ヘビ獣人に恋するキツネ獣人と、そのキツネ獣人に恋するイタチ獣人!そしてそのイタチ獣人に弱みを握られキツネ獣人と共に行動することになったヘビ獣人の、三角関係のようでちょっと違う不思議な話

  ▽Caution▽

  本作は章ごとに地の文の視点を変えています。

  ~ 恋 ~

  「ねぇ、兄貴?

  「兄貴ってば!」

  「ふぇ!?」

  「『ふぇ!?』じゃないっすよー。

  「話聞いてたっすか?」

  「すまん!なんだっけ?」

  「全くもう!

  「最近ボーっとすること多くないっすか?」

  「いや……え~とその……すまん」

  「もしかして、恋っすか!?」

  「ち、違う!」

  「図星っすか……。

  「相手はやっぱり、あの蛇獣人っすよね」

  「……」

  「ごめんっす。

  「話変えやしょうか……」

  オレは狐獣人のソリティア。

  そして、こいつはイタチ獣人のナイフ。

  どうしてこいつは、こうも鋭いのだろうか。

  相手がヘビ獣人であることも突き止めてやがる。

  小さい頃、俺の家族が何者かに皆殺しにされた日、偶然にもコイツと出会い、意気投合して、今では一緒に暮らしている。

  どうやら、コイツも家族を失っていたらしい。

  ここは、まだスドになっていないシボと、かつてシボだったスド、二種類の獣人が生きる世界。

  シボはスドを、スドはシボを、食べなければ生きていけない。

  殺戮なんて日常茶飯事のこの世界で、俺やコイツの家族が殺されたことなどちっぽけなことだった。

  最初の頃は、「やっぱり復讐とかしたいっすか」などとよくコイツに聞かれ、「あぁ、勿論」「いつか犯人を見つけて喰ってやるぞ」なんて言ったもんだ。

  しかし、最近ではすっかりその気も失せ、この世界の理に従うかの如く、ただ無心に狩をして喰って寝ての日々を送っていた。

  そんな時だった、彼と出会ったのは。

  シボを狩るスド狩り。

  シボが増える分には絶滅したりしないが、スドが増えすぎると絶滅してしまう。

  そのため、文明はシボの方が支配しており、俺たちスドはひっそりと狩をして暮らしている(といってもシボだった頃から似たような過ごし方をしていたが)

  スド狩りはそんなスドを狩るシボサイドの組織である。

  その職業に所属しているとらしき蛇獣人と出会ったのだ。

  といっても、単に狩ろうと狙われただけなのだが。

  「お前だな?

  「最近ここら辺で、狩をしているスドというのは?」

  「ふぇ?あー、そうかもしれんなー。

  「といっても、狩をしているスドなんて色々いるだろうから俺とは限らないが」

  「まぁ、おぬしがスドであるというなら狩るまでだ!

  「覚悟せよ」

  かぎ爪での攻撃に毒、魔法など、彼の攻撃に翻弄された俺は、倒すことなどできないと確信した。

  しかし、命からがら逃げかえった後、俺が胸の高鳴りに気づいた。

  ~ 失踪 ~

  ある日、朝起きると、置手紙が残されていた。

  「今まで騙していて御免す。

  「愛しの彼に捕まるといいっすね」

  どういうことだ!?

  今まで一緒に暮らしていたイタチ獣人『ナイフ』の姿が見当たらない。

  そんな時だった。

  「お前か?

  「ソリティアとやらは?」

  愛しのヘビ獣人が現れた。

  といってもスド狩りである彼に住居まで特定されてしまっている状況は不味い。

  どこで、ばれた?

  「お前、運が良いな?

  「いや、むしろ悪いというべきか?」

  「どういうことだ?」

  「お前、自分がスドになっていると思っているようだが、お前はまだスドになっていないようだ」

  「何をいっているんだ?

  「俺は『ナイフ』のくすねてきた検査キットで、メチル化陽性が出たんだぞ?」

  「全ての細胞のメチルが同時に進むわけではない。

  「何故、シボとスドが互いに狩合う関係にあるか知っているか?」

  「二種類の糖がどうとかっていうんだろ?

