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着ぐるみ噺13-3

  主任が訪れるようになってから、寝室に於けるレイの出番は減った。というよりも、ほぼ毎晩、主任が訪れ、アンと彼女がセックスするからである。

  レイは、いつの間にか、数少ないチャンスを、全身全霊で尽くすようになった。

  尤も、言葉の通じない不便さがあったし、静かな部屋でベッドのきしむ音だけと言うのも、やや不気味ではあるのだ。

  主任の方としては、レイに譲る気持ちなどなく、夜のパークで思う存分嬌声を上げていた。

  それを聞く度に、レイは胸が締め付けられる思いをした。

  そうなってくると、レイの方の欲求不満が募ってくる。

  レイが寝静まったあとに、静かにオナニーをする様になったのだ。息を殺す必要がないだけ楽なのかも知れないが、切なさしか増えないでいた。

  或いは又、昼間はレイに対する接触が多くなった。

  写真でポーズを撮るとき、必要以上にくっつくようになったのだ。

  そして、園内を歩くときは、腕を組んだり、ちょこちょことボディタッチを増やすようになっていった。

  レイは、自分に足りないのは、声なのではないかと思うようになってきた。

  しかし、どうしても声が出ない。否、出せたとして、おっさんの声であったら困る。

  そんな時に、着ぐるみを発注したときにあった、あの酩酊状態に陥った。

  そう、例のサイトに繋がったのだ。

  提示されたのは、二つの選択肢。一つは、一生着ぐるみでいる代わりに、女の子の声を出せるようにする薬。

  もう一つは、着ぐるみを脱げるようにする薬。

  例は迷わずに一つ目の選択肢を選んだ。薬は二人分、注射器も二つ付いている。

  これで、アンは自分のものにできる。レイの頭の中は、それだけで一杯になってしまった。

  薬は迅速に届いた。

  静脈とか関係なしに、腕にブッさせば良いらしい。

  先ず、自分で試さなければならない。

  レイは、人知れず、アンプルを折って、注射器で吸い取り、空気を抜いて、ひと思いに肌タイの奧の肉体の中に、薬液を注入した。

  思ったよりも特別な変化はない。が、声を出してみると、確かにこれは可愛い声である。声優さんみたいだ。

  これで自分は完璧になれたと思えた。

  そして、アンも完璧になれば、全ての幸福が手に入るのだと盲信した。

  が、その想いは殊の外早く断たれた。

  レイは、内心、全てが手に入る直前の、あの高揚とした、心拍数の上がる思いをしていた。

  そんな彼女が、何食わぬ顔で部屋に戻ると、そこには、アンと主任がいた。

  アンは腕をまくり、主任は、そこに注射の針を刺し、内容をさっぱり、打ち尽くしたところであった。

  レイは、本当に思わず「え?」と、うっかりした言葉を発してしまった。

  アンと主任は気付かなかったようだ。

  「係長、やっと脱げる薬が手に入りましたよ。長く待ちましたよ」

  主任は、こともなげにアンプルをちらつかせて、「すぐに打ちますか?」と声を掛けてきた。

  レイは、茫然自失で立ち尽くし、隠し持っていたアンプルを落としてしまったぐらである。

  間もなく、アンは、怖ず怖ずと手を頭にやり、面を左右に動かすと、思い切って、それを脱ぎ捨てた。

  「あー、やっと脱げた!」

  女性スタッフに戻った彼女は、レイに向かって、「もう、こんなのは懲り懲り」と微笑んだ所で、主任に突然唇を奪われた。

  元アンの中の人は、そこから主任の背後に手を回し、情熱的に舌を舐め返した。

  彼女と彼女は、着ぐるみ云々の前から、ずっとこう言う関係であったのだ。

  そのあと、アン一人だけになったキャラクターは、長く愛されたが、パーク自体が老朽化により解体される事が決まった。

  最後の日まで、アンは一所懸命、客をもてなし、楽しませる仕事に従事したが、閉園後、その姿を見たものはいない。

  着ぐるみの取説が正しければ、彼女は、永遠に生き続けられるだろうし、同時に、永遠にそのキャラクターを終えることはできないのだ。

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