「ふんにゃ〜・・・うまい」
「でしょ?」
実家からクロ[[rb:兄 > にぃ]]とこっちに戻ってきて最初の晩飯。クロ[[rb:兄 > にぃ]]の好みに合わせた料理は、無事にクロ[[rb:兄 > にぃ]]をふんにゃ〜させることができた。
「米の食感も面白い。とろっと濃厚なのに一粒一粒に芯があるような」
「炊いたご飯の余りじゃなくて、生の米から作ってるからね」
今日のメニューは旬の[[rb:鱈 > たら]]を使ったクリームリゾットだ。
白ワインで香り付けした生米をコンソメスープで炒め煮にして、別で作った[[rb:鱈 > たら]]のクリーム煮と混ぜ合わせた。[[rb:鱈 > たら]]は食感を良くするために皮付きのまま一度揚げ焼きにしてある。リゾットにはチーズも混ぜて、さらに上から粉チーズをかけた。とろっと濃厚なクリームリゾットにふわっと軽い[[rb:鱈 > たら]]の身が合わさり、食感をリズミカルにしてくれている。
「最初からお前の料理はうまかったけど、この1年で料理の腕だいぶ上がってる気がする」
「職場が小料理屋だしね。自然に腕が上がったのかも」
実際に店長は知識が豊富で、食材の下ごしらえだけでもかなり勉強になった。料理は和食中心だが、他の店では見かけないような料理を見る機会は多い。スイカの皮や、カニのおでんはいい例だ。
「でも銀って和食メインだろ? お前が作るのって洋食が多くないか?」
「和食の知識も通用すること多いよ。今までの料理も和食だけじゃなくて中国料理の知識とかも使って作ったりしてるし」
それでも洋食が多いのはクロ[[rb:兄 > にぃ]]が好きだから。本人に自覚は無いと思うけど、洋食の方がふんにゃ〜すること多いからたぶん当たってるはず。
銀で学んだことも多いけど、ほとんどはネットでの独学だ。自分で試してみて美味しいと思ったらクロ[[rb:兄 > にぃ]]にも食べてもらう。そこだけ考えれば晩飯が毎日一緒じゃないのは良かったのかもしれない。
でもそれは以前のオレだったらの話しだ。今はクロ[[rb:兄 > にぃ]]に嫌われることを怖がってたオレじゃない。試作品も一緒に食べてもらって好みを聞いたり、リクエストしてもらったりして、もっとクロ[[rb:兄 > にぃ]]のことが知りたい。
きっと全部美味しいって言ってくれるのは分かってるんだけど。
「[[rb:玄來 > げんき]]って昔から料理は得意だったよな。就職もそっち方面で考えたりしてたのか?」
「そうだね。給料高いことに越したことはないって思ってたけど、高卒だとどこも同じようなもんでしょ。だったら好きなこと仕事にしたいなって」
昔から料理は好きだ。父さんが死んで、仕事を頑張ってくれてる母さんを元気付けたくて小学一年生の時に作った親子丼が最初だった。
父さんは和食好きで、その中でも丼物が好きだった。普段の料理は母さんだったけど、たまに丼物を作る時だけは父さんが作っていた。
たまたまテレビで親子丼の作り方を見てそれを思い出したんだ。
その時、久しぶりに母さんが笑ってくれたような気がして嬉しかった。それからずっと料理は好きだ。
「それに、料理が出来たら自分の店持ったり出来るでしょ。オレもいつかは独立するつもりなんだ」
もちろん料理だけで独立出来るとは思ってない。経営にも知識は必要だ。だから銀で働いてそれもしっかり身につけると決めてる。
その頃には[[rb:誓優 > せいや]]くんも手のかからない歳になってるだろうから、オレが抜けても大丈夫だろう。
「[[rb:玄來 > げんき]]は偉いなぁ・・・俺も3年生になったら就活スタートさせないと・・・」
「え、大学って4年まであるんじゃないの?」
「就活スタートは3年からなんだよ。自己分析とか企業研究とかインターンとか色々。俺なんて全くビジョン見えてないよ」
高校の時は最後の3年生で就活を始めたから、大学も最後の4年生で始めるものと思ってた。大学生の就活って大変なんだな。
「お父さんと同じ仕事してみるとか?」
「絵本や小説なんて俺には無理だって。昔は弁護士やってたみたいだけど、俺工業大学で学部も全然法律関係ないし」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]のお父さんは作家さんで、たまに司法書士としての仕事も請け負ったりしてるらしい。