  「両方必要で、それぞれ片方しか生成できないとかなんとか」

  「プレデトースだ。

  「表タイプと裏タイプがある。

  「シボでは、裏タイプの生成を阻害する酵素と表型を作る機構が働いているのだが、スドではこれらが無効化される。

  「これが、生成する糖の種類が変わってくる原因だ。

  「じゃが、おぬしが生成しているのは表型プレデトースという検査結果が出ている」

  「いつ調べたんだよ!」

  「極秘事項だ」

  「でも、俺今までシボの肉食べてたんだぜ?

  「スドの肉なんて最近はほとんど喰ってねぇよ」

  「あー、やはり運が悪いのう。

  「シボに、メチル化促進剤を打つとすぐにでもスドになるのじゃ。

  「何者かがお前の食べる肉にメチル化促進剤を打ってから、その解毒薬も一緒に打ったのじゃろう」

  「どういうことだよ!

  「俺じゃなく肉がスドになってたってのか?」

  「そうじゃ!」

  「でも、それじゃ俺は『ナイフ』に……」

  「そうじゃ!

  「わしが欲しいのは、まさしくその情報じゃ!

  「わしは、『ナイフ』の行方を追っていてな。

  「おぬしと司法取引がしたい!」

  「……でも、どっちみち俺殺されるんじゃ?

  「シボだろうとスドだろうと、シボ殺しに関与してたなんざシボにとっちゃご法度だろ?」

  「そこで司法取引というわけじゃ。

  「今ここでお前を殺せば、奴は捕まえることはできんじゃろう。

  「そこで、お前に協力を頼みたい。

  「もし協力してくれるなら、一旦こっそり逃がしてやっても良いぞ?

  「今ここで逃げるより生存率が高いと思うが?」

  「それって、やっぱりまた追われることになるんだよな?」

  「当たり前じゃろ?

  「それに、お前には他にもメリットがある。

  「お前の家族を殺した犯人に直々に報復できるのだからな」

  「……それってどういうことだよ?」

  「言った通りじゃが?

  「お前の家族はまさしく『ナイフ』とやらに殺された。

  「お前と一緒に暮らしていたイタチ獣人にな?」

  ん?コイツ今“『ナイフ』とやら”って言わなかったか?

  あいつのこと追ってるって言ってたから、てっきりかなり前から追ってるのかと思ったんだが。

  知り合ったの最近なのか?

  「可哀そうにな。

  「シボ殺しさえ、協力させられていなければ、お前もシボとして生きられたというのに」

  「……ぜ?」

  「?」

  「いいぜ?

  「手伝ってやるよ!

  「俺もあいつに聞きたいことがあるしな!」

  「ふふふ、そういうと思っていたぞ」

  あいつと知り合ったのが最近だとすれば、コイツ絶対あいつから何らかのアプローチを受けてここにいるはずだ。

  罠だろうがなかろうが、絶対あいつに近づける。

  その上、あいつは俺がこいつに恋していたのを知ってたからな。

  ~ 裏取引 ~

  わしは、クローブ。

  スド狩りをしているヘビ獣人じゃ。

  だが、わしは本当はシボじゃない。

  シボの振りをして暮らすスドじゃ。

  わしもこっそりシボを狩って生きている。

  時にはスドから極秘の護衛依頼を受けたり、シボ同士の抗争に関わる暗殺依頼を受けたりもしている。

  そんなわしは、はじめて正体を看破された。

  それもイタチ獣人に。

  弱みを握られたわしは、『ナイフ』からの依頼を受けざるを得なかった。

  それは『ソリティア』と共に『ナイフ』を倒すという依頼だった。

  今まで自ら倒すよう指示書きしてくる挑戦状は経験があったが、そこに誰々と共にといった第三者が付随してくることはなかった。

  その理由はなんなのか、それは『ソリティア』からいずれ聞き出そうと思っていた。

  そんな中、車の中で、ソリティアに話しかけられる。

  「なぁ……、ク、クローブ?」

  「ふむ?いつ、わしの名前を知った?」

  「スド狩りの免許を見せてもらったからな」

  「盗み見たの間違いであろう?」

  「すまん。

  「それで質問なんだが、俺と『ナイフ』のことをどこまで知ってる……?」

  「ふはは。

  「それは痛い質問だな?」

  「そ、そうなのか?

