

  「むー・・・」

  「うおっ」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]が膝をついてから突然[[rb:優 > ゆう]]が[[rb:豹一 > ひょういち]]とは反対側から俺の肩を抱き、顔にほっぺを押し付けてきた。

  「なんだよ[[rb:優 > ゆう]]」

  「・・・・・・むー」

  いつも通り何を考えてるか分からない[[rb:優 > ゆう]]に店長から下されている使命はただ1つ。

  “食え”

  ─────以上だ。

  今日は[[rb:友紀 > ゆき]]さんと[[rb:誓優 > せいや]]くんはお留守番で、ユズもいない。

  ユズにはキャインで“手伝え!”って送ったが秒で“ヤダ”って返してきた。[[rb:あの野郎 > あんにゃろう]]・・・。

  「こっからは戦場だ。お前ら、気合い入れて頼むぜ!」

  店長の一声に皆は思い思いの返事を返し、海の家ウミネコは開店した。

  ◆◆◇◇◆◆

  ──────そして昼時。

  「匠の焼き魚も大好評ですよー。皮はバリッと中はふっくら、この海で取れたお魚を使ってまーす」

  「おい! ヒョロ猫!」

  俺が看板を持って客寄せをしていると、一昨日ウミネコに乗り込んできた茶トラ猫が声をかけてきた。

  「あ、ニャゴヤさん!」

  「[[rb:名古谷 > なごや]]だ!! なんだニャゴヤって! お前は猫か!」

  「猫ですけど」

  この様子だと敵情視察といった所だろうか。ウミネコに客が殺到するという異例の事態にたまらず駆けつけたといった所だろう。

  「一体これはどういうことだ! どうしてこんなに客が集まっているんだ!? それにあのスタッフどもは一体なんなんだ!!」

  ニャゴヤさんは興奮と困惑が混じったような顔でまくし立てた。

  ニャゴヤさんに限らず、こんな事態は誰も予想していなかっただろう。

  「オーッホッホッ、困惑しているようね、コジロー?」

  俺がニャゴヤさんに絡まれていると、店の中に居たはずのミケ先輩がわざとらしく悪役令嬢のような感じを出して登場してきた。

  この人本当に俺の姉の[[rb:琉愛 > るな]]に似ている・・・。

  「おーっほっほって・・・ミケ、お前昔そんなキャラだったか? あとコジローじゃねぇ!! [[rb:虎次郎 > とらじろう]]だ!!」

  そんなやり取りをしながら、口元に手を当ててふんぞり返ったミケ先輩と、拳を握りしめたニャゴヤさんが対峙した。

  「たった[[rb:一日二日 > いちにちふつか]]でどうしてこんなに客が・・・」

  「しょうがないわね、コジローちゃんに教えてあげるわ」

  「[[rb:虎次郎 > とらじろう]]だ!!」

  「まずは見なさい! あの厨房を!」

  ミケ先輩がまず指差したのはコンクリートの土台に屋根だけの吹きさらしの広い食事スペース中央で爆速で調理をする[[rb:玄來 > げんき]]たちだった。

  鉄板と真剣な顔で向き合い、目にも止まらぬ速さで手を動かしながらコテの音を響かせている。

  店長もカッコいいが、腕まくりして真剣に仕事する[[rb:玄來 > げんき]]がマジで、マジでカッコいい。

  ミケ先輩のおじいちゃんは2人と流れる空気が違うかのように、静かに炭火と向かい合っている。

  「うちの吹きさらしだからこそ出来るライブクッキングよ。お客さんは席に座りながら今目の前で出来たばかりの料理を食べられるってわけ。いい匂いがここまで漂ってくるでしょう?」

