柴後輩とクロ兄ちゃん【茶トラ】

  「浮き輪も楽しんだし、久しぶりに泳ぐかな」

  浮き輪なんて子供の遊具だと思っていたが、実際に使ってみるとめちゃくちゃ楽しかった。波に揺られて浮いてるだけでも楽しかったが、[[rb:優 > ゆう]]が引っ張ってくれた時は楽しすぎて子供みたいにはしゃいでしまった。

  そろそろ本格的に泳ごうと俺はゴーグルを装着し、浮き輪からヒョイっと抜けた。

  「うわわっ」

  俺が海に潜って浮き輪から抜けると、浮き輪に掴まっていたユズがバランスを崩して声を出した。

  海面に出てユズの方を見ると、縦向きになった浮き輪にしがみついていた。

  「ねえクロ[[rb:兄 > にぃ]]、泳ぐならオレと...」

  「ちょっと! いきなり抜けないでよ!」

  [[rb:玄來 > げんき]]が何か言いかけたところで、ユズが不機嫌そうに口を挟んだ。

  そういえば浮き輪で遊んでいた時、ユズは一度も浮き輪から手を離さなかった。今もユズは1人で浮き輪にしがみついている。

  もしかして・・・。

  「ユズ、お前泳げないのか?」

  俺がそう言うと、ユズの[[rb:眉間 > みけん]]がピクリと動いた。

  「そんなわけないでしょ!」

  ユズは膨れっ面でそう言った後、「ただ・・・」と言ってそっぽを向いた。その顔は恥じらっているようにも見える。

  「足つかない所で泳いだ事ないだけ・・・」

  俺は一瞬キョトンとした後、ニマニマしながらユズに急接近した。

  「なんだよユズ〜、怖いのか〜?」

  「はあ!? 違いますけど!? ていうかその顔やめろ!」

  俺はいつも高飛車で生意気な態度の後輩が弱みを見せたことに堪らなくなって、思いっきりユズにウザ絡みした。

  ツンデレな後輩を弄りたくなるのは先輩の[[rb:性 > さが]]なのだ。許せユズ。

  ユズをひとしきり弄った後、俺は縦になった浮き輪を元に戻しながらユズと一緒に浮き輪の穴に入った。

  突然で驚いたのか、ユズはギャーギャー言うのやめて押し黙った。

  「せっかくだし俺が立ち泳ぎ教えてやるよ。海ならプールより浮きやすいだろうしな」

  「べ・・・別にそんなの・・・いらないし」

  まだツンツンしてくるユズに、俺は遠慮するなと言って頭をワシワシ撫でた。

  「じゃあまず息を大きく吸い込んで」

  「だからいらないって」

  「いいから」

  食い下がる俺に観念して、ユズは息を吸い込んだ。

  「そして息を止めたらギュッと目を瞑る!」

  俺は少し早口でまくし立てるように指示した。

  ユズは抵抗すること無くそれを実行し、息を止めてギュッと目を瞑った。

  「そのままっ・・・!」

  「!?!?」

  俺はユズを抱きしめ、浮き輪を抜けて海中に引きずり込んだ。

  俺は海中で後ろに反転し、ユズに肩を抱かせて海面に上がった。

  「ぷはっ」

  「もぉぉおおお!! バカじゃないの!! バカじゃないの!! バカじゃないの!!」

  海面に上がると、予想通りユズは俺の肩に掴まりながら騒いだ。

  俺は笑いながらそれを制して、これが立ち泳ぎだぞと言って手本を見せてやった。

  「あ、そうだ浮き輪」

  俺は放ったらかしになった浮き輪を回収してもらおうと[[rb:玄來 > げんき]]の居た方を向いたが、そこに[[rb:玄來 > げんき]]の姿は無かった。代わりにその方向には柴犬の耳っぽいモノが浮いていて、なにやらブクブクしていた。

  俺が再び誰かいないかと呼びかけると、海中から頭と両手にナマコを携えたジト目のデカい虎が突如として出現した。

  俺はその虎さんにナマコは返して来なさいと叱った後、浮き輪の回収を命じ、ユズと一緒に泳ぎの練習をした。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「飯だー! 腹減ったー!」

  海を堪能した後、俺たちは昼食を摂るために一旦シャワーを浴びて海の家“ウミネコ”へ戻ってきた吹きさらしだが広々とした食事スペースには到着した時よりも人がいたが空席は十分にあった。

