柴後輩とクロ兄ちゃん【ブラコン】

  ━━━━━━━━夜。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、入るよ」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋。

  「[[rb:玄來 > げんき]]か、どうした?」

  玄関のドアを開けると、部屋の奥からクロ[[rb:兄 > にぃ]]の声が聞こえた。

  あれ・・・オレ何しに来たんだっけ。

  「えっと・・・晩御飯作りに来た」

  そうだ。そういう約束をしていた気がする。

  「そうだったな。頼むわ」

  オレは靴を脱いで、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の声がする部屋へ行った。

  そして、その光景を見て思考が止まった。

  「えっ・・・」

  「おう[[rb:玄來 > げんき]]、今日は3人分頼めるか?」

  ソファにクロ[[rb:兄 > にぃ]]と知らない雄猿が座っている。オレの知らない人だ。

  あと、ものすごく近い。恋人かと思うほどベッタリくっついている。

  「俺のサークルの後輩なんだ。すっかり懐かれちまってさ」

  「ども! [[rb:琉貴 > るき]]先輩の後輩の※※※※っていいます! 今日はご馳走になります!」

  呆気にとられたまま、オレは何とか返事をして名乗った。

  「[[rb:玄來 > げんき]]、※※※※よりお前のほうが兄ちゃんだからな。優しくしてやれよ」

  「う・・・うん」

  オレより歳下の後輩・・・。

  「[[rb:玄來 > げんき]]の料理は美味いからな。1回食べたらやみつきになるぞ」

  「そうなんスか! [[rb:琉貴 > るき]]先輩、オレ楽しみです!」

  ━━━━━近い。

  事ある毎にクロ[[rb:兄 > にぃ]]に引っ付いてベタベタしている。

  オレだってそんなにしないのに。

  「今日は何作ってくれるんだ?」

  今日は何作ろうと思ってたんだっけ。ある材料で3人分。出来れば洋食で。

  「ポトフだよ」

  「いいッスね! なんか手伝いましょうか! オレ自炊よくするんで料理できますよ!」

  「大丈夫だ。[[rb:玄來 > げんき]]に任せておけ」

  分かりました[[rb:琉貴 > るき]]先輩なんて元気よく言って、また猿はクロ[[rb:兄 > にぃ]]にベタベタし出す。

  というか[[rb:琉貴 > るき]]先輩ってなんだよ。オレだって名前で呼ばせてもらってないのに。なんでクロ[[rb:兄 > にぃ]]は許してるんだよ。意味わかんね。

  オレはキッチンで2人のイチャつく声を聞きながら、夕飯の支度をした。

  「出来たよ」

  「うわー! 美味そう! もう食べていいッスか!」

  オレは返事の代わりに1つ頷いて返した。

  3人で席について、猿はクロ[[rb:兄 > にぃ]]の隣。オレは1人向かい側。

  「今日も最高に美味いな。さすが[[rb:玄來 > げんき]]だ」

  「本当にやみつきになっちゃいますね! オレまたお呼ばれしたいッス!」

  ・・・正直もう来なくていい。なんかやだ。

  「じゃあ[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に食べる時はまた呼んでやるよ」

  「えっ!」

  それは嫌過ぎる。いくらクロ[[rb:兄 > にぃ]]の頼みでもキツい。

  オレが苦虫を噛み潰している目の前で、猿は満面の笑みでやったーとか言ってる。なんなんだコイツ。

  「ま、待ってよクロ[[rb:兄 > にぃ]]。これからずっと3人なの?」

  「そうだぞ? 材料費は俺が出すし問題ないだろ?」

  そういう問題じゃない。常にコイツが居るのが問題なんだ。

  「[[rb:琉貴 > るき]]先輩ばっかり出させたら悪いッスよー。自分の分は出しますから!」

  「大丈夫だ。俺はお前[[rb:ら > ・]]の兄ちゃんなんだから」

  お前[[rb:ら > ・]]の兄ちゃん?

  「嬉しいッス! じゃあこれからは[[rb:琉貴 > るき]]兄ちゃんって呼びますね!」

  ━━━━━━━はあ?