オレの父さんが死んだ時もクロ[[rb:兄 > にぃ]]のお父さんが何かと助けてくれたんだって母さんが言ってた。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]ならなんでも出来るよ。部活でも困ったらクロ[[rb:兄 > にぃ]]に任せとけば大丈夫って言われてたし、クラスでもそんな感じだったんでしょ?」
実際、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はなんでも出来る。リーダーも出来るし、裏方も高いクオリティでやってのける。文化祭の劇でも演者に合わせて背景のスライドをまるで動画みたいに動かして、その鮮やかさで会場を驚かせていた。
それに関しては、企画会議で隣の友達に冗談混じりに言った発言を拾われて自爆したって本人は言ってたけど。
「無茶振りされてただけだって。任されたらなんとかするしかないだろ?」
なんとかしちゃうから言ってるんだけどな。やっぱりクロ[[rb:兄 > にぃ]]は色々自覚が足りてないと思う。それが良い所でもあるんだけど。
「じゃあオレの店で働いてよ」
「へ?」
「オレが独立して店持ったらそこで働いてよ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]なら大歓迎だよ」
本当にそれが出来たら最高だ。毎日クロ[[rb:兄 > にぃ]]と一緒に仕事が出来たらどれだけ楽しいだろう。
「な、何言ってるんだよ! そんなの・・・だって・・・」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は一瞬ポカンとして、急におどおどし始めた。こうやってすぐ表情に出るところは[[rb:香澄 > かすみ]]と違うな。
・・・あれ、なんで[[rb:香澄 > かすみ]]と比べてるんだろ。同じ猫だからかな?
「冗談だよな・・・?」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]が耳をペタッとさせて、上目遣いで聞いてくる。
「本気だよ。流石にクロ[[rb:兄 > にぃ]]の卒業には間に合わないけど、仕事に迷ったりしたら絶対オレのところに来てね。無条件で即採用するから」
ブラコン極まってるなと自分でも思うけど、本心だから仕方ない。クロ[[rb:兄 > にぃ]]の良さが分からない企業に取られるくらいならオレがもらう。
「俺料理出来ないぞ」
「それはオレの担当だから、やるのは別の仕事だよ。ホールスタッフなんて絶対クロ[[rb:兄 > にぃ]]は得意だと思う」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は人が寄ってくるような雰囲気がある。絶対に人気者タイプだと思うんだけど、本人はいじられキャラくらいにしか思ってない。きっと店に出したら人気出ちゃうんだろうな。そのうちクロ[[rb:兄 > にぃ]]に惚れる子もたくさん出てきそうだ。
「それに、オレの店に来れば毎日オレの手料理食べれるよ?」
「むぐ!?」
お、もしかして胃袋はもう掴めてるかな。今の反応はそういうことな気がする。
「正直、[[rb:玄來 > げんき]]の手料理食べるようになってからコンビニ弁当食べれなくなってさ。最近は晩飯食べないこと増えたし、食べても適当に済ませてる」
バッチリ掴めてた。クロ[[rb:兄 > にぃ]]をブラコンにする作戦の第一段階はクリアだな。
「適当って何食べてるの?」
「卵かけご飯・・・」
「・・・」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はふりかけを変えたりとかはしてるぞなんて焦って付け足している。
野菜使った料理増やそうかな。
「じゃあ店出す時はクロ[[rb:兄 > にぃ]]の家の近くにしないといけないね」
「助かるけど、何処に出しても食べに行くよ。[[rb:玄來 > げんき]]の料理が食べたいのは俺のほうだからな」
ふーん・・・。
「料理だけ?」
「えっ」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はちょっとまごまごした様子で何か言おうとしている。
オレが言わせようとしてるだけなんだけど。
「お前にも・・・逢いたいから・・・」
「へへへっ、ありがと」
期待通りの言葉が返ってきて、思わず照れ笑いしてしまった。
これもうグイグイ攻めていいよな?