  「みんなおかえり! お腹空いたでしょ」

  ウミネコへ戻ると給仕をしていたミケ先輩がすぐ俺たちに気付いて出迎えてくれた。

  テーブル席と座敷の両方空いていたが、まだ小さい[[rb:誓優 > せいや]]くんが一緒なら座敷の方がいいだろうということで、ミケ先輩が案内してくれた。

  座敷は4人用で、俺たち4人と店長たちは隣同士のテーブルにそれぞれ座った。

  「おうオマエら、決まったら好きなもん頼めよ。[[rb:優 > ゆう]]坊は足りなきゃ海に狩りに行け」

  席に着くと隣のテーブルから店長が声をかけてくれた。どうやらここも奢ってくれるらしい。あの店長を前に学生身分で遠慮するのも無粋だろうし、ここはありがたくご馳走になろう。

  「さっき狩ったら怒られたよ」

  店長の言葉に俺の向かいに座っている[[rb:優 > ゆう]]が応えた。

  「あのナマコ食うつもりだったのかよ!」

  俺は即座にツッコミを入れた。

  名前の分からない魚や貝ならいざ知らず、ナマコはダメだ。どのくらいダメかってアワビとか伊勢エビレベルでダメなはずだ。俺でも想像がつく。叱り飛ばしておいて良かった。

  「今の時期、ナマコは夏眠状態のはずなんだがな。よく見つけたな」

  「近くの磯場とかにいた」

  確かにあったが、いつの間に行ったんだ。

  店長と[[rb:優 > ゆう]]がそんな会話をしていると、ミケ先輩が人数分の麦茶を盆に乗せて戻ってきた。

  「ご注文どうされますか? オススメは塩焼きそばと浜焼き、それと焼き魚です!」

  ミケ先輩は麦茶を配り終えると、元気よく注文を取り始めた。

  「よし、じゃあまず浜焼きを人数分だ。それと塩焼きそばをこっちに2人前とそっちの虎にとにかく大盛りで頼む。あとアジの塩焼きを1つ。ドリンクは注文がなければ全員ウーロン茶にしてくれ」

  店長はオマエらは飲んでもいいぞと付け加えて注文を終え、同時にミケ先輩は注文のメモを既に終えていた。

  「クロくんたちはどうする?」

  ミケ先輩に問われた俺はメニューを見て少し悩んでいた。

  店長が浜焼きを頼んでくれたからその分は量がある。焼き魚やイカ焼きも美味しそうだが全部は食べきれない。おすすめの塩焼きそばも気になる。

  「ユズと[[rb:玄來 > げんき]]はどうするんだ?」

  とりあえず俺は2人に振ってみた。

  「じゃあ・・・オレ、塩焼きそばで・・・」

  [[rb:玄來 > げんき]]は妙にしょんぼりオーラを出しながらそう答えた。

  体調でも悪いのだろうか。

  「どうしたんだ[[rb:玄來 > げんき]]。気分でも悪いのか?」

  俺が尋ねると[[rb:玄來 > げんき]]は首をブンブン振って否定し、お腹が空いただけだと答えた。

  しかし、以前よりマシになったとはいえ[[rb:玄來 > げんき]]は我慢癖がある。ちょっと気を付けておいてやろう。

  「ねぇルキ[[rb:兄 > にぃ]]、俺塩焼きそばとアジの塩焼き食べたいんだけど食べきれないから手伝ってよ」

  「おう、いいぞ。ちょうど俺も食べたかったんだ」

  注文を悩んでいた俺はユズの提案に二つ返事で了承した。

  なるほど、シェアすれば複数のメニューを味わえる。ユズからその提案が来るとは思わなかったが、俺にとっては願ったりだ。

  「あ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]! 焼きそばならオレのを・・・」

  俺とユズが注文を決めたところで[[rb:玄來 > げんき]]は気を使って声を掛けてくれた。

  しかし、俺はそれを断った。

  「腹減ってるんだろ? 俺はユズと分けるからお前は一皿全部たらいいぞ」

  「あ、そっか・・・うん」

  [[rb:玄來 > げんき]]は頭をゆっくり下げ、耳だけテーブルの縁に引っ掛けるようにして身体を丸めて沈み込んでしまった。相当空腹だったらしい。

  [[rb:優 > ゆう]]もそんな[[rb:玄來 > げんき]]を見かねて頭をポンポンと叩いてやっていた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「ウマい! 俺の目に狂いはなかったぜ! [[rb:友紀 > ゆき]]ちゃんもこのアジ食ってみろよ」