  それを聞いて何かが切れた。全身の血が沸騰して毛が逆立ち、無意識に猿を睨んで牙を剥き出しにしていた。

  「ひっ・・・[[rb:玄來 > げんき]]さん・・・なんスか。怖いッスよ」

  「おい[[rb:玄來 > げんき]]! なんて顔してんだよ!」

  無理だ。抑えられない。

  「なんでオレがコイツの分も作らなきゃいけないんだよ!」

  「お前はコイツより兄ちゃんなんだから、それくらいいいだろ!」

  「嫌だよ! オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]に食べて欲しくて作ってるのに!」

  嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ━━━━━━━━。

  「俺も一緒に食べるんだからいいだろ? 歳下には優しくしろよ」

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]は歳下なら誰でも優しくするの!? それに・・・!」

  そいつにだけ名前で呼ばせて。

  「ワガママ言うな!」

  嫌だ。ワガママ言う。

  「嫌だ!」

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋を飛び出した。

  「待て[[rb:玄來 > げんき]]!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]がオレを追いかけてくる。オレは必死で逃げる。でも足が思うように動かない。

  ダメだ、追いつかれる━━━━━━━!

  「お兄ちゃん?」

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ━━━━━━目が覚めたら、オレの顔を覗き込む[[rb:光 > ひかり]]の顔があった。

  「お兄ちゃん大丈夫?」

  妹の[[rb:柴 > しば]] [[rb:光 > ひかり]]。母さんと同じロングコートのチワワで、毛の色はオレと似ている。今は高校2年生だ。

  「もうお雑煮できてるよ?」

  「ん・・・ああ。すぐ降りるよ」

  オレの返事を聞いて、[[rb:光 > ひかり]]は1階の台所へ降りていった。

  今日は1月2日。オレは実家に帰省中だ。

  オレの実家は二階建ての日本家屋で、母さんと[[rb:光 > ひかり]]と3人暮らしだ。

  家は父さんが生前に建てたもので、2階には居間と父さんの書斎とオレと[[rb:光 > ひかり]]の部屋がそれぞれある。今は母さんが書斎を使っている。

  ただ、寝る時はいつも居間に布団を敷いて家族揃って寝ていた。

  「初夢までクロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・」

  内容もかなり酷かったけど、それ以前に初夢に出てくるほどって意識しすぎなんだろうか。

  いや、もしかしたらおみくじのせいかもしれない。

  初詣はクロ[[rb:兄 > にぃ]]たちと一緒に行って、皆でおみくじも引いた。結果は末吉で内容はほとんど覚えてないけど、どこかの項目にライバルがどうとか書いてあった気がする。それだけカタカナで書かれていたからなんとなく覚えている。

  でも結局ライバルと取り合う対象がクロ[[rb:兄 > にぃ]]ということは・・・。

  「オレのブラコン度合いって、もしかしてヤバい・・・?」

  オレは重い頭を抱えながら、着替えを済ませて台所へ降りた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「おはよう・・・」

  「おはよ[[rb:玄來 > げんき]]。初夢はどうだった?」

  母さんの[[rb:柴 > しば]] [[rb:千枝子 > ちえこ]]。[[rb:光 > ひかり]]と同じロングコートのチワワで毛色はクリーム色。オレと[[rb:光 > ひかり]]は父さんの毛色に近いと思うけど、母さんとも似てなくもない。

  つまり、家族揃って似た毛色だ。

  「初夢は・・・ちょっと微妙かな・・・」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]と喧嘩して、知らない猿に嫉妬して、クロ[[rb:兄 > にぃ]]に追いかけられて散々だった。

