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ほろ酔いの狼獣人冒険者が街の噂になっている魔物に石化寸止めされる話

  それは、よく晴れた澄んだ夜の出来事だった。

  一人の若者――ウルフはほろ酔いの心地良さのままに、酒場からの帰路を歩いていた。

  長く伸びるマズルに三角耳、酒気を帯びた吐息を漏らす口端からは牙が見え隠れする。少し光沢を持つ灰色の毛並みを全身に覆っている彼は、狼の獣人だった。

  歳の頃は二十を越えた程度か、酔いに浮かれてはいるが足取りに覚束無い所は無い。

  「遅くなっちまったなあ」

  と、そう言いながらも自分の宿に戻る道を急ぐことなく歩くウルフは、ふと暗い街並みを少し見回して「そういえば」と酒場で聞いた噂話を思い出した。

  なんでも街中に魔物が現れるとかいう噂だ。ソイツはとんでもなく恐ろしい顔をしていて、もし、そいつの顔面を見てしまったその時は恐怖のあまり石化してしまうのだという。

  石化ってのは厄介な状態異常だ。動けもせず、だからといって感覚がなくなる訳では無い。魔物に石化をかけられてしまえば、後はされるがまま殺されるだけだ。運良く教会に運ばれても、復活してから廃人となる可能性も高いだろう。

  そんな状態異常以上を操る魔物が街中に……なんて冗談ではない。

  ウルフは細身ながらも男らしい体をぶるりと震わせた。もし、本当に襲われてしまったのなら……。そんな想像が頭に浮かんで、思わず身震いをしてしまったのだ。

  「……早く帰るか」

  彼は、そう言い、帰路を辿る足を早くした。

  正しく、そんな時。その敏感な耳が、何かの声を聞き取っていた。それはまるで、人の声。悲しく啜り泣くようなそれに聞こえたそれは、次第にそうではないと気づいていく。

  「女の……喘ぎ声……?」

  ウルフにはそれが、響かないように抑えつけた女の嬌声だとはっきりと分かった。それは、近くの路地裏から漏れ出ている。酔いが覚めかけるような恐怖は鳴りを潜め、ウルフの胸中には好奇心と色欲が湧きでていた。

  こんな路地で変態的な性交に勤しんでいる男女がいるのか。なら、その変態どもの顔を拝んでやろう、あわよくば、俺もそこに混ぜてもらいてえな。などと淫猥な想像に口端を歪めたウルフは、早く帰ろうとしていた事もすっかり忘れ、路地へと入っていく。

  そして、そこで見たのは、想像していたものとは違う光景だった。

  「ん、ぁ……っ、あ……」

  想像した通り、喘ぐ声は女の口から放たれていた。だが、そこにいたのは、女ひとりだったのだ。

  美しい女がひとり。その衣服を乱して、自らの陰唇の間に指を滑り込ませて、愛蜜を滴らせていたのだ。ウルフはそんな光景に息を呑み、そして、その次に女の表情が淫蕩とした笑みに変わったのをみて、確信した。

  この女は、俺を誘っていると。

  「……扱いている、ところ……見せてくれませんか……?」

  女はそう言う。本当なら、そのまま女を押し倒してその濡れた女陰に屹立した男根をねじこみたかった。だが、不思議とウルフはその言葉に従ったのだ。

  ズボンのみならず衣服を全て脱ぎ捨てたウルフは、すでに限界まで屹立している雄茎を女へ見せつけるように仁王立ちする。そして、もはや外だという事すら忘れたように、その太い茎を根本から先までを大きくストロークし始めたのだ。

  「は、ッ……が……あ……っ、見ろよ、俺のマラ……ッ」

  自然とそんな言葉が口を突く。いつもよりも膨らんだその肉茎からはダクダクと先走りが溢れ、そして、指と絡まりグチョグチョと淫猥な音を路地裏に響かせる。

  いつの間にか、女は己の陰部を弄ぶのをやめ、絵画めいた笑みを湛えたまま、ウルフの自慰を見つめていた。

  「ああ、もうお前は捕らわれた」

  「……あ?」

  女の口から冷たい言葉が発せられる。何を言っているのか、理解が及ばないがウルフにとってはどうでも良かった。体中を駆け巡る快感。女に……誰かに見せつけながら陰茎を擦り上げる悦楽以上に今優先するべきことなど何もない。ウルフはマズルから舌を突き出し、脈の浮き出る淫水に焼けた赤黒い淫欲の塊を慰める。