  おすすめは塩焼きそばだが、もちろんソースや他のメニューもある。焦げたソースの良い香りがビーチにも漂っている。

  「それにあの2人はプロの料理人の師弟。うちのメニューも一発で覚えてくれたわ」

  ミケ先輩は自慢げに鼻を鳴らした。

  「くっ・・・だが、ホールスタッフはどうした。急ごしらえのバイトにあんな連携出来るわけが・・・」

  ニャゴヤさんの問いに、ミケ先輩は目を伏せて微笑した後、トリ先輩と[[rb:豹一 > ひょういち]]を指差した。

  2人のやり取りは必要最低限。まるで相手と自分がすべきことを全て分かっているかのような鮮やかさで仕事をこなしている。

  「彼らは大学で同じサークルに所属してる私の仲間よ。一緒に数々のイベントをこなしてきた私たちの連携が取れるのは当然。そして何より・・・」

  ミケ先輩は一呼吸置いて、再び口を開いた。

  「2人は同じ居酒屋でバイトしてるバイト仲間同士なのよ!!」

  「なにぃぃい!!」

  そうなのだ。トリ先輩と[[rb:豹一 > ひょういち]]のバイト先は同じ居酒屋。[[rb:豹一 > ひょういち]]が1年生の時からずっと一緒にバイトをしている。さらにトリ先輩に至ってはバイトリーダーだ。

  「もちろん映えるプロモーションだって忘れてないわ!」

  次にミケ先輩が指差したのは、客席で飯を食い終わった[[rb:優 > ゆう]]。

  綺麗に空になった大皿を高々と掲げる優の周りにはギャラリーが集まり、歓声を上げている。

  あのダサ・・・個性的なポセイドンTシャツも今はチャンピオンマントのような威光を放っている。

  やっぱりあれ海用に買ってたのか・・・。

  「限定チャレンジメニュー、塩焼きそばポセイドン盛りよ」

  「だが、あんなもの急に注文されて捌けるわけが・・・」

  「あの2人を見てそれが言えるかしら?」

  ニャゴヤさんは再び店長と[[rb:玄來 > げんき]]を見て言葉を詰まらせた。

  「だが! そもそも三連休の最終日でなんで海にこんなにも客が! 見慣れねぇ客層も・・・。それになんで初見でウミネコを知ってる奴がいやがる!!」

  ニャゴヤさんが声を荒げたその時だった。

  「ふーん。まあまあ賑わってるじゃん」

  聞き慣れた声に振り向くと、そこには他の海水浴客と明らかに違うオーラをまとった猿が、サングラスをかけて立っていた。

  「ユズ!!」

  「ルキ[[rb:兄 > にぃ]]客引きやってんだ。俺喉乾いたからスイカジュースちょーだい。店内混んでるし」

  相変わらずな軽口を叩きながら、ユズはサングラスを頭にかけた。

  「これが理由よ」

  ミケ先輩はそう言うと、ユズの後ろに回り両肩に手を置いた。

  そして、ちょうどそのタイミングで店に入っていくお客さんの声が聞こえた。

  “あ、ユズログで紹介されてた海の家ってここじゃん!”

  ニャゴヤさんにも聞こえたらしく、苦虫を噛み潰したような顔でわなわなと震えていた。

  「ユズ・・・ログだとぉ・・・!?」

  そんなニャゴヤさんを見てミケ先輩は静かに笑っていた。

  ・・・ん? ユズログ? ユズ?

  「正式名称は“ユズの食べ歩きログ”。高級店からB級グルメまで、お金もジャンル問わず紹介するニャフッターの人気アカウントよ!」

  「紹介っていうか、自分が食べたもの記録してただけなんだけどね」

  俺は急いでスマホを取り出し、ニャフッターでアカウントを検索した。

  “ユズの食べ歩きログ”、フォロワー数は・・・120万人!?!?

  「さすがにあんたも知ってたみたいね。確かな味覚と豊富な知見から歯に衣着せない評価をすることで有名なあのユズログよ!」

  この中で知らなかったの俺だけらしい。

  「不味い店はログに残す必要すら無いからUPしないけど、ここは本物だね。特にあの焼き魚、火入れは完璧だし魚の質も申し分ない。塩もこの海のを使ってるね。塩加減も最高」

  ユズの言葉にミケ先輩は腰に手を当ててフフンと笑った。

  思い返せば、確かにユズは食事の時に知ってる風な口を聞くことがあった。

  “手間はかけてるなーと思ったよ。ちゃんと寝かせてあるし、肉も野菜も焼き色付くまで焼いてるね、火入れも丁寧で甘さが出てる。あと、リンゴ以外にも何か入れて工夫してるっぽいね。雑味が気になるけど、まあ許容範囲なんじゃない”

  “あー確かに、いなば屋のうな重っぽい。てか使ってる鰻同じなんじゃない?”