  「あたし全然覚えてないんだよね。そもそも夢見てないのかも。お兄ちゃんはどんな夢見たの?」

  「え゙っ」

  席に着くなり[[rb:光 > ひかり]]が突っ込んでくる。正直話したくはない。

  「悪い夢でも良いことの前兆だったりすることって多いらしいわよ」

  「そうなんだ! じゃあ調べてあげる!」

  母さんも席に着くなりそんなことを言うもんだから、[[rb:光 > ひかり]]がノリノリでスマホ片手にこっちを見てくる。

  なんか言わないといけない雰囲気かも・・・。

  「オレの嫉妬が原因で喧嘩して、その人に追いかけられる夢・・・」

  「誰と!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]だけど、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の名前出すのはなんか恥ずかしい。

  「もしかして好きな人!?」

  [[rb:光 > ひかり]]がスマホを操作しながら質問をしてくる。

  「まあ、好きではあるかな」

  [[rb:光 > ひかり]]は興奮気味にスマホを見ながら尻尾を振っている。

  こんな夢に興奮するような意味なんてあるんだろうか。

  「お母さん大変!」

  [[rb:光 > ひかり]]が顔を上げて母さんを見る。

  「お兄ちゃんにまた彼女出来ちゃうかも!」

  「はあ!?」

  「まあ」

  あの夢でなんでそうなるんだ。いい事なんか1つもなかったぞ。

  「喧嘩はその人ともっと仲良くなれる前兆で、追いかけられるのはその人がお兄ちゃんのこと好きだからなんだって!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレのことが好きで、もっと仲良くなれる・・・?

  「嫉妬は色々あるけど、とりあえず自信の無さが現れてるみたい」

  それは少し当たっているような気がする。最近までクロ[[rb:兄 > にぃ]]に好かれてるのか自信全く無かったし。

  「つまりお兄ちゃんが自信持ってグイグイ行けばその人おとせるってことじゃん!」

  相手はクロ[[rb:兄 > にぃ]]だからおとすとかは関係ないけど、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレのこと好きで、グイグイ行けばもっと仲良くなれるっていうなら願ったり叶ったりだ。

  「お兄ちゃん、付き合うなら絶対あたしに教えてね? 相応しい人かどうか審査するから!」

  「なんだそれ」

  確か[[rb:香澄 > かすみ]]と付き合った時も同じようなこと言ってたな。

  「だって変な人にお兄ちゃん取られるのやだもん。あたし友達にも公言してるレベルで超ブラコンなんだから」

  「なっ!!」

  突然の妹のブラコン発言に毛を逆立てて一瞬固まってしまった。

  「友達にもって、お前恥ずかしいとか思わないのか!?」

  「しょうがないでしょ! 本当の事なんだもん!」

  言われて気分が悪いものじゃないけど、それを公言していて本人に向かって言うってどうなんだ。

  オレなんてクロ[[rb:兄 > にぃ]]に対してブラコンでいいのか軽く悩んでたレベルなのに。

  「それにお兄ちゃんだって似たようなもんでしょ? クロ[[rb:兄 > にぃ]]に対してはブラコンだし、あたしに対してはシスコンじゃん。ダブルだよダブル」

  「はあ!?」

  なんでそうなるんだ。もしかして周りから見たら昔からずっとブラコンみたいに思われてたのか?

  まあ、それは最近自覚してきたからまだいいけどシスコンってなんだ。オレは普通だぞ。

  「だってお兄ちゃんクロ[[rb:兄 > にぃ]]と話す時いっつもハートマーク飛ばしながら尻尾振ってるし、大学行ったクロ[[rb:兄 > にぃ]]追いかけて行っちゃうほどクロ[[rb:兄 > にぃ]]大好きじゃん!」

  「いや、それはたまたま・・・」

  オレが追いかけたわけじゃない。本当にたまたまだ。ハートと尻尾は知らん。

  「それに、あたしの誕生日には毎年プレゼントくれるじゃん」

  「いや、普通だろ」

  「普通じゃないの!」

  妹の誕生日に兄ちゃんがプレゼントしないで誰がするんだよ。普通だろ。意味が分からん。

  「お兄ちゃんがバイト始めてから、クリスマスプレゼントもしようとしてお母さんに止められてたんでしょ? それなのにあたしの財布に勝手にお金入れるんだもん! 気付いてるんだからね!」

  「[[rb:玄來 > げんき]]そんなことしてたの?」

  「それは・・・」

  だって兄ちゃんだし・・・。普通・・・だろ?

