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ダンジョンの奥深く。暗い通路を渡り、罠の巡らされた部屋を突破した先。行き止まりの部屋。
そこで獣人の少女は、ふわふわの空色の毛を上機嫌に揺らしながら、腰に手を当てて立っていた。
「さーて、とっ!」
一仕事終えた、という感慨に満ちた声。それもそのはず、部屋に仕掛けられていた罠を細心の注意を払って解除してのけたばかりなのだから。
普通であれば、部屋を探るだけで解除まではしない、障らぬ神に祟りなし精神がセオリーではあるのだが、今回はそうはいっていられない。
「むっふふー、お宝ちゃんお待たせにゃー」
部屋の中心に鎮座する宝箱。強固な警備に囲まれていたそれに頬擦りをしそうな勢いで、ニコはすり寄っていく。
絶対に取り出させない。そんな強い意思を感じる罠の数々だった。このダンジョンの文字はニコの知らない文字ではあるものの、製作者の確固たる信念は確かに感じ取れていた。
つまりは、それほどに貴重なお宝が、この中に入っている。ということなのだ。
「にゃにゃっ、早速――!」
ニコは手慣れた手付きで、宝箱に施された最後の鍵を解除する。全ての封印が解かれた。
後は、その秘奥を詳かにするばかり。
「ご開帳にゃあーっ!!」
ガッパン! と勢いよく、その重い蓋を放り投げるかのようにニコは宝物を開封する。
箱の中は、白い靄と白く透明な宝石。
「おたッ……ひゃぶ、つめたいにゃっ!?」
お宝! と叫ぼうとしたニコは、しかし、直後溢れ出た大量の靄に息を詰めた。悴む体を抱きすくめようとして異変に気付く。
「……ぁ」
ニコは自分の手を見た。いつもの柔らかい肉球も、ふわふわの毛並みも、全部カッチカチに凍り付いている。
指も動かない、無理に動かせば砕けてしまいそうだ。きっと靄のせいだろう。冷凍ガスだったのだ。
そして、そこで思わずニコはあることに気付いて、驚愕する。
大口を開けて、数秒前の自分を思い返す。蓋を開けて、箱を覗き込んで。そして――。
「にゃ、っ、思いっきり吸っちゃったにゃッ!?」
そうして吐いた息も白い靄が混ざっている。だが、それにニコがリアクションを取ることはなかった。
何故なら、ニコが驚いたその瞬間に体内が凍り始めて、手を見つめ口をあんぐりと開いたその姿のまま、ニコは氷像となってしまっていたのだから。
(……ッ、うにゃ……、動けな、いにゃ……)
冷たさは、むしろ全身体内も氷漬けになったからか感じない。が、その代わり動ける気も全くしなかった。
(えと……はっ、お宝!)
ニコは自分の手の向こう側にある宝箱の中をどうにか見ようと目を凝らしてみる。実際には、凍って固定された視界の中でどうにか情報を読み取ろうとしているだけなのだが、それでもニコの視界に、そのお宝の姿は写ってくれていた。
だが、ニコが気になったのは白い宝石ではなく、その周囲。
(……うにゃ、氷が広がっていってるにゃ?)
ぴき、ぴき。と乾いた音を立て、床にどんどんと白が広がっていく。ゆっくりとそれは壁に到達して、天井に広がっていき――。
(……これ、もしかしてダンジョンの外まで凍っちゃうんじゃにゃい……?)
流石のニコも焦り始めていた。意識があったから、どうにかなるかにゃあ? なんて考えていたが、どうにもあの宝石から溢れているらしい冷凍ガスが、外にも溢れ始めたら大変だ。
それはもうダンジョン災害だ。
ニコは知っている。ダンジョン災害を起こした領主にこっぴどく怒られる。
(それだけじゃないにゃ……)
そう、恐ろしい事に、完全に被害が収まるまで衛兵監視の元奉仕活動に従事しなければいけないのだ!
当然トレジャーハントなんて、言語道断。許されない。いや、奉仕活動も嫌いではないけれど、やっぱり『やる』と『やらされる』では色々違ってくる。
主に宝探しに行きたい欲求の溜まり具合とか。
(んにゃー! ガス、止まってにゃ! うー、ちょっとくらい漏れてくれた方が、早く救助されるかもにゃ……? ……ちょ、ちょっとだけ外に出て、止まってにゃーっ!!)
結構、都合のいいお願いを宝石に送信しながら、ニコはカチカチの体で救助を待つのだった。
◇◇◇
結果として、ダンジョンの外にまでガスは噴き出してしまっていた。もくもくのカチカチであった。
ニコの都合のいい願望は叶わなかった。
アウトである。
――ずび。
ダンジョンの異常に気付いたハンターの捜索隊により救助されたニコは、暖かいベッドの上で洟を啜っていた。
温めのお湯でじっくりと解凍されたニコは、凍っていた魚がピチピチ跳ね出すような奇跡の生還を果たした訳ではある。が、それはそれとして、体がずっと冷えていたせいで、ガッツリめの風邪を引いていたのだ。
冷や汗はかくし、頭は痛い。
まあ、そんな状態だから領主からのお叱りは先延ばしにしてもらっているのは、不幸中の幸い……だろうか。
ともかく。
「うぅ~、冒険いきたいにゃ~……」
少し歩けば、たちまち床にへたりこんでしまう状態では、流石のニコも外へ出ていこうとは考えられず。
しくしくと涙で枕を濡らしながら、快復を待つばかりなのであった。
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