  まさかミリオンクラスのグルメアカウントを運営しているとは思わなかった。

  学生の身分で一体どうやって、と考えそうになったところで俺は思考するのをやめた。

  「ねぇルキ[[rb:兄 > にぃ]]」

  「どうした?」

  ニャゴヤさんとミケ先輩が睨み合っていた所で、ユズは不意に声をかけてきた。

  「お客さんがたくさん来て、ルキ[[rb:兄 > にぃ]]は嬉しかった?」

  「うん?」

  ユズの質問の意図が分からず、俺は首を傾げた。

  「そりゃ嬉しいに決まってるだろ」

  俺たちはその為に休日返上でここまで頑張ったんだ。当然嬉しいに決まってる。

  「ふーん。俺はいつも通り美味かった店のログを残しただけなんだけどね」

  ユズはそのままラッキーラッキーと呟きながら頭の後ろで手を組んで去って行った。

  ◆◆◇◇◆◆

  「お疲れ様、[[rb:玄來 > げんき]]」

  「へへっ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]もお疲れ様」

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に夕暮れの砂浜を歩いていた。

  ウミネコは閉店間際まで客足が絶えなかった。閉店作業も手伝うと言ったのだが、ミケ先輩や女将さんが後は任せろと言って聞かなかった。

  「俺は客寄せとゴミ出ししてただけだ。ずっと鉄板の前で大変だっただろ?」

  鉄板の前で真剣に仕事をする[[rb:玄來 > げんき]]の姿は本当にカッコよかった。惚れ直した。

  「お前が一番カッコよかったぞ、[[rb:玄來 > げんき]]」

  俺は心からそう思って、[[rb:玄來 > げんき]]の目を見て素直な気持ちを伝えた。

  [[rb:玄來 > げんき]]は目を見開いてフリーズしてしまっていたが、俺はしまったとも恥ずかしいとも思わなかった。

  俺はどこか晴れ晴れとした気持ちで、フリーズする[[rb:玄來 > げんき]]に微笑んだ。

  「ね、ねぇクロ[[rb:兄 > にぃ]]、あそこの磯の方に行ってみない? 最初に来た時から気になってたんだ」

  「おう、いいぞ!」

  [[rb:玄來 > げんき]]の提案を俺は二つ返事で承諾した。

  ◆◆◇◇◆◆

  「うお、ガンガゼだ! 毒あるから気をつけろよ[[rb:玄來 > げんき]]」

  「うん。でも実は中身は毒なくてウニみたいに食べれるんだよ」

  「へぇー!」

  [[rb:玄來 > げんき]]と生き物探しをするなんて子供の時以来で、俺はウキウキしながら磯探索をしていた。

  「あ、ウミウシだ」

  [[rb:玄來 > げんき]]がウミウシを見つけて、俺も見ようとして[[rb:玄來 > げんき]]の方へ近づいた。

  [[rb:玄來 > げんき]]の目線の先にはナメクジみたいなウミウシがウネウネ動いていた。

  「お前って虫とかこういう気持ち悪い系ダメじゃ無かったか?」

  [[rb:玄來 > げんき]]は昔からそういう生き物がダメだった。

  今もダメなはずで、一緒にご飯を食べてる時にちっちゃいクモとかが出現したら俺が外にポイしていた。

  「基本ダメだけど、海にいるのは食材っぽく見えて割と平気なんだ。ナマコも普通に調理できるよ」

  「ふーん、そうなのか」

  [[rb:玄來 > げんき]]と海に来たことがほとんど無かったため、俺は初めてそのことを知った。

  「お前と海に来ることなんてほとんど無かったもんなぁ。そういえばお前、昔は海を毛嫌いしてなかったか?」

  記憶が定かでは無いが、“海”というと[[rb:玄來 > げんき]]の反応が微妙だったような気がする。それで極端に海に行く機会がなかったような・・・。

  俺がそう言った途端、[[rb:玄來 > げんき]]はムッとして[[rb:優 > ゆう]]みたいなジト目で俺を見た。

  「それクロ[[rb:兄 > にぃ]]のせいだよ、覚えてないの?」

  「おれぇ!?」

  [[rb:玄來 > げんき]]の告白に驚愕した俺は、記憶を掘り返すことなく、反射的に[[rb:玄來 > げんき]]に詳細を尋ねた。

  そして、[[rb:玄來 > げんき]]の話を聞いて、俺は全てを思い出した。

  それは俺と[[rb:玄來 > げんき]]がまだ小さかった頃の夏のある日、俺と[[rb:玄來 > げんき]]と[[rb:光 > ひかり]]の3人で姉の[[rb:琉愛 > るな]]の怪談話を聞いた日のことだ。