  「友達に聞いてもそんなことするお兄ちゃん1人もいないからね。あたしの周りではお兄ちゃんもシスコンで通ってるから」

  おいウソだろ。兄ちゃんってこういうもんじゃないのか。世の中の兄ちゃんはなんて薄情なんだ。妹や弟が可愛くないのか?

  「もっと自覚持ってくださーい」

  「ぐ・・・」

  その後、母さんに促されて雑煮を食べて部屋へ戻った。

  ◆◆◇◇◆◆

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・」

  スマホで撮ったクロ[[rb:兄 > にぃ]]の寝顔を見ながら、オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]のことを考えていた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]にブラコンって言ったら引くかな。いや、それはないか。クロ[[rb:兄 > にぃ]]は優しいし、しょうがないなって言いながら笑って頭撫でてくれるような気がする。

  そんな優しいはずのクロ[[rb:兄 > にぃ]]と夢で喧嘩になってしまった。

  だってあの猿ムカついたし。それになんだよ[[rb:琉貴 > るき]]兄ちゃんって。

  ・・・・・・オレも呼んでみたいのに。

  もし大学であんな後輩が出来たら、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は夢の中のクロ[[rb:兄 > にぃ]]みたいに可愛がるんだろうか。

  きっとそうだよな。クロ[[rb:兄 > にぃ]]が優しいのはオレや[[rb:光 > ひかり]]に限った話しじゃない。誰にだってそうだし、本人は優しい自覚すらあんまりないと思う。

  それでオレは後輩に嫉妬するのかな・・・。

  実は大学にはそういう後輩が居て、大学でベタベタされてたりするんだろうか。

  オレが仕事してる間にクロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋に上がり込んだりしてるんだろうか。

  それは何と言うか・・・かなり━━━━━

  「ムカつく・・・」

  もうブラコンって言われていいから、ずっとオレだけのクロ[[rb:兄 > にぃ]]で居て欲しい。

  そんなお願いをしたらクロ[[rb:兄 > にぃ]]はどんな反応するだろう。

  きっと困った顔で笑うんだろうな。

  甘えていいって言われたけど、困らせるのはやっぱり嫌だな・・・。

  「そうだ!」

  だったらクロ[[rb:兄 > にぃ]]にもオレと同じくらいオレのことを好きになってもらえばいい。

  [[rb:光 > ひかり]]が言うには、オレの初夢はクロ[[rb:兄 > にぃ]]ともっと仲良くなれて、クロ[[rb:兄 > にぃ]]もオレのことが好きってことみたいだった。

  それに、オレがグイグイ行けばおちるみたいな事も言っていたし、それでクロ[[rb:兄 > にぃ]]をブラコンにおとしてしまえばいいんじゃないか?

  決まりだ。

  今年の抱負は決まった。オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]をブラコンにおとす。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレのこと好きって言ってくれたけど、もっともっとだ。グイグイ攻めて、もっとオレのこと好きにさせてやる。

  「っしゃー! 燃えてきた!」

  掴むなら胃袋からだ。

  オレはスマホで料理動画を漁りながら、料理の勉強に励むのだった。

  ◇◇◆◆◇◇

  「ハッくしゅん!」

  黒井家の自室でオレは盛大にくしゃみをした。

  なんか寒気っていうか、悪寒が走ったような気がする。一瞬、肉食動物に狙われてるような気分になった。

  「また父さんかなぁ・・・」

  正月だから仕方なく帰省したが、正直父さんは苦手だ。早く帰りたい。

  「[[rb:三 > さん]]が[[rb:日 > にち]]終わったら[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に帰るか」

  俺はスマホを弄って[[rb:玄來 > げんき]]にメッセージを送った。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  元旦の初詣とかは読み切り短編で上げるかもしれません。

  柴クロのタグだけ付けますが、いつも通りシリーズ内には追加されないのでご注意ください。