  先に出来上がった焼きそばと焼き魚の味に店長はご満悦のようだった。

  海の家は他にもいくつかあったが、店長は“店は俺の勘で決める”と言って意気込んでいたので、その勘が当たって嬉しいのだろう。

  確かに焼きそばも焼き魚もすごく美味い。浜焼きはまだ焼けてないが見れば分かる。これも間違いなく美味い。

  「あれ、この塩焼きそば・・・」

  何口か食べた後、そう言って[[rb:玄來 > げんき]]は食べる手を止めて塩焼きそばを見つめていた。

  「どうした[[rb:玄來 > げんき]]、食べないのか?」

  気になった俺は[[rb:玄來 > げんき]]に声をかけた。

  この塩焼きそばを俺は美味いと思ったが、[[rb:玄來 > げんき]]にとってはそうでもなかったのだろうか。

  「この塩焼きそば、どこかで食べたことあるような気がして」

  [[rb:玄來 > げんき]]はそう言うと、再び焼きそばを食べ始めた。食べながらも目を瞑り、何かを思い出そうとしている様子だった。

  そして、大盛りだったはずの焼きそばを消し終えた[[rb:優 > ゆう]]が口を開いた。

  「学園祭で食べたやつに似てる」

  「あっ! それ! それっす!」

  [[rb:優 > ゆう]]の一言に[[rb:玄來 > げんき]]は目を開いて勢い良く肯定した。

  そういえば学園祭の時に[[rb:優 > ゆう]]に勧められて[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に食べたのが塩焼きそばだった。俺は味をあまり覚えていないが、美味しかったことだけは覚えている。

  「あ、あの『塩ダレ焼きそば』食べたんだ! 美味しかったでしょ!」

  いつの間にかこちらに来ていたミケ先輩が、[[rb:優 > ゆう]]の言葉に反応した。

  ミケ先輩は焼きそばを食べたがった[[rb:誓優 > せいや]]くんのために小皿を持ってきてくれていた。

  それはともかく、先程のミケ先輩の発言は共感というより提供者側のそれっぽく聞こえる。

  「え、ミケ先輩ってCircle以外にどこか所属してたんですか?」

  模擬店は部活やサークル単位で出店されることが多いのだが、ミケ先輩はCircle以外に掛け持ちしているなど聞いたことがない。あの熱量で他も掛け持ちしていたらいくらなんでもパワフル過ぎる。

  「違う違う。その模擬店の『塩ダレ焼きそば』を監修したのが私なの」

  「そうなんですか!?」

  学園祭ではCircleも結構準備に追われていた。それなのに、まさかCircle以外の団体にも出張していたとは驚きだ。

  「ねえ、クロくん。私たち学園祭でスタンプラリーやったでしょ? あれの景品なんだったけ?」

  ミケ先輩は目を伏せて俺に問いかけてきた。

  あのスタンプラリーは[[rb:八木 > やぎ]]先輩の卒業研究を兼ねたものだった。さすがに学生の卒業研究で研究費など出るはずもなく、景品は自分たちで何とかするしかなかった。

