「ふぅ・・・」
海の家の作戦も無事終了し、家に帰って[[rb:人心地 > ひとごこち]]付いたオレは天井を仰ぎながら倒れるようにベッドへ横になった。
部屋の中はいつもよりやけに静かに感じて、隣部屋の音も聞こえて来なかった。さすがにクロ[[rb:兄 > にぃ]]も寝ただろう。
この3日間はなかなかハードだった。海に行って一日中遊んで、2日目は銀の営業と作戦の準備、3日目は海の家の調理場でフル稼働だ。
店長なんてもっと大変だっただろう。さすがに今日の帰りの車は[[rb:優 > ゆう]]さんに運転を任せて寝ていた。
オレも車で寝させてもらったが、全身に乳酸が溜まったような感覚が抜けなかった。
明日も銀の営業があるし早く寝ようと思ったが、部屋の明かりはまだついている。
疲れもあり、どうにも身体を動かすのが億劫で、オレは部屋の天井をぼーっと眺めながら、クロ[[rb:兄 > にぃ]]のことを思い返していた。
“お前が一番カッコよかったぞ、[[rb:玄來 > げんき]]”
そう言ってニカッと笑ったクロ[[rb:兄 > にぃ]]。まるで胸を射抜かれたような衝撃だった。なんていうか、生を実感するっていうか、オレはこの為に産まれてきたんだって悟ってしまったような衝撃だ。
思い出すだけで胸が甘く痺れて、頭へ、そして全身に熱い血が通うような心地がした。
「はぁ・・・」
ため息をついて胸の熱を吐き出してみても、高揚は治まらない。頭の中ではクロ[[rb:兄 > にぃ]]の顔と言葉と声が何度も[[rb:反芻 > はんすう]]して、その度に記憶の中のクロ[[rb:兄 > にぃ]]が鮮明になっていった。
「・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]」
オレは何度目かになるため息の後で、小さくそう呟いた。
この極まりきったブラコンはどうやって発散すればいいんだろうか。この調子だと、またオレばっかりクロ[[rb:兄 > にぃ]]にドキドキさせられてしまう。
そうじゃなくて、オレにドキドキしてほしい。それでまたオレが1番だって、カッコいいって言って、笑って─────。
「あ・・・やべ・・・」
そこまで考えて、オレは胸の熱が身体の下の方に下がっていることに気がついた。
また疲れナントカってやつだ。それになんだかんだで3日間も抜いてなかったんだからしょうがない。高揚して血行も良くなってたワケだし、これはしょうがない。決してブラコンを通り越してド変態になったとかではない。
「・・・」
溜まってるし、せっかくなら気持ち良く出したいと思ったところで、[[rb:優 > ゆう]]さんからもらった誕生日プレゼントが頭をよぎった。
使ったことなんてなかったから、中をしっかり確認することもなく包装し直してベッドの下に入れたままにしていた。
オレはベッドに乗ったまま、ベッドの下を覗き込んだ。フローリングの床についた犬耳がへにゃっと潰れて少しヒンヤリする。
「あった」
オレは目的の物を見つけて手を伸ばした。
オレはベッドの上で胡座をかいて、少し緊張しながらタンブラーが入ってそうなサイズの箱の包装紙を解いていった。
そして────────。
「んなっ!?!?」
オレは中を確認した瞬間、反射的に包装紙をグシャッと被せ直してしまった。
もらった時は横にクロ[[rb:兄 > にぃ]]もいてよく確認しなかったが、改めて箱をちゃんと見ると、スリムで巨乳な黒猫のモデルと“名器”の文字がプリントされていた。
「[[rb:優 > ゆう]]さん、なんでっ・・・」
なんで[[rb:優 > ゆう]]さんはオレの好みを把握してるんだ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]に聞いたんだろうか。そうに違いない。
でもよりにもよってこのタイミングで黒猫って・・・。クロ[[rb:兄 > にぃ]]の毛並みは黒じゃなくて紺色だけど・・・。
─────いやいやいや!!