  「じゃあ『ナイフ』のことを追ってる割りに、“『ナイフ』とやら”っていうおぼつかない言い方をしていたのも?」

  「……わしとしたことが、少々油断していたようだ」

  「いや……別に警戒しているとかじゃないぜ?」

  「ふむ?この状況で警戒しない方がおかしいと思うが」

  「お前、前に俺を狩ろうとしたときあったろう?

  「その時から胸の高鳴りを感じてたというか」

  「……」

  「すまん……、間違えた忘れてくれ」

  「そういうことか」

  「どういうことだよ?」

  「お前、『ナイフ』と仲良いのだな?

  「お前がわしのことを好きということを知っていたから、お主と一緒にという依頼だったのか?

  「いや、無理があるか」

  「えっ、依頼?

  「やっぱりあいつに依頼されたのか?

  「ってか、隠す気ないだろう?」

  「ちょっとした弱みを握られてな。

  「お前と協力して『ナイフ』を倒すよう『ナイフ』自身から依頼されたんだ」

  「弱み?!

  「あいつ、俺がお前のこと好きなの知ってたのにそんなこと一言も話してくれなかったぜ!?

  「くそ、あの野郎!!!」

  「ふむそうなると、あながち無理があるというわけでもないのか?

  「いや、でもまだピースがかけているな」

  「てか、クローブ! ナイフの行方に心辺りとかあんのかよ?」

  「ナイフからこんな暗号が来ていてな?

  「読めるか?」

  「××時に○○峠の休憩場で待つだとよ?」

  「やけにすらすら読めたようだが?」

  「あいつとよく使っている暗号だからな?」

  「さて、行くとするか」

  ~ 油断 ~

  「どうやらちゃんと来れたみたいっすね?」

  「ナイフ!

  「こんなふざけた依頼さっさと終わらせてもらうぞ?」

  「そうはいかないっす?

  「まだ、オイラとやり合うのは早いっすよ。

  「ゴーレム相手に翻弄されるが良いっすー」

  「ご、ごーれむ?」

  山の中から機械式のロボットが現れる。

  「えっ、こ、これナイフが作ったのか?」

  「次のヒントは、それを倒したら出るようになってるっすよー」

  「頑張るっすー」

  「なぬっ!?待て!」

  そういうも遅し。

  イタチ獣人『ナイフ』はもうどこか遠くへ行っていた。

  「クローブ!危ない!」

  ゴーレムから目を離したクローブにロボットアームが迫る。

  狐獣人『ソリティア』は、巧みな早業で蛇獣人『クローブ』をお姫様抱っこでかかえ、高くジャンプしてその猛攻をかわした!

  「すまない!油断した!」

  「いいってことよ」

  その後どうにかして、ゴーレムを倒すと、その瓦礫の中から頑丈なハードケースと衝撃緩和素材に包まれたコアメモリが発見された。

  それを読み取ると、どうやらまた暗号が書かれているようだ。

  「ソリティア、読んでくれるか」

  「あぁ」

  それを受け取ったソリティアは、その内容に驚く。

  それもそのはず、なんとクローブの正体についた書かれていたのだ。

  クローブがスドであり、シボをこっそり狩っていることなど知らなかった、ソリティアは驚愕と共に、ほんの少し安堵を浮かべた。

  何故なら今までこの片思いに、叶う余地などないと思っていたソリティアにとって、少しでも境遇の差が縮まった気がして、一筋の希望が差したかのように見えたからである。

  一方のすっかり油断しているクローブは、先ほどの自分を守ってくれたソリティアに対してどう考えるべきか判断を決めかねながら、空を見上げていた。

  ~ 思い ~

  それから俺たちは、何度も『ナイフ』の暗号を解いてはゴーレムを倒し、その繰り返しで徐々に連携も巧く行くようになった。

  クローブもほんの少しは絆を感じてくれているだろう。

  そんなある日のこと。

  「なぁ、ソリティアよ」

  「なんだ?」

  「お主は本当に『ナイフ』を選ばなくて良いのか?」

  「ん?どういうことだ?」

  「お主の恋路のためにここまでしてくれる『ナイフ』じゃが、どうも迷いが見受けられる。

  「結ばれてほしい気持ちと結ばれてほしくない気持ちがあるような。

  「いうなればそう。

  「おぬしに恋をしているかのよう……とな?」

  「あの『ナイフ』がか?