  “ナメクジ人間かぁ、案外その辺に居たりしてな!”

  “やめてよクロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・”

  “・・・なぁ[[rb:玄來 > げんき]]”

  “何?”

  “俺が山に虫取りに言った時さぁ、帰りが遅くて怒られたことあっただろ?”

  “・・・うん”

  “黙ってたけど実は俺・・・ナメクジ人間なんだ”

  “─────ッ!?!?!?”

  その場でちょっとからかうつもりだったのに、[[rb:玄來 > げんき]]は俺のウソを信じてしまった。

  そして、[[rb:光 > ひかり]]と[[rb:琉愛 > るな]]がどうしても行きたいと言って、皆で海水浴に行った時──────。

  “よーし泳ぐぞ[[rb:玄來 > げんき]]ー!”

  “え、え、クロ[[rb:兄 > にぃ]]、だって、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は・・・”

  “一番乗りー!”

  “────ッ!! ダメーーーー!!!”

  [[rb:玄來 > げんき]]は海に走り出した俺にしがみついて、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が溶けちゃうとか、居なくならないでって歯を食いしばりながら大泣きした。

  その後しばらく、[[rb:玄來 > げんき]]は口を聞いてくれなくなった。

  「そ、そんなことも・・・あった・・・かなー?」

  「だから海は拒否してたし、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の家でもクロ[[rb:兄 > にぃ]]が台所に入らないように気をつけてたし、海に行った後もそのこと思い出して行くの嫌だったんだよ」

  ジト目の[[rb:玄來 > げんき]]のほっぺがちょっと膨らんでいる。可愛いけど気まずい。

  知ってはいたが、[[rb:玄來 > げんき]]って結構根に持つタイプなんだよな・・・。

  「ま、まぁ子供の冗談だろ! あんなの間に受けちゃって可愛いヤツめ!」

  この空気を何とかしようとして苦し紛れに軽口を叩いた途端、[[rb:玄來 > げんき]]の眉がピクリと動いた。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・スマホと財布貸して。そんでこっち来て」

  俺は有無を言わさぬ[[rb:玄來 > げんき]]の圧に負けて言う通りに従った。

  そして、砂浜まで戻った後に[[rb:玄來 > げんき]]は急に俺をお姫様抱っこした。

  「げ、[[rb:玄來 > げんき]]!?」

  いつもならドキドキでキャパオーバーになるシチュエーションなのだが、今回は違う種類のドキドキが混ざっていた。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]の───────」

  そう言うと[[rb:玄來 > げんき]]は俺を抱いたままその場で回転を初めた。

  これは・・・まさか!?

  「わわわわわ[[rb:玄來 > げんき]]!?」

  「バカーーーー!!!」

  「ふにゃーーーーん!!!」

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]に勢い良く海へ投げ飛ばされ、ダッパーンと音を立てて夕暮れの海に沈んだ。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  なんとか宣言通りに今日投稿することが出来ました。(遅

  実はこのストーリーの裏でミケパイと虎次郎たちのお話が進行しているのですが、本編だと蛇足になるのでいつか短編で書けたらなと思ってます。

  【定期】

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  作者は元々いいねもフォローも恥じらう超コッソリ閲覧勢だったので、そんな方々でも検索一発で全部見れるように工夫してます。

  続きを待ってくださってる方々がその期間を少しでも楽しめるように、また、本編をより楽しめるようにと思っております。

  いつも柴クロをお読みいただき、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