なんでそこでクロ[[rb:兄 > にぃ]]が出てくるんだ、落ち着け。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は男だ。身体はスリムで、抱きしめると柔らかくて、毛並みも綺麗で、撫でると滑るような気持ち良さで、少し照れ屋で、明るくて、頭を撫でてもらうと気持ち良くて、いい匂いがして、優しくて、可愛いところもあって、もっと頼られたいとか、ずっと一緒に居たいと思えるオレの理想の────────。
「理想の“兄ちゃん”だろうが!! バカかオレは!!」
オレは再びベッドへ倒れ込み、熱を冷ますように左腕を額に当てて天井を仰いだ。
そして、一旦頭の中を空っぽにして起き上がり、ぐしゃぐしゃにしてしまった包装紙を丸めて捨てて、件のプレゼントをベッドの下に戻した。
オレは自己嫌悪とか色んな気持ちに悶々としながら布団を被って眠りに──────つこうとしたが無理だったので、スマホでオカズを漁ってお務めを果たすことにした。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
「夏祭り?」
いつも通りクロ[[rb:兄 > にぃ]]と一緒に晩御飯を食べていると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の口からその単語が出て、オレは食べる手を止めて聞き返した。
「ああ、昨年の学園祭でやったスマホのスタンプラリーを夏祭りでやってくれないかって前から頼まれててさ、大学のサークルでブースを設置することになってるんだよ」
そういえば昨年学園祭に行った時、クロ[[rb:兄 > にぃ]]のサークルはキッズコーナーみたいなのと一緒にそんなことをやっていたな。オレはやらなかったけど、確か店長たちはミケさんに案内されてやっていたはずだ。
オレは学園祭のことを思い返しながらスプーンでカレーをすくって一口食べた。
今日のメニューはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の好きなナスを使ったキーマカレーだ。夏だし、クーラーの効いた部屋ならあえて辛いものを食べて暑気払いするのも良いだろうと思い、少しだけ辛めに作ってみた。鷹の爪もたくさんあったし、何よりナスと唐辛子はよく合う。
サフランライスも良い色と香りに仕上がっているし、使った挽き肉も脂を混ぜ込んでいない合い挽き肉を使ったので、サッパリとしていながら味とコクがしっかりある仕上がりになっていると思う。
そのはずなのだが、今日はクロ[[rb:兄 > にぃ]]のふんにゃ〜が無い。食べるスピードもいつもより遅い気がする。
少し辛くし過ぎただろうか。
「それでな・・・」
オレがそんなことを考えていると、不意にクロ[[rb:兄 > にぃ]]が口を開いた。
オレに目を合わせることなく、いつもピンとしている猫耳をペタッと下げて、尻尾を悩ましげに振りながらもじもじしているように見える。
オレは理由もなく少しドキドキした。
「ブースの運営は交替でやるから、祭りの間は自由時間が結構あってさ。だから、その・・・良かったら久しぶりに[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に屋台とか周りたいなー・・・なんて」
そう言ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]は顔を斜め下に逸らしたまま瞳だけこちらにチラッと向けた。
ドキッとした。
期待通りの言葉に身体が喜んだのか、誘い方がいつもの雰囲気と違うからなのかは分からないが、答えは決まっている。
「もちろん! へへっお祭りなんて久しぶりだね」
オレが二つ返事で了承すると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は耳と尻尾をピンと立てていつもの明るい様子に戻った。
昨年もお祭りがあること事態は知っていたが少しだけ場所が離れていたこともあって、行くことは無かった。
銀のお客さんから、あそこの祭りの花火は有名なんだと聞いたから一緒に花火も見れるといいな。
オレは無意識のうちに目を瞑ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]と観る花火を想像していた。
「[[rb:優 > ゆう]]とユズも誘ってるんだ! 花火がすごくて結構規模が大きいお祭りだから、きっと色んな屋台があるぞ!」
それを聞いた瞬間、打ち上がった花火が弧を描いて川に落ちた。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はさっきまでの様子と打って変わってキーマカレーを頬張ってくれている。
それは嬉しい。嬉しいのだが・・・。
なんで[[rb:優 > ゆう]]さんがオレより先に誘われてるんだ。・・・いや、学校が同じだし仲が良いのだから当然か。
それよりもなんであの猿より・・・いや、サークルが同じなのだから参加は当然か。
しかし、何故か解せない。勝手に2人きりを想像していたオレも悪いのだが・・・解せない。だってオレが─────!
クロ[[rb:兄 > にぃ]]に・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]の1番に──────!