  「景品は確か・・・駄菓子と模擬店のお食事け・・・・・・っ!」

  そこまで言って俺はハッとした。

  そして、そんな俺の様子を見たミケ先輩は人差し指を立てながら再び口を開いた。

  「いい? クロくん、交渉っていうのはね、関係性を築いた上でお互いがWin-Winになれる提案を持って行く所からがスタートなのよ」

  その後、ミケ先輩は“頼んだわよ次期リーダー”と言って俺の背中を叩き給仕の仕事に戻って行った。

  Circleの顔の広さから推察すると、このような根回しをしているのはミケ先輩だけでは無いだろう。

  俺は改めてCircleの先輩達の底知れなさを垣間見た気がした。

  ◆◆◇◇◆◆

  美味しい食事を堪能した後、俺たちは談笑タイムに入っていた。

  「やっぱいい店っていうのはそういうオーラがあんだよ。女将さんが出てきた辺りで俺は確信してたぜ」

  「確かに人の良さそうな雰囲気でしたもんね」

  俺はご機嫌な店長の言葉に相槌を打ちながら話しを聞いていた。

  「クロ坊、あの女将さんが最初になんて言ったか覚えてるか?」

  突然の店長の問いかけに俺は少し考えて答えた。

  「ようこそ“ウミネコ”へ、でしたっけ?」

  俺の回答に店長は首を左右に振った。

  「違うな。それはあの三毛猫の嬢ちゃんが言った言葉だ」

  確かにミケ先輩も同じようにようこそと言って迎えてくれたのは覚えている。しかし何か違いなどあっただろうか。

  「女将さんはな、ようこそ“ウミネコ浜”へって言ったんだ」

  店長はそう言って得意げな感じで腕組みをして見せた。

  ビーチの名前がウミネコ浜で、この海の家の名前がウミネコ。ようこそに続く言葉としてはどちらも正しいが、そこに大きな違いがあるだろうか。

  「要するにスタンスが違うんだよ。あの嬢ちゃんは女将さんの手伝いで来てるんだろ? だから“ウミネコ”って言ったのさ。だが、女将さんは違う。この浜に来た人達を歓迎してんのさ。奥に居るご主人もきっと同じなんだろうよ」

  ─────ああ、なんとなく分かった。

  決してお客さんは多いとは言えないが、ミケ先輩の接客を見ている限り、常連さんが多い印象だった。海水浴に来た人だけでなく、普段着で昼食だけ食べに来たような地元民っぽい人もちらほら居る。

  俺はこの店は“銀”と少し似てるなと思った。

  「おーい、邪魔するぜぇー!」

  店長の言葉にほっこりしていたのも束の間、安らぎの空気を割くようにオレンジのアロハシャツを来た1人の茶トラ猫が入ってきた。背丈は[[rb:玄來 > げんき]]と同じ位だろうか。体格は結構ガッチリしていて腕も太い。

  ・・・こういう視点ってホモだからなんだろうか。さすがに考えすぎか。

  「あー! 何しにきたのよコジロー!」

  突然現れた茶トラ猫にすぐさま厨房から出てきたミケ先輩が駆け寄った。

  「だからコジローじゃねえ! [[rb:虎次郎 > とらじろう]]だ!!」

  コジローと呼ばれた茶トラ猫はミケ先輩の知り合いのようで、察するに結構気安い関係性のようだ。

  「どっちでもいいでしょ。何しに来たのよ。あんたも店あるだからさっさと帰りなさいよ」

  気安い関係性ではあるようだが、ミケ先輩は喧嘩腰だ。あの格好で店があるということは近くの海の家の従業員だろうか。

  「へっ、繁盛店からこの[[rb:名古谷 > なごや]] [[rb:虎次郎 > とらじろう]]様がわざわざこんな古臭い海の家に様子見に来てやったんだぜ? もう少し態度考えた方がいいんじゃないのか?」

  ・・・どうやら[[rb:商売敵 > しょうばいがたき]]らしい。なるほど、ミケ先輩が喧嘩腰になるわけだ。

  「なーにが繁盛店よ。SNS映えとかばっかり気にした中身空っぽのメニューばっかり出して、ポリシーもプライドも皆無じゃない」

  「客に選ばれねー店が語るポリシーやプライド何か1円にもなんねーよっ!」

  「選んでくれる人だっていますぅー!! それにあんたのとこ新規ばっかで常連とかほとんどいないでしょ!」

  「客は流動するもんなんだよ。もっともオメェの店はその流れの中に入ってないみたいだけどな」

  そう言って茶トラ猫は店内見渡し、座敷から様子を見ていた俺と目が合った。

  「ほー、見慣れない顔が居るじゃねーか。大学の知り合いでも呼んだかよ、ミケ」

  「違いますぅーー!! 大学関係には違いないけど、クロくんたちは初見でウチの店を選んでくれたんですぅーー!!」

  「クロくんだぁ?」

  人の良いミケ先輩が精一杯嫌味な口調でそう言うと、茶トラ猫は眉をピクリと動かし、こちらに向かって歩いてきた。

  「おい、クロくんってどっちだよ」

  茶トラ猫は俺と店長を交互に見てそう言った。

  穏やかじゃない雰囲気を感じ取ったのか、[[rb:誓優 > せいや]]くんが泣き出してしまい、店長は傍から見たら絶対にカタギに見えない傷の入ったその顔で茶トラ猫をギロリと睨んだ。

  それを食らった茶トラ猫は尻尾の毛をブワッと立ててすくみあがってしまい、ちょっと気の毒に思った俺は助け舟のつもりで声をかけた。

  「あの、クロは俺ですけど・・・」

  茶トラ猫は店長の視線から逃げるかのようにバッとこちらを向いた。

  そして、ムスッとした顔で口を開いた。

  「お前、ミケのなんだよ」

  ・・・・・・はい?