  「はあはぁ……、イクぞ。見たかったんだろ?」

  上り詰める感覚にウルフは腰を突き出すように剛直を強調させて、自慢げに笑う。

  だが、その笑みが驚愕に変わったのは、その直後だった。

  ウルフの体が足元から次第に石化始めているのだ。灰色の毛並みは光沢を失い、大地を踏みしめたままずしりと動かない。

  「な、んだこれ……!」

  まさかあの噂の魔物とは……と目の前の女を見る。妖艶な笑みを浮かべ、艶めかしく上気した肌を覗かせる媚態にウルフの心中に恐怖を上回る衝動が駆け巡る。

  「ん、があ……ッ、イキてえ……ッなんだ、これ……クソ……ッ」

  いきり立つ男根を勢いよく扱き上げる。魔物を目の前にしてウルフを埋め尽くすのは、石化が進んでしまう前に子種を吐き散らしてしまいたいという性欲。

  命の危機だと言うのに、街中の路地で腰を突き上げ己の雄を扱きあげる不格好なウルフに、それを強制した女――魔物は、もう用は済んだとばかりに姿を消していた。

  残されるのは、徐々に迫る石化よりも早くに絶頂したいと、女陰に見立てた指の輪で必死に陰茎を扱きあげる変態狼の姿だった。

  「んうぐ……ッ! ぅう、っ! イク……、ぁあ、イク……!!」

  ぬちゅぐちゅと盛大な音を響かせながら、腕を上下させるウルフだが、雄々しい声を発しながら子種をその先端から溢れさせる、その直前でピタリとその動きは止まった。

  「んっ……ぁ、クソ……ッ、もう少しで……!」

  ウルフの腕が石化に追いつかれたのだ。ギンギンにいきり立った雄を握ったまま石像へと変わったウルフは、声も発せないまま、今まさに絶頂へと至れそうな感覚のまま停滞する。

  それは、イキたくてもイけない。そんな地獄のような感覚の始まりだ。

  (ぁ、あ……イキたい……くそ、っ……気持ちぃいの゛に……ッ!)

  陰茎の内側を常に射精しようとする精液が刺激し続けるような、ムズムズとしたストレスと細かな快楽。目の裏側を羽根帚で擦られるような違和感が全身を弛緩させて、快感に無防備にさせる。

  もし、自由に動けるなら今すぐに剛直を擦りあげるだろう。もし、自由に動けるのならマズルを開いて舌を垂らしながら快楽を貪るだろう。

  だが、出来ない。

  (んぅ……っ……なんで、クソ……なんでこんな……ッ)

  助けを求める事も出来ない。許しを乞う相手も姿を消した。

  (イキたい……ッ、誰か、誰でもいい。俺のチンコ、扱いて……クソ……ッ)

  時が経つほどウルフは色街の女よりも情けなく、声もならぬ声で助けを求めるが、誰かが通りかかる事もなければ、まして声を聞くものもいない。

  夜が無情にもウルフの焦れる淫欲を置き去りに進んでいく。

  何時間たっただろう。すっかり寝静まった街でウルフがただ眠ることも許されず、勃起を強制されたまま時間が過ぎていく中、どうにか絶頂を迎えたいとウルフは足掻いていた。

  (ぁ、……ッ、今、少し……)

  石化した体内。僅かに力を入れて緩めてを繰り返して行く中で、新たな快感のような芽生えをウルフは感じたのだ。

  その些細な手がかりを元に、ウルフは見えた光明を逃すまいと、射精に脳を乗っ取られたようにその感覚を求めていく。

  空は明るみ、街の喧騒が目を覚ましてきている事にも気付かないウルフは、当然として路地にいる変態の石像に気付くものがいることにも気付かない。

  ただ、漸く訪れた射精の快感を今まさに感じ取ろうとしていた。

  (イク……ッ、やべ……きもち……ぃ、い……? ぁ……え……なん、なんだ……? あ、ああ……!?)

  待ち望んでいた漸くの解放、だと言うのに今度は更なる異常がウルフに襲いかかっていた。

  (……止まっ、らな゛……? イグ、のと……ッ寸、止めの感覚が……っぁ゛あ、っ……)

  石化しているが故に射精は出来ず、だが、ウルフの体は確かに絶頂している。そんな矛盾のループでウルフの脳には、まるで互い違いにネズミ花火のように入れ替わる快感と物足りなさが火花を散らす。

  (これ゛……壊れ……る゛――ッ、ぁあ゛ッ!? ぐぅ……ッ、イキ……すぎて、おがしぐ……なる……ッ)

  イキながらも自ら次の絶頂を堪えることが出来ず、快楽の坩堝へと自ら堕ちていく。

  そんな哀れな魔物の犠牲者に気付いた街の人々が協会へと運んでいく事にすら気付かず、ウルフはイキ狂い……。

  そして、この後、ウルフは今度こそ苦しみから開放されるのだ。

  復活の直後、この時間に溜まった快楽を吐き散らすような盛大な喘ぎ声とともに、大量の子種を射精する事になる事を果たして『開放』というのは『始まり』というのか。

  それは、彼のみぞ知る事だった……。

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