  「そんなのありえねぇって」

  「おぬし『ナイフ』のことになると、途端に鈍くなるのう。

  「近すぎると見えなくなることもあるものじゃ」

  その時は、全く真に受けていなかったのだが、それが本当だと確信するできごとはすぐに来た。

  いつものように暗号を時向かった先。

  そこには、どこにもゴーレムなど無受けられなかった。

  「今日はどこからゴーレムを出す気だ?」

  「いや、今回は俺が相手っすよ?

  「最終決戦っす!

  「俺を倒してみるっすよ?」

  「ふざけるな!

  「お前は俺のトモダチだろ?

  「前みたいに一緒に暮らそうぜ?」

  「……。

  「誰がトモダチっすか?

  「俺は兄貴のことトモダチと思ったことはないっす!」

  トモダチじゃないだと!?

  ふざけやがって。

  「なぁ、ナイフよ!

  「お主、本当にそれで良いのか?」

  「はぁ~っ?

  「どうしたっすか?

  「あんたもこのくだらない依頼を速く終わらせたいんじゃなかったんすか?」

  「ここで打ち倒されれば、もう二度とお前の願いはかなわぬぞ?

  「お主は、一度でも本当の気持ちをソリティアに伝えたか?」

  「そんなの言ったって、叶うわけないじゃないっすか!

  「ソリティアはアンタが好きで、俺はソリティアの仇で……、オイラに勝ち目なんてないじゃないっすか?」

  ん?どういうことだ?

  「わしは別に恋路の方では戦っとらんよ」

  「依頼を達成する気が無いなら、アンタの情報ばら撒くっすよ?」

  「なら、これでどうじゃ?」

  クローブは、俺の首元にナイフを突きつける。

  「なっ!?」

  「本当にソリティアのことがどうでも良いというなら、迷うことなどないはずじゃ。

  「コイツを見殺しにして、わしの情報ばらまけばいい」

  「そんなの。

  「卑怯っすよ」

  ナイフ……お前……。

  「……ナイフ……、もう充分だ。

  「俺が悪かった!

  「今まで気付けなくて。

  「ごめんな」といいかけた時だった。

  ナイフは俺の胸倉を掴み馬乗りになる。

  クローブは、空気を読んだのか、ナイフの動きに合わせたようだった。

  「もう充分?

  「なんすかそれ!

  「全然充分じゃないっすよ!」

  「ナイフ……」

  「オイラ、ソリティアのこと好きっす!

  「大好きっす!

  「クローブのことが好きって聞いたとき俺、どんなに胸が張り裂けそうになったことか」

  ナイフの目から零れ落ちる涙が、ぽつぽつと俺に振ってくる。

  「兄貴……。

  「どうしても我慢できないっす。

  「俺と付き合ってくださいっす。

  「おねがいしますっす!」

  「……っ」

  俺はついクローブの方をチラ見した。

  「どうしてわしの方を見る?

  「言っておくが、お主と付き合う気はないぞ?」

  俺の決心は固まった。

  「ふふっ。

  「大した奴だ。

  「俺が振られている側から、恋を叶える奴がいるなんて」

  「兄貴!」

  「ナイフ!

  「俺からもお願いする!

  「俺と付き合ってくれ!」

  オレはナイフと付き合うことにした。

  ~ エピローグ ~

  「さてと!

  「依頼を果たす必要もなくなったようだし、口封じでもするかの」

  クローブはそんなことを言いながら、攻撃を仕掛けてきたので、俺はナイフと一緒にクローブ相手に戦った。

  しかし、やっぱりクローブは強くて、敢え無く敗北し、命乞いの末、なんとか殺されずに済んだ。

  オレはナイフと一緒に、暮らしている。