そこまで考えて、オレは目をぎゅっと瞑り、頭をブルブルっと振った。
バカなことを考えるのは辞めよう。クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレだけのものじゃない。みんなのクロ[[rb:兄 > にぃ]]だ。みんなに好かれるクロ[[rb:兄 > にぃ]]がいつものメンツだけでお祭りに行こうと言ってくれてる事実だけでも嬉しいことだ。それを2人きりでクロ[[rb:兄 > にぃ]]を一人占めしようなんてワガママ過ぎる想像だ。
─────オレがワガママ言ったら、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は聞いてくれるのかな・・・。
いやいやいや、何考えてるんだ!
オレは再び頭をブルブル振って煩悩をふるい飛ばした。
「ど、どうした[[rb:玄來 > げんき]]。もしかして・・・あんまり乗り気じゃなかったか?」
オレの様子を見て、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はこの上なく耳を垂れ下げ、苦笑しながらそう言った。
「全然無理しなくていいからな! この前もお前は休日返上だったし、疲れてるだろうし、たまには休日に1人で羽根伸ばしてゆっくりするのもいいと思うぞ! そ、そうするか?」
それを聞いて、オレは胸の中が色んな感情がごちゃ混ぜになり、口を噤んだ。
またクロ[[rb:兄 > にぃ]]を不安にさせたとか、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の誘いをオレが嫌だと思われてるのが心外だとか、なんでオレが1番に誘われてないのかとか、色々、たくさん。
オレは無言でスッと立ち上がり、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の隣りに移動した。
「え、あの・・・[[rb:玄來 > げんき]]?」
そして、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の両肩をガシッと掴んだ。
「ひっ・・・!」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]の身体がぴょんと跳ねた。たぶん引いてる。分かってる。でも、もう引っ込みが・・・というか抑えが効かなかった。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]!」
「は、はい!?」
オレは燃えたぎる瞳にクロ[[rb:兄 > にぃ]]を収めながら言い放った。
「オレ、お祭り絶対に、絶対に行くから! クロ[[rb:兄 > にぃ]]んとこのスタンプラリーもするし、屋台もいっぱい見て回るし、花火も一緒に観るからね! 絶対だから!」
「お・・・おう」
オレは理由も分からずにたぎっていた。
射的でも金魚すくいでも型抜きでもクジでもなんでも来い。
学園祭の時のリベンジもある。[[rb:優 > ゆう]]さんにだって勝ってみせる。
全部オレが1番になって、クロ[[rb:兄 > にぃ]]にすごいって、カッコいいって言わせてやる。
「わ、分かったから、早くカレー食べちゃおうぜ? 冷めたらもったいないだろ? な?」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は困り顔で笑いながら、オレの頭にポンと手を置いて軽く撫でてくれた。
オレも反射的に耳を下げて知らぬ間に尻尾を振っていた。相変わらず現金な尻尾だ。
オレは席に戻って冷静になり、普段通りの調子に戻った。
しかし、胸の中は燃えていた。
必ずクロ[[rb:兄 > にぃ]]にオレが1番だって、カッコいいって言わせてみせる。[[rb:優 > ゆう]]さんにも猿にも負けない。
オレが────────
オレがクロ[[rb:兄 > にぃ]]の1番になる!!
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
[[rb:玄來 > げんき]]が荒れてきました(定期)
次回こそはガッツリ夏祭りです!
Twitter(X)に上げた[[rb:玄來 > げんき]]のラクガキをpixivにも上げておきましたので、雰囲気の参考にしてください。
【定期】
Twitter(X)で #柴クロ小ネタ で検索すると過去の小ネタやアンケートで遊んでるやつなど全部見れます。(随時更新中)
作中で語られていないキャラの背景なども小ネタにあるので、作品読んでてピンとくることがあったりなかったりするかもしれません。
Blueskyで 柴クロ勇者パーティー で検索すると連載中のやつ全部見れます。セリフだけなので四コマくらいのスナック感覚でどうぞ。
どちらも最新話をお待ち頂く合間に楽しんで頂ければと思います。
誤字脱字報告も毎度助かっております!
執筆から目指せ100usersを掲げて、お陰様で1話は50を超えて折り返し、シリーズとしては80を超えて、読み切りの夢[[rb:玄來 > げんき]]はほとんどリーチです。頑張ります。
いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。
蒼空ゆうぎ