「料理もだけど、お前と一緒に晩飯食べれて嬉しいと思ってるよ。俺からも何か出来ればって思ったりもしてるんだけど・・・」
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]は材料費ほとんど出してくれてるじゃん」
「それでも外食やコンビニの時とそんなに変わらないって。何より美味しい」
「じゃあ、今日はオレのワガママ聞いてくれる?」
「え?」
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
「・・・あの、[[rb:玄來 > げんき]]さん?」
「なに?」
「本当にこんなんでいいのか・・・?」
「うん、そうだよ」
オレは今、ソファでクロ[[rb:兄 > にぃ]]に膝枕してもらっている。まだ初夢に出てきた猿のことが頭を離れなくて、アイツがしていた以上のことをしたくなった。
猿はベタベタしていただけだけど、この膝枕には敵わないだろう。クロ[[rb:兄 > にぃ]]は少し恥ずかしそうだけど、嫌な顔はしてないと思う。
ただ、オレと目は合わせてくれない。オレはずっとクロ[[rb:兄 > にぃ]]の顔を見てるけど、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は目のやり場に困っている様子だ。
オレを見ればいいのに。
「ねえクロ[[rb:兄 > にぃ]]」
「な、なんだよ」
返事はしても相変わらず目が泳いでいる。
「今日は頭撫でてくれないの?」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は耳をピンと立てて、分かりやすくビクッとした後、ゆっくりとこっちを向いてくれた。
「な、撫でて欲しいのか?」
「うん、撫でて欲しいよ」
「お前恥ずかしいって言ってたくせに・・・」
「今はいいんだよ。2人っきりなんだから」
それに撫でてやるって最初に言ってくれたのはクロ[[rb:兄 > にぃ]]だし、嫌でもないはずだ。
それから、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はゆっくりオレの頭に触れて、オレが熱を出した時と同じように、優しく撫でてくれた。
━━━━━━━気持ちいい・・・。
オレのことを褒めてくれてるような、認めてくれてるような、くすぐったい感じになる。
頭を撫でられるなんて父さんと母さん以外にされたことないけど、撫で方が母さんに似てる気がする。大事にされてるんだなって思えるような、そんな感じ。
オレは目を瞑って心地良さに身を委ねた。
眉間から頭の上、アゴの下、首の横、頬、そして耳の━━━━━━━
「あはは、くすぐったいよクロ[[rb:兄 > にぃ]]」
「ふぇ!? あっ・・・ご、ごめん」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は焦った感じでオレに謝った後、何故か目をきゅっと瞑ってそっぽ向いてしまった。
「ねえ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]」
「な、なんだよ」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はまだこっちを向かない。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレのこと好き?」
この前、大好きって言ってくれたから答えも分かってるんだけど、こっちを向いてくれないかなと思って適当に聞いてしまった。
だから、すぐに答えが返ってくると思ってた。
「・・・」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はそっぽ向いたまま黙っている。
表情も何と言うか、あんまり穏やかじゃない。
オレ、なんか変なこと聞いたかな。予想とだいぶ違う反応で少し焦る。
沈黙の後、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は口を開いてこう言った。
「好きだよ。[[rb:玄來 > げんき]]のこと。子供の時からずっと」
━━━━思わずドキッとした。
これ以上無いくらい耳をペタッとさせて、目は潤んでいるように見える。
そんなに恥ずかしいことなのかと思ったけど、冷静に考えればそうだ。男相手に好きって言うなんて普通は恥ずかしいし、照れ屋のクロ[[rb:兄 > にぃ]]には尚更だったかもしれない。ブラコンのオレは全然気にせず好きって言えるけど。
「変なこと聞いてごめん。クロ[[rb:兄 > にぃ]]に好きって言われた時嬉しくてさ」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は恥ずかしがってるけど、何度言われても嬉しいものは嬉しい。本当はこれからも気軽に言って欲しいから、オレのこともっと好きにさせてやろうと思ってしまう。
「でも改めて言われると少し照れるね」
これも本心だから、クロ[[rb:兄 > にぃ]]にちょっと同情するような雰囲気のことを言ってみる。
言わせたんだから、オレも言わないとフェアじゃないかな。
「オレも好きだよ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]」
オレは真っ直ぐクロ[[rb:兄 > にぃ]]の目を見て言った。
確かに人前なら恥ずかしいかも知れないが、2人きりならそうでもない。むしろ清々しいくらいだ。
そして、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は少しの間オレを見つめた後、目をきゅっと瞑って口を開いた。
「[[rb:玄來 > げんき]]・・・俺・・・」
━━━━━━━━━━ピピピピッ!
クロ[[rb:兄 > にぃ]]が何かを言いかけた時、スマホのアラームが鳴った。
「あ、風呂・・・」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はちょっとごめんなと言って立ち上がり、そそくさと風呂場に行ってしまった。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は何を言いかけたんだろう。実はブラコンなんだとか言ってくれたら最高なんだけど。
でも結構可能性はある気がしてる。クロ[[rb:兄 > にぃ]]をブラコンにする作戦はそれを言わせたらオレの勝ちだ。
「このまま攻めたらイケそうだな」
オレは自分とソファに挟まれて窮屈そうにしている尻尾の疼きを感じながら、そんなことを呟いていた。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
☆【クロ兄】で違和感を持ったかも知れない知識ある人のために、【銀】に補足情報を追記してあります。作品を楽しむ分には特に影響無いのでご安心ください。
キャラのプチ情報はTwitterで呟くこともありますが、基本的には作品内で全回収しようと思ってます。
いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。
蒼空ゆうぎ