  俺がフリーズしていると、ミケ先輩駆け寄ってきて俺に抱きついた。

  「わっ! ちょっとミケ先輩!」

  「私の大事な人にちょっかい掛けないでよバーカ!」

  明らかに誤解を招くミケ先輩の言動に茶トラ猫と何故か[[rb:玄來 > げんき]]がピクリと反応した。

  「はっ、それはそれは。わざわざこんなとこまで知り合い連れて女に貢ぎに来たってわけか。ご苦労なこった」

  なんか話が変な方向に向かっている。

  「それもそうか。お前みたいなヒョロくて弱そうなやつが何もしないでモテることなんて有り得ねーもんな」

  「・・・あ?」

  茶トラ猫の言葉に[[rb:玄來 > げんき]]が反応する。

  顔からは明らかに怒気が感じられる。

  「お前みたいなやつはそうやって媚びて生きていくのがお似合いだぜ」

  その言葉の後で強烈な殺気を感じて振り返ったが、そこには[[rb:優 > ゆう]]だけがいつもの顔で座っていた。

  「女に媚びるなんて男として情けないぜ。いっそホモになってキモイ奴ら同士で乳くりあってろよ」

  ホモという言葉に一瞬ドキッとしたが、ゆっくり息を吐いて平静を保った。

  今の言葉でユズが傷付いてないか心配になったが、本人は我関せずといった様子で頬杖をつき、スマホをいじっていた。

  「アンタねぇ・・・言わせておけば・・・」

  噴火寸前の火山のような雰囲気でミケ先輩が声を絞り出し始めたところで、茶トラ猫は身を翻して店の外へ歩きだした。

  「ま、貢いだところでこんな店潰れるけどな。じゃーなヒョロ猫。この三連休も売上トップはこの[[rb:名古谷 > なごや]] [[rb:虎次郎 > とらじろう]]様の店だぜ」

  それだけ言い残して、茶トラ猫は店を去っていった。

  「すみませんね皆さん。こちらはサービスです。甘いものでも召し上がって。どうか気を悪くしないでくださいね」

  そして、茶トラ猫が去ると同時に、タイミングを見計らったかのように女将さんが出てきて、アイスクリームを持ってきてくれた。

  あからさまな営業妨害を受けたのに、女将さんはひたすら俺たちに申し訳ないといった様子で、なんだかやるせない気持ちになってしまった。

  そして、[[rb:誓優 > せいや]]くん鳴き声だけが鮮明に聞こえる沈黙の後、店長が口を開いた。

  「いい店だよなぁ。ここ」

  店長はおもむろにそう言うと、不敵な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

  「今日が祝日の月曜で、明後日が日曜、日曜は店も休みだし俺はもう一度ここに来ようと思う」

  俺も皆も店長の意図が読めないと言った様子だ。

  [[rb:友紀 > ゆき]]さんだけは何か分かっているような呆れ顔で[[rb:誓優 > せいや]]くんをあやしている。

  「ついでに、あのガキに一杯食わせてやろうかと思うんだが・・・乗るか?」

  店長がその言葉を言った瞬間だった。

  「乗る」

  「うす」

  「フン」

  [[rb:優 > ゆう]]、[[rb:玄來 > げんき]]、ユズの3人が同時に声を上げた。

  「て、店長、一体何を・・・」

  俺が店長に恐る恐る尋ねると、店長は牙を覗かせてニヤリと笑った。

  「俺たちで、この海の客を独占する」

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  

  Twitter(X)での宣言通りUPできたどー!(遅

  Twitter(X)でも呟いたかと思いますが、柴クロはこういう伏線が大量にあります。

  このお話だと【学園祭】【サイリウム】、読み切りスピンオフの『虎がウソをついた日』などを読み返して頂くと面白味が増すかもしれません。

  また、バレンタインに過去のバレンタインイベントのユズサイドのお話『求める猿』をUPしております。少しでも意味不明なツンデレ猿の理解を深めてもらって本編をより楽しんで頂ければと思って執筆しました。

  良ければ目を通してやってください。

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ 更新中です。

  また、Blueskyで『柴クロ勇者パーティー』連載中(?)です。

  Blueskyで『柴クロ勇者パーティー』と検索すれば過去の投稿全部見れます。

  いつも柴クロをお読み頂き、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